金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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はじめちゃん達がプールへ行く前の日常回です。オリ主はプールに行きません
誤字報告により修正しました。ありがとうございます


21休 プールは誰の血で染まる?前編

 『雲場村』から帰った翌日、登校。

 部活動を行う生徒の掛け声に、妙な安心感。

 生徒会室の鍵を手に廊下を歩けば、美術部顧問の美術担当・中津川(なかつがわ) 賢人(けんと)先生がのんびりと先を歩く。手にある美術雑誌で新号だ。

 

「中津川先生、おはようございます」

「あ~金田君、おはよう。津雲先生から聞いたよ、北海道の合宿~。氷室画伯の絵をたくさん、見られたって~。素敵な経験が出来て、良かったねぇ」

「先生も行きたかったですか?」

「ううん、僕は~イーゼルを貰ったしぃ。十分だよ~。画家と言えば、吉良 勘次郎! 新しい絵を発表したんだよ♪ 鉛筆描きでこの迫力……」

 

 挨拶ついでに雑誌を開き、糸目を爛々に輝かせて中津川先生は力説する。好きな画家である為、(いち)も相槌を打つ。鍵目当ての副会長に拉致されるまで続いた。

 ついでにと合宿の写真も手渡され、嬉しい。登校日には人数分の現像は終わっていたそうだ。

 業務を放り出し、写真を眺めたい気分へ駆られた。

 

「おはよう、金田君。演劇部には顔出す? あたしはミス研に行くけど」

「七瀬さん、おはようございます。いいえ、すぐに帰ります」

 

 夏休み中の執行部活動は自由参加、昨日振りの七瀬(ななせ)は元気溌剌。

 

「おはよう~ございま~す! ああ……金田先ぱ~い、すんげえ久しぶりっス。なんで登校日、いないんスかっ。俺、囲碁部の大会……大活躍だったんスよ~」

 

 演劇コンクール振りの海峰(かいほう)は更に、元気爆発。書記と執行部顧問の先生も現れたが、遠野(とおの)先輩は来なかった。

 

「2学期からの転入生は……相田 桃子さんね。2年2組に……とっ。終わった~♪ 明日から3日間、学校は閉まってます。忘れ物の無いようにっ」

「うっし。今度こそ、本物の休みだぜ~♪ 金田先輩、プール一緒にどっスか? ほら、七瀬先輩のバイト先。友達と行って来たんスけど、結構イイ感じでしたよ」

「またの機会にします」

 

 午前中で執行部を終え、七瀬は明日からの学校閉庁日を伝える。海峰の皮肉が効いた言葉通り、本物の休み。

 

「七瀬さんもバイト、頑張ってください」

「うん、お互いにね。今度、千家君も来てくれるの」

 

 (いち)と七瀬はアルバイトの為、休みなし。

 寧ろ、この夏は休み過ぎて、金欠。教室にも寄らず、店に急いだ。

 

 『大草原の小さな家』に着き、店内の様子を覗き込む。

 

「あら、久しぶり」

「いらっしゃいませ」

 

 店長とアルバイト・花都(はなと)へ手振りで挨拶し、繁盛した席を見渡す。不動高校の生徒も食事中、と言うか、見知った演劇部部員達。

 演劇部部長・布施(ふせ)先輩、大道具係・仙道(せんどう)、照明係・神矢(かみや)。まさかの事態に背筋が凍り付く。

 

「金田っ、なんで登校日に来なかったんだ。月島先生が学校に来られるの……最後だったんだぞ」

「金田と話すの、久しぶりぃ~」

「制服着てるってコトは学校に行ったのかよ~。教室で待ってりゃあ、良かったなあ」

「布施先輩、仙道君、神矢君、……奇遇ですね。その日は生憎、急な用事が入りましたので」

 

 どうせ逃げられない為、(いち)は神矢の隣へ腰かける。気になる点もあった。

 

「布施先輩、月島さんの手術後はどうですか?」

「順調らしい……俺達はまた会えてなくて、緒方先生から聞いた限りだ。退院日は教えるから、待ってて欲しいってさ」

「月島さん……術後の経過によっては~学校に来ないまま……転校しちゃうんだぁ」

「仕方ねえよ、仙道。月島さんの体調を思えば……都会の空気は体に障るし……」

 

 月島(つきしま) 冬子(ふゆこ)の術後を知りたかっただけだが、迫りくる別れに空気が重い。彼女とコンクール入賞を喜び合った日が昨日の様に思い出せる。

 

「他の皆さんは……一緒ではありませんか?」

「夏のバイトだよ。……特に有森はな、稼ぎたいらしくてよ。あっちこっち、掛け持ちしてるぜ」

この店とか

 

 ニヨニヨと口元を歪め、布施先輩は厨房へ視線を向ける。振り返れば、有森(ありもり)の顔面がそこにある。眼鏡の反射がキラリッと光り、腰巻きエプロンもしている。

 全く気配がなく、ビビる。彼らは予想通りの反応を見て、満足そうにクスクス笑う。

 

「有森君……こちらでバイトを?」

「ミス研の佐木から、頼まれてよ。親の手伝いが忙しくて、店に出られねえって。俺もバイト、増やしたかったんだっ。店長も良い人だしっ」

「あら~♪ 有森君ったら、正直者」

 

 解雇の危機に恐る恐る問えば、竜太(りゅうた)の手腕。彼の頼みを引き受ける程、良好な関係であったらしい。

 有森に可愛い後輩を取られた気分だが、雇い主の店長は熨斗付けてくれてやる。

 

「そんなミッチミチの過密スケジュールで、部活にも顔出すんだぜ。働き過ぎだよ~有森」

「来月のコンクール、配役あんだぜ。稽古に出ないでどうするってんだ」

「……七瀬さんから、聞きましたよ。コンクールに呼ばれたそうですね……また主役は神矢君ですか?」

「まさか、布施先輩に決まってるだろっ。俺は照明係さ」

「金田、伴奏じゃあ物足りないだろ? ちゃんと役、用意してんだぜ」

 

 彼らの話を聞きながら、ずっと先延ばしにしていた問題を思い返す。

 演劇部の退部届である。

 このまま続けるには居心地が悪い。そんな実感にジワジワと汗ばむ。コンクール参加で盛り上がった空気を壊すまいと口ごもる。

 

(キッパリと辞めますって……先生にカッコつけたしなあ)

 

 演劇部達の去った後、(いち)は陰鬱な気持ちを切り替えて勤務へ入る。

 茶色のウェーブがかかった目元を隠す為のカツラ、フリルエプロン。そして、スイカと向日葵のドデカイ装飾が季節を演出するのだ。

 

「店長……有森君と花都さんはコレ、付けていませんよね?」

「アナタにしか、似合わないのよ」

「! ……初めまして、有森です。噂のバイトちゃん?

 

 つまり、(いち)の分しか用意していない。

 店長へ不服を申し立てるより先、ルンルン気分の有森と「バイトちゃん」としては初顔合わせ。正体を見破られず、彼は照れているのか、耳まで真っ赤に染め上がった。

 珍しい反応だ。

 

「有森君、自分です」

「……? ……!? ……てめえ、俺の純情を弄びやがったな。ガチのクリスティーンかと、思っちまったじゃねえかっ

 

 食事中の客人達に見えぬ位置へ連れ込み、(いち)は改めてご挨拶。有森の顔色が思考と共に青褪め、コメカミの血管が浮き出た瞬間に胸ぐらを掴まれた。怖い。

 店長の趣味だと弁解すれば、納得してくれた。

 

「花都さんも知ってんですか? コイツの……話」

「やあねえ、流石に話してるわよ。当たり前でしょう」

「知っていたのですか、花都さん」

「……店長、片倉さんがいらっしゃいました。……えと、何の話ですか?」

 

 有森の素朴な疑問に店長はあっけらかんと答えている間もカランカランッと鐘が来客を告げ、花都は常連客を教える。唐突に話を振られ、彼女は混乱した。

 

「いらっしゃいませ、片倉さ~ん♪」

「は~い、店長。バイトちゃん、俺に会えなくて淋しかった?」

 

 店長はパッと愛想良く常連客・片倉(かたくら) 猟介(りょうすけ)を出迎える。彼からウィンクされ、さっとオボンで防いだ時に続いての来客に目を見張った。

 

「ほお……一見、ファンシーな装いながら……ノスタルジックな雰囲気が親しみを感じますね。流石はさとみさん、ご姉弟で良い場所をご存じです」

「明智さんったら、最初にここへ行こうって言い出したのは片倉さんですよ(ゴメン、いっくん)」

ぎゃあ!! 明智さん!

 

 キラキラと眩しい明智(あけち)警視、我が姉・さとみ。流森奇術会所属のマジシャンとエリート警視の組み合わせ、在り得ない顔触れに背筋が凍り付く。カツラの下にある額へ汗が滲んだ。

 弟の動揺を瞬時に察し、姉はそっと手振りで詫びる。

 彼女の詫びは必要ない。何故なら、明智警視は(いち)の勤め先を知っている。いつの日か、来店されると思っていた。それが偶々、今日だっただけだ。

 

「あら……片倉さん、そちらはお友達?」

「ちょっとした知り合いっ」

「ええ、ちょっとしたね」

 

 店長や他の女性客も見惚れている。ニヒルに笑う片倉と並べば、明智警視のキラキラが眩しい。

 

「……? 金田……あの人、眼鏡の人……どっかで見た事ねえか?」

「はじめちゃんに聞いてください……」

「お冷です。ご注文は?」

「ミートソーススパゲッティを3つ、お願いします」

 

 3人をようやく空いた席へ座らせ、ポ~ッと見惚れた花都に対応を任せ、(いち)は他の接客に集中。

 鋭い観察力を持つ明智警視なら、もうバレていてもおかしくない。只ならぬ緊張感に服の下は汗だくだ。

 人の気も知らず、談笑は続く。

 

「お2人は同じ高校の出身だったんですか?」

「そっ、明智先輩ってワケ」

「畏まらずとも結構。片倉君とは在学中の面識は無いに等しいので、その呼び方も相応しくありません」

 

 テーブルへ注文の品を並べながら、情報を整理。

 

(……片倉さんは秀英高校出身。明智さんも……同じ?)

 

 ならば、明智警視と以前に話した『秀英のホームズ』と呼ばれた卒業生も存じている。だから、二重言葉みたいな通り名をすんなりと受け入れた。

 まだ不確定だが、あの逃亡犯(・・・)も秀英高校関係者。同じメニューを食す3人は奇しくも、『地獄の傀儡師』と縁があった。

 否、明智警視にとってはある(・・)が正しい。

 

「秀英高校にはマジック部があるんですね。マジックの修業が部活で行えるなんて、羨ましい」

「多様性を重視しているんだよ。マジックも音楽や絵画と同じ、立派な芸術のひとつさ♪ 明智さんもそう思いません?」

「最先端の教育機関……そう、謳われたかっただけですよ。大事なのは用意された教材ではなく、周囲にいる人間の人格と私は考えます。教師だけでなく、生徒()です」

 

 他愛ない会話かと思えば、明智警視は意外と同調しない。端正な顔と低く響く声で遠回しに否定されたら、(いち)は話題も振れないだろう。

 

「それに片倉君、私が芸術と認めるマジシャンは1人しかいません」

「お~手厳しいっ」

「誰だが、言わないでくださいね。自信なくなっちゃいます……」

(……喧嘩、売ってんの?)

 

 現役マジシャンへ失礼過ぎる発言、イラッとする。今は大人しく接客に励もうと、テーブルへ食後のコーヒーを置いた。

 

「アナタも一緒にいかがですか? 残間君(・・・)っ」

「「!?」」

「あれ、バイトちゃん。明智さんにここで働いてるって、言ってたんだ」

 

 明智警視から白々しく呼ばれ、ビクッと姉弟で震え上がる。しかも、片倉があっさりと肯定してしまう。最悪の流れだ。

 

「――人違いです――」

「でしたら、カツラの手入れもキチンと行いなさい。それと手袋もオススメしましょう。いくら、長袖で体を隠してもっ。私のように爪の形で判断する人もいます」

「俺好みで良ければ、カツラ。買おうか?」

 

 否定したが、完全にバレている。片倉のウィンクにイラッとしつつ、申し出は無視。素早く厨房へ引っ込んだ。

 

「明智さん、バイトちゃんはお仕事中です。プライベートなお話は控えてくださいっ」

「……さとみさんのおっしゃる通り、私とした事が気を利かせませんで……」

「明智先輩、その言い方だと普段は気を利かせているみたいに聞こえますけども……俺らに遠慮なかったよな?」

 

 さとみの笑顔は怖いが、頼もしい。

 

「……本当、アナタを雇ってから……良い男がたくさん来るわ。女の子だったら、嫉妬に狂うトコよね」

「店に貢献しているのですから、物騒な事を言わないで下さいよ」

 

 冗談抜きの本気の目、いつか店長に後ろから襲われそう。

 (いち)はスイカの装飾を撫で、気を逸らすしかなかった。

 

「思い出したぜ、あの別嬪……お前の姉貴じゃん。もしかして……あの色男ども、兄貴か? 未来の?」

「……確かに姉ですが、片倉さんと明智さんはただの知り合いです。冗談でもやめてくださいっ」

 

 興味津々の有森から邪推され、即で否定しておいた。

 明智警視は兎も角、片倉はさとみを意識している節がある。在り得る未来だからこそ、拒んだ。

 注目を集めに集めた3人、もとい明智警視はお会計。さとみは手振りによる別れの挨拶、(いち)もそっと手振りを返した。

 

「そう、片倉さんの同窓の方だったの」

「俺が1年の時、3年だった人だ。在学中の成績もさることながら、学内外に問わずに様々な事件へ遭遇しては解決させてさ。大人顔負けの推理力から、『秀英のホームズ』って呼ばれてたぜ」

(……え? ええ!? 明智さんが『秀英のホームズ』!?

 

 感心する店長へ片倉は先輩の輝かしい活躍を語り、(いち)は衝撃。北海道の旭川留置場での出来事を思い返し、羞恥心が爆発。カツラの髪で顔を伏せた。

 

「明智さん、伝説の先輩って奴ですね。カッコイイ……」

「そんな大したモノではありません。ワトソンに比べればね……」

 

 さとみに称賛されながら、明智は哀愁深い呟きと共に退店して行った。

 

「バイトちゃん、またね(明日は学園祭の打ち合わせ、しようね)」

「――はい、ありがとうございました――(お願いします)」

 

 片倉とはアイコンタクトにより、明日の打ち合わせを約束した。

 アイドルタイムも終え、有森は退勤。花都と休憩を交代し、夕食ピークも無事に乗り越えた。

 

「お盆はお店を休みますか?」

「まっさか~、ご町内の店は閉めるのよ。今が稼ぎ時! その代わり、今月最後の週は店を休ませようかと思ってるわ。花都さんもそれで良いわよね?」

「はいっ、私……いつでも働けますっ」

 

 大事な営業日を今、決めた発言にゲンナリ。少しは改善されていたズボラな性格だったが、根本的な部分は変わらない様子だ。

 清掃を終了し、先に退店。

 人手は増えても、疲労は感じる。裏口の戸を開け、余計にドッと疲れた。

 

「良い車種です。金田君がご自分で選ばれたのかな?」

(……待ち伏せ~)

 

 待ち構えたエリート警視が新車バイクに手をかける。臆せずにしっしと猫を払う仕草で追い払い、守った。

 

「自分に何の用ですか? 『秀英のホームズ』さん」

「今はそう呼ばれていません。キミが長野に行っていたと聞きまして、塩梅をお聞きしようかとっ」

「……同級生の実家へ遊びに行きました。食べて遊んで寝て、充実した日々を過ごさせて頂きましたよ。それだけです。はじめちゃんに聞いてみてください。同じ答えが返って来ますっ」

「いいえ、キミの口から聞かなければ……判断出来ません」

 

 長野への旅立に関し、明智警視に何も伝えていない。大方の情報源はさとみ、適当な雑談で漏らしただけだろう。そこは仕方ない。

 だが、強い詰問は非常に不愉快だ。

 きっと明智警視も金田一(きんだいち)と似たような誤解……否、前例がある為に一層、警戒している。

 

「……高遠さんには会っていません。母も……見かけませんでした」

「十分です。お仕事、お疲れ様でした」

 

 明智警視が知りたい情報を勝手に予想し、(いち)は正直に答える。彼はそれだけで一応、納得したらしく背を向ける。挨拶はいらないから、去ってくれと願った。

 願ったはずなのに明智警視の上等な革靴がひとつ、ひとつ優雅な足音を立てる度。心臓の脈拍がドクンッドクンッと打ち、気持ちとは裏腹に言葉が喉を通り抜け、舌へ乗った。

 

「明智さんっ、陶芸家の朝木先生に……妹さんがいます。もしかしたら……いなくなる前の母に会っているかもしれません」

 詳しく聞きましょう」

 

 喋っている自分の首から上の感覚が紅潮し、麻痺に似た感覚が襲う。立ち止まり、振り返った明智警視を脳髄の奥から、他人事の感覚で眺めた。

 

(何で……引き留めたんだ?)

 

 誰にも言わないつもりだった。

 それでも言葉は心から溢れ、隠し切れない。

 

「……先生の妹さん、春子さんと言います。都内でブティックを経営している方です。姉の入学式とか、自分の卒業式に着る礼服を買いに来てくれた……言っていました」

「場所は?」

「生憎、そこまでは……先生に聞けば、分かると思いますり」

「成程……以前、朝木陶工の娘さんと同級生と言ってましたね。長野県出身……同級生の実家とは彼のご自宅ですかっ」

 

 首の後ろもジンジンと熱く、自分自身の動揺に声も震える。

 鼻先が触れそうな距離まで迫られ、眼鏡越しでも明智警視の瞳に見え隠れする探求心と好奇心。思考の隅々まで暴かれそうな感覚にゾッとした。

 

「……先生の家へ行っていたと、さとみさんから聞いたのではないのですか?」

「キミが金田一(きんだいち)君と長野へ行ったとだけ、ですよ。春子さんと言う方とも、そちらでお会いしたんですか?」

「はい、自分は初対面ですが……春子さんは母から色々と話を聞いて、自分を知っていました。朝木先生もご存じなく、大変驚かれていました」

「お母様はそもそも、ご自分の友人関係を他人に話さない様にしていたと伺いました。キミが知らないにも無理はありません」

 

 急に口調が優しくなり、戸惑う。そして、言い方にも疑念が湧く。

 

「それは……誰が言いましたか?」

「残間さんです。お母様は昔、兄との関係で手痛い目に遭い……それ以来、自衛も兼ねて話さなくなったそうです」

「……残間は母の交友関係については?」

「あまり、ご存じないとっ。ですので、春子さんの情報は有り難い……お店はこちらで調べます。金田君、よくぞ話してくれました」

 

 また知らなかった事実。

 そして、明智警視は父・残間(ざんま)騙されている(・・・・・・)。否、ここでは訂正すまい。彼のキラキラな笑顔を曇らせるのは忍びなく、尚且つ、母・にいみの話をしたくなかった。

 

 金田家へ帰宅、噂をすれば影が差す。

 仏壇の前に置かれた精霊棚、茄子とキュウリの精霊馬の飾りを眺めている。それぞれの足はどこか、急ぎ足に見えた。

 

「お帰り、(いち)。こんな時間まで働いてるなんて、知らなかったわ」

「こんばんは、かほる先生。これでも早く帰って来られました」

 

 母の友人にして推理小説家・多岐川(たきがわ) かほる先生。

 残間も承知である人間関係を明智警視に伝えない。要らぬ張り込みに対する意趣返しつもりだろう。金田一(きんだいち)や七瀬、佐木(さき)兄弟も知っているが、それを知るのはいつの事やら。

 『夜桜亭』殺人事件の際、正野(ただの)刑事達へ話した気もするが、記憶違いかもしれない。

 

「嬉しそうね。何か、良い事でもあったのかしら?」

「今日、店にさとみさんが来てくれました。かほる先生はどうされましたか?」

 

 思わず、ニヤけた表情を見抜かれる。

 

「初盆に線香を上げに来たのよ。法要はしないって聞いたから、御供をね」

「ありがとうございます」

 

 かほる先生はクスクスッと笑い、嬉しい訪問事情を教えてくれる。心から感謝した。

 

「本当、多岐川先生のお心遣い……一聖も喜んでいる事でしょう」

 

 そこに金田祖母が麦茶とおつまみを持ち、彼女へ差し出した。

 

「どうです? 多岐川先生。精霊馬、よう出来とるやろ。(いち)がせっせと作ったんやで」

「お祖父ちゃん、かほる先生の前です。濡れた髪を乾かしてから、来てくださいっ」

「いいのよ、(いち)。約束もなしに来たんですもの」

 

 金田祖父は客人の前故、衣服はキチンと着込なす。だが、髪だけは風呂上がりが丸分かりのビッショビショ。せめて、首にタオルを巻いて欲しい。

 無作法な金田祖父にも、かほる先生の優しさに冷めていた心が温まる。

 そのまま、(いち)は居間で夕食を摂る。大人3人は麦茶を啜った。

 

(いち)っ、バイクを買い替えたんですってね。バイト代もしっかり貯めて、偉いじゃないの。どこか遠出した?」

「はい、長野の『雲場村』です。朝木先生のお宅にお邪魔しました。先生のご指導の元、陶芸体験もさせて頂き……とても楽しかったですっ」

 

 新車の乗り心地や金田一(きんだいち)とタンデムした道のりを語り、かほる先生は何度も大げさに感心してくれる。気分の良さに、群馬県内を通過中に遭遇した殺人事件も話してしまった。

 金祖父母は絶句。

 

「なんや……(いち)、ま~た殺人事件に巻き込まれたん? それ、剣持さんに言うたかえ?」

「そうよ、金田一(きんだいち)くんがすぐに解決したって言っても……事情聴取もあるでしょう?」

「いえ、はじめちゃんが事件現場の様子を見て……警察の方と話しただけです。自分達、名乗らずに現場を後にしたので……群馬県警の方も呼びようがないかと……」

「バイクのナンバープレートは見られたんでしょ? 犯人は逮捕できても、通りすがりの探偵さんに事情聴取するとなれば……調べられちゃうんじゃない? その剣持さんって人は交通課の警官かしら?」

 

 思った以上に責められ、焦る。しかも、推理小説家からのご意見に肝が冷えた。

 剣持警部の電話番号は知らない為に仕方なく、金田一(きんだいち)家へ電話。

 深夜でなくても遅い時間に申し訳ないが、金田一(きんだいち)母は親切に取り次いでくれた。

 

〈あ~……逮捕劇でゴタゴタした隙に逃げちまったからなあ、俺ら。わ~ったよ、オッサンには俺から言っとくわ。それと明日、プール行くんだけども一緒にどうだ? ほら、美雪がバイトしてる『サニーサイドランド』っ。草太と千家も来んだぜ〉

「お気持ちだけ頂いておきます。自分もバイトがありますので……あの、出来れば……剣持さんの電話番号を……」

(いち)っ、それ以上は図々しいでっ。大体、剣持さんの連絡先を知ってどないすんねん?」

 

 事情を話せば、金田一(きんだいち)は剣持警部への連絡を約束してくれる。そもそも、漢気溢れる敏腕刑事と連絡先を交換していないのは不便。そう思っての提案だったが、金田祖父に下心を見抜かれた。

 

〈よく分かんねえけど……明智サンじゃあ、ダメなワケ? 連絡先、交換してんだろっ〉

「剣持さんが良かったのです(明智さんにはさっきも会ったし)」

 

 困惑気味の金田一(きんだいち)へ苦笑交じりに返し、就寝の挨拶と共に電話を切った。

 一安心で居間に戻り、夕食の続きに鮭を齧る。美味い。

 

金田一(きんだいち)君に電話したんでしょう? アケチサンもクラスメイト?」

「明智さんも刑事です。剣持さんの上司の方で……伯父さんの事件を担当しました」

「そう……背氷村の事件を。フフフ……、(いち)はちょっと苦手でしょ? 剣持さんと比べたら、可愛らしい顔が威嚇する猫になってるわ」

「……眩しいだけですよ。色んな意味で……」

 

 明智警視について聞かれ、簡潔に答える。我ながら素っ気なさ過ぎた為、かほる先生に彼への苦手意識がバレた。

 

((ああ、(いち)も明智さんが眩しいんか))

 

 多忙極まる警視庁捜査一課の刑事に対する敬意なき態度、意外にも金田祖父母は咎めなかった。

 眩しさが、尊敬と違うのはわかっている。

 でも、目を逸らしたくなる理由もちゃんとあるのだ。

 

「それはそうとして……アナタ、前にミステリーナイトのチラシを渡したでしょ。あれね、担当の赤沢さんから、小説の取材にどうかって勧められたの。どれか(・・・)、興味あるモノあった?」

「こちらでしたわね。北海道の函館異人館ホテル、長野のバルト城等々……」

「……お祖父ちゃん、あの曰く付きな話をしてください。『赤髭のサンタクロース』です」

「おん? しゃ~ないな、まかしちょけ」

 

 唐突に振られたチラシの話題。

 金田祖母がそっと持ち出し、卓袱台へ広げた。

 大手の『劇団アフロディア』を見た途端、亡き同級生の声が脳裏を掠める。彼女の声を振り払おうと、金田祖父へ微笑んだ。

 照れた金田祖父は咳払いし、異人館ホテルに伝わる不気味な逸話を語って聞かせた。

 

「そんな話……初耳だわ。やっだ、面白そうじゃない。参加したら、その『赤髭のサンタクロース』に会えるかもしれないわね」

「……残念やけど、多岐川先生。そいつ、ここ1年ばかし姿見せんらしいわ。詳しゅうは知らんけどっ」

「そちらの申し込み期間、過ぎていますわ」

 

 曰く付きの由来は納得し、かほる先生は小説のネタを探す口調となる。金田祖父はやれやれと肩を竦め、金田祖母は深いため息だ。

 

「ミス研に紹介してみます。佐木君もいますし、前に会った七瀬さんも最近……入部したのです」

「あら、良いわね。私も時間があったら、どれかに参加しようと思うの。お2人にはまた会いたいから、よく言っておいて」

「なんで、多岐川先生……佐木君と知りおうとんっ。あの坊主に甘い顔見せたら、あきまへんでっ」

「あなた、先生が誰と知り合おう構わないでしょう」

 

 どの道、参加する気はない。

 折角の厚意をミス研に託したが、かほる先生は気を良くしてくれた。彼女は最初からミステリーナイトを断ると見越していたなど、知りもしなかった。




村上「村上 草太です。いつも閲覧ありがとうございます。俺、結構……金田一を遊びに誘ってんのに、長野行く時に声くらい掛けてくれよ。七瀬さんと上海にまで行きやがって~……。さて、次回は『プールは誰の血で染まる?後編』!! ピアノの音が聞こえる」

片倉 猟介
高遠少年の事件簿ゲストキャラ。作中にて、流森奇術会マジシャン
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