金田少年の生徒会日誌 作:珍明
だが、
「どうして、話してくれなかったんですか? 銭形君っ」
「……明智警視、僕にも守備義務があります。それに金田 にいみには捜索願が出ています。調べれば、すぐに分かります」
「……確かにっ。私も金田君には伯父以外にも……何か、事情があると思っていましたよ。しかし……氷室画伯の妹が背氷村の事件前に行方不明っ。それに高遠の本当の父親が関与していないと言い切れますか?」
「2つの事件はあくまでも、金田家が偶発的な関わり合いを持っているだけです。綾辻の周囲も調べましたが、金田 にいみの影はありませんでした。仮に件の男と交友関係にあったとしても、その人が高遠に殺人教唆したワケじゃない。……明智警視、これでは事件とは呼べないんです」
説明しながら、銭形は苦悩する。明智警視の持つ権限は欲しいが、事件性のない捜査に巻き込めない。彼は寧ろ、ロス帰りの感覚でやり過ぎる傾向にあるのだ。
一介の高校生と『地獄の傀儡師』の面会をセッティング要請した時点で十二分に理解した。
出来れば、穏便かつ内密に捜査したい身として明智警視は兎に角、目立つ。
協力してくれるならば、銭形のやり方に任せて欲しい。そんな贅沢な考えがあった。始末書処が怖いのかと聞かれれば、NOと答えよう。
――だと言うのに現在、銭形は明智警視が運転するベンツの中。
茅刑事と待ち合わせ場所、結城診療所へ向かう途中である。
高級車、エリート上司の運転、緊張感に背筋はピンッと張り詰めるが、助手席の段違いな座り心地に睡魔も襲って来る。正に試練だ。
「銭形君、残間さんに幼馴染の話は聞けましたか?」
「エコー写真をくれた人なら、7・8年前から連絡が取れないそうです。名前も分からないと言われました」
「……幼馴染ですよね?」
「ずっと渾名で呼んでいたから、本名を忘れたと言うんですよ。信じられますか? 大の大人が……その渾名も「そら」とよくある名前でしょう? 残間のご両親にも確認を取りましたが……そんな感じの友人が多すぎて、どの人か判断できないとっ」
実の息子から情緒不安定と評されるのは5年前の悲劇が原因ではなく元々の性格。そんな失礼な考えを抱いてしまい、必死に振り払った。
「ただ、高遠の父親……と言うより、出入りしていた男性の可能性が高いです。その人も……
「……それを先に言ってください」
悪い報告を先にしたが、明智警視はお気に召さなかった。
住宅地ど真ん中の診療所、駐車場に他の高級車を発見。ホンの少し安心した。
「本庁の明智です」
「道警の銭形です」
「お会いするのは初めてですね、明智警視。そして、銭形警部補っ。初めまして、神奈川県警の茅です。本日はご足労おかけいたします」
「早速ですが、ご報告致します。結城院長の伝手で二神 育子を呼んで頂けました。この方は別の病院に勤める医師ですが、金田親子の住まいだったマンションの名義人です。院長室でお待ち頂いております」
「助かります。茅警部はお仕事が早いっ」
(え? 明智警視……あの木箱に目もくれない!?)
院内を歩きながら、全く自然な会話。すれ違う看護師や患者はキラキラと眩しい2人を刑事だと思わず、ボ~ッと見惚れる。気後れした銭形はちょっと距離を空けた。
院長室は整然とし、目に優しい家具の配置は持ち主の性格の良さが窺える。
「初めまして、結城と申します」
「二神です。お話は聞いているでしょうが、別の病院で院長を勤めています(う~ん、良い男が2人♪)」
理知的な眼鏡の
「銭形です。本日は……」
こちらも簡単に自己紹介し、結城院長に勧められるままソファーへ腰かける。湯吞みまで用意されたが、明智警視と茅警部は手を付けない。銭形だけ、そっと飲む。
「二神医師、金田 にいみの失踪についてお話を伺いに来ました」
「……!? 結城さんっ。警察との事情聴取に立ち会ってくれって……てっきり、青森の事件かと思いましてよ」
「間違ってないでしょう? 二神さん」
明智警視の単刀直入な用件を聞き、二神医師は不機嫌。全く動じない結城院長、肝が据わっている。流石だ。
「まあ良いわ。寧ろ、今更って感じね。あの時は警察関係者なんて、誰も聞きに来ませんでしたもの。精々、金田さんの元亭主ぐらいだわっ」
遅い、手厳しい言葉だ。
「書類上、金田 にいみと友人関係にあると記載されています。間違いありませんか?」
「……ええ、高校からの付き合いよ。と言うより、彼女の母親は私の中学校時代の恩師なんです。その縁で仲良くさせて貰ったわ」
「まあ、長いお付き合いですこと」
「私自身が結婚して横浜に移り住んでから、金田さんとは年賀状のやり取りをする程度で……ほとんど疎遠ね。それが4年前にいきなり、連絡が来てっ。好い物件を紹介してくれと言うから、部屋を貸して上げたんです。その頃、私自身が海外出張に行く話もありましてね。部屋を空けるので留守番にも丁度良くっ。ちゃんと賃貸契約も結んだわ」
茅警部の静かな問いが、二神医師の饒舌さを際立たせる。木箱に気を取られてか、尖った眼鏡の奥の視線がチラチラとそちらへ向けられ、言葉が少しだけ乱れる。
まるで木箱がこの場を支配している雰囲気。
「3年も続く出張ですか? 院長なのに……」
「出張は1年で終わったわよ。別居していた夫に寄りを戻そうって……新居も建ててくれるって言うし、ついね。ああっ、夫も医師よ。副院長を任せてるわ」
銭形が補足を求めれば、二神医師は勝手に伴侶の話をして照れ出す。
「マンションのお部屋は?」
「私の部下で海谷と言う医師を住まわせてるわ。金田さんと面識はないけど、お会いになる?」
「ええ、是非。部屋へ伺いたいと思います。今の状況も見たいのでっ」
かつて金田親子の住まいを見られる段取りが組め、有難い。3人で組めば、とんとん拍子に進む。銭形が単独で動いていた頃の虚しさが、今になって胸に沈んだ。
「家賃の支払いに問題はありませんでしたか? 生活苦の恐れは?」
「ありませんっ。金田さんはフリーのマットペインターだったんですが……暮らせる分だけ、キチンと稼いでいらしたわ。ローズグランドホテルをご存じ? ロビーの壁に描かれた絵、あれは金田さんの仕事なんですの」
マットペインターの職業に血筋を感じたが、あのローズグランドホテルとの関わりは個人的にも驚く。
「……2年前のオープン直後に放火されたホテルですね。死傷者は出なかったものの、オープン記念に催された世界薔薇博覧会を中止にせしめた痛ましい事件です。……金田さんも火災の被害に?」
「いいえ。火災が遭った日、車に当て逃げされたんですって。軽い脳震盪を起こしている間に逃げられて、警察を呼んだり、事故の対応に追われて。折角、ホテル側から招待されたのにって、珍しく愚痴っていたわ。火災に遭うよりマシだと諫めたけどね」
「当て逃げの犯人は逃走したままだと? ……? 明智警視、その日……ホテル付近でも交通事故がありませんでしたか?」
明智警視は火災当日の記事を読み上げる口調。
酔った出展者・薔薇園経営者の
スクリンプラーの誤作動で初期消火が遅れ、展示されていた貴重な薔薇は全焼。
火の手は会場ホールの階を覆ったが、火災報知器は正常に作動した事、従業員の避難誘導の迅速さにより、死傷者は奇跡のゼロであった。
夜間の火災に記憶が触発されて、銭形は昼間の交通事故が思い当たる。
「ええ、2台の乗用車による衝突事故です。元社長の皇 翔の過失で車両は炎上、相手の美咲 蓮花は薔薇博覧会の出展者でしたが、肝心の青薔薇は焼失。博覧会の目玉だったそうです……当時は高校生だった娘さんも火傷を負ったと記事にありましたっ。皇氏は生憎、打ち所が悪く……病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認され、被疑者死亡の書類送検になったはずです」
「……そんなスラスラとまあ……けど、そう……。同じ日にそんな事故が遭ったのね。その辺は知らなかったわ。でも、金田さんには関係ないわね」
「……そう、ですね。すみません、話が逸れました」
明智警視にスラスラと説明され、二神医師も絶句。銭形は何故か引っ掛かったが、思い付けない為に事情聴取へ戻した。
「マットペインターでしたら、映画関係の伝手が多いと見受けられます。……そう言ったお話は?」
「金田さん自身じゃなくて、お父上の伝手でやったようなモノよ。元スタントマンだもの。今の大御所俳優や映画監督にも、顔は利くわ」
茅警部に答えるが、二神医師はいつまでも天才画伯の名を出さない。知らないのか、あえて伏せているのか、追究は控えた。
「ところで金田さんのお子さん、名前は忘れたけど……お元気?」
「はい、アナタの恩師だった金田先生と暮らしていますよ」
「……何か、気になる点でも?」
二神医師は明智警視の答えに眉を寄せ、後悔を露わにする。銭形が問えば、彼女は気まずそうに指遊びし出した。
「……その子に頼まれたのよ。家賃はちゃんと払うから、部屋を貸して欲しいっ。東京になんか、行きたくないって……。私、父親に引き取られたんだとばかり。……まさか、金田先生とはねえ。いえ、あの方……教師だったから、世間体を凄く気にするのよ。そもそも、金田さんが横浜を選んだのも……離婚は反対っ、出戻りなんて許さないって、金田先生に追い払われたとかっ」
「……っ」
孫は横浜の暮らしが幸せだったと言い放った金田老を思い返す。母親がいなくなっても、息子はここでの暮らしを諦められず、二神医師へ頼み込む。そんな必死な様子が想像できてしまった。
「断ったんですか? 二神医師。それとも……彼は無理矢理、東京へ?」
「……私が断ったわ。医者の勘って言うのかしら……あの坊やを1人にさせたら、危険だと思ったのよ」
「英断ですよ。二神さん、私がそこにいたとしても同じです。アナタは立派な事をしました」
動揺を隠し、銭形は更に問う。結城院長のご指摘通り、二神医師は英断を下した。
不動高校に名探偵の孫がおり、こうして幾人もの警察関係者と繋がりを持つ。良い方向に転じたと銭形はそう、信じた。
「金田 にいみは二神医師以外にも、横浜に親しい友人を?」
「さあ、覚えがないわねえ。でも、私に頼るんですもの。いないんじゃありません? そんな人嫌いが……あんな良い男と結婚なんて、ビックリよ。あの顔で私より年上だしな……そう言えば、どうして離婚したのかしら? 本人に怖くて聞けなかったけど……刑事さん達は何か、ご存じ?」
茅警部の質問を最後に院長室での事情聴取は終わり、金田家の確執を知っただけの後味の悪い結果となった。
「そうそう、刑事さん。彼女、よく青い……藍色かしらね、そんな色のワンピースコートを着ていたわ。元亭主が婚約指輪の代わりに買ってくれたお気に入りだそうよ。今も着ているかもね」
(婚約指輪の代わり?)
「……ご協力、感謝します」
ついでと言わんばかりの情報提供。内容は兎も角、先に教えて欲しかった。
明智警視も愛想笑いが消えている。
「
駐車場まで見送った結城院長は本当に良い人。これだけは確かだ。
今度は茅警部を助手席にマンションを目指し、明智警視は発進。木箱がカサカサと音を立て、銭形はゾッとする。
「ウフフフ、この子も喜んでいるみたい」
「……二神医師は例の男性が出入りしていた事実を知らなかった。訪問は深夜の時間帯とも考えられますね。銭形君っ」
(ええ!? この至近距離でも、木箱を気にせんか? 音もさっきより大きいし!)
茅警部が木箱を撫でても、明智警視は知らん顔。驚きのあまり、叫びそうになった。
「……ああ、金田君の証言にあった男性ですか。担当した警官にも話を聞きましたが……駆け落ちと決め付けた言い方でしたわ。銭形警部補、これが当時の資料です」
「どうもっ」
「読み終わったら、見せてください」
コートの隙間から書類を取り出し、茅警部は手品師か何かと思おう。銭形は受け取った資料の文面に苛立ちが募り、ため息を殺した。
「……!? 一週間も帰って来ず、祖父母の到着を待ってから……通報? 通帳、免許証、自家用車のキーが置いてあるなら……自己判断による家出だと……?
「正しくは神奈川県警を……ではないでしょうか? 先日、金田君にお会いしたんです。逃げられちゃったわ……金田一君も引き留めてくれましたけどね」
「!? そうですか、金田君は茅警部と会って……逃げたっ。彼も今更と思っているかもしれませんね」
当時の金田少年へ感情移入するなど、刑事にあるまじき行為だろう。
それでも、銭形はその場にいなかった我が身を呪う。茅警部の肯定や明智警視の驚きがある種の共感を呼び、落ち着きを取り戻した。
「銭形警部補。彼女のご両親からお話とか、聞けまして?」
「父親からは失踪に関して、神奈川県警へ聞くようにとっ。母親は娘の話題を避けていました。明智警視の方は何か聞いていません?」
「……以前、世間話を少し……。彼女の居場所を訊ねたところ、その場にいた金田君は自由奔放だと答えましたよ」
自由奔放、それは銭形も金田刀自から聞いた言葉だ。
マンション近くの有料駐車場へベンツを置き、明智警視は資料を一気に読み切る。頭に叩き込んだかと思えば、茅警部へ返した。
古くも新しくもなく、周囲の住宅に溶け込んだ建築物。徒歩圏内にはスーパーマーケット、遊具のある公園、4階の外廊下から見渡せば、遠くに校舎も見える。成程、親子には立地条件の良い物件だ。
「……海谷です。院長から連絡のあった方々ですね。どうぞ……」
「海谷さん、ここは素敵なお部屋ね。この子も機嫌が良いわ」
「……はあ、まあ……元は院長が選んだ部屋ですし……場所は良いんですよ。それに……前に住んでいた院長の恩師の娘さんって人がかなり改装しちゃったみたいで……。他より、雰囲気も良くなったとか……アハハ」
(……海谷も木箱に動じてない!? 僕がおかしいのか?)
リビングに案内され、茅刑事はクスクスッと笑う。木箱を物ともせず、海谷医師は困ったように愛想笑い。その間、明智警視は勝手にベランダへ出て、物色中。
「誰がどの部屋を使っていたか、分かりますか?」
「いえ、そこまでは……僕が引っ越して来た時には完全に空き部屋でしたし。部屋の鍵も交換したんで……」
残念。しかし、海谷医師は自らの書斎件寝室、和室、各部屋、浴場やトイレまで包み隠さず、見せる。まるで物件内覧を受けた気分だ。どうやら、二神医師の指示らしい。
「でも、電話番号はそのままにしてあります。その人から連絡が合ってもいい様にって……と言っても、無言電話が1回あっただけです。しかも、今月入ってすぐに……」
「それは海谷さんがここに住まわれてから、無言電話以外の電話がかかった事がない。という意味ですか?」
固定電話を指差した後、海谷医師は緩慢な動きで記憶を辿る。明智警視の遠慮のない質問にも「PHSがありますから」と呟くような返事をした。
金田親子が暮らした時の電話番号を変えない。二神医師も少なからず、後輩の身を案じているのだ。
「発信元は分かります?」
「公衆電話でしたねぇ……」
「……そういうの、分かるもんですか?」
「銭形君、ここは横浜ですよ」
茅警部の確認に海谷医師はさらりと答え、銭形はふと疑問に思う。
明智警視からヒントめいた口調で囁かれ、今年の1月から開始された「発信電話番号表示サービス(試験)」に思い当たる。地域限定な上に馴染みが無さ過ぎて、すっかり忘れていた。
「前の住人を訪ねて来た人はいませんか?」
「あ~……他の住人と仲良くやってみたいです。僕が引っ越してきた当初……その人達が戻って来たと思って、他の部屋の方々が様子を見に来ました」
「ウフフフ、来てるみたいよ。ご近所の方……」
「!?」
明智警視の質問に海谷医師がゴニョニョと答えた時、茅警部は玄関を一瞥。銭形がそっとドアスコープを覗くと、確かに数人がこちらを見ていた。
彼らは警察の身分を明かせば、それぞれが金田親子の印象を勝手に語り出した。
母親は陰気で挨拶も禄にしない。中学校の保護者役員も人を上手く利用し、逃れていた。
息子は礼儀正しく、マンションの半年に1回の集会、町会のイベント行事にも積極的に参加。市内の高校受験にも受かり、高校の制服を買いに行くのを楽しみにしていた。
そんな日常的な様子を聞けば、幸せな暮らしだと分かる。だが、中学校の同級生などを部屋に招く事はなく、担任の先生が家庭訪問に来ただけだそうだ。
「正直、お母さんは家を空けがちで……あの子、独りで暮らしているようなもんでしたよ。だから、何日も帰って来なくても……問題が無いように振る舞って……あの子、本当は何か、言いたかったんだと思います」
「若い警官が来たけど、あたしらの話なんか聞きゃしませんでしたよ。玄関先だけ見て、さっと帰って行きましたわ」
「この辺は酔っ払いが家を間違えるとか、お年寄りが迷子になるくらいしか、警察の出番はなくて……深刻な事態だと、誰も受け止めてくれなかったんです」
行方不明時の詳細も聞けたが、茅警部の悲しげな表情はこちらも胸が痛む。
もう十分な証言が取れた。
海谷医師とご近所の方々へ感謝しつつ、銭形達はエレベーターに乗り込む。戸が閉じた3人だけの空間、ふ~っと息を吐く。
「
「……可能性はありますが、今のままでは断言出来ません」
やるせない思いが銭形の胸を締め付ける。明智警視の冷静さに救われた。
マンションの敷地外へ駐車しておいて良かったと思う。
「玄関に一番近い部屋が金田君の寝室でしょう。例の男性は寝込んでいる彼へ話しかけた。母親は基本、客人を招かなかったなら……男性は不法侵入した可能性もあります」
「あ……最初はそうやって入って来たから、仕方なく……招くようになった? ご近所の目もあるから、深夜を選んでいたとか?」
「……その辺りを書いていませんが、それは金田君に聞いたのかしら?」
茅警部の為、例の男性が『地獄の傀儡師』の父親と言う憶測を聞かせる。流石にギョッとされた。
「……ねえ、銭形警部補。その男性が出入りしていたと……金田君の父親は知っていて?」
「知らないでしょうね。僕も言ってません。ご近所の方も男性の訪問を知らなかったようですし……金田君は警察以外、誰にも言ってないと思います」
残間へ遠回しに元妻の男性関係を問えば、本当に泣かれた。ただ聞くだけで涙腺が緩むなら、息子も言えないだろう。そうやって言えない状況が続き、彼は口を閉ざしたのだ。
「例の無言電話、こちらで調べておきます」
「お願いします。私の方でまたご家族に当たってみます」
公衆電話からの無言電話。
何故だろうか、息子が母親の帰還を願ってかけた可能性が一ミリも浮かばない。
「そして、茅警部……アナタだからこそ、打ち明けますが……金田 にいみは氷室 一聖……あの天才画伯の妹です」
「!? 亡くなっていた悲劇の画家? 背氷村事件の前に……その妹が失踪……。明智警視がこうして動くなら、当事者との接点はなかった……そう言う事ですね。……そこに来て、『地獄の傀儡師』……何だが、糸が絡みついているみたいで……スッキリしませんね」
「はい、彼女は2つの事件の当事者と繋がりがあるだけ……。残念ながら、これでは事件として扱えません。銭形君はそれを分かっていても、独自に捜査を続けて来ました。……背氷村の事件直後なら、私も相手にしなかったかもしれません」
驚愕の事実を知り、茅警部も息を呑む。木箱がカサッと音を立て、銭形は先日の叫びを思い返す。本当はあの4人へブチ撒けたかったはずだ。
愛する者を失った悲しみと絶望は未だ終わらない。それを目の当たりにした。
「でも、僕は金田 にいみを探したいです。兄と同じ末路にさせず……
銭形 ケンタロウは改めて宣誓する。自分だけの誓いを明智警視や茅警部へ表明し、己を戒めた。
「……先日、金田君の親戚の方とお会いしました。……その方が言うには彼の心の中に『雪夜叉』がいる。いつか……吹雪が荒れ狂えば、誰かを手に掛ける。そうならないように見守って欲しいと頼まれました」
「明智警視!?」
正に銭形が
明智警視に告げた相手が金田刀自の弟だと後に知る。今は同じ見解を持つ仲間を得られ、安心感。否、金田少年の心がいつまでも持たないと知らされたに等しい。
「茅警部、これは長引きます。お付き合い頂けますか?」
「ええ、勿論。ねえ、アナタもそう思うわよね……」
麗しく微笑み合う美男美女、不審な木箱が邪魔。
「その箱は……っ」
「失礼っ。はい、明智です。……剣持君? いえ、私に連絡はありません。……ああ、それなら……金田一君のお宅へ連絡なさい。彼が不在なら、遠出されているんですよ。ええ、はいっ。ではっ」
銭形が質問した途端、明智警視の携帯電話が鳴り響く。聞こえる限り、彼の部下の行方を捜している。絶対にどっかの名探偵の孫巻き込んだ事件捜査だろう。
「剣持警部は……この件に? 協力して下さると思うのですが……」
「いいえ、黙っておきます。金田君はただでさえ、この件に過敏な状態です。これ以上、彼の周囲に勝手な捜査員を増やさない方が良いでしょう。それに剣持君に懐いています。警戒しなくていい大人を……彼から取り上げたくありません」
「確かに僕もよく警戒されます」
茅警部の提案を明智警視は個人的な感情を含め、拒む。そして、金田少年が銭形を発見した時の冷や汗を掻いた態度を思い出し、笑いが噴き出しだ。
「銭形君の場合、叱り過ぎですっ」
「
「ウフフフ、そう……アナタも面白い?」
明智警視に図星を突かれ、銭形は反論。茅警部は殊更、可笑しそうに木箱へ頬擦りする。
木箱の正体は誰にも語られないまま、終わった。
クリス「クリス・アインシュタイン……です。次回予告、他の人で良かったんじゃないか? え? ボクがソロモン王の末裔だから……丁度いい? ぐぬぬ……さて、次回は!! 『飛騨からくり屋敷のどんでん返し』!! どんでん返しが通じない人、多いらしいね」
二神 育子、海谷 政夫
アニメ版吸血鬼伝説殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、二神は金田 にいみの先輩にして金田祖母の元教え子
結城 英作
オペラ座館殺人事件、オペラ座館第二の殺人事件、タロット山荘殺人事件に登場。本当に善良な医者。
元社長の皇 翔(事故死)、薔薇園経営者・小金井 睦(服役中)、薔薇ブリーダーの美咲 蓮花(生存)
薔薇十字館殺人事件ゲストキャラ。作中にて、ホテル火災後は別の現在を迎えている