金田少年の生徒会日誌 作:珍明
※死別の描写があります。苦手な方はご注意ください
GW明けの朝刊は予想外の一面により、絶句。
――
『怪盗紳士』に盗まれた挙句、わざわざコンクールへ出品された蒲生画伯の未発表作品。彼の二ヤけた顔写真だけで、肝心の絵はない。それどころか、盗人のメッセージが掲載されていた。
(……何だ? 絵は褒めてんだけど……遠回しに蒲生画伯を批難しているみたいだ……)
受賞は目出度いが、妙な胸騒ぎもした。
生徒会室の鍵は職員室に無く、一番乗りを逃す。つまり、朝一番に
「……お早う、金田君」
「おはようっ、金田君っ」
「おはようございます。遠野先輩、和泉さん」
伏し目がちの和泉は確かにいたが、
「やっと金田君に会えた気がするっ。講習中は全然、会えなかったしさ。『幻想魔術団』のニュースを見たよっ。……大変じゃなかったかい? キミの家に何度も電話したけど、ずっと通話中で繋がらなくてさ」
「ああ……お手間を取らせました。ええ……大変な状況ですが、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「……?」
遠野先輩に耳打ちされ、ハッとする。彼は『幻想魔術団』の見習いマジシャンとの血縁関係を知っており、心配をかけていた。その気遣いが嬉しく、素直に感謝した。
「おはようございま~す! 遠野先輩♪」
「……っ、おはよう。……朝木君……」
「「おはよう、朝木さん」」
「遠野先輩、朝木さんと何かあったのですか?」
「ウフフッ。まだ、な~んにもないよ~♪」
「いやいや。親の付き添いで偶然、会っただけだよ」
「……??」
GW中の都内で開かれた夢月流の展示会。
生け花に用いられる壺は全て陶芸家・朝木陶工の作品、父娘と共に家元・
朝木陶工は遠野先輩との再会を喜び、とても親しげな会話を繰り広げたそうだ。
「そうそう、御堂 周一郎のお孫さんも来たのよ! 美雪の言う通り、本当に孫娘がいたわ……優歌って言ってね。如何にも名家のお嬢様って感じでさ~」
「へえっ、御堂先生は来なかったのですか?」
「急なご用事でね。代わりに夏岡さん? って人が来てたよ。偉い楽団の指揮者だとか……」
「……?」
全く話が見えない和泉は口を挟まず、そっと使い慣れた席へ腰かける。彼女を独りにしてしまい、
「先輩!! 今朝のニュース、見ましたか!?」
「うわっ、ビックリした……海峰君……」
「あらら、良い時に来たわね」
「……土足になってる」
血相を変えた
突然の事態に驚き、遠野先輩は肩をビクンッと痙攣させる。朝木は呆れた視線を向けるが、海峰が御堂先生のファンと知っているからこその態度だ。彼の外履きに注目したのは和泉だけだ。
自分も先輩として注意したいが、先ずは海峰の話を優先しよう。
「おはようございます、海峰君。今朝のニュースと言いますと蒲生画伯の受賞ですか?」
「そんなんじゃなくて……ぜえぜえ、御堂先生が……亡くなったんスよ」
「「……は?」」
「え?」
絶望した海峰は足の力を無くし、床へ崩れ落ちる。休みボケの痛快な冗談は絶対にない。自分達は勿論、和泉でさえも絶句した。
「どうして……?」
「……速報ニュースを見ただけなんスけど、病死だって……」
「金田君!?」
反射的に呻いた言葉を質問と捉え、海峰は苦悶に顔を歪める。それはきっと、見えていない自分の表情だろう。不意に生徒会室の天井が見え、体がフワッと浮かんだ感覚に襲われる。遠野先輩の叫び声が聞こえた瞬間、視界が真っ暗になった。
凡そ20分程、気絶した後。
午前の授業を受け、昼休みは教室で弁当を食べ、放課後まで普段通りに過ごした。
ホームルームは担任の先生より、中間テスト期間の注意事項、体育祭実行委員について触れる。最後に旧校舎の事件で亡くなった
(尾ノ上君、司法解剖から……帰って来たんだ……)
身体の機能は正常なのに、脳髄と視界は切り離されたように他人事だ。
生徒会室、演劇部も行かずに駐輪場へ直行。途中、何人かに声を掛けられた気がする。きっと、気のせいだろう。
「金田君……何度も呼んでるのに……行っちゃった……」
「金田君って……生徒会の?」
「ほっとけよ、美雪っ。俺らも校長室に行かねえとな。オッサンが待ってるっ」
「
「これから刑事と喋るって言うのに……
気のせいではなく、現生徒会長・
彼女と同じ組・
何故なら、本校の生徒たる
勝手に旅行へ付き添った後輩の
ヘルメットで頭を覆い、エンジンによる振動が心地良い。走行中の風が何処までも行けてしまいそうな錯覚を巻き起こす。その感覚が好きだ。
何も考えなくて良いから――。
自宅に着けば、玄関に来客の靴が見える。見慣れた靴に縋る気持ちで居間へ急いだ。
「お帰り、
予想通りの人物・
挨拶もせず、小林画伯の傍へ座り込み、その膝に頭を置く。服には油絵や色鉛筆などの画材の匂いが染み付き、大切な人を思い返せて物凄く安心する。彼は高校生男子の後頭部に優しく手を置いた。
「来るのが遅くなったね。先週はずっと旅行先にいたんだ。お昼のワイドナショーを見て、ビックリしたよ。ここに電話もしたけど、通話中だしね。別の回線とか、携帯電話を持ったらどうだい?」
「御堂先生が死んだのです」
「……御堂……、ああ……多岐川さんと対談したって人だね。そんなにお歳に見えなかったけど、亡くなられたんだね」
「病気だったのです」
何の脈略もなく、御堂先生の訃報を伝える。小林画伯は決して話を遮らず、淡々と聞き返してくれた。
「御堂先生、自分宛に手紙をくれました。読んでないけど多分、手紙……。来月に封を開けるようにって……死ぬのが分かっていたなら、手紙じゃなくて直接……自分に言ってくれなかったのでしょうか?」
「さあね、僕はその人じゃない。けど……
人の気持ちが分からないと言いながら、小林画伯は御堂先生の想いを自分なりに解釈してくれる。きっとその通りなのだろうと勝手に納得した。
納得の後は勝手な回想が起こる。
1月に出会った時、御堂先生の体は病に蝕まれていた。
そんな状態でありながら、古き友人の甥にピアノをプレゼントし、写真を探してくれた。
そこまで親切にされたにも関わらず、二度と御堂先生へ恩を返せない。感謝も伝えられない。死別の悲しみと無力感に涙が滲んだ。
小林画伯の膝を濡らさぬよう、指で涙を拭う。涙を悟られ、彼の手は背中を労わるように撫でて来た。
「僕が昔、海難事故に遭った事を覚えてる?」
「はい、自分が中学の時に……小林さんのお見舞いに病院へ行きました」
3年前の5月頃、豪華客船オリエンタル号の処女航海。
出航から間もなくして、三積ヶ浦でタンカーとの衝突により多くの乗客・乗組員が海へ放り出され、命を落とした。乗客だった小林画伯は命からがら助かったが、その後遺症で水恐怖症に陥っているのだ。
小林画伯の病室を訪れた際、我が母・にいみは不謹慎にも大爆笑した酷い思い出だ。
「
「……知りたくはありませんでしたが……はい、覚えておきます」
小林画伯に家族と呼べる身内はいない。親族とも疎遠であり、天涯孤独。遺書の宛先は彼の作品を託せる美術協会ぐらいだろう。それくらいしか、
知りたくもない結果を知るのは9月の始まりだった。
○●……――
顔見知りですらない業界関係者に声を掛けられても、事件の内容を求めてくるばかりで嬉しくない。アイドル歌手や俳優達はそれ以上追及される日々。ただの番組スタッフは注目度が低い為、心境的にも助かった。
「あの綾辻さんがね……」
「良い子だったのに……ホント、加納のせいで……」
「殺されて当然だよ、比留田とか」
「明石なんかで……前科付いちゃって、可哀想」
「水沼とか誰だよ。そんな奴いたか?」
同情に託けた被害者にして加害者への誹謗中傷。聞き流すのが処世術だが、耳に残ってしまう。転職を考えた時期、尾高山の遺体捜索を見届けに行った。
――金田と出会った。
遺体は白骨化した状態で発見され、氷室画伯本人と断定された。
納骨に関し、駄目で元々と
金田の事は誰にも言ってない。
そもそもTV業界の関心は氷室画伯から遠退き、父親の経営するタロット山荘殺人事件を生き延びたアイドル歌手・
それでも新曲を自ら手掛け、その身に起きた悲惨さを感じさせない。速水のような少女が業界を生き抜く覚悟を決めながら、転職を言い訳にして逃げ出そうとした自身を恥ずかしくも思った。
『幻想魔術団』の報道を知った直後、局内にて俳優の
「団員の子、都内で見た事あるよっ。響さんには世話になったし、教えといてあげる♪ 事件の話、何か聞けたら良いねっ」
「はあ……どうも」
親しげに情報を貰うが棟方とは事件以来、初めて口を利いた気がする。
それでも『大草原の小さな家』を訪れたのは微かな好奇心によるモノだろう。マジシャンに興味は正直なく、北海道の復讐殺人事件という共通点だ。
犯人たるマネージャー・
「いらっしゃいませ」
「コーヒーをひとつ」
ファンシーな店内に先客がおり、響は少しだけ安心する。短髪の眼鏡にハンディカムを持つ少年に初対面ながら、親しみを感じる。その対面に座った背広の男は弁護士バッチを付けており、2人の関係性は見えなかった。
「GW中に兄弟揃って、別々の事件にねえ……。佐木君、ケガは無いように見えるが、色々と大丈夫か?」
「はい、僕は大丈夫です。それで……どうでしょう。森下先輩の弁護、引き受けて貰えますか?」
「……この場では返答しかねる。……だが、出来る事はしよう。見せてくれたビデオ、まだ預かってもいいかな?」
「はい、勿論。同じビデオを警察にも提供してますから、検事も確認済みだと思います」
聞くとはなしに聞いてみれば、事件、弁護、警察、検事と物凄く深刻な内容。
「すみません、コーヒーのお代わりを。ところで、金田君は元気かな?」
「……ええ、元気ですよ。冬部さんが殴っちゃったケガも治りました」
「……言い訳はしない。金田君には悪い事をした……。名刺は渡していたが、一向に音沙汰なくてね。元気なら、良いんだ……」
「金田先輩はケガをそれ程、気にしてないんですよ」
金田の名を聞き、ぞわっと背筋が粟立つ。偶然だろうが、彼を連想してしまう。どこにでもある苗字、特に珍しくもない。勝手な動揺を誤魔化す為、砂糖を多めに入れた。
カランカランッと来客のベルが鳴り、戸は開く。響は佐木と同じ制服の男子を視界に入れ、コーヒーを吹いた。
噂の金田だ。
「「「金田君(先輩)」」」
「え?」
3人同時に声を掛けられ、金田は三眼目をギョッとさせる。途端、戸を閉めた。
一瞬の困惑は場を包み、そっと佐木が追いかける。響は|冬部と呼ばれた弁護士へ取り敢えず、目礼した。
「先輩っ、行かないで下さいよ」
「……コンニチハ、佐木君。ここの所、学校では会いませんでしたね。中間テストは期待して宜しいですか?」
「2人ともテスト、今日までだっけ? よく頑張ったわね。コーヒー、オマケしといてあげるっ」
佐木に腕を引っ張られながら、棒読みの金田は再び入店。会話から察するに中間テスト期間の様子。しかも、常連らしく店長らしき人からもコーヒーを用意された。
「お久しぶりです。響さん……冬部さん、どういう集まりですか?」
「ああ、やっぱり……この人も先輩の知り合いなんですね。僕、佐木と言います。金田先輩の後輩です」
「TV局の響です。名刺を……」
「冬部です」
自己紹介する流れになり、響は
「はい、コーヒー。持って行ってっ」
「休みでも扱き使われています」
「折角なので、席も詰めましょう。響さん、冬部さんの隣へどうぞ」
店長は4つもコーヒーを用意し、不服そうな金田はブツブツと配る。佐木に勧められるまま、冬部弁護士の隣へ腰かけた。
「金田先輩がTV局の方と知り合いとは意外です。北海道の事件が関係を?」
「え……っ」
「いいえっ。響さんにはヒッチハイク先で路頭に迷っているところ、家まで送り届けてくれた親切な方です」
「ヒッチハイクで路頭に迷う……? 高校生が?」
佐木の指摘にドキッとしたが、澄まし顔の金田は嘘を言わずに話を逸らす。冬部弁護士が仰天した。
「響さんは『幻想魔術団』の事件をどう思われますか?」
「……北海道の事件って、そっちか……。生き残った左近寺なら、昨日くらいに局内で見かけたよ。仲間が死んだ直後だって言うのに……元気溌剌って感じかな」
「ふうん、弟の言う通りですね。左近寺って人」
「……」
金田にニッコリ顔で質問され、響は思い当たる。元々、『幻想魔術団』関係者に会いたかったのだ。
「この店に『幻想魔術団』の人が来た事あるって聞いたんだけど、知ってる?」
「いいえ……、僕はよく通うんですが……見た事ないですね。金田先輩は?」
「色んな方が来られますので……一度や二度では覚えられませんね。冬部さんは?」
「俺は初めて来たからなっ」
予想通りの答えを聞き、妙な安心感。本命に会える偶然など、滅多にない。それでも、金田の元気そうな姿を見られただけでスッキリした気分だ。
「それはそうとして、佐木君は冬部さんと何の相談ですか?」
「森下先輩の件ですよ。冬部さんなら、力になってくれると思いましてっ」
「……まだ返事はしていないが……」
「身内の話になりそうだし、僕はここで失礼するよ。お勘定を……」
他の事件については知らぬ方が良い。そう判断し、席を立つ。会計は一杯分のコーヒー代のみ、経費は落ちないかもしれないが、領収書はキチンと貰う。
響が店を出た矢先、金田は当然のように追いかけて来た。
「響さん、ありがとうございます」
「……何を?」
「ヒッチハイクの件です。ずっと、お礼を言っていませんでした」
「ああ……別に、気にしなくていいんだよ」
「そのお詫びではありませんが、メモを拝借します」
「メモっ、ええとコレに……」
突然、言われても大丈夫。響は常にスケジュール帳とペンを持ち歩く身。それらを渡せばし、金田は白紙の開いたページへ電話番号を書き込んだ。
「『幻想魔術団』の関係者……そのご家族の携帯電話です。響さんが背氷村の事件当事者だと言えば、取り合ってくれるでしょう」
「え、良いのかい?」
まさに棚から牡丹餅。
スケジュール帳を返してもらい、番号を凝視してしまう。背氷村は同じ北海道の事件という間柄、そんな意味ではないとすぐに察する。遠回しに金田の名を出さぬ様、暗示している気もした。
「連絡先を誰に聞いたって言えば……いいかな?」
「そうですね……金田一君にでも、しておきましょう」
全く悪びれない笑顔が年相応の少年に見え、知らずと安堵の息を吐いた。
今日、この場所に来られて良かったと心から思う。
その後。冬部弁護士に「黒坂村全焼事件」の情報提供を求められ、「森下先輩」の事件に関与していると気付く。当時の報道資料を正式な手順で持ち出すのに苦労したが、協力した事を決して後悔しない。
生き残った
竜二「佐木 竜二です。閲覧ありがとうございます( ´∀`)原作ではボク、ドラマ版では兄さんが活躍しています。是非ともご覧ください。さて、次回は『不動高校学園祭に人は死なない』!! え~センパイの学校でまた事件!!」
森下 麗美
「黒坂村全焼事件」の生き残り。逮捕後は黙秘を続けたが、ある事情から金田一へ全てを白状した。
平嶋 千絵
地元でも怖れられる墓場島を復讐の舞台に利用された。『誰が女神を殺したか?』の作中で文化祭にも参加している。
陣馬 剛史
復讐計画に利用されたA組男子。
岡崎 浩司郎
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岩野 歩
「黒坂村全焼事件」の原因を作ったサバイバーメンバーの1人、金田一の機転で生き残ったが事件のショックで精神的に参り、自供したとされる。遅すぎる贖罪によって麗美の減刑に繋がっただろう
尾ノ上 貴裕
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小林 星二
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響 史郎
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桐沢 香四郎
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