金田少年の生徒会日誌 作:珍明
演劇コンクール結果はメディアでも取り上げられ、興味ある者には知れ渡る。
『審査員特別賞』程の好成績、不動高校教職員やPTA理事会も文句なし。一刻も早く報せようと身内や友人へ連絡しまくり、喜びを分かち合う。
警視庁捜査一課の
そこまでは良い。
何故、
「剣持のオッサンから聞いたぜっ、金田。受賞おめでと~さん♪」
「このウスラトンカチがあ! 心配して来てみれば、元気やんけ!」
「……はじめちゃん、おはようございます。……朝からお元気で何よりです(冬部さん、呼ばなくて良かった~)」
金田祖父の怒鳴り声が駐車場に響く。
双子山遊園地駅始発、不動山駅行きの電車内で起こった殺人事件。状況証拠から現行犯逮捕され、
明智警視の捜査により、夜明け前には事件解決。真犯人は無事に逮捕された。だが、彼ら刑事は拘留中の高校生を解放し忘れ、そのまま放置されていた。
七瀬からの連絡に剣持警部が気付いたのは1時間前、現在に至る。
「手続きは終わったぞ、
「はじめちゃんのご両親は?」
「ハハハッ。俺がダチの家へ泊まり込むのは……いつもの事なんで、帰って来なくても気にしてなかったっぽい♪」
「ワシらの世代ならまだしも……
剣持警部が悪びれる様子もなく、
しかし、
「
「ありがとうございます。佐木君なら、自分を良く撮ってくれていますね。自信満々ですので是非、ご覧ください」
「なんや、剣持さんは観に来んかったんか。ほな、
「俺が誤認逮捕されたのは一昨日の夜っ。金田の出番はちゃ~んと観て、遊園地のバイトに行ったんスよ。オッサン達は事件の調書もあるし、中々、時間作れねえんだわ」
金田祖父が余計な点に気付き、
「……明智さんも来なかったですね。やはり、お忙しいのでしょうか?」
「明智さん? いやあ、俺は知らねえなあ。オッサンは?」
「おいおい、俺は明智警視のマネージャーじゃあねんだぞ。奴さんも事情聴取やら、調書作りだよ。用あんなら、
剣持警部がからかった瞬間、噂をすれば影が差す。
「連絡せずとも宜しいですよ。金田君がお呼びなら、すぐに馳せ参じますから」
「「「!?」」」
その声が背後から届いた時、自分の背筋が凍りつく。明智警視の登場はいつだって、眩しい。
「おはようさん、いけ好かんエリート野郎」
ビビり過ぎた3人は驚く間すらなく、硬直。金田祖父だけが悪ノリしたご挨拶だ。
「金田君の学ラン姿、久しぶりですね。……大切なご用事ですか?」
「はい、これから北海道へ行きます」
「ああ、合宿って今日からだっけ? そんな時にワリィな」
「かまへん、かまへん。ただ、先に空港寄らしてもらうで。
「金田さん。
金田祖父の車へ乗り込み、
「金田さん、
「ほな、そうしようか。明智さん、頼んますわ。
「剣持警部も一緒に如何ですか!」
「スマン……調書があってな」
勝手に決められ、明智警視のベンツに荷物が積み込まれる。彼の動きが手早過ぎて、反対する隙間もない。金田祖父はあっさりと受け入れ、
しかも、名残惜しくもお別れ。
「あばよ……金田っ」
(あれはドナドナされる子牛を見るような目だ……)
豪華な高級車・ベンツ、運転手はエリート警視。
シートベルトをされた時点で自由は奪われた。明智警視の罪深さに唇を噛む。
「金田君、売られていく子牛の様に怯えないでください」
「そんなつもりはありませんっ。ですが……失礼いたしました。折角、送って頂けるのに……」
クスリッと笑い、明智警視はシフトレバーへ触れる。2台の車は発進し、それぞれ別の目的地へ向かう。ルームミラーの奥で、金田祖父の車が小さくなっていった。
良い乗り心地は緊張を解し、口も軽くなる。
「明智さん、一昨日は会場にいましたよね。残間の警護、お疲れ様です。自分の劇はご覧になれましたか?」
「残念ですが、観ていません。キミの言う通り、仕事中でね。公演中は駐車場に待機ですよ」
何気なく問う。現在進行形で仕事中のはずが、高校生を空港へ送っている。明智警視の判断基準は理解不能だが、一昨日に見かけた相手は彼本人。
別の誰かと勘繰らなくて、良かった。
「宮城ナンバーの車に乗っていたのは何故ですか?」
「宮城県警の方が乗って来られた車をお借りしたんです。残間さんから……私の車は目立つと注意されましてね」
その点において、父・
「目立つと言えば……金田君はローズグランドホテルをご存知ですか? ロビーの絵、お母様が描かれたんですよ。あれだけの絵を1人で描かれるとは……素晴らしい」
「……いいえ、初耳です。そのホテルに母の絵が飾っているのですか……父にでも、教えてあげてください」
明智警視の世間話、
特に興味ない為、さらりと流す。
もう少し話を広げれば、ローズグランドホテルで起きた2年前の放火事件、並びに同じ日の交通事故へ話を繋げたかった。彼の思惑も読み取れたかもしれない。
でも、
行方不明中の母・にいみについて、何も言いたくない。
明智警視の動向は人伝だが、知っている。神奈川県警の
エリート警視自ら、家族の捜索に乗り出す。金田祖母ならば、五体投地で感謝するだろう。息子の
「ええ、残間さんにはお話してあります。今度、泊まりに行くそうです」
「……空港が見えてきましたね」
「おや、もう到着ですか……。では、回りくどい真似はなしにして、本題へ入りましょう」
「本題?」
前振りだったらしく、
寧ろ、本題から先に入る明智警視は蝶番を人差し指で押さえ、口元を可笑しそうに歪めた。嫌な予感にゾッとする。
「沖縄でお会いなられた鈴木さん、何者ですか? フェリーに乗っていた際、金田君と楽しそうにお喋りしていたはずが、下船する時にその人の姿はなかった。あれだけ目立つ、アロハシャツと麦わら帽子を見失うなんて……マジックを見せられた気分だった。そう、残間さんは不思議がっていましたよ」
(……!? あのお喋り野郎!! 何してくれてんだあ!!)
悲鳴を殺したが、焦燥感による汗だくでビッショビショ。
波照間島から帰りのフェリー、逃亡犯『地獄の傀儡師』と偶然に再会。彼は己の捜索に駆り出されたと勘繰り、
物分かりの良い誰かさんはすんなりと事情を受け入れ、事なきを得た。
残間と金田祖父にも話し相手を聞かれたが、初対面の人・
「……す、鈴木さんは通りすがりの方ですので……詳しくは知りません」
バレた。と言うか、バレていた。邂逅を知られれば、
「金田君、通報の義務はご存知ですよね?」
この一言が、自分の喉に引っかかった。
明智警視の口調は変わらないのに、空気の温度だけが数度下がる。空港へ駐車させるまでの間、
「分かりました……金田君、今回だけです。次は容赦なく、警護を付けますからね」
「……ありがとうございます(助かった~)」
ベンツから降りながら、ペコペコと頭を下げる。日常生活に警察がうろつくなど、堅苦しいにも程がある。冗談ではない。一応は感謝した。
「金田君、北海道に行くなら……銭形君とは会いますか?」
「はいっ、勿論です。ちょうど、別館だった屋敷へ滞在予定があると聞いています」
「ああ、別館は道警が買い取ったんでしたね。夏は観光客も増えますから、警察の駐在は有り難いでしょう。ちゃんと銭形君の言う事をよく聞くんですよ。それから、私にも連絡を下さい」
「明智さん……自分の保護者ですか?」
色々と注意喚起され、今度は
合宿メンバーと合流する前から、気力を使い果たす。
「金田、どうした? 昨日の発表は良かったと聞いているぞ」
「多分、大丈夫です。津雲先生……」
写真部顧問の科学担当・
合宿の引率するに当たり、彼も動きやすそうな普段着で参加。白衣を着ていない姿は新鮮だ。以前、入院着を見たがカウントしないでおこう。
「本当だっ、金田君の顔色……真っ青だよ」
「フフフ……きっと、疲れが出たのね。飛行機の中で休むと良いわ」
「全員いる? 点呼取るぞ、遠野、桜樹さん、六野さん、副会長、鷹杉さん、書記、朝木さん、金田君、僕っ。んで、津雲先生っ」
写真部部長3年2組・
「金田君……何で、学ラン着てるの。暑くない?」
「伯父の学ランでして、普段着にしています。それと……はい、暑いです」
「行く前にお浚いします。ここ羽田空港から出発、旭川空港へ到着。レンタカーを借りて、津雲先生の運転で背氷村へ向かいます。時間は……」
写真部3年1組・
夏の背氷村は山々にある集落、青空は近くても日差しは優しい。涼しい風は冷たさも含まれ、青々と茂った草むらに自然と咲いた花々が宝石の様に散りばめられる。
観光客を迎える宿泊地からも外れ、人気のない背氷川の向こう側が目的地。着いた途端、写真部員はカメラのシャッターを切る。
「江塔、六野、鷹杉、先に荷物を降ろしなさい」
「「「は~い」」」
(へえ……しっかり、掃除したもんだ)
大興奮の3人を尻目に各々がレンタカーから、荷物を出す。
「あれが氷室画伯の屋敷……、素敵っ」
「遠野先輩あっちは何ですか?」
「警察の持ち物だよ。……誰か、来たっ」
写真部2年3組・
「ようこそ、北海道へ! 道警の銭形です。引率の津雲先生は?」
「私です」
「警察なの? うそ……俳優みたい」
「頼りがいありそうですし、何かあっても安心ですね」
道警の
背氷村殺人事件以来の付き合いであり、金田家にも親切な刑事。
桜樹先輩の視線が煩い。
「諏訪さ~ん、銭形です。お話した不動高校の皆さんです」
「ようこそ、お越しくださっただ~♪ 本当はお車が来らいだ時、出迎えにゃあならんのだばって、あたしゃ皆さんの顔を存じ上げねえもんでっ。銭形さんの合図を待っとったんだよっ」
銭形警部補が正面玄関のインターホンを押せば、サッと扉が開く。ふくよかな女性が大歓迎の挨拶に飛び出て、皆の手を1人、1人と握手していく。管理人の
「諏訪さんは以前、ペンションの従業員をされてねっ。口も堅いし、信用していいっ」
(そのペンション……絶対に事件、起きただろ)
事情はさておき、管理人を任せるに値する。
「銭形さんの合図?」
「報道陣とか新聞記者だよ。前に来た時、取材だって色んな人が来てたぜ。中津川先生に追い返されたけどね」
「中津川先生に人が追い返せるんですか……意外」
朝木の疑問に江塔先輩が答え、鷹杉はギョッとする。
「さあさ、こんなトコで喋ってねえで。皆さん、中へどうぞっ」
そんな生徒から荷物を引ったくり、諏訪は荷物持ちと化す。彼女の両手が塞がれても、扉をお尻で開けた。
真っ先に視界へ飛び込むのは絵画の数々。
額縁に飾られた絵を見る度、絵筆の動きが分かる。キャンパスへ向かう背中、在りし日を思う。感じ入った拍子に涙が目尻へ浮かび、そっと拭う。遠野先輩の手が学帽を軽く押さえ、
「!! まさか……氷室画伯の絵?」
「……ほ、本物だあ……すげえ……」
「うそお……絵まで飾ってるなんて……」
「……時価数千万……」
「事件で高値が付いて……億の絵もざらですよ。本当に……入館料とか払わなくていいんですか?」
桜樹先輩は感動に打ち震え、江塔先輩がシャッターを押すのも忘れて見惚れる。朝木も嬉しそう、六野先輩と鷹杉はビックリ仰天。高価な絵画に囲まれ、値段が可視化している様子だ。
「……そう言われたら、不安になって来たな。遠野君、その辺はどうなんだ? こっちは飛行機代とレンタカー代しか、支払ってないが……」
「問題ありません。その他の費用は持ち主の方が持つと確認済みです。ね? 金田君っ(これで良いんだよね?)」
「はい、遠野先輩。津雲先生もご安心くださいっ」
(
津雲先生も冷汗を流しながら、確認。遠野先輩から営業スマイル全開に問われ、
「芸術科の人に知られたら、絶対に悔しがるわよ。美術部の轟さんとかっ」
「山吹さんもねっ」
六野先輩と桜樹先輩はコソコソと内緒話。副会長と書記は絵を眺めつつ、諏訪へ着いて行くのみ。
各々が個室へ案内される中、
かつて、
「どうぞ、金田さんはこの部屋です。冬休みに大掃除、来てくれはったから言うてっ。特に良い部屋をって、残間さんに言われとりますっ」
「素敵なお部屋です。諏訪さん、ありがとうございます。ところで……貴女が管理を任されてから、困った事はありませんか? 電気やガスに不備、取材を名目に押しかけて来る人とか……」
「な~んもないだべ、あたし1人でこげな広い屋敷で淋しいくらいさね。それもっ、村の寄り合いに行きゃあ、モッテモテで~まいっちまう♪」
「楽しそうで何よりです」
諏訪も狙い通り、残間を邸宅の主と思い込み、その指示に従う。一介の高校生でも彼女の態度は変わらないだろうが、しばらくは訂正しない。
夏になれば、避暑地目当ての観光客が訪れる村。そこに紛れた取材組を心配したが、問題なさそうだ。
金田祖父母、残間、明智警視などに到着を報告した頃、邸内は探索の声がひっきりなしに聞こえる。特に桜樹先輩の興奮した声はどの階にいようとも、響く。合宿を開いた甲斐はあった。
「金田君っ、『雪夜叉』を見付け……早っ」
荷物からアルバム手帳を取り出す最中、遠野先輩は親切に知らせる。無礼も忘れ、
――雪が如く白く、吹雪の如く荒々しく、死人の如く痛々しく、『雪夜叉』はいる。
人一人を描き上げた氷室伯父の代表作『雪夜叉』、その腕へ抱えられた幼子は誰をモデルにしたのだろう。生気のない顔色も生々しく、目を逸らしたくなる痛ましさもあった。
故に握られた斧はより強く、悲しみと絶望を伝える。周囲への恨み、そして、殺意。
何故だろう。
1枚の絵がこれほど多くの言葉を奪っていくと、思っていなかった。
「見事なもんだ……。私なんか……立っているだけで、身震いするよ」
「怖い絵だわ……それ以上に物悲しい」
「子供を亡くしたお母さんが夜叉になるんだっけ……」
「事件を起こした人はその逆で……母親を亡くした人だったんだよな。悲劇が生んだ怪物って奴か……」
津雲先生、桜樹先輩、六野先輩、江塔先輩は作品へ込められた想いに感じ入る。
「そうだね、……今にも泣き出しそうな顔だ……」
遠野先輩の拳が強く握られ、血管まで浮き出る。既視感のある震えを視界に入れても、
「う~ん、モデルと言うか……これは氷室画伯ご本人よ。夜叉の衣装に着替えた姿を鏡に映して、描いたんだって……父から聞いたわっ」
(その通り……自画像はこの絵を描く練習、物の次いでに過ぎなかったんだよなあ……)
それより先に書記から質問され、神妙な顔つきで朝木は伝え聞いた話を語る。
今は遠野先輩達を持て成そう。
「他の絵を見て回りましょう。自分達と同じ歳頃に描かれた作品もあります」
「へえ! そんなに若い頃から、画伯は絵を描かれてるんだね。どれも素敵だし、僕には描かれた時期なんて分からないな~。教えてよ、金田君っ」
「あっ、あたし……大体、分かるかも……グッ」
「朝木さん、遠野君へアピールしたい気持ちは分かるけど……ここは聞き手に徹しなさい」
さり気なく、それでいて自然に皆を外へ誘導。楽しそうに遠野先輩は廊下へ顔を出し、絵を見渡す。大げさに考え込み、
快活に手を挙げ、朝木は解説役を申し出る。その可憐な口は桜樹先輩の手によって、塞がれる。蠱惑的に微笑み、とても意味深な雰囲気を醸し出す。
先輩方に気を遣われっ放しの身だが、何故だろう。嬉しさに心が満たされ、
「はい、好きです。自慢したくなる程にっ」
「……っ」
言葉にした瞬間、心は踊る。
意味を理解しているのは遠野先輩と桜樹先輩の2人だけ、今はそれで良い。
否、銭形警部補もいた。
離れた扉からこちらを見守り、切なげに眉を寄せる。彼の表情は位置的に見えなかった。
能代「能代です、閲覧ありがとう。飲み過ぎて、酔っ払った挙句に事件遭遇。しばらく、飲みは控えるか。でも、夏の酒は喉ごし爽やか……と違う。さて、次回は『証言パズルのせいで・中編』!! 旅行するだけで……3話かかる?」
銭形 ケンタロウ
蝋人形城殺人事件ドラマ版ゲストキャラ。劇中は私立探偵、作中は北海道警察
諏訪 正子
タロット山荘殺人事件ゲストキャラ。作中にて、邸宅の管理を任される
不動高校写真部メンバー
不動高校学園祭殺人事件ゲストキャラ
不動高校生徒会執行部幹部
穴埋めオリキャラ