金田少年の生徒会日誌 作:珍明
翌朝の朝刊、一面が事件を物語った。
【
予想が当たり、何ひとつ、嬉しくない。
「金田……、ぜえぜえ……一緒に学校……行こうぜ」
「おはようございます……
瞬間、
原付バイクを押しながら、緩やかな坂道を下る。
凡そ、通学中に聞く話ではない。しかし、学校内で話す内容でもない。
フリーターの
「引退同然で表舞台にも姿を現さない……生の吉良 勘九郎……!?
「……金田、目付きヤバいって……。今はそんな話じゃないだろっ」
吉良画伯と対面した
肝心の真相、犯行は和泉の手によるもの。動機は亡き父親の仇、これも的中だ。
「医者の手配……残間さんが明智さんに頼んでくれたんだろ。本当、助かったぜ。岸さんがっ」
「……お礼は残間本人へ伝えてください。それに……自分も岸さんへお礼を言いたいです」
〝北海道の背氷村で……氷の橋が作れるんだ……。ワゴン車くらい……ヘ~キで通れる……。僕……、キミと観に行きたい……だから、……待ってるよ〟
岸の言葉に和泉は返事せず、顔を伏せたそうだ。
「岸さん、ケガの具合は?」
「しばらく、入院だってよ。……ひょっとしなくても、金田と岸さんは知り合いか?」
「ええ、背氷村で会った事があります。伯父の邸宅を掃除している時、バイト代目当てで訪れた方です」
「……へえ、通りで……氷橋の話が出て来るワケだ。和泉、北海道育ちなんだと……もしかしたら、興味持ってくれたかもな。あの橋に……っ」
「しかし、どういう風の吹き回しなのですか? いくら、捜査に協力させられたとは言え、ここまでキチンと教えてくれるなんて……口の堅い
「奪われた作品を売り捌かれたって点じゃあ……金田にとっても、和泉は他人事じゃないだろ」
疑問故の質問だが、
「お前、どこまで知ってたんだ?」
それは確認ではなく、追究。
「『我が愛する娘の肖像』、描かれた少女は……和泉さんによく似ていました。和泉さんも……暇があれば、その雑誌をよく見ていたのです。……春休み前、沖縄へ行くと言っていましたし……、それらを照らし合わせただけですよ」
「……そうか、
沖縄に行かなければ、電話の報告がなければ、
三つ編みのおさげ、眼鏡を掛けた同級生。和泉の目を合せぬ俯き加減の態度、か細い声だったが必ず返事はあった。
〝……あの……私が言えた義理じゃないけど……、元気出して〟
慰めの言葉をくれた日、和泉は本気で心配してくれた。そんな彼女へ抱いていた想いにようやく、名が付けられた。
納得した感情が胸に広がり、目を伏せる。1秒にも満たぬ瞬き、溜まった息を吐きだした。
「
「は? いや……金田、どう考えても和泉に……恋しちゃってたじゃん」
「
「……良いのか、そんなんで……」
同類と見抜き、憐れんでいた。
それで良い、それで良かった。
「話は変わりますが、
「!? ……わ、ワリィ……。気を付けるわ……マジでっ。白神さんがどうしても、東京を離れられないから……お前ン家を頼っちまった。……最悪な期待させちまったな」
念押しで告げれば、
この痛みは先日も味わった。
最寄り駅へ到着し、公衆電話を目にする。念の為、ポケットを探ってもハンカチとテッシュしかない。
「
「……分かった。美雪に伝えとくぜ」
唐突な願いも
原付バイクを駐車し、
瞬間、
「あのさ! 俺を呼ぶ時……はじめちゃんで良いからなっ。学校で待ってるぜ! いっくん!!」
「ちょ……!? いっくんって……」
照れた表情を見せ、
姉にしか許していない「いっくん」呼びに呆然としつつ、
楽しみにしながら、硬貨を投入。
「宇治木さん、おはようございます。今日、葉崎さんにお会いします」
〈……はへ? ……!? ごめん、今どこにいる? 迎えに行く!〉
寝起きの宇治木は一瞬で状況を把握、すぐに待ち合わせを約束した。
目的地かと思えば、コンビニの駐車場にて停車。記者であり、宇治木の普段着を手渡される。彼が今、着ている衣服とあまり変わらない。
「ごめん、これに着替えてくれ」
「……ありがとうございます。制服は目立ちますから……、ズボンはこのままにします」
宇治木なりの配慮を受け入れたが、肩幅や胸元は風通しが良すぎる。自身の貧弱さを見せ付けられ、一はゲンナリだ。
「なんで……気が変わったの? 俺、すっかり……諦めてたっ。ごめん、余計な詮索だったな」
「交換条件を思い付きましたっ。無事に面会出来れば、お話します」
「! ……分かったよ。ありがとう」
(まだ内容も言ってないのに……気が早いなあ)
急な心変わりに戸惑うのは致し方ない。
単純な思い付きではないと示す為、対価を望む。宇治木は何も疑わず、喜んで車を発進させた。
東京の拘置所も雰囲気は重苦しい。
休日明け故、既に多くの人が受付を行う。正規の手続きは初めてである為、
病院の待合室に雰囲気は似ているが、悲壮感の種類は違う。ドラマや映画でしか知らない光景の一部と化し、お互いに沈黙。せめて、宇治木の願い通りに事が運べと祈った。
程なく、呼ばれる。
硝子板に隔たれた個室、面会人の為に椅子も2つ。お行儀良く座れば、向こう側の戸も開く。
「! ……金田君、何しに来たの?」
「葉崎さん、おはようございます。それと、お久しぶりです」
担当官につられ、俯き加減の
「葉崎さん。自分に何か、伝えたい事はありますか?」
「!! ……急に言われても、あたしは別に何も……」
「なければ、帰ります。2度とお会いする事はないでしょう。ですから、今すぐに教えてくださいっ。どんな内容でも……ちゃんと聞きますっ」
「……っ」
単刀直入に聞けば、案の定。
葉崎は否定的に口ごもり、
5分程の沈黙、貴重な面会時間が過ぎていく。
(……言葉にしづらい思いって、あるよな。特にここでは……)
宇治木の忍耐強く待つ心の声が聞こえた気がする。それに応えるように葉崎の唇がついに、動く。
「……アナタも誰か……殺したい奴がいるんでしょう?」
「!?」
「え!?」
思わぬ質問に脳髄が警鐘を鳴らし、絶句。宇治木の声も遠くに聞こえる程、唾を飲み込んだ葉崎も聞いてはならぬと理解し、問うたのだ。
「あたし……ここに来てから、時々……思うの。どうして……アナタは思い留まれたんだろうって。絶対に知りたいワケじゃない……けど、聞かせてもらえる?」
〝……そうか、お前だから……解ったんだな……〟
脳髄の一部が冷静になり、
答える義務はない。義理もない。だが、葉崎へ答えてあげたい。口が勝手に動いた。
「……先を越されました」
「……じゃあ、そいつは殺されたの?」
言葉を濁せば、遠慮なく質問を返される。
「……はい。何もかも、事件後に真実を知りました。……もっとも、自分の手でやりたかったんだと気付いたのは……斧田さんのご遺体を
(斧田の遺体を見て……つまり、感情が先じゃなくて……出来事が火を付けたって事か……)
「……あれがなければ、アナタは……思い付きすら……しなかったのね」
血塗れの斧田を水沼と重ね、〝
鋭い言葉が突き刺さる。『夜桜亭』殺人事件に遭遇しなければ、あるいは斧田の死体を発見しなければ、
あくまでも、自覚の問題。聡明な人々には看破されているかもしれない。
「……その人はどうやって、死んだの?」
「毒を煽った……そう、聞きました」
水沼の遺体は見せてもらえず、どれだけ毒に苦しみもがいたか、知りようがない。今となっては見たとしても、何も感じぬと断じよう。
葉崎は目に涙を浮かべ、
時間切れまで、双方共に沈黙。
次に会うならば、出所した後だろうと勝手に思う
廊下の空気が新鮮に感じ、
「俺、何したらいい?」
「……車で話しましょうか。ここでは憚れます」
宇治木は葉崎との面会に満足し、真剣な態度で眉を寄せる。斧田の遺体を発見した際、彼も一緒だったと今更になって思い返す。
暑い日差しに晒され、鉄の塊である車内はサウナ並みに熱い。宇治木に冷房を入れてもらい、一息吐いた。
「先ず、蒲生 剛三の事件はご存知でしょうか?」
「……ごめん、俺も詳しくは知らない。時間をくれれば、調べられるよっ」
「いえ、逆です。自分、当事者の方から話を聞きました。又聞きになるので……この方々に会い、取材をお願いします。そして、必ず記事にしてくださいっ」
「……!? ごめん、それって……俺の仕事になるだけで……交換条件にしては……なんか」
宇治木のメモ帳を借り、蒲生画伯殺人事件当事者の名を書き連ねる。彼の言う通り、記者が得するだけの情報だ。
「逮捕された方の弁護を……冬部さんへ依頼したいのです。……宇治木さんが間に入ってください」
「……え? それなら、冬部さん……普通に金田君の依頼を引き受けるんじゃ……!?」
本題の交換条件を述べた瞬間、宇治木はあんぐりと口を開ける。見開いた視線の先、
途轍もなく、嫌な予感に振り返りたくない。
――コンコンッ。
フロントガラスをノックされ、逃げられない。観念したが、
冬部弁護士は物凄く愛想笑いしながら、ドアロックを外す様に指示してくる。怖い。
「……学校、行ってきますから……後をお願いします」
「ごめん、1人にしないで!」
結局、ガクブルしながらも弁護士2人を車内へ招き入れる。先ずは初対面の名刺交換。
「週刊誌記者の宇治木です」
「初めまして、黒沼です。早速ですが、
「ヒィ……すみません」
宇治木の名刺を眺めつつ、黒沼先生の眼差しは弁護よりも説教に近かった。
荒事に慣れた記者でさえ、怯えてしまう迫力。せめて、瞬きして欲しい。
「黒沼さん、落ち着いて……。宇治木さん、大体の見当は付きますよ。アナタの協力を感謝していますが、勝手な事をされては困ります。金田君はどうして、ここへ来たんだ?」
「あ……ごめん、彼は俺が頼んで……」
「葉崎さんに呼ばれました」
「葉崎……もしかして、春先に起きた『夜桜亭』の殺人事件で逮捕された方?」
冬部弁護士は協力者である宇治木を睨み、現状を確認。
色々と端折ったが、葉崎の質問に答えた経緯を話す。
「
「黒沼先生の言う通りです。だから、宇治木さんを頼ろうと思いました。冬部さん、貴方に弁護を依頼したいのです」
「……
黒沼先生に心配され、
そして、蒲生画伯殺害事件の被疑者について、犯行動機を語る。結局、冬部弁護士へ直接に依頼すれば、予想通りの反応。同級生を助ける為、宇治木へ恩を売る。それに葉崎が利用された。
その怒りを肌で感じた。
「はい、彼女は青森にいます。冬部さんご自身でなくても、少年法に強い弁護士を紹介して頂きたいっ。……
「……今度は青森、弁護士として……やれる事はする。今、言えるのはそれだけだ」
冬部弁護士の怒りに構わず、
「さっきの記事にしてくれって話……世論を味方に付ける為かい?」
「はいっ、蒲生は卑劣です。生きていれば……彼女にも危害を加えたでしょう。それと宇治木さん……羽沢さんと言う方に関して取材に協力して貰えないなら、同じ画商の鷲尾 ケイゴに話を聞きに行くしかないと言ってみてください」
「
まだ宇治木への説明が途中だったが、黒沼先生の車へ問答無用に連れ込まれる。手振りで別れを告げた。
「冬部さん……その、ごめん」
「……宇治木さんは、気にしなくていい」
宇治木が車の中で必死に頭を下げ、冬部弁護士は眉間のシワが深まっていた。
何故なら、冬部弁護士は早乙女家と日高家の相談を請け負う激務状態。宇治木が演劇部を憐れみ、仲介したと知る事はない。
以前に見た高級車ではなく、一般家庭向けの自家用車。
2人きりになり、気まずい雰囲気。
すっと車を発進させ、道路へ出た。
「黒沼先生は……お仕事で、こちらへ?」
「いえ、冬部さんから連絡を受けました。キミ達を見かけて、報せてくれたんです。
運転に集中しながら、黒沼先生は
「……宇治木さんは良い仕事をします。それに事件が遭った学校の生徒だと知っても、とても……気遣ってくれました。でも……黒沼先生へ相談せず、すみませんでした」
「……いいえ、ご友人を助けたい気持ち……お察しします。……私ではなく、冬部さんを頼ったのは少年法絡みだから……ですよね?」
詫びはしたものの、最後の質問は理解に苦しむ。弁護士としての矜持に聞こえたが、少し違う印象だ。
ここで取り繕うのは駄目だ。
冬部弁護士へ本音を伝えた様に、黒沼先生にも本心を聞いてもらいたい。
「黒沼先生へ和泉さんの弁護を頼んでしまっては……その分、裁判に取られてしまいます。ちょっと……独占欲が湧いたと言いますか、相手が和泉さんでも……貴方を渡せないのです」
「……
言葉を選んだが、口調の砕けた黒沼先生にズバッと図星を指され、
(そっか……黒沼先生、……真っ先に頼って欲しかったんだ……)
(少年法に詳しい知り合い……いな~い。……有頭さんは利権に強いだけだし、融通も利かないんだよなあ~……)
こんな時だからこそ、頼って欲しい。
黒沼先生の思い遣りに心を打たれ、ようやく
その間、黒沼先生は青森にいる唯一の伝手を思い返す。あまりにも当てにならないらしく、実際に連絡してみたが、あっさりと断られたと後に知った。
はじめの友達3「閲覧あざ~っす♪ 「手品師もマッサオ」って言ったのが、俺! どうした、金田一。朝から疲れてんじゃん。七瀬さんと何処へ行ってたんだ? まっ、言わねえわな。お疲れ! さて、次回は『怪盗紳士の殺人が濡れ衣であろうとも・後編』!! あ~……、金田一が蝶田先生にま~た追われとる」
代作家・和泉 宣彦
才能はあったが、世渡りが下手な為に名が売れなかった。岸のような若者の心を打つ作品を描けていた。事件後、彼の作品は「和泉 宣彦・作」として不動山美術館に展示される※金田一少年の決死行・原作参照
海津 里美
蒲生の主治医にして、汚れ役。お払い箱になるのを恐れ、さくらを消そうと企むが返り討ちに遭う
鷲尾 ケイゴ
ドラマ版オリキャラ。蒲生側の人間、最初の犠牲者となる。作中にて、運悪く偽氷室画伯相手に仕事した直後、例の事件により「なりすまし」が発覚。元々の粗さが災いし、警察や顧客から共謀を疑われ、信頼回復に努めている
残間 青完が氷室画伯の遺産相続人だと思い込んでいる
醍醐 真紀
美術雑誌記者。ご存知、怪盗紳士の変装。顔が気に入ったという理由で今後も勝手に変装される。ある意味で被害者
ドラマCD明智警視の華麗なる休日にも登場
ちまみにF.16とC.14の彼女は本人