金田少年の生徒会日誌 作:珍明
体育祭の部活対抗リレーは新入部員勧誘に最適、競技の影響で入部する1年生も実際にいる。演劇部にも部室を訪れる1年生がチラホラと現れ、2位ゴールは意味を成した。
功労者でもある演劇部部員にして生徒会長・
夏のコンクールは『オペラ座の怪人』を演目、土曜日まで各自で練習。オーディション紛いの台詞合わせを行い、正式に配役を決定する。基本は立候補だが、他薦でも配役を振るとの事。
役に希望者がある部員は早速、緒方先生へ群がった。
「……御堂 周一郎の曲を使いたいです」
希望曲を伝えても、うだうだと「舞台と合わない」などちっとも纏まらない。普段、七瀬がどれだけ段取り良く決められているのか、文字通りに身に染みた。
「金田君、伴奏なんだけど……当てがあるのよ。一緒に来てっ」
「……自分、伴奏はクビですか?」
クスクス笑いの緒方先生に連れられ、音楽室へ向かう。先客がいるらしく、ピアノの演奏が聞こえた。
「あっ、金田先輩に緒方先生! 俺の演奏でも聞きに来ましたか?」
囲碁部の1年3組・
「海峰君、何故こちらに?」
「ちょいちょい、弾かせてもらっているんス。うちにピアノないんでっ。てていっとな」
「彼がその当てよ。ちょうど……御堂 周一郎の曲ね」
「……海峰君、御堂先生について自分よりも詳しいですよね。彼が詩を書く逸話をご存じですか?」
「知ってるも何も今度、詩集が出まっせ。御堂先生は作曲の際、曲のイメージを詩に託していたスよ!」
片手で弾き続け、海峰は足元の鞄から雑誌を取り出す。詩集の告知、弟子達のインタビューが掲載された新号。雑誌を持ち歩くとは流石、御堂先生を讃える同志。思わず、抱き締めた。
「ふうん、生前に愛用した楽器を弟子達へ贈った……ねえ。8千万もするヴァイオリンまで……」
「「……住む世界が違いますね」」
雑誌を捲り、緒方先生はインタビュー記事を読む。
東京フィルコンツエルトの指揮者・
見慣れぬ桁の金額、庶民な高校生2人は圧倒された。
「金田先輩、お弟子さんの中で好きな人います?」
「御堂先生自身にしか、興味ありませんっ。佐木君……」
「ひゅ~、徹底してる~♪ でも、その気持ちは嫌いじゃないっス。俺は断然、マイストロの夏岡 猛彦……うお!? ……あ、アンタ……ミス研の佐木 竜太!!」
「記者の宇治木、……どこかで見た名前ね」
突然の質問にて、ミス研の1年1組・
「金田先輩が音楽室に行くのが見えましてね。全然……弾かないから、ついっ」
「ん? 金田先輩……ピアノ弾けたんスね……。お手並み拝見と行きましょう。俺、厳しいっスよ」
「……難易度が上がりましたね」
佐木の希望を叶える気はなかったが、やれやれと肩を竦めた海峰に席を譲ってもらう。後輩2人に遠回しに頼まれ、
「お……これ、御堂先生がアメリカで作曲したヤツ♪」
「本当、金田先輩は御堂 周一郎が好きですねっ」
「さっきの曲と聞き比べると若さ故の情熱を感じるわねえ……。と言うより……金田君、楽しそうな弾き方をするわねっ。どうしましょう……」
指の動きひとつひとつに集中し、
「金田先輩……実は御堂 周一郎の隠し子!?」
「そのネタ、もう僕らが使いましたっ」
「そうだったの? クスッ、知らなかったわ」
「緒方先生!? 違いますからね」
感激した海峰は勝手な憶測を叫び、即座に佐木が否定。彼の中でそう発言してしまう程、評価されたのは嬉しい。緒方先生が真に受けたように笑えば、
「……それはそれとして、
「見てないですね」
「キンダイチ先輩?」
「海峰君と同じ、入試成績1位で合格した生徒よ」
音楽室を見渡し、佐木が問う。海峰が疑問した途端、緒方先生からの衝撃発言、七瀬の幼馴染にして名探偵・
「自分、七瀬さんが1位と思っていました。遠野先輩みたいにっ」
「そっか、七瀬先輩よりも点数が良かったのか……
「へえ、それは会ってみたいっスね。生徒会で見た事ないから……ミス研?」
「所属だけで言うなら、私の演劇部にいるわ」
緒方先生は表面的な行動だけで生徒を評価しない。必ず、長所を見つけ出す人。しかも、含みのある言い方は
「なんで佐木が演劇部の先輩に用が? 部の勧誘とか?」
「……ちょっと、気になる事がありまして。多分、明日か明後日には生徒会でも話に上がると思いますよ」
「「?」」
深刻そうに佐木が2人を探していた理由は本当に明後日、明かされた。
昨年度から不動高校に赴任した
生徒会執行部面々は顧問の先生より、淡々と伝えられた。
「……小田切先生が……なりすました偽者……?」
「そんな……馬鹿な、何かの間違いですっ。あの小田切先生ですよ!」
「……っ」
前生徒会長の3年E組・
(……水沼と……同じ……なりすまし……)
動揺する生徒に対し、執行部顧問の先生は警察に被害届を提出する旨。『小田切先生』は体育祭前日に退職扱いとし、その後については一切、無関係と宣言した。
2・3年生を対象に事情聴取を行うが、生徒は何を見聞きしようとも口外せぬよう、念押しされた。
授業日程は予定通り行われても、皆の心は心あらず。僅かな接点のあった生徒だけが順番に校長室へ呼ばれるのだ。
「こんにちは、金田君」
「雪峯さん、お世話になります。そちらの方とは初対面ですね。金田と申します」
「住吉です。どうぞ、お座り下さい」
校長室には捜査一課・
「金田君……ありがとう、戻っていいわ。……元気出してね」
雪峯刑事の励ましは小声過ぎて、
昼の休み時間、食事もせずにミス研会長の3年1組・
「……
「桜樹先輩……」
余裕のある笑みが崩れ、桜樹先輩さえも泣きそうになっていた。
廊下を歩けば、生徒の嘆きが聞こえる。けれども、それは『小田切先生』に騙されたショックだけだ。
本物の為人を知らぬ故、その気持ちは共感できる。同じ『なりすまし詐欺』なのに、
「……金田君……今日、執行部ないって……」
「和泉さん、ありがとうございます」
「……あの……私が言えた義理じゃないけど……、元気出して」
「……はい」
か細い声だが、和泉の励ましはハッキリと聞こえる。彼女と同じ組だった
(……あの人が先生じゃないなら……、時田さんは……)
それ以上、考えない。全ての事情を薙ぎ払ってでも、名も知らぬ彼と幸せであれ――そう、祈った。
――結局、2人の結末を誰からも聞く事はない。
○●……――青森県の
3人だった行きが、帰りは2人。
若葉から最後の贈り物であるペンダントを眺め、美雪は別れ際を思い返す。愛の為に己の死さえ、受け入れてしまった彼女にかける言葉は今も見つからない。腹の傷が痛いと言い訳し、幼馴染が流した涙に対しても同じだ。
はじめは『小田切先生』が嫌いではなく、若葉との恋仲もぶっきらぼうな態度で応援していた。2人が後の将来を美雪以上に願っていたのだ。
美雪は何も言わず、車内販売のお弁当を買う。はじめの涙を拭わず、諫めず、好きなだけ泣かせた。
新幹線は無事、千葉駅へ到着。
改札口にて、本庁捜査一課・
「オッサン、すまねえな。わざわざ、迎えに来てもらってよ」
「な~に、構わんさ。帰りは温泉に連れて行ってやるからな、期待してろ♪」
「良いんですか♪ ありがとう、剣持さんっ」
レンタカーに乗り込み、3人となる。一瞬だけ、美雪は『小田切先生』を思い返したが、すぐに振り払う。折角、剣持警部がはじめに気を利かせ、温泉宿へ連れて行ってくれるのだ。
「ケガはもういいのか? 隠し持ってたフライパンで猟銃の弾を受け止め損ねたんだっけか?」
「甲冑の肩当てだよ。兜 礼二がコレクションしてたっ」
「お医者さんはお風呂に入っても大丈夫だと、言ってましたよっ」
剣持警部が心配したケガ、破損した甲冑の破片が刺さったモノ。
はじめは腹に肩当てを巻き、銃弾そのものはギリギリ防いだ。しかし、強い衝撃に体がショック状態になり、卒倒。その拍子に甲冑が壊れ、大惨事だ。
美雪も心配したが、発案は良かった。これまでの経験上、幼馴染は殺人犯と乱闘になる経験を持つ。犯人に罪を重ねさせない為にも、自衛してくれていた。
自衛は必要。美雪は自分自身に出来る自衛を考え、ついに決めた。
「あたしっ、ミス研に入るっ。勿論、はじめちゃんもね!」
「え……俺も?」
「ミス研と言えば、桜樹君には大体の事情を説明しておいたぞ。学校でも偽者の小田切で少々、騒ぎになったらしい。お前達はゆっくり、帰って来いだとかっ」
決意表明した途端、剣持警部は桜樹先輩の名を出す。欠席中の状態は彼女に聞くとしても、青森へ行くと伝えた同級生に何を言うべきか、また言葉に詰まった。
「それと副会長から七瀬君に伝言っ。こっちは全く支障ないから、帰って来なくても良いぞってな」
「副会長……キレてんじゃん。怖っ」
「……そうだねっ。本当、あたし……副会長を怒らせてばっかり……」
事情を全く知らない副会長の見えない怒りが伝わり、はじめの肝が冷える。脳髄に浮かんだ仁王立ちが笑いを刺激し、美雪は笑ってしまった。
「副会長はともかく、桜樹先輩にはそろそろ……礼くらいしとくかな」
「ほお、金田一がそう言うか……。桜樹君には部下も世話になっとるし……女の子が喜びそうなイイトコを探しとくかっ」
「剣持さんったら……、あたしに聞いてくださいよっ」
車は段々と街から離れ、郊外すらも抜けて山奥へ入る。天気は崩れ、雲行きも怪しかった。
「オッサン、まだ着かねえの? かれこれ……1時間以上は経つぜ」
「そう急かすな。下手に速度出してみろ、急な雨にスリップだ」
「あ……雨……!! きゃあ!?」
運転手の危惧した通り、車体に響く豪雨。そして、近場の大木に落雷した。
突然の閃光と轟音、美雪は恐怖のあまりに悲鳴を上げる。剣持警部も咄嗟の対応で急ブレーキを踏み、はじめも小さな呻き声と共に後部座の下へ転んだ。
「大丈夫か、2人ともっ」
「「何とか……!?」」
高校生2人の安否と周囲を警戒し、剣持警部は問う。七瀬は驚いた心臓の脈拍を宥めつつ、はじめは面倒そうに起き上がりながらの返事だ。
その次、落雷を受けた木が道路を防ぐようにゆっくりと倒れる。美雪は絶句した。
「なんで俺達って、行く先々でこういう目に遭うんだろうな……」
「俺の携帯は……圏外か、参ったな。こんな山ン中じゃあ……公衆電話なんてないだろうし……そうだ! この近くにたった一軒、別荘があったんだ。電話がなくても、雨宿りはさせてもらおう!」
「誰かいるといいわね……」
はじめがゲンナリし、剣持警部は携帯電話を取り出す。残念な事に電波が入らない場所、そこで刑事ならではの脳内地図が周辺の建物を思い出してくれた。
舗装された道路から外れ、デコボコした土の悪路を車は安全運転で向かう。剣持警部の読み通り、洋風建築の別荘へ到着した。
電灯が付けられても、建物全体が薄暗く不気味な雰囲気。車は4台駐車され、人の在宅は間違いない様子だ。後はノックをしに車の外へ出るだけだ。
「おお、高そうなベンツ! 相当な金持ちがいるんじゃね?」
「うう……風が強い……」
「ごめんください! ごめんください!」
強風に煽られながら、正面玄関にある真鍮製の扉へ縋るように3人は並ぶ。剣持警部がドアノッカーを叩き、大声で訪問を報せた。
また落雷の音、さっきよりも遠い。身の安全を確認する為、美雪はそっと振り返った。
建物の曲がり角、斧を手にした人影が見えた。
「はじめちゃん……。ねえ、はじめちゃ~ん! あれ、あれっ」
「なんだよ、美雪……。何にもねえぞ」
「どうした? 七瀬君っ」
七瀬は背筋が凍り付き、はじめの背中を叩く為に一瞬、顔を逸らす。次に見た瞬間、そこには誰もいない。見間違えのはずはなく、剣持警部の腕へ縋り付いた。
「本当に誰かいたの!」
「しかし、これだけ呼んでも誰も出て来んぞっ」
「返事はないけど、お邪魔しま~す♪」
美雪の訴えに耳を貸さず、はじめは勝手に扉を開ける。途端、フッと電灯が消えた。
「なんだ……停電。さっきの落雷か?」
「――いつまでも、こんな所にいると『怪人』が出るわよ――」
「美雪? 『怪人』って何の事だよっ」
「あたしじゃないわっ」
剣持警部は玄関以外の窓を見上げ、状況を把握。はじめの問いかけに美雪は怯えつつ、否定した途端に誰も触れていない扉が閉まる。足も踏み入れていないのに3人は雷雨の中、閉め出された状態だ。
「なんで閉めるのよ!」
「俺じゃねえ!」
「騒ぐな、騒ぐな。アレ? ドアノブが回らん……」
騒ぎ2人を尻目に剣持警部がドアノブに触れたが、扉は開かない。まるで施錠されたような手応えらしい。さっきは確かに開いたのだ。
「あたし、もう車でいい! 怖い、怖い!」
「美雪、落ち着けって……イタタ……」
「大丈夫か、金田一! ごめんください! ケガ人がいるんです! 中へ入れてください!」
美雪は完全にビビり、はじめの腕を掴む。その拍子、彼は腹への痛みに顔を歪める。雨が傷に刺激を与えてしまったのだろう。少し焦り気味に剣持警部は改めて、ドアノッカーを叩いた。
――キィ
扉が開いたのを見計らったように閃光が空を覆い、中を一瞬だけ照らす。斧を肩へ担ぐ人、美雪は恐怖に震え上がり、悲鳴も死んだ。
斧の刃に雷が反射し、ゆらっと動く。さっと剣持警部が2人を庇うように立ってくれた。
「……剣持さん、何をしているのですか?」
「……ん? その恰好……
「……
「なんでお前がここに!?」
相手が剣持警部の名を呼び、ようやく同じ不動高校生徒会執行部と判明。
黒い学生帽とズボンは他校の生徒と見間違える程、似合う。まるで映画のワンシーンのように白いシャツは雨に濡れ、男子ながらの色気にドキッとした。
「金田君っ、どうしました?」
「剣持さんが来ました。明智さんが呼んだのではありませんか?」
「「「明智(さん、警視)」」」
暗闇から聞き慣れたカッコイイ声を聞き、本庁捜査一課の
――この奇妙な遭遇は
まさか、天才作曲家の遺作が
時田家使用人・ユキ「ご閲覧ありがとうございます。村は生き残った者でどうにか、やって行きますよ。お嬢様の分まで……。さて、次回は『悪魔組曲相続事件‐御堂 優歌』。これまた……若葉様に似た芯の強い方でございますね」
小田切 進先生
本名は六星 竜一、無国籍。六星 詩織の息子。母親により復讐の道具・殺人マシーンとして育つ。周囲に溶け込む為にどんくさい男を演じ、PTA会長から「気の弱い」と評価されても不純異性交遊の原因ではないと庇われ、金田一から「冴えない」と言われても「嫌いじゃなかった」と好感を持たれていた。
時田 若葉
六星の復讐計画に薄々気付いており、写真の出処にも気付いていたと思われる。「先生のためなら死んでもかまわないの」の宣言通り、死の間際も抵抗しなかった。
青森県警・俵田 孝太郎
異人館村殺人事件、異人館ホテル殺人事件、人喰い研究所殺人事件、短編にも登場。
登場時は金田一を生意気な高校生と断じていたが、「すげえ奴」と認める。その後、コナンの横溝参吾刑事並みに金田一を信頼する。
警視庁捜査一課・雪峯 美砂刑事、住吉 慎吾刑事
それぞれ午前4時40分の銃声、証言パズル、ゲストキャラ