金田少年の生徒会日誌 作:珍明
きっと同級生想いの
だが、その甲斐もなく時田女子は地元の青森県へ転校する。実家の都合もあり、彼女自身も納得しているそうだ。最後に登校した日、わざわざ生徒会室へ挨拶しに来てくれた。
「生徒会諸君っ、お役目に励んどるかね。な~んちゃって♪ 短い間でしたがっ、お世話になりました」
「……アハハ……律儀にどうも、今日は金田君や七瀬君もいないんだ……。演劇部に行ってるから、呼んで来ようか……」
時田女子は勝気な性格そのままに愛嬌を振り撒き、英治は苦笑いを返す。生憎、庶務と会計の3人しかおらず、彼女と親しい人はいない。寧ろ、小田切先生も呼んだ方がいいだろう。
英治が廊下へ出た時、時田女子はそっと耳打ちする。
「いえ、遠野先輩に用があって来たんです♪ お願いって言った方が良いかなあっ」
「お願いかあ……別れの餞別代わりに叶えるよっ。中間テストの結果はどうにもならないけどねっ」
「……フフフッ、それじゃあ……金田君をお願いします」
「……金田君?」
唐突に真剣な表情へ早変わりし、時田女子は乞う。想定外の願いにゾワッと背筋が粟立った。
「金田君の傍にいてください……。彼には先輩が必要ですから……」
「……うんっ、金田君には僕がいるよ」
小田切先生との不純異性交遊がバレ、地元に帰される。こんな状況で時田女子は
「金田君の傍には僕がいるっ」
「……っ」
改めて英治が誓えば、まだ不安そうに時田女子は微笑む。頭を下げ、廊下を去って行く後ろ姿が彼女の最後だった。
それとは全く関係ないが、同級生から英雄扱いされた。
「遠野~、やるじゃんっ」
「これ以上、モテてどうすんだよ。ハハハッ」
3年B組・
「伊志田を泣かせただろ。お前は興味ないだろうが、アイツ……色々と良くない噂があってな。なまじ成績も良いし、弁解も巧いからよ。教師もお手上げなくらいだぜ」
「いよっ、頼れる前生徒会長!」
「よっぽど、遠野が怖かったんだろうな。さっき、下駄箱でお前の靴を磨いてたぜ。好きでやらせてもらってます~とかっ」
同じ組の
でも、靴磨きは怖い。すぐに止めさせれば、伊志田は半ベソで逃げた。
「フフフッ、また伊志田君を泣かせたの? 悪い人っ」
「桜樹君、人聞きが悪いな。キミも庶務に言い寄ったんだろ? GW中にまた事件をひとつ解決したから、それでOKしてくれって。なんで、2人に任せなかったの?」
しかも、ミステリー研究会会長3年1組・
ミス研継続の為とは言え、後輩の庶務に圧力をかける人に言われたくない。
「2人が解きやすい様に調査してたら、現場に出くわしちゃったんだもの。速攻で通報したわ」
「……まさか、1人で?」
「それこそ、まさかっ。木根さんって言う医療ジャーナリスト(自称)の方と一緒よ。聖正病院で知り合ってね。患者が不審な死を遂げた病院は他にないかなあって……探してくれたの」
「……それって……聖正病院レベルの不祥事を発見したの? 桜樹君、危ない橋を渡り過ぎだよ。相手から逆恨みされていないか、……心配だ……」
桜樹女子が調査した萬屋病院については昨日、人の所業とは思えぬ実態が報道されていた。
萬屋院長は最初、事実無根を訴えたが、内部告発者による物的証拠が続々と警察に提出。更には跡継ぎが所属する医大からトカゲの尻尾切りを受け、一家で夜逃げ。
これにより、萬屋病院は実質閉院を余儀なくされる。
入院中の患者、勤務中の職員を放置しての悪行は全国ニュースとして取り上げられ、萬屋一家は自業自得の末路を迎える。
英治、桜樹女子も関わらない。別の話である。
「私への心配はともかく……そんな感じに伊志田君は未だに事件ひとつ解決できないし、あの写真を撮ったなんて疑われても弁護し切れないわっ。だから、アナタのお説教は良い薬よっ」
「そう言えば……あれは本当に誰が撮ったんだろうね。全然、考えてなかったな……」
「誰が撮ったにしても、時田さんは転校しちゃったしね。折角、金田一君が一肌脱いでくれたのに……勿体無い」
「……キンダイチクンって、誰だっけ?」
悩みの尽きない桜樹女子が不意に知らない名前を出し、英治は困惑して問いかける。途端、彼女はギョッとした。
「……時田さん、アナタに挨拶したんですってね。何を言われたか、教えてくれないかしら?」
「うん? それは……金田君の事を頼まれたんだよ。傍にいてくれってさっ」
「クスクスッ、時田さんってそんなに金田君を気にかけていたのね。知らなかったわっ。叶えてあげて、彼女の願いを……」
「? 勿論だよっ」
こちらの質問に答えず、桜樹女子はすぐに話題を変える。隠す必要はない為、素直に答えた。
真意は分からないが、追及しないでおこう。
「小田切先生~♪ お昼ご一緒しません? 職員室じゃあ、他の先生の目もあるでしょう?」
「演劇部の部室、静かでいいデスヨッ」
「ダメですよ、小田切先生。この2人に優しくしちゃあ!」
「心配してくれて……ありがとう。僕は1人で大丈夫だから……宗像さんに早乙女さん、それに山吹さんもっ」
小田切先生は3年4組・
助け船を出そうか迷う。英治が様子を窺えば、桜樹女子に肩を叩かれた。
「お話し中にすみません。小田切先生っ、須貝先生が探していましたっ」
「桜樹さんっ、わざわざ……ありがとう。すぐに行くよ!」
桜樹女子に声を掛けられ、小田切先生はどこかホッとする。ペコリッと頭を下げ、
早乙女女子がジロリッと桜樹女子を睨む。全く物怖じせず、彼女は笑みを返した。
「あら、遠野君。聞いたわよ、伊志田君にお説教してくれたって? 部の後輩がよく絡まれて、困ってたの。あ・り・が・と」
「出た男好きっ、ヤダヤダ」
「無駄よ、宗像さん。遠野君は〝予約済〟っ」
スッと宗像女史は英治へ擦り寄り、流し目で微笑まれる。グイッと早乙女女子が間へ割って入り、嫌そうに彼女をしっしっと手で仰ぐ。山吹女子が意外な忠告をした。
「おやあ、遠野君。我らがミス研の会長だけでは飽き足らず、他のカワイ子ちゃんまで誘惑しているのかい?」
「「「鷹島さんに言い付けるわよ」」」
前髪をウネウネとウネらせ、真壁が嫌味っぽく笑う。途端、桜樹女子以外がビシッと言い返した。
「……い、良い気になるなよ。遠野君……、気を付けないと……キミも小田切先生のように足元を掬われるかもしれないぜっ」
「やめとけ、真壁っ。後悔するぞ、絶対」
「真壁にそんな度胸ねえよ」
負け犬の遠吠えが如く、真壁は吐き捨てる。それは通りすがりの生徒にも聞こえ、3年C組・
「そう言えば、皆の部ではもう決めた? 部活対抗リレーに出る人っ」
「男子に決まってんでしょ。運動部なんかと走ってらんないわ」
「演劇部はまだいいわよ、スポーツ万能の布施君だもん。あたしンとこなんて、瀬名君よ。桜樹さんのミス研は……真壁君なワケ?」
「……っ」
宗像女子の疑問に対し、早乙女女子はやれやれと首を傾げる。山吹女子が愚痴った瞬間、全員が真壁へ注目した。
「フッ、普段の僕は頭脳派だけどね。偶には肉体労働でもしようかな?」
「「「「……」」」」
キザッたらしく、真壁は勿体ぶった言い方で微妙に自信満々。桜樹女子の青褪めた表情から、同じ女子も同情を禁じ得なかった。
彼女らの言う通り、生徒の関心は不動高校体育祭にある。
準備に生徒会執行部は関与しない。各組から選出された体育祭委員会により、着々と進められていく。部活対抗リレーは新入部員勧誘の機会でもあり、真面目な部は校舎の片隅でリレーの練習に励んだ。
その光景は風物詩とも言えるだろう。
「遠野君、いえ……遠野様! 囲碁部の助っ人になって、部活対抗リレーに出て下さいませ!」
「いいえ、美術部よっ。部長も副部長も全然、走れないんだから!」
3年4組・
「すいやせん、ウチの小角先輩が……。お恥ずかしいッス」
「無理もないわ。部活対抗選手5人なのに、囲碁部は海峰君を含めても3人だもんっ。最初から不利よ」
「金田君が出てあげれば? 演劇部代表から、免れたでしょう?」
「お断りしますっ。3人4脚を走った後ですよ」
恥ずかしそうに
2年生だけ、3人4脚の種目がある。体育の授業中に練習させられ、書記と庶務もゲンナリだ。
「金田君は桐生さんと神矢君でしょうっ。組み合わせが良いじゃない! あたしなんか、不純な動機を持った誰かさんと組まされたのよ……」
「そちらはクジ運でしょう。我が組はバランスを重視し、話し合った結果ですっ」
2人の会話が弾む中、
どんな高名な画家も正直、毛程も興味ない。否、
されど、金田の伯父・
冬休み中が明けた3学期、金田の憔悴を見た。それだけ、死別した伯父へ愛を深く感じた。
だが、違和感もあった。見え隠れする吹雪は段々とある思考へ辿り着かせる。英治はソレに結論を出したが、金田の意思は彷徨っていた。
その理由を先日、ようやく知った。復讐すべき相手は赤の他人に先を越されていた。
背氷村殺人事件、大雪山系にある限界集落は厳冬期に陸の孤島と化す。綾辻の計画に最適であり、見事に復讐を完遂した。そんな彼女も無期懲役の判決を受け、服役中だ。
金田は愛する人を奪った彼らを法で裁けず、己の手で裁く機会すらも永遠に失った。彼の吹雪は二度と止まないだろう。英治は彼を我が事の様に憐れんだ。
――吹雪が止まぬならば、せめて血に染めよう。『悲恋湖伝説』のように赤く――
「遠野先輩っ、それで良いですか?」
「七瀬君、何かな? 聞いてなかった……」
「朝木さんが囲碁部の助っ人ですよ」
七瀬女子から微笑まれ、英治は慌てて問い返す。彼女の代わりに金田が教えてくれた。
他愛ない会話を続けながら、英治は左の腕時計へ触る。微かな秒針が耳を打ち、決意を新たにさせる鐘の音に聞こえた。
○●……――伊志田 純は撮りたいモノを撮る。被写体の気持ちなどお構いなし、下卑た方法も平気で使う。狙った相手をレンズに収め、シャッターを切る瞬間は最高だ。
だが、小田切先生の写真は本当に違う。仮に2人の関係を知ったなら、それをネタに時田の裸体を撮らせて頂いただろう。彼女は密かに狙っていた。
そんな考えも遠野様のご立腹により、吹き飛んだ。
――怖い、怖い、怖い。
的場 勇一郎に殺されたかけた時より、死神のいる病院へ入院した時より、遠野様が怖ろしい。
呼吸ひとつでも間違えれば、斧を振り下ろされる。圧倒的な殺意に恐れ戦き、命乞いした。写真を撮っていないと本当の事だけを必死に訴えた。一先ず、解放されたが僅かな時間で体に遠野様への恐怖が刻まれた。
人の上に立つ前生徒会長様の恐ろしさ、誰が信じてくれるだろう。
「私は信じるぞ……、伊志田は何もしてないっ」
「津雲センセ~っ、うう……」
津雲先生の真剣な表情から、遠野様の恐ろしさに平伏した共感を得る。それが嬉しくて、泣いてしまうが恥ずかしくない。正直、写真部顧問ながらも舐めていた相手だが、改めた。
写真への情熱は消えないが、純は遠野様のご機嫌取りを欠かさないように気を配った。
靴磨きはお気に召さかったらしい。
別の方法を模索しようと廊下を走っている時、何か荷物を持った誰かとブツかった。
「あ~! ボクの芸術作品に何するんだヨ……キミはっ」
「瀬名……、コレが芸術……」
美術部部長3年C組・
「ん? ……フフフ、どうやら……前生徒会長に泣かされたって、噂は本当らしいな♪ 以前のキミなら、ボクの作品を見ても、適当に嗤って消えるだけだったのにっ」
「ひ、人聞きの悪いコトを言うなっ。頭脳明晰、成績優秀、清廉潔白、温厚篤実な遠野様が人を泣かすワケないだろ!」
「遠野……様? 様付けしたの? あの伊志田が……」
意味深に笑い、瀬名が作品を拾いながら不謹慎な事を言い放つ。遠野様が生徒を泣かせた噂などあってはならない。純は怯えつつ、彼を注意したが既に手遅れだった。
通りすがりのスキー部女子キャプテン3年A組・
「あ……うん、なんかゴメン。……写真部、居づらかったら……いつでも、美術部へ来たまえよ? 芸術を愛する点では我々は同志……?」
「疑問形かよ、行かねえわ! 芸術なんざ、興味ないね。俺は撮りたい写真を撮るだけだっ」
同情された瀬名に肩をポンポンッと叩かれ、反射的に言い返す。純は自分の言葉にハッとした。
こんな目に遭ってもカメラを手放さず、写真部を辞めない理由。
何度も口にしていたが、初心を思い返したような素直さが胸を貫く。よりによって美術部の変人に気付かされ、悔しい。一気に羞恥心が全身を巡り、今度は言葉が出なくなった。
如何なる状況も舌先三寸で乗り越えた身、更にムカつく。ポカポカッと瀬名を小突いてやった。
「イタッ、イタッ。ぼ、暴力は良くないっ。遠野様、お助け~」
「! よお~し、よしよし♪ 瀬名君、こんなに大きな作品を1人じゃ大変だろ。一緒に運ぶぜっ」
本当に遠野様がすっ飛んで来られては堪らない。汗だくになりながら、純は瀬名の作品を雑に運ぶ。これで周囲に見られても、同級生を手助けした印象を与えられるだろう。
一応、瀬名は礼を言った。
後日、
「伊志田、お前……写真部を辞めて美術部に行くって本当か? 「そんなワケで部活対抗リレーに彼をもらうね」とか、瀬名が言ってたぞ……」
「……!?」
昼飯中の純はコーヒー牛乳を噴き出し、速攻で美術部へ苦情を申し立てに行った。紆余曲折あり、美術部代表になってしまったのは笑い話である。
祭沢「MAIKAで~す♪ 閲覧ありがとう♡ って、あたし……モブで終わってんじゃん! もう……さて、次回は『仏蘭西銀貨殺人事件を駆け抜けて』!! 体育祭実行委員、あたし~インドア派なんで~他の人にお譲りしま~す。2年の金田一って人は立候補? やる気満々♪」
伊志田 純
女子に人気のイケメン、写真への情熱はおそらく本物。学校裏サイトがある時代でも、真壁に鷹島がいたように彼にもストッパーがいれば、何か違っただろう。
小田切 進先生
異人館村殺人事件、ゲストキャラ
チア部・宗像 さつき、バスケ部・成瀬、野球部・久里(両名名前のみ)
魔神遺跡殺人事件、ゲストキャラ
演劇部部長・布施 光彦、早乙女 涼子、サッカー部・加背(名前のみ)
オペラ座館殺人事件、ゲストキャラ
美術部部長・瀬名 光一、轟 美和子、山吹 薫子
誰が女神を殺したか? ゲストキャラ
囲碁部部長・小角 由香里
血溜之間殺人事件、ゲストキャラ