金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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28話 怪盗紳士の殺人が濡れ衣であろうとも・前編

 翌朝の朝刊、一面が事件を物語った。

蒲生(がもう) 剛三(ごうぞう)の死、明かされる卑劣な悪行】、5年前から彼の名義で発表された作品は全て代作家・和泉(いずみ) 宣彦(のぶひこ)が手掛けていた事実。名字から推察するに元同級生の縁者だろう。

 和泉(いずみ)自身の名が無いだけを確認し、(いち)は朝刊を畳へ放り投げた。

 予想が当たり、何ひとつ、嬉しくない。

 金田一(きんだいち)にどう問うべきか、只管に考える。考えながら、玄関の戸を開けた。

 

「金田……、ぜえぜえ……一緒に学校……行こうぜ」

「おはようございます……金田一(きんだいち)君っ」

 

 瞬間、金田一(きんだいち)が汗だくで息を切らす。迎えに来てくれた友達と学校へ行くなど、中学以来。嬉しさより、嫌な予感に心は氷点下だ。

 原付バイクを押しながら、緩やかな坂道を下る。

 金田一(きんだいち)の呼吸が整った後、青森で起きた蒲生画伯並びに主治医・海津(かいづ) 里美(さとみ)医師殺害事件の概要を伝えられた。

 凡そ、通学中に聞く話ではない。しかし、学校内で話す内容でもない。金田一(きんだいち)らしい配慮だ。

 フリーターの(きし) 一成(いっせい)、画商の羽沢 星次(はざわ せいじ)、美術雑誌記者の醍醐(だいご) 真紀(まき)と微妙に面識ある人々、何よりも吉良(きら) 勘次郎(かんじろう)画伯の名は事件を通り越して驚いた。

 

「引退同然で表舞台にも姿を現さない……生の吉良 勘九郎……!? 金田一(きんだいち)君、何故に自分を呼んでくれなかったのですか?」

「……金田、目付きヤバいって……。今はそんな話じゃないだろっ」

 

 吉良画伯と対面した金田一(きんだいち)へ嫉妬心を丸出しにすれば、呆れられる。それでも、話を止めない。醍醐は怪盗紳士による変装と知りたくもない情報まで聞かされた。

 肝心の真相、犯行は和泉の手によるもの。動機は亡き父親の仇、これも的中だ。

 (いち)は和泉の境遇を思い、胸が痛んだ。

 

「医者の手配……残間さんが明智さんに頼んでくれたんだろ。本当、助かったぜ。岸さんがっ」

「……お礼は残間本人へ伝えてください。それに……自分も岸さんへお礼を言いたいです」

 

 金田一(きんだいち)が真実を明かし、和泉は隠し持ったナイフで自害を試みた。動揺した七瀬(ななせ)は勿論、居合わせた数人の男手と協力して食い止めた。しかし、岸の足へ誤って刺さったという。

 明智(あけち)警視の手配が間に合い、岸は救急搬送される。その際、彼は激痛を堪えながら、和泉へ優しく語り掛けた。

 

〝北海道の背氷村で……氷の橋が作れるんだ……。ワゴン車くらい……ヘ~キで通れる……。僕……、キミと観に行きたい……だから、……待ってるよ〟

 

 岸の言葉に和泉は返事せず、顔を伏せたそうだ。

 

「岸さん、ケガの具合は?」

「しばらく、入院だってよ。……ひょっとしなくても、金田と岸さんは知り合いか?」

「ええ、背氷村で会った事があります。伯父の邸宅を掃除している時、バイト代目当てで訪れた方です」

「……へえ、通りで……氷橋の話が出て来るワケだ。和泉、北海道育ちなんだと……もしかしたら、興味持ってくれたかもな。あの橋に……っ」

 

 金田一(きんだいち)は氷橋を見たのだろう。うっかりと忘れそうになるが、彼は背氷村殺人事件を解決した当事者。冬の奇跡を思い返し、物思いに耽る。(いち)も見てみたい衝動に駆られた。

 

「しかし、どういう風の吹き回しなのですか? いくら、捜査に協力させられたとは言え、ここまでキチンと教えてくれるなんて……口の堅い金田一(きんだいち)君らしくない行動ですよ」

「奪われた作品を売り捌かれたって点じゃあ……金田にとっても、和泉は他人事じゃないだろ」

 

 疑問故の質問だが、金田一(きんだいち)はすっと剣呑な態度になる。

 

「お前、どこまで知ってたんだ?」

 

 それは確認ではなく、追究。高遠(たかとお)と同じ、金田一(きんだいち)は別方向に勘繰っている。例えば、和泉が己の素性を(いち)には打ち明けていた。そんな憶測を抱いたのだろう。

 

「『我が愛する娘の肖像』、描かれた少女は……和泉さんによく似ていました。和泉さんも……暇があれば、その雑誌をよく見ていたのです。……春休み前、沖縄へ行くと言っていましたし……、それらを照らし合わせただけですよ」

「……そうか、お前だから(・・・・・)……解ったんだな……」

 

 沖縄に行かなければ、電話の報告がなければ、(いち)には解からなかった。

 三つ編みのおさげ、眼鏡を掛けた同級生。和泉の目を合せぬ俯き加減の態度、か細い声だったが必ず返事はあった。

 

〝……あの……私が言えた義理じゃないけど……、元気出して〟

 

 慰めの言葉をくれた日、和泉は本気で心配してくれた。そんな彼女へ抱いていた想いにようやく、名が付けられた。

 納得した感情が胸に広がり、目を伏せる。1秒にも満たぬ瞬き、溜まった息を吐きだした。

 

金田一(きんだいち)君、以前……自分が和泉さんを好きだと言いましたね。間違っていますっ」

「は? いや……金田、どう考えても和泉に……恋しちゃってたじゃん」

金田一(きんだいち)君の言う通り、他人事じゃなかったのです。……同じ傷を持つ仲間と感じていたのでしょう。それを好意と勘違いした……ただ、それだけですよ」

「……良いのか、そんなんで……」

 

 同類と見抜き、憐れんでいた。

 (いち)の結論を納得せず、金田一(きんだいち)は憤慨気味に眉を寄せる。クリッとした大きな瞳が覗き込み、真実を暴かんとする。彼の強い意思が伝わっても、自分自身の言葉に確信を持った。

 それで良い、それで良かった。

 

「話は変わりますが、金田一(きんだいち)君っ。今度、自分……祖父や父へ人探しを頼まれるのでしたら、性別を先に伝えてください。……行方不明の誰かさんがいるかもっ、なんて……馬鹿げた誤解を生みます」

「!? ……わ、ワリィ……。気を付けるわ……マジでっ。白神さんがどうしても、東京を離れられないから……お前ン家を頼っちまった。……最悪な期待させちまったな」

 

 念押しで告げれば、金田一(きんだいち)はしょんぼりと反省。しかも、こちらの心情まで気遣う。その優しさを受け、(いち)の胸がジワリと痛んだ。

 この痛みは先日も味わった。

 最寄り駅へ到着し、公衆電話を目にする。念の為、ポケットを探ってもハンカチとテッシュしかない。(いち)の携帯電話は金田宅の自室だ。

 

金田一(きんだいち)君、先に学校へ行ってください。自分、今日は遅刻します」

「……分かった。美雪に伝えとくぜ」

 

 唐突な願いも金田一(きんだいち)は詮索せず、切符売り場へ向かう。変に干渉しないところは非常に有難い。

 原付バイクを駐車し、(いち)が受話器に手を掛けた。

 瞬間、金田一(きんだいち)はそそくさと戻って来る。彼の行動が予想外過ぎて、ビクッと痙攣してしまう。

 

「あのさ! 俺を呼ぶ時……はじめちゃんで良いからなっ。学校で待ってるぜ! いっくん!!」

「ちょ……!? いっくんって……」

 

 照れた表情を見せ、金田一(きんだいち)は改札口の向こうへ飛び込む。言い逃げされた。

 姉にしか許していない「いっくん」呼びに呆然としつつ、(いち)は自然と笑いが込み上げる。今日は必ず学校へ登校し、金田一(きんだいち)に訂正を申し立てねばならない。

 楽しみにしながら、硬貨を投入。(いち)は躊躇わず、ダイヤルを回す。2コール後、宇治木(うじき)へ繋がっても緊張はない。

 

「宇治木さん、おはようございます。今日、葉崎さんにお会いします」

〈……はへ? ……!? ごめん、今どこにいる? 迎えに行く!〉

 

 寝起きの宇治木は一瞬で状況を把握、すぐに待ち合わせを約束した。

 

 目的地かと思えば、コンビニの駐車場にて停車。記者であり、宇治木の普段着を手渡される。彼が今、着ている衣服とあまり変わらない。

 

「ごめん、これに着替えてくれ」

「……ありがとうございます。制服は目立ちますから……、ズボンはこのままにします」

 

 宇治木なりの配慮を受け入れたが、肩幅や胸元は風通しが良すぎる。自身の貧弱さを見せ付けられ、一はゲンナリだ。

 

「なんで……気が変わったの? 俺、すっかり……諦めてたっ。ごめん、余計な詮索だったな」

「交換条件を思い付きましたっ。無事に面会出来れば、お話します」

「! ……分かったよ。ありがとう」

(まだ内容も言ってないのに……気が早いなあ)

 

 急な心変わりに戸惑うのは致し方ない。

 単純な思い付きではないと示す為、対価を望む。宇治木は何も疑わず、喜んで車を発進させた。

 

 東京の拘置所も雰囲気は重苦しい。

 休日明け故、既に多くの人が受付を行う。正規の手続きは初めてである為、(いち)は変に緊張。慣れた宇治木に従い、他の方々と同様に椅子へ腰かける。

 病院の待合室に雰囲気は似ているが、悲壮感の種類は違う。ドラマや映画でしか知らない光景の一部と化し、お互いに沈黙。せめて、宇治木の願い通りに事が運べと祈った。

 程なく、呼ばれる。

 硝子板に隔たれた個室、面会人の為に椅子も2つ。お行儀良く座れば、向こう側の戸も開く。

 

「! ……金田君、何しに来たの?」

「葉崎さん、おはようございます。それと、お久しぶりです」

 

 担当官につられ、俯き加減の葉崎(はざき)は感じ入ったような驚き方。更にほんの少しだけ、嬉しさを滲ませた口調は宇治木の予想が正しかった証明でもある。一先ず、会えた。

 

「葉崎さん。自分に何か、伝えたい事はありますか?」

「!! ……急に言われても、あたしは別に何も……」

「なければ、帰ります。2度とお会いする事はないでしょう。ですから、今すぐに教えてくださいっ。どんな内容でも……ちゃんと聞きますっ」

「……っ」

 

 単刀直入に聞けば、案の定。

 葉崎は否定的に口ごもり、(いち)は胸を張って宣言。このまま何も話さず、帰っても宇治木は感謝するだろう。その彼は口を挟まず、されど緊張を解かずに成り行きを見守る。

 5分程の沈黙、貴重な面会時間が過ぎていく。

 

(……言葉にしづらい思いって、あるよな。特にここでは……)

 

 宇治木の忍耐強く待つ心の声が聞こえた気がする。それに応えるように葉崎の唇がついに、動く。

 

「……アナタも誰か……殺したい奴がいるんでしょう?」

「!?」

え!?

 

 思わぬ質問に脳髄が警鐘を鳴らし、絶句。宇治木の声も遠くに聞こえる程、唾を飲み込んだ葉崎も聞いてはならぬと理解し、問うたのだ。

 

「あたし……ここに来てから、時々……思うの。どうして……アナタは思い留まれたんだろうって。絶対に知りたいワケじゃない……けど、聞かせてもらえる?」

〝……そうか、お前だから……解ったんだな……〟

 

 脳髄の一部が冷静になり、金田一(きんだいち)の言葉を反響させる。強張った葉崎は(いち)の事情を何も知らず、感情だけで何かを読み取った。

 答える義務はない。義理もない。だが、葉崎へ答えてあげたい。口が勝手に動いた。

 

「……先を越されました」

「……じゃあ、そいつは殺されたの?」

 

 言葉を濁せば、遠慮なく質問を返される。

 

「……はい。何もかも、事件後に真実を知りました。……もっとも、自分の手でやりたかったんだと気付いたのは……斧田さんのご遺体を見てから(・・・・)なのです」

(斧田の遺体を見て……つまり、感情が先じゃなくて……出来事が火を付けたって事か……)

「……あれがなければ、アナタは……思い付きすら……しなかったのね」

 

 血塗れの斧田を水沼と重ね、〝吹雪(憎悪)〟は荒れ狂う。青褪めた宇治木を一瞥し、葉崎はハッと言葉を慎んだ。

 鋭い言葉が突き刺さる。『夜桜亭』殺人事件に遭遇しなければ、あるいは斧田の死体を発見しなければ、(いち)は自覚せぬままに一生を終えただろう。

 あくまでも、自覚の問題。聡明な人々には看破されているかもしれない。

 

「……その人はどうやって、死んだの?」

「毒を煽った……そう、聞きました」

 

 水沼の遺体は見せてもらえず、どれだけ毒に苦しみもがいたか、知りようがない。今となっては見たとしても、何も感じぬと断じよう。

 葉崎は目に涙を浮かべ、(いち)を憐れむ。彼女の波瀾万丈な人生など知らぬが、注がれる視線は暖かく優しさに溢れていた。

 時間切れまで、双方共に沈黙。

 次に会うならば、出所した後だろうと勝手に思う

 廊下の空気が新鮮に感じ、(いち)は深呼吸。まだ気を抜けないのに疲労感が地味に襲った。

 

「俺、何したらいい?」

「……車で話しましょうか。ここでは憚れます」

 

 宇治木は葉崎との面会に満足し、真剣な態度で眉を寄せる。斧田の遺体を発見した際、彼も一緒だったと今更になって思い返す。

 暑い日差しに晒され、鉄の塊である車内はサウナ並みに熱い。宇治木に冷房を入れてもらい、一息吐いた。

 

「先ず、蒲生 剛三の事件はご存知でしょうか?」

「……ごめん、俺も詳しくは知らない。時間をくれれば、調べられるよっ」

「いえ、逆です。自分、当事者の方から話を聞きました。又聞きになるので……この方々に会い、取材をお願いします。そして、必ず記事にしてくださいっ」

「……!? ごめん、それって……俺の仕事になるだけで……交換条件にしては……なんか」

 

 宇治木のメモ帳を借り、蒲生画伯殺人事件当事者の名を書き連ねる。彼の言う通り、記者が得するだけの情報だ。

 

「逮捕された方の弁護を……冬部さんへ依頼したいのです。……宇治木さんが間に入ってください」

「……え? それなら、冬部さん……普通に金田君の依頼を引き受けるんじゃ……!?

 

 本題の交換条件を述べた瞬間、宇治木はあんぐりと口を開ける。見開いた視線の先、(いち)の後ろだ。

 途轍もなく、嫌な予感に振り返りたくない。

 

 ――コンコンッ。

 

 フロントガラスをノックされ、逃げられない。観念したが、(いち)は時間稼ぎにゆっくりと振り返ってみる。噂の冬部(ふゆべ)弁護士、何故か普段からお世話になる弁護士・黒沼(くろぬま)先生までいた。

 冬部弁護士は物凄く愛想笑いしながら、ドアロックを外す様に指示してくる。怖い。

 

「……学校、行ってきますから……後をお願いします」

「ごめん、1人にしないで!」

 

 結局、ガクブルしながらも弁護士2人を車内へ招き入れる。先ずは初対面の名刺交換。

 

「週刊誌記者の宇治木です」

「初めまして、黒沼です。早速ですが、(いち)君とはどういうご関係でしょうか? 夏休みに入ったとは聞いていません。今日も学校ですよね。それ程の緊急事態でしたら、尚の事、私に連絡をしてくださいっ」

ヒィ……すみません

 

 宇治木の名刺を眺めつつ、黒沼先生の眼差しは弁護よりも説教に近かった。

 荒事に慣れた記者でさえ、怯えてしまう迫力。せめて、瞬きして欲しい。

 

「黒沼さん、落ち着いて……。宇治木さん、大体の見当は付きますよ。アナタの協力を感謝していますが、勝手な事をされては困ります。金田君はどうして、ここへ来たんだ?」

「あ……ごめん、彼は俺が頼んで……」

「葉崎さんに呼ばれました」

「葉崎……もしかして、春先に起きた『夜桜亭』の殺人事件で逮捕された方?」

 

 冬部弁護士は協力者である宇治木を睨み、現状を確認。(いち)が正直に暴露すれば、流石の黒沼先生はひとつの事件へ行き着く。事件記事に不動高校生の名は無く、自分も当事者と伝えなかった。

 色々と端折ったが、葉崎の質問に答えた経緯を話す。

 

(いち)君……ただでさえ、色々と立て込んでいるのに……これ以上、背負う事はないっ」

「黒沼先生の言う通りです。だから、宇治木さんを頼ろうと思いました。冬部さん、貴方に弁護を依頼したいのです」

「……また(・・)、同級生か?」

 

 黒沼先生に心配され、(いち)は自分自身の負担を減らす為にやむを得ない行動だったと弁明した。

 そして、蒲生画伯殺害事件の被疑者について、犯行動機を語る。結局、冬部弁護士へ直接に依頼すれば、予想通りの反応。同級生を助ける為、宇治木へ恩を売る。それに葉崎が利用された。

 その怒りを肌で感じた。

 

「はい、彼女は青森にいます。冬部さんご自身でなくても、少年法に強い弁護士を紹介して頂きたいっ。……彼女(さくら)を助けて下さい

「……今度は青森、弁護士として……やれる事はする。今、言えるのはそれだけだ」

 

 冬部弁護士の怒りに構わず、(いち)は心から頭を下げる。拒まれなかっただけ、良い兆候だ。

 

「さっきの記事にしてくれって話……世論を味方に付ける為かい?」

「はいっ、蒲生は卑劣です。生きていれば……彼女にも危害を加えたでしょう。それと宇治木さん……羽沢さんと言う方に関して取材に協力して貰えないなら、同じ画商の鷲尾 ケイゴに話を聞きに行くしかないと言ってみてください」

(いち)君、後は大人に任せて……学校へ行こう。送るよ」

 

 まだ宇治木への説明が途中だったが、黒沼先生の車へ問答無用に連れ込まれる。手振りで別れを告げた。

 

「冬部さん……その、ごめん」

「……宇治木さんは、気にしなくていい」

 

 宇治木が車の中で必死に頭を下げ、冬部弁護士は眉間のシワが深まっていた。

 何故なら、冬部弁護士は早乙女家と日高家の相談を請け負う激務状態。宇治木が演劇部を憐れみ、仲介したと知る事はない。

 

 以前に見た高級車ではなく、一般家庭向けの自家用車。

 2人きりになり、気まずい雰囲気。

 (いち)は無言で制服へ着替え直す。黒沼先生はハンドルを握る指に妙な力を入れ、何も言わずにウィンカーのタイミングを一拍だけ、遅らせる。

すっと車を発進させ、道路へ出た。

 

「黒沼先生は……お仕事で、こちらへ?」

「いえ、冬部さんから連絡を受けました。キミ達を見かけて、報せてくれたんです。(いち)君、1人で葉崎さんへ会いに行かなかった点は褒めておきます。けど……あまり、記者に頼るのは賛成しません」

 

 運転に集中しながら、黒沼先生は(いち)の軽率な行動を注意し、忙しい。非常に申し訳ないが、この判断に自信を持っていた。

 

「……宇治木さんは良い仕事をします。それに事件が遭った学校の生徒だと知っても、とても……気遣ってくれました。でも……黒沼先生へ相談せず、すみませんでした」

「……いいえ、ご友人を助けたい気持ち……お察しします。……私ではなく、冬部さんを頼ったのは少年法絡みだから……ですよね?」

 

 詫びはしたものの、最後の質問は理解に苦しむ。弁護士としての矜持に聞こえたが、少し違う印象だ。

 ここで取り繕うのは駄目だ。

 冬部弁護士へ本音を伝えた様に、黒沼先生にも本心を聞いてもらいたい。

 

「黒沼先生へ和泉さんの弁護を頼んでしまっては……その分、裁判に取られてしまいます。ちょっと……独占欲が湧いたと言いますか、相手が和泉さんでも……貴方を渡せないのです」

「……(いち)君、意外と嫉妬深いねっ」

 

 言葉を選んだが、口調の砕けた黒沼先生にズバッと図星を指され、(いち)は羞恥心に頬が火照る。顔を手で覆いながら、彼の気持ちに気付いた。

 

(そっか……黒沼先生、……真っ先に頼って欲しかったんだ……)

(少年法に詳しい知り合い……いな~い。……有頭さんは利権に強いだけだし、融通も利かないんだよなあ~……)

 

 こんな時だからこそ、頼って欲しい。

 黒沼先生の思い遣りに心を打たれ、ようやく(いち)は緊張が解れた。

 その間、黒沼先生は青森にいる唯一の伝手を思い返す。あまりにも当てにならないらしく、実際に連絡してみたが、あっさりと断られたと後に知った。




はじめの友達3「閲覧あざ~っす♪ 「手品師もマッサオ」って言ったのが、俺! どうした、金田一。朝から疲れてんじゃん。七瀬さんと何処へ行ってたんだ? まっ、言わねえわな。お疲れ! さて、次回は『怪盗紳士の殺人が濡れ衣であろうとも・後編』!! あ~……、金田一が蝶田先生にま~た追われとる」

代作家・和泉 宣彦
才能はあったが、世渡りが下手な為に名が売れなかった。岸のような若者の心を打つ作品を描けていた。事件後、彼の作品は「和泉 宣彦・作」として不動山美術館に展示される※金田一少年の決死行・原作参照

海津 里美
蒲生の主治医にして、汚れ役。お払い箱になるのを恐れ、さくらを消そうと企むが返り討ちに遭う

鷲尾 ケイゴ
ドラマ版オリキャラ。蒲生側の人間、最初の犠牲者となる。作中にて、運悪く偽氷室画伯相手に仕事した直後、例の事件により「なりすまし」が発覚。元々の粗さが災いし、警察や顧客から共謀を疑われ、信頼回復に努めている
残間 青完が氷室画伯の遺産相続人だと思い込んでいる

醍醐 真紀
美術雑誌記者。ご存知、怪盗紳士の変装。顔が気に入ったという理由で今後も勝手に変装される。ある意味で被害者
ドラマCD明智警視の華麗なる休日にも登場
ちまみにF.16とC.14の彼女は本人
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