金田少年の生徒会日誌 作:珍明
『悪魔組曲』。
第一楽章、第二楽章は詩の通りに荒々しく、それでいて逆境に立ち向かう不屈の精神めいたメッセージを訴える。第三楽章は嵐が過ぎ去り、救いに溢れていた。
ピアノの旋律を堪能しつつ、
「……キレイな曲だな。しっかし、本当に紅さんへ渡して良かったのか? 楽譜、お前が受け取るはずだったんだろ? わざわざ、オッサンの手まで借りちゃってさ~」
「ゴホゴホ!? 何の事だ……
「どういう事でございましょうか?
「……椿さん。絵を梱包する段ボール、2つ重なっていましたね。そこへ挟まれていたのですよ」
ヴァイオリンケースと同じく、段ボールも
それこそが彼の計画だった。
企みに気付けた為、
「……紅様に楽譜を渡すどころか、下手をすれば…。……いえ、
「そこは分かりません。仮にゴミと一緒に処分されても、御堂先生はそれさえも神がお決めになられたと諦めるでしょう」
「そして……紅さんは生涯、楽譜を探し続け……御堂先生を想い続けるというワケか……。そんな惨い結果にならんで、俺は安心したよ。きっと、御堂先生も同じ気持ちだろうな」
「オッサン、昨日から御堂 周一郎に感情移入し過ぎじゃねえ? 演歌しか知らんくせにっ。」
椿は自らの仕えた主人の遺志に絶句。
矛盾した愛情表現や楽譜の行方はさておき、
「……
「本当の事を言っただけです。自分が如何なる本心を持とうと、紅さん達にとっては敵でしかありません」
「……
椿の更なる質問へ愛想よく答え、剣持警部が疑問した瞬間に扉がノックされた。
「内緒話なら、もっと小さい声で。折角のお膳立てが聞かれてしまいますよ。剣持君、連絡がありました。復旧工事は無事、終わったそうです」
「意外と早かったな。これで明日の学校には間に合うぞ、
「それを言うなって~」
「黒沼先生からの連絡はまだですね……椿さん?」
「
――パァン
横面に衝撃が走り、
「誰かの敵になるなど……馬鹿な真似は2度とおやめくださいっ。亡くなられたご主人様も……一聖様も悲しみます……。どうか……もっと、ご自身を大切になさってください……」
「? ちゃんと剣持警部に相談しましたし、1人で何とかしようとしていません……」
「金田君っ。椿さんの気持ちが分かりませんか?」
椿の悲痛な訴え、
だが、謝りたくない。
「金田っ、どこ行くんだ!?」
「不貞寝っ」
ダッと廊下へ飛び出し、慌てた
2階の寝室へ入ろうとした瞬間、『悪魔組曲』が今度はヴァイオリンの音色にて奏でられる。ピアノも美しいが、弦楽器ならではの独特な調べに魅了される。思わず、戸を中途半端に開いたままの状態で聴き入った。
御堂先生が悪魔を題材にし、
悪魔と遊べば悪魔になるけれども、いずれは何処かで必ず出会うだろう。決して、避けては通れぬ試練であり、良くも悪くも後の運命を変えるのだ。
そう言う意味では御堂先生も悪魔だ。人を惑わし、幸せを与えるだけ与え、突如として消える。実際、
(……悪魔のような人間……)
色のない薔薇をくれた「彼」が瞼の裏に現れる。顔や声など未だに思い出せず、代わりに幸せだった横浜の暮らしが脳裏に浮かぶ。
中学校の恵まれたクラスメイト、面白ろ可笑しい先輩後輩の集う演劇部、不器用ながらも反抗期の息子と向かい合った母親。
こんな時に思い返すなど、まさに悪魔的な力が働いているかのような厭らしさを感じた。
ヴァイオリンが第二楽章を奏で、詩を思い浮かべる。
(されど悪魔は呪われし、地獄の詩を口ずさむ。……地獄……)
不意に1人の男を連想し、ゾクッと衝動が走る。無性に会いたくて、この目で確かめたい。切望する思いを抑え込もうと学帽を深く、被った。
「金田君っ、不貞寝はどうされました?」
「明智さん……お願いがありますっ」
明智警視は氷袋を持ち、さっきの深刻な雰囲気が嘘のようにキラキラと眩しい。それには構わずに以前、彼から提案された話を今になり、
理由も聞かず、フッと微笑んだ明智警視は取り計らう約束をしてくれた。
ずっと続いていた演奏の終わりは別れの時、青空はどこまでも晴れやかだ。
「ケンゴ~、また会いまショウ♪」
「勿論ですよ、ミッシェル」
(……ミッシェルだろうが、マイケルだろうが、俺には違いが分からん)
明智警視に呼ばれたミッシェル、マイケルの本名だそうだ。剣持警部に区別できないが、フランス人によくある名前。会話の節々にフランス語が混じっていた理由はコレだ。
心底、どうでも良い。
ただ、マイケルは相当に明智警視を気に入り、挨拶のハグがやたらと長かった。
「金田君は? 一緒に帰らないの?」
「あ~、椿さんに叱られてな。ちょっと不貞寝してるっ」
「気の毒に……。キミ達は同じ学校でしたね、彼にもよろしくと……」
「私からもお願いっ」
紅は信じられない程、穏やかな態度を見せる。彼女は元々、年下にも礼儀正しかったと実感した。
「では、優歌さん。お先に失礼します」
「ええ、山根さん。私は椿と帰るわ。心配しないでっ」
御堂嬢と椿は
「金田君っ、楽譜は亜里沙さんへ渡して本当に良かったの?」
「それはこちらの台詞です」
安心して通話を切った時、御堂嬢は椿と客間へ現れる。
彼女が紅と言葉を交わす様子はなく、そこに何かしらの不満を感じ取った。
椿は無言で紅茶を入れ直す。
「御堂さん達が絵について触れなければ、紅さんは何も気付きませんでした。偶然にしては出来過ぎだと思います。教えたがりの七瀬さんが勝手に喋ったのはともかく……自分、貴女には何も教えていません」
「……私がお祖父様だったら、この絵に隠したと思っただけよ。中々の名推理でしょう」
「はい、御堂先生の間近におられたご家族ならではの名推理です」
「フンッ、褒められた気がしないわ」
釈然としない御堂嬢と本当の話をした。
金田祖母は御堂先生が中学生時代の恩師であり、世界的に評価の高い天才画伯たる
アルバム手帳にある古い写真を見せれば、御堂嬢は今までにない程に目を輝かせた。
「初めて見た……こんな写真があったのね。金田君のお祖母様に是非とも、お会いしたいわっ。椿、お祖父様はどうして、私に紹介してくれなかったのかしら?」
「恐れながら、姉はハッキリと線引きをされる方です。大旦那様の恩師である前に、私の姉。直接、お会いすれば、弟の私に立場がないと考えたのでございます」
「……ええ、祖母は元教師とあってか、人の目を気にする方です」
もっと言えば、世間体。
金田祖母は周囲の目が如何に恐ろしいか、知っている。
「……それでも、お祖父様には会いに来て欲しかったわ。ずっと孤独な人だと思っていたから、……昔を懐かしめるだけでも、違ったと思う」
(御堂先生も……孫娘に同じ心配してんだろうぜ。性格がそのまんま、一緒だもんなあ……)
不服そうに御堂嬢は紅茶を啜り、
「アナタの伯父様はどんな方? お祖父様はあまり、お話下さらなかったの。お写真を見る限り、アナタを溺愛していたように思えるわ」
「……ええ、伯父に愛されていましたし……自分も愛していました。貴女が御堂先生を愛したように……」
氷室伯父は甥と写る瞬間だけ、笑う。紛う事なき愛を御堂嬢と語り合えるなど、夢にも思わなかった。
「……椿さん、ずっと聞きたかったのですが……伯父は甥である自分を養子にしたいと言っていませんでしたか?」
「……!? ……おっしゃる通りです。一聖様は
「この写真の方ね……」
あからさまに動揺しつつ、椿は粛々と事実を告げる。御堂嬢はアルバム手帳のページを開き、父・
母・にいみの発言は本当だったと確認出来たが、嬉しくない。氷室伯父の日記に記された「甥の一」は養子を諦めた自身への戒めと考えられた。
「……反対するなら、祖母だと思っていました」
「姉は反対などしません。寧ろ……一聖様がご自分の家庭を築く絶好の機会、そう……喜んでおられた程です。ご存知でしょうが、姉も元は椿の家へ養子として迎え入れられた身。ご理解あっての賛同にございます」
「……祖母は椿の家で……幸せだったのでしょうか? 椿さんが御堂先生に仕えるまで疎遠だったと聞きましたっ」
「……姉にしてみれば、恵まれた環境だったとだけ申し上げておきます」
椿の返事が全てを物語る。これ以上、金田祖母が椿家で過ごした日々を蒸し返さないと決めた。
「娘にしか、興味のない父が自分を手放さなかった理由……何かご存知ですか?」
「……私には何とも。姉が申しますには……養子を甘く見るな、犬猫を引き取るのとワケが違う。子供が欲しいなら、結婚して実子を持てなど……、お父上は一聖様へ厳しく説教したと聞き及んでおります」
「伯父は結婚など、しません」
「はい。それが出来れば苦労はないと……姉も嘆いておられました」
思いの外、キツイ言い方で断られていた。
そうまでして手元に置いた息子への仕打ちを思い返し、イラっとした。
「……金田君、姉か妹がいるのかしら?」
「姉が1人います。御堂さんも会っていますよ。新春を祝うパーティーでマジシャンとして、お屋敷に招待されたと聞きました」
「……え? ……『幻想魔術団』の方!? ロバートと言う人形を使う方なら、……アナタのお父様に似ていたわ。でも、残間……役者名なの?」
「離婚したのです。父と母に分かれました」
恥じるべき行為でもなく、隠すつもりはない。だが、御堂嬢は気まずそうに黙り込んだ。
「椿は……知っていたわね?」
「勿論にございます。背氷村の事件を知り、姉へ連絡した際にお聞きしました。まさかの事態に、この椿も背筋が凍り付きましてございます」
「父の友人達も離婚を知らない方が多いですよ。それに自分は「金田 正太郎」へ憧れていますので、金田姓を名乗れて満足です……アイタッ」
養子騒動を知るなら、椿の反応も当然だろう。
正直な気持ちを打ち明ければ、
「……折角だから、聞いてしまうけれども……お姉様は死骨ヶ原湿原ホテル事件の当事者よね? 『幻想魔術団』は解散してしまったでしょう。その後はお元気かしら?」
「はい、再就職に勤しんでおりますっ。精神がゴリラのように野性的ですので、事件の後遺症もないようです。この前、取っ組み合いのケンカをしましたが、頸動脈を平気で狙われました」
「……フフッ」
姉・さとみを気遣われ、無用の心配と金田宅での私生活を教える。御堂嬢は当然ながら、椿もやっと微笑んでくれた。
「もっと……早く、金田君に会いたかったわ。……お祖父様の告別式へ来なかった理由は……氷室画伯の件があったから? 報道陣も多かったし、アナタの素性を知っている人でもいたの?」
「……棺に眠った御堂先生を見たくありませんでした。自分と握手してくれた……あの日の姿を目に焼き付けていたいのです」
「そう……そこまで、お祖父様を想ってくれたのね。ただの狂信的ファンだと思ったわ」
「間違っていませんよ。御堂先生は「コウノトリ」や「キャベツ畑」でお子さんを授かったと今でも、信じています」
しんみりした雰囲気を脱する為、今度は御堂先生への想いを暴露。高校生に相応しくない子供染みた発言を聞き、御堂嬢はサ~ッと青褪めた。
椿の手が動いた瞬間、レンタカーが到着したブレーキ音を聞く。
「金田君、無事で良かった。何も事件は起きてないね? ……頬っぺた赤くない?」
「ええ、とっても賑やかな一晩でした。ああ、こちらは弁護士の黒沼先生です。御堂さんは御堂先生のお孫さんです。早速ですが、封筒をお願いします」
「!? お祖父様の筆跡……っ」
待ち焦がれた黒沼先生の挨拶もそこそこにし、『悪魔組曲』の詩が書かれた手紙を御堂嬢へ渡す。彼女の食い入るように文字を見つめる形相はちょっと怖かった。
「お祖父様は……どうして、金田君を巻き込んだのかしら……」
「おそらく……楽譜と同じ理屈かと……。大旦那様が何故、詩を
「確かに……ここの所、御堂先生の事ばかり……。フフッ、先生にはまんまと心を盗まれてしまいましたねっ」
「事情は分かりませんが結構、洒落になっていない気がします」
詩のメモを手にし、ようやく御堂嬢は安心したように見える。その独り言に答えた椿の推測は概ね当たっているだろう。何も知らぬ黒沼先生のツッコミが的確過ぎた。
「これは……金田君の物よ。私は暗記できるくらい、覚えてしまったわ。その代わり、アナタのお祖母様に会わせて頂戴。学生時代のお祖父様を知りたいわ」
「……!? ありがとうございます。お言葉に甘えて、頂いておきます。代わりと言っては何ですが、こちらを差し上げます」
てっきり、返却を求められると思った。
純粋に嬉しくなり、学帽を外す。内側へ隠し持っていた便箋、【亜里沙へ】と宛名書きされているのも構わず、お礼として御堂嬢へ手渡した。
「亜里沙さんへの手紙!? ……何処で?」
「楽譜と別にして、ずっと帽子へ隠していました。意外と気付かれませんね♪ まさか、自分の手元を疑いもせず、そのまま帰ってしまうとは思いも寄りませんでしたよ」
「便箋? また……何か、御堂 周一郎から渡されたと?」
「……ご主人様のご遺志です」
ギョッとした御堂嬢は便箋を裏返し、封を剥がしたい衝動を抑え込んでいた。
「……アナタのご家族はマジシャン関係者ばかり、帽子に隠すなんて常套手段ね。仮にこっちを先に見付けていたとしても……楽譜はなかったと勝手に結論を付けるでしょうね。それで……この手紙は間違いなく、亜里沙さん宛よ。なのに、私へ託して構わないの?」
「ええ、中身は見ていません。御堂さんが手紙をどうするか、神のみぞ知るです」
これまでの会話中も学帽を不審に思われないか、
一方、運転中の剣持警部は手紙の存在がバレずに終わってしまい、現在進行形でヒヤヒヤした状態のままだろう。
後日、詫びておく。
ちょっとした嫉妬心による意趣返し、明智警視には気付かれると踏んでいた。だが、彼の目的は楽譜探しのみ。もしくは氷袋を持って来た時、追求するつもりだったのかもしれないと思った。
「神じゃなく、私の意思よ。この手紙の行方はっ。天国のお祖父様もきっと許してくれるわ」
「はい、失礼しましたっ」
不満そうに口を尖らせ、御堂嬢は初めて年相応の表情を見せてくれた。
黒沼先生が一息入れる為にコーヒーを飲んでいる間。
その次は荷物を運び出そうと寝室へ向かう。椿も一緒になり、やっと2人きりだ。
「椿さん、自分に聞かせた事があるのではありませんか? 昨日、そう言っていたと記憶しています」
「……仰る通りです。……お聞き苦しいとは思いますが、私からの懺悔も含まれております。あの旅客機墜落事故の少し前、優歌お嬢様はご両親を亡くされました。ご主人様は突然の死別を嘆き悲しむ暇もなく……お嬢様に心細い思いをさせまいと必死で愛情を注ぎ、育てられていたのです」
「……お気の毒に……。御堂先生が……伯父を見舞えなかったのは仕方ありません」
「はい……一聖様は大火傷を気にされ、誰とも会わない。私共も鵜呑みにしておりました。まさか……姉、いえ……
御堂嬢の両親は推定通りだが、御堂先生の後悔は一部だけ共感はする。
「御堂先生にとって自分は友人の甥で、恩師の孫なだけ……ですよね? 責任を感じる必要はないと思いますが……、新品のピアノも買って貰いましたし……自分としては十分かと……っ」
「……
口に出たのは自分自身への言い訳、御堂先生から気に掛けられる謂れが思い付かない。
だが、長年仕えた椿には理解できる様子だ。
頬を打たれる程に心配させた理由もコレだろう。それだけは分かるが、消化不良に胸やけがしそうだ。
ピアノの演奏が聞こえ、ハッと我に返る。
『悪魔組曲』の第三楽章を奏でるのは御堂嬢しかいない。プロの演奏と違い、己の祖父への愛に満ちた指使いだ。
実に心地良い旋律。
「今はまだ……御堂先生の気持ちも……椿さんの気持ちも分かりません。けど、自分を大切にしますよ。――陽造叔父さんっ――」
「……!? ……ありがとう、
分からない故、自分を大切にする。矛盾した約束と共に氷室伯父のように振る舞う。呼び方に保証はないが、椿の親戚としての柔らかい表情から正解だと知り、誇らしかった。
見送りは椿のみ。御堂嬢の奏でるピアノの音色を聴きながら、別荘を出発した。
「結局、御堂先生はお孫さんと会わせたかった。そう言う事ですかね?」
「いえ……多分、伯父との思い出を教えたかったのでしょう」
アルバム手帳を見ながら、残った問題と向かい合う。
書斎で撮られた写真。
あのフィルムカメラならば、撮影者の3人目が必要になる。おそらく、にいみがシャッターを押した。彼女は兄と同じく、写真を嫌う。夫以外の男と写るなど以ての外だ。
しかし、この仮説には無理がある。
兄妹は本当にお互いを忌み嫌い、妹は兄の名前が「一聖」だと忘れてさえいた。いくら、御堂先生の仲介があろうとも、同じ屋根の下でお行儀よく過ごせると思えなかった。
それはあくまでも、
御堂先生に恋人の紅がいると知らなかったように、兄妹の間に切り離せない絆があったかもしれない。そんな悍ましい想像はここまでにしよう。
黒沼先生に重要な連絡事項があり、思考を切り替えた。
「黒沼先生、北海道へ行きます。一緒に来てくれませんか?」
「……証拠品返却の手続きでしたら、はい……ご一緒します」
確かに還付請求までした重要な案件だが、違う。そっちじゃない。北海道を訪問する別件、それを伝えるのに緊張し、
「高遠 遙一に面会します。……ちょっ!?」
「……金田君、……相手がどんな人間か……理解していますか?」
告げた瞬間の急ブレーキ、シートベルトが
何故だろう、
「はいっ、3人を殺害した容疑者です。自分の姉を……事件に巻き込んだ人です」
「同情ですか? 憐憫ですか? それとも……」
高遠の罪状と事実だけを答えれば、黒沼先生は更に見開く。重ねられた問いは最後だけ、言い淀んだ。
「……確認です。……高遠 遙一が何者か……何故、
「……っ。
判決が出ていないとは言え、拘留中の容疑者と高校生の面会。
弁護士として、黒沼先生の考えは寛大な部類だ。但し、瞬きしない表情が怖い。何かの感情が浮き彫りになったまま凍り付いている。そんな表現しか、できない。語彙力の足りさが情けなかった。
「ありがとうございます。……黒沼先生、もしかして……怒っていますか?」
「いいえ、……心配なだけです。高遠 遙一は綾辻 真里奈と違い、
申し訳なさを抱え、
(あれ? 呼び方が……金田君から……
「
「金田でございます」
〈金田君、面会の段取りが整いました。キミが良ければ、明日にでも可能です。どうしますか?〉
小一時間前に頼んだばかりで早すぎる。これが本庁捜査一課エリート警視による権力、恐れ入った。
返事はもう決まっている。
――瞼の裏にて、色のない透明な薔薇がチラついた。
金田「