金田少年の生徒会日誌   作:珍明

73 / 143
夏休み編、開幕
金田一達が上海へ行く前の終業式です
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


2年生夏休み
1休 今度は【上海人魚伝説殺人事件】だそうで・前編


 去年よりも濃密な1学期の終わり、それが終業式。

 恒例の部活動表彰は中止、校長の長い話と生徒会長・七瀬 美雪(ななせ みゆき)の挨拶を以て、無事に終了。大掃除、担任の注意事項を聞き、8月9日の登校日に再会を約束しての解散だ。

 昇降口、校庭、はしゃぎまくる生徒でごった返す。

 

「桜樹、約束通りに今日までだからな」

「名残惜しいですけど……ミス研の人数も結構、増えましたし♪ もう大丈夫ですよ」

「ええ……分かってる、白峰君。それに鈴森さん、スキー部の活躍はアナタ達にかかっているもの。これ以上は引き留めないわ」

「桜樹さ~ん、台詞と行動が合ってないぜ~」

 

 スキー部の3年E組・白峰(しらみね) 辰貴(たつき)先輩と2年4組・鈴森(すずもり) 笑美(えみ)は1学期だけ、ミス研と掛け持ちだった。3年1組・桜樹(さくらぎ) るい子先輩は2人へ声援を送りながら、その手はガッチリと掴む。同じくスキー部の3年A組・赤穂(あこう) 晴俊(はるとし)先輩から、からかわれた。

 

「貴船君、本当に転校しちゃうの? クラスからまともな男子が減っちゃう……悲しい」

「大田さん、嬉しい事を言ってくれんのね! まだ村上がいるじゃん」

「「「ちょっと待て、オレ達がまともじゃないってか。俺はマシだっ」」」

 

 2年1組・太田(おおた) 千明(ちあき)は残念そうに貴船(きふね) 葉平(ようへい)を惜しむ。彼は家の都合で転校する為、校門に向かう足取りが遅く見える。騒がしい3人組がケタケタと笑い、自分だけは違うとアピールした。

 

金田一(きんだいち)、バイトしねえか? 人手足りねんだわ」

金田一(きんだいち)、よく留年にならなかったネ♡ 褒めてあげるとも」

金田一(きんだいち)、夏期講習受けないか?」

金田一(きんだいち)、プール行こうぜっ」

「有森、バイト先の連絡先を教えといてくれっ。朝基~、それえぇ今言うか?。千家、気持ちだけもらっとくわ。八尾、いつ頃に行く予定だ?」

 

 2年1組・金田一(きんだいち) (はじめ)は男子生徒に引っ張りダコ、流石は人気者。遊び相手に事欠かない。

 そんな和気藹々な様子を窓から眺め、(いち)は生徒会室にいる現実から逃避した。

 執行部顧問の先生が我々を離さない。

 ボランティア活動、学園祭の準備、その他諸々。夏休みの生徒会活動を最終確認したい意気込みは分かるが、すぐに話を脱線させる。

 

「先生、学期末の職員会議が……」

 

 3年E組・遠野 英治(とおの えいじ)先輩に促され、執行部顧問はダッシュ。やっと解放された全員、へっとへと。

 

「七瀬君、先生の話は適当に切り上げちゃってイイ。ただ喋りたいだけだからさ」

「遠野先輩……そんな……先生だって、良かれと思って」

「美雪ちゃん、先生を諫めるのも生徒会長の役目っ。いつまでも遠野先輩に甘えちゃダメよ」

「そうっスよ。3年生の中には夏休み返上で受験勉強の人もいるんス! 遠野先輩なら、進学先は引く手あまたっスけどね♪」

 

 遠野先輩は夏休みの執行部日程表を各自、通学鞄へ突っ込む。七瀬が廊下を一瞥すれば、2年5組・朝木 秋絵(あさき あきえ)がチッチッチと指を揺らしての指摘。1年2組・海峰(かいほう) (まなぶ)も真剣な顔付きだ。

 副会長までもが、2学期からは頼れる前生徒会長力を借りられない。そう心掛けろと七瀬へ釘を刺した。

 七瀬も流石にションボリだが、(いち)は同情などしない。

 

「金田君、再来週の合宿。参加人数分の飛行機予約、バッチリだよ。レンタカーの手配は大丈夫かい?」

「はいっ、津雲先生に確認済んでいます」

 

 最後に、北海道の背氷村合同合宿を報連相。

 

「合宿の参加者は生徒会から……遠野先輩、副会長、書記、朝木先輩、金田先輩。ミス研から……桜樹先輩だけっ。写真部から……江塔先輩、六野先輩、鷹杉先輩。んで、引率は津雲先生と……あれ、意外と少ないっスね」

「真壁先輩と伊志田先輩が行かないなら、……って子が多かったの。なん~であの2人がモテるんだろう……ねえ、美雪ちゃん?」

「秋絵ちゃん……あたしは夏休みがちょっと立て込んでて、真壁先輩は関係ないしっ」

 

 参加者を呟きながら、海峰は疑問。夏期講習や部活動が被る生徒もいれば、ミス研は3年3組・真壁(まかべ) (まこと)先輩、写真部は3年4組・伊志田(いしだ) (じゅん)先輩不参加により、1年生の女子生徒も来ず。

 そして、七瀬不参加に自然と1年生の男子生徒もそうなる。

 今回は有り難い。

 

「分かってる、遊園地のバイトでしょ。千明ちゃんと一緒に、美雪ちゃんをからかいに行ってあげる♪」

「まあ、秋絵ちゃんのイジワル♪ 招待券、渡すんじゃなかったわ……クスクスッ。あ、金田君と海峰君もどう? この前の日曜日にオープンしたばかりの『サーサイドランド』。これが招待券よ」

「お気持ちだけ頂いておきます。自分もバイトがありますから……」

「よくTVCMで観てるヤツっ。んじゃあ、俺が! 七瀬先輩……何枚、招待券持ってんスか?」

 

 女子同士でじゃれ合いながら、七瀬は宣伝の如くに遊園地の招待券を渡してくる。最寄りの千葉県とは言え、(いち)はそっと断った。

 

「失礼します! 海峰君、急いで! 大会あるの、忘れてない!?」

「小角先輩、何言ってんスか。忘れてませんって……先生の話が長かっただけなのに……ブツブツ。んじゃあ、お先に失礼します!」

「はい、行ってらっしゃい。小角さんも大会、頑張ってね」

 

 終業式早々、囲碁部は大会がある。囲碁部部長3年4組・小角(こすみ) 由香里(ゆかり)先輩は慌ただしく、海峰を連れて行く。遠野先輩と一緒に微笑ましく、見送った。

 (いち)もやるべき事は多く、神経が緊張に震える。その感覚さえを楽しめる今、下駄箱までの廊下は足取りが軽い。

 

「金田君……よっぽど、合宿が楽しみなのね(前に背氷村へ行きたいって言ってたもんね。はじめちゃんが解決したけど、金田君が好きだった氷室 一聖が別人だったって結構、ショックだろうなあ……)」

「ええ、楽しみです(七瀬さん、言葉を選んでるな。そう言えば、伯父さんの話してなかったっけ……。まあ、いっか……家庭の事情に巻き込んでもアレだし……)」

 

 お互いがお互いを気遣い、言葉が減る。

 

「……さっきの小角先輩じゃないけど、演劇部のコンクールも忘れないでよ。金田君には期待してるんだからっ」

「そのコンクールまで1週間を切った状態にも関わらず、上海旅行へ行かれる方に言われたくありませんね。ペンフレンドの方に、よろしくお伝えください」

「え? ……あ、知ってたんだ。これでもちゃんと事情があるんだから……今回は、大目に見て」

「毎回、見ている気がします」

 

 裏方とは言え、七瀬は取りまとめ役。舞台進行の全体を把握する立場であり、意外と役に立つ。

 

「七瀬さん、上海に行っちゃうの?」

「月島さん!? ビックリした……いつからそこにっ。今日は部活ないわよ」

 

 ぬっと2年2組・月島(つきしま) 冬子(ふゆこ)が間に入り、驚いた七瀬をじっと見つめる。包帯の面積が減り、左顔面の目元が露わになる。両目が揃えば、本来の穏やかな笑みにイタズラ心も見えた。

 

「七瀬さんに言わなきゃと思って、待ってたわ。今度のコンクール、金沢吉野高校の演劇部が総出で観に来るんですって。兄さんからの情報っ」

「え? そうなの! 嬉しい……また皆に会えるんだ♪」

「……金沢? 石川県の金沢ですか? それはまたどうして?」

 

 石川県金沢市、面打ち師・辻口(つじぐち) 鈴置(すずおき)先生を思い付く。彼にはまたお会いしたいと感傷に浸る。

 

「金田君は知らないか……あたし、去年の泉鏡花演劇祭を見学に行っててね。そこであちらの演劇部の人と仲良くなったの」

「演劇祭は11月……思い出しました。新生徒会で引き継ぐが忙しい……むぐっ。……七瀬さん、やめてください」

「プッ、そうそう。けど、あれは緒方先生の言付けもあったのよ。許してあげてっ」

 

 去年の新生徒会設立時を思い返せば、七瀬は慌てふためく。(いち)は口を塞がれ、失礼のないように払い除けた。クスクスッと月島は笑う。

 

「それで……挨拶とかされたら、七瀬さんにお願いね」

「ええ、任せておいてっ。あっ! だったら、部室へ行かない? 泉鏡花演劇祭の写真、見直さないと」

「……手を離してください……。七瀬さん」

 

 月島と七瀬が勝手に盛り上がり、演劇部の部室へ向かおうとする。さも当たり前のようにガッチリ、(いち)の腕は掴まれていた。

 

「金田君。写真、見たくないの? もしかして、もう見た?」

「見ていませんが、本日は終業式です。校内部活動はありません。吉野高校の皆様におかれましては、当日まで会うのを楽しみにしています」

(心にもないコト、言ってる……)

 

 七瀬に引き留められたが、失礼の無いように振り払う。月島の苦笑から、心の声は駄々洩れだ。

 

「アナタ達、まだ残っていたの? あら、七瀬さん。執行部の活動……ご苦労様。良い夏休みをっ」

「吉長先生、すみません。すぐに帰ります」

「「先生、さようなら」」

 

 2年1組の担任・吉長(よしなが)先生が優しく促し、七瀬も大人しく下校した。

 

 『大草原の小さな家』へ到着。

 しばらくバイトは休みだが、店長から客になれとせがまれてコーヒーブレイクだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

 見知らぬ女性が制服のエプロンを着け、物凄く控え目に挨拶。それは接客に慣れていないだけで、とても品を感じる。1年1組の佐木(さき) 竜太(りゅうた)、その弟の不動中学生・竜二(りゅうじ)に囲まれていた。

 

「センパ~イ、やっと来た~♪」

「花都さん、噂の金田先輩です。先輩、こちらは花都 千冬さんです」

「花都です。……よろしく、お願いします」

「初めまして、新しいバイトの方ですか?」

「夏の間だけね。アナタも佐木君も色々と忙しいみたいだしっ、短期バイトよ。るい子ちゃんの紹介なんだけど、この仕事自体は初めてなのに手際が良くて助かるわ~」

 

 店長の話を聞く限り、新入りの名前は花都 千冬(はなと ちふゆ)

 桜樹先輩が住み込みで働かせるように頼んだそうだ。花都は如何にも、苦労を背負った雰囲気。初見でも波乱万丈の人生が窺える。

 

「住み込める程、2階……広かったかなあ。店長の自宅でもありますよね?」

「たかが、1カ月よ。夏だし、布団もそこまでいらないわ。雑魚寝すれば、良いんだし」

「……ね、寝られるだけの隙間があれば……十分です」

 

 竜二は天井を見上げ、疑問。店長の大雑把さと花都の慎ましい気配り、女子力の差を感じつつ、(いち)と竜太は無言となる。取り敢えず、コーヒーを注文した。

 

金田一(きんだいち)先輩、上海へ行くそうですよ。金田先輩は行かないんですか?」

「……行きませんっ。中国へ行くなら、自分は香港が良いです」

「ああ、確かにっ。返還されて特別行政区になったから、今後は中国旅行ツアーでも行ける様になるんですよ♪ 旅行者も増えますネ、きっと」

 

 まさかの金田一(きんだいち)も上海旅行。

 竜太に聞かれ、即座に否定しておく。単純に香港は多くのカンフースターを輩出した映画ファンに憧れの聖地、ちょっとした好奇心だった。

 歴史的瞬間である『香港返還』の特番時期、意識不明で入院していた為に視聴もしていない。特に楽しみではなかったが、残念な気持ちになっただけだ。

 同じ想いを抱かぬ様、『エヴァ』の上映は見逃せない。

 

「よし、行きますか。映画館っ」

「「え? 香港の話してたのに?」」

 

 佐木兄弟を巻き込み、映画館へ直行。『エヴァ』の劇場版を無事に観賞した。

 本格的な夏休み突入の為、館は立ち見も多い。立つ隙間もない程の群衆に揉まれても、観に行った甲斐はあった。

 

 映画館を庶民の娯楽とするならば、クラシック音楽コンサートは上流階級の社交場。

 決して大げさではない。

 会場の椅子や廊下、先日の映画館と段違いの素材。来賓の方々も正装し、一介の私立高校生とは縁のない気品が漂う。壇上のグランドピアノも高級感溢れ、照明の反射を受けて輝く。

 

「……制服で良かったんかなあ? 場違いすぎる……」

「でも……オレ、タキシードとか持ってない~」

「スッゴイ、前の席じゃん。ここって……賓客が座るんじゃねえの? ……おい、あれ……音楽プロデューサーの田村 英明。席、ちっか!」

「金田……どこに行くんだ?」

「花摘みです」

 

 演劇部部長の3年D組・布施(ふせ) 光彦(みつひこ)先輩、2年E組・仙道(せんどう) (ゆたか)、2年2組・有森(ありもり) 裕二(ゆうじ)はソワソワと落ち着きなく、(いち)は同じく緊張状態の2年D組・神矢(かみや) 修一郎(しゅういちろう)に首根っこを捕まれた。

 

「本当、俺まで良いんスか?」

「ああ、伴奏を任せるんだ。海峰君にはプロの演奏を聴き込んで欲しいっ」

 

 海峰はウキウキと演奏を待ち、演劇部副顧問の国語担当・月島 亮二(つきしま りょうじ)先生から肩をポンッと叩かれる。彼への期待が高い。

 

「学生って私達だけかな?」

「そんなに緊張しないで、誰も取って食いやしないわ」

 

 その隣で月島と音響係がガチッチガチに言葉を交わせば、顧問の音楽担当・緒方 夏代(おがた なつよ)先生に宥められる。ちょっと面白かった。

 男子トイレに入れば、大人の嗜みで匂いが充満。煙草臭さは慣れた身だが、これはキツくてゲンナリした。

 

「金田君、キミも来たかいっ。ごめん、いるんならそうだよなっ」

「宇治木さん! 知っている方に会えて、嬉しいです。その名札……ゲストですか?」

 

 週刊誌記者・宇治木(うじき) 政宗(まさむね)の背広姿は初めて見たが、親しみを感じて和む。

 

「そっ、紅さんに直々、取材を依頼されたんだ♪ もう首振り人形みたいに業界の皆様へご挨拶しまくって、名刺が切れたよ。そうそう、多岐川さんもいたぜ。もしかして、一緒に?」

「自分、演劇部の皆と来まし……遠野先輩!?

 

 手洗い場で水洗いし、鏡に映った背後の個室が開く。そこには終業式以来(およそ2日ぶり)の遠野先輩が涙目でいた。

 

「本当に金田君だ! キミに会えて良かった~っ」

「遠野先輩、今日は家の用事では?」

「これがそうだよお。父に騙し討ちで連れて来られたんだ~。朝木さんのご家族と一緒で……ほとんど見合い状態だよ……。金田君もこっちに来て~」

「……げえぇ、朝木陶工もいらしてるのですか?」

 

 ガッシリと肩を掴まれ、珍しく遠野先輩は愚痴る。朝木が先週、彼を誘ったクラシックコンサートとはこれ。何故、子供達に内緒で大人は予定を組むのだろう。

 人間国宝・陶芸家の朝木(あさき) 冬生(とうせい)陶工と家族ぐるみの付き合いとは流石、遠野家である。

 

「ごめん、確か……金田君の先輩だっけ? まだ、朝木陶工の挨拶に行ってないんだ。一緒に行って良いかな?」

「……自分、皆と一緒の席……!? 遠野先輩、まだ行くと言っていません」

「だったら、僕と布施君達との席を交換しよう! 緒方先生でも可!」

 

 遠野先輩に無理やり連行された2階席、見晴らしが良い。

 

(……おおっ、響 静歌! 『遊民蜂起』の座長も……昔は作曲家だったし、こういうの興味あるんだ。……おっと、娘さんかな? 睨まれちゃった……)

 

 こちらには(いち)と同じ年頃の人々が多く、おそらくは著名人の身内だろう。視線が突き刺さった。

 

ごめん、金田君。見てごらん。常葉 瑠璃子だよ。今、注目株の美少女ヴァイオリニスト♪ ご自分で弾くわけじゃないのに、コンサートへ来るなんて~珍しい

「……どうぞ、挨拶へ行ってください」

 

 大興奮の宇治木は再び挨拶へ飛んで行き、(いち)はそっと逃げようとした。

 

「金田君、丁度良かったわ。アナタのお祖母様、招待したけど断られたの。座って行きなさい」

(ですよねえ……いますよねえ。御堂さん……)

 

 通り過ぎる途中、天才作曲家・御堂(みどう) 周一郎(しゅういちろう)の孫・御堂(みどう) 優歌(ゆか)に捕まる。名家のご令嬢たる正装。不動高校の制服で隣にいたくない気品さが自分自身の庶民さを露呈させ、胸が痛い。

 

「金田君は僕と観るんで」

「遠野君は朝木さんと観るんでしょ」

(かほる先生……助けて)

 

 その朝木親子は少し離れた席。朝木陶工に気付かれたら、面倒くさい展開が待っているだろう。他を下手に頼れば、もっと面倒な事態に発展する。(いち)は対応に悩んだ。

 

「金田君っ、キミもいらしてたんですね……どうしましたか?」

「明智さん……助けてくださいっ」

 

 警視庁捜査一課・明智 健吾(あけち けんご)警視はキラキラと眩しく、まさにクラシックコンサート会場に相応しいお方。違和感がひとつもない。遭遇した疑問は投げ捨て、(いち)は縋り付いた。

 遠野先輩の席替えは受け入れられ、明智警視に指名して頂く。

 

「いやいや、おかしいだろ。冬子が2階で朝木さんと隣同士……」

「緒方先生が御堂家のお嬢様と隣同士? 面識もないのにっ」

「それで……え~と、明智さんが……こっち? どうも~」

 

 有森は月島と離され、不満そう。神矢は2階方面を見上げ、仙道は困り顔でペコリと会釈した。

 

「2階の方が音、良く聴こえるって言うしさ。無問題(モウマンタイ)♪」

(……海峰に行かせれば、良かった気がする……)

「そりゃあ……遠野様はそれで良いだろうよ。……なんで中国語?」

 

 遠野先輩はご満悦で月島先生の隣、布施先輩は呆れる。ちなみに明智警視が隣になり、音響係は完全にエリートな魅力の虜となった。

 

「金田君、……七瀬君や金田一(きんだいち)君はいないんですね」

「あの2人は上海です。剣持さんはどうしましたか?」

「……出張ですよ。それ以上は言えません」

(また事件か……剣持さん、休みないなあ)

 

 警視庁捜査一課の鬼警部こと剣持(けんもち) (いさむ)警部。その出張先が上海であり、金田一(きんだいち)と七瀬に合流するような流れとなる。

 そんな出来事など知らぬまま、開演。

 私語は無くなり、呼吸音も聞こえぬ程に静まり返った。

 本日の主役たるヴァイオリニスト・(くれ) 亜里沙(ありさ)が気高い足取りにて参上。その手にあるヴァイオリンは勿論、師でもあり愛を交わした恋人・御堂先生より贈られた品。

 瞬きの間に、ピアノには作曲家マイケル・ヘンリーが座る。

 言葉のない挨拶を終え、紅は構える。弓を弾き、弦を放つ。

 

 ――曲目、御堂 周一郎遺作・『悪魔組曲』

 

 旋律が聴覚を通じ、神経を撫でる。ゾワゾワと肌を走り抜け、瞬きを許さぬ。

 麗しき指の動き、ひとつ、ひとつが見逃せない。

 紅とヘンリーはお互いを見ず、音だけが2人を繋ぐ。御堂先生の詩を読む声が勝手に蘇る。込められた愛の深さに感銘を受け、涙が零れた。

 啜り泣く声さえも旋律に混ぜ、弾き終わった。

 紅の頬や腕に流れる汗が照明に光り、暑さよりも美しさを魅せた。

 

 拍手喝采は当然――これがプロの聴かせる演奏、響かせる拍手音!!

 

 そして、御堂先生の愛に対する評価。素直に嬉しい。

 

 小休止を挟み、紅は『悪魔の呼び声』などの御堂先生代表作を演奏。どれもこれも素晴らしく、上演時間を終えた後の余韻に浸る。

 感嘆の息を吐き、明智警視はゆっくりと動き出す。(いち)の肩をそっと叩く。別れの挨拶代わりだ。彼と同じように他の人々も席を立つ。紅へ直接、賛辞を贈る為だろう。

 

「……皆、大丈夫? すっかり、骨抜きね」

「フフッ……どう、海峰君? 物に出来そう?」

「実力の差は歴然っスよ。でも、来週の俺はその差を縮めマスっ」

 

 2階から戻った月島は緒方先生と逸れぬ様、手を繋ぐ。予想以上の状態にクスリッと笑い、顧問は伴奏係へ挑発的に問うた。

 流石、海峰はピアニストを目指す者。武者震いが如くに震え、誓った。

 

「いたいた♪ お~い、不動高校の皆!」

「山根さん、こんばんは。素敵なコンサートでしたね」

 

 御堂先生の元マネージャー・山根(やまね) 優香(ゆか)はスーツ姿にゲストの名札を付け、陽気な態度でご挨拶。

 

「でしょう♪ 正直、早拵えになっちゃった感はあるけど、それを差し引いても大盛況! ねえ、花は好き? 良かったら、持って帰らない? あり過ぎちゃって、亜里沙さんの家が花屋になっちゃうっ」

「緒方先生の車に詰め込めるだけ、詰め込みます」

「月島先生?」

 

 山根に頼まれ、月島先生は目に浮かんだ涙を拭う。演奏に感動し、ずっと泣き声を堪えていた。勝手に返事された緒方先生はキョトンと目を丸くしたが、反対はしない。

 ぞろぞろと連れ立ち、案内されたのは人の居ない控室。鏡台や椅子、机などの調度品はどことなく華美。

 ついさっきまで紅がいた痕跡として、大量の花は花屋が如くある。

 

「あっ、金田君。薔薇があるよ。僕はこれにしようかな」

「遠野先輩……お父上と合流しなくて良いのですか? ……綺麗な薔薇です。他で見たモノと違います」

 

 当たり前のように遠野先輩も付き添い、選ぶ。彼が指さした薔薇の花束は花弁が潤い、瑞々しい。一本、一本、丁寧な環境で育てられた。そんな印象だ。

 

「ほほお、お目が高い。それはある有名な薔薇ブリーダーが育てた薔薇よ。これだけ見事な薔薇だと少数しか、用意出来ないから。いつも予約でいっぱいなんですって。全部、夏岡さんに聞いたんだけどね」

「夏岡さんがご用意したのですね。自分も一輪だけ、頂きます。原付で帰りますから」

「どうぞ、金田君には一番大きい奴を渡そう」

 

 山根の説明を受け、(いち)は興味を抱く。にこやかな遠野先輩が花束から一輪抜き、そっと渡した。

 

「月島さん、ユリとかどう?」

「冬子、ガーベラあるぞ」

ごっほん!!

 

 神矢と有森は何故か、月島の花を選ぼうとする。月島先生から圧力混じりの咳払いに負け、2人は自分の分を選んだ。

 

「う~ん。この胡蝶蘭なら、大道具で使えそうだな~。オレ、これにしよう」

(……使う?)

 

 ずっと悩んでいた仙道がようやく胡蝶蘭の植木鉢を選び、全員終了。

 途端、遠野父にこの場所を突き止められる。遠野先輩はすっと礼儀正しくなり、お行儀の良い笑みを浮かべた。

 

「お父さん、すみません。花を分けて頂けると言うので、選んでいました。先生、お先に失礼します。次は演劇部のコンクールでお会いしましょう」

「ええ、遠野君。お気を付けてっ」

「またな、遠野」

 

 静々と先生方へ挨拶してから、遠野先輩は去った。

 

「流石、遠野様。キッチリ、区別してやがる」

「流石、俺達の生徒会長っス」

 

 布施先輩と海峰は敬礼し、遠野先輩を讃える。

 

「今の生徒会長は美雪さんだよ~っ。そうだろ、金田!」

「ええ、まあ……そうです」

 

 困り顔の神矢が必死にフォローを求めるが、(いち)は返事も面倒故に棒読みで返した。

 山根に駐車場まで見送られ、楽しい時間の終わりを実感する。仙道が胡蝶蘭の鉢植えを抱え、月島先生の車へ積ませてもらう。ついでに彼自身も送られる事になった。

 

「金田君、来週のコンクールを楽しみにしてるわ。私もバッチリ、休み取ったから!」

「ご期待に添える演技をご披露いたします」

 

 満面の笑みにて、山根と来週の約束を交わす。各自、それぞれの交通手段が違う為に解散。

 (いち)も原付バイクのある駐輪場へ急ぐ。愛車には見慣れた人物が寄り添い、心は弾んだ。

 

「遅かったわね、(いち)っ。あら、薔薇?」

「こんばんは、かほる先生。はい、紅さんに贈られた薔薇を分けて頂きました」

 

 推理小説家・多岐川(たきがわ) かほる先生の正装は、まさに大先生の威厳を持つ。挨拶出来ぬと思っていただけに、会えて嬉しい。

 

(いち)も観に来てるって、宇治木さんが教えてくれたわ。このバイクを見付けられなかったら、帰ろうと思っていたのよ。あんな人混みからなんて、探せないわ」

「自分もです。では、お待たせしたお詫びにこちらを進呈します。さる高名な薔薇ブリーダーが手掛けた逸品です」

 

 ブツブツ言いながら、かほる先生は原付バイクを探してくれたのだ。

 感謝を込め、(いち)は薔薇を差し出す。紳士が如く、片膝を突くのも忘れない。

 

「へえ、上手い言い回しね。気に入ったわ」

「いえ、本当に有名な薔薇ブリーダーが育てました。自分、こんなに薔薇を綺麗だと感じたのは初めてなのです」

「そう、この薔薇が……。だったら、来週のコンクールはこれを贈るわ。期待しててっ」

「楽しみにしています(今から注文して間に合うかな?)」

 

 かほる先生は気を良くし、薔薇を受け取る。口上を冗談に受け取られてしまい、感想を交えて簡潔に説明した。彼女が贈ってくれるならば、(いち)はどんな物でも喜ぶ。だから、物自体はなんでも良かった。

 この薔薇に関しての予約状況を想定しておらず、かほる先生は大慌てで相手方の薔薇園へ出向き、交渉する羽目になる。それもまた一興だ。




小龍「謝謝、ハジメの朋友にも会ってみたいナ。面白い人、たくさん。一緒に来てくれたら、会えたノニ。残念ネ。さて、次回は『今度は【上海人魚伝説殺人事件】だそうで・後編』!! 李刑事に出番あるなんて、ズルイっ」

金田 一
オリ主、生徒会執行部にして演劇部。氷室 一聖の甥、莫大な財産を相続した(詳細はF.7)

七瀬 美雪
現生徒会長、演劇部とミス研の掛け持ち中

佐木兄弟・竜太と竜二
可愛い後輩

明智 健吾
警視庁捜査一課のエリート警視、作中にて金田家を気に掛ける

花都 千冬
なぜ、暖炉は燃えていたか? ゲストキャラ。作中にて『大草原の小さな家』のアルバイト

宇治木 政宗
鬼戸・墓獅子伝説殺人事件、ゲストキャラ。作中にてオリ主の知り合い

金田一 一の担任・吉長
雪鬼伝説殺人事件、モブキャラ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。