金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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荒木 比呂視点です。様々なネタバレ注意


13休 邪宗館の住人よ-荒木

 荒木(あらき) 比呂(ひろ)は知っていた。

 6年前、絵馬(えま) 龍之介(りゅうのすけ)が行なった〝殺人〟。年賀状の返事すら寄こさぬ金田一(きんだいち) (はじめ)が突如として、『邪宗館』を訪れた目的は〝そこ〟にある。

 連絡を受けた時から勘付いていた。

 その反面、懐かしき〝仲間〟の再会は純粋に嬉しい。あの夏と全く変わっておらず、話せば、話す程にただの取り越し苦労であって欲しい。そう、望んでもいた。否、それだけを望んだ。

 

〝荒木君、どうしましたか? はじめちゃんに解いて欲しい事件や謎でもありますか?〟

 

 連れの金田(かねだ) (いち)は最初から警戒した。金田一(きんだいち)と同じ字面だが、人の顔色を窺う……否、反応を観察する様子は記者の取材、警察の聞き込みに近い。しかも、何かにつけて、幽霊屋敷へ行こうと企んだ。

 見張りを兼ねて、火災現場へ着いて行った。

 失敗(・・)だ。

 金田一(きんだいち)は予想通り、6年前の幽霊屋敷で起こった殺人を暴きに来た。それを〝仲間〟に知られた。

 まだだ。まだ〝仲間〟を説得できる。

 金田(かねだ)は見逃す人。上手く行けば、金田一(きんだいち)と帰ってくれる可能性もあった。

 

 ――その結果、瑠璃子(るりこ)は出て行った。

 

 躊躇いなく、比呂を殺そうとした。呪詛如く罵倒し、〝仲間〟の声に耳も貸さず、振り返らず、行ってしまった。

 あの背中に、誰の声も届かなかった。

 

 ――平穏な生活が壊れた。

 

 ずっと守り続けた暮らしの終わり、比呂は絶望のあまりに足から崩れ落ちる。

 瑠璃子は何故、そこまで龍之介が許せないのだろう。

 駆け寄って来る研太郎(けんたろう)はどうして、平気なのだろう。

 愕然とした純矢(じゅんや)は何も言ってくれないのだろう。

 切なげな金田一(きんだいち)は何故、そっとしておいてくれなかったのだろう。

 疑問すら持てない。

 

 入れ違いで帰って来た大人達、管理人の堂本夫妻もサロンに集まってもらう。金田一(きんだいち)から差し出された【軽井沢マガジン】、雑誌編集者・出島(でじま) 丈治(じょうじ)の遺体が発見された6年前の新聞記事。

 龍之介並びに妻の(みどり)は一気に顔色を変え、メイドの遠藤(えんどう) 樹里(じゅり)は目を丸くした。

 

「この雑誌にあるキノコ特集には恐ろしい間違いがある。猛毒キノコの写真を食べられるキノコとして、掲載に紹介されている。……監修しているのは龍之介おじさん、アナタだっ。この雑誌は……7年前(・・・)に発売された……。瑠璃子は6年前の夏、俺と出会う半年前(・・・)に家族を亡くしている。その後、龍之介おじさんに引き取られた……」

 

 自らを痛めつけように、金田一(きんだいち)は悲しき事実を告げた。

 

「瑠璃子の家族は……浅間山麓でキャンプ中に起きた食中毒で死んだ(・・・・・・・)……ま、まさか!

「そ……その記事を鵜呑みにして……毒キノコ(・・・・)食べた(・・・)のか……」

 

 研太郎と純矢は怯える龍之介から一切、目を離さずに絶句した。

 瑠璃子の事情は勿論、知っていた。知っていただけで何故、彼女の家族が悲惨な事故へ至ったのか、原因を考えようもしなかった。

 ようやく比呂の中で情報が整理され、彼女の殺意が脳髄の奥へ届く。瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

ああああ!!

 

 よりもよって、愛しい瑠璃子に残酷な言葉を吐いた。家族を殺した事実を忘れろだなんて、最悪の裏切りだ。

 罪の重さを知り、比呂は後悔の渦に巻き込まれる。カーペットへ何度も頭を打ち付け、悲鳴を上げた。

 体が包まれ、金田一(きんだいち)に抱き締められていると理解しても尚、叫ぶ。

 

知らなかった! 知っていたのは6年前の人殺しだけだ。見ず知らずの男が死んだ。それだけなんだ! 瑠璃子オォ!

 

 懺悔に似た咆哮が瑠璃子に届きますよう――贖罪を求め、祈った。

 

 どれだけの時が経っただろう。

 金田(かねだ)からの連絡があったと堂本(どうもと) 香苗(かなえ)の声を聞くまで、意識はなかったと言える。瑠璃子は無事、同じ県内の『雲場村』へ到着。彼らの同級生の実家にお世話になっているという。

 彼女からは金田一(きんだいち)へ合流の際、お気に入りのヴァイオリンを持参せよとお達しがあった。

 比呂達には一言もなし。

 龍之介も家主と電話越しに頭を下げ、瑠璃子と話していない。

 時計を認識すれば、午後2時あるいは14時。外はまだ明るく、日差しも心地良い体感。なのに、冷たい闇が比呂を支配する。研太郎と純矢、金田一(きんだいち)が付きっ切りで傍に居てくれたが、心は何処までも遠い。

 堂本(どうもと) 富士夫(ふじお)から昼ごはん代わりの温かいハーブティーを渡され、やっと絵馬夫妻の姿がないと気付く。

 

「おじさんとおばさんは?」

「これから……どうするか、話してるよ」

 

 金田一(きんだいち)が答えたのを待っていたようなタイミングで、絵馬夫妻は現れる。翠が誰の手も借りず、立っている姿に自分達は驚きも忘れた。

 立つのがやっとらしく、一歩踏み出した瞬間に崩れるように座り込む。慌てて、全員が手を貸そうとしたが、彼女は手で制した。

 

「比呂君、ごめんなさい。夫の罪を抱えさせて……苦しかったでしょうに」

「比呂君……すまない」

 

 翠と一緒になり、龍之介も這いつくばった。

 出島は【軽井沢マガジン】の誤りに気付き、龍之介を脅迫。大金を何度もせびられ、廃墟に閉じ込めて餓死させた。その遺体を浅間山麓に放置した。

 龍之介は罪の呵責に耐え切れず、一度は自首を心に決めた。

 しかし、それを翠が引き留めた。純矢が犯罪者の子として世間から非難され、引き取られた3人もまた苦境に立たされる。様々言い訳を重ね、墓場まで持って行くと誓った。

 車椅子は翠なりの贖罪の証。龍之介さえも騙した『邪宗館』への鎖。

 

 ――ああ、夫妻の生き方は【邪宗門】になぞらえていた。

 

「けど、間違いだった。瑠璃子さんが証明してくれたわ。あの子はこの先も夫を許さない……私達の罪は償えていないし、消えてなんかない」

「警察には必ず、自首する。その前に純矢、研太郎君……それに比呂君。私がどうなろうとキミ達への誹謗中傷は避けられない。だからこそ、安全を確保したい。勿論、瑠璃子君もだっ。時間はかかるだろう……殺人の時効までには必ず、全て終わらせる。金田一(きんだいち)君、頼むっ。今は……どうかっ」

 

 全く現実味がないやり取り、芝居を見ている。比呂は思った。思いたかった。

 

「償いを……惜しまない者に救いある未来は必ず、訪れる。俺はそう思います」

「……金田一(きんだいち)さん、ありがとう」

 

 金田一(きんだいち)の声がする。後悔に満ちた声を聞き、比呂の中でじりじりと怒りが湧いた。悔いるのならば、最初から来て欲しくなかった。秘密を暴いた第三者は彼でなくて良かったのに何故(・・)、来た。

 6年前も好奇心旺盛だったが、その言葉だけでは納得できない。次は金田一(きんだいち)が胸の内を語る番だ。

 

金田一(きんだいち)……なんで、……ここに来た? 教えて……」

「……俺と純矢が地下室へ下りた時、出島はまだ生きてた。俺達は勿論、出島も相手の姿なんか見えなかった。出島にしてみれば、共犯者かもしれない相手だった。それでも、助けを求めた。それだけ、出島は生きたかったんだ。俺はその声を無視して、誰にも言わなかった……俺の問題(・・・・)だ」

「そんなっ、あんなのオレでも分かりっこない! 金田一(きんだいち)のせいじゃないって! 大体……お前は中を……確かめようとした。オレが……逃げようって言ったんだ……。オレが!

「純矢っ」

 

 問いかけに答え、金田一(きんだいち)は自責の念に駆られる。彼は忘れ去っていた過去に決着を付けに来た。本当、変な責任感は昔と変わらない。そんな彼が好きだった。

 今もその気持ちは、憎しみと並んで胸のどこかに残っている。

 それが、つらかった。

 

 純矢の嘆きを聞き、研太郎は制す。それ以上は罪の意識に囚われてしまう。息子の悲痛な叫びに龍之介は再び罪を悔いて涙し、2人を丸ごと抱き締めた。

 この光景を瑠璃子が見れば、どう思うだろう。そればかり、考えていた。

 その後、金田一(きんだいち)を引き留めるのが大変だった。

 比呂達の誰も責めず、怒らず、もう一晩だけの滞在を望んだ。やっと納得してくれた金田一(きんだいち)に純矢は念押しした。

 

「久しぶりに〝仲間〟で一緒に寝よう。瑠璃子には内緒だぞ」

「……寝惚けて蹴ったら、ゴメン」

 

 寝坊の悪い金田一(きんだいち)なら、きっと蹴るだろう。クスクスッと笑い合った。

 どことなく、ぎこちない笑みは仕方ない。

 何故だろうか、遠藤だけは普段と違って明るく見えた。

 

 夕食の終わった夜8時半頃、金田(かねだ)からの連絡。

 瑠璃子は食事後にぐっすりと就寝。同級生の妹が傍に付いており、とても落ち着いた様子だと報せてくれた。安心した後、金田一(きんだいち)に無理を言い、受話器を代わってもらう。

 金田(かねだ)には、聞かねばならない事があった。

 

金田(かねだ)君は知ってた? 【軽井沢マガジン】のキノコ特集も出島の記事もっ」

〈……キノコ特集は知っていますが、長崎の出島については知りません。何か事件でもありましたか?〉

 

 誰がこんな非常時に長崎の出島など話題にするものか、ボケているか疑う。

 

「比呂、金田(かねだ)は何も知らな……」

 

 慌てて金田一(きんだいち)が割って入ろうとした為、手で制す。金田(かねだ)の口から聞き出したい衝動は八つ当たりに近いだろう。

 

金田一(きんだいち)が軽井沢に来た目的も知らなかったのかい?」

〈『邪宗館』に行く以外、何も教えて頂いていません。はじめちゃんの問題ですから、自分の役目は運転手のみです〉

 

 何も知らぬ友達を巻き込んで、運転手扱い。ゾッとする。

 否、金田(かねだ)も火災現場へ行きたがり、共通した軽井沢という目的地。金田一(きんだいち)に検証させようとした可能もある。お互いに利害は一致したのだろう。

 

「僕を瑠璃子から庇ったのも役目?」

〈荒木君を庇っていませんよ、常盤さんの妨害をしただけです〉

「……だとしても、僕の代わりに殴られるような真似……2度としないで欲しい。キミには関係ないし、何より……瑠璃子が僕に向けた想い(・・)なんだ。憎しみだろうと僕の物なんだよ」

〈……常盤さんの想い(・・)ですか、その発想はありませんでした。……はい、肝に銘じます〉

 

 瑠璃子を傷付けた事が後悔。だから、比呂は報いを受けるべきなのだ。

 金田(かねだ)はずっと真摯に答えていたが、最後だけ途端に白々しくなる。出来るかどうかは別と言いたげな口調だった。彼の捨て身な行動を半分程度、心配したのは本心だ。ちょっとだけ、イラッとした。

 執筆以外に苛立つなど、初めてだと後になって気付いた。

 

 翌朝、瑠璃子を迎えに行く。

 帰って来てくれる保証はないが兎に角、『雲場村』を目指す。最悪、比呂は彼女と話せなくても構わない。

 ベンツは運転手の遠藤を含め、7人乗り。金田一(きんだいち)を乗せる為、龍之介は堂本夫妻と留守電だ。

 いずれ、2人は会わねばならない。今だけは会わせない。会わせられない。

 

 だから、訪ねた先に(たつみ) 龍之介(りゅうのすけ)という同世代の少年がいた事に死ぬ程、驚いた。 

 

○●……――三島 幾馬は上田理科大学の講師。

 夏休み、今回の楽しみは恩師・絵馬 龍之介が住まう『邪宗館』への宿泊。

 大学の同期や先輩後輩以外にも、4人の天才少年少女目当ての各業界も出入りする。日程が合えば、有名人ともお近付きになれる最高の避暑地。

 毎年恒例の如く厄介になる同期に聞けば、そう自慢された。

 画家や小説家、プログラマーには興味ないが、クラシック界のアイドル・常盤 瑠璃子の存在を教えてもらった時は年甲斐もなく、夢中になった。

 

 だが、お盆休みを目前に龍之介先生から直々にキャンセルの連絡を受けた。幾馬に限らず、元教え子全員だ。

 残念な気持ちと同時に疑惑も浮かぶ。幾馬がちょっとした事実(・・)を知り、龍之介先生の退職を推測した。それを照らし合わせる為の訪問だった。

 無理やり押しかけ、追求しようか迷う。

 誰かに出し抜かれた可能性も否定出来ない。だとすれば、それは誰か? 考えた。

 雑誌編集者だろうと思い当たり、出版社へ問い合わせてみた。

 当時の担当者は6年前に浅間山麓で遭難死、新聞にも載ったそうだ。雑に教えられ、記憶を辿る。事件発生時なら記事に目を通したかもしれないが、覚えがない。

 図書館まで出向き、やっと該当する記事を探し当てた。

 そして、ひとつの仮説(・・)を立てる。

 興奮冷めやらぬ内に龍之介先生へ電話連絡した。出島 丈治について話したいと迫った。

 

〈……三島君、その話……長くなるか? 忙しいから、今度にしてくれ〉

は?

 

 てっきり、慌てて会う段取りを整えてくれると思っていた。まさかの反応に拍子抜け。恩師相手に無礼な口調だと理解していたが、それだけ驚いた。

 

「先生、もしかして……出島 丈治をお忘れですか? あの雑誌の編集だった人ですよ……」

〈……三島君、私がそこまで耄碌していると言いたのかね? ん……、ありがとう。客人が来たから、切らせてもらうよ。元気でな、三島君〉

 

 言い終えた龍之介先生は速攻で通話を切り、受話器から聞こえるツーツーツー音が虚しい。

 現役の頃から正直、気弱な性格の彼がここまで堂々した態度で出られれば、仮説は間違っている気がして来た。

 幾馬が知る表向きの事情、奥様が車椅子生活を余儀なくされ、家族の暮らしを優先した為だ。

 出島の遭難死から立て続けに起こった惨事。これらを自らに下された罰と信じ、大学を辞したのかもしれない。恐妻家の龍之介先生ならば、有り得る。

 相手にしてもらえないなら、そう思う事にした。それで勝手に納得した。

 

 この年の秋、恩師の息子・絵馬 純矢は東京に個展を開いた。その後、高名な間久部(まくべ) 青次(せいじ)画伯へ弟子入りし、雅号も『間久部 純矢』と改めた。

 仲間内でも、話題に上がった。誰かが、奥様の容体が急変したのかもしれないと不吉な想像をし、龍之介先生から連絡があるまで、憶測は控えよう。そう、纏まってしまった。

 好奇心は疼いたが、どういうワケか同期から「お前、人の家の事情に首突っ込むなよ。マジで」と念押しされた。

 ムカッとしたが、渋々と従った。

 

 この選択が正解と知るのは3年後。

 純矢が20歳を迎え、正式に間久部画伯の養子となった後だった。




カフェ店員「閲覧ありがとうございます。軽井沢へお越しの際は是非、当店へ♪ さて、次回は『雲場村の鳴き声』。エアコンの無い家って想像できない……」

絵馬 龍之介、翠
妻曰く、龍之介は気が小さい。翠が歩ける事実を夫は知らなかった。作中にて、純矢が二十歳になり、出頭した

絵馬 純矢
天才画伯、天才児の子供達を引き取ったのは彼の為でもあっただろう。彼の抱える秘密は是非、原作で確認ください。作中にて、間久部画伯の養子になる

遠藤 樹里
元看護師の住み込みメイド、原作でも事件が起ころうと全く動じなかった

三島 幾馬
大学の講師、下手したら第2の出島になっていた。瑠璃子が好き
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