金田少年の生徒会日誌 作:珍明
そう言う話です
世間を騒がす事件が起ころうとも、中間テストは容赦なく訪れる。
問題自体は余裕だったが、終了5分前に解答欄を1つずつズレて記入。
恐怖のテスト結果を知る朝、最悪な情報が掲示板に張り出されていた。
「小田切先生と……時田さんが?」
「隣町のラブホテルだって……」
女子生徒に人気の
庇いようのない事態に勿論、絶句。
「……小田切先生が……」
「ヒュ~、やるじゃん。小田切先生、見直しちまったぜ♪」
「なあ♪ 普段はヘタレでナヨナヨしてんのによ」
スキー部2年B組・
「あちらですっ」
「お前ら、何してるんだ!」
「写真、見てま~すっ。よく撮れてますねえ♪ 顔もバッチリです~」
2年1組担任・吉長先生と体育教師・
「自分が登校した時には貼られていました」
「分かった、分かった。早く教室に戻れ!」
そこに前生徒会長・
「遠野先輩、副会長っ。生徒会執行部に招集をかけますか?」
「いや、この件は僕らの手に負えないよ。職員会議も開かれるし……PTAも介入してくる……」
遠野先輩は任期中、学校で起こる問題を秘密裏に解決させていた。それは保護者の代表・PTA会長による横暴から生徒を守る為だ。
不純異性交遊が明るみになり、副会長も必死に考えを巡らせている。すっと現れた生徒会執行部顧問の先生が各々の教室へ行くように追い立てた。
緊急職員会議により、自習。
――カタカタカタカタカタカタ
見張りの教師もいない教室は処分を心配する声、勇敢さを讃える声で騒々しい。一種のお祭り騒ぎだ。挙句、様子を探ろうと会議室前で聞き耳を立てるもいた。
学年や学科も関係なく、落ち着きがない。
「金田~、小田切先生が心配か? 貧乏ゆすり、スゲエけど……」
「神矢君こそ……何度も教科書を捲っていますが、ページは進んでいませんよ」
「どんな結果になっても、時田さんは自業自得よっ。金田君が気を揉む必要ないわ」
「しかし、桐生さん。お2人はホテルに泊まっただけで、何もなかった可能性があります」
「……金田君、小田切先生も男なんだから……。何もないワケないわ」
「止せよ、桐生さん。金田が物凄く悲しそうな顔してんぞ」
一縷の望みをかけ、
同情してくれた神矢の逞しい腕へ感謝でしがみ付いた時、担任の先生が教室へ姿を見せる。会議終了を知った。
慌ただしく全員が着席し、先生の言葉を待つ。緊迫した空気の中、後の時間割変更だけを伝えられる。会議の結果を視線で熱く求めたが、一切触れられなかった。
生徒の不満を余所に授業は行われ、放課後を迎える。
イラッとした。
「金田君! 丁度、良かった……。コレ、見てっ」
「中津川先生っ、どうしました? ……!?」
美術部顧問・美術担当の
夜空に立ち尽くす黒髪の少女、背景に対する白いワンピースが際立つ。輪郭はボヤけており、鎖骨下の蝶に夢見心地な印象を受けた。
写真を見ただけで感動のあまり、言葉にならない。
「わかるよ……、スッゴく良いよねっ。蒲生さんには昔、生き別れた娘がいて……記憶の中にある幼い娘が成長した姿を……想像して描いたんだって!」
「蒲生画伯に娘さん?」
「うんっ。日曜日の記者会見で、そう言ってたよ」
「……愛する娘。言葉通りに……」
最近のTV番組は観たくもないワイドショーばかり、視聴は避けていた。
蒲生画伯が家族想いとは意外や意外、人は見かけによらないモノだ。しかし、絵の少女の眼差しは儚げであり、「自分を見て」と訴えかける。これを想像で描くなど、尊敬に値する。
「……何、見てるの?」
「和泉さんっ。中津川先生の持ち物です」
「……え~と、キミ……誰だっけ?」
「自分と同じ生徒会の和泉 さくらさんです」
「はあ……、和泉さん。……この絵の少女に似てない?」
「えっ」
和泉を紹介した途端、中津川先生は突拍子もない質問をし、驚いた彼女は聞いた事もない声色を出した。
寧ろ、
「和泉さんが絵のモデル……、あ……目元が似てると言えば……」
「そうそう……瞼のこの辺……、それに眉毛とか……」
「……っ」
絵の少女との共通点を指せば、和泉は息を呑む。
「いたいた! 金田先輩、和泉先輩も! すぐに来て下さい! 写真部が大変なんスっ」
「海峰君っ……写真部?」
「はいっ、すぐに行きます! 中津川先生、雑誌をありがとうございます」
「あ、うん。また見たくなったら……いつでも、美術準備室に来てね。僕の机に置いてるよ……」
写真部の部室に着いてみれば、戸口を写真部員と執行部役員が覗き込む。
「私は信じるぞ……、伊志田は何もしてないっ」
「津雲センセ~っ、うう……」
(なんで……津雲先生が伊志田先輩と泣いてんだ?)
写真部顧問・科学担当の
「お~、金田君っ。ワリィな……見ての通り、多分……解決した」
「江塔先輩、大変と聞きましたが……。どうして、こうなりました?」
「簡単に言うと……遠野がやった」
「伊志田君が正直に話してくれただけだよっ」
写真部部長3年2組・
副会長による丁寧な説明によれば、緊急職員会議中の自習時間。
3年生の間で伊志田先輩が密かに吊るしあげられ、問題となる。何故なら、3年3組・
その為、事件をでっち上げた。そんな疑惑も掛けられた。
伊志田先輩は弁明しなかったが、周囲を小馬鹿した態度に状況は悪化。最終的にわざわざ遠野先輩がお出ましになり、教室から連れ出した。その数分後、彼は泣きながら帰って来たそうだ。
「……え? 伊志田先輩……この時間まで、ずっと泣いていたのですか?」
「いいえっ、殺されかけて命拾いした奴みたいに縮こまっていたらしいっスよ。囲碁部の部長があの先輩と同じ組なんス」
遠野先輩の謎な威圧感を真正面から、受けてしまったのだろう。ホンの少しだけ、伊志田先輩を憐れんだ。
「写真はともかく、小田切先生が2年の女子と付き合ってる事実は変わらないでしょう。生徒会でどうにかならない? PTA会長は問答無用で生徒を退学にするしっ」
「なりませんっ。教師と生徒の不純異性交遊など言語道断です」
写真部員3年1組・
「まあね、教師と生徒って学校における親子だもんっ。先生をカッコイイって思う事と恋愛感情は別よっ」
「そうですね、時田さんがいくら真剣だろうと……分別は付けて欲しいです」
「後は江塔がやっとくから、金田は遠野を連れて帰れ。アイツ、笑っちゃいるが……笑っているだけだ」
「はい……、遠野先輩。今日は我が家においで下さい。祖父母も会いたがっています」
「ん? そうだねっ、最近はご無沙汰だし……。行こうかな♪」
白峰先輩の指摘通り、笑顔な遠野先輩の威圧感が最高に強い。ここに斧があれば、振り回してもおかしくない緊張感が漂う。ソレは伊志田先輩へ向けられた状態だが、
しかし、遠野先輩は生徒同士の衝突を避ける為に最善を尽くした。金田家で労わりたい気持ちは確かにあった。
「……あの……七瀬さんは? 職員会議中……抗議しに行って……残念そうに戻って来たけど……」
「真っ先に七瀬先輩の教室へ行ったら、先に帰ってやした!」
「「「「……」」」」
和泉がか細い声で現生徒会長たる
金田家に何の連絡もせず、
ここの所、予想外の来客ばかりで一安心する。
「荷物、僕が持って行くよ。鍵を拝借っ」
「はいっ、先に上がって下さい。原付バイクを停めていますのでっ」
楽しそうな遠野先輩は慣れた手付きで、玄関の戸を開けた。
「おかえり~、いっく~ん♪ お姉ちゃんよ~! やっと一段落したの~っ」
「!?」
「色んな人がお見舞いの品、届けてくれたから……ずっと、お礼書きと電話してたのよ~。流石に疲れた~……。いっくん……ちょっと会わない間に背~伸びた?」
「……っ(金田く~ん)」
待ち構えた姉・さとみが本当に飛び付き、遠野先輩は呆気に取られる。彼女は瞼を閉じた状態であり、そのまま疲労困憊の愚痴を溢した。
豊満な体を押し付けたられ、男性なら喜ぶ者もいるだろう。但し、さとみは細身ながらマジシャンに相応しき筋肉質。常人には締め付けられた痛みを襲う。遠野先輩のそれなりに鍛えた体でも、ミシミシッと音が聞こえた。
「ただいま、さとみさん。そちらは遠野先輩です」
「え? あれ? きゃ! ゴ、ゴメンなさい。いっくんと同じ学校のお友達ね。初めまして、姉のさとみです」
「……ふうっ。いえいえ、こちらこそ……遠野です。僕は初めましてじゃなくて……お姉さんの静岡公演、金田君と観に行ったんです。素敵な舞台でしたよ」
さらりと紹介すれば、さとみは慌てて遠野から離れた。
自己紹介しつつ、流石は遠野先輩。ほぼ初対面の相手でも、記憶にある情報をしっかり引き出す。驚いたさとみはパッと明るい表情になり、ガシッと彼の手を握った。
「あの公演、キミも一緒に居たの!? いっくん、教えといてよっ。挨拶したかったのに~っ。さあさあ、立ち話もなんだから! 上がって、上がって♪」
「お、お邪魔します……っ」
(ゴメンなさい……、先輩)
さとみにグイグイ引っ張られ、慌てて遠野先輩は乱雑に靴を脱ぐ。
「遠野くん、いらっしゃい♪ なんや、ウチに泊まるんか。ええで、ええで。今日は婆さんが飯作るき、ゆっくりせいや」
「それなら、僕も食事作りますっ。お祖母さん、なんでも言ってくださいっ」
「そう? じゃあ、遠野くん。一緒にお台所へ立ってくれる?」
金田祖父母に大歓迎されながら、遠野先輩は手伝いを買って出る。
「遠野君、ひょっとして……この写真の人?」
「……雑誌ですか? ……本当に遠野先輩です。かほる先生に……朝木さんのお父さんも」
先週、世界的作曲家・
東京フィルコンツエルトの指揮者・
小説家・
記事の隅に記者・
(……すげえな……あの人……)
「御堂先生……あたしと会った時、お元気そうで……全然、病気だなんて思わなかった」
宇治木の仕事ぶりに感心していれば、さとみはしんみりと呟く。彼女は新春パーティーに呼ばれ、マジックを披露。死骨ヶ原湿原の事件で殺害されたマーメイド
「きっと……元気に振る舞っていたのでしょう。周りに心配かけたくありませんから……」
「……そっか……いっくんが言うなら、そうだよね……」
さとみへの慰めではなく、御堂先生の気持ちを自分なりに汲んだ発言。流石は我が姉、十分に伝わった。
「仲良うしゆうとこ悪いけど、ワシ……入ってもええか?(涙)」
「お祖父ちゃんっ、良いに決まってるでしょ! 座布団も敷いてるから!」
「……麦茶、ありがとうございます」
5人分の麦茶を用意し、疎外感に金田祖父は涙目で立ち尽くす。いつから居たのだろうか、考えない。
「お前も記事、見とったんか。ついさっき、多岐川先生が送ってくれたんや。なんでも御堂先生が直々に頼んどったんやとっ。告別式の記事をこの宇治木さんにってな」
「……成程、宇治木さんは御堂先生達の対談でお仕事されました。その時、間接的に依頼されたのでしょう」
「あ~コレね。本当っ、宇治木って人の名前がある!」
金田祖父はそっと宇治木の名を触れ、経緯を説明。
それを察し、鬱々な気分が襲って来る。
「こないに大仰な告別式やったら、行かんで正解やったわ」
「え? 皆、告別式に行かなかったの? 伯父さんの友達だったし、お祖母ちゃんの元教え子だったんでしょう?」
「……ええ、行きませんでした。自分達は他人です。業界の関係者でもありませんっ」
告別式の写真を眺めながら、金田祖父はため息を吐く。さとみにキョトンとされたが、所詮は他人が大勢に囲まれてまで行く理由はない。心情的に語るなら、棺に眠る御堂先生を見たくなかったのだ。
「お待たせ~、晩御飯出来たよ~」
「遠野くん、手際良くてね♪ あっという間よっ」
遠野先輩はニッコニコで居間へ皿を運び、金田祖母も上機嫌だ。料理の盛り付けも問題なく、物凄く見栄えが良い。見た瞬間、全員の腹が鳴った。
キチンと正座し、頂きます。
「美味しい……遠野君ってご飯も作れるのね! あたしが高校の時、家庭科の授業で男子が油飛ばしたり、お皿割ったりしたけど……。やっぱり、男子も高校生になっちゃえば、ご飯くらい作れるわよね。ウチのお父さんもそうだし、いっくんも作れるしっ」
「フフフ、そんなに褒められるなんて嬉しいな♪ 僕よりも金田君のご飯が美味しいよっ」
「味の美味しさに優劣はありません。ですが、遠野先輩は普段、お料理せずにここまでの腕前です。それをお忘れなくっ」
「さとみの言葉を否定するワケじゃないけどね。……この歳までず~っと、ご飯作ってるはずなのにっ。いつまでも上達しない人もいるのよ」
「婆さん、ワシを見るんヤメエや」
味は美味い。それ以上に和気藹々な夕飯が箸を進ませ、喉をよく通る。嬉しさと食物が胃へ溜まって来た。
とても幸せな時間だ。
食後の昆布茶を口にした時、遠野先輩が週刊誌に気付いた。
「この雑誌……先週の告別式が載ってる? それどころか、僕が写ってる……。いや……横顔だけだし……あっ。お祖母さん! この時、椿さんとお会いして……お祖母さんに宜しくって」
「まあ、陽造が? わざわざ、遠野くんにそんな言伝を頼むなんて……。ありがとうっ」
「椿さんって……え~と、執事の人!? お祖母ちゃん、そんな人とも友達なの? 顔広~いっ」
「顔が広い言うより、縁があるんよ。婆さんの弟やしっ」
「……は? 椿さんが弟……? え?」
御堂家の執事・
「ん? お祖母ちゃん、末っ子で養子に出されたって言ってなかった? どっちの家族の弟?」
「どっちの家族の弟って何ですか? 初めて聞きましたよ、そのフレーズっ」
「陽造ン家、つまりが椿のお家が養子先や。婆さんを引き取ってから、陽造が産まれてな。血の繋がりはないでえ」
「お祖母さんが……養子?」
「ええ、そうよ。遠野くんに比べたら、椿の家なんて大したもんじゃないけどね。大学まで行かせて貰えたし、元いた家よりは恵まれていたわ」
さとみは金田祖母の養子事情を把握しており、動揺は見られない。こちらは新事実のオンパレードに少々混乱、遠野先輩も吃驚仰天だ。
金田祖母の世代で大学の学費を出せるなど、裕福な家柄以外ないだろう。だが、彼女は椿家に対して恩義はあっても、感謝は無いように見える。そして、元いた家とやらにも思い入れを感じなかった。
「……あの執事さんがお祖母ちゃんの弟……。もっとお話ししておけば、良かった~」
「御堂先生は……お祖母ちゃんと椿さんの関係を知っていたのですか?」
「知っとったはずやで。いつやったか……陽造から、自分のご主人様との関係を聞いてきよったわ」
「多分……陽造が御堂くんに仕えるようになった時期ね。元々、御堂くんとは年賀状のやり取りをしてたから、陽造はそれで気付いたはずだしねえ」
「……執事は郵便物の確認をするから……姉と同じ名前があれば、ビックリしますよ。その瞬間……ちょっと見てみたかったなあ」
卓袱台へ顔を沈め、さとみは脱力。お客様を前に失礼な態度である為、
金田祖父母の話を聞きながら、遠野先輩は妙に納得した様子。それもそのはず、彼の身近にも屋敷を取り仕切る執事がいるのだ。
もっと気になるのは年賀状の存在。金田祖母が恨めしい。
金田家に住むようになったのは去年の3月。未だに踏み入れた事のない夫婦の部屋に御堂先生からの年賀状が保管されているなら、是非とも読みたい気持ちになった。
しかし、今日は遠野先輩を持て成すのが優先。そろそろ、風呂の準備だ。
健全な男子高校の入浴前に、さとみへお帰り願おう。
「さとみさん、いつお帰りになるのですか?」
「ふっふ~ん、しばらくココに住むわ♪ まあ、面接やら運転免許も取らないといけないから、ほとんど家にいないかもね」
「仙台へ帰れ、ゴリラ女」
「あら~、いっくんったら♪」
また衝撃事実に金田祖父母を睨んだが、2人はわざとらしい口笛で誤魔化す。本音を溢せば、さとみからの蹴りが自分の頸動脈へ飛ぶ。
さとみは片手で重心を支え、体を浮かせた状態。一瞬の無謀を狙い、彼女の両足を掴んで反撃開始。
「姉弟仲が良いんですね。金田君のお父さんも今、仙台じゃあ……。……元々はそっちで暮らしてたんですか?」
「せやでっ、遠野くん名推理や♪」
「娘婿のご実家が宮城なのよ」
姉弟のじゃれ合いを微笑ましく見守りながら、3人は和気藹々と会話が弾む。結局、弟は文字通りに姉の尻に敷かれて負けた。
風呂でサッパリした後。
部屋に布団を敷けば、待ち焦がれたように遠野先輩はゴロンと横になる。金田祖父の古びた寝間着に袖を通しているが、不思議とオシャレな印象を受けた。
「金田君のお姉さん……想像してたより、元気そうだった。良かったね、金田君っ」
「ええ、お恥ずかしい程に……さとみさんは元気です」
「……椿さんと話したって言ったろっ。実は御堂先生のお弟子さんに絡まれていたのを助けられたんだよ。あの人達……僕が隠し子じゃないかって、しつこくて……」
「……すみません、遠野先輩のご両親に申し訳ないデス」
隠し子疑惑の原因たる我が身で詫びる。遠野先輩は寛大にもクスクスと笑い飛ばしてくれた。
「僕もね、養子なんだ……。お祖母さんと同じ……。僕の場合は幼い頃に両親を亡くして、……施設で暮らしていた所を遠野の家に引き取られたんだ……」
「……! ……遠野先輩、家を継げる器だと見込まれたのですね」
「見込まれた……まあ、そうだね。実際、養父母には大事にされてるよ……」
「……っ」
背中で伝えられた衝撃の事実。
しかも、晩御飯の感想を言うかの如く、遠野先輩は軽く言ってのけた。否、遠野家に対して感謝も何もなく、望んでもない現状を仕方なく受け入れている。そんな虚しさが彼の手を置いた背中に伝わって来た。
養子だと知っても、彼は遠野家を背負って立つに相応しい人物と勝手に思い込んだ。
「七瀬さんも遠野先輩が養子だと……ご存知なのですか?」
「まさか、この話をしたのは金田君が初めてだよ。養父母も実子のように扱うから、養子だと知っているはずの人も忘れちゃうくらい……」
遠野先輩が最も気にかける七瀬すら、知らない家庭事情。
今こそ、隠していた事情を語る瞬間だ。
「先輩っ、去年の暮れに亡くなった……そうお話した伯父についてですが……。覚えていますか?」
「勿論だよっ。御堂先生の古いお知り合いで……画家だったっけ……あれ? キミの伯父さん、名前を聞いてなかったねっ。有名人でも……僕、知ってるかな?」
「氷室 一聖、尾高山の旅客機墜落事故で死んでいた天才画伯ですっ」
「え? 確か……七瀬君とキミがスキー教室で青森へ行っている間に、……大ニュースになった?」
上擦った声が自身の胆の小ささを露呈させ、恥ずかしい。思わず、
「……そっか……僕、鈍いなあ。氷室画伯のアトリエへ行こうって……キミに誘われた時、気付けば良かった……。……事件にも詳しいはずだよ。……その……失礼を承知で聞くけど……、ずっと偽者だって気付かなかったの? キミは伯父さんが好きだし、すぐに分かりそうだけど……」
「……気付けませんでした。それ以前に……会えなかったのです。祖母を含めた周りの大人達はおかしいと感じていましたよ。事故から救出されたのに入院先も知らされず、こちらに連絡が一切来ないどころか……帯広の自宅を手放して……背氷村のアトリエに閉じこもって……絵すら描かない……。事故で大火傷をしたから……今は誰にも会わないだけ、そう……信じて来ました」
「……っ、惨い事を……。そうやって……アイツらは会わせない口実を作って……正体がバレないようにしたのか……」
「自分達も……伯父が会ってくれないなら、無理やり会いに行こうとしませんでした」
情けなさそうに遠野先輩は自嘲気味に笑ったかと思えば、あの4人への怒りに声を震わせた。
事故当時、
本人は勿論、「勇敢なTVスタッフ」とやらも連絡して来ない。金田祖父が現役スタントマンだった頃の伝手を使い、ようやく「氷室画伯は酷い火傷により、人嫌いが更に悪化した」と情報を得られた。
悲惨な事故現場は見るに堪えない悪夢のような光景であり、
心と体の傷が治るまで待とう。金田祖父母達はそう結論した。
――生きていれば、必ず機会は来る。誰からの慰めか、忘れた。
だから、年賀状だけは出し続けた。最初は本宅、次いでアトリエ。最後には受取拒否された。
(なのに……生きていたのは……偽者だった!! 水沼……!!)
言葉が脳髄を駆け巡った瞬間、憤りも蘇る。毛細血管まで感情が走り、見慣れたはずの視界も定まらなくなっていく。氷室伯父の身代わりだった
遠野先輩がズイッと正座、お互いの膝と額が触れ合う。他人の体温が我に返させた。
「……金田君、話してくれてありがとう……。キミの大切な部分を知れて、嬉しいよ」
「……っ、こちらこそ……」
遠野先輩の穏やかな声と優しい微笑み。普段ならば、命を脅かす威圧感に竦む。今だけはその温かさを素直に受け取り、心からの感謝を言葉に出来た。
嬉しさに触れた額と膝に持たれかかり、遠野先輩も受け止めてくれた。
「もっと……伯父さんの話を聞きたいな。どんな人だい?」
「極端な人嫌いですよ。けど……甥だった自分を愛してくれました……」
勉強机の引き出しに置いたままの写真を取り出し、遠野先輩の前へ広げる。御堂先生とのツーショット写真を見つめ、驚いた彼は目を疑った。
「ビッ……クリした。ゴメン、金田君のお父さんと会った事あるのに……生き別れのお父さんかと思っちゃった……。……御堂先生達の態度にも頷けるよ。生き写しじゃん……コレっ」
「ええ、自分も……この顔で皆さんを慰められたと思います」
遠野先輩の反応はよくされるが久しぶり過ぎて、いちは新鮮に感じた。
「お姉さんはお父さん似の美人だし、キミの二枚目は伯父さん譲りだねっ」
「……はい」
思い切って、打ち明けて良かった。
いつもの朝が来た。
静かな住宅地に響く雀の鳴き声、寝転んだ遠野先輩の寝息が聞こえる。彼を起こさぬ様にクローゼット式の押し入れを開け、ウェアを取る。傍にある氷室伯父の学帽が目に入り、そっと触れた。
数少ない氷室伯父の遺品は納骨以来、袖を通していない。その機会が無いのは幸いと言えるだろう。
(夏休みに……遠野先輩を館へ招待しよう。銭形さんへ連絡して……絵の返却を早めてもらおうっ)
目標を新たに心へ掲げ、朝の日課たるジョギングへ向かう。玄関先で金田祖父が箒で掃き掃除していた。
「おはようさん、
「……そうですね、今は言えませんが……事件ですよ」
流石は年の功、金田祖父は遠野先輩の内包された怒りを感じ取っている。思い返したくなかった不純異性交遊。小田切先生と時田に下される処分を思えば、一気にゲンナリした。
――ちなみに
どすこい刑事「閲覧ありがとうでごわす。警察の仕事が減るなら、それに越したコトなしっ。さて次回は『不動高校学園祭に人は死なない‐遠野』!! 部活対抗リレー……うっ、頭が!!」
写真部顧問・科学担当の津雲 成人
化学を通して生徒と触れ合うのが好きだが、生徒からは「事なかれ主義」と評される。復讐の為に死体を裸にひん剝ける。
写真部部長・江塔 大樹
腕の良い部長。密かに六野を想っていた。
六野 冬花
アイドルのような美少女だった。
鷹杉 なぎさ
「草太君」と呼ぶ程、村上と親しい。やりたくない事は絶対にやらない。自分の意志がしっかりした子。
祭沢 舞香
原作にてメイド喫茶を提案した。ノリが良く、男子に受けが良い。
雪岡 草平、八尾 徹平
それぞれ氷点下15度の殺意、魔犬の森殺人事件ゲストキャラ
金田一の担任・吉長
雪鬼伝説殺人事件、ゲストキャラ
体育教師・羽田 太、太田 千明
ドラマ版・学園七不思議殺人事件ゲストキャラ
美術部副部長3年・汐見 初音、美術部顧問・美術担当の中津川 賢人
誰が女神を殺したか? ゲストキャラ