金田少年の生徒会日誌 作:珍明
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます
去年に転校してきた
鬼頭はお高く留まり、裕子達を歯牙にもかけない。辻口姉妹とは仲良さげだが、『嘆きの鬼伝説』の伝承を引き継ぐ家系である為、取り入っただけだ。
今回の東京旅行は面打ち師・
部室へ挨拶に来てくれた辻口先生は想像通り、如何にも面打ち師の風貌。髭は似合うが、裕子の好みではない。
「私が東京へ付き添おうと思うのだが、皆さん……どうかな?」
「こちらこそ、お願いしたいくらいです。顧問の先生が都合付かなくて……」
更に引率も引き受けてもらい、宏和は礼儀正しく頭を下げる。
「マジ、太っ腹……どうしたんだ? 辻口の親父さん……」
「父は最近、県外の催し物に興味を持ってるみたい。前に静岡のマジックショーへ行こうとしてたけど、母の具合が体調を崩したからって……美奈子が内弟子の江波さんと行って来たの。ほらっ、バームクーヘンを買って来てくれた時よ」
「ああ! あのバームクーヘンっ、そう言えば……ちょっと静岡に行って来てみたいに言ってたわね」
3年生の
「美奈子ちゃんのお父さん。失礼ですが、演劇に興味がある様に思えません。東京に行く理由は何ですか?」
「鬼頭さんっ」
「おい、失礼だぞ」
けれども、辻口先生は微笑んで答えただけだ。
「なかなか、正直なお嬢さんだ。私はただ、演劇コンクールを観に行きたいんだよ。令衣子から聞いたが、不動高校も参加するんだろ? 去年の泉鏡花演劇祭を観にわざわざ、金沢へ足を運んでくれたんだ。今度はこっちの番だ」
鬼頭の探るような言い草に肝を冷やし、裕子は岡安と厳しく咎める。気を悪くさせて、東京行きがおじゃんになりたくない。
初めて、令衣子が部に在籍してくれて良かったと感謝した。
「そうよっ、七瀬さんに会えるわ。鬼頭さんは泉鏡花演劇祭の直後にここへ転校してきたから、知らなかったわね。東京の不動高校とは交流があるのっ」
「不動高校の演劇部と……そうなの? 美奈子ちゃんっ」
「うん……七瀬さんはとても、気立ての良い人よ」
急に閃き、令衣子は喜びの声を上げる。不動高校演劇部・
辻口先生の本心が何であれ、東京へ行けるならば、何でも良い。裕子は勿論、全員が納得した。
初めての飛行機に心が弾んだが、窓際ではなかった。
しかも、裕子は離陸する浮遊感に体が竦み、泣いてしまう。自分でも驚き、隣の席にいた鬼頭からハンカチを差し出され、ちょっと悔しい。更に彼女の興味ない態度が更にイラッとし、涙を拭う。
「東京行くのは本当に嬉しいけど、あのオッサンとホテルが同室かよ……。しかも、野郎で3人部屋……」
「岡安、それ以上言うなら……お前は歩いて来いっ」
静かな機内で聞こえた会話。女子の宿泊するホテルは4人部屋。鬼頭と一緒、裕子も早々にゲンナリした。
都会はそんな陰鬱な思考も吹き飛ばす。
TV画面や雑誌でしか見た事ない街並み。見渡す限り、人、人、人の多さ。香水や排気ガスで酔いそうだったが、東京タワー、浅草の雷門はしっかりと巡った。楽し過ぎて、当初の目的である高校演劇コンクールを忘れかけた。
その会場は正に近代的な建物。
集った高校生の人数がまた多く、それに比例した美男美女。色んなタイプのイケメンがわんさか、正直に言おう。宏和よりカッコイイ。裕子の心臓はときめきに撥ねすぎて、疲れた。
「大丈夫? 坂本さん……また人混みに酔った?」
「……辻口さん、よく平気ね……」
「おいぃ、見ろ……。すっげえ、美人」
令衣子に気遣われた時、驚いた岡安が感嘆の息を吐く。確かに絶世の美女が歩き、人々の視線を集めた。
「ヴァイオリニストの紅 亜里沙っ」
「あっちは湖月 レオナだ」
知らない誰かの声を聞き、有名人と納得。同性をも魅了する美しさに絶句、嫉妬さえ起きない。鬼頭はおろか、裕子も霞んだ。井の中の蛙大海を知らず、身をもって味わった。
観客席は少し内装が違う程度で見慣れた雰囲気、やっと安心。
「やっぱり、遠野君も来たのね」
「やあ、桜樹君もかいっ。……なんで、白神さんもいるのかな。お仕事、忙しいでしょう?」
「遠野君、会う度に敵意が募ってますね。面白いっ」
前言撤回、後ろの座席に美男美女が並んで座る。傍から見れば、
「七瀬さん、どこかな? 出番は午後だし、どっかで座ってるはずっ。あっ、あんな遠くにいた!」
(……七瀬さんの隣にいる子、誰っ)
「やめとけ、辻口さん。緊張でガッチガチになってんだろうぜ」
令衣子はキョロキョロと辺りを見回し、不動高校生を発見。後ろ姿だけでも七瀬はすぐに判断出来たが、気になるのは女子生徒が1人。左顔面の包帯ではなく、妙に人目を引く雰囲気だ。
宏和の言う通り、挨拶は控えた。
始まった高校演劇、完成度の高さに圧倒される。いつも最低人数、予算ギリギリ、裕子の部が如何に矮小か、見せ付けられた気分だ。
午前の演目だけで、裕子はお腹いっぱい。お昼休憩がとても有難く感じ、外の空気を吸いに出た。
強い日差しから隠れる場所へ逃げ込み、岡安が買って来たコンビニ弁当を食べる。どこかの飲食店に入りたくても、長蛇の列に耐えられないのだ。
「夏岡 猛彦だっ。さっきの紅 亜里沙といい……なんで、高校演劇コンクールに?」
「なあ……あれ、能条 光三郎だろ……」
「あのジイサンっ、岩屋 菊之助じゃね?」
野次馬の声を聞いても、『幻想』のスター以外はピンと来ない。審査員席にいる『劇団アフロディア』の
「!? お父さん! あの人……人間国宝の朝木 冬生! ほらっ、前に速水 玲香とTVに出てたっ」
「分かった、分かったから……令衣子、落ち着いて……」
大興奮した令衣子に辻口先生はガックン、ガックン、揺さぶられる。勢いで首が取れそうだ。しかし、流石は人間国宝。威厳が段違い、髭も貫禄がある。裕子も少しだけ、見惚れた。
何故、高校演劇を観劇に来るのだろう。
「!! あ、ああ!」
「!? ……どうしたの? 美奈子ちゃん……急にっ」
「「美奈子?」」
ずっと沈黙していた美奈子は呻きながら、唐突に立ち上がる。ビックリした鬼頭はその拍子に体勢を崩しかけたが、持ち堪えた。
大人しい彼女の豹変、辻口親子もビックリ。
「静岡で見かけた人がいるのっ。あたし、挨拶してくるっ」
「! 美奈子っ、私も行こう。待ちなさい……」
美奈子のパッと輝いた笑顔、普段の俯き加減から想像出来ぬ。慌てながら、辻口先生も引き留める。それさえも無視し、猪突猛進に行ってしまう。残された面々は呆気に取られた。
「……マジックショーを観に行って、知り合った誰か、とか? 鬼頭さんは何か、美奈子から聞いてる?」
「いいえ、美奈子ちゃんはショーが凄く面白かったとしか……」
姉の令衣子や仲良しの鬼頭に心当たりがないなら、裕子など微塵も分からない。皆の心配を余所に美奈子は満面の笑みにて戻り、照れ臭そうに口元を隠す。嬉しさが丸分かりだ。
「美奈子、どうだったの? すっごく、嬉しそうだけどっ」
「うん♪ あのね、お父さんを知ってたの。辻口ですって、挨拶したら……面打ち師の辻口 鈴置さんですか? って……もう感激っ」
令衣子に聞かれ、美奈子はウットリした表情で思い返す。今は解散してしまった大人気『幻想魔術団』の元メンバー・
「へえっ、東京の人にまで知られてんの? 辻口さんの親父さん、本当にすげえ人なんだなあ~」
「岡安、もうちょっと素直に褒めろ。辻口さんの家は元々、地元でも名家だろうがっ」
「ハハハ……気を遣わんでくれ。相手の方には偶々、知られていただけだ」
岡安は一々、引っかかる言い方し、宏和から諫められる。若造に舐められた態度をされても、辻口先生は気を悪くしない。とても寛容だ。
「教頭先生っ、不動高校の演劇を観に来たんですねっ。一言っ」
「ひぃっ、……ああ……緒方先生が言っていた宇治木さんか……。え~、何度もヒロイン役が代わり、ようやく迎えられた……」
不動高校の
「不動高校って何か、問題でもあったの?」
「え? 知らないけど……」
「東京は色々と揉め事が多い。何もない方が珍しいもんだよ」
裕子の疑問に令衣子も首を傾げ、辻口先生は差し障りない返答。確かに人の多さは人間関係の悪化にも繋がる。都会の闇など今は知りたくない。それ以上は聞かぬことにした。
「
「俺、草太を探してたんだぜ。千家は後ろ……あれ? さっきまでいたのに……ウソだろう」
人混みで逸れる声があちこちで聞こえた。
午後の部が始まる直前、観客席は混雑状況。そんな中で松葉杖の女子が必死に席を探し、母親らしき人に「織江、こっちよ」と肩を抱かれていた。
「人、増えてね?」
「岡安、いるなっ。裕子はそこ、辻口先生達はそっち。鬼頭さんいるか?」
「ここよ」
並んで座れず、宏和が皆の安否を確認せねばならなくなった。席が足らず、隅っこで立ち見も現れた。
「……はあ、間に合った……。あら、小林さんじゃない。久しぶりねっ。金田さん、見かけた?」
「ずっと、向こうだ。行っておいでよ。ここ、取っておくから」
「……失礼、黒沢さんですか?」
「し~っ、あ……白神さんかっ。その節はどうも……」
「次、星の友達が出んの? あれ……星? どこだ?」
「三ツ石先輩、こっちです」
観客の多さは泉鏡花演劇祭以上、色んな人の声が本当に騒々しい。
「お母さん……人が多いし、帰ろうよ。元々、配達なんて……お母さんがする仕事じゃないのに」
「ひとつだけ、見ていきましょう。ね? 今日の夢見が良かったから、ジゼルも楽しめるわ」
見知らぬ母と子の会話を聞いた時、開幕のベルが鳴る。水を打ったように静まり返った。
同世代の演じる『オペラ座の怪人』。
悍ましい怪人と純粋無垢なクリスティーンとの対比。ピアノの生演奏が演出を際立たせ、圧倒的な惨劇を披露する。有無を言わさぬ感動が神経を駆け巡り、視界が涙でボヤけた。
納得の拍手喝采。
「レオナ、大丈夫? はい、ハンカチっ」
「ありがと……いずみさん……。うう……」
すすり泣く声は他にもあり、裕子だけではないと安心。自分もハンカチで頬を拭い、ファンデーションが取れる。一大事と女子トイレへ急いだ。
同じ目的の女性陣が多く、女子トイレは大混雑。仕方なく他の階を探して、うろついた。
非常階段を通り過ぎた時、また泣き声がする。
「……えぐ……するんじゃなかった……」
「ええ、分かるわ。それをしなければ、桐生さんも……あそこにいたんだもの」
(何をやらかしたの!? ……え? イタズラって言った?)
聞くとはなしに聞いてしまった内容が深刻過ぎて、ゾッとする。チラッと目にしたのは先程、桜樹と呼ばれた女子にフードで顔を隠した誰かが、寄り添っていた。
「……やめて、その名前……出さないで……。桜樹さんだって……尾ノ上君を……」
「彼については、今でも悪い事をした。私は法で裁いてもらえない。だからこそ……一生、背負っていくわ」
桜樹と目が合い、しなやかな人差し指が沈黙を促す。見つかった緊張と蠱惑的な仕草で少しドキッとした。
「早乙女さん、剣持さんの言葉を忘れないで。独りじゃない、私はずっとアナタを見ているから……」
「……うう、桜樹さん……慰めたいのか、責めたいのか……ハッキリしてよ……」
そんな会話を聞きながら、裕子は去る。
「2人とも、ここにいた。どう? 早乙女さんは落ち着いた?」
「ええ、少し……ありがとうございます。雪峯さん」
入れ違いになった美人な女性が刑事だと、知る事はない。
無事に化粧直しを済ませた時、次の公演は始まっていた。慌てる必要もなく、来た道を戻ろうとした。
〝鬼〟がいた。
目を見張る程に美しい男は服の上からでも、鍛え上げられた筋肉が分かる。何故、〝鬼〟と断じたかと言えば、眉ひとつ動かさない眼光に恐怖を感じたからだ。
決して、裕子を睨んでいない。今まさに廊下をすれ違うが、存在すら気付かれていないだろう。それでもギョロギョロと誰かを探す目付き。息が詰まる。
探されているのが、裕子ではない。それに心の底から、安心した。
(あれが能条……光三郎……)
高名な舞台役者だろうと関わりたくない為、皆のいる場所へ逃げ帰った。
不動高校演劇部への挨拶を済ませ、クリスティーンは男子と知る。意外だった。
宏和が一番がっかりしていて、それが何だか、イラッとした。
そして、非常階段で泣いていた
旅は終わり、我が石川県へ帰還。住み慣れた土地にやっと緊張が解け、東京と言う大都会は裕子の肌に合わないと実感した。
後日、演劇コンクールの結果は新聞にて知らされる。七瀬達の『審査員特別賞』受賞、裕子達は我が事の様に喜んだ。
「!? ……あれだけ、やって……最優秀賞じゃない?」
「……鬼頭さん? 最優秀賞は神奈川……初日だったから、あたし達、見てないもんね」
鬼頭だけが愕然とし、言葉を失う。美奈子がとても心配しながら、新聞の記事を指でなぞった。
「そう言うなよ、鬼頭さん。あれだけ多くの学校が参加して、賞が貰えたんだ。本当……良いクリスティーンだったよ……」
「中野、まさか……クリスティーンの奴に惚れちまって……何でもないデス」
言い終えた宏和は哀愁を漂わせ、ガックリと項垂れる。岡安が余計な事を言いかけた為、裕子は睨んだ。
その最優秀賞の『アルセーヌ・ルパン』、辻口先生が放送録画していた分を観た。
感想は一言、面白い。純粋に楽しめた。
「そっか……『オペラ座の怪人』は怪人とクリスティーンがすっげえ、迫力満点だけど……。こっちは……主役は勿論、脇役の人もキチンと目立つし……全体的なバランスが整っているって言うか、……初見の人にも分かりやすいんだよな」
「こればっかりは岡安に同意……。主役だけが目立てば良いってもんじゃあ、ないもんなあ」
「!!」
岡安と宏和はコンクールの結果と照らし合わせ、解説しただけだ。鬼頭は己への嫌味に聞こえたらしく、拳を強く握りしめた。
いつもは何を言おうとすまし顔、鬼頭は裕子達の言葉を意に介さない。初めて、聞き入れられた故の反応だ。
少しだけ、裕子の気が晴れた。
鬼頭は以前よりも演劇に打ち込み、秋の泉鏡花演劇祭は『嘆きの鬼伝説』を提案。彼女が自己流にアレンジした〝鬼〟は憑依されたような迫力が確かにある。
けれども、裕子は本物の〝鬼〟を知っている。あの時に味わった恐怖とは程遠かった。
脳裏に焼き付いた
本物の鬼は舞台の上じゃなく、人の脳裏に住み着いている。それを知っている分、鬼頭よりも鬼を理解している気分になれた。
毎年恒例の演劇部による登山。
辻口姉妹は不参加だが、意外にも鬼頭は参加。しかも、足が遅い。歩みを揃える為、何度も3人は足を止めた。腕時計の時間を見れば、とっくに予定地へ到着しているはずだ。
鬼頭のせいだ。
展望台の標札、矢印は分かれ道を示す。古ぼけた木材は簡単に動かせる。初参加の鬼頭は自分達とはぐれれば、違和感なく矢印を突き進むだろう。閃いた瞬間、風が吹いた。
〝イタズラするんじゃなかった……〟
「!?」
耳元で囁くような声、裕子は背筋が凍り付いた。
今、裕子は生意気な鬼頭を懲らしめたいだけで、イタズラなどという悪意はない。だが、かつての
「裕子……どうした?」
「……な、何でもない。宏和……岡安先輩と先に行ってて、私は鬼頭さんを待つから……」
「ええ? ほっとけよ。あんな奴」
宏和に心配され、咄嗟にそう返事する。鬼頭を待つ気など更々、なかった。嘘にしたくない気分になり、裕子は待つ。男子2人は遠慮なく、先を急いだ。イラッとした。
のそのそと鬼頭はやって来た。体力が切れかけているらしく、ぜえぜえと息もうるさい。ある意味、彼女を懲らしめる目的は達成されていた。
「……少しだけ、休む?」
「いい……歩く」
「ふ~ん、じゃあ……私は休む。後から行くわっ」
「……っ」
気遣いも無駄。
裕子は知らん顔で宏和達が進んだ方角を指差し、その辺の隅っこに座り込む。息を切らせた鬼頭は何だかんだと標札を見つめ、少し考える。距離を離し、座った。
「ねえ、何で参加したのよ。辻口さん達もいないのに……私達といても楽しくないでしょう?」
「……だから、入った……。私を肯定してくれるだけの劇なんて……ただのお遊戯だもの。岡安先輩は思った事をハッキリ言ってくれるし、坂本さんは私がどんな態度でも、気を遣わない……。中野先輩は……劇の為なら、私を利用する……」
勝手な自己分析は的中、ムッとした。
鬼頭は少しも裕子達を馬鹿になどせず、寧ろ、険悪な状況を望んでいる。全ては演劇に用いる必要不可欠なのだ。たったそれだけの事。
「確かに……辻口さんはアナタと会った時から、女優の才能があるだの。褒めちぎってたもんね。それじゃあ、物足りないとか……ハハハ……、本当に鬼頭さんは生意気っ」
「! 坂本さん、今……私を褒めた?」
可笑しくて笑う。
心から、鬼頭の生意気な態度を気持ち良く笑った。彼女を好きになれない。嫌いなままで良い。
そうと決まれば、裕子は立ち上がるのみ。
「ほらっ、行くわよ。鬼頭さんっ」
「……ふっ」
一応、声をかけてから歩き出す。鬼頭は深呼吸し、残った体力を振り絞る様に立ち上がった。
でも、決して手を貸さない。
敵愾心のある相手には必要ないのだから、当然だ。これを開き直りと言うのだろうが、腹を括ろう。
そう決めたはずなのに、彼女の歩幅に合わせて歩いてしまった。そんな自分が少しだけ、悔しい
「来た来たっ。お~い、鬼頭~、坂本~……。何か……決闘でもした後みたいになってね?」
「河原で不良が殴り合うアレか? いや、メッチャクチャ……ギスギスしてるし、気のせいだろ」
岡安から心外な解釈をされ、宏和が否定してくれた。
登山中や下山後、部活動中も裕子は鬼頭と打ち解けたりせず、お互いに正直な気持ちで過ごした。
「鬼頭さん、最近……楽しそうね」
「そう? ある意味、美奈子ちゃんのお陰かしらっ」
「……!」
以前と変わらぬ人間関係だが、美奈子にはそう感じるらしい。クスリッと鬼頭に一瞥されたが、裕子はそっぽ向いた。
鬼頭は確かに生意気だ。でも、彼女の人を試すような物言いは嫌いじゃない。
だから、裕子は今日も主演を目指す。舞台に立てば、自分は誰よりも輝けると信じている。ただ、今回は時間がない為、鬼頭へ譲ってやろうと大物を気取った。
『嘆きの鬼伝説』は無事に泉鏡花演劇祭で披露され、不動高校演劇部の方々も約束通りに来場された。生憎、
それを知った鬼頭の怒り狂った姿は見物、まさに本物の〝鬼〟と評されたのは別の話である。
辻口妻「辻口 佳代です。最近、娘の美奈子が東京の話ばかりするんです。あんなに楽しそうに笑っているの……母親の私も……初めて見ました。フフッ、主人が奮発して……連れて行った甲斐あったわ。 さて、次回は『証言パズルのせいで』。あら、金田一君って……留置場に?」
坂本 裕子
演劇部2年、自分の容姿、演技共に絶対の自信があった。作中にて、鬼頭とは仲良くならないが、部員仲間としての信頼は徐々に築いていくだろう
中野 宏和
演劇部部長3年、裕子の彼氏でナルシスト。すぐに他の女子へ目移り。作中にて、卒業後は裕子と破局する
岡安 俊秀
演劇部3年、いちいち人の意見に反対する天邪鬼。少ない予算で衣装や小道具や音響や撮影など、部の雑用係をほとんど担っており、ストレスが溜まっているのだろうか? 作中でも性格は改善しないが、東京見学は良い刺激となった
鬼頭 小百合
昨年度に転校して来た美少女。劇中では事故により故人。作中にて、裕子がイタズラを思い留まった為に生存した