シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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月のあとさき

 

「マッケンジー中尉、観測はどうだ?」

 

『まだミノフスキー粒子が濃くないので大丈夫ですが。アーガマとアルビオンからもデータが上がって来ています』

 

「確認した。マッケンジー中尉も狙えるな?」

 

『やってはみますけど、私はニュータイプじゃないからこの距離は無理ですよ?』

 

「当てずっぽうでも当たるものさ」

 

 私は百式のGバードを構え、エネルギーを充填させる。

 

 アーガマとアルビオン、ブロッサムからの測距データがある為、前よりも当て易いシチュエーションだ。

 

「3、2、1…、撃て!」

 

 私はトリガーを引く。

 

 百式のGバードとブロッサムの大型ビームライフルから閃光が放たれる。

 

 それは遥か彼方の小さな点の方へと消え、そして火球が一つ生まれた。

 

『一発で直撃なんて。…サラミスに当たった?』

 

「アレキサンドリアを狙ったのだがな」

 

 とはいえ敵艦に当たっているのならば艦隊戦の援護になる。

 

『MSがこちらに向かってきます!』

 

「MS戦をせずにこちらに振り分けるのか」

 

 向かってくるのは3機のハイザック。

 

 たった3機で私を相手取ろうと言うのか。

 

 見積もりが甘すぎるな。

 

 しかしそれも無理はない。

 

 正面では艦隊戦と対MS戦が行われ、その主戦場から見て上に位置してこちらはティターンズ艦隊へ長距離狙撃をしている。

 

 そんなMS戦の最中に数を引き抜けば正面を突破される。

 

 私を放置していても長距離狙撃で撃たれ放題なのだから、MSを使わせて狙撃を阻止するというのは定石と言える。

 

 だが、こちらへ向かってくるハイザックのパイロットは不運だな。

 

 此処に居るのは、この赤い彗星だ。

 

「行け!」

 

 私はガンバレルを分離させながら百式を駆る。

 

 ガンバレルは特殊な空間認識能力がなければ使えないという武装ではあるが、MSに乗って宇宙を駆けていれば空間認識能力は否応なく鍛えられる。

 

 そもそも地球という上下がはっきりしている空ではなく、漆黒の宇宙で空間認識能力を持っていなければ迷子になるのは必定。

 

 スペースノイドであってもコロニーで生活していれば天井に街がある光景が当たり前でも、やはりそこは人工とは言え大地に立っているのと変わりはなく、空間認識能力は地球に住んでいるアースノイドと然程変わることはない。

 

 しかし、連邦宇宙軍となれば話は変わってくる。

 

 自分を中心として目標の位置や地球や月、星々の位置から自分の現在位置を把握しなければならず、宇宙に上も下も右も左も、指標となる地面が無いのだから、アニメではアニメーターが描きやすい様にさも宇宙に下がある様にMSは正面を向いて同じ体勢でぶつかり合う。

 

 その方が相対速度を計算するのも、ぶつかり合った時も瞬時に対応が可能であるのと、隊列を組むのにも分かりやすいというメリットが故にそうなっているが、別に上下左右バラバラに隊列を組んでいてもダメというわけでもない。

 

 話が逸れたが、そうして空間認識能力を培い、そして私はガノタだ。

 

 こうしたオールレンジ攻撃端末の動きは瞬時に頭に思い描く事が出来る。

 

 それを神経接続をしているガンバレルに反映させてやれば、宇宙を飛び回りながらビームを撃つガンバレルの軌道をコントロールする事は可能だ。

 

「当たれぇぇぇっ!!」

 

 ガンバレルに正面や脇、背後から撃たれた3機のハイザックは爆発し、その爆炎を背に私はガンバレルを機体に回収する。

 

『これが、ニュータイプの力……』

 

 マッケンジー中尉はそう言うが、これがニュータイプの力である筈がない。

 

 ビットやファンネル、サイコミュ兵装を使えるからニュータイプという判断基準を作ってしまったジオン軍が、ジオン・ダイクンの唱えたニュータイプ論とは正反対であるというのは皮肉な話だ。

 

 ニュータイプが戦場で目覚ましい活躍をしてしまったが故に、連邦軍でも人工的にニュータイプを作ろうとする強化人間や、グレミー・トトの様にクローンニュータイプ部隊を作り、そして延々と宇宙世紀には強化人間という悲しき存在が生み出されていく。

 

 ニュータイプは人の革新だと言うが、あくまでも離れた人との意思疎通を可能とし、互いに分かり合うことの出来る超能力の一つでしか無い。

 

 つまりニュータイプは総体としてそんな様々な特殊能力を持った人々を指す言葉として使われて然るべきだと私は思っている。

 

 ざっくばらんに言えば、カテゴリーFをニュータイプとしても良いし、イノベイターやXラウンダー、SEED保持者もニュータイプと呼べる。

 

 そういう事を言うと原理主義者が騒ぎ始めるだろうが、結局の所、ニュータイプ論は人それぞれなのだから、自身の価値観や統計的な物だからとニュータイプの定義を狭めてしまっている事こそが、オールドタイプであると言えるのではないだろうか。

 

 とはいえ、私も一昔前はそんな原理主義者の一人だった。

 

 あの蒼く光る虹色の宇宙を視たからこそ、宇宙世紀に生きているからこそ、価値観が変わったと言える。

 

 宇宙世紀0079末日。

 

 私はティアンム艦隊の残存部隊の一人として、再編された第13独立機動艦隊に居た。

 

 そしてホワイトベース隊と同じ戦場に立っていた。

 

 ア・バオア・クーに集結する艦隊の合流地点へ向かう最中、グラナダから発進したキシリアの率いる艦隊と交戦した。

 

 そう、私は「光る宇宙」のその場面に出会したのだ。

 

 連邦軍の白いやつ、白い悪魔とも言われていたアムロ・レイのRX-78-2ガンダム。

 

 アムロのガンダムが地上で暴れ散らしている合間、私はルナツーでホワイトベースから回収されたG-3ガンダムのテストパイロットをしていた。

 

 マグネットコーティングのテストベッドにされたG-3ガンダムを満足に動かせるパイロットが他に居なかったという事情がある。

 

 私から見ても、マグネットコーティングを施され同じ性能となったガンダムの動きは同じ機体とは思えない動きをしていた。

 

 本物のニュータイプの操るビットのオールレンジ攻撃。

 

 それがどういう物か識っていたからこそどうにか切り抜けられた。

 

 とはいえ、オールドタイプである私がどうしようとした所で、歴史を変えることは出来なかった。

 

 所詮人は、己の存在で背負える物しか背負えない。

 

 それが血の宿命だとしても、個人にスペースノイド全ての想いを背負う事など土台無理な話なのだ。

 

 人は器になる事など出来ない。

 

 人に求められた人物を演じられても、我も人、彼も人であることを忘れてはならない。

 

 個人の思惟が人々の恣意に押し潰される役回りだとしても、人形ではないのだからというのを無視してはならない。

 

 あの蒼く光る虹の宇宙。

 

 刻の彼方で私は見た、νガンダムから放たれる光を。

 

 そしてその光に乗って、ア・バオア・クーで炎に包まれるホワイトベースを、ソーラ・レイに焼かれる艦隊を、宇宙を駆けるエルメスとガンダム、コア・ブースターを、ソロモンで最後の戦いに出るビグ・ザムとそれに特攻するコア・ブースター、ビグ・ザムにビームサーベルを突き立てるガンダム、地球に落下するコロニー、爆散する首相官邸ラプラス。

 

 時の果て、全ての生命と時間が失われた完全なる虚無。

 

 だが、人の心の光は、そんな宇宙を温め、その温かさを持った人間だからこそ、次の世界を作っていく事が出来る。

 

 それでもと言い続ける事こそが、未来を切り拓く。

 

 だから私は、今もって足掻き続けている。

 

 大きく変えられないとわかっていても、それでもと心に言い続け、私は歩み続けている。

 

 あの虹の彼方に見た未来へと、路は続いているのだと信じて。

 

『クワトロ大尉、モンブランのMS部隊が押されています』

 

「ジムⅡでマラサイの相手はキツすぎるか」

 

 まだネモはジャブロー降下作戦の準備で伏せている段階だ。

 

 それに充分な数があるとも言い難い。

 

 結局の所、エゥーゴの中核であるアーガマ隊であるから最新鋭のMSを配備してかつてのホワイトベースの様な活躍を期待するというのは無理のない話ではあるが、新型の量産機を充分な数を揃えられる組織力がまだエゥーゴに備わっていないのも確かだ。

 

 たった2年そこらでここまで組織化出来ているのはブレックス准将の手腕による所が大きい。

 

 スペースノイドを味方に付ける事は出来るが、連邦軍を味方にするにはダカール演説をしなければならない。

 

 だからこそ、シャア・アズナブルが必要なのだ。

 

 ただの一軍人であるクワトロ・バジーナが演説をした所で世界は変わらない。

 

 ジオン・ズム・ダイクンの遺児であるキャスバル・レム・ダイクンであるからこそ、世界を動かす力がある。

 

 それがこの宇宙世紀に於けるシャア・アズナブルという人間の重みなのだ。

 

 その為の準備をする事が私の精一杯だ。

 

「MS戦はバニング大尉に任せてある。我々は敵艦隊の目をこちらに引き付けるのが役目だ」

 

 私は百式を駆り、ティターンズ艦隊へと接近する。

 

 こちらに向けてメガ粒子砲が放たれるが、そう簡単に当たるものではない。

 

 砲撃の合間を擦り抜けて接近すれば、一隻のサラミスは艦橋を破壊されてまともに動けないようだ。

 

 アレキサンドリアと残ったサラミスに集中砲火を受けるが、その対空砲火も潜り抜けてガンバレルを展開する。

 

「そこだっ!!」

 

 ガンバレルによるオールレンジ攻撃で主砲や機銃、エンジンを撃ち抜く。

 

 これで艦隊はまともに動けないだろう。

 

 しかしアレキサンドリアは艦の生き残ったスラスターを使って離脱していく。

 

 撤退の為の信号弾も上がる。

 

 撃てるときに見逃すというのも歯痒いが、撤退信号を上げている所を撃つというのは、反対にこちらもそうした時にされてしまう口実を作る。

 

 故にそうした撤退信号が上がった時は手を出さないという暗黙の了解と言うものがある。

 

 それにアレキサンドリアはティターンズの旗艦だ。

 

 前にも言ったが、安易に沈めてしまうとティターンズは面子を守る為に連邦軍も使ってエゥーゴを叩きに来るだろう。

 

 そうなってしまえば組織力に劣るエゥーゴに太刀打ち出来る術はない。

 

 故に何事も適度さが求められる。

 

『クワトロ大尉、敵が後退して行きます』

 

「ああ。マッケンジー中尉、アルビオンに連絡してくれ。モンブランはグラナダに降ろしてティターンズの牽制に使う」

 

『了解しました』

 

 私はマッケンジー中尉に言伝を頼むと、ティターンズがグラナダ方面へ退けない様に百式を移動させる。

 

 しかし、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機は出て来なかったな。

 

 出て来ないのならばそれでも構わない。

 

 アレに出て来られるとこちらの戦力に余計な損害を出させられてしまう事は容易に想像できる。

 

 あのガンダムMk-Ⅱ試作0号機を止められるのは私の他に居ないだろう。

 

 それは自惚れでもなんでもなく、パイロットの経験から来る判断だ。

 

「クロエ、大丈夫だな?」

 

『はい。心配ありません、クワトロ大尉』

 

 そこまで激しく機体は動かしていないからクロエの負担にはなっていないだろうが、それでも親代わりとして娘の身を心配するのは変ではないだろう。

 

 依怙贔屓と呼ばれるのは甘んじて受けるさ。

 

 グラナダに入港するモンブランを見届け、私はアーガマへと着艦する。

 

 こちらの被害はモンブランのジムⅡ部隊の壊滅。

 

 アーガマ隊とアルビオン隊の被害が無いのは流石と言うべきか。

 

 アルビオン隊はベテランの集まりだし、アーガマ隊はエゥーゴの中核となるべく鍛えているし、エマ中尉もティターンズに抜擢される程のパイロットで、カミーユもセンスは悪くない。

 

 そう簡単に墜とされるとは思わないが、一年戦争を戦い抜いたアポリーやロベルトもグリプス戦役で散るのだから、主人公だからとカミーユを甘やかす事は考えていない。

 

 世界が違えばあのアムロ・レイも死ぬのだから、戦場では何が起こる等誰にも分かりはしない。

 

「お疲れ様です、クワトロ大尉」

 

「ああ。良く帰ってきた、カミーユ。パイロットは生き残る事が一人前の証だ。作戦を遂行する為にその身を犠牲にしても喜ぶ者は居ない。遺された者に悲しみを生ませるだけだ。それで英雄と持て囃された所で立派な人間等とは言えないのだからな」

 

「わかっています。僕だって、死にたくはないのですから」

 

 ならば何故MSに乗って戦うのかと訊ねるのは野暮だ。

 

 カミーユはそうすることで己の存在を立身しようと藻掻いている。

 

 思春期の少年として微笑ましいと言いたいが、それがMSパイロットというのは危ういものだ。

 

 極端な言い方だが、人を殺して己の身を立てようと言うのだから危ういと思わざるを得ないだろう。

 

 人を殺すという感覚はまだ気薄いのだろうが、それを今指摘した所で、カミーユはガンダムを降りることはない。

 

 カミーユを上手く導いてやれるのだろうか。

 

「お母さまとは、良いのか?」

 

「良いんです。エゥーゴに保護されたって、仕事をやればあんな事があったなんて忘れて没頭するに決まっています。今更言う事なんて…」

 

 今のカミーユにあるのは失望と言ったところか。

 

 親をやって欲しかったカミーユの想いを吐き出せても叶えることは叶わない物。

 

 腫れ物の様に扱う事は簡単だが、そうしてしまえば結末は見えている。

 

「わかった。今はお母さまを忘れて構わない。ただ、いつか自分が赦せると思った時、会いに行けば良い」

 

「意外ですね。一言でも良いから声を掛けに行けと言わないんですか」

 

「離れる事で見える事もある。大人になればいつか赦せる時もあるという事だ」

 

「クワトロ大尉はそういうお言葉使いが上手ですね」

 

「これでも一児の父親のつもりだからな」

 

「クロエさんですよね。兄妹とかじゃないんですか?」

 

「あの頃の彼女はとても幼かったからな。親としての情が芽生えるものさ」

 

「そういうものですか」

 

 一年戦争、その決戦のア・バオア・クー。

 

 真紅の稲妻やマルコシアス隊を退けた後、HADESに呑まれた彼女をペイルライダーを破壊してそのコックピットから連れ出した直後にシャアのジオングと撃ち合ったのは戦場の不幸と言える物か。

 

 クロエを抱いているから操作もおぼつかないG-3ガンダムで良く生き延びられたものだ。

 

 そこで紫のゲルググとも撃ち合った。

 

 あれはインビジブル・ナイツの隊長、エリク・ブランケのゲルググだろう。

 

 右も左も、少し探せば有名人ばかりの戦場だ。

 

 左腕とメインカメラを失った機体であの戦場を飛び回れたのは奇跡と呼べる。

 

 この腕に抱いた小さな生命を失わせてなるものかという火事場の馬鹿力でもあったのだろう。

 

 あの時程、思考が澄み渡って身体が素直に動いてくれた感覚は無い。

 

 それ程までに追い詰められた事が無いからだと言うのならばそれまでだ。

 

 かと言って、それ程までに追い詰められるシチュエーションも考えたくはない。

 

 ガンバレルストライカーの近くに浮いて整備士と話すクロエを見る。

 

 彼女を泣かせるような最後は、御免被りたいものだ。

 

 

 

 

 

 

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