金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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大人達の会話、剣持警部の視点から


Ⅽ15.魔術列車殺人を防げず-剣持

 金田夫妻が孫娘と無事の再会を果たした頃。

 剣持(けんもち) (いさむ)は上司の明智(あけち) 健吾(けんご)警視と共に事件の引継ぎ真っ最中。犯人逮捕後であり、現場検証、取り調べなどの後始末が主だ。

 

「銭形君、どうしましたか? 顔色が悪いですよっ」

「いえ、個人的な事ですよ。明智警視……」

 

 すっかり顔馴染みとなった道警・銭形(ぜにがた) ケンタロウ警部補は調書を纏めながら、本当に顔色が悪い。体調不良と言うよりも精神的な印象があった。

 

「めんどくせぇ……事件じゃないなら、後で聞いてやる。この後、時間あるか?」

「……っ、相変わらず……情に厚い人ですね。聞かれて困りませんよ、剣持警部。実は……僕宛に(いち)君が連絡をくれていたんです。別の事件で出動して……そのまま皆さんからの協力要請を受けたので……ついさっき、知りましたっ」

「金田君が!?」

 

 己の不甲斐無さを呪うように銭形警部補は白状した。

 まさかの相手に剣持は勿論、冷静な明智警視も動揺する。驚きはしたが、『幻想魔術団』所属の見習いマジシャン・さとみの弟、姉の身を案じての連絡だろうと察した。

 金田(かねだ) (いち)と銭形警部補は背氷村以来の関係、今回の件で頼っても不思議はない。

 

「……あ~、銭形警部補は知らんかもしれんが、……残間親子は(いち)君の家族でな。事件中も金田一と連絡も取り合ってた。俺達だけじゃあ、不安だと思って……道警の警部補にも通報しようと思ったんじゃないか?」

「剣持警部……僕も(いち)君の父親として、残間 青完と面識はあります。寧ろ、『銀流星』乗客リストに名前があった瞬間、察しましたよ」

 

 あまり当事者の家族関係を暴露してはならないが、銭形警部補はキチンと把握していた。

 

(……そうか、残間さんは俺の名を知ってたな。銭形警部補を知らないワケねえか……)

「……銭形君。私達の協力要請を受けるまで……別件に取り掛かっていたと言いましたね。少なくとも、金田君の連絡は旭川駅に到着する前だった……」

 

 『銀流星』で向かえた朝食、剣持は残間(ざんま) 青完(あおまさ)に背氷村の事件を感謝されていた。コッソリと金田一(きんだいち) (はじめ)が解決したと伝えたが、捜査に協力した程度に取られた。

 明智警視はスッと動揺を消し、剣持が気にならない情報をボソッと呟く。『銀流星』の走行中、銭形警部補が別件で出動していても、それは刑事として当然だ。

 

「……つまり、まだ山神 文雄が遺体で発見されていない状態で……(いち)君は僕に連絡して来た。状況から察するに父親の残間さんが列車から爆弾騒動を伝えたと考えても良いですが……、それは無いと思いますね」

「……だったら、ビデオ小僧の仕業だろう。列車ン中で兄貴と連絡を取ってたし、そこから伝わった可能性も十分にあるっ」

「……剣持君にしては鋭いですね。おそらく、金田君の情報源は佐木君でしょう。銭形君、更に確認で聞きますが……5年前の事件に関する資料を誰かに話したり、見せたりしていませんか?」

 

 銭形警部補の指摘通り、(いち)の父子関係は良好とは言い難い。消去法で携帯電話を持たされた佐木(さき) 竜二(りゅうじ)しかいない。またも明智警視は剣持が気にしていなかった部分を口にした。

 

「まさかっ。僕が道警に配属されたのはその後です。資料を見る理由も見せる相手もいないっ」

「明智警視。彼の父親は元マジシャンですし、同業者の事故に疑問を抱いて調べたとか……?」

「……剣持君……だとしたら、残間さんがわざわざ息子にだけ告げる理由はありませんっ。それに……娘の入団も絶対に許さないでしょう」

 

 それは銭形警部補が捜査担当をしていれば、真相に辿り着いたと言わんばかりの態度。当時の関係者を責めるワケにも行かず、彼は少々乱暴な口調となる。剣持は残間だと一瞬だけ、当たりを付ける。すぐに訂正されたが、理由に納得した。

 明智警視の関心は(いち)が事故の真相を知っていた点。

 

(高遠は……違うな。ビデオ小僧にも……知らねえっつってたし……)

「……(いち)君は真相を知りながら、お姉さんの入団を許した事に……賢い彼がそんな……」

「いえ……金田一君から聞いた限りですが、金田君はソレを誰もが知っていると思っていたのでしょう。実際、私は知っていました。彼はつくづく、北海道の事件に縁がある子です……」

 

 高遠(たかとお) 遙一(よういち)と佐木のやり取りを思い返す中、銭形警部補の疑問は明智警視が簡単に晴らす。周知の事実であり、暗黙の了解だと思えば、他人に確認さえもしない。あるいは入団を阻止しても、無駄だと思っていた可能性もある。

 (いち)は旅客機墜落事故より伯父・氷室 一聖(ひむろ いっせい)画伯へ再会を強く切望したが、周囲の大人に阻まれていた。初対面ではしっかりした高校生だと思っていたが、己の願いが叶わない環境で過ごした故の処世術だったのだろう。彼の父親と接し、そんな印象を抱いた。

 

「明智警視っ、……絶対に本人の前で言わないで下さい」

「言いませんよ、銭形君。……ただ、妙に嫌な予感がするんです。金田君に纏わり付いて離さない。そんな予感が……」

「……嫌な予感……明智警視にそう言われると左近寺が浮かびますなあ。人を死に追いやっておいて……のうのうと罪から逃れて……正直、やり切れませんよ」

 

 銭形警部補に窘められ、明智警視は不快そうな表情になる。捜査に行き詰った金田一を思わせた。

 だから、剣持は咄嗟にピエロ左近寺(さこんじ)を疑う。自身に関わった全てを踏みにじる笑みは思い返しても、癪に障った。

 

「……剣持警部は左近寺ですか、そっちよりも高遠 遙一の行動が気に掛かります。金田一君にトリックを見抜かれたからって、母親の仇を目の前に……あっさりと(・・・・・)逮捕されるなんてね」

「ええ、銭形君に賛成です。高遠の取調もキミに託します。どんな些細な違和感も報告して下さい」

 

 銭形警部補と明智警視は同じ意見だが、剣持はそこまで高遠を警戒しない。母親の遺品であるトリックノートを取り返し、「満足です」と言い放ったのは本音だ。

 長年、培われた刑事の勘が告げた。

 そんな高遠が留置場から、左近寺へ危害を加えるはずはない。そう信じた。

 

○●……――『地獄の傀儡師』たる高遠 遙一はお行儀良く手錠を掛けられ、拘留中。待ち侘びた相手は硝子の向こう側へ現れ、礼儀正しく椅子へ座っていた。

 

「残間さんっ。起訴も始まっていないのに……こんなに早く会えるなんてっ」

「……白々しいな、高遠さん。まあ、良いさ。私も……貴方に会いたかった」

 

 遙一が逮捕前同様にオドオドした態度を見せれば、青完は困ったように笑う。タートルネックを指先で整え、改めて会釈した。

 日数を考えれば、本来は面会されない時期だろう。遙一が取り調べにて、青完との再会を望むように振る舞った結果だ。それを彼に見抜かれて寧ろ、童心に返ったように胸が躍った。

 

「事件の当事者、警察の方々からも話を聞いた。玲子さんの息子さんだそうだが……私にとって、貴方は今もマネージャーである印象が抜けないんだ。これまで通りの接し方しか、出来ない」

「……いえ、残間さんが信じてくれるだけで十分です」

 

 視線を外さず、青完は詫びる。黒目の大きな瞳にも言葉通りの感情が帯びている。誰もが遙一を事件前と違う目で見る中、彼は変わらぬ。

 それは相手が遙一であるが故にだ。

 青完の途中下車は本当に残念無念。卑しき山神達へ仕掛けた「死のショー」にして、一世一代の大魔術を是非、彼へ披露し尽くしたかった。

 

――他でもないアナタに! この高遠 遙一のマジックを認めてもらいたかった!!

 

「ひとつ……謝らせて欲しい。貴方が大変な事情を抱えている時、個人的な頼み事をしてしまい……申し訳なかった」

「……!? 謝るのは私の方ですよ。大切なお嬢さんを事件に巻き込んだんですからっ」

 

 青完の元妻・金田(かねだ) にいみ、名を教えぬ幼馴染の捜索。彼の気を引く為ではなく、本当に見つけ出す気持ちで引き受けたのだ。

 

「いいやっ。さとみが劇団へ入団すると決めた日から、必ず……何か起こると分かっていた。私も玲子さんの死に疑問を抱いていたのに……何の対策も取らず、あの子を……夢も希望もない連中へ任せてしまったんだっ」

「残間さんも近宮 玲子の死を不審に思っていたんですね。それなのに……アイツらといる僕を信頼してくれたっ」

「貴方以外、誰を信頼しろと言うのか……」

「お父さん……」

 

 瞬きせず、青完は懺悔のように呻く。憤りを抑え込んだ静かな声にぞわっと鳥肌が立つ。思わず、慰めたくて、遙一は硝子板に手を伸ばした。

 ほとんど無意識に青完は硝子板へ手を這わせる。触れられない現状がもどかしかった。

 

「桜庭さんを信じなかったのは正解だよ。関与していなかったとは言え、5年前の真実を知りながらも黙っていたんだからねっ。本当に……なんて事だ」

「……? お父さん……、アナタは知らなかったのですか?」

 

 眉ひとつ動かさず、青完は口調だけで桜庭(さくらば)を軽蔑する。それより、気になるのは苦悩する態度だ。

 

「……ああ、外れた渡し板に使われた釘が……真新しかったなんて。ここまで付き添ってくれた銭形さんに聞くまで知らなかった……」

「……ですが……っ」

 

 咄嗟に口走りかけ、噤む。

 遙一も釘の件について、山神達の会話を盗み聞いた程度。

 明智警視と金田一達のやり取りから、警察の資料にしかない事実も確認済み。では、青完の息子は何故、知っていたか疑問となる。てっきり、目の前の彼が独自に調査して得た情報だと思っていた。

 或いは長崎(ながさき)支配人から、事故の詳細を伝えられた可能性も考えられる。

 

「ですが? ……どうしたね?」

「……僕が近宮 玲子の息子だと知って、アナタは驚いているように見えません。皆さんは大なり小なり、驚いてくれました。何故ですか?」

 

 すぐに優先順位の低い質問へ切り替える。寧ろ、どうでもよい部類だ。出自について、青完を驚かせたかったワケでない。

 

「ああ……そうだ。思い出せてくれてありがとう。……私はこれを見せたかったんだ。エコー写真をコピーした物だ」

「……エコー写真? ……つまり、お子さんが奥様のお腹にいた時の?」

 

 青完はすっと懐に忍ばせた封筒から、ラミネート加工したコピー用紙を見せられる。エコー写真は初めて見た為に教えられなければ、レントゲン写真と誤解した。

 

「これは高遠さんだよ。……多分、ここかな?」

「……え!? あ、これ……僕の!?

 

 当たり前のように言われ、動揺した遙一は素っ頓狂な声が出る。青完も見えにくいらしく、目を凝らす。彼の指先で小さな点を指差され、妙な心地だ。

 自分自身が人の形を成す前、それを目にして言葉にならない。

 

「正確には高遠さんだと思う。玲子さんの子供だと言われて、渡された。要するに……子供の存在を知ってたんだよ。見ての通り、初期だからね。性別は分からなかったが……」

「この写真は……まさか、母から……」

「いや、……彼がくれたんだ。……玲子さんとどんな関係だったか、知らんがな……」

「……幼馴染の方が?」

 

 青完の懐かしむ表情や言動、エコー写真。一度に様々な情報を得たが、遙一はこれまでない程に納得した。

 幼い頃から感じていた――自分は父と呼ぶ男(・・・・・)とはまるで似ていない。

 

(その幼馴染こそ、本当の……)

「これを貰った時、玲子さんはついに処女受胎を果したと思って……拝んでしまったよ」

 

 胸中で結論に達しかけた瞬間、青完の何気ない発言に全ての思考が吹っ飛ぶ。彼の近宮に対する感情を初めて知った。

 遙一の隣に控えた係の人も思わず、硬直した。

 

「そうそう、ちょうど……彼も高遠さんみたいに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたもんだ。そんなワケねえだろって呆れられた……笑いながらね」

「アナタは近宮 玲子を……母を愛していたのでは?」

 

 クスクスッと笑い、青完は封筒にそれを戻す。大切に扱う様子から、信仰や崇拝とは違う。遙一は知らずと願望(・・)が口から洩れた。

 

「……魅かれていたよ。近宮 玲子は世界一の天才マジシャン、愛さない理由はないっ」

「……っ」

 

 愁いを帯びた瞳はそっと瞼で伏せられ、青完はタートルネック越しに首筋を押さえる。その仕草ひとつひとつに深い愛を感じた。

 友愛、親愛、敬愛。まごう事なき、純愛。青完の愛を受けた母が初めて、羨ましく思う。

 

「時間です」

 

 無情にも係の人が面会時間終了を告げる。遙一側の戸が開き、名残惜しい気分のまま大人しく下がった。

 

「これは差し入れておくよ。またね、高遠さん」

「はい、お父さんっ」

 

 戸が閉まる直前まで、微笑んだ青完は座る。上手く笑えていただろうか、遙一は自身の表情が気になった。

 

 エコー写真のコピーは約束通り、差し入れされる。看守の指示がない空き時間はただ、それを眺めた。

 

(……青完さんは母を愛していた……。だから、「彼」は妊娠を教え……近宮 玲子を諦めさせようとした? 高遠の父は母を愛していたのは間違いないが……「彼」は? いや、母も警戒心の強い方だ。どんな目的で近付いて来たか……分かるはず。けれども……この仮説が正しいなら、青完さんと金田 にいみとの結婚を許す理由は? 子供? ……娘だとしても、イマイチしっくり来ないな……)

 

 幼馴染の友情を超えた青完への愛。近宮への嫉妬心。行動原理の矛盾。考えを纏めようとすればする程、掴みかけた「彼」の人物像は砂のように手から零れ落ちていく。不愉快さに溜息を吐いた。

 

〝弟は今月、誕生日なのよ〟

 

 父親に瓜二つのさとみを思い返す中、三眼目の息子が強く存在を主張して来た。

 

(……目的は息子……)

 

 パズルのピースがカチッと当てはまり、胸の疼きが少しだけ晴れる。まるで「彼」の思考が読めたような愉快な気分だ。

 最初はその存在に対し、純粋に驚いた。

 愛娘を溺愛する親馬鹿に息子のいる気配なし、駅での言動も父子は他人行儀。失踪中の妻さえも想う残間にしては、息子との確執は意外だ。

 同級生達から金田姓と聞けば、母親に引き取られた身と分かる。おそらく、横浜での暮らしも一緒だろう。事件捜査を優先し、誰もさとみへ両親の離婚について触れなかった。

 

金田(かねだ) (いち)っ)

 

 『地獄の傀儡師』のショーを台無しにした名探偵は当然ながら、また高校生を相手に胸が高鳴る。しかも、金田一と同じ字面に運命を感じた。

 

 ――会いたい。会って話したい。

 

 東京駅で簡単な挨拶しかしておらず、会える見込みはないだろう。かと言って、こちらから手紙を送るのは時期尚早。今はただ大人しく、『炎の鉄槌』が下されるのを待つのみ。

 繋がりと呼ぶべき残間親子がいる。機会は必ず、訪れると絶対的な確信があった。

 

 ――1ヶ月過ぎた暑い日、願いは叶った。

 




左近寺「どうも、閲覧ありがとうございます♪ いやあ、大変な事件でしたね。俺も心が痛い痛い……なーに、その可哀想なヤツを見る目は? 事件は終わったんだぜ。笑いなよ♪ さて、次回は『次いで墓場島殺人事件』へ!! あの探偵気取りの坊や、また事件に関わっちゃうの? ごくろーさん♪」

残間 青完
穴埋めオリキャラ。姉弟の父親、元マジシャン。近宮を愛し、若かりし頃は妊娠を知るや「処女受胎に決まってんじゃん、相手など存在しない(意訳)」と崇め奉った狂信的部類のファン。その様子を見た幼馴染は「ダメだコイツ、早く何とかしないと(意訳)」とドン引きした。
3児の父親である剣持の目から見ても、父子の不仲を感じ取れる。
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