金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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神矢 修一郎視点、オリ主不在回です
原作でも七瀬を「美雪さん」と呼んでいる為、文章も「美雪」にしています

誤字報告により、修正しました


21話 オペラ座館殺人事件・前編

 神矢(かみや) 修一郎(しゅういちろう)は演劇部の照明係、舞台を照らす役割故に特等席へ立てる。正に役得だ。

 だが、今はクラスメイトを見舞いに病室の椅子へ座る。

 ベッドに横たわる金田(かねだ) (いち)はバイク転倒事故を起こし、意識不明。彼は瞼を閉じ、寝息も立てない。昏睡と言うより、機能停止。そんな表現がピタリと合う。

 

金田(かねだ)、今日は……衣装係の奴が辞めたよ」

 

 素っ気なく伝えても、金田(かねだ)からの反応はない。

 音響係、ウバルド役、支配人役……合わせて8人。顧問の緒方(おがた) 夏代(なつよ)先生に引き留められても、退部届を出した。

 月島(つきしま) 冬子(ふゆこ)と友人関係にあった者、立て続けの不運を恐れた者、理由は様々だ。

 修一郎は彼らの気持ちを理解し、責めない。

 

「俺さ、月島さんが好きなんだ。金田(かねだ)……知ってたか?」

 

 月島の輝きに惹かれ、恋心を抱くのに時間はいらぬ。彼女の立ち位置に合わせ、光を当てる。その度、修一郎の想いは募っていった。

 彼女のプリッとした唇が金田(かねだ)の名を紡げば、只々、嫉妬していた。鈍い彼はきっと、気付きもしなかっただろう。

 通し稽古で見せられた桐生(きりゅう) 春美(はるみ)のクリスティーン、確かに素晴らしかったと認めよう。

 それは怪人を演じた金田(かねだ)との息合いがあってこそ、惹き込まれた。

 あんな素晴らしい舞台を残った面子では演じられない。桐生には金田(かねだ)が必要だ。彼はそれを分かっていながら、倒れた。

 事故現場にいた副顧問の月島(つきしま) 亮二(りょうじ)先生は重い責任を感じ、慟哭。

 金田(かねだ)のせいだ。

 

(本当……ガッカリだぞ、金田(かねだ)っ)

 

 ブツけられない憤りを抱え、病室を去ろうとした。

 

「不動高校の方ね、どなた?」

 

 瞬間、見舞い客らしき老女が現れてビビる。どことなく、教師に似た雰囲気だ。

 

金田(かねだ)のクラスメイト、神矢 修一郎です」

「神矢君、お話は聞いているわ。初めまして、(いち)の祖母です。アナタとは去年も同じ組だったのでしょう。体育祭も一緒に走るって、張り切っていたのよ」

 

 さっと名乗れば、金田(かねだ)の祖母は警戒心を解く。金田(かねだ)は家族へ修一郎の話にしていたと今、知った。

 

「演劇部、今はとても大切な時期と聞いたわ。それなのに……(いち)がごめんなさいね。皆さん、不安でしょうに。この子が起きたら、叱ってあげて」

「……いえ、そんな……金田(かねだ)君は何も……」

 

 悪くない。

 それを言えず、お辞儀して去る。金田(かねだ)の祖母は修一郎の言い淀んだ気持ちを見通し、黙って見送ってくれた。とても後ろめたく、自分自身を嫌いになりそうだ。

 早く演劇部と無関係になり、解放されたい気持ちが強くなった。

 

 退部届を提出せんと普段よりも早く、登校。職員駐車場にて、緒方先生を待ち伏せた。

 そこへ物陰にいる月島先生と七瀬 美雪(ななせ みゆき)を発見。他にも髪を1つに結んだ男子生徒、おそらく噂の金田一(きんだいち) (はじめ)も一緒にいた。

 

「これが……金田(かねだ)のポケットに入っていたんですか?」

「……脅迫状? しかも……今回の劇と同じ内容だわ。警察には何と言いましたか?」

「……劇で使う小道具だと説明して、返してもらった。……警察沙汰になったら、部は本当にお終いだ。冬子、コンクールを楽しみにしている。今の生き甲斐なんだ……それなのにっ。俺はもう誰を信じればいいのか、分からない。もしも……犯人がいるなら、こんな事はやめさせたいっ。金田一、力を貸してくれっ」

 

 聞くとはなしに聞こえた会話、背筋が凍り付いた。

 金田(かねだ)は誰かに脅迫され、その果てに事故。月島先生は脅迫状の存在を隠す程、精神的に追い詰められていた。

 それ以上は聞けず、修一郎は慌てて去る。退部届どころではなかった。

 本日の授業後、残った部員に招集がかけられた。

 

週末は合宿へ行こう!

 

 提案する月島先生は朝方と違い、ハイテンションな笑顔。その腹の中で修一郎達へ疑惑の目を向け、苦悩している。当然の想いだろう。

 

「行きましょうっ」

 

 夏休み予定だった合宿を変更し、校長も説得したと言う。月島先生の犯人捜しに執念を感じ、恐怖。修一郎は潔白を示す意味も含め、朗らかに笑って見せた。

 裏事情を知らないはずだが、全員参加を選ぶ。胸を撫で下ろし、皆へ深く感謝した。

 

 金田一の存在に思った以上の効果があった。元演劇部の幽霊部員にして『オチコボレ』、人懐っこくて愉快な性格、本物の手品師が如く部長の布施(ふせ) 光彦(みつひこ)先輩をやり込めた。

 しかも、あの名探偵・金田一(きんだいち) 耕助(こうすけ)の孫。

 よくよく聞けば、旧校舎の事件も本来は金田一の手柄らしい。月島先生が頭を下げ、合宿に同行させた理由をようやく理解出来た。

 

 目的地の伊豆半島の東南。歌島は孤島故、クルーザー必須。

 リゾートホテル『オペラ座館』オーナー・黒沢(くろさわ) 和馬(かずま)が自ら操縦してお出迎え。急な予約変更にも応じて頂き、月島先生はニッコニコの握手にて感謝を示す。

 

「すげえ、傷跡ですね。ちょっと触っても良いですか? 俺、小道具係で傷の質感を勉強したいんです」

「ハハハッ、こりゃあ勉強熱心だっ。どうぞ、どうぞ」

 

 小道具係の有森(ありもり) 裕二(ゆうじ)に素材扱いされても、黒沢オーナーは快く承諾。初対面ながら、心の広さは十分に伝わった。

 世俗から隔離された大自然、陽射しや風が都会と全く違う。木々の間にある道を進めば、潮の香と混ざった独特な植物の匂いが鼻に付く。所謂、自然臭い。

 旅人を待ち構えた『オペラ座館』は森の奥に建つ。良い意味で年代を感じさせる威圧感、しかも本格的な劇場まで備え付けられていた。

 こんな広い建物にオーナーを含めて従業員は3人のみ。演劇部以外の客人は今、1人だけだそうだ。

 

「ここって……美雪ちゃんが予約したんでしょう~? こんな穴場、よく見付けられたね~」

「白神さんが紹介してくれたの。ほらっ、織江ちゃんも知ってるでしょ。ミス研の講師に来てる人♪」

((あのキザ男かよ))

 

 座席、照明、ステージ台、緞帳、音響室に感じ入る。ここを選んだ美雪にメグ役の日高(ひだか) 織江(おりえ)は称賛の嵐、金田一と布施先輩が途端に笑みを消した。

 

「ほおっ、白神さんの紹介でしたか……成程っ。この『オペラ座館』は彼……と言うより、彼の一族が以前、所有していた別荘だったんですよ。場所が場所なだけにずっと宝の持ち腐れでね、そこを10年前に彼のお父上から買い取ったと言うワケですっ」

「ええ!? あの白神さん、顔が良いだけじゃなく……名家の血筋?」

「白神って誰だっけぇ?」

「だから、ミス研の講師だよ。仙道、美雪さんの話を聞いてたか?」

 

 黒沢オーナーから衝撃の事実を聞かされ、早乙女(さおとめ) 涼子(りょうこ)先輩は意味深に唾を飲み込む。大道具係の仙道(せんどう) (ゆたか)はのんびりと今更な質問をした為、修一郎が答えておいた。

 

「緒方先生も来れば良かったのになあ、絶対に喜ぶぜ」

「……入院中の2人を放って置けないだろ」

 

 仙道と有森の会話を聞きながら、修一郎は知らずと桐生を視界に入れる。彼女にも聞こえているだろうが、さっさとステージ台へ立つ。歩幅の確認だ。

 

「こんな素敵な劇場、本当にタダで借りても?」

「ええ、見ての通りに古くてね。そこなんて、ドアが壊れているでしょ。来週には取り壊しますから、好きにしてくださいっ」

 

 月島先生は感激に問えば、黒沢オーナーはあっけらんかんとドアを指差す。その間、修一郎もステージ台へ立ち、照明を見上げる振りをした。

 

「桐生さん……合宿に来て、良かったのか? 心配だろ、金田(かねだ)が……」

「……私はクリスティーンを完璧にこなす。ただ、それだけよ。金田(かねだ)君が帰って来たら、稽古をサボっていたなんて言われたくないもの」

 

 会話が出来る距離まで詰め寄り、ずっと聞きたかった質問を投げかける。桐生はしっかりと胸を張り、迷いはない。その芯の強さを称賛し、修一郎は自分の弱腰な態度を恥じた。

 

「桐生さんは本当に……金田(かねだ)が好きなんだな」

え?

「「「え?」」」

「えっ?」

「「「え?」」」

「え?」

 

 何も考えず、思った言葉を口にする。疑問に満ちた桐生の返しが劇場へ響き、黒沢オーナーまで声を上げた。

 

「何でもかんでも……恋愛に結び付けようとする。……全くっ」

「……いや、だって……いつも、……すみませんでした……」

 

 ここに来て、桐生は初めて修一郎へ軽蔑の眼差し。本当に怖い。

 

「春美ちゃん、金田(かねだ)君が好きじゃないの~? 毎日、お見舞いに行ってたのにぃ」

「織江ちゃん! その話はっ」

「どなたか、入院でもされているんですかな?」

 

 ステージ台を見上げ、キャッキャッと日高はズケズケと桐生へ迫る。慌てて美雪が引き留めたが、黒沢オーナーに聞こえてしまった。

 

「……はい、怪人役です。彼には是非、ここへ……立ってもらいたかった。そう思わせてくれる役者ですよ」

「これ、そいつの稽古を撮影したテープです。合宿中の参考にしようと持って来たんで、良かったら……」

「……観させて頂きましょう」

 

 劇場を見渡し、月島先生は感慨深く告げる。そこに有森がビデオテープを差し出し、黒沢オーナーは律儀に受け取ってくれた。

 だから、早乙女先輩の微かな怯えを誰も気に留めなかった。

 

 晴天の天気予報は崩れ、雨が降る。

 稽古前に掃除、天井裏の照明機材は特に念入り。先輩も後輩も関係なく、水吹きと空吹きだ。

 錆び付いたネジもレンチで締め直しておく。

 

「神矢君、工具。先に下ろしておくわ。雑巾とバケツをお願い」

「ああ、桐生さん。頼むよ」

 

 準備を整えただけでヘトヘト。修一郎と仙道は出番も少なく、幸いだ。

 布施先輩が怪人代役となり、稽古開始。元々、メグ役だった日高は通し稽古の頃から上達せず、何度も指導を受けた。しかし、桐生のクリスティーンは変わらず、鮮やかな輝きを見せた。

 途中で暇そうな金田一がボーガンの矢を飛ばし、布施先輩を冗談抜きで殺しかけたのは愛嬌だろう。

 

「金田一、布施先輩に恨みでもあんの?」

「いや~はっは~、ねえんだけどなあ。しっかし、本物のボーガンを持ってるなんざ、先輩はスゴイっすね」

「頼むぜ、金田一。次は布施先輩(・・・・・・)とか、やめてくれよ」

 

 有森が呆れながら、ボーガンを没収。それを金田一はお道化、舞台にいる日高の緊張は解けたように見えた。そこに仙道の余計な一言、修一郎もゾッとした。

 早乙女先輩のカルロッタが台詞を終えた途端、スッと月島先生は休憩の合図。

 

「少し休憩にしよう。有森、次はラウルが登場するシーンだ。台本を見直しておけ」

「あれ、有森は小道具係だろ?」

「はじめちゃん、説明したでしょうっ。役者が足りないから、神矢君と仙道君も兼任してるのっ」

「結構、ラウルって台詞多いんだわ。ここだけの話、月島先生は金田(かねだ)が帰って来るって信じてるからな。この役は布施先輩のもんだよ」

 

 月島先生が劇場から離れ、金田一(きんだいち)を皮切りに私語開始。有森は台本と睨めっこしながら、ボソッと呟いた。

 

「ねえ、有森君。そのボーガンって女子でも使える~?」

「ん? ああ、使えるぜ。ここに矢を合わせて」

 

 日高はひょっこりと観客席へ下り、有森からボーガンの使い方を教えてもらう。片付けの際、危うく触れた時の対処を知りたがるとは意外だ。

 

「なあ、仙道。さっき、次は布施先輩って……もしかして、月島 冬子もそうなのか? 月島先生の妹……」

「うん、そう。『オペラ座の怪人』の配役が決まってから、2人も事故に遭ってる。旧校舎を解体した呪いだって言う奴もいたぜ~。その役に相応しい奴が順番にって……」

 

 金田一(きんだいち)はそれとなく会話しているが、完全に探り。脅迫状の犯人を見付けんと動き出し、修一郎も疑っている。

 

「役は緒方先生が決めるっ。……偶然だよ

「あっ、神矢君!」

 

 探られて痛い腹はないが、月島への想い、金田(かねだ)への憤りを見抜かれそうだ。美雪の制止も無視し、劇場を飛び出す。

 修一郎の宿泊部屋へ行く途中、黒沢オーナーに呼び止められた。

 

「お客様っ、ちょうど良かった。ビデオテープ、お返ししますよ。怪人役の彼っ、先生のおっしゃっていた意味が分かりましたね。実に素晴らしかったっ」

「有森……、眼鏡の奴に返してあげてください」

「……私で良ければ、聞きますよ。アナタの悩みっ、差し出がましいとは思いますがね。溜め込んでいては……感情はあらぬ方向へ行きます」

「……悩みなんて……ただ、皆……金田(かねだ)金田(かねだ)って……」

 

 差し出されたビデオテープを拒めば、黒沢オーナーは優しく相談を受けてくれる姿勢。それが余計に胸をざわつかせた。

 

「他に……気にかけて欲しい人がいるんですね?」

「……はい、その人はクリスティーン役だったんです。いつも屈託なく笑って、本当に……はまり役だったのに事故で出られなくなって、……それをなかったかのように代役を立てて……。頑張って来たのに……」

 

 誰かが邪魔をしている。

 月島先生は疑心暗鬼、修一郎は他を疑えずに怯えるだけだ。全て、月島の事故が発端。もしかしたら、それも故意によるものかもしれない。でも、被害者の彼女は黙して語らず。

 

「その……金田(かねだ)さんとクリスティーン役の子は……恋人(・・)とか?」

「いいえっ。絶対に、違います」

 

 予期せぬ質問をされ、修一郎は全力で否定。黒沢オーナーの表情が強張っていたが、事故を気に掛けてくれていると勘違いした。

 

「アナタは優しい人間だ。私には分かるよっ。考えるだけ、考えさない。吐き出したくなったら、いつでも私に言ってください」

「え? その……無駄な事なのに考えてもいいんですか?」

「良いんですよ。但し、吐き出すようにっ。言葉でね♪ マラソンがてら、走ってもいいでしょう。この島は広いので、走り甲斐がありますよっ。ハハハハハッ」

「……オーナー、ありがとうございます。少し、気が楽になりました」

 

 最後は冗談っぽく、黒沢オーナーは笑う。今日、初めて会った人なのに彼の言葉は胸へスッと入り込む。もしもここに金田(かねだ)と会えたなら、心配させた事を叱ってやれる。それだけ、心が穏やかになった。

 

 お言葉に甘え、修一郎は島内を走る。

 雨粒が頬に叩き度、自分の中の罪悪感が少しずつ剥がれていく。気付けば、濡れネズミ。台風並みの風が脳髄を刺激し、快感だ。

 ゴール地点を岬の上にある石塚。

 近くで見れば、4年前の日付が彫られていた。

 亡くなった黒沢オーナーの娘にしてクリスティーンを演じた舞台役者。悲愴な最期を遂げた彼女の墓だと修一郎は生涯、知る事はない。

 

 部屋のシャワーを浴びた後、夕食の時間。さっさと着替え、そそくさと食堂へ向かう。待ち構えていた月島先生に捕まり、雨のマラソンを叱られた。

 

「稽古を途中で抜けたかと思えば、何を考えているんだっ」

「まあまあ、先生。そのくらいして、早く食べようぜ。俺、お腹空いちまったよ。神矢は向こうな、テーブルに名札が付いてるぜ」

 

 ニッコニコの金田一が腹を触り、空腹アピール。

 それもそのはず、鶏肉や瑞々しいサラダ、ほのかな湯気が立つスープ、旨そうな洋食のディナーが食欲をそそる。他にも空席があり、七瀬の隣に修一郎の名札を見る。演劇部はこれで全員、揃った。

 最後に現れたのは他の宿泊客、眼鏡をかけた男性。黒沢オーナーより若く、月島先生より年嵩な印象だ。

 

「おや、久しぶりだね? 金田一君」

「「結城先生!?」」

「美雪ちゃん、こんなところでも知り合い~?」

 

 金田一と七瀬はギョッとし、嬉しそうな日高は興味本位で結城 英作医師をじ~っと見つめた。

 

「医者の結城先生よ、春休みに青森で知り合ったの」

「医者って、美雪さん……人脈広すぎよ」

「本当、美雪ちゃんって何者?」

「美雪ちゃんはねえ、一回知り合った人とは交友を欠かさないんだよ~♪ 上海にペンフレンドもいるくらいだもん」

 

 爽やかに美雪が結城先生を紹介すれば、桐生は感心。早乙女先輩はビックリ仰天。日高の付け加えには大いに納得。

 

いや~それ程でも~♪

「なんで金田一が照れるんだよ。美雪ちゃんの話だってのっ」

 

 だが、金田一の態度は意味不明。そこへ布施先輩がツッコミを入れた。

 

「引率の月島です。演劇部副顧問をしています。ウチの生徒がお世話になりました」

「私こそ、お2人と有意義な時間を過ごしました」

 

 大人同士の簡単な挨拶を済ませ、それぞれが頂きますと食事開始。結城先生が手術用の鉗子とメスを用いて鶏肉を切り分け様はゾッとした。

 

「「アハハ……、結城先生……器用っスね」」

 

 流石の悪ふざけの達人・金田一も青褪め、汗だく。有森と苦笑し合った。

 

「アレ、良いなぁ~」

 

 日高は食事よりも内装が気になるらしく、人形や時計、花瓶、スタンドをひとつひとつ、眺めては褒めた。

 

「七瀬さん、稽古の調子はどうだった?」

「良かったわ! 布施先輩、怪人の台詞をバッチリ覚えていてね。途中でラウルの台詞も交えて、1人芝居してくれたの」

「ありゃあ、見事なもんだったぜっ。部長やってるだけ、ありますね」

「なんだ、金田一。今頃、俺の凄さが分かったのか?」

 

 修一郎が稽古の様子を聞けば、美雪と金田一は布施先輩を称賛。彼も得意げになり、後輩の賛辞を受け入れた。

 

「でも怪人役はやっぱり、金田(かねだ)だよなあ」

(仙道……!? ちょっと黙ってろ……)

 

 この和やかな雰囲気の中、仙道はまたも余計な事を口走る。修一郎は彼に悪意がないと理解しており、叱るに叱れない。ガックリと頭を抱えた。

 

金田(かねだ)?」

「部員ですよ」

「彼は少し、休んでいるんですっ」

 

 結城先生の疑問には月島先生と桐生が答えてくれた。

 食事後、真っ暗になった外は完全に嵐。

 

オーナー♪ この時計、貸してくださ~い

日高さん。それは構いませんが、目覚まし時計じゃないですよ?

(天気予報、外れ過ぎだろ)

 

 修一郎は激しく叩かれる窓を見つめ、ここが孤島だと思い知る。就寝前の一稽古準備に取り掛からんと劇場へ急いだ。

 

……金田(かねだ)君が入院中

はい、1週間前に交通事故で……

 

 劇場内のライトを点灯させた時、結城先生と金田一の声が風の音と混ざって聞こえた気がした。

 布施先輩と日高がそれぞれの衣装に着替えた頃、美雪と金田一は音響室でスタンバイ、月島先生はステージ台から音出し方を指示。それを修一郎と仙道が観客席から反響音を確認。

 そんな中、早乙女先輩はやって来た。

 

「すみません、先生っ。遅れました……あら、桐生さんは? 私より先に行ったのに……」

「桐生? 布施、日高っ。そっちに桐生いるか?」

「いえ、こっちにはいません」

「いないです」

《どうかしましたか?》

 

 早乙女先輩の疑問に月島先生は舞台裏の2人へ確認し、修一郎と仙道も周囲を見渡す。桐生の姿はない。異様な気配を察し、金田一が音響室のマイクへ問いかける。

 

「桐生さんの部屋へ行って来ます。彼女の部屋は劇場に一番、近いですからっ」

「美雪さん、俺も行くよっ」

「オレもっ」

 

 美雪が小走りに向かい、胸騒ぎがした修一郎も着いて行く。桐生は誰よりも早く準備へ取り掛かり、遅れるはずないのだ。

 扉は半開きになっており、部屋は点灯していない為に暗い。カーテンと窓は開いており、豪雨が窓の付近を濡らす。だから、床へ倒れ伏した桐生、その首に巻かれた包帯、転がった眼鏡もハッキリと見えた。

 脳髄が視界に映る光景を拒否し、修一郎は悲鳴すら上げられない。

 

「……桐生さん!? 桐生さん、しっかりしてぇ~! はじめちゃ~ん!!

「!? 仙道、さっきの結城って先生を頼む……っ。仙道!!」

「あ……、ああ……」

 

 青褪めた美雪はゆっくりと桐生へ駆け寄り、必死に声を掛ける。その声に我を返り、修一郎は仙道へ頼む。彼はアワアワと怯えても、結城先生を呼びに行ってくれた。

 すぐに凛々しい表情の金田一が部屋へ駆け込み、桐生の傍へ寄る。まるで探偵のように冷静な目付きだ。

 

「どうした! 何があった神矢!」

「桐生さんが……仙道に結城先生を呼んでもらってます」

「春美ちゃんっ、大丈夫?」

「布施君! オーナーを呼んで来てよ! 桐生さんが襲われたの!」

「桐生が……!? 分かった……!」

 

 月島先生や日高も駆け付け、惨状を見やる。早乙女先輩の切羽詰まった声を聞き、布施先輩は事態を飲み込んで走った。

 

 結城先生の診察中、修一郎達は食堂へ集められる。夕食の楽しかった時間が嘘のように戦々恐々、祈る気持ちで結果を待った。

 

「桐生さん! 起きて平気なんですか!」

「春美ちゃんっ」

 

 そこに結城先生が桐生を伴って現れ、美雪と日高はすぐに傍へ寄りそう。

 桐生は弱々しく笑い、手振りで返す。誰かの安心した太い息が聞こえ、安心のあまりに修一郎も体の力が抜けた。

 

「ご覧の通りです。タオルで首を絞められた様ですが、それ以外の外傷は見当たりません」

「良かった~、桐生さん……。本当……ぐすっ」

「桐生、辛いかもしれんが……何があったんだ?」

 

 結城先生の診断に美雪は極まり、涙が零れる。金田一が無言で幼馴染の背を擦り、それぞれを椅子へ座らせた。月島先生は厳しい表情で問うが、桐生は頭を振るだけだ。

 

「ど、ドロボーかな?」

こんな孤島に!? けど、まあ……俺達以外の誰かだろうし……」

 

 怯えた仙道の呟きに布施先輩はビックリしたが、微妙に納得する。

 

「だとしても……台風並みの雨の中をどうやって逃げるんだ?」

「桐生の部屋は窓が開いてたが、外の泥濘に足跡はなかったぜ。仮に外から誰かが侵入したとしても、まだ……この館にいるって事だ」

 

 有森は疑問点を述べ、金田一はスラスラと答える。冗談抜きに、恐ろしかった。

 

「月島先生、全ての戸締り確認はしましたっ。誰かが侵入した形跡はありません」

「オーナー、ありがとうございます。警察を呼んだとしても……すぐには無理だ。今夜は皆、部屋から出ないようにっ。幸い、それぞれの部屋にチェーンも付いている」

 

 黒沢オーナーに報告され、月島先生は皆の顔を一人一人、見渡す。鋭い視線は修一郎達を疑い、表情から何かを見抜こうと探る。潔白の身ながら、恐怖した。

 

「あの……月島先生! 春美ちゃん……あたしと一緒に居ても良いですか? あんな事があった部屋じゃあ、寝れないだろうし……」

「そうだなっ。日高、頼めるか?」

 

 スッと手を挙げ、日高はナイスな提案。桐生も頷き、承諾した。

 

「……桐生さんの部屋、誰かいた方がいいんじゃない? 犯人が戻って来るかも……」

「犯人が戻ってくるような部屋に、誰がいたがるってんだよ! 早乙女君……まさか、俺に任せるつもりか?」

 

 震え上がった早乙女先輩は恐怖故か、とんでもない案を言い出す。布施先輩の気持ちは十二分に理解でき、修一郎も仙道と一緒に目を逸らした。

 

「……俺が見張るよっ。なんで桐生が狙われたのか……、場所が関係あるかもしれないしな」

「はじめちゃん、危険よ! この前だって、1人になるなって剣持さんに言われたでしょ!」

「なら、俺も一緒に居よう。交代で部屋を見張ればいい。早乙女、七瀬と一緒に居てくれ。七瀬の部屋は桐生の隣にある。万一に備えて置きたいっ」

「月島先生……、分かりました」

 

 金田一が勇敢にも名乗り出れば、美雪は大慌て。月島先生の提案を聞き、早乙女先輩は自身の口元をそっと手で覆った。

 




スタッフ1「どうも……、オーナーと同じコマにいたベタ塗った方です。久しぶりの大人数のお客さんに張り切ってたら、大事件に……。なんでこんな時に嵐が来るんだろ……。さて、次回は『オペラ座館殺人事件・後編』!! ……美しいピアノの旋律が聞こえる」

神矢 修一郎
照明係。月島の隠れファン、七瀬を「美雪さん」呼び。アニメ版では人嫌いで誰とも口を利かず、有森の立ち位置にされた。作中にて、オリ主の癒し的存在

演劇部顧問の音楽担当・緒方 夏代
男性陣を魅了し、事件現場でも物凄く冷静沈着。金田一に興味を持ち、IQや血筋を知っていた。作中にて、合宿に不参加

演劇部部長の布施 光彦
怪人役。金田一のだらしない噂を知る。部長に相応しく二枚目、台本の内容を読むシーンが無い事から、すでに覚え込んでいる。90年代、自宅に本物のボーガンを所持する家庭は珍しくなかった

仙道 豊
大道具係。気の優しい性格だが、唐突にぶっ飛んだ発言をする

黒沢 和馬
オペラ座館のオーナー、ひたすら良い人

医者の結城 英作
善良な医者。作中にて、金田一達とセカンドコンタクト。金田家の事情も少し、知っている
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