金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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皆と喋っている間、金田一はずっと探偵モードなんですよね


11休 邪宗館の住人よ・中編

 途中から、絵馬(えま)親子は絵馬(えま)夫人を連れて来る為に一度、離れる。

 荒木(あらき)常盤(ときわ)に案内されたサロン、学校の教室ひとつ分の広さに匹敵。南側のテラスから入り込む日光、十字架を隠した壁紙、家具や電灯はキリシタンの礼拝堂を連想させた。高級なテーブルとソファーが無ければの話だ。

 

「布団敷いて寝たら、さぞ気持ちい~だろうなあ」

 

 金田一(きんだいち)はもう眠そうな程、目付きがトロけている。

 

「フフフッ、金田一(きんだいち)君らしいわ。亜里沙さんっ、こちらに降りてらしたんですか!」

 

 常盤はテラスにいる(くれ)を手招きで呼び寄せ、(いち)は引き攣った笑みを向けてしまう。遠巻きに見る分には良いが、話せる距離は色々と気まずい。察知した金田一(きんだいち)にズボンの腰を掴まれ、容赦なくグイグイとソファー椅子へ座らされた。

 

「紅さん、改めて。相変わらず、お綺麗っスね」

「本当に久しぶり。特に金田一(きんだいち)君、コンサート……アナタの姿が無くて残念だったわ」

「はじめちゃんはその時、上海で事件解決していました」

 

 デレデレと金田一(きんだいち)は紅と握手しながら、(いち)はボソッと事実を告げて差し上げる。

 

「まあ!? 金田一(きんだいち)君、6年前にあたし達を助けてくれたみたいに? しかも、上海!?

「……っ」

 

 常盤は我が事の様に喜び、荒木の表情が驚嘆を通り越して、強張った。彼女と違う反応から、確認したくなる。

 

「荒木君、どうしましたか? はじめちゃんに解いて欲しい事件や謎でもありますか?」

「……いいや、ないよ」

 

 自分でも探りを入れた質問だと思う。それに答える荒木は初めて、(いち)と視線を合わせる。とても静かな眼差しは「」と訴えていた。

 

「お久しぶり、金田一(きんだいち)さん。金田さん、初めましてっ。よくいらっしゃいました」

(……何だが、クララっぽい人だ……)

 

 絵馬夫人に大歓迎されながら、車椅子姿に不自然さを感じる。理由は(いち)にも説明出来ないが、金田一(きんだいち)の笑顔も似たような疑惑を抱えている気がする。ただ、気がするだけだ。

 彼の問題故、口出しはしない。それでもモヤッとした。

 遠藤(えんどう)がティートローリーにハーブティーを乗せて来た時、井沢(いざわ)も網籠いっぱいの苺を手に現れる。季節外れの収穫は高地を利用し、日数を逆算した末の栽培だそうだ。

 苺好きの絵馬夫人がいつでも食せるよう、井沢がインターネットを通じ、情報収集する。ハイテク過ぎて、言葉の半分しか理解出来なかった。

 

「植物に関して、絵馬さんがいるのに……パソコンで調べるのですか?」

「私など何の役にも立たないよ。専門だった菌類の研究もこの6年ですっかり、変わってしまった。毎年、お盆には大学の教え子が遊びに来てくれるんだが、彼らの話を聞く度、私が如何にロートルか思い知らされるばかりだ」

「いや、龍之介おじさん……40代なんて、まだ若いデショッ」

 

 (いち)は知りたい情報は基本、人に聞き、資料を見る。絵馬氏は自嘲めいた息を吐き、金田一(きんだいち)は励ましも含めてクスッと笑う。

 

ホホホッ金田一(きんだいち)さん。お世辞が上手になったわねえ。あっ、堂本さんよ。覚えてるかしら、管理人の……」

 

 絵馬夫人より管理人の堂本(どうもと) 富士夫(ふじお)、その妻・香苗(かなえ)を紹介。頃合いを計り、遠藤は水洗いした苺と焼きたてのクッキー、お持たせの東京バナナをテーブルへ並べた。

 

「綺麗な赤、どう? 純矢」

「こういう色は絵の具では中々、出せないよ。比呂は言葉に出来るか?」

「いや、形容し難い。でも、瑠璃子……音なら?」

 

 艶のある鮮やかな苺を題材にし、若き芸術家達は囁き合う。誰が己の感性を披露するか、話し合っているようにも聞こえた。

 薄く笑った常盤は2人に託され、棚へ置かれたヴァイオリンに触れる。唐突な演奏が始まるのは日常茶飯事らしく、客人の紅さえ何も言わず、赤い苺の旋律に聴き入った。

 記憶にある名曲ではなく、ただ感受した思いのまま引かれるメロディ。練習用のヴァイオリンでも完成度の高い技術と心地良いリズム。

 ピアニスト志望の海峰(かいほう)と共演出来れば、もっと素敵だろう。

 疲弊した体に更なる眠気が襲い、(いち)は耐えた。

 

「瑠璃子さん……今までお聴きした中で一番、楽しんでいらっしゃいます。金田一(きんだいち)君のお陰かしらね」

「流石、紅さん。瑠璃子ちゃんは昔から金田一(きんだいち)君にゾッコンなの。今日も訪ねてくるって知ってから、熊みたいにソワソワしちゃって……」

「おばさま! あたし、そんな熊みたいになってませんよ! 皆の前で困ります

 

 演奏を褒め称え、紅は常盤と金田一(きんだいち)を交互に見やる。絵馬夫人がズバッと少女の恋心をバラせば、常盤は演奏中とは別人の様に子供っぽくなり、顔を真っ赤に染めた。

 

「流石、はじめちゃん。おモテになる」

「おモテになるってなんだよ、金田。初めて聞いたわ」

 

 (いち)は胸中で呟いたつもりが口に出てしまい、金田一(きんだいち)は冗談っぽく呆れる。

 

「モテ男って意味だよ、金田一(きんだいち)

「ここはモテモテだなって、冷やかすトコだ」

「そもそも、金田一(きんだいち)は紅さんとどうやって知り合ったんだ?」

 

 荒木の真面目な答えを聞き、純矢(じゅんや)はプッと噴き出す。井沢は好奇心を抑えられない様子で問いかけた。

 

「私の人生を変える日に立ち会って頂きました。金田一(きんだいち)君は勿論ですが、金田君も瑠璃子さんに紹介したかったんです。昨日、お話した高校演劇コンクールで『審査員特別賞』を受賞した高校の部員、もっと言えば、ヒロイン役を演じた方よ」

「荒木君、このサロンに貴重な物があると言いましたね。どちらにありますか?」

「そこのマントルピースに飾ってる本さ」

 

 微笑んだ紅は案の定、(いち)の活躍をバラす。これ以上の暴露は今、ご勘弁願う。突然に話を振られても、荒木は親切にマントルピースへ案内しくれる。

 

「金田……てめえの話題になった途端、逃げんなよ」

 

 金田一(きんだいち)からジト目で睨まれた。

 

「……? クリスティーンが『悪魔組曲』を伴奏した話……ですよね。……ピアノが弾けるの?」

「瑠璃子、そっちを気にする? ……研太郎のパソコンを面白がってた金田一(きんだいち)が6年も経てば、音楽家や演劇に興味持つようになったんだな」

「いや~、パソコンもTVみたいな形してんのにって思ってたくらいだぜ。大体、金田はさっきも言ったように同級生で偶々、友達になって……。亜里沙さんも……偶々、知り合っただけでっ」

 

 首を傾げた常盤に純矢も呆気に取られ、金田一(きんだいち)は全ての事情を端折る。

 

金田一(きんだいち)君達は山を越える途中で崖崩れに道を塞がれて、亡くなられた御堂先生の別荘へ避難して来たの。丁度、私達は先生の遺作『悪魔組曲』の楽譜を探して集まっていたんです」

「何ソレ……ミステリー小説のお約束みたいな展開♪ まさか、金田一(きんだいち)はその楽譜探しに一役買って……」

 

 仕方なく、紅は事実のみ伝えれば、井沢の興味は更に膨れ上がった。

 後ろの盛り上がりを気にせず、(いち)は荒木と暖炉前の飾り棚より上にあるガラスケースを見上げた。

 古本の威厳を兼ね備えた【邪宗門】。

 学校の図書室に陳列された書籍同様、黄ばむ。だが、ここに飾られた価値を瞬時に感じ取り、ゾクゾクと首筋がはしゃぐ。

 

「初版本、もしや……アンカットですか?」

「……アンカットかあ……その発想は初めてっ、明治の初版本だよ。北原 白秋のね」

「十分、貴重です。白秋にここまでゾッコンですと愛らしいですね。純也君の高祖父の方……是非、お会いしたかったです」

「はは……当時の文豪ファンが初版本購入なんて、初歩中の初歩だよ。金田君……金田一(きんだいち)とは違うタイプで面白い……」

 

 文豪の初版本、つまりは古書。本当に貴重品と巡り合えて感嘆の息を吐き、(いち)はガラスケース越しにじっくりと眺めた。

 

「金田君は画家だけでなく、近代文学にも関心があるんだ。僕の書いた本、読んだ事は?」

「残念ですが、まだ。書店で夏休み特集に、荒木君の作品が陳列されていましたよ」

「そっか……読まれてないなら、安心……いや、良くはないな。夏休み特集って……チョイス、間違ってるっ」

「ホラー系ですか?」

「ドロドロした世界観の自覚はあるけど……読んでも涼しくなるかなあ」

「分かりました。最寄りの書店に行き、買って来ます。朗読会を開催しましょう。どうしましたか、荒木君? 自分の腕を掴んだりして、一緒に行きます?」

 

 善は急げと(いち)が歩けば、耳まで真っ赤の荒木に全力で引き留める。

 クスクスッと微笑ましく見守る笑いが起こった。

 

「金田君の演技、ご覧になる? コンクールのビデオを持って来たの」

「はじめちゃんが解決した事件の話を聞きたい人、手を挙げて下さい!」

「おおい、金田ぁ!! 俺を巻き込むな!

 

 紅の余計な提案。

 荒木を半分だけでもからかったツケが回り、(いち)は即座に別の案を出す。今日はあくまでも金田一(きんだいち)のお供、不動高校演劇部ではない。

 

「「聞きたい、聞きたいっ」」

「僕は演劇のビデオを観たい」

「……オレ、え……え~と、両方っ」

 

 井沢と常盤は事件話を選んだが、荒木は劇のビデオ、純矢は曖昧過ぎる。

 

金田一(きんだいち)さん……まさか、探偵のお仕事をされているの?」

「正しくは捜査協力です。自分は今年に入ってからの分しか知りませんが、警視庁捜査一課の方から直々に依頼されます。警視庁から表彰の話が出る程の活躍だと……」

「これは驚いた。本当に探偵じゃないか、金田一(きんだいち)君」

(あ~間違ってねえし、誇張もしてねえ……か~ね~だ~!

 

 驚愕した絵馬夫人に問われ、(いち)は差し障りのない程度に語る。空気の涼しいサロンにいながら、絵馬氏の額に脂汗が浮かぶ。金田一(きんだいち)は気恥ずかしそうに目を細めた――ように見えた。

 

「紅さんは明日までの滞在ですもの、金田君の演劇を見せて頂ける?」

「はいっ」

 

 絵馬夫人のひと言で決まった。天才児達は館で自由に振る舞うが、ほとんどの決定権は彼女にあるらしい。誰も反論しなかった。

 結局、(いち)は逃げられずにビデオ観賞。

 自分の演技に自信はある。だからこそ、初対面の人と一緒に観たくない。ただの罰ゲームと化した状況、終わった頃にはゲッソリ。

 拍手はなくとも、皆の視線に込められた熱が演技の評価を教えた。

 

ずるいっ、『悪魔組曲』を……こんなにも早く弾けるなんて。ついこの前、発表されたばかりでしょう。舞台で使う曲にも使用許諾が必要なはずよ」

「キチンと手続きは踏みました」

 

 常盤は膝を抱え、唸る。(いち)は反論。

 

「亜里沙さんっ。あたし、次のコンクールに『悪魔組曲』を弾きます。伴奏者は第一楽章と第二楽章を担当したあの人よ」

「ダメです。彼は可愛い後輩ですから、貸しません」

「金田君じゃない、亜里沙さんに言ってるの!」

「伴奏者は自分の後輩です」

 

 言い合いのようなやり取り。相手が美少女ヴァイオリニストだろうと、可愛い後輩は渡せない。

 

「瑠璃子と初対面でこんなに言い合いするなんて……やるな、金田君」

「本当、すっかり馴染んでんな……」

 

 井沢と金田一(きんだいち)は勿論、他の皆からも微笑ましく、見守られた。

 喋り過ぎた為だろうか、ハーブティーを飲んでも喉の渇きは癒えない。(いち)は体力と根性に自信を持っていたが、新車のタンデムは体に堪える。

 金田一(きんだいち)は苺、クッキー、東京バナナを無邪気に貪り、皆の笑顔に包まれていた。

 

「2人とも、少し休んだ方がいい。ここにいたら、話してばっかりになるしっ」

「俺も朝、早かったし……ちっとだけ横に」

「お言葉に甘えます」

「ああ……東京からバイクで来てくれたんだったか……気が利かなくて、すまないね」

 

 東京バナナを齧った井沢の気遣いに心から甘え、(いち)金田一(きんだいち)は絵馬氏へ会釈。

 廊下では堂本夫妻は忙しなく、動いている。老体ながら、テキパキとした動きは熟練の成せる業。是非、見習いたい。

 

 部屋に置いたままのサイドバックから携帯電話を取り出し、隣の部屋にいる金田一(きんだいち)へ投げ渡す。彼はベッドに沈みながら、受け取った。

 

「投げんなよ、携帯。家に連絡しろってんだろ……分かってるわい」

「流石です、はじめちゃん」

 

 金田一(きんだいち)は携帯電話に不慣れな手付きで自宅の電話番号を押し、通話。その間、(いち)はサイドテーブルに置かれた【邪宗門】の文庫本と古びた【軽井沢マガジン】の雑誌に目を止めた。

 

(……完全に『邪宗館』を調べに来てんじゃん。こっちは7年前に発売された雑誌か……物持ち良いな)

 

 指先で読む許可をもらい、パラパラッとページを捲る。アール・ヌーボー内装の喫茶店、【秋はキノコ狩りの季節】特集にゾワッと背筋が凍り付く。もしやと思い、欄を読み取った。

 見逃す程の細かい文字で記載された名、纏わり付いた不愉快さは眠気を吹き飛ばす。勘が当たっても嬉しくなくて、憤りを深呼吸で吐き出した。

 

〈それに【邪宗門】なんて、はじめちゃんらしくないっ〉

「だから言ったろ。俺の問題なんだよ」

 

 いつの間にか、七瀬(ななせ)とお喋り中の金田一(きんだいち)はまたもはぐらかす。ベッドに腰かけ、彼は頭を掻く。

 その仕草に悩んでいると分かり、(いち)は深呼吸して雑誌の該当ページを見せ付ける。答えを急かす為、ハッキリと読み上げた。

 

「【上田理科大学教授・絵馬 龍之介】、こんな偶然ありますかっ。さあ、白状してください」

へ?

〈はじめちゃん、何て言ったの?〉

 

 雑誌の持ち主でありながら、絵馬氏の名があるとたった今、知った表情。こちらが拍子抜けだ。

 キョトンとした金田一(きんだいち)は特集ページを食い入るように眺め、段々と深刻そうに眉を寄せる。心配してくる七瀬へひと言の詫びを入れてから、通話を切った。

 

「佐木ン家の電話番号を教えてくれ」

「……分かりました」

 

 先程までの再会を喜ぶ顔は消え、事件と向き合う探偵の顔へ早変わり。

 金田一(きんだいち)は問題の謎を解きつつある。彼の望みだが、(いち)は胸騒ぎに襲われた。ただの杞憂に終わらず、何か悲しい出来事が起こる。彼こそが理解しているだろうから、頼まれた通りに後輩の電話番号を押した。

 

 携帯電話を耳に当て、金田一(きんだいち)は深刻な表情を崩さない。相手の竜太(りゅうた)にも雰囲気は伝わっているのだろうか、挨拶を交わしてからはとても静かだ。

 彼らの会話を聞きながら、(いち)金田一(きんだいち)のリュックを指差す。持ち主から視線の了解を得て、キノコ図鑑を取り出す。竜太が予め、猛毒キノコ【ドクツルタケ】のページに栞を挟んでいた。

 それは雑誌にて【シロマツタケモドキ】と表記されていた。

 

「前に2号が話してくれた。猛毒キノコを食べられるキノコと紹介された事があるって……詳しく聞かせてくれ」

〈シロマツタケモドキと言う白いキノコがありまして、ドクツルタケの写真が使われていたんです。2つの見分け方はあるんですが……毒キノコの特徴を示すツバやツボは取れやすくて、そんな状態で発見されたら、素人は確実に間違えます〉

 

 (いち)は寒気を覚え、ページを握る指先に力が入る。竜太が言うような細かい見分け方の記載は一切ない。

 

「被害者が出た事は?」

〈その記事が原因で……と言う意味なら、僕には分かりません。時間を頂ければ、調べます〉

 

 それによる被害者がいる。金田一(きんだいち)は心当たり、あるいは該当する事件を知り、真相究明に乗り出した。絵馬氏、あるいは『邪宗館』の住人に何らかの関与を疑っている。

 事情を知らない身でも、これだけの判断材料が揃えば、自ずと推測出来る。

 

「……いや、いい。自分でどうにかするよ、ありがとな……」

 

 竜太との通話を切った金田一(きんだいち)と答え合わせなど、するつもりない。

 

「はじめちゃん、自分は何も聞きません。貴方のお好きなようになさって下さい。その代わり、お願いがあります」

「……1人で行動するなとか、そんなんか?」

明日にして下さい

「……は?」

 

 心からの願いを伝えれば、金田一(きんだいち)は身構えた分だけキョトンとする。

 

「貴方の問題が解決した後、そのまま……ここへ泊まれますか? 自分は無理です。かと言って、今からホテル探しに行きたくありません。勿論、朝木さんの家にも向かいませんよ。バイクの運転で本当に疲れました……だから、謎解きは明日にして下さいっ

 

 (いち)は真剣であり、真面目に願う。

 所持金は心許無く、ガソリン代を考慮しても他のホテルへ宿泊出来ない。新車のタンデムによる5時間越えの運転は予想以上に疲労、仮眠を取って県内の『雲場村』を目指すなどお断りだ。。

 新車のバイク。純文学を形にした別荘。若き芸術家達。演劇のビデオ。純文学の空気。

 その全部に、体も心も揺れていた。

 だから明日がいい。明日なら、ちゃんと向き合える気がする。

 

「……マジかよ、お前……」

 

 呆然とした金田一(きんだいち)はポカーンッと口を開け、何度も瞬きする。何故だろうか、状況を読めないとんでもない阿呆を見る目だ。

 

「……わ~ったよ。お前には迷惑かけちまってるし、これで想像の域は出た……証拠云々は取り敢えず、明日にするわ」

「ありがとうございます。それと――これからも迷惑をかけてもらっても、構いません。ですが、事情は聞かせてください。ちゃんと聞きますからっ――」

 

 金田一(きんだいち)はふう~っと気を抜き、ベッドに倒れ込む。申し訳ない様子で詫びられ、(いち)は励ましの言葉を送った。

 

金田……っ

「明智さんの受け売りです」

 

 お気に召さないらしく、彼の笑顔はスッと消える。人の言葉を借りた事がいけなかったのかもしれない。 

 

 夕食は10代の食欲に応じたお肉たっぷりのメニュー。

 普段よりも多い量を見せ付けられ、(いち)はビビる。金田一(きんだいち)の豪快な食べっぷりを尻目に、どうにか食べ切った。慣れない食事に臓物の戸惑いが痛みとなり、1時間経たぬ内にトイレへ駆け込んだ。

 ゲッソリした後、体調を理由にして就寝。

 軽めのストレッチを欠かさず、金田家へ連絡してから布団へ入る。まだ夜9時過ぎ、眠れない。

 隣の部屋が壁越しにも騒々しくなり、窓を開け放った為に金田一(きんだいち)達の会話が聞こえて来る。幽霊屋敷探索など昔話に花を咲かせ、仲睦まじい。

 

「へえ、あの本だらけの中から比呂が見付けたのかよ。探せば他にもあるんじゃねえか? ダブってるのは『なんでも鑑定団』に持って行こうぜ」

「相変わらずだなあ……金田一(きんだいち)っ」

「ハハハ……良いよ、今からでも探す? 金田一(きんだいち)、何だかんだと見付けるのは得意だろ」

「あたしがヴァイオリンの弓を置き忘れた時も……」

 

 【邪宗門】初版本の話題に変わり、金田一(きんだいち)は庶民的なご意見。実際、金銭的価値にそれ程の興味はないだろう。純矢と荒木は彼の感性が以前と変わらぬ事を喜び、常盤は懐かしそうに記憶を辿る。

 

「金田君、具合は大丈夫かな。薬とか持って行こうか?」

「サンキュー、研太郎。朝、様子を見ておくわ。金田にはマジで無茶させちまったしな。今は……ゆっくり、寝させてやろうぜ」

 

 井沢の気遣いに金田一(きんだいち)は優しく感謝し、(いち)を労わってくれた。問題とやらが解決しても、彼らの友情が続く様に祈った。

 




三島「三島 幾真です、閲覧ありがとう。ここにいるなら……俺の出番なかったりするのかな? さて、次回は『邪宗館の住人よ・後編』!! 軽井沢の火事……ああ、あったあった。2年くらい前に」

堂本富士夫、その妻・香苗
邪宗館の管理人、顔と名前もあるのに台詞がない。「私の出番ない」人

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