懸念していたアンマンへの攻撃は無かった。
アーガマが戦力を増強しているのを見て仕掛けて来なかったと考えて良いだろう。
代わりに百式やシュツルム・ディアスを見られてしまったが、その程度ならば構うことはない。
1日のテスト漬けを終えて、アーガマとアルビオン、モンブランがアンマンより出航する。
アルビオン隊が戦列に加わっている為、艦隊戦は五分と言ったところか。
アレキサンドリアはエンジンを損傷しているからグラナダで修理している事だろう。
しかしマラサイが政治取引でアナハイムから供与されているのならば油断は出来ない。
艦隊はシナプス艦長、艦はヘンケン艦長に任せているから私は気楽なものだ。
とはいえ次の出撃も気を使うことになるのは変わらない。
カミーユは初の実戦であるし、まだエマ中尉もシュツルム・ディアスに慣れているとは言えない。
だが、こちらには頼もしい助っ人も居るのだからどうにかなるだろう。
ウラキ中尉とフルバーニアンの組み合わせの強さは、私も良く知っている。
「クワトロ大尉」
「レコア少尉か」
レコア少尉からボトルを受け取り喉を潤す。
正直、私はどうレコア少尉と接するべきかを悩んでいる。
レコア・ロンド──。
両親を一年戦争で亡くし、反ジオンゲリラから連邦軍へ所属し、そしてエゥーゴに入ってからはそのゲリラ時代の腕を買われて情報収集関連の任に就く事が多く、シャアとも懇意の仲にあった女性だ。
自身を危険な身に置くことで生を実感するという危険な面もあり、強気の女性ではあるが本心では拠り所を探していて、その心の拠り所を見つける為にシャアのもとからシロッコへと移ろうという変遷をたどる人である。
私自身、彼女との関わりは職務上の物に努めている。
私は止まり木ではなく、私自身もまた止まり木を探す渡り鳥だ。
その点で言えば、私もシャアを笑えない。
甘えられる事を迷惑だとは思わないが、レコア少尉と話すよりもマッケンジー中尉やエマ中尉と波長が合うのは、軍人として強かな女性であるからだろうか。
レコア少尉が女性として充実する場所を探していたのに対し、エマ中尉は軍人として一本芯が通っている女性という対比で描かれている。
そうした生みの神の都合など現実では知る由もないのだが、私としては実際に関わる中でレコア少尉と懇意になるという道を選ばなかっただけだ。
何故シャアはレコア少尉と懇意になったのか私にはわからない。
気の強い彼女なら自分を受け入れてくれると思ったのだろうか?
ふむ、その点は私にもわからん。
仕方がなかろう。
女性とまともに付き合ったことなどないのだから。
その様な男であれば前世でガノタとして身を捧げてなどいないし、今世ではエースパイロットや赤い彗星の名をアクセサリーや自身のステータスに加えようと近寄る女性ばかりなのだから疑心暗鬼にもなる。
マッケンジー中尉はそうではないのでとても助かっている。
付き合うのならば彼女の様な人と付き合ってみたいものだ。
とはいえ、いつ死ぬともわからないMSパイロットであり、シロッコやハマーン、フル・フロンタル、そしてシャアが控えているかもしれないのだから、交際することで相手を悲しませてしまうのならば最初からその様な関係は結ばずにいる方が良い。
マッケンジー中尉とはテストパイロット同士の飲み仲間でもあるからな。
美人な女性と飲めるだけでも役得であるだろうさ。
もう少し身体が丈夫になれば、いつかクロエとも酒を飲んでみたいものだ。
フッ、結婚などした経験のない私が、娘と酒を飲み交わすのを楽しみにする等とは少しおかしいものだが、その日が来るまでは死ねんという事だな。
「クワトロ大尉?」
「すまない。少し考え事をしていた。して、少尉は何か用かな?」
「用が無くては、声を掛けてはいけませんか?」
「少尉には、私はそれ程冷たい男に見えるのか?」
「いいえ。でも人誑しには見えます」
「そうか?」
「それはそうでしょう。アナハイムのスタッフを囲っているって、もっぱらの噂ですよ?」
「事実無根なのだがな。困ったものだ」
確かにアナハイムには女性スタッフも多く居るが、別に男性スタッフが居ないわけではないし、それは部署によって異なるものである。
マッケンジー中尉の事を言うのならば、私と彼女は同僚というだけのものだ。
同僚ならば仕事終わりに飲みに行くぐらい普通のことだろう。
それにアナハイムの方でも私の無理を聞いてくれているスタッフはなにも女性だけではない。
男性も女性も分け隔てなく労いの意味も込めて物を贈ったりしている程度なものだ。
マッケンジー中尉はああ言ったが、私が多忙であるが故にデートなどもしたことはない。
だからやましい事など何も無いのである。
「それよりも、少尉はその様な事で私に声を掛けたのではないのだろう?」
「世間話の一つですよ。クローチェ中尉の事です」
「クロエがどうかしたのか?」
「昨日もテストで出ずっぱりだったのに、今日も出撃させるのですか?」
待機ボックスから見える窓の外には、機体の最終確認を整備班としているクロエの姿が見える。
「それが彼女の要望だからな。大事だからと言って、それで彼女の意思を否定する様な親でありたくはないのさ、私は」
「親という程、離れていないと思いますけど?」
「一年戦争から面倒を見てきたからな。目に入れても痛くはないと思っているさ」
しかしそんな彼女でさえ私は戦場から離れさせずに傍に置いているのだから、ろくでなしと言われるだろう。
だが、彼女がオーガスタのニュータイプ研究所の被験者であったのは記録に残っているのだから、そうした魔の手から守るには、私の傍に置くことが最も安全ではあった。
その所為で彼女の世界を狭めてしまったのは私の罪だ。
それを精算する日が来るとしたら、私は逃げも隠れもしないさ。
それが、私の背負うべき業というものだ。
「クワトロ大尉」
レコア少尉と話している最中、カミーユが待機ボックスに入って来て声を掛けてきた為、私はレコア少尉に手で会話を切り上げる姿勢を見せ、カミーユと相対する。
「どうした、カミーユ。ガンダムの調整は終わったのか?」
「はい。マッケンジー中尉のお陰で早く済ませられました」
「だろうな。彼女は優秀なパイロットだ。一年戦争ではあのアムロ・レイ用に開発されたニュータイプ用ガンダムのテストパイロットをしていた経験もある」
「そうですか。この部隊にはガンダムが多いんですね」
「ガンダムは象徴だからな。目立つ旗頭でもあるが、ガンダムに乗ると言うことは、ガンダムの名を背負わなければならない」
「ガンダムの名を、背負う?」
「そうだ。連邦軍においては勝利の象徴。ジオンにおいては白い悪魔。ガンダムという存在は戦場を支配する力を持っている。味方を鼓舞し敵には戦慄を与える。だがそれは転じて敵には目の敵にされ、味方には自分の実力以上を求められる。ガンダムに乗るパイロットとは、そうした重圧に耐えなければならないのさ」
「難しい話ですね。ガンダムもMSである事に変わりはないのに」
「それがアムロ・レイが打ち立てたガンダム神話というものだ。否が応でも、ガンダムにはそれを求められる。そのパイロットにもな」
「そうですか。クワトロ大尉は卑怯ですね。そういう事を知っていて、僕にガンダムを任せるのでしょう?」
「とはいえ、リック・ディアスは肌に合わないのだろう?」
「合わないわけじゃないですけど、Mk-Ⅱの方がしっくりは来ます」
「そうだろうな。君はMk-Ⅱのデータを盗んでジュニアMSに反映させてもいたのだから、君のパイロットとしてのセンスはMk-Ⅱに合わせて育ってしまっているとも言える。だからMk-Ⅱが乗り易いのも道理だ」
「そういうものですか?」
「私にはそう見える」
実際にカミーユの適性を1日掛けて見た感想だ。
父親のパソコンからデータを盗み出してジュニアMSに反映させ、それで大会を優勝したのだから、パイロットとしての資質は必然的にMk-Ⅱにアジャストされるのは道理であり、だからこそいきなりMk-Ⅱにも乗れたのだ。
そして小一時間程度とは言え、Mk-Ⅱで宇宙を駆け、昨日もMk-Ⅱでテストと訓練をしたのだから、既にカミーユのパイロットセンスはMk-Ⅱに慣れ始めている。
「出撃が近くなって恐くなったか?」
「いけませんか? これから実戦なんですから」
「悪いとは言っていないさ。私も、初めては恐かったさ」
「クワトロ大尉が?」
「撃たなければ撃たれる。戦場とはそういう物だと分かってはいた。だが、実際に経験するものは画面の向こうに見ていた憧れなどは幻想であると思い知らされた。たまたまガンダムに乗っていたからソロモンを生き残れた。ア・バオア・クーも死に物狂いだった。共に出撃した仲間や母艦は閃光に散り、宇宙の迷子になってしまった時のあの感覚は恐ろしい物だ。カミーユ、生き残りたければ戦場では躊躇いを捨てる事だ。それは自分の命を捨てる事になる」
「そんな余裕があると思いますか?」
「最初はないだろうな。だが、慣れてくれば私の言葉の意味を知る時も来るだろう」
それはカミーユに待ち受ける悲しい運命でもあるだろう。
その時、私はカミーユの傍に居ることは出来ないだろう。
それがカミーユの強さにもなるだろうが、心に影を落とす事にもなる。
最強のニュータイプというのも考えものだな。
警報が鳴り響き、意識のスイッチが切り替わる。
待機ボックスの端末がコールされ、私は受話器を取る。
「クワトロだ」
『クワトロ大尉、すまないが出てもらえるか?』
相手はヘンケン艦長だったが、どうにも様子がおかしい。
「何かあったのですか?」
『SOSをキャッチした。ビーム攻撃を受けたと言っている。大気圏シャトルのテンプテーションだ』
「シャトルがビーム攻撃を?」
『そうだ。アルビオンのシナプス大佐も、クワトロ大尉に任せたいと言っている』
「了解しました。カミーユを連れていきます」
『任せる。場合によっては、大尉が戻るまで戦端は開かん』
「そうしてください。救助となればティターンズも無闇に手を出しては来ないでしょう。あちらもアレキサンドリアの修理に時間は欲しいでしょうから」
『そういう事だな。頼んだぞ』
「了解」
私は通話を切り、カミーユへと振り返る。
「聞こえていたな、カミーユ。出撃するぞ」
「はい。でも、テンプテーションって聞こえましたけど」
「知っているのか?」
「はい。元ホワイトベースの艦長、ブライト・ノア中佐の艦です」
「成る程。よし、行くぞ」
「了解!」
私はカミーユを伴って格納庫に入ると百式に取り付く。
『クワトロ大尉!』
無線でクロエの声が聞こえる。
「クロエはそのまま作業を続けろ」
百式を立ち上げ、アナハイムから納入された物を装備して、MSデッキに上がるためのリフトへと百式を移動させる。
MSに比する長さのランチャー、その端にはスラスターがある。
フルバーニアンに使われている物をさらに強化したジェネレーターと大容量メガコンデンサー、パワーエクステンダーを内蔵し、対MS戦から対艦戦闘までの出力調整とビームの収束と速度を切り替えることの出来る手持ち武装。
勿体ぶらずに言うならGバードである。
メガ・バズーカ・ランチャー等という取り回しは最悪な上に一発しか撃てず、強化すれば複数回の砲撃は可能だが別途エネルギー供給する僚機を必要とするなど、使いづらい物にこれでもかとダメ出しをしてこのGバードを造らせた。
原理と機能は分かっているのだから、あとはそれを形にするのはサイコフレームと同じやり方だ。
この時代にIフィールドを貫いてしまう兵器を造ってしまったのはやり過ぎかもしれないが、サイコガンダムやクィン・マンサ、ネオ・ジオング等というIフィールドを持った強力な敵を相手にする事を想定するのならば、このくらいの装備は必要となる。
ただ、まだまだジェネレーター出力がそれ程高くはない現状での性能はF90VやF91のヴェスバーとそう変わらないだろう。
ましてやコロニーのミラーに大穴を開けて、戦艦を一撃で撃沈するまでの威力は出せないが、Iフィールドを貫けるだけでも充分だ。
シロッコにGバードを見せることになるが、少し大仰なビームランチャーくらいにしか思われないだろう。
これが一目でIフィールドを貫通するヴェスバーだと見破られでもしたら、それは天才等というものではなく、私と同類だという事になる。
宇宙世紀に生きて27年経つが、私と同じ境遇の人間に出会った事はない。
もし居るのならば、この宇宙世紀という歴史に何らかの介入をすると思うが、そうした動きは私の感知する範囲には無い。
ならばやはり、私だけがこうした境遇とでも言うのだろうか。
クワトロ・バジーナならば、シャア・アズナブルも居ても良いのではないだろうか。
しかし、そうだとすればキャスバルに利用されること無く全力で逃げるだろう。
だがシャアはジオンの赤い彗星としてその名を馳せ、あのジオングまで駆ってみせたのだから、あれがキャスバルに利用されたシャア・アズナブルとは考えられない。
私の思い込み過ぎか。
「クワトロ・バジーナ、百式、出るぞ!」
私はGバードを装備した百式を発進させ、カミーユのガンダムMk-Ⅱと共にSOSを発するテンプテーションへと向かった。
さて、木星帰りのパプテマス・シロッコと対面となるが、私にあのシロッコと戦えるだけの力があるのか。
いや、そうする必要があるというものだ。
私は腰のサイコフレームに触れる。
このサイコフレームが、シロッコのプレッシャーを拾ってくれるのならば先手を打てると思いたい。
テンプテーションが近付くと、正面から急速接近する機体がある。
やはり木星の重力を振り切る機体は地球圏ではかなり速いな。
『なんだ、MA!?』
「カミーユはテンプテーションへ取り付け!」
Gバードを構え、センサーが捉えるメッサーラの動きを注力する。
しかしこの息の詰まるザラつく感じは──。
「これがシロッコのプレッシャーか…!」
百式の脇を過ぎ去るメッサーラへ、機体を反転させてGバードを放つ。
射程と威力を最大にした対艦用の出力だったが、メッサーラはバレルロールでビームを回避すると、そのまま飛び去って行った。
当てる気ではいたが、当てられるとも思ってはいなかった。
しかしあれがシロッコのプレッシャーとなると厄介なものだ。
ア・バオア・クーで感じたシャアと同等のプレッシャーともなれば、一筋縄ではいかない相手だ。
やはり刺し違える覚悟で当たらなければ倒せるとは考えない方が良いか。
エンジンに火が回っているテンプテーションに消火剤を撒くガンダムMk-Ⅱに任せて、私はテンプテーションに接触する。
「私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉だ。テンプテーションの責任者と話したい」
『テンプテーションの艦長、ブライト・ノア中佐だ。救援に感謝する』
「かの伝説のホワイトベースの艦長の救援が出来るとは光栄です。艦の自立航行は可能でしょうか?」
『エンジンをやられていて無理だ。この速度では途中で空気が尽きる』
「了解しました。我々の艦で保護する事となりますが、よろしいでしょうか?」
『よろしく頼む。この艦はグリーン・ノアから逃れて来た民間人を乗せている』
「グリーン・ノアから?」
『ティターンズに反抗心を抱く民間人だ。収容されていたのを連れ出した』
「了解しました。そうであるのならばティターンズや連邦軍に保護させるわけにもいかないでしょう」
『そうだ。すまないが頼みたい』
「わかりました。MSで曳行します。艦の操作はこちらに合わせていただきたい」
『了解した』
さて、まさかブライトさんのテンプテーションを助けるのが先になるとは。
あのままシロッコはアレキサンドリア級のハリオに接触して、推進剤の補給をしながらティターンズに取り入る算段をする筈だ。
そして次に邂逅するのはジャブロー降下作戦となる。
あのメッサーラを墜とすのは容易ではないな。
しかしこちらも対抗策を考えずに過ごしていたわけではない。
次の会戦ではこうはさせんぞ、パプテマス・シロッコ。
◇◇◇◇◇
「あの金色のMS。おかしな気配だった」
私は先程、テンプテーションに脅しを掛け釣り出したエゥーゴのMSを思い起こす。
ガンダムとその隣に居た金色のMS。
まるで人の思惟が取り巻いているような妙な気配を感じられた。
「この私を
サイコミュが搭載されているのか。
そうするのならば理屈は解るが。
そうだとしてもあの感覚は。
「虚無、いや、亡霊と感じられたが、それにしては生の感情が出過ぎている。あれがエゥーゴのニュータイプか」
しかしあの程度であるのならば私の敵ではない。
「地球圏のニュータイプは、所詮この程度のものか」
私はメッサーラを駆り、連邦軍の艦への接触を考える。
エゥーゴにニュータイプが居るのならば、地球至上主義を掲げ、宇宙を知らぬティターンズならば立ち回るのは容易かろう。
「さて、この戦乱の地球圏がどう転ぶのか見させて貰うとしよう」
◇◇◇◇◇
テンプテーションをアーガマまで移送し、ドッキングした船内からグリーン・ノアの避難民が上がってくる。
そして一番最後にやって来たブライト艦長を掴まえて接触する。
「ケガ人は居ないようですね」
「はい。しかし、また艦を失う艦長をやってしまいました」
「ホワイトベースに関しては連邦軍の囮として使われたのですから、充分にその任は果たしたと言えるでしょう」
「いえ。結局沈めてしまったことに変わりはありませんよ、クワトロ大佐」
「私は大尉ですよ。ブライト中佐」
「あ、ああ。すまない、クワトロ大尉」
私はブライト艦長と握手を交わした。
表情には出さないようにしているが、あのブライトさんと握手をしている今はガノタとして感無量と言わざるを得ない。
フッ、私もミーハーなのさ。
「クワトロ大尉」
私は横にやって来るカミーユの手を引いて隣に立たせると、ブライト艦長へと紹介する。
「紹介します、彼がガンダムMk-Ⅱのパイロット、カミーユ・ビダンです」
「以前、講演会でサインをいただいた事があります」
「そ、そうか。良く助けてくれた。感謝する」
ブライト艦長と握手を交わすカミーユを見守っていると、避難民の中からひとりの少女が出て来てカミーユへと抱き着いた。
「カミーユ! あぁ、カミーユ、カミーユなのね!」
「ファ? ファ・ユイリィ? シャトルに乗っていたなんて」
「父さんと母さんが、ティターンズに捕まっちゃってっ、私はブライトキャプテンに助けられてっ」
「捕まったって、なんで捕まったんだ!?」
「ガンダムMk-Ⅱを盗んだカミーユのお隣だからって、私っ」
「僕を知っているってだけで…、っ、それがティターンズのやり方なのかっ!」
「彼女は?」
「ファ・ユイリィと言います。留置所に居たのを連れ出してきましたが、民間人の少女にする仕打ちではありませんよ」
「あまり深くは聞かない事にします」
「ええ、頼みます」
私とブライト艦長はカミーユの腕の中で泣くファ・ユイリィに同情と義憤を募らせる。
やはりティターンズは打倒せねばなるまい。
あれで特に酷いやり方ではないところがティターンズの非道さという所だ。
反政府運動やジオン残党を助ける人間には人権など無いと言わんばかりに扱い、その肥大化した傲慢と傲岸さはスペースノイドを苦しめる。
男は口を割らせて殺し、女は口を割らせたら慰み物だ。
エマ中尉の様に気高い志を持つ兵も多く、連邦軍の特殊部隊に所属するという栄誉を誇りにする兵も居るが、中にはそうしたスペースノイドを蛆虫の様に扱う兵もまた多く居る。
ティターンズ全てが悪とは言わない。
しかし現場を取り仕切るバスクは外道と言って良いだろう。
所詮はジャブローのモグラ組だった男だ。
やること成すことがインテリの過激さと言ったところか。
戦術の天才と言われているが、敵を皆殺しにしていては戦術もあった物では無い。
一説にはジオンの捕虜となり、拷問を受けてその恨みが肥大化し、ジオンを憎んでいると言われているが、人質を取って両親を殺すだとか、コロニーに毒ガスを使うだとか、人としての倫理観が欠落しているとしか思えない。
そもそもジオンへの憎しみがスペースノイドへ向くというのが理解出来ない。
だから将官へと昇進出来ず大佐に甘んじているのだろうし、戦略というものを分かっていないのだろう。
ジャミトフが頭を悩ませるのも無理はない。
しかし他に代えられる人材が居ないのがジャミトフの不幸だな。
一先ず落ち着けると気を抜いたが、そうした時に来るものは来るものだ。
アーガマ全体に警報が鳴る。
「ブリッジ、クワトロだ。何があった」
『グラナダから発進する艦艇をキャッチしました。艦艇照合、アレキサンドリアです!』
ブリッジに問い合わせるとシーサーが報告してくれる。
グラナダに動きがあったか。
こちらがテンプテーションの救助の為に動かないから、その隙に離脱するのかはたまた仕掛けてくるのか。
『アルビオンのシナプス大佐より艦隊発令、第一戦闘配置!』
「了解した」
敵が出て来たのならば今なら頭を抑えられる。
シナプス艦長の判断は間違っていない。
「すまない、ブライト艦長、敵と戦闘に入る。ヘンケン艦長!」
「なんだ、クワトロ大尉!」
私は避難民にアーガマへの乗艦手続きを説明していたヘンケン艦長を呼び出す。
「ホワイトベース艦長の経験からアドバイザーをお願いしたい。お願い出来ますか? ブライト中佐」
「そりゃ、お受けする事は出来るが、私はこの艦の事は全く知らない」
「横に座って至らない所をアドバイスしてくれりゃ充分だ。あのホワイトベースの艦長が座ってるとなりゃ、ブリッジの空気も引き締まる」
「そういう事です。ブライト中佐」
「わかった。助けていただいた恩には報いたい。ヘンケン艦長、よろしくお願いします」
「よっしゃ! クワトロ大尉、対艦戦闘だ。頼むぞ!」
「了解しました。カミーユとエマ中尉はアーガマの前へ! リック・ディアス隊は左右に展開! マッケンジー中尉は私と来てくれ、観測と測距を頼む! クロエも出れるな!」
私はMSデッキで矢継ぎ早に指示を出しながら百式に乗り込む。
Gバードを百式に装備させながら、各機の発進を待つ。
カミーユのガンダムMk-Ⅱとエマ中尉のシュツルム・ディアスが発進し、その次はリック・ディアス隊が発進する。
そして私の百式と、ウラキ中尉がフルバーニアンに乗ることで空いたブロッサムに乗るマッケンジー中尉が発進し、最後にアーガマから発進するのはオレンジ色の空間戦闘機。
機首は鋭く、その下部はガトリングを装備し、機体後部のブースターはX状に配置されている。
『クワトロ大尉!』
「ああ。レーザーロック、相対速度合わせ」
『誘導良好、軸線に乗ります。機体変形、ドッキングします』
その空間戦闘機は機体中央が中折れし迫り上がってコネクターを露出させると、レーザー誘導で百式のバックパックとドッキングした。
「よし、行くぞクロエ、マッケンジー中尉」
『了解!』
『大尉のお手並み、拝見させてくださいね』
「やるべきことをやるだけさ」
私は百式を駆り、マッケンジー中尉のブロッサムを伴って隊列から離れた。
あちらはバニング大尉も居る上、アポリーとロベルトも居ればMS部隊の指揮は任せられる。
さて、もう一仕事するとしよう。