ZGMF-X23S セイバー。
ザフトが開発したセカンドステージのガンダムタイプ。
カオス、アビス、ガイアがそれぞれ空間戦闘、水中戦闘、地上戦闘を得意とする機体ならば、セイバーは空中戦を得意とする機体だ。
変形する事で双胴戦闘機型のMAとなり、その空戦能力はバッテリー駆動機体でありながらフリーダムの性能と並ぶ、或いは一部上回っているとされている。
たった2年でワンオフ最新鋭MSが旧式化するというバカみたいな速度で技術進化をするC.E.のガンダムを開発した理由は、エゥーゴのジャブロー降下作戦以後、幾度も戦闘するアッシマーやギャプランといった可変機への対抗手段とする為だ。
複雑な可変機構を持つデルタガンダムやZガンダムの開発が頓挫ないし難航するのは分かっていた事であるのだから、それよりも簡易的で無茶のない変形をする機体を用意して対策する手段を私は実行した。
開発自体は宇宙世紀0083年から始めていたが、まだムーバブルフレーム技術も初期段階の試作品、その概念的アイディアがガンダム試作1号機ゼフィランサスで導入された頃だ。
さらに当時でもオーパーツであるフルバーニアンより倍以上の推力を求めれば開発が難航するというのは馬鹿でも判る。
しかし、そうして早期に可変機構想に手を付けておく事でティターンズとの開発競争に対抗する物と期待してでもある。
だが人型のまま空中を飛び続ける推力を確保する為のバーニアを開発するというのは思った以上に時間が掛かった。
そもそもバーニアだけでMSに自由自在な空中戦をさせるというのは、ジオンでもグフ・フライトタイプの開発史を見れば簡単に行かないことは明白であり、ティターンズでもイカロス・ユニットやバイアランといったあの手この手を使ってどうにか実現させた物の、可変MSとしても対応させようと言うのだから無茶な要求を並べ立てたというものだ。
MSへの憧れを我慢出来ず、そして家が家だから軍人となる以外の道は無かった私は、ルナツーで引きこもりをしながらMS工学を勉強していた。
そこでテム・レイとも知己を得る事も出来た。
私がテストパイロットをしていたのも、連邦軍では新機軸のMSという存在に早期から精通していたという事情もある。
工学としては初めて学ぶものの、理屈や概念、機能やその他諸々はガノタである私にはそれらを工学的に履修するという何とも心が躍る時間であった。
そんな私が手ずから図面を引いたセイバーはしかし、技術的な問題から完成したのは今年に入ってからだ。
フルバーニアンの倍の推力を目指し、そして大気圏突入能力、簡易的とはいえ可変機でありMS形態でも空中での自由飛行を約束させ、そして動力は別として武装もミノフスキー粒子に頼らないという様々なアプローチをした結果、完成が遅れてしまった。
しかしそのお陰で装甲やフレームにガンダリウムγを使用する事で剛性と装甲強度を保ちつつ機体の軽量化を実現出来た。
また、シャア専用ディジェの様にサイコフレームとバイオセンサーを搭載することで、Zガンダムのテストベッドも兼ねる事も出来ている。
もっとも、オールドタイプである私にはバイオセンサーを使う事は出来ず、機体の追従補助程度でしか効果を発揮しない。
そうして完成したセイバーは私が目指した要求値をどうにかクリアした機体として、このジャブロー降下作戦に投入することとなった。
とはいえ私が要求したスペックを達成した代わりに、テストパイロットとして良い腕を持つマッケンジー中尉でも振り回されるピーキーな機体に仕上がっている。
彼女曰く、こんな機体はアレックス以来だと言っていたな。
とはいえ、私であれば何ら問題は無い。
ネオ・ジオン総帥専用機として造られたサザビーでは大火力重装甲の有り難さはあってもシャアの特性を活かすのならばシナンジュの様な高機動型MSが適していると言われて久しい通り、私個人も高機動型MSを好んでいる。
リック・ディアスよりもフルバーニアンの方が肌に合うのもその通りである。
サザビーではなくナイチンゲールであれば最早MAとも呼べる機動性を持っている為、ベルトーチカ・チルドレンではアムロのHi-νガンダムでもあしらわれてしまうという性能を有しているのならば話は変わってくるが。
赤い彗星である私が赤いガンダムに乗って陣頭に立つというのは部隊の士気も上がる。
リック・ディアスは赤く塗られずに黒のままであり、シュツルム・ディアスは赤いままであるが、それは私用に用意されていた機体であり、色を塗り直す等という無駄な金を使っている暇はない。
シュツルム・ディアスも後続の機体は黒ディアスカラーで統一される運びとなっている。
それもこれも、私が連邦軍の赤い彗星として活動したが為だ。
赤い彗星という名は伊達ではない。
その色を人気があるからだとか、肖る為だとか、シャアであるクワトロ・バジーナが何処で作戦行動をしているかという欺瞞の為だとかで使わせる程安い物ではないのだ。
それ程までに「赤い色のMS」という存在は連邦軍でも特別な物となり、ガルバルディβも赤とは言えるがワインレッドに近い色であり、マラサイも明るめの赤とオレンジの混合というカラーリングだ。
私のリック・ディアスやシュツルム・ディアスの様に赤い彗星を彷彿とさせる色とは少し違うという配色だ。
それ程の事を、私はやって来た。
一年戦争終戦後、各地で抵抗するジオン残党の勢いを挫く為に持ち込まれた「連邦軍の赤い彗星」という役割を引き受け、そしてデラーズ紛争ではコロニー落としを阻止した。
どうやって阻止したのかと言われたら、ウラキ中尉がデンドロビウムで敵を引き付けている間に私は迂回してコロニーに潜入し、突入角調整の為に残っていた推進剤を使ってコロニーをスイングバイさせ、地球への落下コースから外れさせたというのが答えになる。
阻止限界点ギリギリではあったが、それで地球への落下は無くなり、癪ではあるが、あとはバスクのソーラーシステムⅡに任せた。
結果、北米大陸の穀倉地帯へコロニーは落下せず、地球の食糧危機を起こさせずに食糧供給の為のコロニーへの強硬姿勢を連邦政府が取る必要はなく、史実よりもスペースノイドは楽を出来た。
それでもティターンズ設立を許したのは、私が政治的にそれをどうにか出来る権限を持っていないという理由に尽きる。
所詮は連邦軍のジオンに対する嫌がらせのプロパガンダに抜擢された客寄せパンダだ。
しかし私は、それを逆手に取って連邦軍の赤い彗星という立場を使い倒した。
でなければゴップ大将との繋がりは保てていないし、30バンチ事件への介入も難しく、エゥーゴ設立にも影響を与えていただろう。
そして赤い彗星という名を擦り倒してダイクン派とも渡りを付けている。
30バンチやスウィートウォーターのあるサイド1は有り難いことに私の後援の様な立場を取ってくれている。
サイドひとつ分の援助というのは私が想像していた以上の物だった。
私も前世は生粋のアースノイドであったが、スペースノイドとして生まれて生活していればコロニー経済というものも実感としてある物だし、シャングリラや一年戦争で生まれた難民の為に急遽建造されたスウィートウォーターも知っているからこそ、無理をしていないかとも心配になる。
空気税等というわけのわからない税金が阿呆のように高いスペースコロニー。
しかしそれは金を持たせることでスペースノイドの生活に余裕を持たせて独立させる気運を育てず、また秘密裏に兵器を造る余裕すら無くさせるという連邦政府の賢くも姑息なやり方でもある。
しかしジオンの例やウォンさんの言葉にもあった通り、連邦政府はスペースノイドを甘く見すぎている。
一年戦争に勝利した事で増長し、腐敗した結果がデラーズ・フリートによる星の屑作戦とコロニー落としだ。
さらにはハマーンの跳梁を許し、果てにはシャアへアクシズを明け渡すという所まで行った。
フィフス・ルナを落としたシャアにアクシズを渡すなどと、普通ならば考える様な事ではない。
連邦政府はシャアのネオ・ジオンがフィフス・ルナ投入で精一杯で疲れていると思い、アクシズを渡してスウィートウォーターと組ませれば大人しくなるとでも考えたのだろうが、危機感が無さ過ぎるというか、思慮が足りていないと言わざるを得ない。
ゴップ大将にスポットが当たったのはジョニ帰であり、ゴップ大将ならばシャアの動きで地球潰しをされたら徹底的に潰すお立場である。
であるならばロンド・ベルに当時最新鋭であったジェガンが優先的に配備された陰にゴップ大将も居たのではないかと考えるが、そんな考察を今しても何もならん。
ともかく、そうした私の動きによって、赤いMSに乗るということは即ち、赤い彗星の名を背負うという意味を持つこととなった。
エマ中尉には可哀想な事をしてしまったが、旗印となる機体は居てもらう方が良い。
────!!
「……来たか、シロッコ」
この感じ、この押さえつけられる様なザラついたプレッシャー。
サイコフレームが増えた事で、私はその感覚をより感じ取ることが出来た。
私はセイバーを反転させ、艦隊後方へと向かう。
『クワトロ大尉?』
「エマは動くな! 隊列を組ませて地球へ降下しろ!」
私はエマ中尉へと指示を出し、セイバーの肩にアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を展開する。
高速移動している今は、脇の下で構えて命中率を上げる体勢を取ると、それで行き足が鈍る。
白と赤の閃光はシロッコのメッサーラの放ったメガ粒子砲と激突し、激しいエネルギーの閃光を散らした。
「何!?」
後方のサラミスを避けるように通り過ぎるメッサーラに対し、私はセイバーを向かわせる。
「人型程度で、このメッサーラに追い縋ろうと言うのか」
木星の高重力下での運用がされているメッサーラの推力はMSというよりMAのそれだ。
設計思想はZ系列の様なMAに変形するMSではなく、MAがMSに変形するというアッシマーやギャプランのそれである。
しかしこのセイバー、侮っては困る!
「変形しただと!? しかし、所詮は大気圏内用の機体だ。このメッサーラを見縊るな!」
「逃さんよ、シロッコ!」
スピードを上げるメッサーラに、私もセイバーのスロットルレバーを上げ、機体を加速させる。
「言葉が奔った? この気配は先日の…。だからなんだと言う!」
メッサーラがMA形態からMSへと変形し、それによって速度が落ちた事でセイバーはメッサーラを通り越してしまう。
「落ちろ、カトンボ!」
メッサーラがメガ粒子砲を放って来るが、それをバレルロールで回避し、機首を反転させると、真っ直ぐ正面からメッサーラへと突っ込む。
「正面からだと? 小癪な!」
メッサーラが右手にビームサーベルを抜くが、その斬撃を機体を捻って躱しつつ、MSへ変形しながら引き抜いたビームサーベルでメッサーラの左腕を斬り飛ばす。
「バカなっ、この私を上回るとでもいうか!?」
横を擦り抜けたセイバーに向かって反転したメッサーラがメガ粒子砲を乱射するが、その火線を見切って回避しつつ、後方への牽制にスーパーフォルティスビーム砲を撃ち返す。
砲塔の可動軸に自由があるというのは、態々前方へ砲身を向けずとも背中に向けて撃てるのだから便利な物だ。
「その傲慢さが己を殺すと知れ! パプテマス・シロッコ!」
MAへ変形しながら機体を翻し、スーパーフォルティスビーム砲とビームライフルを撃ってメッサーラの動きを牽制する。
「くっ、貴様は何者だ! 亡霊か虚無か、それとも生者か。ニュータイプの出来損ないがこの私を
メッサーラの放つメガ粒子砲と腕部マシンガンに肩部ミサイルを、ピクウス76mm近接防御機関砲で迎撃し、メガ粒子砲はバレルロールで躱し、腕部マシンガンはガンダリウム合金の装甲を信じて無視し、爆炎の中を切り裂いてセイバーをMSへと変形させる。
「人呼んで、グラハムスペシャル!!」
「何を言っている!!」
高速機動しながらの変形ともなれば、そうした言葉が口を吐いて出るものだ。
私はガノタなのだ、ガノタを侮っては困る。
メッサーラの振るうビームサーベルをシールドで受け止める────と見せ掛け、シールドを射出すると、シールドの補助翼のある幅の広い方の先端からビームサーベルが出力し、そしてシールドの両脇から翼の様にパーツが展開するとそこからもビーム刃が出力し、振り下ろされんとしたメッサーラのビームサーベルを握る手首を斬り落とした。
「シールドが飛び回るだと!? 小賢しい真似をっ!」
「貴様はここで貰う、シロッコ!」
ビームサーベルを握る手首を斬り落とされたメッサーラは、腕を振り下ろして空振った大きな隙を見せる体勢となっていた。
そこを逃す私ではない。
眼前に見える巨大なバーニアスラスターへとビームサーベルを振り下ろさんとした時だった。
────!!
「くうううっ」
機体を無理やり捻りながらビームサーベルで切り払ったのはビームライフルの閃光だった。
飛び散ったメガ粒子の向こう、ビームが煌めく光源の先にある影。
「出て来たか!」
フライングアーマーに乗ったガンダムMk-Ⅱ試作0号機。
「逃すか、シロッコ!」
私がガンダムMk-Ⅱ試作0号機に気を取られた一瞬の隙に、MAに変形したメッサーラは一目散に離脱して行く。
「メッサーラをこれ以上壊されるのは気に食わん。あとはガンダム同士で戯れていると良い」
メッサーラを追おうとするが、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機がビームライフルを撃ってこちらの行く手を阻む。
「ええいっ! 邪魔をするな、アムロ!!」
メッサーラを取り逃がす事となった憤りをぶつける様に、私はガンダムMk-Ⅱ試作0号機へと相対する。
シロッコを仕留め切れなかった事が後にどの様に響くかは私にもわからない。
しかし今、このガンダムMk-Ⅱ試作0号機を無視してシロッコを追うことは出来ても、そうすればエゥーゴのMS部隊が壊滅的被害を被る可能性が大き過ぎる。
ビームライフルを撃ち合うが、互いにそれは当たらずに閃光は過ぎ去って行くのみだ。
フライングアーマーから離脱し、ビームサーベルを抜くガンダムMk-Ⅱ試作0号機に合わせ、セイバーにもビームサーベルを抜かせ、鍔迫り合う。
「この私の邪魔をしようというのか、アムロ・レイ! 連邦軍の白い流星が地に落ちたものだな!」
ここまで接近していれば近距離通信と光通信で聴こえている筈だが、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機から応答はない。
「邪険にあしらうか。ならばその真意、見極めさせて貰う!」
スラスターの出力を高め、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機を押し込むセイバーであるが、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機は鍔迫り合っていたビームサーベルを受け流し、こちらの背後に回る。しかし、量子通信でコントロールするシールドブーメランがさらにその背後から襲って来る。
だがそれすら、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機はシールドの裏を蹴り上げて弾き飛ばす。
セイバーを上へと離脱させ、シールドを回収しながらビームライフルとスーパーフォルティスビーム砲、アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を展開し、頭部の20mmCIWSも合わせたフルバーストを放つが、そのビームの隙間をガンダムMk-Ⅱ試作0号機は縫って向かってくる。
「チィィィっ」
私は舌打ちしながらセイバーを駆りつつヘルメットを脱ぎ捨てて、ノーマルスーツの首元を緩める。
「遅いぞセイバー、ヤツの反応速度を超えろ!」
弾幕を張ってもそれを苦も無く擦り抜けてくるガンダムMk-Ⅱ試作0号機。
しかしここで退く事は出来ない。
「ティターンズが追い付いてきたか…!」
エゥーゴ艦隊が艦砲射撃を始めた。
そうする必要があるのは、こちらのMS部隊の降下作戦を阻止する為に来たティターンズのMS部隊を妨害する為だ。
こちらのMS部隊の降下は始まっている。
このまま私がガンダムMk-Ⅱ試作0号機を抑えていれば、あとは任せる事も出来る。
ガンダムMk-Ⅱ試作0号機は稼働時間も短い。
それまで粘り続けることが出来れば、私の勝ちだな。