金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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タイトルの事件で登場した刑事との再会

金田一の視点です

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


14話 【秘宝島殺人事件】の刑事

 久々の不動高校は普段と変わらず、金田一(きんだいち) (はじめ)に容赦ない。

 教職員は馬鹿みたいな量の宿題や課題を山と積み、親しきクラスメイト3人組は屋上で『怪盗紳士』の時事ネタを振る。彼らは欠席中の出来事を何も聞かず、はじめには有難かった。

 

「金田一君、七瀬さん。ようこそ、ミス研へ」

「はい、よろしくお願いします♪」

(ウソだろ、美雪。アレ、本気だったのか!)

 

 ミステリー研究会・略してミス研の部室へ連行され、ミス研会長の桜樹(さくらぎ) るい子先輩に歓迎される。はじめを拉致した張本人・七瀬(ななせ) 美雪(みゆき)は彼女と固い握手を交わすが、ゲンナリした気分で見守った。

 

「演劇部はどうすンだよ。文化部の掛け持ちは原則禁止つったろ。生徒会長?」

「あたしは掛け持ちよ、先生達はOKしてくれたモン。はじめちゃんは……流石に無理だったから、演劇部を退部扱いにしてもらったわ。あっちは昨日、『オペラ座の怪人』の配役も決まったしっ。コンクール前の合宿先を決めないとねっ。どこが良いかなあ……やっぱり、演劇に見合う洋館かな♪」

 

 副会長のブチ切れた笑顔が見え、はじめは眩暈がする。呑気な美雪の行動には時折、ヒヤヒヤさせられる。幼馴染として、彼女を守らねばならない。

 

「七瀬さんの演劇部で『オペラ座の怪人』を演じるんですか? それでしたら、合宿にピッタリの場所がありますよ」

「白神さん、本当? 是非、教えてください♪」

「……どうも、っつ~か……白神さんは部外者っしょ。なんで校内をウロウロしてんスか?」

「白神さんは正式にミス研の講師なったのよ。何だかんだと郊外活動も多いし、須貝先生がいつも引率してくれるワケじゃないもんっ」

 

 ミステリールポライター・白神(しらがみ) 海人(かいと)はどっかのエリート警視が如く、美雪へ語りかける。はじめがウンザリすれば、スキー部と掛け持ち中の2年4組・鈴森(すずもり) 笑美(えみ)は事情を説明してくれる。

 顧問の歴史担当・須貝(ずがい)先生は厄介なミス研を押し付けられた身、少しでも負担を軽くしたいのだろう。心中(しんちゅう)を察し、うんうんと大げさに同意しておいた。

 

「金田一だって、須貝先生に迷惑かけてんじゃん。今日も授業中に爆睡してたんだろ? 村上がボヤいてたぜっ」

「ウルセェ~岡持、徹夜だったんだよ。こっちはっ」

「構わなくていいぜ、岡持君。金田一君はいつも寝不足だっ」

 

 先月入部した奇特な同級生2年4組・岡持(おかもち) 武則(たけのり)にクスクスッと笑われ、はじめは反論。

 昨晩、腹の傷が痛み、夜間診療した病院にて女の怖い一面が露わになった事件へ遭遇し、解決時は夜明けを迎えた。眠る間もなく、学校へ登校したのだ。

 そこに3年3組・真壁(まかべ) (まこと)……先輩が余計な事を言い放ち、はじめはムスッとする。3年2組・鷹島(たかしま) 友代(ともよ)先輩が入室し、桜樹先輩は傾聴を促す。そそくさと皆が席に着く中、白神だけは当たり前のように彼女の隣へ立つ。

 

「白峰君と佐木君は本日、来られませんが会議を始めます。議題はご存知、ミス研存続について! HRでお知らせがあった通り、1学期は24日まで延長されました。これはチャンスですっ」

 

 正確には立て続けの不祥事により、緊急職員会議や保護者説明会が相次ぎ、授業日程が大幅に遅れている事への調整である。例年は7月20日、今年は曜日の関係で19日までの予定だった。

 はじめは正直、ゲンナリ。

 

「現在、課題クリアの見込みはありません。そこでっ、白神さんが良いお話を持って来てくれました」

「岐阜県奥飛騨にある『くちなし村』、先祖代々より続く大地主・巽家先代当主が亡くなりました。その相続人であり、次期当主に指名された巽 征丸氏へ脅迫状が届いたそうです。村に古くから伝わる『生首祭り』が終わるまでにその生首を頂戴する……とねっ」

 

 白神は去年に発行された雑誌のページを開き、『くちなし村の生首祭り』特集を見せられる。首の無い地蔵や古そうな鳥居の写真が掲載しており、不気味。はじめは温泉の部分だけしか、読み耽る。

 

「今回は『くちなし村』へ行き、次期当主を守り切る。そして、脅迫状の犯人を炙り出す! 分かったわね、真壁君っ」

「やれやれ、また脅迫状絡みの事件か……次の推理小説のネタにでも……」

「分かったわね、真壁君?」

はい……精一杯、探偵役を務めさせていただきます……

 

 桜樹先輩にギロリッと睨まれ、真壁先輩はビクンッと震え上がる。彼女がブチ切れ気味なのは無理もない。

 生徒会執行部からの存続条件、1学期中に写真部の3年4組・伊志田(いしだ) (じゅん)先輩とタッグを組んでの事件解決。未だ果たされず、このままでは写真部と諸共に廃部だ。

 

「すみません、質問良いですか? 『くちなし村』への旅費はどうなりますか? ミス研の部費で賄いきれるとは思えません」

「七瀬さんの言う通り、全員は無理です。行く人を選抜します」

「先ず、私が巽家に招待されています。今年の祭りの取材も含め、助手として桜樹さんを連れて行きます」

 

 美雪の質問に桜樹先輩は恥じる事無く答え、白神のしれっとした提案を聞く。反論はないが、男性陣は嫉妬のあまりに彼を睨んだ。

 

「伊志田君の旅費は写真部が持ちます。これは津雲先生からの申し出です」

「本当っスか、桜樹先輩! へえ~、津雲先生ってば太っ腹♪ あれ、伊志田先輩って……どの人?」

「写真部の部室にいます。私が去年、撮影した『くちなし村』の写真を皆さんで検証中しているはずです。伊志田君はネガから現像したいと積極的でしたよ」

 

 写真部顧問の化学担当・津雲(つくも) 成人(しげと)先生は確かに太っ腹だ。担当部が廃部となれば、彼の負担は減るのに存続に協力的である。この場にいない須貝先生も見習って欲しいが、怒られるので黙っておこう。

 岡持はキョロキョロと部室を見渡し、面識のない伊志田先輩を探す。白神も講師とは言え、協力し過ぎに感じた。

 

「ぐっ……なんでアイツ、僕よりもやる気なんだよ。って言うか、ここやれや~」

「見解の違いだって、すぐ言い合いになるでしょう……。ああ、真壁君と佐木君の2人は決定です。まだ心許無いから、後1人は来て欲しいわ」

「「「金田一君っ」」」

「「!?」」

 

 ブツブツと真壁先輩が呟けば、桜樹先輩はため息をつく。そうして、皆へ参加を促した瞬間に鈴森、岡持、鷹島先輩が何の示し合わせもなく、はじめを名指し。美雪と思わず、顔を見合わせた。

 

「さっすがに……岐阜は遠いわ~」

「ウチ、店あるから……泊まりはちょっと……」

「知らない人の家とか、嫌」

「七瀬さん……来る?」

「行きます、行きます! ちょうど良いわ、はじめちゃん。ミス研入部の初仕事よ!」

「ミス研は探偵業じゃねえっての!」

 

 各々の言い訳をされ、桜樹先輩も困惑。こちらもやる気満々の美雪に肩を叩かれ、はじめは呆れた。

 けれども、桜樹先輩に免じて断らない。ミス研の存続ばかり考えている様に見られがちだが、これから向かう『くちなし村』で後輩を死なせぬ。

 その必死さを知っているからだ。

 

「しかし、桜樹君。なんで、わざわざ岐阜にしたんだい? 近場なら、小笠原の怪現象があるだろうにっ」

「小笠原って、小笠原諸島? ……まさか、あの曰く付きの客船に何かあったんですか!?」

「流石、鈴森さん。その船です。先日、船の状態を調べに行ったところ、現地の方から興味深いお話を伺いました。真夜中に船が港内を漂っていたそうです。まるで誰かが操縦しているみたいにっ。以前から、噂だけはありましたが……今回はキチンと目撃者もいるんですよ」

 

 真壁先輩が疑問すれば、鈴森の唐突なハイテンション振りにビックリ。どうやら、幽霊客船とやらは知る人ぞ知るミステリーらしい。

 白神の言い方にも信憑性がありそうだ。

 

「それこそ、佐木が喜びそうな話だろ。アイツ、なんで居ねえの?」

「……少し、用事が出来たの。……そうね、金田一君も行ってあげてっ。音楽室だと思うわ」

「あ、ちょっと! はじめちゃんっ」

 

 哀愁漂う桜樹先輩に教えられ、はじめは細かい打ち合わせからトンズラっ。美雪の制止は無視した。

 無論、ミス研1年1組・佐木(さき) 竜太(りゅうた)に用などない。逃げる口実が欲しかった。

 

「あれぇ、金田一。まだ居たか……もしかして、宿題やってたとか? 昨日の今日じゃあ、終わらないだろ。俺で良ければ、手伝うぜっ」

「マジかよ、千家! 代わりにやってくれるだなんてなあ♪」

「そこまで言ってないっ。……休んでたのって、小田切先生関係だろ? 何も聞かねえけど……お疲れさんっ」

「……よせやい、湿っぽくなっちまうだろ」

 

 帰路に就こうと下駄箱へ向かえば、2年5組・千家(せんけ) 貴司(たかし)は出会い頭に労わる。彼は予備校・四ノ倉学園以来、はじめを色々と気遣ってくれるのだ。

 本当は宿題など放置する気満々だったが、千家の手前やらざるを得ない。仕方なく、30分程は図書室で励む。彼と一緒に出来上がった分を職員室へ提出しに行けば、ノモッツァンにビックリ仰天された。

 

「金田一……聖正病院って、知ってるか?」

「うん? 真壁……先輩達が入院中に事件が起こった病院だろ。それが……どうした?」

「……いや、やっぱいい。金田一の組、学園祭に何するか決めた?」

「まだっ、来週に決めるってよ。葉平がメチャクチャ乗り気でさ~お化け屋敷になりそう。千家のトコは?」

 

 話を振っておきながら、千家は無理やり中断させる。少し聞きたかっただけの雰囲気は深刻に感じず、はじめも学園祭の話へ乗った。同じ組にいる怖い物好きな貴船(きふね) 葉平(ようへい)なら、クラスメイトを丸め込むだろう。

 

「こっちは犬とのふれ合い広場を企画中だっ。他からもアイディアはあるけど、絶対に通そうと思ってる」

「……犬? へえ……面白そうじゃん」

「だろ? 俺も自信あるんだっ。……ん? あそこにいるのは……ミス研の佐木って奴か?」

「げっ、よりによって俺の自転車の近く……?」

 

 ニッコニコの千家が指差した駐輪場、妙な事態に首を傾げる。はじめは目を凝らし、撮影に熱心な佐木を警戒して近寄った。

 

「……(白目)」

「ほら、金田(かねだ)先輩。しっかり、後は帰るだけっス。佐木も手伝えって!」

「僕、忙しいんでっ」

「「!」」

 

 生徒会執行部の2年D組・金田(かねだ) (いち)が原付バイクへもたれかかり、ぐったりとした状態。必死に声をかける1年生・海峰(かいほう) (まなぶ)はハンディカムを手にした佐木へ喚き散らす。

 状況が全く見えないが、厄介事を察知。

 

「金田一先輩、そちらは千家先輩ですね。丁度、良かった。海峰君に手を貸してくださいっ。見ての通り、金田(かねだ)先輩は今、全力で無気力でなんです」

「「「お前がやれよっ」」」

 

 佐木は物凄く自然に己の先輩方を扱き使おうとし、ツッコミを受ける。ミス研に顔を出さないと思いきや、金田(かねだ)が白目を剥く様子に釘付けだったらしい。撮影魔の後輩に捕まり、彼を哀れんだ。

 

「何があったんだよ……コレッ」

「転校しちまった和泉先輩っスよ。生徒会メンバーに挨拶もなくて、金田(かねだ)先輩……すっかり、落ち込んで……歩く屍と化しました!」

「もう歩けもしないんですけどねえ。金田(かねだ)先輩がここまで落ち込むなんて、珍しいっ」

「あ~昨日、和泉……言ってたなあ」

 

 心配した千家が問えば、海峰は涙ながらに語る。鬱陶しい佐木も一応、金田(かねだ)を気に掛けている様子。はじめが昨日の手洗い場にて、同じ組の和泉(いずみ) さくらと最後に言葉を交わした。

 途端、金田(かねだ)の白目が半眼に戻り、ギロリとはじめを睨まない程度に見て来た。

 

「……はじめちゃん。和泉さん、何を言っていましたか?」

か、金田(かねだ)先輩が復活した!

「顔だけ、こっち向けてる。怖……」

「そっか、金田一先輩は和泉先輩と同じ組でしたね。体育祭で知りましたけど……え? 金田(かねだ)先輩、金田一先輩をはじめちゃん呼ばわりデスカ? 僕の知らないトコロでっ」

「佐木、ちょっと黙ってよっか? しょうがねえなぁ……っ」

 

 和泉との会話を言い触らす気はない。金田(かねだ)に話す義理もないが、千家達には遠慮してもらおう。特に佐木は絶対。はじめは適当な言い訳をしようとしたが、3人は察し能力が高い。すぐに無気力な彼を託し、それぞれで帰って行った。

 お互いの愛車を押しながら、取り敢えずは最寄りのファミレスを目指す。金田(かねだ)に原付バイクを押す活力が戻り、はじめは少しだけ安心だ。

 

「七瀬さんも……はじめちゃんから聞いて、知ったと言っていましたね。和泉さんと仲良かったのですか? さようならを言う程にっ

「……転校するって言われただけ。挨拶じゃねえよっ。まともに口を利いたと言や……卒業式のリハーサルだな。前日に生徒会だけでやったろ? あん時くらいだぜ。教室にいる時より、ずっと喋ってんだもんなあ。生徒会は楽しくやってたんじゃねえかな♪」

(……朴念仁っ)

「……? 金田(かねだ)、何か言ったか」

 

 和泉とのやり取りを聞かれ、はじめは今では懐かしい3月まで記憶を遡る。金田(かねだ)の三眼目が不満そうに糸目と化し、無言だ。

 

「……教室にいる和泉さんは知りません……でも、相手がはじめちゃんだからこそ、転校を教えてくれたのではないでしょうか……。貴方と話すと気が楽になると言いますか……悩みを打ち明けやすいのです。……いっその事! 悩み相談事務所でも始めれば、良いのではありませんかっ」

「生徒会の仲間がいなくなったくらいで、……何を怒ってるんだ? お前……もしかして、和泉が好きだったのか? それで、最後に話をした俺に嫉妬か?」

 

 眉間にシワを寄せ、金田(かねだ)はまるで美雪のような小言振りを発揮。はじめがからかった瞬間、彼はギョッとなる。しかも、足まで止めた。

 

「好きだったのですか? 自分……和泉さんが……」

「そこ? え、本当に分かんねえの? 今のお前……紅さんに妬いてた時と同じだぜ……っと。すいやせんっ、前を見てなかった……!?」

「ウフフフ、良いのよ。金田一君っ」

 

 金田(かねだ)は己の恋心に全く気付かず、愕然。はじめはケタケタッと指摘しながら、前も見ずに進んだ為に自転車の前カゴが通行人に当たりかける。詫びた瞬間に相手を確かめ、ビックリした。

 神奈川県警の(かや) 杏子(きょうこ)警部。蠱惑的な色気を振り撒き、滑らかな手に謎の木箱を大切そうに抱える美女だ。

 

「茅さん、久し振りっ。去年の夏以来っスね。……その箱も相変わらず……」

「覚えててくれて、嬉しいわ。お久しぶり……元気してた? この子もアナタと会えて、喜んでるみたい」

「……はじめちゃんの元カノですか? 学生には見えませんし、社会人の方と不純異性交遊は感心しませんねっ」

 

 箱を愛おしげに撫でながら、茅警部は微笑む。去年の夏休み、はじめ達が参加した秘報島「お宝探しツアー」でも持ち込んでいた箱。当時の彼女は潜入捜査中であり、箱へ銃を忍ばせていた。今はナニが入っているか、知らない。

 気にすべきは金田(かねだ)のとんでもない誤解だ。

 

ちげ~よ、この人は神奈川県警の刑事さん! 去年の夏休みに知り合ったんだよ! コイツは同じ学校……制服、見りゃあ……分かるか、金田(かねだ)って言うんス」

「……神奈川っ」

「もしかして、金田(かねだ) (いち)君? 丁度、良かった。アナタに話が……」

 

 はじめがお互いを紹介した途端、金田(かねだ)の表情が強張る。茅警部が親しげに声をかければ、彼は即座にヘルメットを着用し、原付バイクを押していく。

 あまりにも早業、はじめは気付くのが遅れる。急いで手を伸ばし、バイクの後部を掴むのが精一杯だ。

 

金田(かねだ)、失礼過ぎんだろっ。茅さん、お前に用事があって……神奈川から来たんだぞ。お前のお母さんがいなくなった件で進展が……!?」

金田一(・・・)君……知っていたのですね」

 

 指摘通り、はじめは知っていた。

 金田母子は横浜で中学校時代を過ごし、去年の2月に母親が失踪した事。事件性もない為、道警の銭形(ぜにがた) ケンタロウ刑事が独自に彼女の行方を捜査している事もだ。

 だから、茅警部の登場に何かしらの期待がある。それを伝えたつもりだが、ヘルメットから覗く金田(かねだ)の三眼目は問答無用の拒否。寧ろ、吹雪のように冷たい眼差しだ。

 

「……明智警視から連絡を頂いたの。私の権限で出来る限りの事をするわ。金田(かねだ)君の話を……」

「お断りしますっ」

金田(かねだ)! うお、危な!?」

 

 茅警部にも取り付く島もなく、金田(かねだ)は原付バイクに跨って発進してしまう。

 エンジン音に気付き、はじめは手を離して良かった。

 

 はじめは取り敢えず、茅警部とファミレスへ入る。本庁捜査一課のエリートたる明智(あけち) 健吾(けんご)警視が絡むならば、道端ですべき話ではないだろう。

 

「俺、金田(かねだ)の爺さんから……ちょっとだけ事情を聞いてるんス。道警の銭形さんも金田(かねだ)のお母さんを探しているって」

「……そう、その銭形警部補……先月、神奈川警察署を訪ねていたみたいなの。アナタ、私を紹介してなかったでしょう? だから、他の人が追い返しちゃったのよね。あっ、責めてるんじゃないわ。こればっかりは……規律の問題もあるの。コーヒー頼む?」

 

 本庁捜査一課の持つ権力は地方警察にも影響があり、効果覿面。はじめもつい先日、青森県警相手に利用させてもらった身。だから、一介の警部補では正式な捜査協力の段階を踏まなければ、他県警は動かない。銭形警部補の憤りを今、感じ取った。

 

「明智さんからの連絡って、いつですか?」

「昨日よ。剣持警部から紹介されたと聞いたわ。アナタが悲報島の事件を解決した時、身元引受人で来てくれたじゃない? 覚えててくれたみたい」

「茅さん、美人っスもんね。……でも、金田(かねだ)に何を聞くんスか? 同じ神奈川県警に聞いた方が早いんじゃあ……」

「書類は簡潔にしか書かないし、この子も納得出来ないわ。担当した警官には勿論、話を聞くつもりよ」

 

 昨日、金田(かねだ)は学校を欠席。

 明智警視と会っていた可能性が高いが、母親の失踪とは別件な気がする。唐突の悪寒に震えた。

 

金田(かねだ)君はアナタに何も言ってないのね」

「……はい」

 

 金田(かねだ)は出会ってから一度として、はじめを頼らない。何も相談して来なければ、何も聞かない。

 金田家の縁者を巻き込んだ北海道2つの事件。

 老夫婦ははじめへ感謝してくれたが、金田(かねだ)自身の気持ちを打ち明けられた事はない。その矜持は自らの死を予感しながらも、愛の為に逃げ出さなかった時田(ときた) 若葉(わかば)を連想させた。

 不意に腹の傷が痛み、配膳されたコーヒーにミルクと砂糖を入れて飲む。苦味から、はじめは横浜に他の心当たりがあったと思い返した。

 

「俺の知り合いに結城 英作って開業医がいます。名刺もらってるんで、頼ってみてください」

「開業医……!? それは助かるわ。身元不明の患者とか……情報を得られるかもっ」

「銭形さんにも……連絡するんスよね?」

「……ええ、勿論よ。色々と確認したいし……あら、……この子。あの救急車が気になるの?」

 

 結城(ゆうき) 英作(えいさく)医師はタロット山荘殺人事件でも、はじめに協力的な姿勢だった。頼りにしても良いだろう。

 茅警部の安心する答えを聞いた瞬間、微かなサイレンが聞こえる。赤いランプを点灯させ、救急車が道路を通り過ぎる。はじめは何気なく、視界に入れた。

 ゾワッと背筋に悪寒が走る。

 

(なんだ……この嫌な感じ……)

 

 だから、見送った。見えなくなるまで見送った。

 去り行く救急車に硫酸を被った不動高校の女子生徒がおり、聖正病院へ搬送中。そんな事実を今日のはじめは知りようがなかった。

 

 ――さながら開幕ベルのようなサイレン、はじめを『オペラ座館』で繰り広げられる3つの惨劇へ誘っていた。

 




佐伯「佐伯……航一郎です。え~なんで俺が次回予告? 刑事の女が予告やりゃいいじゃん。……もう~っ。さて、次回は『秘宝島殺人事件の刑事‐銭形 ケンタロウ』!! 銭形? 誰だ……お前?」

神奈川県警の茅 杏子警部
箱を持つ妖艶な美女、短編にも登場。箱の中身は誰も知らない


ミステリールポライター・白神 海人
オペラ座館殺人第三の殺人事件、ゲストキャラ。作中にてミス研の講師

2年4組・鈴森 笑美
氷点下15度の殺意、ゲストキャラ。作中にてスキー部と掛け持ち中

ミス研会長の桜樹 るい子
学園七不思議殺人事件、ゲストキャラ

岡持 武則
瞬間消失の謎、ゲストキャラ。実家が弁当屋

真壁 誠、鷹島 友代
学園七不思議殺人事件より登場、準レギュラー

2年5組・千家 貴司
首吊り殺人学園事件より登場の準レギュラーだった

伊志田 純
不動高校学園祭殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、ミス研に協力中

顧問の歴史担当・須貝先生
天草財宝伝説殺人事件、モブキャラ。作中にてミス研、顧問
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