金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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原作通りに新幹線で行かせようと思ったら、軽井沢新幹線開通は97年10月でした
はじめちゃんとのタンデムシーン書けると喜んだら、『37歳』の公式コラボで先にやってた(面白かった

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


9休 そうだ、邪宗館へ行こう

 桐生(きりゅう) 春美(はるみ)の家を訪問し、焼香。

 司法解剖を終えた遺体は密葬され、彼女は骨壺に納まっていた。

 コンクールの結果、月島(つきしま)の皮膚移植が一先ず成功した旨を口頭で伝え、家族の方へご挨拶する。(いち)以外にも既に何人もの生徒が訪れたと知り、皆の優しさが胸に沁みた。

 

「また来てやってください」

 

 娘を死なせた原因であるにも関わらず、家族の方は頭を下げてくれた。

 

 帰り道、公園へ寄り道。桐生と神矢(かみや)の3人で、必死に3人4脚の特訓へ励んだ場所だ。

 夏休み故、無邪気な小学生が多くて騒がしい。

 ベンチを探し、先客の男達にビビる。左頬へ傷を持つ初老の男性ではなく、ミステリールポライター・白神(しらがみ) 海人(かいと)。人違いを祈りながら、そっと方向転換を試みる。

 

「金田君! 本当に会えましたね」

「……白神さん、こんにちは。初めまして、金田です」

「ハハハ、ご丁寧にどうも……黒沢です。私の方は以前から、アナタを知っていましてね。先日の演劇部公演、勝手ながら観させて頂きました。素晴らしいクリスティーンでしたよ」

 

 背を向けた瞬間、目敏い白神に呼び止められる。不動高校の制服が目立ったのかもしれない。否、私服であろうとも気付かれただろう。(いち)はため息を殺しながら、黒沢(くろさわ) 和馬(かずま)へ愛想良くご挨拶。

 まさか、コンクールを観に来られた方と思わず、素直に照れた。

 

「金田君……こちら、『オペラ座館』オーナーです」

「……先日は我が校の生徒が大変、ご迷惑をお掛け致しました」

 

 白神の紹介を聞き、一気に底冷えして頭を下げる。

 

「いえ、そんな金田さん……どうか、畏まらないでください。お急ぎでなければ、お時間を頂けたらと思います」

 

 高校生の私情に利用された挙句、事件現場と化したリゾートホテル。

 正直、不動高校演劇部は訴訟されてもおかしくないが、今日までホテル側は責任を問わず、賠償も求めず、演劇コンクールまで見届けてくれた。

 心が広い、器が大きいなどの言葉では表せない。正に聖人のような方だ。

 そんな屈託のない笑顔に呼ばれ、黒沢オーナーの隣へお行儀良く腰かける。彼を挟んだつもりが、(いち)の隣へ白神が移動してしまう。こちらが挟まれる形になった。

 

「白神さん、本当に会えたとはどういう意味ですか?」

「桜樹さんから、今日は桐生さんのご自宅へ伺うだろうと聞きましてね。小1時間程前に私達も焼香へ伺いました」

 

 ふとした疑問を問えば、桜樹(さくらぎ)先輩が元凶。昨日の合宿解散時に一言も白神の話題を出さなかったが、彼女なりの気遣いかもしれない。それでも売られた気分に沈んだ。

 

「私がどうしても、金田さんと話したかったんです」

 

 黒沢オーナーの慌てた弁明を聞き、(いち)は背筋を伸ばす。

 

「実は『オペラ座館』の劇場を取り壊す前に一度、公演をしようと思います。知り合いに頼んだら、OKしてくれました。是非、金田さんに来て頂ければとお誘いに上がりました」

「劇場の取り壊しですか? それは事件が遭ったから……」

「金田君、違います。元々、老朽化の進んだ建物だったんですよ。あの合宿が終わった後に取り壊す予定でした。現場検証もあり、遅れただけです」

 

 同級生を亡くした劇場。

 突然の招待に困惑したのは一瞬、その言葉が反響して視界と脳髄を切り離す。黒沢オーナーと白神の声が遠くに聞こえる。折角の誘いだが、結論はすぐに出た。

 胸に去来する想い(桐生を喪った)は奇しくも父・残間(ざんま)が長年、抱えていた感情(近宮 玲子を亡くした)と同じだろう。最悪な形で理解してしまった。

 

「お気持ちだけ、頂いておきます。自分、劇場には行けません」

「……アナタなら、そう言うだろうと思っていました」

 

 自分の表情や声に無礼があっても構わず、(いち)はハッキリと告げる。黒沢オーナーは穏やかな表情を崩さず、寧ろ、その答えに満足している雰囲気だ。

 招待は方便で本当はただ、(いち)へ会いに来た。もしもそうなら、ちょっと嬉しい。

 白神の視線を感じ、我に返る。

 

「金田さん、また会いましょう。必ずっ」

「はい、黒沢さん」

 

 黒沢オーナーはクスクスと笑い、挨拶をくれた。彼との再会を望んだのは本心、ビックリ仰天な形で果たすのは秋の頃だ。

 

 (いち)は交通機関を用い、黒沼(くろぬま)先生が勤める弁護士事務所を訪れた。

 背氷村合宿にて、邸宅管理人の印象や美術雑誌の記者との遭遇を報告。黒沼先生が想定するより早く、危惧した展開らしい。道警の銭形(ぜにがた)警部補が傍に居てくれて、本当に助かった。

 

「遠野君とやらには悪いですが、良い隠れ蓑になって頂きましょう。何でしたら、氷垣氏とご相談の上に相応のお礼を致します」

「遠野先輩にお礼は不要です。……と言いたのですが、迷惑をかけてばかりなので……先輩の意見を聞いてから、氷垣さんに相談したいと思います」

「フフフ……(いち)君も甘え方が分かって来ましたね。さて、堅苦しい話はこれまでにして行きましょうか」

「はいっ」

 

 黒沼先生は冗談抜きで遠野先輩を利用する様子。心から前生徒会長へ詫びつつ、事務所を後にした。

 バイク屋へ直行し、新車納品。

 この日の為、事前に黒沼先生の事務所へ必要な書類を預けていた。彼も自前のバイクで出勤し、(いち)を後ろへ乗せてくれたのだ。金田祖父と違う人に身を預けたのは初めてであり、柔らかい匂いは走行中の振動も重なって心地好かった。

 

 光沢のある車体を目にした時、胸が弾けるような気分になった。

 店員の説明を聞きながら、上の空だったらしく黒沼先生に何度も指先で注意された。

 帰り道の公道、黒沼先生と並走しての金田宅へ帰宅。

 新しいヘルメットの視界、乗り心地やグリップの握りも手に馴染む。これならば、何処までも遠くへ行けてしまう。胸の高鳴りが最高潮に達した時、脳髄の奥に尾高山が浮かんだ。

 途端、激情は覚める。そこへ走らせても、待ち人はいない。

 

(いち)君、どうしたんだい? 急に元気が……どこか、調子悪い?」

「……これに乗って、長野へ行きたいと思っただけです」

「行ったらええやん、(いち)

 

 心配してくれる黒沼先生に気を取られ、庭にいる金田祖父から呑気な声をかけられる。感傷に浸っていた為、(いち)はイラッとした。

 

「こんにちは~、黒沼先生。(いち)っ、朝木さんに雲場村おいで~言われとるやろ。丁度ええわい」

「朝木……朝木 冬生ですかっ、彼は長野県出身の陶芸家でしたね。成程……良いと思うよ。(いち)君の腕前なら、大丈夫だ。俺も一緒に行きたいんだけど……予定があって、お友達の当てはある?」

(あ~……そうだった……誘われてた~……)

 

 体育祭の頃、人間国宝・朝木(あさき)陶工直々のお誘いを思い返し、青褪める。寧ろ、行くつもりは更々なかったが、変に誤解された。

 

「せや、金田一(きんだいち)君はどうや? (いち)の同級生で頼りになる子なんよ。よしっ、電話したるわ。待っとれ」

「お祖父ちゃん、勝手に決めないでください! お祖母ちゃん、止めさせて!」

「黒沼先生、おいででしたの? お茶淹れますね」

「お構いなく」

 

 善は急げと金田祖父は家の電話へダッシュ。(いち)が慌てて引き留めても効果なし、金田祖母へ助けを求めたが、黒沼先生を持て成しただけで終わった。

 こうなれば、金田一(きんだいち)から断ってくれるのを期待した。

 なんと軽井沢へ行く段取りの真っ最中。金田一(きんだいち)母、七瀬母の保護者3名が受話器越しに話し合った末、(いち)金田一(きんだいち)はバイクでタンデム(前書きにもあり)、七瀬(ななせ)は登校日後に雲場村へ出発しての現地集合。

 その旨を金田祖母が朝木陶工へ連絡したところ、快諾。折角だから、朝木(あさき)と七瀬の女子2人は東京住まいの彼の妹・朝木 春子(あさき はるこ)の運転で朝木家へ向かう手筈となった。

 

「ここまで万全ですと、私の言う事はありません。(いち)君の人徳です」

「いやいや、黒沼先生っ。朝木さんが話の分かる人でやったんですわ~♪」

「それだけ、(いち)に会うのを楽しみにされているのでしょう。良かったわね」

(勝手に色々と決まった……。確か……伯父さんの絵、朝木先生も持ってたよな……見に行くのに丁度良いかっ)

 

 凡そ2時間近くも待たされたにも関わらず、黒沼先生は満足げ。(いち)は金田祖父母へ反論する隙も無く、ただ彼に対する申し訳なさに脱帽ならぬ脱ヘルメットだ。

 黒沼先生が縁側にいる嬉しさから、将棋に興じたツケが回ったとも言える。彼は親切にも書店まで付き添い、雲場村までの道路地図も選んでくれた。

 

「金田だよな? 生徒会のっ」

「岡持君、貴方もお買い物ですか?」

 

 レジに並ぶ中、(いち)の後ろにいたのは2年4組・岡持(おかもち) 武則(たけのり)。ミス研部員が手にした本のタイトルを何気なく読みながら、作者の名も目にした。

 

「……荒木 比呂、自分達と同世代の方と聞きましたが……単行本も出ているのですね」

「この人、有名なの? 読書感想文のオススメコーナーにあったのを選んだだけで、作者については知らないなあ」

 

 夏休み恒例の読書感想文。

 去年、かほる先生の新刊を選んだ。今年は別の本も見ておこうとレジの列から離れ、オススメコーナーをうろつく。純文学から絵本、実録物まで並ぶ。

 

(かほる先生また新刊、出したな。ペルソナドール、流山 森太郎、右竜 あかね……あ、巴さんの出してる本ってこれかあ)

 

 本独特の匂いに混ざり、悪臭が鼻に付く。キョロキョロと周囲を見回せば、明らかに浮浪者の男が週刊誌の列を見るとはなしに見ていた。

 (いち)もつられて見れば、写真週刊誌に【女優・三田村(みたむら) 圭子(けいこ)、某芸能プロダクションマネージャーと密会?】などと俗な記事が飛び込む。不愉快になった。

 だが、浮浪者の髭に隠れた眼差しは雑誌ではない。更に隣のカタログスタンド、旅行のチラシだった。

 

「そうだった、そうだった~。金田、桜樹先輩から聞いたんだけど、演劇コンクール良かったらしいじゃん。おめでと~な」

「岡持君、ありがとうございます。学校以外で言われると照れますね」

 

 レジ会計を終えた岡持に祝われ、(いち)は思わず、はにかんだ。

 

「……金田……?」

 

 澱んだ雑音が耳を打ち、ビビる。浮浪者の掠れた声だと気付き、(いち)は取りあえず会釈しておく。彼は目を見開き、瞬きを忘れてこちらへ見入っていた。

 

「金田の知り合い?」

「……記憶にないので、初対面です」

「!?」

 

 本当に心当たりがなく、(いち)は岡持と堂々と首を傾げる。異変に気付いた黒沼先生の眼力に怯み、浮浪者はそそくさと逃げて行った。

 

「あ、オジサン。待ってくれ」

「岡持君?」

 

 ハッとした岡持は浮浪者を呼び止めに行き、二言三言、交わして戻る。相手もペコリと頭を下げ、今度はゆっくりと去って行った。

 

「ウチが弁当屋だから、住所を教えに行ったんだ。食べに来てくれるかもしれないしね」

「知らない方でしょう? 勇気ありますね」

「俺が見た感じ、悪い人には見えなかったしなあ。何か、困ってるなら桜樹先輩の出番だしっ」

「……学生の領分を弁えてください……」

 

 岡持は既に、ミス研の悪影響を受けていた。

 

(いち)君は本当、面白い友達がいるね」

「ミス研の皆さんが面白いのです」

 

 合流した黒沼先生は話を聞いていたらしく、クスクスと笑われる。(いち)はわざとらしく肩を竦めた。

 

「長野へ行っている間、部活は大丈夫?」

「はい、今のところ……」

 

 黒沼先生に演劇部を心配された瞬間、別の問題を思い返す。登校日をサボる件について、遠野先輩を説得せねばならない。

 帰宅した直後、速攻で電話。

 

〈……もう、金田君は突然に言うんだからっ。閉庁日明けには絶対、学校へ来てくれよ。僕も行くからっ〉

「はい……」

 

――久々に頑張った。

 

 

 天候は良好。

 最低限の着替え、訪問先のお持たせをサイドバックへ詰め込む。バイクへしっかりと取り付け、貴重な品を入れたヒップバッグは腰に装着。赤いジャケットを着込み、グローブとヘルメットを仕上げに着ければ、準備万端。事情はどうであれ、遠出する楽しみに胸は弾んだ。

 先ずは金田一(きんだいち)家へ到着。金田一(きんだいち)はリュックを背負い、ヘルメットを小脇に抱え、長袖長ズボンの旅スタイル。七瀬の他にも、佐木(さき) 竜太(りゅうた)がいる。幻覚を疑ったが、ハンディカムは本物だ。

 

「わあ! ピッカピカの新車……素敵」

「佐木1号の奴、俺の誕生日に家へ上がり込んでたんだぜ。金田との電話を切ったら、後ろにいてよ。マジ、ビビったわ」

「軽井沢へ行かれると聞いて、渡したい物があったんです。間に合ってよかった……ちゃんと読んでください。旅行雑誌の特集とか、信じちゃあダメですから」

「……キノコ図鑑ですか?」

 

 七瀬は新車のバイクに見惚れ、金田一(きんだいち)はやれやれとしつつ、佐木から図鑑を受け取る。そのまま、彼のリュックへ入れてもらう。迷惑そうな顔をしながら、厚意を無下にしない。彼の優しさにクスッと笑った。

 

「おはよう、金田君。はじめがお世話になりますっ。これ少ないけど、ガソリン代とお昼ご飯代ね。はじめはこれ、お父さんが昔使ってゴーグル。ピカピカに磨いといて上げたわよ」」

「おはようございます、はじめちゃんのお母様。有難く頂戴致します」

「……俺への小遣いより多くね?」

 

 金田一(きんだいち)母は明るく挨拶しながら、(いち)へそっと札を握らせる。微笑ましい母子の言い合いを聞きながら、心遣いをヒップバッグへ仕舞う。金田一(きんだいち)はぶつくさ言いつつ、ヘルメットを被った。

 

「当たり前でしょう。ずっと運転するの、金田君なんだから」

「原付だと馬力や道路交通法でツーリングは現実的じゃないですから、2人乗り姿も撮りがいがあります♪」

 

 七瀬と佐木が言い終えた時、金田一(きんだいち)は目元に走行用のゴーグルを着けた。

 

金田一(きんだいち)先輩はともかく、金田先輩も登校日に来られないなんて……残念な気持ちで一杯です」

「確かに……登校日をサボるのは生徒会執行部として少々、遺憾ですっ」

 

 突然、佐木にガッカリされた為、(いち)は名残惜しげな態度で拳を握って見せる。

 

(金田君……卒業式、サボってなかったかなあ)

「どの口が言うんだよ、金田」

「まあ、この子はっ。はじめが急ぐからでしょう。皆が誕生日を祝ってくれてるのに突然、軽井沢へ行く~なんて言い出してっ」

 

 七瀬は無言を貫き、金田一(きんだいち)はツッコんだ。金田一(きんだいち)母の呆れた口調で不意に気付く。

 金田一(きんだいち)は何かしらの事情があり、軽井沢へ急ぎたい。会話の内容からは取り敢えず、毎度お馴染み警視庁捜査一課からの捜査依頼ではないらしい。

 詳細を知らず、遠出を許すなど放任主義にも程がある。

 信頼故だろう。

 

「七瀬さんは今日もバイトですか?」

「うんっ、秋絵ちゃん達も遊びに来てくれるの。そう言うわけだから、はじめちゃん。あたしは夜にならないと、電話に出られないからね」

「……美雪、バイト先で変な奴に絡まれんなよっ。こっちは助けてやれねえんだからっ」

 

 七瀬のバイトは好調らしく、今から楽しそうな雰囲気。金田一(きんだいち)がつまらなさそうに顔を背けた。

 

「何よ、その言い方。一緒に来て欲しいなら、そう言ってくれれば……」

「金田、行くぞ。出発してくれ。んじゃあ、行ってきますっ」

 

 手元をもじもじさせ、不貞腐れた七瀬の言い分は遮られる。

 

「息子さん、お預かりします」

「先輩、行ってらっしゃい」

「はじめ、金田君に迷惑かけないでよ」

 

 バイクへ跨り、背後に金田一(きんだいち)の気配。ズシンッと体重が乗ったかと思えば、彼の手が遠慮がちにジャケットを掴む。この感触はくすぐったい上、走行中に手が離れても気付かない恐れがある。

 

「はじめちゃん、もっと腰に手を回してください。強くしていいのです」

「……お前がそれで良いなら……」

 

 (いち)の注意を聞き入れ、金田一(きんだいち)は渋々と腕を回す。そうなれば、自然と背中に彼の胸元が密着。お互いの服越しでも、鎖骨の感触が分かる。これならば、後ろの様子も把握できよう。

 命を預かった使命感と緊張にゾワゾワと神経が高ぶった。

 

 毎時間、休憩は必須。

 金田一(きんだいち)と埼玉県道路地図をチェックし、道順を再確認。それが終われば、彼は日焼けしたカバーの文庫本へ目を通す。あまりにも真剣な眼差しは質問を拒んでおり、考えが纏まらないのか乱暴に髪をガリガリと掻く。邪魔せぬ様、(いち)はアルバム手帳を開いて待つ。

 時折、美しい風景を背景に一眼レフカメラ・ニコンFで記念撮影した。

 

 群馬県へ突入した最初の休憩所で何故か、殺人事件現場に遭遇してしまう。

 現場検証中の様子や野次馬を目にし、金田一(きんだいち)は現場指揮の群馬県警へ一言、三言、ボソボソッと耳打ち。そこからあっと言う間に犯人との乱闘へ早変わり。

 通りすがりの石川県警・猪川(いのかわ) 将佐(まさすけ)警部の助太刀もあって、時間にして30分足らずの逮捕劇は終了し、犯人はパトカーで無事に連行された。

 先を急いでいた為、2人は野次馬解散に紛れて出発。

 

「はじめちゃん、流石ですね。パッと見ただけで、犯人を言い当ててしまわれた!」

「あれは被害者の武藤 恭一が持ってた蝉の抜け殻……」

 

 ヘルメット越しの耳元にて金田一(きんだいち)が謎解きを披露したが、何を言っているのかサッパリ。いくら、目敏くても気付いた要素は意味不明。思えば、彼が事件解決する様を初めて目にしたと今頃、実感してきた。

 

「そもそも、通りすがりの石川県警さん。決定打に欠けていただけで、真相は見抜いていたっぽいぜ」

「はじめちゃん、休暇中の猪川警部ですよ。いがみ合った相手だろうと……立てる事も忘れないのですね。しかし、良かったのですか? 剣持警部の友人だと言えば、貴方だけでも軽井沢へ乗せてもらえたでしょう。事件解決の功労者としてっ」

「そうして欲しいのか?」

「いいえ」

 

 軽口を叩き合っても、安全運転は忘れない。

 最後の休憩所にて、金田一(きんだいち)は公衆電話へ向かう。目的地へ連絡する為だ。受話器を持つ彼の親しげな笑顔を眺め、事情を問うならば、今しかない。

 

「金田、矢ヶ崎公園を目指してくれ。そこで待ち合わせになった」

「はじめちゃん、軽井沢へ何をしに行くのですか?」

「……ああ、そろそろ……いいかな。『邪宗館』ってトコに用がある。その用に関しては俺だけの問題だ。だから、金田が一緒に来てくれて助かってる」

「……そうですか、お役に立てて幸いです」

 

 問いかけた瞬間、金田一(きんだいち)は普段のお調子者な口調で答える。眉ひとつも動揺を見せない。それもそのはず、彼は今日会った時から問題と向き合い続けている。今もそちらに思考が傾き、(いち)との会話は片手間に近い感覚なのだろう。打ち明けてもらえず、苦笑を返した。

 ここに七瀬がいれば、抱えた問題を語るのだろうか――ああ、悔しい

 

「問題のお邪魔になるなら、自分は泊まる場所を別にしますか?」

「そこまで言ってねえ。あっちにはお前も泊めてもらえるように頼んでおいた。他のお客さんもいるから、丁度良いってよ」

「……失礼、意地悪を言いました。はじめちゃんと寝泊まりなんて、千葉で偶然にお会いした以来ですね。何だが、緊張します」

「……そういや、そうだったな。オッサンが柄にもなく、ロマンチックな事を言ってたっけ……」

 

 感情が滲み出て、嫌味となる。剽軽な態度で金田一(きんだいち)が軽く受け流し、(いち)は深呼吸する間を得た。これが別の誰かなら、絶対に口論へ発展していた。彼は本当に場を和ませる。

 時々、暖簾に腕押しのような虚しさに襲われるのは気のせいだろう。




瑠璃子「金田一君が来る! 金田一君が来る♪ 金田一君が来るっ」
研太郎「井沢 研太郎です。閲覧ありがとうございます。補足すると金田一は『原付免許』、金田君は『普通二輪免許』と種類が違います。原作だと盆休みの後だっけ、早めに会えるなんて嬉しいぞ」
瑠璃子「ああ……揃うわ、あたし達……」
研太郎「さて、次回は『邪宗館の住人よ』!! 遠藤さん、車をお願いします」

白神 海人
オペラ座館・第三の殺人、ゲストキャラ。作中にて、ミス研の講師

黒沢 和馬
オペラ座館殺人事件と新たなる殺人、ゲストキャラ

猪川 将佐警部
黒死蝶殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、群馬県で出会う
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