金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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さとみの弟設定にしたのに全然、会話がない。もっと登場させたい。そんな気持ちで書いたオマケ話


10話 悪魔組曲の調べを聴いて‐残間 さとみ

 残間(ざんま) さとみは金田宅にて、家族会議中。

 議題は山之内(やまのうち) 恒聖(こうせい)という知らない人。彼の顧問弁護士代理人が道警に何度も連絡し、母の住所を聞き出そうとしてくる。銭形(ぜにがた) ケンタロウ警部補は嫌な予感が働き、金田家へ危険が及ばぬ様、報せてくれた。

 不測の事態に祖父母は深刻だが正直、さとみに事の重大さが理解出来ない。

 

「……山之内って、土佐のご領主様?」

「そんな可愛いモンちゃうわ。小説家の山之内や! さとみは知らんやろうが、氷室の同郷で弟分みたいな奴やったんよ。ワシも3・4回ばあしか()うてへんが、……忘れられへん気持ち悪さやで」

「はあ……20年振りに名前を聞いただけでも、……血圧が上がるわ。まだ生きていたのねっ」

 

 祖父母の悪感情が失礼な程、強い。祖父は褒め言葉にも「気持ち悪い」を用いるが、祖母の陰鬱そうな表情がそのままの意味だと教える。しかし、氷室祖父の知人でありながら、ここの住所を知らない程度の浅い付き合いだと察した。

 

「何があったのか……聞いても良い?」

「純粋なさとみには刺激的かもしれん。R指定入っとる話やで」

「……娘婿に頼んだ方が良さそうね。あの時も、山之内を追い払ってくれたし……」

 

 偏見は良くないと思い、さとみは笑顔で詳細を訊ねる。2人の空気が一気に重くなった。

 

「だ、だったら……あたしがお父さんに電話して、頼むわ。山之内って人の名前を言えば、分かるのよね?」

「……婆さん、青ボンは山之内を覚えとんのか?」

「知りませんよっ。でも、にいみに関係しているからねえ。覚えていなくても、何とかしてくれるでしょう。さとみ、電話をお願いしていい? 銭形さんが山之内の事で話したいと言っていた。これくらいでいいわ」

 

 父への電話を託されたが、さとみは釈然としない。

 だが、山之内についてはすぐに知れる。父はキチンと覚えていたのだ。

 

〈にいみと結婚した後、氷室のお義父さんへ報告しに墓参りに行ったんだよ。墓終いも兼ねてなっ。そこで頼んでもいないのに、勝手に墓守していたのが山之内だ〉

「もう強烈なんだけど……、それだけ氷室のお祖父ちゃんを慕ってたの?」

〈……ああ、氷室のお義父さんは面倒見も良く、年下に好かれる人だったそうだ。山之内も世話になった1人に過ぎん。にいみが結婚したと知るや、私が如何に相応しくないと男か散々、言われたよ。反論の余地もないからね。私は一先ず、頭を下げたんだ。偶然、そこに山之内の頭があって、頭突きする形となってしまったがっ〉

「うわ~痛そう……相手がっ。お父さん、石頭だもんっ」

 

 要約すれば、両親と金田祖父母が氷室家の墓参りへ行った際に偶然、山之内と鉢合わせた。彼は逝去した氷室祖父に恩義を感じ、親族でもない身で定期的に墓の手入れを行っていたそうだ。

 ここだけ聞けば、人格者と言えるだろう。

 『幻想魔術団』の事件。ピエロ左近寺(さこんじ)の邪さを目の当たりにした身として、その善行に裏を感じた。

 実際、誰にでも「さん付け」する父が敬意もなく、呼び捨てる。頭突きと言う不慮の事故も仕方ないと思ってしまった。

 

〈痛がる間もなく、気絶した。問題ないっ。その後……どうしたかな? 墓終いの邪魔だし……近くの寺へ預けたような気もする。まあ、連絡があったなら……今日までちゃんと生きていたんだろっ〉

「……お父さん、大雑把!? 何でも……小説家やってるらしいよ、あたしは知らないけどっ……」

〈私も知らない。さとみとお揃いだなっ〉

「へへ……あたし達、小説とかあんまり読まないもんねっ」

 

 山之内の対応を父は快く、引き受けてくれる。さとみはホッと一安心。仮に母と連絡が取れても、結果的に父へお鉢が回っただろう。話を聞くだけでも気持ち悪い男から、家族を守ってくれるのだ。

 だが、父の守るべき家族に弟は入っていない。そんなはずなく、行き違いがあっただけだと信じていた。

 母が本当に消えてしまうまでは――。

 

〈ちょうど、明日。北海道へ行くんだっ。銭形さんとその時に話すよ〉

「あ……うん、ありがとう。……お父さん、何しに行くの? やっぱし、高遠さんへ会いに?」

〈ああ、知っていたか……さとみ。会っているよ……何度かね。いや、高遠さんが会ってくれている。会える内は……会っておきたい〉

「あたし……会いに行かないし、きっと……会ってくれないから……。お父さんに任せるね」

 

 考え込んでしまっており、さとみは父の声を我へ返る。動揺のあまり、口が滑ってしまう。父の口調は変わらず、されど悲しげな声色で事実だけ教えてくれた。

 憧れのマジシャン・近宮(ちかみや) 玲子(れいこ)先生の隠し子、3人を殺した『地獄の傀儡師』。

 心優しきマネージャーを演じ、苦楽を元にし、時には励まし合った日々は全て復讐の為。さとみは高遠を恐れず、同情もしない。ただ、悲しい程にショックだった。

 父へ向けた気遣いだけは復讐と無関係だろうが、正直に言えば複雑だ。瞼を閉じれば、父に懐いた高遠の姿を思い返せる。今となっては悲劇への前日譚に過ぎない。

 それだけでなく、ひとつの懸念がある。

 高遠はさとみに対して、親切だった(・・・・・)

 だが、事件の真相に近付き過ぎた金田一(きんだいち) (はじめ)を迷いなく、底なし沼に沈められる残虐さを持つ。そんな人に弟を紹介してしまった(・・・・・・・・・・)

 言い様のない不安を覚える。

 弟は明るく振る舞っているものの、氷室伯父の死から未だ立ち直れていない。そこに身近な同級生の死と立て続け、さとみが事件に巻き込まれた。

 どんな動機であれ、家族を巻き込んだ元凶。

 そんな高遠に父が面会する現状、弟は快く思っていない。今のところ、父子で諍いになっていないが時間の問題。悪い方向に進まぬ事を祈るしかない。

 受話器を下し、知らずと深い息を吐いた。

 

「さとみ? 青ボン、断わりよったんか?」

「う、ううん! お父さんも覚えてたわよ、山之内……さん」

「さとみ、年上だからって敬う必要ないのよ?」

 

 キョトンとした祖父に心配され、さとみは反射的に答える。語尾を言い淀めば、礼節を重んじる祖母が元教師とは思えぬ発言を囁いて来た。

 電話が鳴り、相手が表示される。外泊中の弟だ。

 

「いっくん、お姉ちゃんよ♪ 千葉はどうだっ……え? このまま北海道に行く? あ……証拠品返却の手続き……、うん……分かったわ。お土産? いらない、いらないっ」

「カニにしてえや!」

 

 さとみが鍛えた瞬発力で受話器を取れば、弟は北海道へ為に学校を休むそうだ。

 折角、同じ屋根の下に住みながら、また会えない事態にガッカリ。声に出てしまったのだろうか、ご機嫌取りにお土産を買って来ると言い放つ。しかも、祖父が大声で催促した。

 

「そうだっ、いっくんは山之内……さんって知ってる? ……氷室のお祖父ちゃんの弟分で、今は小説家なんだって」

〈……知っていますよ。全国の山之内さんへ詫びて欲しい程、気持ち悪い人です〉

 

 弟の歯に衣着せぬ物言いに絶句。不愉快そうな態度が電話越しにも伝わり、さとみは山之内をちょっと憐れんでしまった。

 

「どうして、(いち)が知ってるの? 話した事あったかしら?」

「いっくん、山之内……さんの話は誰から聞いたの?」

〈元々、ミステリー界の重鎮ですからね。多岐川先生がご存じですよ。ああ、気持ち悪い人だと知ったのは勿論、母からです。横浜に住む時、忠告されたのです。相模原市に山之内が住んでいるけど、何があっても関わるな……とね〉

「うええ~!? 山之内……神奈川に住んどったんか……。にいみも危ない橋、渡っとるんな……」

 

 ミステリー界の重鎮なら、名声高い人だろう。そんな著名人を家族揃って貶し、ある意味で称賛モノだ。

 しかし、意外。

 極端な人嫌いの母があえて、山之内の存在を教える。しかも、赤信号や標札のように危険と伝えた。それ程の要注意人物とさとみが一生、関わらなかったのは幸いだろう。

 弟と電話した後、祖母は推理小説家の多岐川(たきがわ) かほる先生へ連絡し、ズバッと山之内の動向を探った。

 

〈……去年の秋に新刊を出してから、パッタリと見なくなりましたわ。生憎と親しい関係でもなく、……成程、顧問弁護士代理人が……にいみを探すなんて、余程の事ですもの。ちょっと調べておきます。山之内さんのご友人……この場合はお弟子さんかしらね……梅園さんって方と連絡取れますで、何か知っているでしょう。分かった事は全て、金田さんへお伝えします〉

 

 母の友人は本当に親切、さとみも大好きだ。

 頼み終わってから、疑問も浮かぶ。

 

「山之内さんはどうして……道警からお母さんの連絡先を聞き出そうとするのかしら? 探偵とか雇って調べた方が早くない?」

「……誠実さアピールよ。お抱えの顧問弁護士どもに陰でコソコソせず、堂々と探してますって知らしめたいんでしょうね。それに……背氷村の事件報道は山之内も知っているはず。道警なら、にいみの母親である私に繋がると思ったのかもしれないわ。実際、銭形さんから連絡受けたでしょう? 私達の身を案じてくださったけれども……他の誰かが、情に絆された場合もあったのよ」

()うなった氷室が言うとったが、山之内は人の情けを買うんが上手いんやと。言うとる本人がつい、構ってまうて……よお笑いよったわ」

 

 どうやら、人心掌握術に長けているらしい。

 祖父母や両親に効かないのは例外か、あるいはその他大勢の人々が山之内の外面に騙されやすいか、ちょっと気になった。

 

 後日、山之内は心臓を患った為に北海道の別荘にて療養がてらにしつつ、執筆に励んでいる。だが、病に回復の見込みなく、親しき友人や恩人とも一切の連絡を取らない為に噂程度。

 余命僅かな為、恩人の娘でもある金田(かねだ) にいみに一目会いたいと顧問弁護士へ涙ながらの相談。この件が片付かなければ、相続先のない莫大な遺産に関する遺言も書けないと酷く弱気になっているとの事。

 多岐川先生が出版業界や推理小説家、もしくは評論家から集めた情報を基にし、父が顧問弁護士代理人(有頭 大介)から聞いた話を纏めれば、細かい箇所は違うかもしれないが大体、こんな感じだ。

 

「いっくん、どう思う? この話だけ聞くと……山之内さんがお母さんに遺産を渡したいのかな~って、思っちゃうけど……な~んか、信用できないって言うか……」

「何を企んでいるにしても、さとみさんには関係ありませんよ。今はマジックの修業に専念してください。折角、流森さんからのお声がけを頂いたのですからっ」

 

 弟の晩御飯作りを眺めながら、さとみは言い様のない不信感を訴える。軽くあしらわれたが、弟の言う通りに明日から流森奇術会のメンバー入り、マジックの修業再開。

 流森(ながれもり)会長は元々、父の古くからの友人。他の方々との面接と基本的なマジック試験を経て、認められた。いくつもお祈りの手紙や直接のお断りを食らい続け、実力を認められただけに本当、メチャクチャ嬉しい。

 その感動が蘇り、感極まった衝動が弟を羽交い締めにし、床へ叩きつけた(食材と調理器具は無事)。

 

「こんの……ゴリラ女~」

「ごめ~ん、わざとじゃないのよ~」

 

 山之内の絡んだ事件は秋の終わり、冬の始まりに訪れたが、さとみには知らぬ話である。

 




県警「お勤めご苦労様です。昨晩の土砂崩れによる通行止めは解除。孤立した別荘に本庁の刑事がいたとは……しかも、1人は超絶エリート警視……。何事もなく済んで良かった。さて、次回は『女医の奇妙な企みは夜明けと共に』!! 高校生と被疑者が面会なんて……明智警視、正気ですか!?」

銭形 ケンタロウ警部補(私立探偵)
蝋人形城殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、道警。金田家を気に掛けている

ミステリー作家・山之内 恒聖
露西亜館殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、氷室祖父の弟分

高遠 遙一、綾辻 真里奈
それぞれ魔術列車殺人事件、雪夜叉伝説殺人事件、犯人

ピエロ左近寺
魔術列車殺人事件、ゲストキャラ。現在、メディアに引っ張りだこ
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