金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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19休 雷祭は来年もある・後編

 (いち)と巽でひとつずつ人間国宝の作品を持ち、金田一(きんだいち)と連れ立って歩く。相変わらず、陽射しはキツイが頬に触れる風は昨日よりも優しく、涼しさを感じた。

 時折、通りすがりの人が(たつみ)へのほほんと挨拶を交わす。自分達は朝木家の客人と既に知れ渡っていた。

 

「龍之介、すっかり馴染んでんだな。このまま……ここで暮らさねえの?」

「……いいや、青山さんの世話になっている身だ。恩も何も返してねえ。それに……ここは俺の住んでいた村と風景が……重なんだよ。こっちの方が断然、愛想は良いがなっ」

(……つまり、巽君の地元は排他的かあ。余所者は災いの元みたいな?」

 

 いつになく金田一(きんだいち)は慎重な声で問いかけ、苦笑交じりに巽は田園風景を見渡す。彼から故郷に帰らぬ決意を感じ取った。

 

「お前らだから教えておくが、征丸は人形島にいるらしい。……連絡は取ってねえが、アイツなら上手くやってるだろ」

「ええ! 征丸も村を出ちま……そうか、そうだよな

(征丸って誰だ。これ、聞いちゃっていいの?)

 

 巽がさらりと教え、金田一(きんだいち)をビックリ仰天させた。その(たつみ) 征丸(せいまる)とは不動高校学園祭にてお会いするが、今は知らない。

 2人は蚊帳の外である自分を気にせず、話を続ける。ここに来て話題にするなら、男同士の内緒話だ。質問は控えておこう。

 

「……んじゃあ、家督はどうなるんだ? 隼人もいずれ……家を出ちまうんだろ?」

「マジか、隼人も……。……だったら、もえぎがどうにかする。アイツはいつも、村にとって最善を選ぶ。一番、良い形に治まるさ」

 

 金田一(きんだいち)の言葉に驚いた後、巽は眉間のシワを強める。会話に出た人達への罪悪感と共に、深い信頼を感じさせた。

 

「変わったなあ……龍之介、良い意味でさ」

「そうか? ……まあ、ちょいと短気だったのは認めるぜ。あの家は元々、俺のモンじゃなかった(・・・・・・・・・・)……それが分かってから、腑抜けちまったのかもなっ」

 

 お互いにまんざらでも笑みを見せ合い、肩を小突き合う。長年の悪友との語らいに見え、(いち)金田一(きんだいち)の良さを改めて、思い知る。

 会話に入りたいが、隙間が無い。ちょっとだけ、僻んだ。

 

「ってか、征丸は人形島かあ。どっかで聞いた気がすんだけど……金田、知らねえかな?」

「いいえ」

 

 いきなり、金田一(きんだいち)から話題を振られたが、本当に知らない場所。思わず、素っ気なくしてしまった。

 

 神社へ到着。神主にもご挨拶して、巽と別れる。手荷物もなくなり、身軽になった。

 瞬間、(いち)金田一(きんだいち)を引っ張り、鳥居へ導く。これを見せたかった。

 

「はじめちゃん、雷祭は神社の境内で行うのです。伯父と母が若かった頃、こちらの鳥居で写真を撮りました」

「それ……秋絵にも話してやれよ」

 

 氷室(ひむろ)伯父の思い出話がしたかったが、予想外に責められる。ムッとする。

 

「何故、話していない前提ですか? していませんけど……」

「ほれ見ろ……ったく。……お前のお母さんが朝木家に行ったっていうのも、そん時?」

「分かりませんが恐らく、後でしょう。母は……神社に奉納された壺に一目惚れして、作り手のオジサンへ同じ壺を作れとせがんだそうです」

「壺に一目惚れ……? そっか……壺は良い物だもんなっ、センスあるぜ」

 

 あまり、母・にいみについては羞恥心の勝る逸話故、触れて欲しくない。まだ語っても良い壺の話は期待通りに金田一(きんだいち)をキョトンとさせ、物凄く慎重に言葉を選んでくれた。

 

「なあ、お前のお母さんが春子さんと仲が良かったって……本当に知らなかった……んだよな?」

「はい、母から友人と紹介されたのは前にお話しした……多岐川さんだけです」

 

 金田一(きんだいち)は深刻な口調に変え、じっと見つめて来る。探偵が如き、尋問に聞こえてブルッとした。

 一先ず、嘘は言ってない。

 にいみの高校時代から付き合いのある先輩を友人と呼んでいいのか、(いち)には分からなかった。

 

「……金田、確認させてくれ。軽井沢の火事、お前のお母さんと関係があるのか?」

「いいえ、火災の規模が知りたかっただけです。同じ町で3人も亡くなった火事が起これば、大抵の方は身の危険を感じて何かしらの対策を立てます。でも、『邪宗館』にはスロープすら、ありませんでした。クララおばさんがいるのにっ」

 

 素直に答えれば、金田一(きんだいち)の大きな瞳から事情を詮索する気配は消えた。

 

「クララじゃねえよ、何でお前は唐突にボケかますかなあっ」

「ボケかます?」

「無自覚っ……ふう、んじゃあ……お前なりに『邪宗館』の違和感を調べてくれてただけ……だったんだな。……色々と気を遣わせて、ワリィ」

「謝らないでください。それはお互い様です。今だから言いますが……自分、本当は尾高山へ行きたかったのです」

 

 2年前に起こった軽井沢の火事、その場所に自分が立ち入るのは母親の失踪に関連する手がかりがあると誤解させていた。

 『雲場村』の朝木家を訪問した理由も同じにされたくなくて、長野県に来たかった理由を告げる。

 案の定、感受性豊かな金田一(きんだいち)の表情がみるみる青褪める。

 

「伯父の魂は……きっとあの山にあります。新しいバイクを見せたかったのです。祖父には勘違いされましたが、訂正すると困らせてしまうので……これ、内緒ですよ」

「困らねえよ、全然……困ったりしねえよ」

「いいえ、困ります。貴方も人を困らせたくないから、『邪宗館』に行く理由を七瀬さんにも教えなかったのでしょう?」

「……っ」

 

 金田一(きんだいち)は険しい顔となり、唇を噛む。喋り過ぎたと後悔した。

 事件に慣れた心優しい探偵の孫であろうと、本音を伝えるべきではなかった。

 (いち)は気まずさに足を動かす。金田一(きんだいち)も置いて行かれまいと着いて来た。

 

「6年前……俺は肝心な部分を見逃していた。ついこの前、それに気付いて……どうしても放置出来なかった。だからさ、金田……ありがとう。比呂を……瑠璃子を助けてくれて……」

「……お礼の言葉は純矢君から、頂きました」

 

 いつものお調子者とも違う。凛々しくも悲哀に満ち、更に感謝を混ぜた笑みとなる。初めて見る切なげな表情にドキッとさせられた。

 折角、軽井沢訪問の理由を教えてもらったが、無理やり暴露させたようで居心地が悪い。

 金田一(きんだいち)の心からの感謝に足る働きをしたとは思えず、罪悪感に顔を逸らした。

 

 昼食後はまた分担しての家事。

 金田一(きんだいち)と同じ布団干し組にされたが、お喋り七瀬(ななせ)のお陰で沈黙は免れそうだ。

 

「なあ、美雪。人形島って聞いた事ないか?」

「うん? あ~……ほらっ、まことちゃんの実家よ。幼稚園の頃に一緒だったっ。それより、龍之介君と何を話して来たの? 金田君、逃げてないで教えて」

「……はじめちゃんに聞いて下さい」

 

 2人の世間話が始まれば、(いち)は混ざらなくてもよい。と思いきや、七瀬に捕まった。

 

「どうせなら、洗濯物が干したかったぜ。ヒヒヒ……」

「はじめちゃん!!」

 

 金田一(きんだいち)は頑張って、誤魔化してくれた。

 終えれば、常盤(ときわ)のヴァイオリンが脳髄に心地良く、聞き惚れる。十分にリラックス出来た頃、羊羹を出されて皆と甘未を味わう。

 

「最高の贅沢だわ……」

「春子、お前も少しは動かんかっ」

「お父様、叔母様は明日の運転もありますから……ね?」

「お姉様……お父様は本気で怒ってないわ。クックッ……」

 

 グ~タラした春子(はるこ)朝木(あさき)陶工が叱り、秋絵(あきえ)が慌てて庇う。そんな光景が当たり前になる。次いで、時雨(しぐれ)が喉を鳴らして笑う姿も足された。

 

「昨日と暑さが違う。乾いた感じ……今日は雨、降らない気がするなあ」

「……常盤さん、鋭い感性をお持ちね。おそらく……降らないと思います」

 

 縁側に身を乗り出し、常盤は庭の池を眺める。何気なく呟いた言葉に朝木(あさき)夫人が空を見上げたが、青空が広がるだけであった。

 夕方になっても雨は降らず、夕食後は秋絵が用意した花火を散らせた。

 打ち上げ花火の導火線へ着火を試み、金田一(きんだいち)が火傷しかける。そのまま、池に落ちたのはご愛嬌だ。

 

「まあ、大変っ。金田一(きんだいち)さん……先にお風呂へ、ちょうど沸けたところです」

ずびまぜん……」

「もう……いつまで経っても、子供なんだからっ。はじめちゃんはっ」

「まあまあ……手間がかかる程、可愛いって言うじゃない♪」

 

 五右衛門風呂の準備を終え、朝木夫人が声掛けに来たタイミングと重なった。

 ビッショビショの金田一(きんだいち)は秋絵と七瀬に引き摺られ、一番風呂へ連れて行かれる。

 

「面白い子じゃな……金田一(きんだいち)君はっ」

「はい、どこへ行っても注目の的です」

「秋絵から聞いたが、あの子が背氷村の事件を解決してくれたんじゃろ? 事件の話をしたりせんのか?」

「いいえ、金田一(きんだいち)君は見聞きした事件を誰にも話しません。自分も……聞きません」

 

 朝木陶工はフフッと笑ったまま、深刻に目を細める。報道にない事件の詳細を知らされ、(いち)に及ぼす影響を心配されている。不快だったが、心遣いには感謝しておいた。

 

「それなら、安心じゃわい。良い友達を持ったな……」

「! はい……」

 

 場の雰囲気もあるだろう。朝木陶工が氷室伯父と重なり、(いち)は嬉しさに頷いた。

 同時に奇妙な縁を感じる。

 背氷村の事件、剣持警部が繋いだ縁。どちらが欠けても、金田一(きんだいち)と語らう程の間柄には成り得なかった。

 その証拠に同じ不動高校に通いながら、(いち)は七瀬以外とほとんど交流がない。秋絵からも「金田一(きんだいち)君と同じ字面の生徒」呼ばわりだった。

 

「オジサン……誘ってくれて、ありがとうございます。ここへ来られて、良かったです」

「そう、言うてくれるか……儂の方こそ、礼を言おう。常盤君を連れて来てくれた……あの感性は時雨には、良い刺激じゃ」

 

 改めた感謝に朝木陶工はゆっくりと頭を振り、礼を返す。その件こそ、(いち)は世話になりっぱなしだ。

 肝心の本人はこちらの話に気付かず、花火に夢中。

 

「ほらほら、パチパチッ」

「パチパチ……」

 

 ウキウキな常盤と時雨が線香花火に火を着け、儚い音が爆ぜる。

 この音は好きだ。

 

「……氷室の伯父もここで、花火をされたのでしょうか?」

「スマンが、そういった思い出はない。じゃが、氷室君は……ここの雷が好きじゃと言ってくれたよ」

 

 それは残念だが、またひとつ氷室伯父の話を聞けた。不意に重要な点を思い返す。

 

「オジサン、雷祭はいつ頃に開催されるのですか? 今年はもう終わったと聞きました」

「ああ、今年は……この辺だ。毎年、地区とも話し合って……開催日を決めておる。祭りの最終日が(いち)君のコンクール出場と重なってな。行き来させるのも手間じゃし、秋絵は参加させんかった。その前にも紅 亜里沙のコンサートに招待されておったしのお」

 

 懐からスケジュール帳を取り出し、雷祭を教えてくれる。それよりもTV番組出演、雑誌取材、展示会とビッシリ書き込まれた予定にビビった。

 チラリと見えた『横浜ブランカホテル』は二重線で、取り消してある。

 

「……多忙でいらっしゃるようですが、マネージャーでも雇われてはいかがですか?」

「いや、ここ半年は無理をし過ぎた。しばらく、自重するわい」

 

 自重の言葉を口にした時、朝木陶工の視線は時雨へ向けられた。

 (いち)はてっきり、後進の育成に専念したいのだと思い込む。秋絵に取って代わり、時雨が窯元になる素晴らしい未来を勝手に思い描いていた。

 

 

 翌朝の朝食後、片付けを済ませる。

 サイドバックとヒップバッグに荷物を纏め、赤いジャケットを着込んでのグローブ装着。車庫へ行き、バイクのガソリン残量は次の補給まで持つ。

 

「ウチのコテージにも泊りに来いよ、金田。不動高校の連中も一緒にっ」

「桜樹先輩に伝えておきます」

 

 ちょっと淋しそうな巽に念押しされ、ニッコリと差し障りのない返事をした。

 行きたい気持ちはちゃんとあるが、如何せん予定が詰まっている。その分、旅費もかかるのだ。

 部活の合宿に利用する手を考えよう。

 

「ほら、はじめちゃんってば……早くしてっ。金田君、とっくに準備OKよ」

「いや、俺……春子さんの車で帰るから、イイじゃん」

「良くないわよ、秋絵ちゃんに何度も見送りさせる気?」

「それなら、金田も気を利かせて待ってくれるっつーの!」

 

 お決まりの2人が朝から、玄関先で騒がしい。

 

「淋しくなりますわ。お盆明けには常盤さんと巽さんも発たれてしまいますし……」

「奥様……」

「あたしもここにいたいわ。でもね、冬生おじさまのお仕事は集中力を必要とするわ。あたしのヴァイオリンが突然、雑音に聞こえてしまうもの。それと同じ、窯の匂いがあたしの演奏を妨げる。そうなったら、冗談抜きで戦いだよ」

 

 朝木夫人は今から、常盤と巽の別れまで惜しむ。

 常盤は突如、この屋敷で暮らせぬ理由をハキハキと語る。若き芸術家故の判断に物凄く納得させられた。

 

「……?? よく分かんないけども……常盤さんって、こ~んな田舎に住むつもりだったの? 金田君っ」

「いいえ、遊びに来ているだけです」

 

 事情を飲み込めない春子の困惑に対し、簡潔に答えておいた。

 

「皆、帰りは気を付けてな。春子、東京に着いたら連絡せえよ」

「はいはいっ、んじゃね」

!! 秋絵ちゃん、また学校でね~。時雨ちゃん、お世話様~」

「瑠璃子、俺がいなくなっても淋しがるなよ。龍之介、マジ頼むなあ! 聞こえてるかあ!

 

 朝木陶工を軽くあしらい、春子は情緒もなくポルシェを発進させる。同乗者の2人は慌てて手を振り、別れを告げる。だが、こちらの返事を聞く間もなく走り去った。

 

「嵐みてえな奴らだな……ホント」

「巽君……その通りだけども……フフフ」

(やれやれ……)

 

 巽の呟きに女性陣から、クスクス笑いが起こる。

 置いてきぼりの(いち)も見送りの方々へ頭を下げ、ヘルメットを被った。

 

「次は来年の雷祭を観に来ます」

「本当? ……だったら、あたし……金田さんと一緒に回るわ」

時雨……!?

「「「??」」」

「そうか……なら、(いち)君……来年の夏も待っておるぞ。迎えに行ってでも、来させるからな」

 

 時雨は静かな口調で来年の約束を交わし、朝木夫人はギョッとする。3人の少年少女が首を傾げても、冷静な朝木陶工は説明せず、(いち)の肩へそっと手を置いた。

 妙に重かった。

 

「はい、勿論です。時雨さん、またバイクの後ろに乗せますよ」

「うん、来年も……待ってる」

 

 その声は静かだが、蝉の鳴き声よりも耳を打つ。彼女は来年の景色を既に歩いているのだろう。

 半分は冗談だった。

 来年の今頃、時雨は16歳。原付免許を取得している可能性もあった。

 

「ん……」

「……はい」

 

 月が笑うように唇を上げ、時雨は小指を差し出す。約束の定番、指切りを望まれた。

 グローブ越しにお互いの小指を絡める。彼女の皮膚の柔らかさと体温の冷たさは陶器のように滑らかで、手触りがとても良かった。




神主「どうも、神主です。私の出番はアニメのみ、後ろ姿が見れます! 一瞬なので、お見逃しなく! さて、次回は『雷祭は来年もある・朝木 葉月』!! 雲場村を訪れた方は是非、我が社へお越しくだされ~」

朝木 秋絵
本当に良い子
父親想いで、妹想いで、何だかんだと母親想いで、叔母の事も立てる
原作小説には事件後、立ち直る描写がある。アニメでは尺の都合でカットされた(涙
作中にて、まだ時雨の容態を知らない

朝木 時雨
母親想いの良い子
金田一が一目見た瞬間、引き込まれる「ナニカ」を持つ。もしかしたら、時雨の精神状態に気付いて、竦んだのかもしれない
秋絵とは仲良くしていた
作中にて、オリ主と来年の約束をした


巽 征丸
飛騨からくり屋敷殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、人形島に滞在中
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