金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回で入り切らなかった体育祭風景、平嶋視点です

この回にて、章の終わりとします


C22.【仏蘭西銀貨殺人事件】を駆け抜けて‐平嶋

 平嶋(ひらしま)千絵(ちえ)は競技を観戦しながら、森下(もりした) 麗美(れいみ)を想う。本来なら、彼女も昨年同様に競技を走り切っただろう。警察に逮捕され、どんな状況かも分からない。

 時田(ときた) 若葉(わかば)を想う。きっと、麗美と一緒に千絵を競技へ引っ張ってくれたに違いない。故郷の青森へ帰され、許嫁と無理やり結婚されられる。ドラマみたいな展開に彼女が心配だ。

 チア部部長の宗像(ときた) さつき先輩が率いる応援合戦は大盛況、寧ろ男性陣の迫力が怖い。

 そんなこんなで2年生の3人4脚。現在、千絵は同じ組の和泉(いずみ) さくらと救護テントにて保健委員の手当てを受ける身と化した。

 

「……平嶋さん、大丈夫? さっきは……ゴメン」

「うん……ありがとう。和泉さん……、あたしも……ぼ~っとしてた」

 

 2人は第一走者と第二走者。千絵はゴール後に陣地へ帰る事を忘れ、ぼ~っとし過ぎた。同じチームの冴子に腕を引っ張られたが、遅かった。

 

「2人とも無事? あ~あ、平嶋さん……おでこ真っ赤っ。和泉さんは眼鏡、割れてないわね」

「……うん」

「……っ」

 

 完走した太田(おおた) 千明(ちあき)が様子を見に来て、心配してくれる。その仕草が麗美と重なり、千絵は泣きそうになったが堪える。ここで泣いたら、和泉にも迷惑がかかるのは明白だ。

 

「貴船君だ。おっ、見てみて。C組は神津さんが走るよ、美術部のマドンナ! D組は生徒会の金田君っ」

「美雪と同じ生徒会の? 千明、こっからよく見えてるわ。和泉さんも生徒会でしょ。あの2人って仲良いわけ~?」

「……多分」

 

 太田がじっと走者の顔触れを確認し、知っている名を呟く。水分補給し終えた冴子(さえこ)が千絵の様子を心配そうに見ながら、話題を変えようと和泉へ問いかけた。

 

「なんで美雪ってさ、彼氏いないんだろうね。金田君もいるし、遠野先輩との噂もあるじゃん」

「わかる、それっ。やっぱ……あの馬鹿に遠慮してるとか? ただの幼馴染を差し置いて、恋人作ったら可哀想みたいな?」

「「……」」

 

 勝手な会話が始まる中、千絵と和泉は沈黙。

 クラスメイトの貴船(きふね) 葉平(ようへい)チームがスタンバイ、太田と冴子の視線は金田チームへ注がれる。D組は速かったが、A組のチームと接戦して2位にゴール。1組は3位、神津(かみづ) さやかのC組は最後でした。

 

「和泉さん! 大丈夫ですか!?」

「金田君……っ。うん……、ちょっと転んじゃっただけ……」

「「金田君、美雪とはどうなってるの?」」

「!?」

 

 汗だくの金田(かねだ) (いち)が呼吸を乱してまで駆け付け、和泉を心配する。そこに遠慮のない2人が質問した為、千絵の胆が冷えた。

 

……は? 七瀬さんが何ですか?」

((あ……こりゃあ、美雪に脈ないわ……))

「あの……金田君、速かったね。息ピッタリって言うか……」

「放課後も……練習してたって、七瀬さんに聞いた……。頑張った甲斐……あったねっ」

 

 途端、金田は青褪める。まるで脅迫されたような怯え方、見るに見かねた千絵は必死に話題を変える。和泉もか細い声を振り絞り、3人4脚の成果を讃えた。

 

「ええ、放課後に公園で練習を重ねました。桐生さんがお勧めしてくれたのですが、広さが本当に丁度良かったです。神矢君も頑張ってくれましたっ」

「「良い人だね、桐生さんってっ」」

((高校生の男女が放課後に公園で練習って……やる気満々か、絶対に気があるデショ。もう1人の男子、居づらいじゃん。カワイソ~))

 

 やっと笑顔になり、金田は今日までの努力を伝えて来る。太田と冴子ではないが、千絵は桐生(きりゅう)なる女子と神矢(かみや)なる男子が別々の意味で不憫に思った。

 もしも、麗美がいれば、時田がいれば。色々とツッコんで話を広げただろう。でも、いない現実が胸を締め付けた。

 

「部活対抗リレーの後、美雪が迎えに来るからっ。それまではココで休んでなよ」

「2人とも綱引きまで出番ないしね」

「「うん……」」

「では失礼します。和泉さん、平嶋さん」

 

 3人が救護テントを離れた時、千絵は気付く。金田は誰も呼んでいない自分の名字を呼んだ。同じ学年だが、接点のない生徒も把握しているのだ。

 呆然と過ごす内、部活対抗リレーは野球部の圧勝。アンカーの久里(くり)先輩が大歓声を受けた。

 

「ハアハア、平嶋さん……和泉さん。お待たせ……戻ろう?」

「もおっ、美雪は来なくていいんだって! 2人とも子供じゃねんだぜっ」

「金田一君っ」

 

 惜しくも2位だった演劇部アンカーの七瀬(ななせ) 美雪(みゆき)は面白い衣装のまま、救護テントへ来てくれる。金田一(きんだいち) (はじめ)がブツブツ言いながら、一緒。和泉の態度が今までと違い、驚きに嬉しさが混じっている。すぐにピンッと来た。

 

「ほらっ、行こうぜ」

「うん……っ」

「平嶋さん、歩ける?」

「美雪ちゃん、ありがとう」

「七瀬、少しいいか?」

 

 金田一はさり気なく、和泉と歩幅を合わせる。美雪と千絵が救護テントを離れた瞬間、三谷(みたに)教頭に呼び止められた。

 

「教頭先生、どうしました?」

「校門に部外者がうろついていてな。千家が捕まっているんだっ。聞けば、七瀬の知り合いらしくてな。対応してくれないか?」

(……それが先生の仕事じゃあ……)

 

 意味不明に思っても、人の良い美雪は行く。金田一と和泉は先に陣地へ行ってしまった為、千絵は彼女が心配で校門へ着いて行った。

 困り果てた千家(さえこ) 貴司(たかし)が校門の外から腕を掴まれ、文字通りに動けない状態。しかも、他校の女子。この周辺でも見かけない制服だ。

 

「だから、森さんの家族はここいないしっ。学校に招待されてないから、ダメだって!」

「フフフ」

「アナタは森 宇多子さん!」

「本当に知り合いなんだ……」

 

 千家は必死の説得にかかり、(もり)なる女子を腕から離そうとする。彼女は美雪の衣装を二度見し、硬直。千絵もその気持ちは分かるが、失礼過ぎると思った。

 

「不穏な空気に満ちているから、立ち寄っただけよ。そこのアナタっ」

「あたし?」

「アナタが笑ってくれれば、それで良い。お友達はそう思ってるわ」

「……!?」

 

 やっと千家の腕を離し、森は千絵をじっくりと眺めてから意味深に告げる。正直に怖い。占い師のように心情を見透かされ、思い当る節はあっても、見知らぬ他人から貰いたい言葉ではなかった。

 

「ありがとう、……誰だっけ?」

「同じ組の平嶋さん。あ、こっちは5組の千家君。小学校で一緒だったの……!? 平嶋さん?」

「……っ」

 

 千家にお礼を言われても聞こえない。

 溢れる涙と感情の波が周囲の音を遮断し、千絵は蹲る。美雪に肩を掴まれ、校舎の隅っこまで付き添ってくれた感覚だけはあった。

 突然の涙にビックリした千家は陣地へ戻ってくれる。事情を知らない彼に涙を見せたくない。

 

「ゴメンね、美雪ちゃん」

「ううん、麗美ちゃんのコトだよね……。ずっと、気にしてくれたのに……あたし」

「……麗美もそうだけど……時田さんも……。尾ノ上君も……、本当は今日、ここにいたのにって……思ったら……考えてもしょうがないのにっ」

「平嶋さん……」

 

 零れた感情のまま、千絵は美雪へ心情を吐露する。しかし、ここにいる彼女はつい先日に小学校の同級生だった高森(たかもり) ますみが苦しんだ事件に遭遇したなど、知らなかった。

 

「森さんの言う通り、麗美ちゃんも若葉ちゃんも尾ノ上君もっ。平嶋さんに笑ってて欲しいって思ってるよ。実はね、若葉ちゃんから結婚式の招待状が届いたの。式自体は明後日なんだけど、明日には青森へ行ってくるわっ」

「え……もう結婚しちゃうの? 時田さん……」

 

 慰めや励ましではなく、美雪は当たり前のように千絵の笑顔を望む。それがいなくなった皆の総意だと言いたげな優しさが伝わる。

 やっと涙が止まり、千絵は時田の正式な結婚にゾッとする余裕が生まれた。

 

「時田さん……幸せになれるかな?」

「……若葉ちゃんはいつも幸せそうだったよ。これからだって……きっと」

 

 口にしてから、無神経な質問だったと後悔。美雪こそ、時田の幸せを一番に望むからこそ、不安に思っているはずだ。

 自分ばかりが悲しんでいられない。彼女達のようになれずとも、せめて、千絵は笑顔でいよう。

 そこに綱引きの競技アナウンスがかかる。さあ、出番だ。

 

「行こっか、平嶋さん!」

「美雪ちゃん……千絵で良いよ」

「うん、千絵ちゃん」

「……♪」

 

 今日初めて、千絵は心から笑う。それは美雪のお陰、卒業まで不動高校に通い続ける勇気と覚悟を得られ、本当の本当に感謝した。

 

 ――だからこそ、美雪に結婚式の話は何も聞かなかったのだ。

 

 




鍵谷「鍵谷 善司です。閲覧ありがとうね、マスミちゃんもあの中に居たかったんだろうなあ。あ、ボクはいたとしても見学組だよ。皆が楽しんでいる様子を見るのが、好きなんだ。さて、次回は『花嫁は異人館村殺人事件に消えた』!! 金田一君、結婚式へ参加する為に……一週間も学校を休むの?」

三谷教頭
ドラマ版七不思議殺人事件、ゲストキャラ

2年5組・千家 貴司
首吊り学園殺人事件より登場の準レギュラーだった。

森 宇多子
首吊り学園殺人事件、ゲストキャラ。短編に度々登場。
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