金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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『オペラ座館』事件直後のコンクールだったら、普通に出場辞退モノですが、月島先生達が頑張ったと思ってください

半分だけ関わりますので【】は付けていません

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます



26話 怪盗紳士は殺人を食い止めない・前編

 生徒会執行部は生徒会長がいてこそ、成り立つ。

 

「遠野先輩、2年1組の貴船 葉平は今学期を以て転校します。終業式には参加されるそうです♪」

「遠野先輩、夏休み期間中の体育館利用者リストっス」

「遠野先輩、各部活の予算表を修正しました」

「うん、ありがとうっ」

 

 朝木(あさき)海峰(かいほう)などの新メンバーも1学期で十分、業務に慣れた様子。

 生徒会長の席に腰かけ、遠野(とおの)先輩が爽やかなに返答。彼はあくまでも前生徒会長だが、誰もツッコまない。執行部顧問の先生、執行部幹部もすっかり、この光景にも慣れ切ってしまった。

 

「2学期の行事予定を確認します。9月の学園祭は11月に変更、2年生の修学旅行は例年通り12月、10月予定の生徒会選挙も同じ変更なし。新年度生徒会長及び、副会長に立候補したい人は執行部顧問までご相談くださいっ」

 

 遠野先輩より2学期のお報せを以て、本日の業務終了。各自、手早く戸締り開始。

 

「11月だと中学校の文化祭と日程、被りません? 下手したら、小学校も学校行事やってまっせ」

「……そうなのですか? 外部からの来客は減るかもしれませんね……。先生、地域の行事と摺り合わせは……もういませんよっ」

 

 海峰と雑談していれば、執行部顧問はさっさと退室。いつもながら、戸締りを押し付けられた。

 

「そう言えば、先輩方の催しは何スか? ウチは無難にタコ焼きの屋台っス」

「自分の組はマジシャンによるマジックショーです」

「僕の組は景品釣りって言ってね、ビニールプールに景品をばら撒いて、釣り竿で釣ってもらうんだ」

 

 各々が出し物を教え合い、クスクスと笑い合う。

 

「良いなあ、楽しそう。あたしんトコは部活動の出し物に専念するからって、組の分は無しになっちゃった」

 

 残念がる朝木の言葉で去年、(いち)の組も出し物無しの気まずい記憶が甦った。

 

「……あの遠野先輩、来週の土曜日にクラシックコンサートがあるんです。一緒にどうですか?」

「先約があるんだ……ゴメンね、朝木さんっ」

「七瀬先輩と行けばいいんじゃないスか? 朝木先輩、仲良しっショ」

(来週のクラシック……、はて? 紅さんのソロコンサートもあるし……そういう時期かな?)

 

 照れ顔の朝木が勇気を振り絞り、遠野先輩へお誘い。見事に撃沈した彼女の気持ちを知り、海峰は慰めた。

 

「ダメダメ、美雪は上海に行っちゃうの。ペンフレンドに会うんだってっ」

「七瀬君、海外にまでお友達がいるんだ。今日は青森へ行くって言ってたし、案外……困っている友達を助けにでも行ったのかな?」

(七瀬さん……昨日、な~んも言ってねがった……)

「金田先輩、難しい顔してねえで演劇部に行きやしょうよ。俺も緒方先生に呼ばれてるんでっ」

 

 へこたれない朝木はケタケタッと笑う。

 来週は夏休み中だが、七瀬(ななせ)は生徒会執行部と演劇部の活動をどうするつもりだろう。また遠野先輩が甘やかしたと推測し、(いち)は陰鬱な気分で眉間のシワを解す。

 陽気な海峰に腕を引かれ、演劇部へ急いだ。

 

「私の名はエリックっ。クリスティーン……どうか、最後にエリックと呼んで……」

 

 部室では役者陣による台本の台詞合わせ中、左顔面を包帯で覆う月島(つきしま)が怪人役の台詞を読み上げる。切なく、愛する人へ懇願は同じ部員の心さえも打つ。

 顧問の緒方(おがた)先生と副顧問の月島(つきしま)先生は真剣な表情で見守りながら、台本へ書き込んだ。

 その傍らに部外者の夏岡(なつおか)がいる。何故だ。

 

 ――桐生 春美はいないのにっ

 昨日、家を訪ねたが、ご家族から会いたくないと門前払いされた。

 

「金田君、海峰君。これで揃ったわね」

「……緒方先生、七瀬 美雪さんは?」

「月島さん、おはようございます。外出許可が下りたのですね」

「おはよう、金田君。うん、思ったより時間かかちゃったっ」

 

 緒方先生は夏岡の困惑に答えず、(いち)は退院後に月島と小声で再会を喜び合う。皆は彼女の健康状態を気遣い、万一に備えて身が引き締まる思いだ。

 

「コンクールまで2週間を切ったわ。この劇で重要な怪人の伴奏シーン、海峰君が引き受けてくれました。月島さんもピアノには触れてもらうわ。その指導として、夏岡さんにご協力頂けます」

「よろしくっス(うおお!! 夏岡 猛彦と同じ空間にいられる神展開!!)」

「……改めて、夏岡です。僕も指揮者を職とした身、高校生相手でも遠慮しませんのでっ」

「「「宜しくお願い致します」」」

 

 緒方先生の説明を聞き、(いち)も納得。海峰は軽いノリと裏腹に心の喜びが聞こえ、微笑ましい。夏岡は身近なファンの心情に気付かぬまま挨拶し、部員全員が感謝の一礼だ。

 

「早速ですが、演劇の素人ながら……ひとつ。最後の『悪魔組曲』第三楽章、クリスティーンが弾くっ。と言うのは……いかがでしょうか? 金田君の伴奏が無くなるのは惜しいですし、倒れた怪人を悼む……そんな展開に出来れば……違和感はないかとっ」

「……今から、変更ですか? ……怪人が倒れる尺だけ、どこか削らないと……」

「連弾にしてはどうでしょう? クリスティーンは怪人の想いに答えなかった意思表示になる……?」

 

 夏岡が意見し、月島先生と緒方先生は台本と睨めっこ。(いち)はどんな展開だろうと演じ切る。月島も同じ心持ちだろう。但し、展開の変更は照明係の神矢(かみや)、音響係に負担が押し寄せる。汗だく2人の緊張がこっちにも伝わった。

 

「連弾を! お願いしますっ。夏岡さんの言う通り、金田君の伴奏を入れたいです。エリックが弾いている途中から、クリスティーンと連弾して……エリックは去る。クリスティーンの伴奏をラウルが傍で……そんな最後にしたいです」

(俺の動きも変わる!)

「自分、問題ありません」

 

 必死に訴える月島へ、ラウル役・布施(ふせ)先輩はギョッとしたが、部長らしく貫禄のある表情で受け入れる。(いち)も迷いなく、承諾した。

 月島先生による台本の修正、神矢と音響係はそれぞれの効果を見直す。

 こんな時、七瀬がいないのは実に痛い。警視庁捜査一課の方々へ協力を要請し、青森での宿泊先を調べ上げたい。権力乱用など、自分が許せぬ。必死に怒りを堪えた。

 

「冬子との台詞合わせだが、相手シーンのある役は病室で練習に来て欲しいっ」

「……はい、分かりましたっ」

 

 月島先生の申し出、絡みの多いクリスティーン役へ病院通いを頼んでいる。パッと脳内に浮かんだ過密スケジュールは頭を悩ませた。

 

 放課後になり、下駄箱。

 これからの勤務を考えれば、心労で気が重い。コンクールが終わるまで、バイトを休もうと決めた。

 

「金田先輩、今日から『エヴァ』の劇場版公開っスけど……。いつ、行けそうですか?」

「……そうでした……。すぐにでも行きたいです……! 月曜日の祝日に行きましょう。店も休みですしっ」

「了解です。竜二にも伝えますっ」

「「!?」」

 

 絶対に行く。瞬時に空き時間を閃き、脳細胞は心地良く活性化。

 竜太(りゅうた)は当たり前のように下駄箱の向こう側から現れ、ハンディカム越しにこちらを撮る。勝手な約束より、神出鬼没振りに2人でビビった。

 

「佐木君、七瀬さんが青森へ行った話をご存知ですか?」

「はい、金田一(きんだいち)先輩と一緒です。剣持警部の依頼で事件捜査に行きました。竜二が張り込んで得た情報なので先ず、間違いないかとっ」

「……張り込み? それ、ストーカーじゃねえの? どんな弟だよ」

 

 ドッペルゲンガーさながら、よく似た兄弟である。

 

「では……佐木君()もご一緒に行ったのですか?」

「いいえっ。相手の方、ビデオとか記録が残るのを嫌がるそうでっ。こっそりとつけたら、金田一(きんだいち)に断られて……ガッカリしてました」

「……ふ~ん、ミス研の桜樹先輩とやらが好きそうな案件っスね」

 

 人間キャンプファイヤーを目撃した直後だが、剣持(けんもち)警部は高校生を容赦なく連れ回す。断られたとは言え、竜二(りゅうじ)も懲りない。彼の好奇心が身を滅ぼさないか、心配だ。

 

「その桜樹先輩は鷹島先輩とこれから、お出掛けです。ルポライターの仕事をお手伝いされると……そう言えば、夏の合同合宿……お2人はどうします? 僕、行けないんですよ。その時期、父の仕事を手伝ったりするんで……甲子園とか」

「俺も行けねんだわ。ちょうど……囲碁部の大会あってよ。小角先輩にちょ~っと抜けたいなんて、言えねえっスわ()。金田先輩は行くんスよね? 土産話、楽しみにしてマスッ」

(……全員のスケジュールには合わせられんし、ゴメン。……あれ? 剣持警部は昨日……)

 

 後輩2人へ申し訳ない気持ちになりつつ、昨日を振り返った。

 ファミレスは即座に本題へ入り、他の話をする暇もなく現地解散したはず。それ以前に依頼されたなら、また脅迫状類の事件かもしれない。続け様に巻き込まれ、名探偵の孫を心底、憐れんだ。

 寧ろ、(いち)は事件捜査さえも知らずにいれば、またサボりだと勝手に誤解出来る。その方が精神的に楽だ。

 七瀬の行先など気に掛け、竜太へ訊ねた自分自身を不思議に思う。

 

「クラスメイトの奴ら、沖縄石垣島リゾートホテルに行くとか言ってやしたよ」

「良いですね、沖縄……(シンジとアスカが行き損ねた……)」

「金田先輩、近場の小笠原諸島船旅に興味は?」

 

 海峰が憎々しげに告げ、(いち)は遠くを見やる。竜太に問われたが、手振りで無関心を伝えた。

 

 『大草原の小さな家』の夜ピークは繁盛、相席も致し方なし。

 気の良いお客様方は見知らぬ者通しでも、和気藹々とお喋り。賑わいの中、(いち)もエプロンとカツラを装着して手早く動き回る。舞台を駆け抜けるような感覚が楽しい。

 

「アナタも宇治木さんのお知り合いでっ」

「影島と言います。私達、彼のススメで来たんです。……もしかして、冬部さんですか?」

「はいっ、冬部です。影島……ああ、あの件ではお世話になりました。こんな形ですが、ご協力感謝します」

 

 冬部(ふゆべ) 蒼介(そうすけ)弁護士は偶然の顔見知りと相席になり、彼らを繋いだ週刊誌記者を酒のつまみにして盛り上がる。3人とも背広姿ではない為、ただの休日だ。

 

(宇治木さん、折り入ってお願いがどうとか……言ってたっけ……。何だったんだ?)

 

 聞く前に逃げ出した為、何も知らない。先週の見舞いでも、宇治木(うじき)は何も言わなかった。大した事なく、また(いち)を必要としなくて良くなったと思い込もう。

 

「キミ、大丈夫かい? 何か心配事? 悩みなら、聞いてあげられるよ」

「! ――ご親切にありがとうございます。ただの考え事です。お客様が次も来てくれるか、どうかを――」

 

 ミートスパゲティを運んだ客・髪を一纏めにした中年男性がじっと覗き込み、気遣う。彼は以前の来店でも心配してくれた。近くで見れば、母・にいみと写っていた男性・黒川(くろかわ)と本当によく似ている。

 写真の男が20年越しにこの場に現れ、食事する。そう錯覚する程だ。

 だが、今は勤務中。私情は捨てよう。

 

「バイトさん、どうしたんです?」

「……知り合いに似ていると思っただけですよ」

 

 お手伝い中の竜太へ耳打ちし、(いち)は食器の片付けや料理運びに追われる。黒川(仮)と話せたのは食後のコーヒーを運んだ時だ。

 

「聞こえたんだが……私が知り合いに似てるって? 光栄だな。相手の名前を聞いてもいいかい?」

「――ヤダッ、私ったら♪ でも……折角なんで、教えちゃうっ。黒川さんって言って、むか~しに絵画教室を開いていた人なんです――」

「へえ、絵画教室……私の親戚じゃないなあ。残念だっ」

「――ですよね。そんな偶然、あるわけないですもんっ――」

 

 拾った話題を広げてくれたお陰で聞けた。

 黒川(仮)は口元を曲げて数秒、考え込む。その仕草は心当たりがない様子。抱えていた疑問が1つ、スッキリした。確かめるだけでも、気負った思いは違う。

 

(やっぱし……宇治木さんの話、聞くだけ聞いとくか)

 

 そう決意すれば、善は急げ。

 

 翌朝に宇治木を不動高校近くのファミレスへ呼び出す。彼も快く、不動山市まで現れてくれた。

 念の為、竜太に同行を頼む。24時間営業はモーニングメニューにそそられるが、(いち)は朝食を済ませた。

 

「ごめ~ん、朝から来てもらっちゃって♪ 何でも好きな物、頼んでっ」

「金田先輩が宇治木さんを呼んだんですよね? でも、遠慮なく。モーニングセット、ドリンクはミックスジュース、ラーメンも追加でっ」

「佐木君……朝ご飯、まだなのですか? 自分、カフェオレをお願いします」

 

 ご機嫌良く宇治木はメニュー表を差し出し、奢り宣言。逞しい竜太は好きなだけ注文していく。料理名だけで胃がもたれそうだ。

 

「宇治木さん、自分へ頼みたい事とは何でしょうか?」

「ごめん……その、葉崎さんを覚えてる? 彼女に会って欲しいんだ」

「!? 『夜桜亭』の……葉崎 栞さんっ。まだ裁判も始まってないはずですけど、釈放されたとか?

 

 『夜桜亭』殺人事件の容疑者・葉崎(はざき) (しおり)。あまりにも意外な名前が飛び出し、(いち)はビックリ仰天。周囲に気を配り、竜太は小声で事情を訊ねる。彼は事件後も彼女の動向を把握しており、感心だ。

 

「ごめん、説明不足だったな。葉崎さんはまだ入っているよ。……彼女、冬部さんの弁護も受けようとしないと言うか、……面会中もずっと黙ってて……非協力的なんだ」

「……!? 冬部さんが弁護人なのですか……?」

「どうして……冬部さんはそこまで葉崎さんを……」

 

 宇治木はから深刻に語られた事実、(いち)と竜太は衝撃のあまりに絶句した。

 冬部弁護士は被害者・斧田(おのだ) 鏡一郎(きょういちろう)の友人。だが、葉崎の連行を阻もうとした。あくまでも殺害動機に心当たりがあり、そこには庇いたい理由も含まれている。おそらく15年前の出来事だろう。

 つまり、冬部弁護士も標的の可能性もあるのだ。

 斧田が殺された時点で犯人に目星が付いたなら、そこにも自ずと気付くだろう。冬部弁護士は友人だけでなく、自分の命を狙った相手を弁護している。驚きしかない。

 

「すまない、俺も事情は分からない。けど……冬部さんは真剣に葉崎さんを助けたいっ。それは確かだっ」

「……何故、自分が葉崎さんに会うのですか?」

「葉崎さんが金田先輩に会いたがってるとか……?」

 

 尚の事、(いち)と会わせたがる理由までは浮かばず、ため息を殺す。竜太は『夜桜亭』も首を傾げ、閃きを言葉にした。

 

「ああ、そうなんだっ。それと言うのも……いっつも同じ話ばかりじゃあなんだから……偶には世間話しようと思って、不動高校の体育祭に朝木陶工が来てたって話を……」

((話のチョイス……間違っとる……))

「そしたら、金田君は元気ですかって質問して来たんだっ。彼女、キミに何か言いたいんだと思う。俺も一緒に行くし、どう……かな?」

「……お断りします」

 

 正直、葉崎に会いたくない。一度は敵となった相手だが、真正面から相対しての逮捕ではない。彼女に気付かれぬ様、コソコソと告げ口した挙句に捜査一課・正野(ただの)刑事や雪峯(ゆきみね) 美砂(みさ)刑事へ全てを任せた。

 (いち)がいなくても、葉崎への嫌疑は時間の問題。だとしても、どの面下げて会えと言うのだ。

 

「ごめん、キミ達の旅行を台無しにした張本人なのは分かってる。せめて、顔を見せるだけでも!」

「……旅行を台無しにされたとは思いません。話が以上でしたら、失礼しますっ」

「金田先輩……」

 

 宇治木の切実な態度に胸を打たれてしまいそうだが、(いち)は役に立てないだろう。

 葉崎を真の意味で救いたいのであれば、冬部弁護士が果たすべき役割。連行される彼女の為、パトカーを追いかけられる。そんな彼にしか、叶えられない。

 注文したカフェオレは惜しかったが、ファミレスを去る。困り顔の宇治木を振り返らず、心配する竜太も置き去りにした。

 可愛い後輩には明日、謝罪しよう。

 

 バイト先へ到着した直後、携帯電話が鳴り響く。表記された番号は父・残間(ざんま)であり、ゲンナリ。入院騒動により、電話番号を教える羽目になったのは後悔でしかない。

 

〈残間だ。私は今、東京にいる。(いち)は家か? 北海道の件を話したい〉

「生憎、夜9時過ぎまで戻りません。その件の為にわざわざ……東京へ?」

〈明智警視との約束だ。例の件で……どうにも、意見が食い違うと言うか……妥協し合えなくてな。では、夜に会おう。お義母さんにはこちらから、伝える……(プッ)〉

「ちょ……!? 話の途中で切……っ。全く……礼儀のなっていない人ですっ」

 

 原付バイクへ跨ったまま、通話。

 色々と頼んだ身だが、疲労困憊の後に見たい顔ではない。話の分かる宇治木とのやり取りを思い返し、残間の勝手が強調されて余計にイラッとした。

 だが、明智(あけち)警視と話し合いになる程の「例の件」。

 逃亡した『地獄の傀儡師』との接触に備え、宮城県警による残間の周辺警護だ。どう考えても、無駄な労力。

 (いち)の予想通りに揉めていて、ちょっとだけ小気味いい。ちなみに自分達の分は金田一(きんだいち)が断った為、無し。改めて、感謝だ。

 

 長めの休憩時間を頂き、聖正病院へ向かう。月島と台詞合わせがある。

 月島先生が病院側に事情を説明し、人の少ない屋上を借りた練習。暑い日差しが肌を刺激しても、吹く風は心地良い。干されたシーツが舞台の上と重なり、心が躍る。

 有森(ありもり)が日傘を手に、月島へさす。今は(いち)と布施先輩の3人だが、午前中はカルロッタ役と支配人役が来ていたそうだ。順調に稽古は進んでいるなら、本番には間に合うと確信が持てた。

 

「金田君、悩み事?」

「……そんな風に見えますか? ……ただの私情ですよ」

「金田、悩んでんの? その憂いた感じ、クリスティーンの役作りかと思った」

「俺もっ」

 

 金田一(きんだいち)と七瀬の事件捜査、朝は宇治木の頼みを蹴り、夜は自分が頼んだ件を打ち合わせ。

 ごちゃごちゃした情報に加え、演劇部から『3人』が文字通り、いない。この事実がじわじわと脳髄を侵し、感情の波が襲う。

 だが、演劇部に関し、(いち)だけの思考や感情ではない。部存続に呼び戻した8人はもっと、事件当事者へ口に出せぬ思いを抱えているだろう。

 (いち)は舞台に上がった月島を演者として、観たい。その願いに彼らを本当に巻き込んで良かったのか、思考はグルグルと巡った。

 

「金田君、今更……降りたいと言ってもダメよ。私は怪人、何としてもクリスティーンを舞台に上げるんだからっ。それにね、他の皆も……思いはひとつ、コンクールへ出場する! これはちゃんと自分達で決めたの。そこは信じてっ」

(顔をやられたのに……まだ、他の人を信じられるのか。……すげえな、月島さん)

 

 (いち)の思考を読んだ励ましに驚かず、素直に月島を尊敬。先生達(月島先生以外)に比べ、ずっと説得力がある。彼女は事件を忘れず、未来へ進む。そこに天国が無くても、もう迷わない。

 スッキリとまでは行かぬが、胸の蟠りは小さくなる。月島の人を惹きつける力は同時に勇気もくれた。

 

「……勇ましいですね。本当、尊敬します」

「……うん、ありがとう?」

「確かにっ、冬……月島さんといると元気出るぜ」

「……有森、お前が月島君と付き合っているって……バレてるからっ。ふつ~うに名前で呼べば?」

 

 本音を語り、月島は首を傾げる。女子に勇ましいは違うかと思えば、ニッコニコの有森は親指を立ててまで賛同する。布施先の面白くなさそうな仏頂面は3人で笑った。

 コンクール後の退部を引き延ばしても良いと思える程に――。

 

 閉店後の処理を無事に終え、原付バイクを走行。

 風圧が心地良い分、心拍数は上がっていく。金田祖父母が居るとは言え、残間に会いたくない気持ちは募るばかりだ。ここまで気持ちが正直になり、体が抵抗するのは中学校以来な気がする。

 金田祖父に知られれば、「普段からや!」と返されるが(いち)は知らない。

 普段よりも安全運転を心がけ、ゆっくりと金田家へ帰宅。

 原付バイクを駐車スペースへ乗り付けた途端、玄関の戸が勢いよく開いた。

 

(いち)っ、沖縄行くで!!」

「は?」

「何も聞かず、波照間島へ行って欲しいと言われたんだ。七瀬さんにっ」

 

 アロハシャツを着た金田祖父は高らかに宣言し、(いち)を玄関へ引きずり込む。残間までも電話台の傍に立ち、目を爛々と輝かせる。2人とも、行く気満々だ。

 呆気に取られたまま事情を聞けば、まさかの名前。嫌な予感に頭皮さえも汗だくだ。

 

「お土産はいりません。行ってらっしゃいませっ」

「「お前も来るんだ!!」」

 

 他人事で見送ろうとしたが、(いち)は首根っこを捕まれる。全力で振り払い、部屋へ立て籠もった。

 七瀬の頼みなど、明日の約束に劣る。

 だが、悲しくは時間通りに昏睡する体質。その隙を突かれたのは言うまでもない。

 




はじめの友達1「いえ~い、金田一の同級生で~す♪ 「お前の推理でなんとかしみろよ」って言ったの、オレです。アイツ、またサボりかよって思った時は大体、事件に巻き込まれてるらしいぜ。何にも聞かねえけど、出席日数は確認しとけよ。さて、次回は『怪盗紳士は殺人を食い止めない・後編』!! ……え? 指名手配中の……あの人、出るの?」

葉崎 栞、斧田 鏡一郎
吸血桜殺人事件ゲストキャラ

捜査一課・正野刑事
剣持の部下

雪峯 美砂刑事
午前4時40分の銃声ゲストキャラ、作中にて警視庁所属
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