シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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その名はセイバー

 

 地球衛星軌道近傍。

 

 そこには幾つかの防衛ラインがある。

 

 それは地球に潜伏するジオン残党の宇宙への退路を封じ込める為であり、また、宇宙から地上のジオン残党への補給を監視する為でもあり、そしてデラーズ・フリートによるコロニー落としがあったが為の早期警戒の為でもある。

 

 太陽光発電衛星と無人防衛システムである自動砲台により構築されている。

 

 太陽光発電衛星はこちらも利用出来るために攻撃はせず、自動砲台のみをターゲットとし、破壊する。

 

 その任はアルビオン隊に任せ、まだ不慣れなエマ中尉とカミーユを向かわせる。

 

 自動砲台程度に遅れを取るような事はない。

 

 太陽光発電衛星の警備に数機のMSが配備されているだろうが、アルビオン隊が居れば相手にならないだろう。

 

 先のグラナダ上空会戦でもウラキ中尉は2機のマラサイを撃墜している。

 

 ウラキ中尉とフルバーニアンの組み合わせは絶大だ。

 

 流石は幻の撃墜王と言える。

 

 艦隊の集結と補給を待ちつつ、MSへのバリュート装着作業が始まっている。

 

 私はアーガマの艦橋に居た。

 

 それはアーガマの艦長を引き継ぐ為、ヘンケン艦長が席を外しているからだ。

 

 MS部隊の隊長は出来るが、艦の艦長の経験はそれ程はない。

 

 しかし私はアニオタでガノタでゲーム好きの何処にでも居る一般ヲタクだ。

 

 艦長キャラを模範としてそれっぽく努めれば格好はつく。

 

 取り敢えずヤマトの沖田艦長やナディアのネモ船長、スパロボのダイテツ艦長を頭に思い浮かべながら、私はエゥーゴで支給されているノースリーブの制服の上から1枚コートに袖を通して艦長席に座っていた。

 

 サングラスにそうして制服を着こなせばジャミル・ニートに見えるだろうか?

 

 ニュータイプを戦争の道具としてではなく、次代を築く者として、地球を荒廃させてしまった銃爪を引いてしまったという後悔の念を抱きながら若者を導いた大人。

 

 肖りたいものだな。

 

「補給艦第3陣、来ました」

 

「よし、補給艦から搬入したバリュートは随時各艦のMSへの装着を急がせろ。アルビオンからの定時報告はどうだ?」

 

「来ています。ティターンズ艦隊もグリプスとルナツーからの応援を集結させていると」

 

「わかった。アルビオンには引き続き監視を頼むと打電してくれ」

 

「了解!」

 

 トーレスとシーサーに指示を出しながら、私は艦長席に背を預ける。

 

 ブレックス准将やウォンさん達が頑張っているのもあるが、各サイドからの援助が手厚いのもあって、補給物資に関しては満足出来る量になっているし、艦隊もジャブロー降下作戦ではエゥーゴ側はアーガマとアイリッシュ級2隻、6隻のサラミスで構成されていたが、今この宙域にはコロンブス級やマゼラン級までも集い、戦闘艦は20隻を超えるだろう。

 

 潜在的なエゥーゴ支持の部隊が多かったらしいが、30バンチ事件で1500万人の虐殺を防いだ結果としてティターンズの蛮行が知れ渡り、エゥーゴに加わる部隊が多くなっている様だ。

 

 ことサイド1からの支援は他のサイドよりも多い。

 

 表立っての反ティターンズは掲げてはいないものの、しかし30バンチ事件の被害もあって、サイド1の各コロニーはティターンズを嫌っている。

 

 それを狙って動いたわけではないのだが、民意の声によってエゥーゴが本来よりも力を持った組織になっているのは事実として体感している。

 

 でなければオオワシやガンバレルストライカーを造る事など出来なかったさ。

 

「そうしていると艦長も様になりますね、クワトロ大尉」

 

 サエグサの言葉に、私は特にやる事もない為乗ることにした。

 

「艦隊はともかく、艦の指揮の経験はあるからな」

 

「一年戦争でですか?」

 

「いや、戦後の話だ。ア・バオア・クーの決戦で連邦軍はソーラ・レイも合わせて数多くの艦と艦長を失ったからな。ジオン残党狩りをしたくとも艦を動かせる者が居なかった。だから仕方なくやっていた時期もあるという程度だ」

 

「やっぱり大尉もニュータイプだからですかね?」

 

「人はそんなに便利な物ではないさ。やらなければならなかったからやった。それまでの事だ」

 

 終戦直後の連邦宇宙軍はズタボロ状態だったからな。

 

 なにしろレビル将軍を失い、ティアンム中将もソロモンに散っていた。

 

 宇宙軍を纏め上げていたトップが次々に居なくなってしまった結果、ワイアット大将がそれを纏め上げて行く事となるが、頭は居ても現場指揮官の不足は深刻だった。

 

 だから私もMSを駆る傍らで艦の指揮を執るという事までやらされた。

 

 何事も経験しておくのは良いものだ。

 

 それが後々活かされる時もある。

 

「クワトロ大尉、留守を悪かったな」

 

「いえ。これくらいの事はやれますよ」

 

 ブリッジのドアが開き、ヘンケン艦長とブライト中佐が入って来た。

 

「紹介しよう。本日付けで決まったブライト・ノア大佐だ」

 

「ほう。それは」

 

「よろしく頼む。クワトロ大尉」

 

「ホワイトベースの艦長が味方とあれば心強い」

 

「そうありたいものだが、大分感覚が鈍っている。慣れるまでご指導を頼みたい」

 

「光栄です。とはいえ、貴方ならば直ぐにでも慣れるでしょう、ブライト艦長」

 

 私はブライト艦長と握手を交わす。

 

「補給艦の第3陣が到着しています。予定ではあと2陣が合流します」

 

「大分規模の大きい艦隊ですね」

 

「連邦軍の本部を攻めようってんだからな。かき集められるだけの戦力を持ってきている」

 

「ここまでの艦隊を揃えられるのならば、グリプスを攻めたい所ですがね」

 

 なにしろソロモン攻略戦と同規模の艦隊陣容を組め、MSの数も200を超える予定だ。

 

 本来のジャブロー降下作戦に使えたMSは80機程だった筈だと考えるとかなりの大部隊を降下させる事となる。

 

 それ程大量の機体を降下させて、ジャブローからの脱出を考えると損失の大きさに頭が痛くなりそうだ。

 

 正しく空っぽの地下基地に敵を誘い込んで味方ごと吹き飛ばす。

 

 青き清浄なる世界のために、等というスローガンは無いと言うのに。

 

 あるいはこのジャブロー降下作戦と核での自爆作戦があちらの世界にオマージュされたのか。

 

 いずれにせよ、投下されるMSの数が多いという事はそれだけジャブローを制圧する戦力は足りるという事であり、ガルダへ乗せられない機体は全力で退避させる他無いだろう。

 

 核で吹き飛ばすとはいえ、ジャブロー全てが吹き飛んでいないというのはジョニ帰でやっていたし、核の範囲内から離脱出来ればそれで良いのだから。

 

 それ程までにジャブローは広大だったという事はジョニ帰を読んで初めて知った事だったが、考えてみればビンソン計画で再現した艦隊をジャブローから宇宙へ上げ、そしてルナツーで量産していたジムを受け取ってソロモン攻略戦やア・バオア・クー攻略戦をやったのだから、そうした艦隊を収容する程のキャパシティを考えれば当然の事だ。

 

「クワトロ大尉は、グリプスを攻めればこの戦いを優勢に出来ると?」

 

「かつての一年戦争でジオンがルナツーを放置した結果は、ブライト艦長が体験したと思いますが?」

 

「そうですね。ジオンの目が向かなかったからこそ、連邦軍はV作戦を進めることが出来たものですし」

 

「それがあるからこそ、私はグリプスを放置したくはないのですよ」

 

 グリプス2のコロニーレーザーが建造されるのを識っている身としては、空っぽのジャブローよりもグリプスを攻めたい。

 

 しかし、出資者の方々の関心はジャブローに向けられた。

 

 コロニーレーザーを建造しているという確証のある証拠を提示出来れば攻撃目標を変えることも出来ただろうが、私の撮影した写真ではその確証には至らない。

 

 であるからこうして無駄だろうと解っているジャブロー降下作戦をするしかない。

 

「やはり貴方は大佐であるべきではないですか?」

 

「私は現場で怒鳴っている方が性に合うのですよ。必要であったからエゥーゴの中核メンバーとなり、やらなければならない事をしてはいますが、所詮はその程度の一軍人が精一杯なのですよ」

 

 そもそも佐官となって後方に回されたら身動きが取り辛くなる。

 

 それではシロッコやハマーンを誰が止めると言うのだ。

 

 カミーユ? ジュドー・アーシタ?

 

 それこそナンセンスだ。

 

 大人の負債を子供に押し付け尻拭いをさせるくらいならば、意地でも現場に齧り付いて全てを終わらせるさ。

 

 だからこそ、人の上に立ち、世界を誤った方向へと持って行くことの無く導ける人間が必要なのだ。

 

 しかしこと此処に至ってこのまま事が進んでしまえば、腹を括るしかないだろう。

 

 でなければエゥーゴが優勢を手にすることが出来ないのだから。

 

 ふむ、此処はあれか。

 

 ギルバート・デュランダルの様に聞き心地の良い方便を並べ立てるか、敢えて私も、シャアに則った形で言葉を紡ぐか。

 

 ララァ、教えてくれ、私はどうすれば良いのだ。

 

「クワトロ大尉、頼まれて欲しい事があるのだが」

 

「なんでしょうか?」

 

「実は、妻子がジャブローに居るのだが」

 

「成る程。いや、皆まで言わなくても構いません。ご家族のいらっしゃる場所は?」

 

「地図を書く。出来れば宇宙へ連れてきて欲しい」

 

「その方が後顧の憂いも無く動けるという物です。了解しました、ブライト艦長」

 

「ああ。すまない、クワトロ大尉」

 

 TV版でも新訳でも、ミライさんはジャブローを抜け出し、ハサウェイとチェーミンを連れてニューホンコンまで逃れている。

 

 おそらくそのままニューホンコンに居を構えたのは逆シャアを観ても察せられる。

 

 それまでハサウェイは宇宙に出ていないとなると、そのまま地球暮らしだった事も判る。

 

 ならば宇宙へ上げて自身の庇護の届く場所に置きたいのは私にも解る事だ。

 

 これはシャアがブライト艦長の願いを快く引き受けたという事を抜きにして、私自身が個人の意思として引き受ける事に異議はない。

 

「クワトロ大尉」

 

「どうした、クロエ」

 

 大気圏突入の為の最終チェックの為に格納庫へと降りた私に、クロエが声を掛けてきた。

 

「どうしても、駄目なのでしょうか?」

 

 今回、私はクロエを地球へと降ろす気は無かった。

 

 宇宙へ戻れたのも綱渡りの様な物なのだ。

 

 そんな危ない橋を、彼女に渡らせるわけにはいかない。

 

「君には月でマッケンジー中尉とやって貰いたい事がある」

 

「X10A…ですね」

 

「そうだ。あれはこれからの戦局に必要となる力だ」

 

 激化するグリプス戦役に勝つ為にはエゥーゴの新型MS開発は加速させる必要がある。

 

 下手を打てばウーンドウォート等のオーバースペックMSまでも相手にしなければならないと考えれば、SガンダムやZZガンダムの早期実戦配備は急務である。

 

 言ってしまえばギレンの野望やGジェネで敵の開発速度を上回って高性能なMSで上からぶん殴る作戦をやっているのだ。

 

 少しでもそうしてティターンズやアクシズの優位に立つためには、優秀なパイロットが後方にも必要なのだ。

 

「君は良い子だ。解ってくれるな」

 

「はい。でも、心配です。ちゃんと帰って来てくれますよね?」

 

「ああ。私は、そう簡単には死なないさ」

 

「あ…っ」

 

 クロエの手を引いてコックピットの中へと招き入れると、その身体を抱き締めてやった。

 

「クワトロ大尉……」

 

 クロエの手が背に回されるのを感じながら、子供をあやすようにその背を抱く手を叩く。

 

「もしクワトロ大尉が地球から戻らなかったら、私が迎えに行きますから」

 

「君の手を煩わせるほど、赤い彗星は地に落ちてなどいないさ」

 

 そう言っておかなければ本気でクロエは私を迎えに来そうであるから、釘は刺しておく。

 

 彼女の意思は尊重したいが、それで全て許すというのも違う話だ。

 

 カミーユがパイロットをする事を認めながらクロエを後方に下げるとは依怙贔屓呼ばわりも辞さないが、必要であるから彼女を後方に下げるのだ。

 

『総員、そのままで聞いてくれ。本日をもってアーガマの艦長に就任した、ブライト・ノア大佐である。各自、大気圏突入の為のチェックは怠るな』

 

 ブライト艦長の艦内放送を聞いて、私はクロエを抱く腕を解いた。

 

「クワトロ大尉…」

 

「大丈夫だ。私を信じろ」

 

 不安気に私を見るクロエの頭を撫でてやる。

 

 思えばクロエと離れるのはこれが初めての事だったな。

 

 オーガスタの強化人間であるから、彼女を守る為にずっと隣に置いていた。

 

 しかし、それがこうも彼女の自立を妨げる事となってしまったのは私の落ち度だな。

 

 ふむ。

 

 とすれば、こうしてみるか。

 

「く、クワトロ大尉…っ!?」

 

「これで、良い子で待っていられるかな?」

 

「ぁぅ、……はい…」

 

 せめてもと思ってクロエの額に軽く口づけをしたものだが、やはり少し軽率だっただろうか。

 

 そろそろ艦隊の集結も終えて発進する事となるだろう。

 

 私はパイロットロッカーでノーマルスーツに着替える為に向かった。

 

「クワトロ大尉」

 

「カミーユか。フライングアーマーの調整は終わったのか?」

 

「はい。でも、あれで大気圏に突入出来るものなのですか?」

 

「私も使ったことがあるから心配は要らない。底部は超電磁コーティングされ、徹底した熱処理が施されている。あとは君がヘマをしなければ、と言っておく」

 

「そうやって煽れば乗るって思っているんですか?」

 

「煽てた方がやる気が出るものだろう?」

 

「釈然としませんね」

 

「MSのパイロットになるとはそういう事だ。無理難題を言われても従う他ないのさ」

 

「そうみたいですね。……その服、今日は珍しく長袖なんですね」

 

「ああ。艦長席を預かる時があったからな」

 

 長袖のクワトロ・バジーナなど、年中ノースリーブグラサンが頭に染み付いている私にはイメージには合わないと思っている。

 

 これが仮面を被っていたり、サングラスを外してオールバックにすれば長袖も合う物なのだろうが。

 

「良いんじゃないですか? はっきり言って、似合ってませんよ。ノースリーブ」

 

「そう感じるか?」

 

「茶化さないでください。そもそもクワトロ大尉はエゥーゴでも上の人なのでしょう? だったら確りした格好というものがあるんじゃないですか?」

 

「そうだな」

 

 私はノーマルスーツを着ながらカミーユの言葉を頭で反復させていた。

 

 確かに私はクワトロ・バジーナだ。

 

 しかし、私は私だと、そういうことなのだな、カミーユ。

 

 艦隊が集結し、降下作戦は開始された。

 

 艦隊総数は24隻となり、降下するMSもまた210機という大部隊だ。

 

 これだけ数が揃えばグリプスも落とせただろうと考えると儘ならない物だ。

 

『カミーユ機、発進よろし!』

 

『シュツルム・ディアス、エマ機、発進よろし!』

 

『リック・ディアス隊、発進よろし!』

 

 アーガマからカミーユのガンダムMk-Ⅱ、エマ中尉のシュツルム・ディアス、そしてアポリーやロベルト、リック・ディアス隊が発進する。

 

 そして最後に発進するのは私だ。

 

『クワトロ大尉、健闘を祈る』

 

「ああ。任せてくれ、ブライト艦長」

 

『すまない』

 

 私はブライト艦長へとそう返し、MSデッキでこちらを見るクロエに向かって、ビームライフルを握る機体のマニュピレーターを上げる。

 

 そして発進体勢が完了した側面の信号と発艦クリアを報せるメカニックマンの合図を認めて、スロットルレバーを上げ、スラスターの推力を上げる。

 

 さて、問題はこの私がどれだけ未来の水先案内人を引き受けられるかと言った所だが。

 

 いや、そうする必要があるというものだ。

 

「クワトロ・バジーナ、セイバー、発進する!」

 

 救世主の名を冠した赤いガンダムを駆り、私は青い地球へと向かって漆黒の宇宙に飛び立った。

 

 

 

 

 

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