金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回に入り切らなかった部分、高遠視点です


13話 【女医の奇妙な企み】は夜明けと共に‐高遠

 独房にて、遙一(よういち)はほくそ笑む。

 取調室での会話は想像以上に愉しかった。金田の口から語れた「彼」は先ず間違いなく、我が父と断言しよう。

 そして、薔薇を手渡されたと聞き、確信が芽生えた。

 

 ――「彼」は必ず、金田(かねだ) (いち)の周囲にいる。

 

 見知らぬ父は高校生の生活圏に存在し、静かに潜んでいるのだ。

 決して介入せず、今も見守っている。その気持ち、実によく分かる。

 遙一もまた三眼目に宿った〝吹雪〟の美しさに見惚れた(・・・・・・・)

 金田はあの理不尽な死別による悲しみと絶望を知っている。憎悪を抱えた復讐者だ。

 奇しくも同じ数の相手は是非とも、遙一が復讐計画を練ろう。我が情念の赤い薔薇を用いて、吹雪を鮮やかに彩らせて欲しい。脚本、舞台構成、演出、凶器、アリバイに至るまで全てだ。

 今度は同級生も正式に招待し、謎と怪奇に満ちた犯罪芸術を大々的に披露し尽くす。

 約束通り、残間父娘は巻き込まない。誰にも金田の犯行と微塵も感じさせず、正しく完全犯罪を成し遂げよう。

 

 ――相手は誰だろう。調べたい、知りたい。早く舞台を整えたい。

 

 エコー写真に写る産まれる前の自分を金田になぞらえ、遙一の心へ奇妙な弾みを与えた。

 

 小一時間経過し、今度は青完(あおまさ)との嬉しい面会。

 皮肉な程、今日は好い日だ。

 

「以前、奥様とはお見合いで知り合ったと伺いました。どちらから結婚を言い出したんですか?」」

「……妻だ。見合いの席では断ったがね」

「……! 断ったんですか?」

「妻と次に会ったのは結婚式の会場だよ。両親に親戚の集まりで外食すると言われて、付いていたら……そこだった。妻は見合いの後に親戚一同を抱き込み……ゴホンッ、説得して回って、しっかりと外堀を埋めていたんだ。兄達や従兄弟に取り押さえられて、着せ替え人形にされたのは今でも語り草だ」

 

 金田から聞いた話と大分、印象が違う。細君の暴挙に恐れ入るが、青完の警戒心の無さが心配。見合いの後に外食するなど、次の見合いだと察して断るべき案件だ。

 

「本当にね、妻の手腕は……見事だったよ。いや、見事過ぎた」

 

 青完のタートルネックを一瞥し、遙一はそこに隠された傷を見たい衝動を抑え込んだ。

 

「……それだけ、奥様に愛されていたんですね」

「……そうだな。……当時の私はマジシャンも辞めて、文無し同然。本当は彼と暮らす予定だったんだが、結婚を伝えたら「騙されているぞ」とか言われたな」

「彼? ああ、幼馴染の方ですね。あれから、少し分かった事があります。奥様の住まいにそれらしい男性がいたようです」

「!? 彼が……いや、妻が住む前の住人と言う意味か?」

 

 やはり、青完は細君の話を振れば、必然的に「彼」の話に繋げる。遙一が惚けたフリをし、差し障りなく尋ねる。ギョッとした表情から、金田母子の住まいへ出入りしていた話は本当に知らない様子だ。

 不仲な息子は口を閉ざし、神奈川県警は元夫を「他人扱い」と言ったところだろう。

 

「何でも……息子さんを訪ねていたとかっ」

(いち)を……訪ねて? アイツが?」

「それを確かめる為に幼馴染の方……そろそろ、名前を教えて頂いても宜しいですか?」

「……さっき、銭形さんにも聞かれた。分かった……怒らずに聞いて欲しい」

 

 「彼」の名を聞けば、青完はまた口ごもる。先に質問した銭形警部補は答えに怒ったのだろうか、気になった。

 

「……忘れたんだ。彼の名前っ」

!? 幼馴染なのに……ですか?

「知り合った当初は同じ町にいたが、彼はすぐに引っ越してな。それでも、私に会いに来てくれた。……私の名前が青完で、彼も空に関する名前だったから2人で「青空」になるとか……。家族にも「そら」さんで通っていた。年上だったのは間違いないっ」

「……! お父さん……よく友情が続きましたね」

 

 意を決した青完の告白、遙一は一瞬だけ呆れる。忘れたのなら、仕方ないと気持ちを切り替えた。

 ちょっと違和感を覚える。

 金田の「彼」と会っていながら、顔も分からないという証言。

 

「8年程、連絡を取っていないと言っていましたが、今でも会えば……分かりますか?」

「それは勿論、分かるよ。彼はとても目立つから、人混みに紛れていても……すぐに見付けられる」

 

 得意げに答え、青完は「彼」の顔を思い出して微笑む。仲睦まじい友情が伝わって来た。

 羨ましい。

 

「さとみちゃんは「そら」さんを知らないんでしょうか?」

「知らないよ、子供達に会わせる機会が無かったんだ。……(いち)が産まれた時、入院中の妻にあの薔薇を渡したらしい。私のいない時にっ」

 

 確認で聞いただけだが、途端に青完は子供っぽく仲間外れにされた雰囲気を出す。初めて見る様子に微笑ましくて、クスッと笑ってしまった。

 

「……そうだ。妻が……その後、アイツに会わせないでくれ(・・・・・・・・)と言って来たんだ。私の幼馴染に何故……そんな言い方をするのかと聞いたら……「唐変木」と怒られた。……喧嘩でもしたのか?」

「……」

 

 記憶を辿り、青完の言動も夢見心地でうわ言の様に聞こえる。過去を回想しているなら、寝言を呟く人間と同様に下手な返事はしない方が良い。

 脳髄が過去と現在の区別を曖昧にする。

 

「お父さん、僕はここから出られません。今でも、奥様を探すお手伝いがしたいです。僕を取材する記者の方に調査を依頼してはどうでしょう?」

「……高遠さん! 今となっては……それだけは駄目なんだっ。さとみの将来が……っ」

 

 現在に引き戻すつもりの提案は効果抜群、青完は明らかに狼狽する。息子よりも娘の身を案じ、口を噤んだ。

 

「今となっては……ああ、僕のせいですか? さとみちゃん、再就職に手こずっていると聞きました」

「違うんだ……高遠さん。玲子さんが貴方を手放したように……血筋の問題なんだよ……」

 

 しおらしく問えば、意外な返答に驚く。

 

「どういう意味ですか? 母が僕を手放した理由は……家庭よりも、マジシャンの道を選んだから……実母と名乗る資格がないとか……」

「それだけじゃない。高遠さんが同じ道を選んだ時、近宮 玲子の名は邪魔になる。キミは1人のマジシャンとして認められず、あくまでも近宮ジュニアのままで舞台へ立たされる。玲子さんは……それを危惧したんだっ。我が子を跡継ぎにするか否か、その話になった時、玲子さんはいつも否定だった」

「……母がそこまで……僕を……」

「……天才の親を持つ子供は苦悩する。そんな苦しみを貴方に味合わせたくなかったと……今は思うよ」

 

 生前の母が我が子を想う言葉に感じ入れたのは一瞬。

 

「……けど、さとみちゃんにはどんな血筋があるんですか? アナタの娘である以外に……奥様? 奥様の血筋ですか?」

「……っ」

 

 細君の血筋が金田の吹雪に影響を及ぼしている。それを理解したくて、遙一は追及する口調になったが、仕方ない。青完は罪の告白を躊躇うように目を逸らした。

 

「お父さん……アナタは近宮 玲子を真の天才と呼んでくれました。我が母ながら、それを上回る血筋はいません。少なくとも、青完さんがそこまで心配するような方は思い付けません」

「……玲子さんは確かに真の天才だ。高遠さんが興味ないだけで、他にもいる。……妻の兄がそうだっ。彼……氷室 一聖もまた……真の天才だった」

「……? 氷室 一聖……って、旅客機墜落事故で亡くなっていた……悲劇の画家っ」

 

 同じ北海道の大事件であり、明智(あけち)警視が解決した復讐殺人。

 無期懲役の判決を受けた綾辻(あやつじ) 真里奈(まりな)は背氷村の『雪夜叉伝説』に則り、4人を殺害。犯行動機は旅客機墜落事故にて見殺しにされた母親の敵討ち。彼女は実行までの10年を復讐に費やし、見事に成し遂げた。

 報道を知った時、綾辻の事情にしか興味を持たず、事故現場の尾高山に棄てられた画家に家族がいるなど、想像もしなかった。

 氷室(ひむろ) 一聖(いっせい)画伯の甥ならば、相手は4人とも既に死亡。

 遙一は心底、憐れんだ。

 金田の叫びは家族を巻き込まれた怒りに加え、遙一が復讐殺人を成した妬みもある。取調室の彼を思い返す中、青完の心配そうな視線に我へ返った。

 

「……胸中、お察します。今となっては……氷室画伯の姪は確かに……」

「……そうだ。知られてしまえば、誰もさとみを評価しなくなる。……今は、ただ……あの子にだけは、背負わせたくないんだ……せめて、一人前のマジシャンと認められるまでは……」

 

 絵画とマジックは同じ芸術。悲劇の画家に代わり、マジシャン界へ羽ばたく見習いは観衆の受けが良いだろう。それは熱病のように一時的ですぐに冷める。その温度差にさとみが耐えられるかもしれないが、避けられるに越した事はない。

 

「……奥様が氷室画伯の妹なら、警察も動くのでは?」

「……妻が綾辻さんと会っていれば、そうなっていただろう。だが、面識はないと言われた」

「この場合、綾辻 真里奈は重要ではありません。死んだ4人です。特に氷室画伯の替え玉となっ……」

それはない……妻は兄を嫌っていた。本物に会う気もないのに、偽者と接触する理由はないっ」

 

 青完は柔らかな語り口調のまま、答える。語尾だけが、違う。

 硬質で刺すような否定。

 面会室の空気が冷え、遙一の喉元も重い。それでも、確認の為に続けた。

 

「……水沼 貴雄に会っていないと……言い切れますか?」

「……水沼っ

 

 殺害された4人目・水沼(みずぬま) 貴雄(たかお)の名を出した途端、青完の焦点がぼやける。ドロリとした声は別人のようだった。

 遙一は思わず、背もたれに寄りかかった。

 娘を溺愛する親馬鹿、離婚した妻を今も愛する夫。そのどれでもない無表情となり、ゾッとする。

 これは殺意。

 今になり、青完と金田は父子と実感。趣味趣向、思考、殺意のベクトルが似通っており、生き写しだ。

 5年前の事故以来、青完は気がおかしくなっただけでなく、ずっと殺意を抱えていた。

 息子が背氷村の吹雪なら、父親は死骨ヶ原湿原の泥。それが浮かぬよう、沼地へ沈ませていたのだ。

 

(危なかった……)

 

 底知れぬ緊張感に初めて、遙一の胃が竦む。

 青完があのまま列車の死体発見に遭遇していれば、どうなっていただろう。

 『地獄の傀儡師』と言う他人に殺されるくらいなら、残りは己の手で屠る。復讐の奪い合いとなり、お互いに殺し合う可能性はあった。

 さとみと言うブレーキがいても、開幕した惨劇は終幕まで止まらない。遙一と共闘などもっと在りえない。青完が予定外の敵(アクシデント)とならず、幸いした。

 熟成された殺意の威圧感に押し潰されそうだ。

 

「……高遠さん、汗がスゴイぞ。北海道も……熱を帯びてきたな」

「ええ、空気が焦げる程に。ですね……青完さんっ」

 

 穏やかな笑顔で気候の話をされたが、青完の本性か判断しかねる。

 本当に暑いのは彼の内側、沈めていた殺意と怒りの熱量だ。

 金田が言った「気がおかしい」。

 それはもう「おかしい」ではなく、「危うい」の域だ。

 本当は彼ら父子の事情――特に金田(かねだ) にいみについて、もっと探りたかったが、今日はやめておこう。

 この面会は、演者が舞台を独占する時間――遙一の為だけにある。

 

 ――ああ、しかし……荒れ狂う吹雪の復讐劇に興じられないのは本当に勿体無い。




柏木夫「柏木だ。妻が色々と言ったようだがこっちにだって言い分がある! 大体……あの高慢ちき……人を(結婚生活10年の積もり積もった不満)……あ~まだ言い足りん。さて、次回は『秘宝島殺人事件の刑事』!! うっひょ~、すっげえ美人……何その箱……?」

「そら」
高遠の実父。原作でも存在だけを匂わせ、素性不明。作中にて残間の幼馴染、オリ主へ透明な薔薇を贈った人物。「そら」と呼ばれていた
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