金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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七瀬との合流回です


16休 雲場村の鳴き声・後編

 縁側に腰を据えて聴き入った時、微かなエンジン音に気付く。ベンツと違う吹かし方、来客に立ち上がった。井沢(いざわ)と顔を見合わせ、演奏を邪魔せぬ様に忍び足で急いだ。

 

 ――ガララッ

 

「ただいま、あら……お客様がこんなにっ」

「はじめちゃんと……金田君の靴もあるわね。他は……あっ、金田君に……そちらは?」

 

 案の定、玄関には朝木(あさき) 秋絵(あきえ)七瀬 美雪(ななせ みゆき)が荷物を降ろす。並んだ靴の数に圧倒されながら、こちらに人懐っこい笑顔を振りまく。

 

「朝木さん、お邪魔しています。七瀬さん、こんにちは。こちらは井沢君、金田一(きんだいち)君のお友達です。軽井沢からお越し頂きました。そして、こちらが朝木先生の娘さん。金田一(きんだいち)君の幼馴染です」

「どうも、初めまして。井沢 研太郎です」

 

 そのまま、(いち)は井沢を紹介。少し声を抑えたが、彼は礼儀正しく頭を下げた。

 

「妹さんもいますから、秋絵さんと呼んでも良いですか? 金田君の受け売りなんですがっ」

「はい、好きに呼んで下さいっ。あたし、男子は名字で呼ぶようにしているので井沢君と呼びますけど……あれ? 金田君に名前を呼ばれた事あったかしら?」

「ありません。折角ですから、自分も秋絵さんと呼びましょう」

 

 突然の客人にも物怖じせず、秋絵は笑顔をくれた。

 

「お~やっぱり、美雪と秋絵か」

「はじめちゃん、やっと会えた♪」

 

 爽やかに井沢が挨拶する中、後ろから金田一(きんだいち)もやって来る。七瀬は安堵の息を吐き、大げさに手を振った。

 

「秋絵のお母さん、お父さんを呼びに仕事場へ行ってくれたぜ。研太郎以外の友達も居間にいるんだ。紹介するから、すぐ来いよ」

「そう、じゃあ……叔母様に声かけて来るわ。車庫に先客がいて、すぐに出るつもりか……聞いて来てって言われてるの」

「ああ、スミマセン。俺達、もう出ますので……遠藤さん、ここまで運転してくれた方に車庫から出してもらいます」

「聞こえましたっ、研太郎様。すぐに動かします」

 

 ワクワクした金田一(きんだいち)は急かす口調で2人を誘うが、秋絵は外を見やる。井沢が詫びれば、遠藤(えんどう)が廊下を滑るように参じた。

 車庫の件は運転手同士に任せ、ゾロゾロと居間へ到着。

 そこに朝木(あさき)陶工はおろか、時雨(しぐれ)の姿もない。朝木(あさき)夫人と一緒に仕事場へ行ったと勝手に思う。

 

「こんにちは、七瀬 美雪で……あ~! 龍之介君じゃない!! どうして、ここに!?」

「うっさ……今度は誰だ?」

「美雪だよ、俺と一緒にいたろ。覚えてねえのか?」

 

 皆の視線を受け、先に挨拶した七瀬は巽の存在にギョッとする。名指しされ、彼は今度こそ不機嫌そうに耳を塞いでから、苦笑交じりの金田一(きんだいち)を睨んだ。

 

「お前らの事なんて、面倒掛けちまった剣持さんとか……真壁と伊志田……あの桜樹って女くらいしか、印象にねえなあ」

「……お前にとっちゃあ、そうだよな。……佐木って結構、目立つのに

(……ミス研のメンバーと……剣持さんが関わった事件……。……あっ、岐阜へ行った時か……)

 

 2人の内緒話から、ミステリー研究会存続をかけた脅迫状事件に行き付いた。

 詳細は知らぬが、現場は岐阜県の『くちなし村』。(たつみ)は事件解決後、剣持警部の手を借りて出奔したというワケだ。

 金田一(きんだいち)が関わり、住み慣れた家を離れた少年少女。奇妙な縁にゾワッと背筋が粟立つ。

 

「秋絵さん、紹介します。親代わりの絵馬 翠です。その息子の純矢、荒木 比呂、常盤 瑠璃子。俺達、ひとつ屋根の下で家族同然に暮らしていたんです」

「大勢で押しかけて、ごめんなさいね」

「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。朝木 冬生の娘、秋絵と申します。お時間の許す限り、お寛ぎ下さいませ」

 

 井沢から紹介され、秋絵は折り目正しく絵馬(えま)夫人へ頭を下げる。普段の自由奔放な雰囲気と違い、人間国宝の娘としての振る舞いは堅苦しかった。

 

「……絵馬 純矢って、言いましたか? ひょっとして、去年の日本文化絵画展で『金筆賞』を取った?」

「はい、その絵馬 純矢です」

「……あの常盤さんって、ヴァイオリニストの常盤 瑠璃子さんですか? 先日、紅 亜里沙のコンサートを観に来てた……」

「ええ、その常盤 瑠璃子っ」

「「ええ!?」」

 

 七瀬と秋絵の疑問に(いち)と井沢がさらりと答えれば、まさに素っ頓狂な声が屋敷中に響いた。

 

「……? 常盤はヴァイオリン、確かに上手かったが……コイツらも有名人なのか? 金田っ」

「純矢君は画家、荒木君は小説家です。井沢君はプログラマーをなさっています」

「そうよ、絵馬 純矢は同じ若手芸術家の友達と暮らしてるって……雑誌に書いてあったわ。じゃあ……はじめちゃん、そんな天才ばっかりが住んでる家に行っていたの? どうして、話してくれなかったの!」

「知らなかったんだよ、マジで」

 

 巽は同世代の著名人に無反応だが、知らぬ事はキチンと問う。(いち)が簡潔に説明を加えれば、七瀬はプリプリッとお冠状態で金田一(きんだいち)を問い詰めた。

 

「何を騒いどるんだ、秋絵」

「只今、お父様。こちらは同級生の七瀬 美雪です。美雪ちゃん、父の朝木 冬生よ」

「は、初めましてっ。秋絵ちゃんには普段から、お世話になっていますっ。こちら、つまらないモノですが……東京名物です。どうぞ!」

 

 ギシッと足音を立て、朝木陶工は昼食時と違う甚平を纏って現れる。秋絵はパッと表情を明るくし、七瀬はさっと態度を切り替え、凛とした態度でご挨拶。持参した手土産、名店の羊羹を差し出した。

 同級生の父親とは言え、人間国宝相手に緊張するのは当然。

 

「ああ、キミが七瀬君か。遠野君から話は聞いておるよ。はは、ご丁寧にお土産までありがとう。ところで、秋絵。春子はどうした?」

「こっちよ、兄さん。わお、若い子がいっぱい……絵馬さんはどの人? 遠藤さん、いつでも出発できるそうよ」

 

 土産を受け取った朝木陶工に答えた朝木 春子(あさき はるこ)は中庭へ現れ、大勢の客人に目を丸くする。白と黒のスーツワンピース、耳たぶよりも大きなイヤリングとネックレスは都会に慣れた人間の装い、顔の造形は秋絵に似ていた。

 

「私ですわ。朝木さん、お暇致します。主人にも話さないと……」

「分かりもうした。常盤君はしばらく、お預かりした後……コテージへ送り届けましょうぞ」

 

 絵馬夫人は純矢(じゅんや)の手を借り、弱弱しく立ち上がる。朝木陶工と深刻に頷き合う中、別れの時が迫った荒木(あらき)は俯き加減になる。井沢と常盤(ときわ)はどことなく、変化に胸を躍らせているように見えた。

 

どういう事、はじめちゃん?

瑠璃子はちょっとの間、ここで暮らすんだよ

なんで?

 

 絵馬夫人達を外のベンツまで見届けながら、七瀬達はコソコソと事情を問う。秋絵は突然の事態にキョトンとした。

 

金田一(きんだいち)、落ち着いたら……連絡するよ。金田君、本当に色々とありがとう」

 

 井沢は朝木陶工へ挨拶した後、こちらにも言葉をくれた。

 

「おう、瑠璃子は任せろ。龍之介がどうにかする」

「これから大変なのは、巽君ですので」

「不吉な言い方すんなよ」

 

 常盤は巽へ任せた気分であり、(いち)金田一(きんだいち)共々、正直な気持ちを伝えた。

 

「確かにそうだな。瑠璃子、巽君に迷惑かけるなよ」

「それは保証できないっ」

「かける気満々か……」

 

 井沢が常盤へ軽口に注意すれば、巽は絶句した。蝉さえもツッコミが如く、一斉に鳴き止んだ。

 

「荒木君、こんな時に何ですが……昨日の話です。結局、絵馬君のお父さん「龍之介」に込められた意味は何ですか?」

「……本当にこんな時だよっ。……次に会った時までお預けにしよう。金田君とはゆっくり、話したい」

「……その時を楽しみにしています」

「ああ、またね」

 

 昨日からモヤモヤした個人的な疑問、荒木へ再度、問う。やれやれと呆れられたが、彼は確かな再会を約束してくれた。それで良しとしよう。

 

 ――井沢 研太郎は他に秘めた想いがなかったのだろうか、後にも先にも答えは出ない。

 

 常盤は走り去るベンツを門戸までしか見送らず、純矢と荒木はリア・ウィンドウに張り付いた状態のまま、遠退く。完全に見えなくなるまで、2人の体勢は固定されたようにピクリとも動かず、(いち)はちょっと怖かった。

 

「……葉月おばさまと時雨ちゃんは?」

「部屋におるよ、時雨を少し休ませてやらんとな」

「……あたし、お母様と時雨に声を掛けて来ます」

 

 名残惜しさを感じさせず、常盤は周囲を見渡す。朝木陶工が答えた時、心配そうに秋絵は中へ急いだ。

 

「時雨さんに負担をかけてしまったのですか?」

「いやいや、時雨は基本……この時間は昼寝をさせんといかんのじゃよ。(いち)君は気に病まんでよい」

「ゴホンッ! 兄さん、あたしに金田君を紹介してくれないの? 知らない子は他にもいるけどっ」

 

 (いち)も罪悪感が芽生え、チクチクと胸が痛む。朝木陶工の労わりが咳払いによって、掻き消された。

 

「すみません、春子さん。こっちがあたしの幼馴染で金田一(きんだいち) (はじめ)

「どうも、金田一(きんだいち)です。んで、巽 龍之介っ」

「……巽です。お盆明けまで、神社に住まわせて頂いております。こちらは常盤 瑠璃子、若手ヴァイオリニストです」

「常盤です。昨日、雲場村に来たばっかりだけどね。とっても気に入ったわ! あたしもお盆明けにここを発つの。あっ、金田君はこの子っ」

 

 七瀬がさっと金田一(きんだいち)を紹介すれば、巽、常盤と順番が回る。

 

「……初めまして、金田です」

「まさかの金田君、最後に紹介してくる流れなのね。ウフフ……可笑しいっ、朝木 春子です。この朝木 冬生の妹よ」

 

 (いち)の自己紹介に春子はケタケタッと笑い、己の兄を敬意なく指差す。

 

「兄を指差すな。全く……相変わらず、目上を敬わらん奴め。見た目通り、村の住人ではない。こやつは今、都内に住んでおってな。ブティックを経営しとる」

 

 朝木陶工は苦笑しただけで怒っていない。

 兄妹の関係性が見えた。

 しかし、春子の(いち)へ向ける視線は意味不明。物珍しさや好奇心に溢れ、ジロジロと眺めて来る。廊下を歩く時、居間へ腰かけて落ち着いた時、ずっと視線が煩い。

 穴が開く程、見つめられては目上の人でもウンザリ。朝木陶工を盾できる位置へ座り直す。

 

「金田君、隠れちゃ失礼よ。春子さん、アナタに会うのを楽しみにしてたんだからっ。秋絵ちゃんが演劇コンクールの記事を見せてね、是非とも会いたいって♪ 高速道路を突っ切る勢いだったわ」

(……知らんがな)

「兄さんから連絡を貰った時、もしかしたらって思ったのよ。写真じゃあ、分かりにくかったけど……本当にソックリね。氷室 一聖にっ

「「!?」」

 

 七瀬に窘められたが、(いち)は素知らぬ振りを突き通す。春子が殊更、可笑しそうに爆弾発言をかました。

 金田一(きんだいち)と朝木陶工は驚愕のあまり、同じタイミングで肩を痙攣させる。その反応から、情報源は2人ではない。

 

(……この人、伯父さんと面識があったんだった……)

 

 すっかり忘れていた事実を思い返し、(いち)の毛根から冷や汗が噴き出た。

 

「氷室 一聖……確か、あの絵を描いた画家だろ?」

「その通り、巽君。朝木先生、御堂先生に絵を贈った画家だよ。……? 金田君、氷室 一聖の隠し子!?

 

 事情が見えない立場でありながら、冷静な巽は己の知る情報を言葉にして纏める。常盤は補足した後、ノリツッコミが如くビックリ仰天。

 

「ええ!? 金田君……そう言う事だったのっ」

「……甥です」

 

 脳髄に憶測が到達し、置いてきぼりだった七瀬はようやく納得して叫ぶ。遂に彼女にも知られた。

 ひとつだけ、訂正した後。(いち)はそ~っと座布団から離れる。

 

「春子が氷室君と最後に会ったのは15年も前じゃろ。お前、覚えとるのか?」

「まさかっ、あたしにそこまで記憶力ないわよ。中学生だった金田君の写真を見せてもらった事があるの。にいみさんにっ」

え!?

 

 慌てて朝木陶工が問えば、上機嫌の春子はまたも衝撃発言。

 金田一(きんだいち)のギョッとした顔に皆が注目したお陰で、こちらを誰も気に留めない。正直、春子の話はゾッとした。(いち)も初耳である為、無事に廊下へ出られたが座った姿勢のまま、聴き入った。

 

「春子さん、それっていつの事っスか? 場所は?」

「うん? 写真を見たのは去年の冬と言うか……春かな。あたしのお店にっ、金田君の卒業式に着る礼服を選んでくれってね。息子さんのイメージを掴みたいから、写真を見せてもらったの」

あの女……ゴホンッ、(いち)君のお母さんが春子の店の客……奇妙な縁じゃな」

 

 深刻そうな金田一(きんだいち)の追究も春子はあっさりと答えてくれる。朝木陶工も驚き、蓄えた髭を擦った。

 

(卒業式、来てくれるつもりだったんだ……)

 

 にいみの失踪直前の行動を知り、自分自身の動揺に気付く。呆然とし過ぎて障子を閉める事さえ、気に掛けなかった。

 

「どうしたの? 金田君……」

(シ~、静かにっ)

「どこ行くんだっ、金田! あわわわ!?

 

 秋絵に声をかけられ、我に返る。いくつも湯吞を乗せ、彼女はオボンを運ぶ。麦茶を人数分、淹れ直してくれたらしい。

 人差し指で沈黙を促した瞬間、目敏い金田一(きんだいち)から逃がさんとばかりにタックルされる。完全に油断し、受け身を忘れた。

 気付けば、視界は反転して軒下が映る。背中の痛みから、悲鳴を上げた彼と共に庭へ転げ落ちていた。

 

「2人とも……大丈夫?」

「「多分……」」

 

 状況を掴めぬ秋絵だが、麦茶だけはしっかりと守る。

 もう起き上がりたくない。

 

「はじめちゃん、ここの土……ぜ~んぶ、焼き物の原材料なのですよ」

「え? この土がか?」

 

 正確には朝木家の敷地内にある地面、全てだ。

 水分を吸えば、乳白色へ変わった土は窯の温度の微妙な焼き加減により、白く美しい陶器が完成する。屋敷中の食器や傘立てなど、秘伝の技術で作り上げられている。

 

「自分達、国宝級の材料に寝転がっているのです。こうやって、頬っぺたを付けてください。ヒンヤリして気持ち良いです」

 

 蝉の鳴き声を聞きながら、(いち)は粘土の冷たさを頬に受ける。布団と違う感触だが、昼寝が出来る心地良さ。

 

「……金田、いつまでも現実逃避してねえで起きろよっ」

「……はじめちゃんが激しくするからです。もっと優しくして下さい」

「逃げたの、てめえだろ。開き直んなよ、金田」

「タックルは……はじめちゃんの責任かと……」

 

 プリプリッとした金田一(きんだいち)に腕を引っ張られ、(いち)はやれやれと起き上がった。

 

「何やってんだ、金田っ。頭、打ってねえか?」

「はい、巽君。自分、大丈夫です。……はじめちゃんは痛む個所はありませんか?」

「ああ……俺はへ~キっ、どこも痛くねえぜ」

 

 ぶっきらぼうな態度ながら、巽に心配される。彼に答えた後、金田一(きんだいち)の様子も気に掛ける。一を下敷きにして助かったのだから、ケガなどしているはずはない。

 

「じゃあ、さっきの話の続きをしましょう! 金田君は氷室 一聖の……あれ? 孫って言った?」

「甥よ、甥。この子の母親が氷室の妹でね、あたしと同じ立ち位置ってワケ♪」

 

 心配事が無くなり、常盤は話をぶり返す。春子が己を指差しながら、得意げに語ってしまう。(いち)は暑さと違う目眩に襲われ、一気に体温が下がった。

 

「……え? 金田君が……氷室画伯の……甥!? お父様っ、どういう事?」

「その話は飯時にしよう。お前も帰って来たばかりで休んでおらんだろ? 儂も仕事に戻る。七瀬君もゆっくりしなさい」

 

 困惑した秋絵は床の間の絵画と(いち)を交互に見比べ、朝木陶工へ確かめる口調で問い質す。金田家の事情をある程度知る身として、彼は先延ばしにしてくれた。

 思わず、ホッとする。

 

「七瀬さんが知らないのは当然として……秋絵まで知らなかったの? どお~りで、話が噛み合わないと思ったわあ」

 

 麦茶を飲みながら、春子は状況も飲み込む。

 

「はじめちゃんは知ってたわよね? 勿論? ねえっ

金田一(きんだいち)君っ、その顔は知ってたのね。あたし、分かるよっ」

ひゅ~ひゅ~っ

 

 七瀬と常盤に迫られ、金田一(きんだいち)は音程のズレた口笛で誤魔化す。

 

「下手くそか、金田一(きんだいち)っ」

「……ところで、アナタは誰? 村では見ない顔だわ」

「秋絵さん、彼は巽君です。神主さんが雇ったアルバイトです」

 

 巽が呆れた時、秋絵の疑問にハッとした(いち)はすぐに紹介した。

 そそくさと去る朝木陶工と入れ違いに朝木夫人が現れ、真っ先に新たな客人の七瀬へ挨拶。

 

「挨拶が遅れましたわ、秋絵さんの母の葉月と申します」

「七瀬です。あの……時雨ちゃんはまだお部屋ですか? さっき、朝木先生がお昼寝してるって」

「もう少ししたら、起きて来るわ。時雨がそう言ってたから、大丈夫よ」

 

 七瀬は律儀に時雨とも顔を合せようとし、お伺いを立てた。秋絵は教えてくれたが、常盤は大げさに首を捻り、考え込む仕草。

 

「葉月おばさま、ご自分の娘を「さん」付けしてるの? 時雨ちゃんは呼び捨てだったのにっ」

「ああ、葉月さんは後妻よ。時雨はその連れ子っ」

後妻と……連れ子……

 

 常盤の素朴な疑問に春子は何気なく答え、ここに来て巽の表情が強張る。

 

そうなんスね! ど~りで秋絵のお母さんにしてはわっかいなあって、思ってたんスよ!

「確かにっ、若さの秘訣があるなら……あやかりたいなあ♪ なんてっ」

 

 金田一(きんだいち)と七瀬が胡散臭い程、明るい声とガッチガチの笑顔だ。

 2人が結託したなら、何かある。理由は知りたくないが、ちょっとだけ突いてみる。

 

「……はじめちゃん、七瀬さん、どうしましたか? 汗だくですよ」

「「エアコンがないから、暑いだけっ」」

 

 語尾は違うが、幼馴染組は声を揃えて言い訳。話す気がない事だけは察した。

 

「入籍は最近……今年に入ってから、ですか?」

「はい、先月ですわ。元々、住み込みの家政婦として働かせて頂いたところを……ご縁がありまして」

主人と使用人の関係から、夫婦……

 

 色々と腑に落ちない点に納得しつつ、補足を求める。朝木夫人が親切に答えれば、また巽の顔色は変わった。

 

「俺、それよりも秋絵ン家が金持ちの理由、知りてえなあ。こ~んな田舎で大豪邸建てるなんざあ、どんなカラクリが?」

「やあねえ、はじめちゃんったら……秋絵ちゃんン家は先祖代々、窯元だって話したでしょう? してなかったかなあ。アハハハ……」

 

 そして、金田一(きんだいち)と七瀬は白々しく、話題を変えた。

 

「巽君、神社に戻りますか? 色々とお助け頂きましたが、こちらは落ち着きました。自分、バイクで送ります」

「おっ、そうしてくれるかっ。何なら、俺が運転……」

「金田……龍之介にかこつけて、ここから逃げる気か?」

 

 巽への純粋な厚意は金田一(きんだいち)にジト目で疑われ、胸がチクッと痛む。実際に『邪宗館』から逃げた為、反論出来ない。

 

「巽君、もう行っちゃうの? 夕飯まで居ればいいのに……」

「朝食はご相伴しますので、また明日にお伺いします」

「それなら、秋絵の自転車を貸してあげなさいよ。空気入っていたかしら?」

「空気は入っています。秋絵さんが乗られるかと思い、入れておきました」

 

 残念そうに秋絵が引き留めれば、これまた巽は丁寧に断る。春子が車庫の方角を向けばし、朝木夫人は教えてくれた。

 結局、巽は自転車にて神社へ戻った。

 夕飯まで一先ず、解散。

 朝木夫人は乾いた洗濯物に取り掛かろうとした為、(いち)が請け負った。

 

「金田君がそれをするなら、あたしは布団を片付けよう。今夜は皆、フッカフカで寝られるわ」

 

 ささっと常盤は踏み石のサンダルを履き、布団干しへダッシュ。

 

「まだ色々と手伝う気かよ。お前ら、働きもんだなあっ」

「じっとしていると落ち着かないのでしょうね。常盤さん今朝から、ずっと動いていましたよ」

「……ヴァイオリニストが家事、はじめちゃんも見習ったら?」

 

 感心する金田一(きんだいち)と常盤の心情を語れば、今度は七瀬がジト目になる。相手は勿論、名探偵の孫に向けられた。慣れている彼は物ともせず、てへぺろっと舌を出す。

 可愛くて、イラッとする。

 

「……なあ、金田。龍之介と知り合ったばっかりだよな? 結構、打ち解けてたっぽいけど……」

「はい、巽君とは昨日が初対面です。彼は出会い頭から、親切でしたよ」

「へえ……あの龍之介君が……親切っ」

 

 いつの間にか、縁側で洗濯物を畳んでの談話。

 (いち)が巽とのやり取りを語れば、2人はただ驚く。どうやら、以前と態度が違うらしい。段々と気になって来たが、お喋りな七瀬が語らぬなら、触れずにおこう。




明智「明智です。私は雲場村の話に出ていませんが、何故ここに? ……なるほど、邪宗館話の次回予告に出していなかったから、こちらへ出したと……。そのような気遣いは無用ですよ。さて、次回は『雷祭は来年もある』。金田一君、何をはしゃいでいるんですか?」
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