金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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何か短編の事件名を使って、節分ネタをやれば良かったと今頃になって気付きました
早めのバレンタインネタ。事件前後の時期、金田一の知らない日常回です

F.3でお気付きになられた方もいると思いますが、今回は「彼女」が登場します
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


F.7 【聖バレンタインの殺人】とは無関係に・前編

 恋人達のバレンタイン・デーである2月。高校生の大学入試は終わっても、中学生は高校入試でまだまだ多忙な時期。

 村上(むらかみ)先生と共に家庭裁判所へ出席した。

 必要書類を揃えて申し立ててから、1カ月も待たされた検認手続きの為だ。弁護士の付き添いが功を奏し、想像よりもサクサクッと進んで20分も経たず、終了。

 助言通り、伯父たる氷室 一聖(ひむろ いっせい)画伯の日記に書かれた【甥の(いち)に全てを遺したい】。その文面が自筆証書遺言と認められたのだ。

 遺言書代わりである日記の返還を受け、検認済証明書を受け取った。

 そこから、相続手続きの本番開始。

 村上先生に協力して貰い、財産目録を確認し、氷室邸宅の相続登記、預貯金の名義変更、絵画や出版社から発行された画集の著作権者としての登録、忙しない日々であった。

 

 相続税の支払いも済ませ、一段落した時にはバレンタイン・デー当日を迎えた。

 (いち)はバレンタインチョコを貰う予定もなければ、渡す予定もない。

 男女が揃いも揃ってソワソワした不動高校、遠野 英治(とおの えいじ)先輩は予想通りに大量のチョコを受け取っていた。

 

「食べ切れないんだ。分けても良いって言われたから、一緒にどうかな?」

 

 だからと言って、生徒会室に持って来ないで欲しい。机を埋め尽くすチョコが卒業式や学期末の書類と重なり、明らかな執行部の妨害である。

 

((((今から食べろって?))))

 

 副会長、会計、書記、庶務と生徒会幹部は誰も文句を言わない。温厚が服を着た遠野先輩、謎の威圧感を知る者はただ怖れ、知らない者はただ敬いを抱いての事だ。

 自分は勿論、保身の為。

 

「コレが全部、遠野先輩宛てなんですか? すご~い♪ それじゃあ、お言葉に甘えて演劇部にいくつか、持って行きますね」

 

 現生徒会長・七瀬 美雪(ななせ みゆき)はチラリと執行部に顔を見せる。両手で持てる程度の小さいモノだけを選んで、さっさと演劇部へ向かう。机の隅っこしか減らない状態では、役立たずと罵りたい。

 

「遠野、邪魔だ。どけろ」

「ゴメンね、白峰君。折角、手伝いに来てくれたのに。散らかしちゃってっ」

 

 遠野先輩と同じ組にして、スキー部・白峰(しらみね) 辰貴(たつき)先輩。堂々たる文句を告げ、勇者が誕生した瞬間であった。

 空いた段ボールを発見し、チョコを失礼にならないように突っ込んだ。

 業務再開。プリントの印刷ミスのチェック、必要枚数にまとめてホッチキス止め。各部活の活動記録報告書、レシートと領収書による決算書(仮)作成など。

 

「白峰先輩。先月のスキー大会、お疲れ様でした。皆さん、大活躍だったそうですね。今日はスキー部へ行かずとも、平気ですか?」

「ああ、今日はいい。明後日には、また大会へ行く予定だ。お前には借りがあるからな、こういう時間でないと返せない」

「もう明後日か……先週みたいな雨が降らなくて、良かったね」

 

 流石は高校生にして、職人気質。とても義理堅くて、その男気に惚れてしまいそうだ。

 遠野先輩が何気なく外に目をやり、先週の光景を思い返す。豪雪の代わりに降り注いだ豪雨、まだ2月でありながらも今年最大の雨量を観測した。

 それが嘘のように窓の向こう側は雪が降り積もっている。ホワイトバレンタインに相応しい天候、道路の状態が心配だ。

 

「遅れました。遠野先輩……津雲先生から空の紙袋です。チョコをコレに入れて帰れと……」

「ありがとう、和泉さん。津雲先生は1年生の時に担任だったんだ。先生、よく去年の事を覚えていたねえ。ちょっと恥ずかしいなあ」

 

 1年生・和泉(いずみ) さくらがか細い声と物凄く控え目な態度で、照れくさそうに遠野先輩へ紙袋を差し出す。写真部顧問の科学担当・津雲 成人(つくも しげと)先生の気遣いに感謝した。

 

「珍しいな、事なかれ主義の津雲にしちゃあ」

「去年のバレンタインが堪えたのですかね」

 

 疑わしく白峰先輩は紙袋を見つめ、ボソッと呟く。

 確かに津雲先生は長い経歴の割に威厳がなく、生徒ともあまり親しくない。顧問も部室での現像に化学薬品を使用する為、安全対策として任されただけだ。

 正直、生徒へ気配りする性格ではない。

 高井デパートの模様がある紙袋。最寄り駅に一番近い為、学校帰りに買い物をする生徒も多い。バレンタインチョコ特設コーナーでも、同じ紙袋が貰えるはずだ。

 

「津雲先生が袋と一緒にチョコを貰って、中身だけ鞄へ移して……袋が余ったとか、ですかね?」

「……誰が、津雲にチョコを渡す?」

 

 適当な推論を述べれば、白峰先輩は本当に不思議そうな顔をする。決して、彼は津雲先生を貶してない。ただ、疑問なだけだ。

 (いち)もそんな物好きに心当たりはない為、返答しなかった。

 

「金田君……旧校舎の取り壊し工事計画書って、日付が去年の9月だけど……まだやらないの?」

「和泉さん。そちらは『放課後の魔術師』さんから脅迫状が届いた為、屈した校長先生が計画を延期していたのですよ。遠野先輩、何か聞いていますか?」

「その脅迫状の件があるからね。工事の日付が決まったら、先ずは執行部顧問の先生にお知らせっ。んで、的場先生にだけ通達する。直前まで、生徒や他の先生にも内密に進めるって校長先生は言ってたよ。だから、他の皆には内緒だよっ。……あっ、白峰君もお願いね?」

「……言わねえよ。しかし、執行部はともかく、なんで的場……ああ、そうか。旧校舎を授業に使ってんのは的場の物理学だけか……」

 

 放課後までに予定分は終わり、本日解散。

 残った問題は大量のチョコ。折角の袋もチョコは入りきれず、段ボール分は皆で均等に持ち帰る羽目になった。

 

「良いんですか? あたしまで貰っちゃって……」

「勿論だよ、和泉さん。チョコが苦手でなければね」

 

 遠野先輩へのバレンタインチョコのはずが、何とも雑な扱いである。

 

「お前、次はチョコも何も貰うな」

「受け取ってくれるだけで良いって言われたんだ。それにね、受け取らないと後が怖い事もあるんだよ」

 

 白峰先輩から迷惑そうに注意され、遠野先輩は困ったように笑い返す。彼が怖いと評した体験が気になりはするが、想像はしないでおこう。

 

(誰か知らないけど、遠野先輩への想いを3つも受け取ってしまった……。スマンです)

 

 鞄の中のチョコへ詫びを入れながら、(いち)は下駄箱へ直行。この時間になれば他の部活動も解散、演劇部1年生にして同じ組・神矢(かみや) 修一郎(しゅういちろう)と鉢合わせる。彼の手には高井デパート模様の紙袋が2つだ。

 

「神矢君、演劇部も解散ですか?」

「……っ、金田。ちょうど良かった。これ、月島さん……からっ。言っとくが義理だぜ。演劇部全員にって、お前の分っ」

 

 演劇部1年生・月島(つきしま) 冬子(ふゆこ)。見た目通りに気立ての良い彼女ならば、幽霊部員にも友愛を示すのだろう。

 

「ありがとうございます。では、遠慮なく」

「それと折角だから言っておくが、演劇部はどうするんだ? 3年生は来なくなって、新部長の布施先輩が仕切ってる。いい加減に続けるか、辞めるか、ハッキリしろよっ」

 

 教室では挨拶しか言葉を交わさない間柄、いきなりの説教。

 退部届は演劇部顧問の緒方(おがた)先生が人質のように預かったまま、受理されない立場なだけだ。

 

「ご不満は緒方先生へ言って下さい」

「緒方先生には何度も言った。お前が必要な時が必ず来るって、言うだけなんだっ。月島さんも……お前が来てくれるのを待ってるっぽいし……」

 

 神矢は月島の名を口ごもり、その眼差しには憧憬が窺える。きっと告げられない恋心も含まれているだろう。(いち)が彼女と話した記憶など、去年の学園祭だけだ。

 

「月島さん……金田に気があるんじゃないか?」

「絶対にないです」

 

 月島にとっても、酷い誤解。脳髄が重くなる感覚、気分が鬱々と沈んだのだ。

 

「やめてやれ、神矢。金田は美雪ちゃんに代わって、生徒会執行部の仕事を担ってんだぜ」

「部長……、金田が美雪さんの代わり?」

 

 噂をすれば影が差す。演劇部部長・布施(ふせ) 光彦(みつひこ)先輩がひょっこりと現れる。神矢以上に遭遇率が低く、庇われる義理もない。失礼ながら、後輩想いに見えない。

 

「会計の奴と同じ組でな。美雪ちゃんに生徒会長の仕事をさせるのは半分、諦めてる! だから……金田だけは取るなってな。下手すりゃあ……部費の配分を考え直すらしいぜ……。おお、怖っ」

「七瀬さん、半分も期待されているのですね。自分は完全に諦めています」

 

 2年生の会計は七瀬の生徒会長解任を強く希望している。何なら、執行部顧問へ訴えている最中だ。だが、遠野先輩が彼女を補佐する現状、実は執行部に何の支障もない。つまり、現生徒会長はいてもいなくても変わらない『お飾り』なのだ。

 新学期から家庭の都合で欠席し、久方ぶりに生徒会室へ顔を出した時は速攻で雑用を押し付けられた。補習授業を理由に断れば、役員の皆様方は絶望の表情を隠さなかった。

 役職のないパシリではあるが、頼られている。扱き使われた分だけ、(いち)は報われた気がした。

 

「悪い……金田、そこまでの事情があるとは……。美雪さんの代わり、頑張れよ! けど……顔くらいは出してくれよな。本当、偶にで良いから」

「前向きに検討いたしますっ」

「神矢、俺の話を聞いてたか?」

 

 この日が境となり、神矢は教室でも世間話をしてくれるようになる。

 それはまだ知らない身だが、今の時点で庇われたお礼として、貰い物のチョコを布施先輩へ渡した。

 

「金田……このチョコ。遠野のお裾分けだろ? アイツは去年も相当、貰ってたからな。けど、今年のバレンタイン野郎は小田切先生だぜ。遠野の奴、ざまあねえな」

「バレンタイン野郎……ってなんでしょうか? 初耳です」

「いや……俺も知らない。それに部長が1番、貰ったわけじゃないのに……偉そうな……」

 

 今年度赴任・小田切(おだぎり) (すすむ)先生は確かに人気がある。物腰は柔らかく、何処か芯の強さを感じる。気弱だと評する人もいるが、誰よりも必死な態度で生徒と真正面から向き合う。その姿勢は好意を抱くに十分だ。

 

「遠野の負けは俺の勝ちだっ」

「「そう言うのは負け惜しみって言うんですよ」」

 

 他人の手柄で胸を張り、鼻を鳴らす布施先輩は滅茶苦茶カッコ悪い。呆れた後輩2人の語尾は違えど、遠慮せずにツッコミを入れた。

 

「貰う話はさておき、金田はチョコを渡さないのか? 外国のバレンタイン・デーは男女が逆だったりするぜ」

「それは知っていますが、バレンタインに渡したい相手は……いませんね。でも、ホワイトデーに緒方先生へ日頃のお返しを渡します」

「……渡す相手がいれば……チョコを渡したのか。けど……金田の場合は愛の告白より、御中元みたいだな。いや……年末が近いから、お歳暮か?」

 

 布施先輩の何気ない質問を素直に答え、神矢から軽く笑われてしまう。(いち)は指摘されるまで気付かず、確かにお歳暮と同じ感覚だ。

 

「でも、緒方先生にホワイトデープレゼントは名案だな。俺も考えてみるかっ」

「だったら、その日は部室に行こうぜ。絶対だぞっ」

「神矢君……そこまで言うなら、分かりました。生徒会次第と答えておきますっ」

 

 予定は未定と言う意味で答えたが、神矢から切ない表情を返される。悪い事をしてしまい、反省した。

 

 金田宅の夕食時、バレンタイン以外にイベントがある。台所の食卓には金田祖母お手製の誕生日ケーキがホールで置かれ、数字の蝋燭が刺されている。ここまで見れば、一目瞭然。身内だけの誕生日パーティーだ。

 

「お誕生日おめでとう、さとみ」

「ほ~お、最近の蝋燭は洒落とるなあ。18の数字を模っとるわ~」

「ありがとう、お祖母ちゃん、お祖父ちゃん♪ それに……いっくん♪」

「……おめでとう、さとみさん……」

 

 本日の主役・残間(ざんま) さとみの誕生日を祝う。クラッカーの音が弾け、火薬臭い。

 艶やかな黒髪にパッチリとした黒目の大きな瞳、丸みのある輪郭は可愛い気がある。(いち)よりも背が高く、ほっそりとした筋肉質で豊満な体格。

 その恵まれすぎた体躯を生かし、マジシャンを志しての上京。高校入学とほぼ同時に『幻想魔術団』への入団、裏方作業の実績を積んでいた。その甲斐あり、高校卒業を期に見習い昇格が決まった。

 5年前に結成したばかりでありながら、海外でも高い評価を受ける一流と肩を並べてのマジックショー。将来有望株でもある。

 たった1歳の差なのだが、我が姉はまさに優勢遺伝子。

 羨ましくなどないが、敬ってもない。寧ろ、イラッとする。

 

「いっくん、お姉ちゃんって呼んでよ」

「……早く、ケーキ食べて下さい。この後、残間とディナーへ行くのでしょう?」

 

 幼い頃から続く「いっくん」呼び、高校生となった今では羞恥心が勝る。真っすぐな瞳から顔を背け、(いち)はケーキナイフで8等分に切り分ける。ここにいる4人はそれぞれの理由で、少食。残りは明日以降に持ち越すのだ。

 姉弟の父・残間 青完(ざんま あおまさ)は来ない。世田谷区に住みながら、溺愛した娘の誕生日であろうと金田の家には滅多な事では近寄らない。先月の葬儀にてようやく敷居を跨いたが、それだけだ。

 

「言ってなかった? さとみは今夜、お泊りよ」

「青ボンが今日は都合つかんと言っとったからな。さとみをワシらで独占や~」

「お祖父ちゃんったら、まだお父さんを青ボンって呼んでるの? 可愛いから、良いけど……いっくんはちゃんとお父さんって呼びなさい!」

 

 金田祖母に言われ、疲れた脳細胞は思い返す。(いち)は相続税手続きに追われて、すっかり忘れていた。

 ちなみに「青ボン」とは残間のあだ名。残間祖父が元々そう呼んでおり、金田祖父も真似した。これを聞けば、自分は年配になっても「いっくん」呼ばわりされそうだ。

 それも嫌だが、さとみの泊まりは更に嫌。

 風呂上がりに遭遇すれば、優勢遺伝子を見せ付けられる。負け犬気分はさておき、折角の誕生日に祖父母宅でお泊まりなどしては姉の交友関係が心配だ。

 

「お友達から祝って頂けないのですか?」

「日曜日に祝って貰います~。そうだ、いっくん。オボン貸して、伯父さんにお供えするからっ」

 

 折角のバレンタイン・デーだと友達の誕生日よりも、愛の告白で多忙だろう。そんな事を考えていれば、さとみからの思いも寄らない提案に動揺する。(いち)は湯呑へ注いだ急須のお茶が零れてしまった。

 

「一聖に気遣ってくれるのね。ありがとう、さとみ」

「あたしも伯父さんに祝って欲しいのよ。全然、覚えてないけどさ」

 

 テキパキと食器棚から皿と湯吞を1つずつ用意し、ケーキを取り分ける。片手でオボンを持ち、さとみは襖を開け放つ。半端に暗くては足元が危険と思い、(いち)は彼女より先に居間へ入る。部屋の電灯を点けた。

 供物台の香典を隅へ寄せ、ケーキを供える。りんを鳴らし、さとみは手を合わせた。

 覚えてない氷室伯父に対し、律儀や礼儀よりも心根の優しさが伝わる。りんの音色がそれを教えた。

 

「……凄い香典だね……。辻口 鈴置(つじぐち すずおき)……有名な人?」

「面打ち師ですよ。昔、『雪夜叉』に基づいた面を作ろうと、伯父さんに相談されたそうです。結局、あの絵より素晴らしく、辻口先生の納得できる面は作れなかったとお聞きしました」

 

 氷室伯父の代表作のひとつ『雪夜叉』。

 人に見捨てられ、愛する者を失った『悲しみ』と『絶望』が見事に描かれ、見る者に恐怖を与える。あるいは共感を得るだろう。

 その絵に触発され、今よりも若かった辻口先生も面作りを試みた。

 

〝『雪夜叉』は氷室にしか、表現できない。お前さんの伯父は……まごう事なき鬼才だった。それがこんな……こんな……〟

 

 焼香を上げながら、辻口先生は悲痛な声で呻いた。何人もの人が突然の訃報に驚き、悼んだのを見た。しかし、才能を惜しんだ言葉を吐いたのは彼だけだ。

 

 ――とても光栄に思う。

 

 遺作となった『雪夜叉』、今も警察に証拠品として押収中。世間どころか、自分達も当分、お目にかからない。仕方ないと諦めているが、作品自体は惜しくない。所在がわかっているだけマシだ。

 偽者達が売り捌いた作品は、その多くが所在不明。取引に関わってしまった不運な画商の鷲尾(わしお) ケイゴにも道警は捜索を依頼したが、前途多難だそうだ。

 

「……どれもこれも、大物ばっかり。やっぱり、まだ実感は湧かないなあ……。……伯父さんがあの氷室 一聖だったなんて、何のマジックだろう……。いっくん、伯父さんを覚えてる?」

「……どうでしょうね、最後にお会いしたのは幼稚園の頃だそうですよ。思い返すのも一苦労です」

 

 嘘だ。

 微かだが、氷室伯父と過ごした時間は覚えている。特にキャンパスへ向かい、絵筆を動かす一挙手一投足は脳裏に焼き付いて離れない。それを言えば、金田祖父母が悲観に暮れてしまう。黙して語らず、今はそれが一番だ。

 

「そっか……。ん? これって本というか手帳かな?」

「伯父さんの日記ですよ。検認手続きが終わったので、返還されたのです」

 

 位牌の傍に添えた日記帳に気付き、さとみは物珍しさで手に取る。だが、中身は見ずに元の位置へ戻す。故人とは言え、他人の記憶であり思い出を勝手に見ない。彼女はいない相手でも自然に配慮してしまうのだ。

 我が姉ながら、気立ての良い淑女だと思う。

 (いち)も日記は読んでいない。読む勇気がまだない。内容の確認も村上先生へ任せていた。

 

「ところで、伯父さんの遺影は置かないの? お葬式の時もなかったしっ」

「その辺りはお祖母ちゃんに任せていますから……多分、春の遺体捜索が終わってからでしょう」

 

 本州であろうと長野県・高尾山の積雪量は分厚い。県警の捜索は困難と言えよう。雪解けで可能になったとしても、歳月が経ちすぎて遺体発見は望み薄どころか、不可能だ。

 さとみも理解しており、思案に暮れて無言となる。

 

「来月のホワイトデー公演、さとみさんも出演するのですよね? 高校は卒業見込みと聞きましたが、留年して出演取りやめだけは止めて下さいね」

「んもう、いっくんったら♪」

 

 無言に耐え兼ね、(いち)は元気付ける意味も含めて警告しておく。言い終えた瞬間、頸動脈へ鋭い蹴りが飛んできた。

 さとみの構えに気付き、咄嗟に腕で防ぐ。筋肉を張らせても、蹴りの痛みを感じる。直撃すれば、(いち)の喉を潰されていた。容赦のない攻撃にゾッとした。

 

「この……ゴリラ女」

「う~ん♪ やっと普段のいっくんになったねえ。家族なのに敬語はや・め・な・さ・いっ」

 

 姉弟の間で闘いのゴングが鳴った。

 

「あんなにじゃれて、いつまでも子供ねえ」

「せやな~。取っ組み合いが出来るんわ、仲がええ証拠やき。久しぶりに見れて、嬉しいわ」

 

 じゃれ合い姉弟を金田祖父母は襖の向こうから、微笑ましく見守る。仏壇の前での乱闘は止めさせて欲しい。

 姉は両手で仰向けになった弟の片腕を取った状態になり、自身の両太ももの間にその腕を挟み込む。両足首は弟の反対側の腕を挟むように絡めた。

 ギッチギチに十文字固めが決まる。必死に抵抗しているが、全く解けない。段々、手足が痺れて来た。

 絶対に負けん。

 

「いっくん。相変わらず、か弱いねえ」

「こちらとら、人間なんでね……。ゴリラに勝てま……みゃああ!?

 

 負け惜しみも言い切れず、トドメを刺される。悔しいが、降参した。




二三「どうも、皆さん。おはこんばんにちは♪ 金田一 二三ちゃんで~す♪」
丙介「丙介で~す。閲覧ありがとうございます」
二三「この事件って本当は短編の『聖なる夜の殺人』のアニメ版なんですよ。つまり、栄える二三の初登場回♡ なのにこのタイトルだとあたしの出番ないじゃん! どういう了見だ! 大体っ、はじめの奴(長いので以下省略)」
丙介「さて、次回は『聖バレンタインの殺人とは無関係に・後編』!! 二三、お父さんにチョコは?」

残間 さとみ
魔術列車殺人事件ゲストキャラ。新人見習いマジシャン、オリ主の姉。作中にて、バレンタインが誕生日

残間 青完
穴埋めオリキャラ、姉弟の父親

弁護士・村上先生
準レギュラー村上 草太の親。作中にて、残間の顧問弁護士

スキー部・白峰 辰貴
氷点下15度の殺意ゲストキャラ。作中にて、遠野のクラスメイト。

和泉 さくら、画商の鷲尾 ケイゴ(ドラマ版)
怪盗紳士の殺人ゲストキャラ。作中にて、和泉は生徒会執行部

演劇部部長・布施 光彦、演劇部・月島 冬子と神矢 修一郎
オペラ座館殺人事件ゲストキャラ。作中にて、神矢はオリ主のクラスメイト

今年度赴任・小田切 進、写真部顧問の科学担当・津雲 成人
それぞれ異人館村殺人事件、不動高校学園祭殺人事件ゲストキャラ

面打ち師・辻口 鈴置
嘆きの鬼伝説殺人事件ゲストキャラ

名も無き生徒会幹部
副会長、会計は遠野と同じ学年。書記、庶務は七瀬と同じ学年の気持ちで書いてます
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