金田少年の生徒会日誌   作:珍明

78 / 143
事件名が終わった後、オリ主達が北海道へ合宿する日常回です



6休 【証言パズル】のせいで・前編

 演劇コンクール結果はメディアでも取り上げられ、興味ある者には知れ渡る。

 『審査員特別賞』程の好成績、不動高校教職員やPTA理事会も文句なし。一刻も早く報せようと身内や友人へ連絡しまくり、喜びを分かち合う。七瀬(ななせ)もその1人だ。

 警視庁捜査一課の明智(あけち)警視や剣持(けんもち)警部へ律儀に連絡し、お祝いの言葉を頂く。事件でもお世話になった相手故、彼女の気配りは非常に助かる。

 そこまでは良い。

 何故、金田一(きんだいち)を迎えに行く羽目になる。しかも、場所は留置場だ。

 (いち)は出掛けの用事があり、それ相応の支度も済ませる。伯父の形見たる学ランへ着替え、急いで金田祖父に車を走らせた。

 

「剣持のオッサンから聞いたぜっ、金田。受賞おめでと~さん♪」

 

 金田一(きんだいち)はニッコニコで登場、留置場帰りとは思えないほど晴れやかな顔だった。

 

「このウスラトンカチがあ! 心配して来てみれば、元気やんけ!」

「……はじめちゃん、おはようございます。……朝からお元気で何よりです(冬部さん、呼ばなくて良かった~)」

 

 金田祖父の怒鳴り声が駐車場に響く。

 双子山遊園地駅始発、不動山駅行きの電車内で起こった殺人事件。状況証拠から現行犯逮捕され、金田一(きんだいち)は2晩も警察署の厄介になった。

 明智警視の捜査により、夜明け前には事件解決。真犯人は無事に逮捕された。だが、彼ら刑事は拘留中の高校生を解放し忘れ、そのまま放置されていた。

 七瀬からの連絡に剣持警部が気付いたのは1時間前、現在に至る。

 

「手続きは終わったぞ、金田一(きんだいち)っ。金田さん、わざわざ……すみませんな。(いち)君まで来てくれるとはっ」

「はじめちゃんのご両親は?」

「ハハハッ。俺がダチの家へ泊まり込むのは……いつもの事なんで、帰って来なくても気にしてなかったっぽい♪」

「ワシらの世代ならまだしも……金田一(きんだいち)くん、いや……親御さんに信頼されとんのか?」

 

 剣持警部が悪びれる様子もなく、(いち)の肩をバシバシッと叩く。地味に痛いが悪い気はせず、されるがままだ。

 しかし、金田一(きんだいち)両親は息子が2日間無断外泊しても、探そうともしない。放任主義もビックリの家庭環境、ビビる。金田祖父の推測通り、信頼によるモノだろう。そう、信じよう。

 

(いち)君。一昨日の劇は観れんかったが、ビデオ小僧から映像を見せてもらうからな」

「ありがとうございます。佐木君なら、自分を良く撮ってくれていますね。自信満々ですので是非、ご覧ください」

「なんや、剣持さんは観に来んかったんか。ほな、金田一(きんだいち)くんはそん頃に捕まっとった?」

「俺が誤認逮捕されたのは一昨日の夜っ。金田の出番はちゃ~んと観て、遊園地のバイトに行ったんスよ。オッサン達は事件の調書もあるし、中々、時間作れねえんだわ」

 

 佐木(さき)親子の撮影技術は信頼でき、剣持警部も楽しんでくれるはずだ。

 金田祖父が余計な点に気付き、金田一(きんだいち)は差し障りのない理由を語る。(いち)もそう聞かされたが、剣持警部は部員へ気遣ってくれたのだ。

 

「……明智さんも来なかったですね。やはり、お忙しいのでしょうか?」

「明智さん? いやあ、俺は知らねえなあ。オッサンは?」

「おいおい、俺は明智警視のマネージャーじゃあねんだぞ。奴さんも事情聴取やら、調書作りだよ。用あんなら、(いち)君から電話してやるといい。あのいけ好かねえエリート野郎もっ、君からの連絡が来りゃあ……」

 

 剣持警部がからかった瞬間、噂をすれば影が差す。

 

「連絡せずとも宜しいですよ。金田君がお呼びなら、すぐに馳せ参じますから」

「「「!?」」」

 

 その声が背後から届いた時、自分の背筋が凍りつく。明智警視の登場はいつだって、眩しい。

 

「おはようさん、いけ好かんエリート野郎」

 

 ビビり過ぎた3人は驚く間すらなく、硬直。金田祖父だけが悪ノリしたご挨拶だ。

 

「金田君の学ラン姿、久しぶりですね。……大切なご用事ですか?」

「はい、これから北海道へ行きます」

「ああ、合宿って今日からだっけ? そんな時にワリィな」

「かまへん、かまへん。ただ、先に空港寄らしてもらうで。金田一(きんだいち)くんのご飯はそれからやっ。美味いモン食わしたるわ」

「金田さん。金田一(きんだいち)は1食くらい、食わんでも平気ですよ。寧ろ、食い過ぎなんでっ」

 

 金田祖父の車へ乗り込み、金田一(きんだいち)はようやく誤認逮捕から解放される。余程、疲れたらしく後部座席へ寝転ぶ。ぐってりとした態度は猫に見え、可愛い。

 

「金田さん、金田一(きんだいち)君をお願い致します。お孫さんは空港へお送り致しますので、私が

「ほな、そうしようか。明智さん、頼んますわ。(いち)は向こうへ着いたら、ちゃんと電話せえよ」

「剣持警部も一緒に如何ですか!」

「スマン……調書があってな」

 

 勝手に決められ、明智警視のベンツに荷物が積み込まれる。彼の動きが手早過ぎて、反対する隙間もない。金田祖父はあっさりと受け入れ、(いち)は必死に剣持警部の腕へしがみついた。

 しかも、名残惜しくもお別れ。

 

あばよ……金田っ

(あれはドナドナされる子牛を見るような目だ……)

 

 金田一(きんだいち)の二重バッチリな瞳が憐みに満ち、物凄く落ち着いた口調にイラッとした。

 豪華な高級車・ベンツ、運転手はエリート警視。(いち)が女子ならば、状況だけで惚れてしまいそうだ。否、初恋を奪われていた。

 シートベルトをされた時点で自由は奪われた。明智警視の罪深さに唇を噛む。

 

「金田君、売られていく子牛の様に怯えないでください」

「そんなつもりはありませんっ。ですが……失礼いたしました。折角、送って頂けるのに……」

 

 クスリッと笑い、明智警視はシフトレバーへ触れる。2台の車は発進し、それぞれ別の目的地へ向かう。ルームミラーの奥で、金田祖父の車が小さくなっていった。

 良い乗り心地は緊張を解し、口も軽くなる。

 

「明智さん、一昨日は会場にいましたよね。残間の警護、お疲れ様です。自分の劇はご覧になれましたか?」

「残念ですが、観ていません。キミの言う通り、仕事中でね。公演中は駐車場に待機ですよ」

 

 何気なく問う。現在進行形で仕事中のはずが、高校生を空港へ送っている。明智警視の判断基準は理解不能だが、一昨日に見かけた相手は彼本人。

 別の誰かと勘繰らなくて、良かった。

 

「宮城ナンバーの車に乗っていたのは何故ですか?」

「宮城県警の方が乗って来られた車をお借りしたんです。残間さんから……私の車は目立つと注意されましてね」

 

 その点において、父・残間(ざんま)が正しい。

 

「目立つと言えば……金田君はローズグランドホテルをご存知ですか? ロビーの絵、お母様が描かれたんですよ。あれだけの絵を1人で描かれるとは……素晴らしい」

「……いいえ、初耳です。そのホテルに母の絵が飾っているのですか……父にでも、教えてあげてください」

 

 明智警視の世間話、(いち)にとっては新事実だ。

 特に興味ない為、さらりと流す。

 もう少し話を広げれば、ローズグランドホテルで起きた2年前の放火事件、並びに同じ日の交通事故へ話を繋げたかった。彼の思惑も読み取れたかもしれない。

 でも、(いち)は気分上々に合宿へ向かいたい。

 行方不明中の母・にいみについて、何も言いたくない。

 明智警視の動向は人伝だが、知っている。神奈川県警の(かや) 杏子(きょうこ)警部へ捜査のやり直し、或いは捜索の協力、又は両方を依頼、もしくは命令している状況。

 エリート警視自ら、家族の捜索に乗り出す。金田祖母ならば、五体投地で感謝するだろう。息子の(いち)もそうすべきだろうが、話を打ち切った。

 

「ええ、残間さんにはお話してあります。今度、泊まりに行くそうです」

「……空港が見えてきましたね」

「おや、もう到着ですか……。では、回りくどい真似はなしにして、本題へ入りましょう」

「本題?」

 

 前振りだったらしく、(いち)はキョトンとする。

 寧ろ、本題から先に入る明智警視は蝶番を人差し指で押さえ、口元を可笑しそうに歪めた。嫌な予感にゾッとする。

 

「沖縄でお会いなられた鈴木さん、何者ですか? フェリーに乗っていた際、金田君と楽しそうにお喋りしていたはずが、下船する時にその人の姿はなかった。あれだけ目立つ、アロハシャツと麦わら帽子を見失うなんて……マジックを見せられた気分だった。そう、残間さんは不思議がっていましたよ」

……!? あのお喋り野郎!! 何してくれてんだあ!!)

 

 悲鳴を殺したが、焦燥感による汗だくでビッショビショ。(いち)の動揺は丸分かりである。

 波照間島から帰りのフェリー、逃亡犯『地獄の傀儡師』と偶然に再会。彼は己の捜索に駆り出されたと勘繰り、(いち)へ事実確認の為に接触しただけだ。

 物分かりの良い誰かさんはすんなりと事情を受け入れ、事なきを得た。

 残間と金田祖父にも話し相手を聞かれたが、初対面の人・鈴木(すずき)と適当に誤魔化しておいた。

 

「……す、鈴木さんは通りすがりの方ですので……詳しくは知りません」

 

 バレた。と言うか、バレていた。邂逅を知られれば、(いち)にも張り込みが付いてしまう。あくまでも、それを回避する為。逃亡犯を庇う気は毛頭ない。

 

「金田君、通報の義務はご存知ですよね?」

 

 この一言が、自分の喉に引っかかった。

 明智警視の口調は変わらないのに、空気の温度だけが数度下がる。空港へ駐車させるまでの間、(いち)は必死に弁明し、彼を呆れさせた。

 

「分かりました……金田君、今回だけです。次は容赦なく、警護を付けますからね」

「……ありがとうございます(助かった~)」

 

 ベンツから降りながら、ペコペコと頭を下げる。日常生活に警察がうろつくなど、堅苦しいにも程がある。冗談ではない。一応は感謝した。

 

「金田君、北海道に行くなら……銭形君とは会いますか?」

「はいっ、勿論です。ちょうど、別館だった屋敷へ滞在予定があると聞いています」

「ああ、別館は道警が買い取ったんでしたね。夏は観光客も増えますから、警察の駐在は有り難いでしょう。ちゃんと銭形君の言う事をよく聞くんですよ。それから、私にも連絡を下さい」

「明智さん……自分の保護者ですか?」

 

 色々と注意喚起され、今度は(いち)が呆れた。

 合宿メンバーと合流する前から、気力を使い果たす。

 

「金田、どうした? 昨日の発表は良かったと聞いているぞ」

「多分、大丈夫です。津雲先生……」

 

 写真部顧問の科学担当・津雲(つくも) 成人(しげと)先生に心配され、苦笑を返す。

 合宿の引率するに当たり、彼も動きやすそうな普段着で参加。白衣を着ていない姿は新鮮だ。以前、入院着を見たがカウントしないでおこう。

 

「本当だっ、金田君の顔色……真っ青だよ」

「フフフ……きっと、疲れが出たのね。飛行機の中で休むと良いわ」

 

 遠野(とおの)先輩も気に掛け、(いち)の額へ触れる。指先の温度が、少し心を溶かしていった。桜樹(さくらぎ)先輩はクスクスと笑い、何となく疲労困憊の理由を察している様子だ。訳知り顔はイラッとする。

 

「全員いる? 点呼取るぞ、遠野、桜樹さん、六野さん、副会長、鷹杉さん、書記、朝木さん、金田君、僕っ。んで、津雲先生っ」

 

 写真部部長3年2組・江塔 大樹(えとう だいき)先輩が人数確認、全員集合だ。

 

「金田君……何で、学ラン着てるの。暑くない?」

「伯父の学ランでして、普段着にしています。それと……はい、暑いです」

 

 朝木(あさき)から面白そうに指摘され、(いち)は暑さに負けて上着を脱ぐ。学帽だけは外さず、被り直した。

 

「行く前にお浚いします。ここ羽田空港から出発、旭川空港へ到着。レンタカーを借りて、津雲先生の運転で背氷村へ向かいます。時間は……」

 

 写真部3年1組・六野 冬花(ろくの ふゆか)先輩は満面の笑みにて、スケジュール確認。頼りになる先輩方が多く、飛行の搭乗から現地到着までゆっくりと気を休められた。改めて、感謝。

 

 夏の背氷村は山々にある集落、青空は近くても日差しは優しい。涼しい風は冷たさも含まれ、青々と茂った草むらに自然と咲いた花々が宝石の様に散りばめられる。

 観光客を迎える宿泊地からも外れ、人気のない背氷川の向こう側が目的地。着いた途端、写真部員はカメラのシャッターを切る。

 

「江塔、六野、鷹杉、先に荷物を降ろしなさい」

「「「は~い」」」

(へえ……しっかり、掃除したもんだ)

 

 大興奮の3人を尻目に各々がレンタカーから、荷物を出す。(いち)は邸宅全体をじっくりと眺め、外装の変化に気付く。残間に任せっきりだったが、流石の仕上がりだ。

 

「あれが氷室画伯の屋敷……、素敵っ」

「遠野先輩あっちは何ですか?」

「警察の持ち物だよ。……誰か、来たっ」

 

 写真部2年3組・鷹杉(たかすぎ) なぎさは感嘆の息を吐き、朝木も川向こうの元別館を指差し、大はしゃぎ。遠野先輩が教えた時、人影が谷間の階段を上がって来た。

 

「ようこそ、北海道へ! 道警の銭形です。引率の津雲先生は?」

「私です」

「警察なの? うそ……俳優みたい」

「頼りがいありそうですし、何かあっても安心ですね」

 

 道警の銭形(ぜにがた) ケンタロウ警部補は津雲先生へ挨拶し、愛想良く生徒を見渡す。実際、六野先輩と鷹杉はヒソヒソ話したくなる程、彼は見目が良い。

 背氷村殺人事件以来の付き合いであり、金田家にも親切な刑事。(いち)と顔見知りだが、あえて伏せてもらう様に頼んだ。警察関係者と親しいのは金田一(きんだいち)周辺で十分だ。

 桜樹先輩の視線が煩い。

 

「諏訪さ~ん、銭形です。お話した不動高校の皆さんです」

「ようこそ、お越しくださっただ~♪ 本当はお車が来らいだ時、出迎えにゃあならんのだばって、あたしゃ皆さんの顔を存じ上げねえもんでっ。銭形さんの合図を待っとったんだよっ」

 

 銭形警部補が正面玄関のインターホンを押せば、サッと扉が開く。ふくよかな女性が大歓迎の挨拶に飛び出て、皆の手を1人、1人と握手していく。管理人の諏訪(すわ) 正子(まさこ)、想像していたよりも包容力満載だ。

 

「諏訪さんは以前、ペンションの従業員をされてねっ。口も堅いし、信用していいっ」

(そのペンション……絶対に事件、起きただろ)

 

 事情はさておき、管理人を任せるに値する。

 

「銭形さんの合図?」

「報道陣とか新聞記者だよ。前に来た時、取材だって色んな人が来てたぜ。中津川先生に追い返されたけどね」

「中津川先生に人が追い返せるんですか……意外」

 

 朝木の疑問に江塔先輩が答え、鷹杉はギョッとする。

 

「さあさ、こんなトコで喋ってねえで。皆さん、中へどうぞっ」

 

 そんな生徒から荷物を引ったくり、諏訪は荷物持ちと化す。彼女の両手が塞がれても、扉をお尻で開けた。

 真っ先に視界へ飛び込むのは絵画の数々。

 額縁に飾られた絵を見る度、絵筆の動きが分かる。キャンパスへ向かう背中、在りし日を思う。感じ入った拍子に涙が目尻へ浮かび、そっと拭う。遠野先輩の手が学帽を軽く押さえ、(いち)の目元を隠してくれた。

 

!! まさか……氷室画伯の絵?」

「……ほ、本物だあ……すげえ……」

「うそお……絵まで飾ってるなんて……」

「……時価数千万……」

「事件で高値が付いて……億の絵もざらですよ。本当に……入館料とか払わなくていいんですか?」

 

 桜樹先輩は感動に打ち震え、江塔先輩がシャッターを押すのも忘れて見惚れる。朝木も嬉しそう、六野先輩と鷹杉はビックリ仰天。高価な絵画に囲まれ、値段が可視化している様子だ。

 

「……そう言われたら、不安になって来たな。遠野君、その辺はどうなんだ? こっちは飛行機代とレンタカー代しか、支払ってないが……」

「問題ありません。その他の費用は持ち主の方が持つと確認済みです。ね? 金田君っ(これで良いんだよね?)」

「はい、遠野先輩。津雲先生もご安心くださいっ」

(いち)君……大盤振る舞いしたなあ……)

 

 津雲先生も冷汗を流しながら、確認。遠野先輩から営業スマイル全開に問われ、(いち)は正直に答える。今度は銭形警部補の視線が煩い。

 

「芸術科の人に知られたら、絶対に悔しがるわよ。美術部の轟さんとかっ」

「山吹さんもねっ」

 

 六野先輩と桜樹先輩はコソコソと内緒話。副会長と書記は絵を眺めつつ、諏訪へ着いて行くのみ。

 各々が個室へ案内される中、(いち)は最後。

 かつて、氷室(ひむろ) 一聖(いっせい)伯父の寝室。内装や家具は使い回しだが、シーツなどの細かい部分は新品そのもの。元の主が生きていた頃の面影はなく、少し残念に思う。

 

「どうぞ、金田さんはこの部屋です。冬休みに大掃除、来てくれはったから言うてっ。特に良い部屋をって、残間さんに言われとりますっ」

「素敵なお部屋です。諏訪さん、ありがとうございます。ところで……貴女が管理を任されてから、困った事はありませんか? 電気やガスに不備、取材を名目に押しかけて来る人とか……」

「な~んもないだべ、あたし1人でこげな広い屋敷で淋しいくらいさね。それもっ、村の寄り合いに行きゃあ、モッテモテで~まいっちまう♪」

「楽しそうで何よりです」

 

 諏訪も狙い通り、残間を邸宅の主と思い込み、その指示に従う。一介の高校生でも彼女の態度は変わらないだろうが、しばらくは訂正しない。

 夏になれば、避暑地目当ての観光客が訪れる村。そこに紛れた取材組を心配したが、問題なさそうだ。

 金田祖父母、残間、明智警視などに到着を報告した頃、邸内は探索の声がひっきりなしに聞こえる。特に桜樹先輩の興奮した声はどの階にいようとも、響く。合宿を開いた甲斐はあった。

 

「金田君っ、『雪夜叉』を見付け……早っ」

 

 荷物からアルバム手帳を取り出す最中、遠野先輩は親切に知らせる。無礼も忘れ、(いち)は彼の手を掴んで走った先は勿論、はしゃぎ声のする応接室。飛び込めば、ゾワッと背筋が粟立つ。

 

 ――雪が如く白く、吹雪の如く荒々しく、死人の如く痛々しく、『雪夜叉』はいる。

 

 人一人を描き上げた氷室伯父の代表作『雪夜叉』、その腕へ抱えられた幼子は誰をモデルにしたのだろう。生気のない顔色も生々しく、目を逸らしたくなる痛ましさもあった。

 故に握られた斧はより強く、悲しみと絶望を伝える。周囲への恨み、そして、殺意。

 何故だろう。(いち)はその場で何も言えなかった。

 1枚の絵がこれほど多くの言葉を奪っていくと、思っていなかった。

 

「見事なもんだ……。私なんか……立っているだけで、身震いするよ」

「怖い絵だわ……それ以上に物悲しい」

「子供を亡くしたお母さんが夜叉になるんだっけ……」

「事件を起こした人はその逆で……母親を亡くした人だったんだよな。悲劇が生んだ怪物って奴か……」

 

 津雲先生、桜樹先輩、六野先輩、江塔先輩は作品へ込められた想いに感じ入る。

 

「そうだね、……今にも泣き出しそうな顔だ……」

 

 遠野先輩の拳が強く握られ、血管まで浮き出る。既視感のある震えを視界に入れても、(いち)は気付かぬフリをした。

 

「う~ん、モデルと言うか……これは氷室画伯ご本人よ。夜叉の衣装に着替えた姿を鏡に映して、描いたんだって……父から聞いたわっ」

(その通り……自画像はこの絵を描く練習、物の次いでに過ぎなかったんだよなあ……)

 

 それより先に書記から質問され、神妙な顔つきで朝木は伝え聞いた話を語る。(いち)は勿論、知っており、脳裏に氷室伯父の自画像が浮かぶ。ついでに『雪夜叉』と化した復讐者の顔も横切り、首筋がざわつく不快感を振り払った。

 今は遠野先輩達を持て成そう。

 

「他の絵を見て回りましょう。自分達と同じ歳頃に描かれた作品もあります」

「へえ! そんなに若い頃から、画伯は絵を描かれてるんだね。どれも素敵だし、僕には描かれた時期なんて分からないな~。教えてよ、金田君っ」

「あっ、あたし……大体、分かるかも……グッ

「朝木さん、遠野君へアピールしたい気持ちは分かるけど……ここは聞き手に徹しなさい」

 

 さり気なく、それでいて自然に皆を外へ誘導。楽しそうに遠野先輩は廊下へ顔を出し、絵を見渡す。大げさに考え込み、(いち)の解説を待ち侘びてくれる。

 快活に手を挙げ、朝木は解説役を申し出る。その可憐な口は桜樹先輩の手によって、塞がれる。蠱惑的に微笑み、とても意味深な雰囲気を醸し出す。

 先輩方に気を遣われっ放しの身だが、何故だろう。嬉しさに心が満たされ、(いち)の口元は綻ぶ。首を傾げた副会長から「氷室 一聖も好きなのか」と問われた。

 

「はい、好きです。自慢したくなる程にっ」

「……っ」

 

 言葉にした瞬間、心は踊る。

 意味を理解しているのは遠野先輩と桜樹先輩の2人だけ、今はそれで良い。

 否、銭形警部補もいた。

 離れた扉からこちらを見守り、切なげに眉を寄せる。彼の表情は位置的に見えなかった。

 




能代「能代です、閲覧ありがとう。飲み過ぎて、酔っ払った挙句に事件遭遇。しばらく、飲みは控えるか。でも、夏の酒は喉ごし爽やか……と違う。さて、次回は『証言パズルのせいで・中編』!! 旅行するだけで……3話かかる?」

銭形 ケンタロウ
蝋人形城殺人事件ドラマ版ゲストキャラ。劇中は私立探偵、作中は北海道警察

諏訪 正子
タロット山荘殺人事件ゲストキャラ。作中にて、邸宅の管理を任される

不動高校写真部メンバー
不動高校学園祭殺人事件ゲストキャラ

不動高校生徒会執行部幹部
穴埋めオリキャラ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。