金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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仏蘭西銀貨殺人事件が終わった後の日常回です
原作、アニメでは秋の頃っぽいんですが、5月にしました

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


C20.【仏蘭西銀貨殺人事件】を駆け抜けて・前編

 不動高校が体育祭の準備に取り掛かる中、演劇部も部活対抗リレーに向けての猛特訓。

 などしない。

 

「普通のバトンじゃあ、ダメなワケ?」

「前回は『シンデレラ』にあやかって……ガラスの靴がバトンだったわよねえ。なにこれ、カツラ?」

 

 各部から自由にバトンを持ち込める為、部長・布施(ふせ) 光彦(みつひこ)先輩と早乙女(さおとめ) 涼子(りょうこ)先輩は部室の小道具をチェック。例年、3年生が決めるそうだ。

 

「演劇部ってこういう時、不便だよな」

「ユニフォームないし……」

「もう……体操着で良くね?」

「それだと目立ちませんよ」

 

 照明係・神矢(かみや)、大道具係・仙道(せんどう) (ゆたか)、小道具係・有森(ありもり) 裕二(ゆうじ)は歴代の先輩方が使い古した衣装を取り出し、(いち)は他の部員と一緒に並べる。リレーに有利な衣装選びは慎重だ。

 何故なら、TV局が来る。

 そこに勤める不動高校演劇部OBが上司へ頼み込み、都内の運動会特集収録先に選ばれた。なんとも余計な事をしてくれた。

 先日の一件でPTAの要望で保護者観覧も解禁され、校長を含めた教職員は色々とピリピリしている状態だ。

 

「有森君の美術部はどんな格好で走るンのだっけ~?」

「制服のままだっ。しかも、バトンは瀬名部長の作品とか……」

 

 日高(ひだか)に問われ、有森はゲンナリする。彼は美術部であり、その代表選手になってしまったのだ。

 

「有森君、やる気満々ねえ。金田君も見習ったら?」

「何度も言いますが、嫌ですっ。七瀬さん、リレー代表をお願い致します」

 

 裏方の七瀬(ななせ)は演劇部代表を押し付けられ、恨みがましい態度。話し合いで決めたのだから、文句を言われる筋合いはない。(いち)は堂々と笑顔でかわした。

 

「金田君には3人4脚へ集中してもらうわっ。まだちゃんと走れてないんだからっ」

「桐生さん、やはり……貴女が真ん中で神矢君と自分が支えてはどうでしょう?」

 

 同じ組・桐生(きりゅう)の指摘通り、3人4脚は未だに完走出来ない。普段は絶対やらない競技が2年生だけある。難易度の高く、(いち)は現時点で辟易しているのだ。

 だが、面子は恵まれた。

 神矢と桐生。この2人でなければ、生徒会執行部を言い訳にボイコットしていたと断言しよう。気を許せる相手に両サイドを挟まれ、ある意味で両手に花。戦略的に決めたが、内心は浮かれていた。

 

「身長差を考えれば、金田君が真ん中よっ。カーブを曲がる時とか、私がグランドの内側を走って、神矢君が外側から引っ張る。でしょ?」

「そこまで計算して……流石は桐生さん。効率的と言えば、効率的ですね」

(俺も桐生さん、真ん中の方が良いなあ……。2人で運ぶ感じに走ったら、楽なのに……)

 

 桐生がここまで真剣に挑むならば、自分もそれに答えよう。転ぶようなヘマをし、彼女の顔など怪我を負わせない。神矢の困った顔に違和感はあったが、戦略に悩んでいると勝手に思う。そんな彼に感情移入する雰囲気が部内を覆った。

 

「桐生さん、男子2人と走るのね。良いなあ、ウチは男女別で組まされたよ」

「オレのトコも~。折角、女子と走れるって期待したのに……。担任がダメってさ~」

 

 月島(つきしま) 冬子(ふゆこ)がクスクスッと微笑み、仙道が照れ臭そうに便乗した。

 

「月島さんと仙道君は男女別なの? こっちは足の速い男子の奪い合いだよ~。あたしは運良く~岡持君と組めたけどねぇ~♪」

「奪い合い……織江ちゃんトコはどうやって、決めたの?」

「失礼しま~す。有森君、いますか?」

「おお、芝里。どうした?」

 

 日高が羨ましそうに笑えば、七瀬は雑談として問いかける。そこへ美術部2年C組・芝里(しばさと) 丈治(じょうじ) が現れ、全員の注目を浴びた。

 

「どうしたじゃなくて、リレーのバトン渡しっ。今日、練習するって言ったろ。また部長がバトン変えたぜ」

「げえっ、何度目だよ。ワリィ、後は頼むわ。緒方先生、月島先生。お先に失礼します」

 

 芝里に呼ばれ、有森はギョッとする。皆に腰の低い態度で詫びながら、美術部へ行ってしまった。

 

「今回のTV局、OBの伝手とか……不動高校って意外と人脈が幅広いんですねっ」

「クスッ、確かに……。職務で忙しいでしょうに、後輩を気遣ってくれて嬉しいですわ」

 

 演劇部副顧問の国語担当・月島(つきしま) 亮二(りゅうじ)先生と顧問の音楽担当・緒方(おがた) 夏代(なつよ)先生は【オペラ座の怪人】の台本を読みながら、部員の話し合いに口を出さずにただ見守った。

 帰宅時間までにバトンと衣装はどうにか、決定。これにて、本日の演劇部は解散なり。

 

「金田君、これから……3人4脚の練習しない? ウチの近くに打ってつけの公園があるのよっ」

(げえ、これから!? どうせ、金田と一緒に居たいだけだろう。俺は帰るぞ……)

「すみません、先約があります」

 

 下駄箱で履き替えながら、桐生が提案した途端に神矢の表情は強張る。折角のお誘いだが、(いち)は人と会う約束がある。2人はあからさまに正反対の反応、詫びる気持ちよりも面白さが勝った。

 

「金田君、その用事って今日じゃなきゃダメ? 体育祭もすぐそこだし、春美ちゃんももっと練習したんだと思うよ♪」

「日高さん、残念ですが……」

「明日も明後日も?」

「織江さんに美雪さん、いいのよ。金田君も無理しないでっ」

 

 日高と七瀬がいちへグイグイ迫る。他の部員もジ~ッと目で訴え、そこまで桐生の真面目さを応援したい気持ちに感動すらした。

 

「明日、お時間を取ります。神矢君もそれで良いですか?」

「俺は別に……勿論、明日は大丈夫だっ

 

 神矢へ問えば、気乗りしない様子が瞬時に一変。(いち)は桐生に背を向けた状態だった為、彼女の威圧感ある表情が見えなかった。

 善は急げと駐輪場にて、原付バイクを動かす。校門へ向かう途中で小田切(おだぎり)先生を発見、校舎の戸締り確認中だ。

 

「……小田切先生、さようなら」

「金田君、さようならっ」

 

 時田との不純異性交遊発覚以来、初めて小田切先生を見た気がする。謹慎した話は聞いていないが、(いち)の視界には映っていなかったのだろう。PTA会長すら、同情する程の気弱な性格で教え子とラブホテルへ行った。

 そんな先入観から、避けていた自覚はある。

 

「金田君、ちょっと良いかな? わか……時田さんの事で……」

「……!! 時田さんがどうしましたか?」

 

 いきなり話しかけられたかと思えば、小田切先生は校舎内で時田(ときた)の名を出す。ビックリして思わず、周囲を見回したが、他の教師はいない。

 

「時田さん……僕は聞いてないけど、キミについて相談と言うか……気にかけていたみたいなんだ。彼女と連絡取り合ったりしてない?」

「いいえ、時田さんとは学校で話をした程度です。転校された後も……音沙汰ありません」

 

 普段通り、小田切先生はオドオドしている。しかし、つぶらな瞳に嫉妬が見えた。怖い。

 

「そっか、変な事を聞いてゴメンね。帰り道、気を付けてっ」

「は、はい……」

 

 全く表情は変えず、小田切先生の瞳へ宿した嫉妬はスッと消えてくれる。別れの挨拶をしつつ、戸締り確認へ戻った。気付かれぬ様に安堵の息を吐き、原付バイクへ跨った。

 

(本当に……時田さんが好きなんだなあ……)

 

 どれだけ真剣な交際であろうとも、(いち)は応援出来ない。せめて、卒業後にでも再会してくれればと願った。

 

 都内でも実業家が集う高級住宅地、庶民臭い原付バイクは登山家・氷垣(ひがき) 岳史(たけし)宅へ到着。

 自分のような庶民にはお屋敷に見えるが、資産家には普通基準の建築。2度目の訪問でも、全然慣れない。お呼ばれした身だが、胃が竦んだ。

 

「こんにちは、(いち)君。それが不動高校の制服か……良いね。似合っているよ」

「氷垣さん、……ご無沙汰しております。こちら……旬のお菓子です。お口に合えば幸いです。黒沼先生、お邪魔します」

「こんにちは、金田君」

 

 出迎えてくれた氷垣氏の親しげな挨拶も慣れない。ここはちょっと背伸びした態度で接したいが、彼は(いち)へ年相応の対応を願う優しい人。無礼にならない程度に砕けた挨拶を心掛け、お持たせを渡した。

 氷垣氏自ら客間へ案内され、そこには彼の顧問弁護士・黒沼(くろぬま) 繁樹(しげき)が控える。顔見知りの弁護士もわざわざソファーから起立してくれた。

 壁に飾られた山岳の写真と絵画に混ざり、氷室(ひむろ)伯父の『氷壁岳』もある。ホッとした。

 

「早速、本題だ。遅れたけど、コレは誕生日プレゼントだよ」

「!? あ……ありがとうございます」

 

 予想外の出来事、嬉しさに胸が弾む。包装されたプレゼントが硝子のテーブルへ置かれ、(いち)の使用する筆箱サイズだ。だから、筆記用具の類を連想した。

 

「開けてごらんよ。使えるか、試して欲しい」

「はい、失礼します。……? 携帯電話に……見えますね?」

 

 包装用紙が破れぬ様に気を遣い、開封。箱の中には携帯電話、一部の大人やドラマでしか見た事ない代物だ。充電器らしき、ACアダプターも同府されていた。

 

「携帯電話だよ。着メロ機能もあるっ」

「……!! ……っ」

「キミのお家だと電話しても、滅多に繋がらないからね。いざと言う時に連絡出来ないのは、私も困る。使いなさいっ」

「……はい(小声)」

 

 高校生が所持するには高級すぎる。(いち)はビビった拍子に断ろうとしたが、氷垣氏の物凄く威圧感ある笑顔に屈した。

 説明書を見ながら、生徒手帳の緊急連絡先を登録して行く。プッシュ音が鳴る度、内心はヒヤヒヤだ。

 

「友達の電話番号も登録して、良いですか?」

「ああ、勿論だよ。友達と言えば、学校は大丈夫かね? お姉さんと言い、キミの周りは事件が多過ぎる」

 

 教師と生徒の不祥事がありましたなどと、心配してくれる氷垣氏へ言えるはずがなかった。

 

「学校は通常通り行われています。来週の土曜日に体育祭もやります」

「体育祭っ、良いねえ。(いち)君がちゃんと学校行事を楽しんでくれて、嬉しいよ。黒沼君はキミの個人的な事は教えてくれないからね。ああ、怒ってるんじゃなくて……線引きをしっかりしていると言う意味だよ」

「恐縮です」

 

 雇用主とプライベートの付き合いがあろうとも、弁護士の守秘義務は全うされる。流石は黒沼先生、頼れる弁護士。とは言え、(いち)が直接知り合ったのは3人しかいない。そして、全員が職務に誠実だ。

 飲み物を頂きながら、壁の絵を視界に入れる。北海道の背氷村を思い返した。

 

「……氷垣さん、北海道の大雪山系にも詳しいですか? 実は今度の夏休みに……」

「うん? ……ほお、背氷村の邸宅に友達を招待すると……確かに、その鷲尾と言う人は正しい。大雪山系は冬こそ、余所者を近付けないが……夏場は避暑地として観光客に利用される。お友達も安全に過ごせるだろう」

 

 発案そのものはミス研会長・桜樹(さくらぎ)先輩であり、紆余曲折あって前生徒会長・遠野(とおの)先輩を心から招待したい気持ちを伝える。以前、背氷村にある邸宅の片付けで画商・鷲尾(わしお) ケイゴから受けた注意事項も忘れず、氷垣氏へ包み隠さずに話した。

 

「となると……邸宅の片付けが必要ですね。鷲尾さんに連絡しますか?」

「その辺りは……父に頭を下げようと思います。先日に邸宅へ行き、改めて不用品のリストを作りました。鷲尾さんにはまたこれらの売却に協力してもらいます」

 

 黒沼先生からの質問に父たる残間(ざんま) 青完(あおまさ)をまたも頼らなければならない現実にゲンナリ。作成した再度の不用品リストを見せれば、彼は渋い顔になった。

 

「いくら別宅が道警の施設になったとは言え、1人で屋敷に行くのは大変危険です。せめて、こちらへ連絡をください」

「……はい、それで……問題は警察に押収されたままの絵です。銭形警部補に返却時期を聞きましたが、検察の判断待ちだと……」

「まだ氷室君の絵、返却されてないのかい!? あの事件の判決って3月に出たよねっ」

 

 どうやら、単独で北海道へ向かった事が黒沼先生には不服の様子。(いち)はすぐに困っている点に切り替える。氷垣氏の指摘通りに押収された氷室伯父の作品は未だ返却されない現状、更なるゲッソリだ。

 

「金田君、そういう時こそ……俺を頼って。氷垣さんへ説明しますと、絵画は詐欺罪の証拠品として押収されました。従って、返却時期は別になります。被疑者死亡による書類送検は不起訴の確定まで期限がなく、言葉は悪いですが、後回しにされます。検察官によりますが大体、半年はかかるでしょう。下手すれば、更にかかります」

「そんなに掛かるの!?」

「流石、黒沼先生……スラスラと……」

 

 不意に黒沼先生は眉間のシワを解す様に摘まみ、考え込む。背氷村殺人事件は悪質な詐欺事件も関与しているが、証拠品の扱いはそれぞれ違う。ビデオテープを取り戻した喜びで、絵画の返却は後回しだ。

 と言うよりも遺品を返却されれば、また相続税の支払いに負われる。それが嫌で出来るだけ、先延ばしにしていた。幼稚な理由は伏せておこう。

 

「まどろっこしい場合は還付請求を叩きつける案がありますっ。如何ですか、金田君?」

「は、はいっ。お願いします!」

「……つまり、氷室君の絵を邸宅へ飾るのかね?」

 

 黒沼先生はカッと目を見開き、テーブルを叩く仕草だけをする。(いち)は彼の迫力に自然と頷き、氷垣氏に重要な点を気付かれた。

 

「はい、友達に自慢します。世界一の天才画家、氷室 一聖をっ」

「……そうかい、素敵だね。とても……」

 

 本心だ。

 (いち)の大切な氷室伯父が遺してくれた作品を披露したい。天才画家の血筋と知りながら、変わらずに後輩として接してくれる先輩方へ真っ先にだ。

 因みに名探偵の孫・金田一(きんだいち)は招待を躊躇う。何故なら、彼は警視庁からの非公式な表彰をHなビデオで台無しにする馬鹿者。

 素直に幻滅し、友達だと思われたくない。

 GW中、同級生が容疑者となった悲しき事件に遭遇したと人伝に聞き、心配した時間も返して欲しいくらいだ。

 氷垣氏の微笑ましい表情を見ながら、金田一(きんだいち)への感情を頭の隅へ追いやった。

 

「氷垣さんもご一緒にいかがですか?」

「……気持ちは嬉しいが、またの機会にするよ。友達とゆっくり、過ごしなさい。私はその後でいい」

 

 (いち)への気遣いが伝わり、胸がじんわりと温まる。氷垣氏はいつか必ず、招待しようと決めた。

 

 豪華な夕食をご馳走になり、キチンと挨拶して氷垣宅を後にする。帰りがけに黒沼先生から「もっと俺を頼って」と念押しされた。

 甘え過ぎだと自覚する程に頼っているつもりだが、承知しておいた。

 

 自宅に帰れば、廊下の電話台が騒がしい。姉たる残間(ざんま) さとみ、金田祖父がキャッキャと大はしゃぎで受話器を取る。見れば、電話が新しくなっていた。

 

「あ、いっくんが帰って来た♪ 見てみて、新しい電話♪ 仙台の伯母さんと喋ってるのっ」

「子機とFAX機能も付いとるでっ」

「……ただいま、帰りました」

「おかえりなさい、(いち)。氷垣さんに失礼はなかった?」

 

 ひょっこりと金田祖母が台所から現れ、氷垣宅での様子を聞いて来る。問題なしと答えた瞬間、さとみに受話器を押し付けられる。仕方なく、残間の一番上の姉・つまりは伯母へ挨拶した。

 一方的に喋られ、切られた。

 

「氷垣さんから誕生日プレゼントを貰いましたっ」

「あ~!! あたし……いっくんに誕生日のプレゼント、ずっと渡してなかった……」

「そりゃしゃ~ない。色々あったんや……さとみ?」

 

 報告ついでに携帯電話を見せ付けた瞬間、さとみは青褪める。金田祖父の慰めも聞かず、部屋へダッシュ。彼女を待つ為に仕方なく、居間へ座った。

 

「お祖母ちゃん、よく電話を買い替える決心が付きましたね。新しい機能は覚えるのが大変でしょうに」

「多岐川さんから、新しくしてって言われたのよ。子機は有り難いわね。どこにでも持って行けるわ」

「このタイミングで携帯電話、買うてもらいよって。氷垣さんにお礼言うとかな、あかんな。高価なモンやしっ」

 

 金銭的の話も含めたが、電話機の代金は家計以外から出ている様子だ。そして、金田祖父が携帯電話を使いたそうに指をわしゃわしゃと動かしてくる。いちが勿体ぶった渡し方をすれば、さとみが居間へ突っ込んできた。

 

「いっくん、お誕生日おめでとう! はいっ」

「……!? 『アマデウス』のビデオっ。……吹き替え版と字幕版を両方っ」

 

 何の包装もされず、2つのビデオテープケースをそのまま渡される。さとみはすぐに中身を見せたい為だと知っているが、映画の内容にビックリ仰天。いちは携帯電話よりも喜び、飛び跳ねてしまった。

 

「良いのですか? イイのですか? やったー! ありがとう、さとみさん♪」

「……良かったね、いっくん……。……なんでこんな時まで、名前呼びよっ。お姉ちゃんと呼べってば!」

 

 (いち)は心からの感謝を込めたはずが、さとみの蹴りを顎に食らう。その痛みに思い返した。

 

(残間からのアルバム手帳、まだ開いてなかった……)

 

 先月に受け取ってから、事件やら何やらで位牌の後ろへ置いたままだった。

 さとみを宥めた後、アルバム手帳を自室に持ち込む。金田祖父母にも見せるが、先ずは自分が開きたいのだ。

 勉強机の椅子へ腰かけ、変な緊張を抑えようと深呼吸した。

 最初、目に入ったのは浴衣を着た母・にいみ。石造りの鳥居の前に立ち、その奥にいる浴衣の青年が氷室伯父。背を向けているが、身長と体格から判断出来た。

 

(長野県の『雲場村』、雷祭……)

 

 次に黒五つ紋付き羽織袴の残間、その後ろにてわざと手で顔を隠す礼服の男。間違いなく、氷室伯父だ。

 百日祝いの席、彼は赤ん坊を膝に乗せる。慣れない様子で笑いながら、初めてカメラ目線になっていた。

 写真嫌いの氷室伯父が(いち)と一緒にいれば、キチンと顔を見せる。甥への愛を感じ、目尻に涙が溢れた。

 一枚ずつ手に取ろうとアルバムから抜き取る。

 浴衣写真の時、同じ枠に別の写真が1枚重なり、一緒くたに出てくる。

 10人にも満たない小学生が寄せ集まり、子供の端に大人が2人だけ立つ。片方は若かりし頃の母だが、もう1人の男にも見覚えがある。裏を見れば、【来夢ちゃん】【周介くん】などそれぞれの立ち位置に名前が書かれてあった。

 

(……黒川先生? 親戚でも……そんな名前、聞いた事ねえけどっ)

 

 写真の部屋はイーゼルや石膏像がいくつもあり、一見すれば美術室。その関係だとしても、場所はどうでも良いのだが、黒川なる男性が引っかかった。

 こんな時は素直に金田祖父母へ聞くべし。まだ居間で茶を啜り、写真について問う。さとみは風呂だ。

 

「あら、こんな写真があったのね。あの子が絵画教室で働いていた時よ」

「習うのではなく? 教える程、上手いとは思えませんが……」

「阿呆言いなさんな。にいみは人を描けんが、建物……要は背景描かせたら、一聖にも負けんわ。ワシの紹介でマットペイントを描きよったんで」

 

 意外な事実を知り、(いち)は困惑。にいみは己の兄程ではないが、多少は絵を描ける。しかし、マットペインターに用いられる画力があったなど、意外過ぎる。

 

「なんや、(いち)……知らんかったか? まあ、お前は一聖が世界一の天才やあ思とったしな。身近な人間程、その凄さが分からんもんやっ」

「……吉良 勘次郎も天才だと思っていますよ」

「そこで小林さんの名前を言って上げなさいな……」

 

 金田祖父に呆れられ、物凄い大きなため息。天才画伯の妹を母に持ちながら、あまり興味を持てないのは仕方ないと分かっているだろう。ちょっとイラッとした。

 だが、好きな画家は他にもいる。小林(こばやし)画伯に関しては昔の作風は好きだが、今はR指定が強すぎて見られないだけだ。

 

「マットペインターだけじゃあ、生活できないから……この教室で雇ってもらったそうよ。結婚を機にパッタリ辞めちゃったわ。埼玉にあったから、しょうがないけどね」

「埼玉に……東京から通ったのですか?」

「にいみが独り暮らししよったんよ。婆さんが離島の中学校で勤務しとった時期になあ。……しかし、こないな男のトコで仕事しとったんか……。見た事ないわ」

 

 金田祖父母の話を纏めれば、母が埼玉県へ住んでいた時の職場。黒川と面識もないのは仕方ない。成人した娘の職場に一々、しゃしゃり出るなど親馬鹿しかやらないだろう。

 そこで閃いた。

 

(そっか……、バイト先のお客さんだ)

 

 『大草原の小さな家』の勤務中、見かけた男性客の1人。眉の形と生え際が同じと思えば、例え別人でも問題が解けたように気分スッキリだ。

 けれども、要らない写真だ。

 整頓した残間へ返そう。どうせ、会わなければならないのだ。

 

「それはそうと……(いち)。体育祭に保護者ってどれくらい来るものなの? ほら、さとみの学校も観覧なかったでしょう。折角、行っても他の方が来てなかったらと思うと……」

「……PTA役員の方々は来賓の対応で絶対に来ます。……後は佐木君のご家族とか……」

「……あ~、佐木くんの家族が来るんか……」

 

 1年1組・佐木(さき) 竜太(りゅうた)について触れた途端、金田祖父は物凄く小声で嫌そうに呟く。聞こえた金田祖母の平手打ちが彼の足を襲う。常時、ハンディカムを持ち歩く後輩の両親と面識があり、(いち)は彼らが仲睦まじい家族の印象を受けた。

 

「佐木くんのご家族が見えられるのね。是非、ご挨拶したいわ。ねえ、あなたっ」

「さよけ……」

 

 ニッコリの金田祖母と違い、金田祖父はぶっきらぼうな態度。彼が佐木の父・連太郎(れんたろう)を警戒し、意図的に避けていたと後に知る。今はただ、意味不明だった。

 

 各部の部活対抗選手の選抜は難航。特に部員数ギリギリの文化部は助っ人を求めて駆けずり回り、運動部は大学へのスポーツ推薦目当ての3年生が揉めた。

 

「スキーってさ~、個人プレーなんだぜ。チームプレイとは縁のない競技だっての! 金田、聞いてんのか? スキー部の代表で走ろうぜ!」

「雪岡君、気持ちは分かりますが……。その怒りは体育祭で晴らしてください」

 

 体育祭委員2年生の雪岡(ゆきおか)が仲間と看板を作りながら、ブツブツと文句を述べる。偶々、(いち)は通りかかり、よく分からない誘い文句で八つ当たりされた。

 

「金田、スキー部で走んのか?」

「走りませんよ、金田一(きんだいち)君。貴方こそ、演劇部で入りますか? 七瀬さんの代わりにっ」

「「出たな! 諸悪の根源、金田一(きんだいち)!! てめえも看板、作れよ!! サボんなや!」」

 

 3人4脚を推した体育祭委員の金田一(きんだいち)は2年生から、ブーイングを食らう。細かな作業から逃げ出す為、余計に反感を買っていた。

 

「あ、あたしっ。何か出来るかな?」

「美雪~、そんなの馬鹿の仕事じゃん。放っておきなよ」

 

 七瀬が請け負えば、太田(おおた)は阻もうと説得に入る。その隙に肝心の金田一(きんだいち)は逃走、最悪だ。

 

「はじめちゃん、この前……大変だったの。それは代わって上げられないけど……このくらいならっ」

「この前って……長野のどっかのホテルでファッションショーに行くとか言ってた奴? 大変だったって……まさか、アイツ。下着ドロボー? それとも覗き?」

「「逮捕されちまえよ、そんなのっ」」

 

 健気な態度で七瀬は金田一(きんだいち)を庇うが、太田の発言に2年生はゲタゲタッと笑う。

 結局、委員でもない手の空いた面子が自然と集まり、七瀬の為に一肌脱いだ。

 その統率力、生徒会執行部にて存分に発揮して欲しい。(いち)の思いは贅沢なのだろうかと悩んだ。

 

(……しかし、長野か。……『雲場村』といい……な~んか縁を感じるな)

 

 それは縁よりも宿命めいた繋がり、そこに金田一(きんだいち)が絡むのはただの偶然。自らに言い聞かせ、(いち)は看板を仕上げた。

 




長島「長島だ……。この事件もウチの管轄だったなあ……2月からのスパン、短すぎっ。何? 俺の出番がないだけで、長野を舞台にした事件が……こんなにあるのか!? 嘘だろ……最近、流行りの聖地巡礼し放題くらいあるじゃねえか……金田一。法が許すなら、この俺が出禁にしてやるっ。さて、次回は『【仏蘭西銀貨殺人事件】を駆け抜けて・後編』!! お前は子供らしく、学校行事に励んでろ!」

美術部2年・芝里 丈治
誰が女神を殺したか? ゲストキャラ

登山家・氷垣 岳史
雪霊伝説殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、氷室画伯と面識がある。
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