金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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【】の事件が久しぶりだと書き方を忘れる不思議

はじめちゃん達が千葉へ行く前です。この話を書きながら、綾辻の判決が早すぎたと反省

誤字報告により修正しました、ありがとうございます


24休 【亡霊学校殺人事件】も千葉で・前編

 異変とは覚悟もなく、やって来る。

 不動高校の校門付近に取材陣な方々がチラホラと見受けられ、警備員と生活指導の先生が睨みを利かせる。明らかに不穏な空気。

 (いち)はバイクの速度を落とさず、校門を通り過ぎる。

 裏門へ回ろうとすれば、歩道にいる見知った生徒。深刻そうな遠野(とおの)先輩が(いち)を手振りにて誘導してくれた。

 最寄りのファミレスへ着けば、数人の不動高校生が屯する。

 スキー部、サッカー部、ミス研、美術部……部活動所属や学園祭の準備など、学校へ入りたい生徒ばかり避難中だ。

 

「良かった、金田君に会えて。家に連絡したら、キミは出た後だったからね」

 

 折角、会えた遠野先輩に心配される。彼と常時、連絡が付くように携帯電話の番号を教えたいが、(いち)は家へ置いて来た。

 

「……遠野先輩、学校で何があったのですか?」

「的場だよ、的場っ。初公判が始まったせいでま~た取材が押し寄せて、生徒はすぐ帰れって! 学年主任に追い出されたんだ」

 

 美術部2年C組・芝里 丈治(しばさと じょうじ)が憤慨しながら状況説明し、(いち)は納得。

 旧校舎の秘密を守ろうとした元教師・的場(まとば) 勇一郎(ゆういちろう)が起こした事件、それが再び校内を騒がせていた。

 事件が終わっても、傷跡は残る。見せ付けられた現実に気が沈んだ。

 

「真壁~、どうにかしろっ。こっちは学園祭の準備に来てんだぜ~」

「やれやれ、渋沢君。こっちも『コメント禁止令』が出てるのさ。じゃなきゃ、僕がこんな場所にいるかい?」

(((てめえんトコが原因だろうが!!)))

 

 スキー部3年生・渋沢 圭介(しぶさわ けいすけ)先輩は気だるそうに願う。

 せがまれたミス研3年生・真壁(まかべ) (まこと)先輩は駄々っ子を諫める口調かつニヒルな笑いであしらう。彼も元顧問に殺されかけたはずだが、他人事な態度の上に余裕綽々。

 神経を逆撫でされた生徒達はイラッとし、ファミレス内の空気がピリッと張り詰めた。

 この場を治められそうなミス研会長・桜樹(さくらぎ)先輩の姿はない。

 

「桜樹先輩はどうされました?」

「初公判を見に行くんですって。学校には来ないと思うわ」

 

 チア部3年生・宗像(むなかた) さつき先輩に教えられ、(いち)は桜樹先輩の度胸に恐れをなす。取材陣の餌食にならぬ様、彼女の無事を願った。

 

「もうっ! 校長が不在の時にな~んで来るかなっ。今日こそ、描き上げたかったのにっ」

「野球部と一緒に、準々決勝の観戦に行ってんだっけ? 春に向けて敵情視察とか……らしくねえっスわ」

「……バスケ部の面子が誰もいないのは何で? サッカー部はいるけどっ」

 

 美術部副部長3年生・汐見 初音(しおみ はつね)先輩がブツブツと文句を垂れ、スキー部3年生・赤穂(あこう) 晴俊(はるとし)先輩も深いため息だ。

 スキー部女子キャプテン3年生・春田 優子(はるた ゆうこ)先輩が素朴な疑問を浮かべれば、副会長は「夏の強化合宿」と答えた。各々が学校への不満をブツけながら、ゆっくりと解散。

 

「先輩達、怖……」

「あんなキレなくても、良くない? 学園祭なんて、11月なのにさ~」

「10月の中間テスト終わった後だし、今からやっとかねえと間に合わねえって」

 

 ミス研1年2組・三浦(みうら) エミリは写真部1年3組・祭沢(まつりざわ) 舞香(まいか)とヒソヒソ話、執行部にして囲碁部の海峰(かいほう)が準備の大変さを伝えた。

 

「そんなマジになることないじゃん」

「お宅らねえ、完成度の高っけえ高校文化祭を見た事ないのかね? 来月に開桜の文化祭、行ってみ」

「開桜って、開桜学院? あそこって部外者OKだったけ……」

 

 1年生達は身を寄せ合い、殺気立った先輩達の視界に入らぬように逃走して行った。

 

「遠野先輩、自分はバイトに行きます。一緒に来ますか?」

「勿論、行くよ。じゃあ、向こうで待ち合わせようか。僕、こんな時に電車で来ちゃったし……」

 

 (いち)もコーヒー代を支払い、遠野先輩とファミレスを後にする。バイト先の『大草原の小さな家』にて、合流した。

 

「いらっしゃいませ……丁度良いっ。オッサン、コイツがもう1人の従業員だよっ。分かったら、帰ってくれっ」

「……ふうん、どう見ても男だよなあ?」

(え、有森君? 何、そのオッサンは?)

「……っ」

 

 先ずは早めの昼食と店内へ入れば、いきなり重苦しい雰囲気。

 有森(ありもり)は助け舟と言わんに強張った表情を緩め、煙草臭い男へ言い聞かせる。(いち)の名を呼ばない口調が事の重大さを伝え、ジワリと汗ばむ。

 突然に巻きこまれ、遠野先輩も緊張のあまりに唾を飲み込んだと思っていた(・・・・・)

 

「兄チャン、正直に答えてくれねえか? 花都 千冬って女、ここで働いてるよな? それが知りたいだけでよ、皆さんな~んにも答えちゃくんねんだわ」

「先ぱ~い……」

(佐木君……他のお客さんまで怯えてんじゃん、それにこの人どっかで……)

 

 煙草に火を付け、男はニヤニヤと確信を述べる。客席に座った後輩の竜太(りゅうた)と見知らぬ客人が身を寄せ合い、ガタガタと震えていた。

 

「アナタ一体、何なんですか? ここは皆で食事を楽しむところですっ」

 

 物怖じしない遠野先輩、カッコイイ。

 肝心の花都(はなと)はおろか、店長もいない。明らかに身を隠している。

 

「だから、花都さん出してくれって言ってるんだよ。こっちはっ」

「だ・か・ら、バイトは俺とコイツだけっ」

「まだこのやり取りをするなら、帰ってください」

(強いなあ、有森君。遠野先輩が本気で怒る前に……追い出しちまおう)

 

 言い合いする中、(いち)は招かれざる客を追い払おうと戸を開け放つ。

 

「あ!? いつきさん!」

「あれ、星坂じゃん。何、この店の常連?」

 

 【月刊クイーン】記者・星坂(ほしざか) 花梨(かりん)がドアノブに手を掛けようとした瞬間であり、咥え煙草男にビックリ仰天。ツリ目を更に尖らせ、悲鳴を上げた。

 その名を聞き、やっと思い返す。

 背氷村の邸宅へ取材しに来たフリーライター・いつき 陽介(ようすけ)だ。

 

「いえ……ウチの社でもオススメだって、紹介されて……あの取材とかなら、別の日にしてくれませんか? あたしも結構、口説きまくって、や~っとアポ取った人とこれから仕事なんです!」

「……ふうん、いいよ。またにするわ、んじゃあ……花都さんへ伝言よろ。野間口さんが連絡寄こせって……心配(・・)してたぜ」

 

 知り合いにすら、歓迎されていない雰囲気を察しても、いつきの笑みは崩れない。相当の修羅場を踏んでいるだろう。煙草の匂いも消え去り、ふう~っと一息。

 

「お客さん、ありがとう。あの人、しつこくてっ」

「大人の方は頼りになりますね」

「へへ……でも、油断しないでっ。帰ったフリして、その辺に隠れたりする人よ」

コーヒー、奢るわ!

 

 有森と遠野先輩が感謝感激と星坂へ頭を下げ、ニッコニコの店長がトイレから参上。

 

「店長……いたんですか」

 

 同じ大人でありながら、この差にゲンナリ。

 

「花都さん、もう出てきて大丈夫ですよっ」

「すみません」

「「「椅子に隠れてた!?」」」

 

 竜太が座っていた長椅子の座布団を外し、パカッと開く。体勢が辛かった花都は申し訳なさそうに起き上がり、息苦しかったらしくて深呼吸。

 まさかの隠れ場所に(いち)、遠野先輩、星坂は驚いた。

 

「元々、花都さんはトイレで備品のチェックしてくれたんです。そこにあの人が来て……勝手に奥へ入った隙に椅子へ隠しました」

 

 流石、竜太。機転が利く。

 

「アハハ! キミ、最高っ。お姉さんがジュース、奢ってあげるっ」

「ええ、助かりました。佐木さん……ありがとう。あっ、お客様……すみません。変な事に巻き込んでしまって……」

「いえ……大丈夫です」

 

 腹を抱えた星坂は大爆笑し、花都はゆっくりと奥の席にいた客人へ詫びる。騒動で後回しになったが、本当に無関係の女子が1人いたのだ。

 ウェア越しでも鍛え上げられた筋肉質な肢体と分かり、その立ち振る舞いはスポーツ選手。日焼けして健康的な潤いのある肌、壮絶な戦いを潜り抜けたような面構えがより印象を強くした。

 姉・さとみと同じ年頃だろう。強い意思を宿した大きな瞳に見つめられ、ちょっとドキッとした。

 

「店長、こちらの方にもコーヒーをお出ししてください」

「言われなくても、一食分はサービスするわ。有森君、皆の注文取ってっ」

「は、はいっ。遠野先輩は何にします?」

「え~と、コーンスープをお願いね」

「僕はカレーライスです。金田先輩、ちょっといいですか?」

 

 (いち)がスポーツ女子へのお詫びを催促すれば、トイレに隠れていただけの店長は気前良い。許そう。

 さっと有森は注文を取っていく。遠野先輩の後に答えた竜太がそっと(いち)の腕を掴み、店の奥を指差す。ご自慢のビデオを持っていない様子から、内密の話だろう。

 勤務の支度だろうと思われ、誰も引き留めなかった。

 

「僕と一緒にいた人、香取 洋子と言います。……聞き覚えあります?」

「いいえ、有名人ですか?」

「……質問を変えます。先輩のお母さん……金田 にいみって名前ですか?」

「!?」

 

 その口から母の名を問われ、ゾッとする。

 痛くない腹を探られ、不愉快になったとも言える。

 

「やっぱり、そうなんですね。あの……お母さんは今、どちらに? 香取さん、どうしても会わなきゃらならないって……」

「知りません。佐木君、香取さんには知らないと言って下さい」

「……そう言うだろうと思って、僕が引き受けたんです。本当なら、白神さんがここへ来て、先輩に金田 にいみとの関係を聞くつもりでした」

「……っ、それは気を遣わせましたね」

 

 動揺を読まれ、竜太は希望に満ちた声を上げる。余計に息苦しく、(いち)は突き放す言い方をしてしまう。あしらわれるのに慣れた彼は深刻に眉を寄せ、嫌な展開を防いだと教えた。

 恩を売ろうとしている。

 そんな失礼な考えが脳裏を過る程、(いち)の心に余裕はなかった。

 

「お婆さんに聞いた方が良いですか?」

「!? 駄目ですっ。絶対にやめてください。……母の居場所は知りません。もう1年以上、連絡もありません。これが答えです」

「……!! それって事件じゃないですか、警察には……」

「捜索願は出していますっ。事件性は認められず、一般家出人扱いです」

 

 おぞましい提案に思わず、竜太へ強い口調を返す。荒げた自分の声を聞き、(いち)は動悸が激しくなる。深呼吸してから、簡単に事情を話す。酷く、醜い声だ。

 竜太の顔を見ていられなくて、背を向ける。彼が驚愕のあまり、息を呑む気配がした。

 

「剣持警部には……」

「言っていません。ですが、明智さんが……まあ、調査しています」

「……金田一(きんだいち)先輩には?」

「はじめちゃんは……知っていますよ」

 

 首筋まで不愉快どころか、不快過ぎて吐き気がする。

 

「すみません、先輩……。香取さんには僕から、言っておきます」

「……宜しくお願い致します」

 

 察した竜太の沈んだ声へどうにか、必死に声を振り絞る。本当にそれが精一杯だった。

 父・残間(ざんま)明智(あけち)警視に知られれば、お小言を頂くのは目に見える。そうと分かっていても、(いち)はにいみが香取 洋子(かとり ようこ)との間に何があったなど、知りたくない。

 今更、知らずに済むよう、祈った。

 

 煩わしい思考が治まり、店長達の前に顔を出した時には竜太と香取はいなくなっていた。

 ちなみに星坂の仕事相手は小説家の流山(ながれやま) 森太郎(もりたろう)であり、男前の登場に店長はご満悦。ご丁寧にサインまで頂いた。

 遠野先輩は(いち)の休憩時間になるアイドルタイムまで食事を続け、キッチリと支払ってくれた。

 

「こんな時間までありがとうございます。遠野先輩っ」

「良いんだよ、金田君に会いたくて……学校に来たんだからっ。あっちもこっちも大人の都合に振り回されたちゃったね」

 

 店の裏手にて、愛車を汚したくない為に地べたへヤンキー座り。寛大な遠野先輩も今日の出来事に苛立ち、珍しく皮肉が飛んだ。

 遠野先輩は本来、登校日から新学期の間は大企業の御曹司として多忙な立場。

 今日、それから抜け出す為にスケジュール調整を思えば、(いち)は罪悪感で胃が痙攣する。

 

「金田君、学園祭の準備は進んでる? プロのマジシャンを呼ぶんだったよね?」

「はい、さとみさんと同じ所属の片倉さんです。ショーの打ち合わせも順調ですよ。教室の飾り付けは実行委員に任せています。遠野先輩の組は景品釣り……あれ? 白峰先輩、今日はお見かけしませんでした」

「その白峰君は景品係だから、クラスの連中と高井デパート行ったよ」

「白峰先輩の目利きならば、良い品が手に入るでしょう」

 

 おにぎりを齧りながらの談笑、ようやく心が落ち着く。遠野先輩との学園祭は今年で最後と意識すれば、先走った感情は来年の別れを惜しむ。

 

「遠野先輩、卒業しても……学園祭に来てくださいね」

「うん? 金田君、もう来年の事を考えてるのかい? 気が早いなあっ。それよりも今年は楽しんでくれ。去年は執行部の巡回ばっかりでさ、金田君が遊んでいるトコ見てないよ。『放課後の魔術師』の件で、学校中……変にピリピリしてたしっ」

 

 来年を願えば、遠野先輩は気さくな態度で笑ってくれる。やはり、今日はイラついているのだろう。的場の脅迫状事件まで口にしていた。

 そんな問題がなくても、去年の(いち)は学園祭を楽しむ気はなかった。

 

「遠野先輩、学園祭……一緒に回りませんか? 先輩となら、自分はとても楽しいです」

「……そうだね、うん。分かったよ、金田君っ。僕も回りたいって思ってたんだ♪」

 

 誘いたくて、直球で願う。

 遠野先輩から予想以上の笑顔を向けられ、嬉しくて笑い返した。

 それから時間ギリギリまで各組、各部活の展示や出店を思い返しては巡る順番を検討し合う。頭の中に思い描いた学園祭が思いの外、楽しくて待ち遠しい。

 例年は9月だった学園祭が11月へ先延ばし故、日にちも待たねばならない。とても残念だが、その分だけ充実した日になるだろうと確信した。

 

「金田君といると時間の流れが早く感じるよ、また新学期にね」

「はい、遠野先輩。また新学期に会いましょう」

 

 元気溌剌と遠野先輩は手を振り、(いち)は新学期での再会を約束する。それが当たり前で、自然で、違和感など微塵もなく、頼もしい背中を見送った。

 また(・・)を信じて、見送った。

 

 閉店後は珍しく帰されず、残った問題を話し合う。いつき、否、野間口(のまぐち)なる人物から花都を逃がす算段だ。

 

「わ、私の問題ですし……あの人の元へ帰れば……」

「駄目よ、絶対っ。あのムカつく煙草野郎を差し向けるような奴なんて、碌なもんじゃないわ!」

「なあ、金田……俺達、ここにいていいのか?」

「男の意見を聞きたいのではありませんか?」

 

 オドオドした花都へ店長は珍しく親身になり、いつも他人の事情に無関心振りが嘘のようだ。ただ、有森の指摘通り、一介の高校生に過ぎない男子はこの場に必要かは甚だ疑問。

 

「元々……桜樹先輩の紹介でしたよね。先輩は花都さんの事情をご存じなのですか?」

「少しだけです。桜樹さんは私に同情して下さって……あの人の元を離れようって……」

 

 (いち)が確認で問えば、花都は申し訳なさそうに視線を下げる。ここでの勤務で少しずつ、明るくなっていたが、元の儚げな雰囲気へ逆戻り。

 

(お~い、ふっかい事情やんけぇ~。ミス研って何? 人助けとかしてんの?)

「そうよ、花都さん。るい子ちゃんの気持ちも無駄にしないでっ。……ここはいずれ、辞めるつもりだったんだし……いっそ、東京を離れてみるのもありかも♪」

 

 有森の心の叫びが聞こえたが、(いち)は構わずに思考に耽る。

 連れ出せた桜樹先輩の助言が欲しい。しかし、今の彼女は的場の初公判を傍聴し、少なからず動揺や感情の波があるだろう。この件について、相談するのは忍びない。

 何より、(いち)は花都の儚さに同情した。事情も聞かず、詳細も知らず、彼女の境遇を憐れんだ。

 

「長野に行ってはどうでしょうか? コテージ・スノーキャンドルに行けば、女性の従業員を募集しているはずです。そこが無理でも、軽井沢とか……観光地の多い県です。仕事はいくらでもあります」

「長野……そんな遠い土地、初めて……」

 

 思い付いた場所は公共機関を利用すれば、意外と近い。だが、花都は東京から出た経験もないらしい。見知らぬ土地への怯えが見えた。

 拒んでいないので問題ない。

 

「花都さん、どうしても東京以外の土地が合わないなら……戻ってくれば良いのです。その時は全力で野間口さんとやらと戦います。店長がっ」

「私!?」

 

 精神的な逃げ道を用意すれば、押し付けられた店長は悲鳴を上げる。実際は弁護士や警視庁捜査一課へお力添えを頼む気満々だが、大事にしては花都を委縮させてしまう。

 

「アナタにしてはグッドアイデアだと思ったら! まあ、いいわ。花都さん、そうしましょう。私もお店休んで、長野にご一緒するわ」

「店長……花都さんにかこつけて、軽井沢に行きたいだけじゃないスか?」

「……フフフ、そうですね。店長と長野に行く旅。そんな名目で、コテージを見てこようと思います」

 

 ブツブツ言いながら、店長は長野へ旅行を承諾。有森のツッコミにようやく、花都は笑みを見せた。

 そこには未知への不安はない。寧ろ、新天地への希望に満ちていた。

 

「……そのコテージ・スノーキャンドルは金田さんの地元ですか?」

「いえ、知り合いが働いています。……ああ、そうです。オーナーの方が花都さんを雇うのを渋ったら、はじ……金田一(きんだいち)君の紹介ですと言ってみて下さい。それでも無理そうなら、剣持さんに相談しますと言えば、……効くと思います」

 

 記憶にあるコテージ・スノーキャンドルの住所を書きだしながら、花都の素朴な疑問に答える。そのお陰で大事な点を思い出し、念の為に伝えた。

 

金田一(きんだいち)と剣持警部って……完全に警察沙汰だろ。アイツ、長野でも事件解決してんのかよ。全く……ご苦労なこって……今度、奢ってやるか)

「? キンダイチ、ケンモチ? よく分かんないけど、覚えておくわ」

 

 有森の百面相から予想される推測は正解、事件については言わずにおこう。

 店長は意味不明そうに顔を顰めたが、金田一(きんだいち)の名に効力はあったと後で聞いた。

 

○●……――佐木 竜太はビデオを撮る。

 相手に疎まれようとも、嫌われようともお構いなし。されど、傷付けたいワケではない。

 金田(かねだ) (いち)先輩の三眼目に込められた憂いを撮らずに済み、妙な安心感。同時に不愉快な感覚が纏わり付き、彼を傷付けた罪悪感も自覚した。

 

「すみません、香取さん。お探しの方は1年以上、連絡がないそうです」

「……!? ……そうなの……」

 

 待ち侘びた香取 洋子は竜太の返事に健康的な顔色を青褪めさせ、視線を落とす。その仕草は失望に似ている。金田 にいみは彼女によって、一縷の望みだった。

 ミス研と写真部で幽霊客船の調査を独自に起こった結果、香取へ辿り着いた。

 自分達はそれだけの関係。

 香取の事情を知らない竜太にも、何となく分かる。彼女を憐れんだが、金田先輩をこれ以上、刺激したくない。

 どうしたものかと考えを巡らせる。

 

「もう……出ましょう」

「はい、ご一緒します。店長、僕らの分はキャンセルでっ」

「あら、佐木君。食べて行かないの? お客さん、騒がせちゃってゴメンなさいね。また、どうぞっ」

 

 落ち込んだ香取に食欲はなく、注文をキャンセル。重い足取りの彼女が倒れぬ様に注意を向けながら、店を後にする。人通りの少ない路地裏へ入ったかと思えば、香取は勢いよく振り返った。

 その表情に強い決意が込められ、竜太はビクッとした。

 

「佐木君……これを預かってて欲しいの」

「……僕にですか?」

 

 深呼吸した香取はウェアのチェックを開き、竜太へA4サイズの封筒を渡してくる。重量感は分厚い紙の束、重要な書類と見抜いた。

 彼女の手の震えは、風でも寒さでもなかった。

 その封筒に託した決意だけが、揺れていた。

 

「あたしが8月30日までに……連絡しなかったら、それを……白神さんに渡して……必ず、記事にしてっ」

「……っ、そんな大事な物を僕に預けていいんですか?」

 

 わざわざ日付まで指定され、託された重みにゾクッとする。

 これは記録じゃない。

 誰かの代わりに語る準備、自分がしてしまった瞬間だった。

 幽霊客船の出所か、あるいは別の事実か。中身を改めたい衝動を抑え込んだ。プロのライターや新聞記者ではなく、ただのミス研部員へ預けるなど失礼ながら、正気を疑う。

 

「……にいみさんの名前を出した時、すぐにアナタ……僕に任せてくださいって言ったじゃない。あそこにいた金田君のお母さんだって気付いて、彼に気を遣ったんでしょ? ……アナタになら、任せられるわ」

「……香取さんは……何をするつもりなんですか?」

 

 今にも泣きだしそうな笑み、香取の決意は更に強くなっている。竜太は見覚えがあり、悪寒に震えた。

 だから、問う。ここで聞かなければ、後悔する。

 答えを聞くべきだった。

 でも、彼女が口を閉じたまま立ち去る姿が既に、語っていた。

 あれ以上何かを聞けば、彼女はもう誰にも託せなくなってしまう気がした。

 

 ――封筒は予定を待たずして、開封される。

 真実の目撃が更なる悲劇を呼んだとしても、竜太はただ記録するのみである。

 そう、金田先輩が哀悼の意に表すならば、それさえも――。




村上「え……また次回予告? スパン短くない? ……!? どうも、村上 草太です。アニメ版だと俺の代わりに佐木が出てます。俺の貴重な出番……よし、愚痴は言わない。さて、次回は『【亡霊学校殺人事件】も千葉で・後編』!! 月島さん、退院おめでとう!」

芝里 丈治、汐見 初音
誰が女神を殺したか?ゲストキャラ

渋沢 圭介、赤穂 晴俊、春田 優子
氷点下15度の殺意ゲストキャラ

的場 勇一郎、真壁 誠
学園七不思議殺人事件ゲストキャラ、準レギュラー。作中にて、的場は生存

宗像 さつき
魔神遺跡殺人事件ゲストキャラ

三浦 エミリ、祭沢 舞香
それぞれ、天草財宝伝説殺人事件より登場の準レギュラーと不動高校学園祭ゲストキャラ

いつき 陽介
ご存知、悲恋湖伝説殺人事件より登場。この頃は平気で、相手の心を抉る

星坂 花梨
人形島殺人事件ゲストキャラ

流山 森太郎
吸血鬼伝説殺人事件ゲストキャラ
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