金田少年の生徒会日誌   作:珍明

67 / 143
実質、魔術列車殺人事件の後日談です

オペラ座館の事件後に容赦なく、期末テストする不動高校よ

リアル7月17日に投稿したかったけど全然、間に合いませんでした

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


25話 レストランでの殺人はお控えを

 17日、不動高校は期末テスト明けの休み。

 (いち)だけは学校へ登校し、午前中にテストを受ける。初日を病室で過ごした身なれば、本来は赤点の追試組と同じ扱い。それを校長含めた教職員皆様の有難い配慮により、段取りして頂いた。

 教室で教科担当の先生と1対1、真正面から監視されて拷問。答案用紙を埋めた瞬間に終了、追い立てられるように下校した。

 

……左近寺が亡くなったのですか?

「はいっ。今日、その人のソロマジックショーだったんです。竜二が観に行っていて、公演中に……っ」

 

 ピエロ左近寺(さこんじ)焼死ニュースは『大草原の小さな家』にて、お手伝いの竜太(りゅうた)が報せてくれた。

 本日のピエロ左近寺・ソロマジックショー、初公開の『無重力岩・天外燃失』を披露中にアクシデントを訴えたが、救出は間に合わずに死亡。次いで高遠(たかとお) 遙一(よういち)も失踪した。

 居合わせた警視庁捜査一課の剣持(けんもち)警部は現場に残り捜査中、明智(あけち)警視は北海道へ飛んだ。

 それらを聞き、(いち)は驚く程に冷静であった。

 

「……他にケガ人は?」

「報道には上がっていませんね。竜二に聞きましょうか?」

「おいおい、店員さん。こっちは食事中なんだ。人が燃えた話なんて、止してくれっ。なあ、一堂さん?」

「俺は平気っ、事故の話には慣れてるからっ」

 

 深刻に言葉を交わす中、眼鏡を掛けた男性客に睨まれる。先月からの常連客、今日は新規の方と同席もお願いしている。早速、仲良くなったのか、一堂(いちどう) 百太(ももた)の名を呼ぶ。彼はのほほんと返した。

 

「――失礼いたしました。気を付けます――」

「……わからりゃあ、良いんだ。可愛い格好して話す内容が物騒……? 聞き流したけど……アンタ、事故の話に慣れていると言うのは?」

「そういう目に遭った人達の話♪ 飯時だし、具体的には言わないでおくよっ」

 

 (いち)が粛々と謝り、男性客はため息を吐く。しかし、一堂の爽やかな発言を聞き、想像力豊かな人々は口を噤んだ。

 

「警察の方ですか?」

「そんな大げさなモンじゃないっ。俺……」

「お喋りばっかりしてないでっ、運んで!」

 

 一堂へ興味本位で問えば、店長の怒声。

 仕方なく、昼ピークを乗り越えた頃に彼は退店してしまう。初対面な気がせず、掴みどころのない和やかな人だと感じた。

 

「バイトちゃ~ん、俺を慰めて……。ああ、佐木君……さっき、弟君に会ったよ」

「片倉さんっ、アナタも観に行ったんですよね。竜二から連絡、受けてます」

「あら、そうなの? 大変だったわね。片倉さん、コーヒー奢るわっ」

 

 片倉(かたくら)が疲れ切った様子で来店、件の観客は全員が事情聴取を受けたそうだ。店長の奢りたるコーヒーを運び、(いち)は彼の耳元で囁く。

 

「片倉さんは左近寺さんに興味ないと思っていました」

「さとみちゃんがね、招待券を貰ってたの。俺はただの代わりっ、来なくて正解。本当……人間キャンプファイヤーは勘弁だぜ」

 

 一瞬、片倉は憂いを帯びた笑み。さとみの無事を暗示され、(いち)は胸を撫で下ろす。目礼にて感謝を伝えるが、彼が人生2度目の焼死死体と遭遇など知らぬ。

 

「店長、今気付いたけど……髪切ったんだね。似合うよ。バイトちゃんも短い髪にしたら、どう?」

「「本当ですね。今、気付きました」」

「コイツら……片倉さんに免じて、許してあげるわ」

 

 (いち)のカツラ毛へ触れ、片倉はにこやかに提案。目元は隠したい為、手振りで断る。それよりも重要な話がしたい。

 

「片倉さん、話を変えますが……明智さんとお会いになられましたか?」

「ああっ、会ったぜ。今日って意味じゃなくて、先週な。電話では言い忘れたけど、キミの見舞いへ行った時だ。それで……ずっと聞きたかったんだが……バイトちゃん……もしかして、さとみちゃんとは別(・・・・・・・・・)?」

 

 瞬間、竜太さえも貝になった。

 病室の表札は基本、保険証の姓を使う。姉弟で別姓と知られるのは当然。

 片倉を含めた見舞い客には退院後、お礼の電話で大忙し。彼とは此処でも会える為、二言三言で済ませていた。

 そのツケが今、来た。

 

「……流森会長には黙っていて、もらえますか?」

「あ~……ならっ、事情は聞かないでおく(会長と一緒だったって……黙っとくか)」

 

 流石、空気を読むに長けたマジシャン。片倉はすぐに納得してくれた。これで流森(ながれもり)会長に知られるのは先延ばしになるだろう。(いち)は安心し切り、彼の心の声は聞こえない。そして、高遠失踪に何を思うか、聞きそびれた。

 

 晩方、流森会長から直々に連絡を受けた。

 TV画面にはチャネラー桜庭(さくらば)へ報道陣が押し寄せる。彼は事故当時もアシスタントとして、ショーへ出演。怯えながら、頻りに「呪い、呪い」と呟いていた。

 さとみは未成年で死骨ヶ原湿原ホテル事件の報道に名はなく、既に流森奇術会へ移った身。『近宮マジック団』そのものとは関わりなく、一先ずは安泰に過ごせる。金田祖父母と共に流森会長へ電話越しの感謝を伝えた。

 そして、真相を知らねばならないと決意した。

 「呪い」ではなく、仕掛けがあるならば、さとみの身も危うい。剣持警部が妥当だが、守秘義務の関係で難しいだろう。

 

 そんな気持ちで迎えた翌日の不動高校。

 金田一(きんだいち)が生徒会室にて待ち構えるなど、まさに青天の霹靂。(いち)は魂消て、冗談抜きで学生鞄を落とす。

 

「失礼過ぎんだろ、金田っ。放課後……時間くれ。昨日の事だっ」

左近寺キャン……いえ、事故の件ですね。分かりました」

 

 不謹慎な事を言いかけた為、金田一(きんだいち)に物凄く怪訝そうな顔をされる。それ程、(いち)は左近寺の死そのものに実感が湧かない。寧ろ、どうでも良かった。

 

 演劇部も終えた放課後、七瀬(ななせ)も同行してのファミレスへ入店。不動高校に一番近く、よく部活帰りの生徒が立ち寄る場所だ。

 店内には剣持警部、明智警視、そして竜二とテーブルを陣取る。

 どうやら、直接に伝えてくれる様子。守秘義務などの疑問は多々あるが、野暮な質問はしない。それに彼らが揃うのならば、理由はひとつ。

 

「剣持さん、明智さん、こんにちはっ。佐木君、昨日は大変でしたね」

「はいっ。片倉さんから本当は……さとみさんが来るはずだったって……、あんな物を見なくて良かったです」

「金田君。どうぞ、こちらへ」

 

 (いち)が剣持警部の隣へ座ろうとすれば、明智警視に腕を掴まれる。刑事に挟まれ、身動きが取れない状態に陥った。

 

「看守が目を離したホンの5分程の間だったそうです」

 

 明智警視は挨拶を抜きに早速、本題。

 高遠は看守に日付を尋ね、まんまと独房から姿を消した。無人と化した部屋を見つめ、呆然とする看守の姿が目に浮かぶ。

 

「自分が「マジシャン」である事に心底、拘る……高遠らしいやり方だ。……マジックを犯罪に使うなんて、マジシャンの風上にも置けねえぜっ」

金田一(きんだいち)君、自分に気を遣っていますか?」

「そりゃあ、金田君のご家族はマジシャン関係の方ばっかりよ。はじめちゃんだって、気を遣うわ」

 

 空になった金田一(きんだいち)は忌々しそうに悪態吐いたが、(いち)を目にした途端にわざとらしく吐き捨てた。

 そして、肝心の左近寺焼死はやはりだが、「殺害」。

 

〝熱い!! 早く、助けてくれぇ!!〟

 

 発火剤のリンが使われた「岩」は本番に点灯されたスポットライトの熱で発火温度を超え、実演中に点火。当たり前の欠陥要素、リハーサル云々よりも素材で分かるはずだ。

 

「……? 何故、左近寺さんはよりにもよって、リンで「岩」を作ったのですか? 自分でも危険だと分かります。小学校で理科の授業を受けていなかったのでしょうか?」

「金田センパイ、身も蓋もない……」

「いえ、佐木君。金田君の言う通りです。左近寺は疑うべきだった。このマジックが本当に安全なのか、自分の頭でね」

「そうよ! 金田はトリックノートの話を知らないっ」

「「あっ」」

 

 純粋に疑問だったが、竜二に呆れられる。明智警視は意味深に手帳を2つ、テーブルへ並べる。そこで亡くなった近宮 玲子が遺したトリックノートの説明を受け、(いち)は愕然とした。

 金田一(きんだいち)が中を改め、最後の『無重力岩・天外焼失』が片方にしか載っていないと知る。高遠が逮捕時に『炎の鉄槌』と言い残した意味は言葉通りだったと悔しがった。

 

「盗んだマジックだったのですか……あれら(・・・)がっ。では5年前の事故は……たかが、マジックのネタ帳欲しさに?」

「そうです。近宮さんは殺される以前から、このノートが弟子達に狙われると感じ取っていたのでしょう。わざと欠陥トリックを書き込み、いつか、奪った相手に制裁を受けるように仕向けた。高遠は奪われたノートを見て、それに気付いたんでしょう。だからこそ、彼は逮捕されたんです」

 

 ――復讐の〝取り〟を己の母親に譲る為に

 

 悍ましい程に美しい親子愛、ぞわっと背筋が粟立つ。

 下らない理由で近宮は死に、残間家は一家離散。彼女が遺した殺意は下手をすれば、左近寺達以外の劇団員も巻き込まれていただろう。無関係な誰か(残間 さとみ)がいたかもしれない。そんな僅かな可能性を天才と呼ばれたマジシャンは考えてくれなかった。

 

(……似た者同士かよ。高遠さんと近宮 玲子は……本当、クダラねえ)

 

 追い詰められた心理状態を考慮せず、(いち)は初めて近宮が憎らしく思う。脳髄の奥が痙攣し、首筋が熱い。剣持警部の手に背中を擦すられ、溜まっていた息を吐き出せた。

 

「高遠は天性の犯罪者です。このまま野放しにすれば、いずれ……また『地獄の傀儡師』として何かをしでかすでしょう。それを防ぐ為にも先ず、残間さんには宮城県警が張り込みをします。彼は高遠と一番、多く面会をしていました。逃亡先の有力な候補です。金田君のご家族にもしばらく、捜査一課を張り込ませて頂きます」

「……その必要はありません」

「金田?」

 

 明智警視の決定を即座に拒み、金田一(きんだいち)にギョッとされる。(いち)は目眩に似た緊張感の中、高遠の誓いを思い返せた。

 

「高遠さんは2度と自分の家族を巻き込みません。自分は信じますっ」

「……金田、お前……まさか、高遠に同情して……」

金田一(きんだいち)君、滅多な事を言わないでください。金田君、信じるんですか? 高遠 遙一をっ」

 

 驚愕以上の発言を聞き、金田一(きんだいち)は目を見張る。明智警視は彼を咎めた後、(いち)へ探るような視線を向けた。

 本心を告げないと納得されない様子。

 

「高遠さんに同情の余地はありません。ですが……あの人は近宮 玲子の名にかけて、誓ったのです。自分はそれを信じますっ」

「……キミが信じようとも、張り込みは付けさせて頂きますっ」

 

 高遠の敵にはならない。かと言って、味方もしない。その曖昧な考えを警戒してか、明智警視の視線は更に鋭くなった。

 

「いや、金田の言う通り。そいつは無駄だっ。高遠程の切れ者が! 真っ先に警察が目を付ける金田達に近付くはずがない。心配しなくても……俺が捕まえてやるさ! ジッチャンの名にかけて!!」

 

 金田一(きんだいち)の誓いは真っ直ぐであり、吐息ひとつにも熱が籠っている。

 

(……やっぱし、高遠さん……なんか、違う)

「はじめちゃん……」

 

 やはり、高遠の誓い方は違和感を覚えるけれども、言葉に出来ない。ただ、彼には自分へ害を成す意思はない。その確信だけはあった。

 だが、金田一(きんだいち)を相手にした場合はどうだろう。高遠は目的の為に彼を殺そうとした。再会には血生臭さしか、感じぬ。七瀬が青褪める理由は察したが、(いち)は慰めないし、励まさない。

 そんな心の余裕はなかったと言い訳しよう。

 結局、無駄な張り込みは残間の周辺だけに留めるらしい。宮城県警に敬礼。

 ファミレスのコーヒー代は剣持警部が払い、領収書を受け取る。警察の経費で落ちると学んだ。

 

金田一(きんだいち)君、ありがとうございます。話に立ち会わせて頂いて……自分の中でも、一区切り付いた心地です」

「何言っとるんだ……(いち)君。一区切りどころか、これからが大変なんだぞ? 高遠の脱獄で警察の面子は丸潰れだあ。お前らも高遠を見かけたら、110番しろよ。絶対だぞ、振りじゃないからな!」

「は、はい……」

「……っ」

 

 感謝を口にすれば、剣持警部はため息を吐く。竜二だけが返事をし、礼儀正しいはずの七瀬は黙り込んだ。

 明智警視も何か言いかけたが、その整った唇を閉じる。(いち)の告げた「一区切り」の意味を理解し、敢えて黙ったのだろう。

 

 ――これで4人目(・・・)も死んだよ、金田君

 

 この場にいない高遠の声が耳元で囁かれる。

 否、脳髄の奥に浮かんだ言葉へ勝手に彼の声を当てただけだ。

 復讐を完遂しても尚、『地獄の傀儡師』は存在し続ける。天国を諦めた彼の地獄巡りは始まったばかり。そんな生き方を憧れず、共に歩もうとも思わない。

 

 ――水沼モコウヤッテ、死ネバ、良カッタノニ

 

 ただ、高遠は同じ気持ちを抱えず、歩いていける。

 それが少しだけ、羨ましい。

 だから、せめて祈ろう。彼の旅路の果てに、ひと欠けらの安息がありますように。

 

○●……――俺は超一流の大学で教授候補のエリートだ。

 学長直々に縁談話を持ち込まれ、不要な人間関係を清算するのは同然の摂理。

 

「5千万よっ。ビタ一文、負からないんだから!」

 

 高っ。

 そんな法外な額の手切れ金、払えるワケないだろう。だが、約束されたエリートコースの為に仕方ない。下手に出て、分割払いを要求した。

 一先ず、50万は用意。

 金の受け渡しを知り合いに見られたくない為、元カノが経営する『大草原の小さな家』を訪れた。

 始めて来たが、年齢に見合わない少女趣味な内装に辟易。

 

「次もこの金額よっ」

「!?」

 

 元カノは勝ち誇った顔で札束の枚数を改め、俺は殺意が湧いた。次は払わない。絶対に殺すと胸の奥で決意した瞬間、カランカランッと来客の鐘が鳴った。

 丸い眼鏡を掛けた男だ。キッチリとしたスーツは会社員より、俺と同じ「先生」の立場にあると感じた。

 糸目がスッと元カノの手にある札束を捉え、男の表情が強張る。途端、俺はゾッとする。彼の地雷を踏んだと分かった。

 

「い、いらっしゃいませ♪ 和島さん、今日は早いんですね。すぐにコーヒーをお出ししますっ」

「店長、それは何回目だい?」

 

 慌てた元カノが気色悪い声を出し、金をレジ台へ突っ込む。和島と呼ばれた男の声はよく通り、緊張感が増した。

 

「キミ、何回目?」

「……初めてだ」

 

 不正を見抜かれ、叱られた気分になる。俺と歳は変わらないだろうが、和島(わじま) (たかし)の雰囲気は百戦錬磨の強者。それを理解し、白状した。

 

「そうか……だったら、店長っ。それで手を打ちなさい」

「「!?」」

 

 救いの神、降臨。

 俺は感謝して拝み、元カノがわなわなと慄く。久方振りの引き攣った表情を見て、胸が空くわれた。

 

「キミ達の事情は知らない。けどね、店長。それ以上は取り返しが付かなくなるっ。お互いにねっ」

「……和島さん、だって……この人……私を捨てて、他の女と……ずっと、尽くして来たのに」

 

 教鞭を取る教師のような貫禄、元カノはポロポロと泣き出す。思い返せば、交際中も彼女は涙ひとつ見せず、高慢ちきな態度。最初は自立心の高い女性だと感心し、段々と嫌気が差していた。

 面倒な展開になり、俺は頭を掻く。

 

「大丈夫、店長は魅力的だ。俺が何度もコーヒーを飲みに来るくらいにっ。ずっと飲んでいたいんだ」

「和島さん……」

 

 一世一代の告白シーンっぽい。甘酸っぱさに吐きそうになり、俺が帰ってからやって欲しい。よし、帰ろうと忍び足で戸へ近付いた。

 

「キミもっ、程々にしときなよ。皆まで言わなくても、分かるね?」

「……はいっ、以後……気を付けます」

「ちょっと待ったっ」

 

 和島は俺を呼び止め、諫める。教授並みに怖くて、素直に従う。そこへ元カノはギロッと睨んで、詰め寄った。

 

「1カ月! ここのコーヒーを飲みに来なさい! それでチャラ! 分かった!」

「ええ……1カ月もお前の顔……はいっ、寛大なるご処置をありがとうございます! また明日!

 

 血走った眼から目を背け、俺は悪態吐く。和島の引き締まった口元が開く前にビビりながら、承知。店を飛び出した。

 

 ――それが先月の事。

 無理やり、時間を作っては店に通う。字面だけ見れば、いかがわしい店と誤解されそうだ。だが、実際は健全な飲食店。後ろめたい事など、何もない。5千万円を払うよりは安い。

 ひと月も通えば、店の状況把握で出来る。

 

 普通に繁盛している。

 昼も夜も満席、外での行列は当たり前。客に相席を頼むのも屡々。

 

「虹枝っちじゃん、偶然♪ ここ、ウチのクラスでも流行ってんの」

「べ、別に直美が来ると思って来たワケじゃないわ」

 

 不動山学院高校2年生・鹿沢(しかざわ) 直美(なおみ)虹枝(にじえだ) 光代(みつよ)、麗しい女子高生の会話を聞き、俺は確信した。

 

(ウソだろう? こんな悪趣味な店に……)

 

 俺は当初、客の神経を本気で疑った。だが、繁盛の理由はすぐに知れた。

 

「――いらっしゃいませ――」

「バイトちゃ~ん、コーヒーお代わり♪」

 

 呼ばれたバイトはピンクのフリフリエプロン、茶色髪にウェーブを靡かせた。

 カ・ワ・イ・イ。

 バイトちゃんは前髪で顔が見えずとも、足の運びや指先ひとつ、男をドキッとさせる仕草を心得ている。客層も観察して見れば、俺と同じかそれ以上の年齢の男性陣ばかりだ。

 下心満々の目でバイトちゃんを見るな、汚れる。

 

「素敵なお店ね、佐木君っ」

「桜樹先輩、来てくれたんですかっ」

 

 魅惑的な少女までおり、目の保養。すっかり忘れていたが、バイトは他にも眼鏡の小僧・佐木がいる。よく聞けば、15歳の為に食事無料で扱き使われるお手伝いだそうだ。

 可哀そう。

 しかも、バイトちゃんは出勤日が分からずに会えない日もある。3週間近く、お目に掛けない時は俺が泣きそうになった。元カノ店長が嫉妬に狂って始末し、山に埋められていないか、本気で心配した。

 

「お兄さんもバイトちゃん目当て? オレも~、あの子って~見ていて飽きなんだよなあ」

「赤沢さん、話の途中よ。何度言われても、コラムは書きませんっ」

 

 ケタケタッと笑うのは編集者・赤沢(あかさわ) 次朗(じろう)を知らないが、その相手は推理小説家・多岐川(たきがわ) かほる。雑誌で見た顔にビックリし過ぎて、二度見。今日までを振り返れば、TV画面よく知る俳優も見た気がする。結構、有名人御用達の店なのだ。

 来店の度、次は誰を見かけるのか楽しみになった。

 和島とも時折、同席する機会は何度もあった。話せば、塾の講師だと言う。俺の教え子が何人も通った塾であり、全てに納得した。

 

 足繫く通い、本日は約束の最終日。

 バイトちゃんが復活、素直に嬉しい。しかし、妙に痩せている。夏バテか、無理なダイエットかもしれないと俺は不安になった。

 

「――お客様、相席よろしいでしょうか? ――」

「ああ、構わねえぜ」

「ありがと、俺は一堂。よろしくっ」

 

 勝手に一堂 百太と名乗った優男が相席になり、ツイていない。でも、バイトちゃんと喋れた。隠さずにガッツポーズ。

 

「アンタ、この店に慣れた感じ? 俺、初めてでっ。一度は来たかったんだ♪」

「ああ、そう……」

 

 一堂はワクワクしながら、メニューを見やる。俺は適当にホットケーキセットを勧めておいた。

 そんな中、食事気分を害するニュース。マジシャンの焼死事件が店内を騒然とさせた。

 バイトちゃんはゴシップ好きなのか、佐木とコソコソ話す。可愛い顔して、似合わない。ちょっとキツく叱って、心が痛む。一堂の反応がより、不気味だったのは言うまでもない。

 初めて、元カノ店長を頼もしく思えた。

 

「コーヒー、美味かったよ。それに……短髪も良いな。衛生的だっ」

「!? クスッ……また、どうぞ」

 

 会計の時に最後だと思い、胸の内を明かす。久方振りに元カノ店長の純粋な笑顔を見た気がした。

 

「――ありがとうございます――」

「またな……」

 

 バイトちゃんは惜しいが、元カノとの縁切りが大事。果さない約束をして、俺は店を出た。

 駅まで道のりが遠い。

 俺は路上に出て、タクシーへ乗り込む。後ろの座席へ座った瞬間、一堂が飛び込んで来る。血相を変え、勝手にタクシーのドアを無理やり閉めた。

 

出して、お願い! お金は出すから! 早く!

「は!? あんた、一堂さん……何を……!」

百太!! 待って~!

 

 ぜえぜえと息を切らせ、一堂は請う。俺が後ろを振り返れば、若い女が必死の形相で追いかけて来る。メッチャ、怖い。運転手も事態を把握し、行先も聞かずに発進させた。

 

「……あ~え~と……もしかして、あれは……元カノ?」

「……っ」

 

 詮索する気はないが、無言状態はキツイ。俺が問えば、一堂は俯いたままに頷く。そこで彼女は絵上 小鳩(えがみ こばと)と可愛らしい名前を教えてもらった。

 

「……はあ、前の職場で一緒だった……んで?」

「俺が……悪いんだ。大事な仕事を放り出して……姿を晦ましてさ。……悪いと分かっても……彼女には会えない。会うと……思い出す……」

 

 ポツリ、ポツリと一堂は懺悔する。俺は彼の虚ろな目付きが何を意味するのか、知っていた。

 大学の教え子でも時折、見かける。経済的、精神的に行き詰り、逃げ場のない人間。これが教え子ならば、自業自得と斬り捨てる。他人故に同情心が湧くのだ。

 

「ヒデエ、職場だ。反吐が出るっ。忘れちまいな、元カノも何もかもっ」

「……俺がブッチしたのに?」

 

 まさか、俺も大好きだった連ドラ『黒霊ホテル』の番組製作会社とは後にも先にも、思い至らなかったのは許して欲しい。

 

「あったりめ~だろ! 人はな、幸せになる権利があるんだよ。それに昔の女が邪魔だってんなら、捨てりゃあイイ! こうやって逃げ出したくなる程、無理なんだろ? 開き直れ! そんで、前の職場の誰よりも幸せになりなっ。それがアンタなりの復讐ってもんだよ」

……!? ありがとう……名前は?」

「名乗らねえでおくよ。巻き込まれたくねえしっ……俺もアンタの名前、忘れるわ」

「……ハハッ、分かった。通りすがりの人っ」

 

 俺は無責任に言いたい事を言っただけだが、一堂はようやく顔を上げる。店で会った時と同じ、掴みどころのない妙な優男の顔になっていた。

 タクシーの運転手は冷やせを掻いたが、俺達の様子にホッとしていた。

 

 最寄り駅だと追い付かれる心配があり、二駅遠くの場所でタクシーを降りる。代金は一堂が現金で払い、領収書も貰った。

 

「まさかとは思うが、都内勤務?」

「いや、東北だよ。ちょっとしたデザイン事務所に勤めてんだ」

「そこまで聞いてねえし、デザイナーにゃあ見えねえな。広報担当か、マーケティング部か?」

「おっ、当たり。広報担当だ。今夜の新幹線で向こうに戻らないとっ」

 

 遠くの勤務先を知り、俺は安心。一堂とは再会を約束せず、別れた。

 なのに、秋頃。

 俺は再び、一堂と絵上、そして、彼の父親との騒動に巻き込まれる。代わりに春上映予定の劇場版『黒霊ホテル』試写会チケットを貰えるが、今の俺には知る由もない。

 




クリーニング石原「閲覧ありがとうございます。皆さんも季節物の服、毛布押しなどありましたら、当店をご利用ください。え? バイトちゃんの名前知ってるかって? ……お得意先の個人情報なんでね、答えられないな。さて、次回は『怪盗紳士は殺人を食い止めない』!! おっきなわ、おっきなわ♪」

『大草原の小さな家』の店長
ルーズな性格で大雑把。自分が食べないからと不衛生なカレンダーを下敷きにして、クッキーを作る。何故、飲食業を選んだのだろう? アニメにおいて手切れ金5千万円を要求(高っ)。
作中にて、店は繁盛し為に衛生面もバッチリ。和島の説得に応じ、50万円の手切れ金で手を打った

超一流の大学で教授候補のエリート
店長の元カレ。学長の娘と結婚する為、店長が邪魔になる。法外な手切れ金の支払いに耐え兼ねた
初対面の金田一に「少年エンコー」の疑惑を抱く。ノンケから見ても、金田一が可愛らしい見た目だと読者に伝えた重要な人物
作中にて、和島のお説教に応じ、程々にしている。一堂達の騒動に巻き込まれる運命にある。


塾講師・和島 尊、編集者・赤沢 次郎
明智少年最初の事件、ゲストキャラ。作中にて、お店の常連

一堂 百太、絵上 小鳩
黒霊ホテル殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、一堂は職場放棄しての雲隠れ。東北で再就職している

虹枝 光代、鹿沢 直美
それぞれ、飛び込みプールの悪霊、証言パズル、ゲストキャラ。作中にて、虹枝は不動山学院高校2年生
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。