金田少年の生徒会日誌 作:珍明
議題は
不測の事態に祖父母は深刻だが正直、さとみに事の重大さが理解出来ない。
「……山之内って、土佐のご領主様?」
「そんな可愛いモンちゃうわ。小説家の山之内や! さとみは知らんやろうが、氷室の同郷で弟分みたいな奴やったんよ。ワシも3・4回ばあしか
「はあ……20年振りに名前を聞いただけでも、……血圧が上がるわ。まだ生きていたのねっ」
祖父母の悪感情が失礼な程、強い。祖父は褒め言葉にも「気持ち悪い」を用いるが、祖母の陰鬱そうな表情がそのままの意味だと教える。しかし、氷室祖父の知人でありながら、ここの住所を知らない程度の浅い付き合いだと察した。
「何があったのか……聞いても良い?」
「純粋なさとみには刺激的かもしれん。R指定入っとる話やで」
「……娘婿に頼んだ方が良さそうね。あの時も、山之内を追い払ってくれたし……」
偏見は良くないと思い、さとみは笑顔で詳細を訊ねる。2人の空気が一気に重くなった。
「だ、だったら……あたしがお父さんに電話して、頼むわ。山之内って人の名前を言えば、分かるのよね?」
「……婆さん、青ボンは山之内を覚えとんのか?」
「知りませんよっ。でも、にいみに関係しているからねえ。覚えていなくても、何とかしてくれるでしょう。さとみ、電話をお願いしていい? 銭形さんが山之内の事で話したいと言っていた。これくらいでいいわ」
父への電話を託されたが、さとみは釈然としない。
だが、山之内についてはすぐに知れる。父はキチンと覚えていたのだ。
〈にいみと結婚した後、氷室のお義父さんへ報告しに墓参りに行ったんだよ。墓終いも兼ねてなっ。そこで頼んでもいないのに、勝手に墓守していたのが山之内だ〉
「もう強烈なんだけど……、それだけ氷室のお祖父ちゃんを慕ってたの?」
〈……ああ、氷室のお義父さんは面倒見も良く、年下に好かれる人だったそうだ。山之内も世話になった1人に過ぎん。にいみが結婚したと知るや、私が如何に相応しくないと男か散々、言われたよ。反論の余地もないからね。私は一先ず、頭を下げたんだ。偶然、そこに山之内の頭があって、頭突きする形となってしまったがっ〉
「うわ~痛そう……相手がっ。お父さん、石頭だもんっ」
要約すれば、両親と金田祖父母が氷室家の墓参りへ行った際に偶然、山之内と鉢合わせた。彼は逝去した氷室祖父に恩義を感じ、親族でもない身で定期的に墓の手入れを行っていたそうだ。
ここだけ聞けば、人格者と言えるだろう。
『幻想魔術団』の事件。ピエロ
実際、誰にでも「さん付け」する父が敬意もなく、呼び捨てる。頭突きと言う不慮の事故も仕方ないと思ってしまった。
〈痛がる間もなく、気絶した。問題ないっ。その後……どうしたかな? 墓終いの邪魔だし……近くの寺へ預けたような気もする。まあ、連絡があったなら……今日までちゃんと生きていたんだろっ〉
「……お父さん、大雑把!? 何でも……小説家やってるらしいよ、あたしは知らないけどっ……」
〈私も知らない。さとみとお揃いだなっ〉
「へへ……あたし達、小説とかあんまり読まないもんねっ」
山之内の対応を父は快く、引き受けてくれる。さとみはホッと一安心。仮に母と連絡が取れても、結果的に父へお鉢が回っただろう。話を聞くだけでも気持ち悪い男から、家族を守ってくれるのだ。
だが、父の守るべき家族に弟は入っていない。そんなはずなく、行き違いがあっただけだと信じていた。
母が本当に消えてしまうまでは――。
〈ちょうど、明日。北海道へ行くんだっ。銭形さんとその時に話すよ〉
「あ……うん、ありがとう。……お父さん、何しに行くの? やっぱし、高遠さんへ会いに?」
〈ああ、知っていたか……さとみ。会っているよ……何度かね。いや、高遠さんが会ってくれている。会える内は……会っておきたい〉
「あたし……会いに行かないし、きっと……会ってくれないから……。お父さんに任せるね」
考え込んでしまっており、さとみは父の声を我へ返る。動揺のあまり、口が滑ってしまう。父の口調は変わらず、されど悲しげな声色で事実だけ教えてくれた。
憧れのマジシャン・
心優しきマネージャーを演じ、苦楽を元にし、時には励まし合った日々は全て復讐の為。さとみは高遠を恐れず、同情もしない。ただ、悲しい程にショックだった。
父へ向けた気遣いだけは復讐と無関係だろうが、正直に言えば複雑だ。瞼を閉じれば、父に懐いた高遠の姿を思い返せる。今となっては悲劇への前日譚に過ぎない。
それだけでなく、ひとつの懸念がある。
高遠はさとみに対して、
だが、事件の真相に近付き過ぎた
言い様のない不安を覚える。
弟は明るく振る舞っているものの、氷室伯父の死から未だ立ち直れていない。そこに身近な同級生の死と立て続け、さとみが事件に巻き込まれた。
どんな動機であれ、家族を巻き込んだ元凶。
そんな高遠に父が面会する現状、弟は快く思っていない。今のところ、父子で諍いになっていないが時間の問題。悪い方向に進まぬ事を祈るしかない。
受話器を下し、知らずと深い息を吐いた。
「さとみ? 青ボン、断わりよったんか?」
「う、ううん! お父さんも覚えてたわよ、山之内……さん」
「さとみ、年上だからって敬う必要ないのよ?」
キョトンとした祖父に心配され、さとみは反射的に答える。語尾を言い淀めば、礼節を重んじる祖母が元教師とは思えぬ発言を囁いて来た。
電話が鳴り、相手が表示される。外泊中の弟だ。
「いっくん、お姉ちゃんよ♪ 千葉はどうだっ……え? このまま北海道に行く? あ……証拠品返却の手続き……、うん……分かったわ。お土産? いらない、いらないっ」
「カニにしてえや!」
さとみが鍛えた瞬発力で受話器を取れば、弟は北海道へ為に学校を休むそうだ。
折角、同じ屋根の下に住みながら、また会えない事態にガッカリ。声に出てしまったのだろうか、ご機嫌取りにお土産を買って来ると言い放つ。しかも、祖父が大声で催促した。
「そうだっ、いっくんは山之内……さんって知ってる? ……氷室のお祖父ちゃんの弟分で、今は小説家なんだって」
〈……知っていますよ。全国の山之内さんへ詫びて欲しい程、気持ち悪い人です〉
弟の歯に衣着せぬ物言いに絶句。不愉快そうな態度が電話越しにも伝わり、さとみは山之内をちょっと憐れんでしまった。
「どうして、
「いっくん、山之内……さんの話は誰から聞いたの?」
〈元々、ミステリー界の重鎮ですからね。多岐川先生がご存じですよ。ああ、気持ち悪い人だと知ったのは勿論、母からです。横浜に住む時、忠告されたのです。相模原市に山之内が住んでいるけど、何があっても関わるな……とね〉
「うええ~!? 山之内……神奈川に住んどったんか……。にいみも危ない橋、渡っとるんな……」
ミステリー界の重鎮なら、名声高い人だろう。そんな著名人を家族揃って貶し、ある意味で称賛モノだ。
しかし、意外。
極端な人嫌いの母があえて、山之内の存在を教える。しかも、赤信号や標札のように危険と伝えた。それ程の要注意人物とさとみが一生、関わらなかったのは幸いだろう。
弟と電話した後、祖母は推理小説家の
〈……去年の秋に新刊を出してから、パッタリと見なくなりましたわ。生憎と親しい関係でもなく、……成程、顧問弁護士代理人が……にいみを探すなんて、余程の事ですもの。ちょっと調べておきます。山之内さんのご友人……この場合はお弟子さんかしらね……梅園さんって方と連絡取れますで、何か知っているでしょう。分かった事は全て、金田さんへお伝えします〉
母の友人は本当に親切、さとみも大好きだ。
頼み終わってから、疑問も浮かぶ。
「山之内さんはどうして……道警からお母さんの連絡先を聞き出そうとするのかしら? 探偵とか雇って調べた方が早くない?」
「……誠実さアピールよ。お抱えの顧問弁護士どもに陰でコソコソせず、堂々と探してますって知らしめたいんでしょうね。それに……背氷村の事件報道は山之内も知っているはず。道警なら、にいみの母親である私に繋がると思ったのかもしれないわ。実際、銭形さんから連絡受けたでしょう? 私達の身を案じてくださったけれども……他の誰かが、情に絆された場合もあったのよ」
「
どうやら、人心掌握術に長けているらしい。
祖父母や両親に効かないのは例外か、あるいはその他大勢の人々が山之内の外面に騙されやすいか、ちょっと気になった。
後日、山之内は心臓を患った為に北海道の別荘にて療養がてらにしつつ、執筆に励んでいる。だが、病に回復の見込みなく、親しき友人や恩人とも一切の連絡を取らない為に噂程度。
余命僅かな為、恩人の娘でもある
多岐川先生が出版業界や推理小説家、もしくは評論家から集めた情報を基にし、父が
「いっくん、どう思う? この話だけ聞くと……山之内さんがお母さんに遺産を渡したいのかな~って、思っちゃうけど……な~んか、信用できないって言うか……」
「何を企んでいるにしても、さとみさんには関係ありませんよ。今はマジックの修業に専念してください。折角、流森さんからのお声がけを頂いたのですからっ」
弟の晩御飯作りを眺めながら、さとみは言い様のない不信感を訴える。軽くあしらわれたが、弟の言う通りに明日から流森奇術会のメンバー入り、マジックの修業再開。
その感動が蘇り、感極まった衝動が弟を羽交い締めにし、床へ叩きつけた(食材と調理器具は無事)。
「こんの……ゴリラ女~」
「ごめ~ん、わざとじゃないのよ~」
山之内の絡んだ事件は秋の終わり、冬の始まりに訪れたが、さとみには知らぬ話である。
県警「お勤めご苦労様です。昨晩の土砂崩れによる通行止めは解除。孤立した別荘に本庁の刑事がいたとは……しかも、1人は超絶エリート警視……。何事もなく済んで良かった。さて、次回は『女医の奇妙な企みは夜明けと共に』!! 高校生と被疑者が面会なんて……明智警視、正気ですか!?」
銭形 ケンタロウ警部補(私立探偵)
蝋人形城殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、道警。金田家を気に掛けている
ミステリー作家・山之内 恒聖
露西亜館殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、氷室祖父の弟分
高遠 遙一、綾辻 真里奈
それぞれ魔術列車殺人事件、雪夜叉伝説殺人事件、犯人
ピエロ左近寺
魔術列車殺人事件、ゲストキャラ。現在、メディアに引っ張りだこ