金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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金田一達が日本へ帰国した後の日常回です

誤字報告により修正しました。ありがとうございます


2休 今度は【上海人魚伝説殺人事件】だそうで・後編

 演劇部は佳境に入り、学校での稽古も激しさが増す。

 指揮者・夏岡 猛彦(なつおか たけひこ)の指導もあり、海峰(かいほう)の伴奏に問題はない。彼は弾けば、弾く程に『悪魔組曲』を掴んでいく。その完成度は月島が演じるエリックをより一層、才能に溢れた怪人へ仕立て上げる。

 問題は(いち)が演じるクリスティーンにより、ピアノ伴奏。

 ピアノに弾き慣れず、たどたどしい伴奏を望まれる。この加減に指が慣れない。うっかりと本来の指使いが出てしまう。

 通し稽古で先生方から好評だが、(いち)は最後の見せ場に納得できぬ。

 学校に居ない時間は全て、金田宅でのピアノ伴奏へ注ぎ込む。

 防音対策した部屋は深夜帯でなければ、弾き放題。金田祖母の趣味へ本当に感謝だ。

 電話が鳴ろうと、金田祖父が呼ぼうと無視し続け、指を動かす。自分はクリスティーンとして、エリックを悼んで鍵盤を叩くのみ。

 

(いち)っ!! 七瀬さんから電話やて、なんべん言うたら分かんねん!!

いないと言って下さい!!

〈怖……、今……忙しい?〉

 

 アドレナリンドバドバの脳活性化状態を邪魔され、怒鳴り返す。子機を持ち込まれ、居留守は即座にバレる。イラッとしつつ、(いち)は深呼吸した。

 神経質状態を抑えられず、金田祖父に用件を聞いてもらう。七瀬は無事、上海旅行から帰国した旨を伝えられた。それだけなら、今日の学校でも遅くない。どうせ、部活で会うのだ。

 

「お土産あるき、取りに来いやと。ちっとは休みなはれ、朝から弾き過ぎやっ」

「七瀬さんには今日の部活で会います」

金田一(きんだいち)くんが渡したいらしいわっ」

「……それこそ……学校に来れば、いいでしょう」

 

 舌打ちしなかっただけでも、褒められたい。

 

(いち)っ、金田一(きんだいち)くんの家に行くの? ……大変だわ、コレを持って行きなさい」

「婆さん、それ。ワシの……おつまみ」

 

 朝からの訪問に御持たせは付き物、金田祖母からスルメイカの瓶詰めを渡された。

 

 七瀬を迎えに行くついでもあり、(いち)は金田一宅へ向かう。玄関先で原付バイクをわざとらしく、フカす。ガス欠じみた音しか出ないが、寝惚けた金田一(きんだいち)を呼び出せた。

 

「ウルセ~、近所メ~ワクも考えろ!!」

「はじめちゃん、おはようございます。自分にご用ありと聞き、馳せ参じましたっ」

 

 Tシャツとトランクスを晒し、金田一(きんだいち)は仏頂面のお出迎え。小気味良く挨拶し、返事も聞かずに突入した。

 

「ワン、ワン、ワン」

「!?」

「そいつはポアロっ。しばらく、ウチで預かってんだ」

 

 上り框に子犬・ポアロが駆け寄り、(いち)へ尻尾を振るう。以前の訪問時に居なかった為、驚いた。

 つぶらな瞳に小さな口からはみ出る舌、三角お耳にクリッとした尻尾。愛くるしさに溢れた短い毛は見る者を惹き付け、メロメロにさせる。

 

「可愛いですね。撫でても大丈夫ですか?」

「いらっしゃい、金田君。ええ、ポアロは元気が良いだけで噛まないわっ」

 

 現れた金田一(きんだいち)の母がポアロをそっと抱き、(いち)は子犬の顎を軽く撫でる。柔らかい毛並みに逆立った神経がようやく、落ち着いた。

 ポアロは撫でられる役目が終わったかのように金田一(きんだいち)の母から離れ、奥へ引っ込む。少し残念だ。

 

金田一(きんだいち)君のお母様、おはようございます。朝から騒がせして、すみません。こちら歯応えの良いスルメイカです」

「あらん、お気遣いなく♪ はじめ!! 友達の前で、なんてみっともない恰好してるの!」

「男同士なんだから、イイじゃ~ん……」

 

 拝借した金田祖父のつまみを差し出す。金田一(きんだいち)の母は喜んで受け取り、己の息子を厳しく注意する。金田一(きんだいち)本人は呑気に欠伸を返しただけだ。

 実に微笑ましい母と子のやり取り。

 そして、金田一(きんだいち)の部屋は相変わらず、男子高校生らしい散らかり放題。和みながら、座るスペースを確保した。

 

「金田、コレ。上海土産な」

「ありがとうございます。自分の分まで用意して頂き、嬉しいです。それで本題は?」

 

 両手で上海土産を受け取り、本題を急かす。金田一(きんだいち)は質問を待っていたように正座、誠実な眼差しで頭を下げてきた。

 

「上海へ行く前、さくらに会った。弁護士、頼んでくれたの……金田だろ。ありがとう」

「……その件ですか」

 

 色々と意外だ。

 和泉(いずみ) さくらと会う為に、金田一(きんだいち)は終業式直後に青森へ飛ぶ行動力。彼女と話した時間を「面会」ではなく、敢えて「会った」と伝える思いやり。

 

「お礼はどうぞ、和泉さんのご親戚の方へお願いします。弁護士費用諸々、そちらが持つとお話があったそうです。ですので、もう自分は正式な依頼人ではありません」

「……金を払うだけが依頼人って、ワケじゃねえと思うぜ」

 

 先日、冬部(ふゆべ) 蒼介(そうすけ)弁護士と正式に委任契約を結ぼうとすれば、そんな話を聞かされた。

 金田祖父母を名義上の依頼人にするより、色々な手続きもスムーズに行えるそうだ。実質的に費用を負担したのが、吉良(きら) 勘次郎(かんじろう)画伯だと自分達が知る機会はない。

 

「……弁護士って、お前と千葉で会った時に付き添いだった人? 土砂崩れで結局、俺と会わなかった……」

「いいえ、別の方です。冬部さんは少年法に強い方ですから、心配はないでしょう。ですから、はじめちゃんに弁護士が必要な時、お呼びしますねっ」

 

 事件続きの不動高校生、いつ何が起こるか分からない。名探偵の孫に警視庁捜査一課と繋がりはあろうとも、毎回こちら側だと限らないのだ。

 

「要らねえよ! ったく……途中まで良い話だったのに……。良い話と言えば、映画! 観に行く約束したじゃん。いつにする?」

「ああっ、佐木君と観てきましたっ」

 

 どうやら、金田一(きんだいち)の裏向きの本題はこちら。『エヴァ』劇場版。

 会話の流れに過ぎなかった口約束を果そうとしてくれたらしい。終業式の夕方、佐木(さき)兄弟と映画鑑賞済みである。正直に答えれば、金田一(きんだいち)から表情が消えた。

 

「『エヴァ』、観に行ったのか? 俺以外のヤツと……」

「はじめちゃん、そんな……浮気者を見るみたいな目……やめてください。罪悪感に押し潰されます」

ヒドイわ、俺よりも佐木を選ぶだなんて~!! って、ちげ~よ! 俺が約束を破るの前提だったと思われたのが……イヤだったんだっ。友達だろ……俺達、ちっとは信用しろって」

「……それは……はい、すみませんでした」

 

 またもや意外。

 金田一(きんだいち)に友達と思われていた。しかも、少し照れ臭そうに躊躇う言い方は胸を高鳴らせる。うっかり、惚れてしまいそうだ。

 

 ――今日までの日々を思い返す。

 

 金田一(きんだいち)は出会い頭に蹴られたにも関わらず、(いち)をお泊まりにご招待。

 北海道の死骨ヶ原湿原事件、不動高校教師による生徒との不純異性交遊問題、千葉の『悪魔組曲』相続問題、神奈川県警の刑事訪問、歌島のオペラ座館事件……そして、青森のラベンダー荘事件。

 碌な思い出が無く、お互いの友情が芽生える隙も無い。寧ろ、(いち)は煙たがられても仕方ないはずだ。

 金田一(きんだいち)は七瀬同様、一度でも関わった人間は友人なのだろう。好き不好きをハッキリさせる身故、素直に尊敬する。

 

 ――その友情に応え、これからは友達と呼ぼう。

 

「上海旅行は如何でした? パンダとか、九龍(クーロン)城砦とかっ」

「九龍城は香港だろっ。また今度な」

 

 不貞腐れた金田一(きんだいち)へ冗談を交え、旅行の感想を求める。いつか聞かされた言葉を返され、直感。

 

「はじめちゃん、また事件に遭遇しましたね……。しかも、警察沙汰に発展する程の……」

ギクッ。美雪から……いや……その言い方だと今、気付いたっぽいな。お前も冴えた推理するようになったじゃん、アハハッ」

「海外デビュー、おめでとうございます。お祝いに何か、良い物をご用意しましょうっ」

「や~め~ろ~っ、な~んもオメデタくないわ! あっ、バイク欲しい。お前の原付バイクくれよ」

 

 図星を指摘され、金田一(きんだいち)は分かり易く汗だく。心の籠らない乾いた拍手を送り、嫌味に門出を祝おう。厄払いに神社仏閣へ連れて行こうと考えれば、彼から唐突におねだりされた。

 金田一(きんだいち)は重要な頼み事はするが、物をせがむ人ではない為、純粋にビックリだ。

 

「自分の……ですか。それはまたどうして?」

「お前さ、新しいバイクを買うんだろ? 佐木2号から聞いたぜ。バイク屋をウロウロして、夏休みには買い替えるって話もしてたってよ。古い奴、処分するなら貰えねえかなって♪」

 

 確かにその通りだが、その話をしたのは6月初め頃。弁護士・黒沼(くろぬま) 繁樹(しげき)先生と新車選びに行った時だ。

 佐木2号こと、竜二(りゅうじ)に見られていた。

 何が恐ろしいかと言えば、不動高校は体育祭代休日故、平日でも街へ出かけられた。しかし、中学校は平常授業のはず。ゾッとした。

 

「良いですが……事故に遭ったので、あちこち痛んでいますよ?」

「そのくらい、普通だろ。構わねえよ♪ わ~い、念願のバイク~♪ こうしちゃいらんねえっ、免許取りに行かなくちゃなっ」

 

 竜二の奇行はさておき、金田一(きんだいち)へ断る理由はない。

 ただ、入院騒動に陥った転倒事故を起こした愛車。人手に渡すには忍びなく、処分を考えていた。ニッコニコの金田一(きんだいち)はそれを察し、哀れなバイクを引き取ろうと言うのだ。

 彼は物にも優しい。お調子者のお人好しかと思っていたが、聖人の類かもしれない。

 

(……免許、持ってないんかいっ)

「母さ~ん講習代、ちょ~だい。免許取りに行くから!」

「は? お母さんは講習代じゃないわよ。そもそもっ、はじめはバイク持ってないじゃない! 買わないわよ! お父さんのボーナス、去年より下がったのは知ってるでしょう!!」

 

 遅れたツッコミは噤む。客人を置き去りに金田一(きんだいち)は己が母親へ講習代をせびりに行き、そのやり取りを十分に楽しませてもらった。

 気兼ねの要らない家族、とても良いな。

 

「金田君。いつまでもはじめちゃんと喋ってないで、部活行くわよっ」

「ワン、ワン」

「……七瀬さん、お邪魔しますの声……聞こえませんでした」

 

 ここは金田一(きんだいち)の部屋であり、彼は下にいる。にも関わらず、七瀬(ななせ)はズカズカと上がり込む。ポアロはまだ階段が上がれないらしく、下から可愛く吠えた。

 

「あたし、はじめちゃん家ではいつもこんな感じなの」

(……ほとんど家族じゃねえか……) 

「あっ、金田君っ。うちの息子にバイク、譲ってくれるなんて……本当に良いのかしら? お下がりとは言え、高価な物を……まさか、はじめが無理矢理?」

「母さん、俺を信用しようぜっ」

 

 (いち)はグイッと引っ張られ、七瀬と階段を下りる。彼女が当たり前のように家の中をウロついても、金田一(きんだいち)の母は気にせず、原付バイクの件を問う。こちらは事故車を引き取ってもらう身、お互い様だ。

 

「お母様、勿論良いのです。それに原付バイクですから、そこまで高価ではありません」

「何言ってるの、原付だろうとバイクはバイクよ。金田君はなんて気前の良い子なの……感動しちゃうわ。はじめっ、ちゃんとお礼しなさいっ」

「ヘ~イ」

「ふう~ん、はじめちゃんにバイクをねえ。あ♪ それなら、誕生日プレゼントにして貰うって言うのはどう? 来週が誕生日なのよ、はじめちゃんっ」

 

 金田一(きんだいち)の母は息子同様に見ていて飽きない。七瀬にしては気の利く思い付き、(いち)は感心した。

 

「その日、自分は北海道です。祖父に持って来させますっ」

「例の合宿かっ。そうだよ……俺、誕生日だっ」

「あら~、悪いわねえ」

 

 誕生日には原付バイクを引き渡す。今度はしっかりと約束したのだが、まだ16歳の身でいくつもの難事件を解決した高校生名探偵。その事実に恐怖し、(いち)の背筋が凍り付いた。

 

「そうと決まれば、はじめちゃんも学校へ行きましょうよ。ミス研もやってるし、クラスで学園祭の準備してるんだからっ」

「有森が紹介してくれたバイトに行かねえとっ。ヘルメットくらいはちゃんと買いたいしっ」

「はじめっ、部屋の片付けも忘れないでっ」

「七瀬さん、行きますよ」

 

 原付バイクを眺め、七瀬は金田一(きんだいち)を学校へ誘う。速攻で却下された。

 2人乗りなど出来ぬ為、駅まで歩きを共にする。日差しから逃れようとヘルメットを被ったが、蒸し暑くて脱いだ。

 

「金田君、今更だけど……本当に良いの? 去年からずっ~とコレで学校へ来ていたのに……淋しくならない?」

「……はじめちゃんが乗ってくれるなら、近くにいるのも同然です。淋しくなりません」

 

 七瀬のセンチな質問に少し、(いち)は虚を突かれる。1年程度の付き合いしかない愛車を惜しんでも、新車が来れば、お払い箱だ。

 口に出した言葉通り、次の行き場は決まっている。

 

「そうよね……はじめちゃんもきっと大切にしてくれるわ。ああ見えて、人から貰った物は大事に取っておくのよ♪」

「ええ、自分もそう思います。だから……安心して、はじめちゃんへ渡せるのです」

 

 ウィンクした七瀬は原付バイクへ微笑みかけ、優しく撫でる。

 金田一(きんだいち)が嬉しそうにバイクへ跨り、運転する様子を想像。何故だが、その後ろを剣持(けんもち)警部がパトカーで追いかける場面に切り替わった。とてもお似合いの光景だ。

 

「「……プッ」」

 

 お互いの想像が合致し、噴き出す。

 

「そうそう、剣持警部……コンクールは観に来られないそうよ。ずっと事件続きで、調書作りが大変だ! って嘆いてたわ」

「そうですが、残念です(七瀬さんの態度……学校側が何か、言ったか?)」

 

 爛漫な笑顔から、すっと寂しげに眉を寄せる。七瀬の表情があからさまに変わり、剣持警部と学校側との嫌なやり取りを察した。或いは彼の方から、生徒へ気を遣ってくれたのかもしれない。

 尚の事、(いち)は全てを出し切ろう。

 観に来られない人々が残念がる程の素晴らしい〝演技〟を披露する。それこそ、これまでの恩義を返せるのだ。

 舞台へ上がる前、クリスティーンはこのような気持ちだったのかもしれない。否、絶対にそうだ。

 ようやく、(いち)の中で若きプリマが馴染んだ。

 

「七瀬さん、成功させましょうね。コンクールっ」

「!? ええ、勿論っ」

 

 自らの決意を語り、他者へ同意を求める。七瀬は突然の事でも、すぐにこちらの心境を理解してくれた。

 望んだ通りの答えだが、今までのどんな瞬間よりも勇気付けられた。

 やっと、七瀬とも友達になれた。そんな事を口にすれば、今までの関係を追求されそうな為に黙っておこう。

 

 部活後は黒沼先生へ連絡し、バイク屋に現地集合してもらう。お目当ての新車を購入手続きする為だ。

 

(いち)君、普段は登校に乗るんだろ? だったら、赤は目立ち過ぎる。もっと控え目にしないと余計なトラブルを招くっ」

「ああ……はい、金田 正太郎に合わせたかったのですが……悪目立ちはいけませんね」

 

 赤い車体欲しさに近寄れば、高校生の身では危険と説得される。黒沼先生の言い分も一理あり、彼の名に因んで黒を選ぶ。色を変えたいなら、後から塗り替えればいいだけだ。彼が気さくな口調で接してくれて嬉しかったのもある。

 弁護士同伴の影響だろうか、原付バイク購入と同じ手続きが物凄くスムーズに進んだ。

 

○●……――(リ―) 波児(ポール)上海虹橋(シャンハイホンチャオ)国際空港にいる。

 警視庁捜査一課・剣持 勇警部を見送る為だ。

 魚人遊戯になぞらえられた連続殺人事件、その真相は国を越えた悲劇だった。

 状況証拠のままに(ヤン) 小龍(シャオロン)を逮捕していれば、突き止めらなかったかもしれない。或いは気付いた時には手遅れになっていた可能性もある。金田一(きんだいち) (はじめ)の権力に屈せぬ根性、1人の探偵として認めよう。

 金田一の推理力、否、彼自身を信じ続けた剣持警部。その判断力と信念を貫く姿勢に、李は深く感服していた。

 あれこそ、現場に立つ人間の理想の姿なのかもしれない。

 

「色々と世話になったな、李刑事。日本に来る事があったら、連絡をくれっ」

「勿論デス、剣持警部」

「剣持さん?」

 

 名残惜しい挨拶を交わす中、第三者の声に振り返る。ゾッとした。

 ガタイの良い男はおそらく日本人。剣持警部よりも若々しい印象だが、黒目の大きな瞳に活力がまるでない。喪に服しているか、生きていない。失礼ながら、死体が喋っていると思った。

 タートルネックで首筋が見えにくく、気になる。触れずにおこう。

 

「残間さんっ、アナタも香港に? ああ、失礼。李……さん、こちらは残間さんと言ってな。……簡単に言うと金田一の同級生の親父さんだ。こちらは李さんで、同業者です」

「ご紹介に与りました。残間と申します。もしもの際はお力添え頂くと思いますが、その時は……」

「……コレはご丁寧に……李デス」

 

 流石、剣持警部。全く動じぬどころか、親しげに会話している。若輩者なれど、李もそれなりの場数を踏んだ身。誇り高き上海警察として引くわけに行かぬ。

 

「残間さん、何か格闘技をされていまシタか?」

「おっ、流石は李さん。残間さんは元マジシャンでな……どんなマジックを披露されていたんでしたっけ?」

「単純に物を生き物の様に動かすだけですよ。後は人の動きを拘束して、動けなくするとか……」

 

 元マジシャン。

 嘘だろうと言いかけたが、グッと堪える。

 物々しさからは裏家業の殺し屋と言われても、李は納得しただろう。しかし、剣持警部は残間(ざんま) 青完(あおまさ)のマジックそのものを見た事ない様子だ。

 ダメだ。

 先入観とは恐ろしいモノ。殺しに使う場面しか、想像できない。

 

「その身のこなし、格闘家の方かと思いまシタ」

「ほお、蟷螂拳の使い手にそう言わせるとはっ。残間さん、アンタ……中々、やりますな」

「はははっ、ご冗談を。李さんと試合しても、私など勝負になりません」

 

 剣持警部は残間へ世辞を言えば、李も世辞をもらう。確かに勝負にならないだろう。試合ではなく、死合いになりそうだ。頼まれてもお断り。

 

「あれ? ……そもそも、残間さんのお仕事なんでしたかね?」

「……てっきり、ご存じかと……。改めまして、こういうモノです。李さんもどうぞ」

 

 まさかの質問にビックリ。残間も恐縮しながら、李は名刺を受け取った。

 

「キャ……デ……イン、カタカナは慣れていないもので……」

「デザイン事務所! 残間さん、デザイナーなんですか?」

「とんでもない、そこに書かれた通りの広報担当です」

 

 日本語特有のカタカナと平仮名は読みにくい。

 

「さっき、金田一さんの名前が出ましたが……来ているのですか? 同じ便なら、ご一緒しましょう」

「いいえ、奴は先に帰しましたよっ。残間さんは今日どうして、こちらに?」

「お父さ~ん! ……剣持警部!?」

(ソックリな娘!?)

 

 剣持警部が世間話すれば、残間に瓜二つの娘が可憐な足取りで走って来る。そちらも鍛えられた体格ながら、一般人の雰囲気で良かった。

 パアッと残間の表情が輝き、陰湿なゾンビから親馬鹿へ変貌する。

 

 コノ人、怖イヨオ

 

 これが娘を愛する父親、まだ李には縁がない為に恐れ入る。

 

「この子は残間さんの娘で、さとみ君だ。こちらは同業者の李さんだ」

「初めまして……じゃなくて、チューツージェンミェン?」

「私は日本語、大丈夫デス」

「ご覧の通り、娘を迎えに来ました」

 

 麗しい残間(ざんま) さとみ嬢は紹介された拍子に慣れぬ発音、礼儀正しいとすぐに分かる。しかし、残間の言っている意味は分からない。

 

「……羽田空港じゃなく……わざわざ、国を越えて……迎えに?」

「そうなんですっ。1人じゃないから、大丈夫だって言ったのにっ。前よりも、過保護が酷くなっちゃって……」

「仕事に着いて行かなかっただけ、マシだと思って欲しいな」

(……? 日本に帰って来るのが待ち遠しくて、……上海まで来たというワケか……。心配なら、護衛でも付ければ良いものを……)

 

 剣持警部はキョトンとし、さとみ嬢はため息。残間の親心は李刑事の感覚では普通だが、その行動は伴っていない様に思えた。だが、それは言うまい。

 

「お父さんっ。休み過ぎて、クビになっても知らないからっ」

「そんな……いっそ、私もデザイナーに……そうしたら、在宅も……」

「剣持警部、そろそろ搭乗口へ行ってクダサイ」

「おお、そうだな。今から行かんと、すぐに混んじまうっ」

 

 挨拶をそこそこに、李は時計を気にする。

 お喋りに夢中で剣持警部が搭乗に遅れるなど、天が許しても李は許さない。もう少し話せば、残間親子も金田一が解決した事件の当事者と知れたが、仕方ない。

 

「あっ、皆も行ってる。お父さん、行こうっ」

「それでは李さん、再見(ザイジイィェン)

「……再見」

 

 残間は丁寧に別れの言葉をくれたが、目礼にて返す。愛娘以外にはゾンビの雰囲気を向けたまま、不気味な印象だけを与えた。

 上海よりも平和な日本、それでも残間は心安らげぬ。ただ、気の毒に思う。

 だが、下手な同情は却って危険。剣持警部はそれを理解し、残間を一般人扱いしているのだ。

 

(見習わねばっ)

 

 乗客が全員搭乗し、飛行機は予定通りに離陸する。

 機体は滑走路を離れたが、残間の影だけはまだ地面に張り付いている気がした。

 剣持警部が飛び立った先に、本当の静けさがあることを祈る。

 飛び立つ機影に向け、李は敬礼を送った。

 姿が消えるまで姿勢を崩さなかったのは警礼ではなく、誓いのようなもの。

「次に会う時、アナタような刑事でありたい」

 

 ――心の奥でそう願う自分がいた。

 

なんで、お父さんはいっつもそうなの!!

「さとみ……落ち着きなさい。声が大き……分かった。私が悪い……認める

(さとみ君、(いち)君の入院を知らんかったんか……ヤバい)

 

 まさか、剣持警部の余計な一言により、残間親子が言い争いに発展しているなど、露とも知らず。

 




西村「西村 志保です。閲覧ありがとうございます。名探偵クンは日本へ帰ったけど、あたしはまだ上海にいるわ。あの子の傍にいたいもの。さて、次回は『嘆きの鬼伝説を独りで演じても』!! 他の人が演じるのを観るって勇気いるわよね」

李 波児
上海人魚伝説殺人事件、ゲストキャラ。原作・金田一少年の決死行にも登場
蟷螂拳の使い手、ガチで強い
日本に研修した際、剣持警部と親しくなる。日本語は金田一を怒鳴り散らすレベルに上手い。作中にて、残間 青完を幽霊的に恐れた


金田一 一
オリ主と友達になった

剣持 勇
李刑事に尊敬されている。言葉が通じなくても、すぐに人と仲が良くなるコミュ力オバケ(褒め言葉)

ポアロ
怪盗紳士の殺人より登場、愛くるしいワンちゃん

残間 さとみ
魔術列車殺人事件、ゲストキャラ。オリ主の姉、現在は流森奇術会で修業中

弁護士・黒沼 繁樹
雪霊伝説殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、オリ主に頼られている

残間 青完
穴埋めオリキャラ、姉弟の父親。李刑事曰く、目が死んでる

金田祖父母
穴埋めオリキャラ、金田一が好き
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