「チィィィっ」
もう何度目の交差になるだろうか。
互いにビームが当たらないとなれば、近接戦闘となるのは無理もない。
ビームサーベル同士がぶつかり、閃光を散らす。
擦れ違った瞬間に機体を宙返りさせ、脇の下に展開した砲塔からスーパーフォルティスとアムフォルタスを発射間隔をズラして撃つが、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機も宙返りをして射線から逃れる。
ただあちらはビームを撃ってこない。
ガンダムMk-Ⅱ試作0号機のビームライフルはEパック方式であり、その威力がマゼラン級主砲と同等である分エネルギー消費が高く、また威力を追求した結果、発射時の縮退したメガ粒子を放つ反動が強くなって命中精度の低下を招くという弱点を抱える。
運動性を追求して設計され、増設されているバーニアの分悪くはない機体であるが、稼働時間は短いという欠点もある。
こちらが激しく動き回るのに対し、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機は迎え撃つ形で動きも最小限であるのは、そうすることで推進剤の消費を抑えているからだ。
これを強引に崩して動かす事が出来れば、こうした千日手等しなくて良いのだが、私の目標は目の前のガンダムMk-Ⅱ試作0号機を倒すことでは無く、エゥーゴの降下部隊がジャブローへの降下軌道に突入し、艦隊が離脱するまでの時間稼ぎだ。
つまり無理に倒す必要が無く、この場にガンダムMk-Ⅱ試作0号機を釘付けにしていればそれで良い。
しかし、相手が相手である。
1手打つ度に冷や汗を掻かせられる。
こちらが攻撃の意思を見せた瞬間には対処しようと動くのだから、ビームは当たらない上に、ビームサーベルでの格闘戦ですらやりたくはないのだが、しかしビームを撃ち合っても有効打にならないのだからビームサーベルでどうにかするしか無いという、こちらのペースであるはずなのに、逆にこちらが手玉に取られているという錯覚を感じてしまう。
こちらはエネルギーの続く限りとデバイスが保つ限り撃ち続けられる為に有利ではあるが、それでも攻め切る事が出来ない歯痒さは拭えない。
私は今、ガンダムのパイロットを只者じゃないと思った。この解りかたが無意識の内に反感になる。これが、オールドタイプということなのか──。ジェリド、アンタには無理だ。魂を重力に引かれてる奴には…っ。ジェリド──!!
「今の感覚、ライラ大尉か…」
恐らくはカミーユがやったのだろう。
言葉が奔って聞こえたのはサイコフレームがその思惟の散華を拾ったからだろう。
ニュータイプを切り崩す方法となると、相手が全く予想出来ない事をするというのが最適解だ。
それはクロスボーン・ガンダム スカルハートを参照すれば思い付く事であり、セイバーのシールドをシールドブーメランとして改造したのはその為だ。
あのシロッコに対しても有用であるのだから、シールドそのものが武器であるという概念がまだまだ気薄いからこそだっただろう。
ザク系のスパイクシールドや連邦軍でも陸戦型ガンダムや陸戦型ジム、ジムスナイパーⅡWD仕様、ジム・ストライカーの打突系シールド。
ガルバルディβやガンダムMk-Ⅱにはシールドランチャーが備わっており、グフカスタム等のシールドガトリングや、その内側の三連装ガトリングの例にある様にシールドの内側や外側、内蔵型と言った武装を携行するタイプも存在している。
しかしそれは、どれもこれもシールドに付随するものであり、シールドそのものが射出され、ビームソードやビームサーベルを出力して遠隔操作で飛び回るというのは幾らニュータイプであろうと埒外のものだろう。
ユニコーンのシールドの様に飛び回るシールドという概念こそあれ、シールドそのものが飛び回ってビーム刃で敵を切り裂くというのは、そういう物もあるのかと感服させられたものだ。
しかしシールドブーメランは既に見せてしまっているから通用しない。
とはいえ、やってやれないわけでもない。
シールドを射出し、ビーム刃を出力させれば、当然回避行動に移る。
シールドであるから撃ち落とすというのは強度的に難しく、ではコントロールを読み取って撃ち落とすのかと言えば、シールドブーメランの制御はサイコミュではなく量子通信である。
神経接続によってコントロールされているが、その信号は機械的な物であるからサイコミュのコントロールを読み取って撃ち落とすという事は出来ない。
それでも避けてくれるのがニュータイプという物なのだが。
しかし、これはどうかな?
射出したシールドの表面に向かってビームライフルを撃つ。
ラミネート・アンチビームコーティングされたシールドは着弾したビームを弾き、その軌道を変えて回避行動を行ったガンダムMk-Ⅱ試作0号機の右肩を掠めた。
スーパーコーディネイターに通用する戦術は、あのアムロ・レイにも通用する事が判った。
こうなればシールドブーメランも無視出来ないさらなる脅威となる。
肩にビームを受けた事で意表を突かれたと認識した為だろう、動きが一瞬止まるガンダムMk-Ⅱ試作0号機の間隙を突き、そのまま射出したシールドブーメランを突撃させれば、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機はシールドでシールドブーメランを受け流した。
ビームサーベルを抜きながらセイバーを吶喊させる。
シールドブーメランを受け流した事でガンダムMk-Ⅱ試作0号機は半身となるが、しかしその体勢から反撃する事はほぼ不可能である。
ビームサーベルを振るって脇の下から撃たれたビームライフルのビームを打ち払う。
しかしそれでこちらもビームサーベルで打ち払う事でセイバーの右腕は機体の後ろの方へと流れてしまう。
受け流されたシールドブーメランで再度攻撃を加える。
今度はわざとガンダムMk-Ⅱ試作0号機のシールドへとぶつける事で、正面の守りを引っ剥がす。
そして無手の左手で左肩のビームサーベルを引き抜く。
しかしそれを振り下ろすのではなく、左腕をビームサーベルを引き抜いた勢いのまま機体の前へと持って行き、左手で握るビームサーベルの柄を、振り切った右腕のビームサーベルの柄に連結させる。
アンビデクストラス・ハルバード形態のビームサーベルを引き戻す様にして突きを放つ。
ビームサーベルの柄を連結させるというのも宇宙世紀では珍しい物だ。
私の心当たりでもストライカーカスタムのツイン・ビームサーベルやシナンジュのビームアックスを連結させたビームナギナタくらいの物だろうか。
ビームナギナタとして見られてしまえばそれまでの話であるのだが、引き抜いたビームサーベルで直接斬るのであれば一歩下がってその斬撃から逃れられるが、吶喊した勢いのまま放つ突きは意表を突けた。
僅かに回避が遅れたガンダムMk-Ⅱ試作0号機のバックパックの右側フレキシブルバーニアスラスターを貫く。
そしてそのままガンダムMk-Ⅱ試作0号機の頭上を過ぎ去りながら踏み台にする様に蹴り飛ばす。
それによって前のめりになるガンダムMk-Ⅱ試作0号機に、セイバーを反転させる。
こちらへと振り向くガンダムMk-Ⅱ試作0号機だが、その時には既にセイバーはガンダムMk-Ⅱ試作0号機へと組み付いていた。
そして推力に物を言わせて押し込む。
ガンダムMk-Ⅱ試作0号機を戦いながら少しずつ地球の引力圏へと誘い込んでいたお陰と、体勢も上から押さえ込む様に組み付いた上で推力もセイバーが圧倒しているのなら、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機はそのまま地球へ向かって押し込まれるしかない。
シールドブーメランを回収しながら押し込むガンダムMk-Ⅱ試作0号機が大気圏突入の摩擦熱で赤く染まり始める。
『どうするつもりだ、シャア!』
「こうしてしまえば無線は通じん。訳を聞かせて貰おうか、アムロ・レイ」
そう、大気圏突入となれば短距離通信は可能だが、中・長距離通信は不可能となる。
しかし今、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機と組み付いているセイバーであれば接触回線で会話する事が出来る。
そして耳に聞こえた声は間違いない、アムロ・レイだ。
『貴様が情けないせいで…』
「どういう事だ?」
『貴様という男は、妹すら守れないのか! 見損なったぞ、シャア!』
成る程、軟禁されているはずのアムロがこうしてガンダムに乗っている理由はセイラ・マスを引き合いに出されたからか。
まさかシャアが私の前に現れないのもそれが関係しているというのか?
私はセイバーをMAへ変形させ、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機の下に出る。
「乗れ、アムロ・レイ。そのまま燃え尽きて終わるのか!」
『くっ、貴様に情を掛けられるとは』
セイバーの背にガンダムMk-Ⅱ試作0号機が乗ると、私は通信回線の映像を開く。
「直接会うのは初めてだな、アムロ・レイ」
『何をふざけた事を言っている!』
「そう憤るものではない。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉だ。シャア・アズナブルではない」
『ふざけるな! 貴様がシャアでなければなんだと言うのだ!』
「今言った通りだ。私はクワトロ・バジーナであると。それ以上でもそれ以下でもない」
『クワトロ・バジーナの名は知っているとも。だがそれは、貴様がダイクンの名を捨ててシャアを名乗ったのと同じではないのか!』
「残念ながら違うな。ウソだと思うのならば後で調べてみると良い。私の軍歴とシャアの軍歴が矛盾する部分が出る。それに、私はア・バオア・クーで君と肩を並べ、そして君の声を聞いて命拾いした。ララァ・スンが死んだ時も、シャアのゲルググと先に戦っていたのは私だよ」
『シャアと戦っていた……あの時のガンダム…』
やれやれ、何故私とシャアは別人であるというのに、何度もシャアと戦ったアムロまで私をシャアだと思うのか。
教えてくれ、ララァ、何故なのだ?
『ララァ…』
急に大人しくなってしまったアムロを怪訝に思いながら、私はセイバーを降下させる。
Zガンダムが背中に百式やキュベレイMk-Ⅱを乗せて大気圏突入をしているのだから、セイバーでもそれは可能である。
「それで、シャアの妹となればアルテイシア──セイラ・マスがティターンズの人質となり、仕方なく君は戦わされたと見受けられるが」
『……その通りだ。他にも友人が数人捕まっている』
「場所は判るのか?」
『わからない。だがカイ・シデンがジャブローに居るというのは向こうから報せてきた』
「ならば好都合だな。アムロ・レイ、我々に協力する気はあるかな?」
『……俺はまだ、貴方を信用しきれてはいない』
「同感だな。だが、解るだろう。このままティターンズの意のままにされても人質を救出する事は出来ないと」
『それがエゥーゴに出来ると言うのか?』
「余り貸しを作りたくはない御仁の協力もあれば可能だ」
『…………』
考える為に口を閉ざすアムロを見やる。
余り時間は無いのだが、急いでも答えを強制させる。
かつてアムロは同志となれと言ったシャアの手を取らなかった。
しかし7年が経ち、シャアと語り合ったアムロはたとえ一時であろうともシャアと同志となれたのだ。
この私の声が疑いを生むのならばそれは仕方の無い事だ。
ララァ、私の声が聞こえていればアムロを導いてやってくれ。
『これは……』
赤く燃え盛る視界、その眼下に見える青と緑の星──。
それが蒼く光って見える。
いや、蒼く見えているのは海の所為ではない。
蒼と虹色に輝いて見えるその光景。
「サイコフレームか!」
腰とシートの下にあるサイコフレームから蒼い光が放たれていた。
『シャア…、ララァ・スン……、それに…』
大気圏突入が終わり、摩擦熱が晴れると同時に蒼い光も消えてしまった。
眼下にはジャブローのある木々の生い茂るジャングルとアマゾン川が見える。
「どうするのだ、アムロ・レイ」
『……わかった。貴方を信じよう、クワトロ大尉』
「それは良い返事を聞けた」
あのアムロ・レイを味方に出来たのはこれ以上なく心強い。
一番最後方で突入したセイバーとガンダムMk-Ⅱ試作0号機は、先に突入を開始したエゥーゴのMS部隊、その後を追って突入したティターンズ部隊よりまた離れて最後尾でジャブロー上空を降下していた。
「識別信号は切っておいてくれ」
『既にやっている』
「流石だな」
これでティターンズ側はアムロのガンダムMk-Ⅱ試作0号機の所在を確認出来ないと言うことだ。
さて、このまま降下してジャブローを制圧する事は出来るだろうが。
既にジャブローからの対空砲火が始まっている。
ここでガノタならば言いたいセリフがあるのだが、文面的には情けなさを醸し出すから自重するとして。
「流石はジャブローだ。何機のMSが降りられるか」
赤い彗星としてはこの台詞は言っても良いだろう。
『お、降りられるのかよぉ!』
『ジャブローのバカどもが! こっちだって一緒に降りてるんだぞ!』
『味方の弾に当たるなんてヘマするなよ!』
エゥーゴの降下部隊を迎撃する為の対空砲火が行われているが、ティターンズの降下部隊も混じっているのだから、さもありなん。
「お手並を見せて貰おう。遅れるな、白き流星!」
『やってみせるさ、赤い彗星!』
セイバーの機首を降下体勢から下へと向けて加速させる。
機首のスーパーフォルティスとアムフォルタスを放ち、ティターンズの降下部隊の背後を突く。
『なんだ!?』
『後ろからだと!? 何処のバカが撃ちやがった!』
『エゥーゴがまだ後ろに居たってのかよ!?』
セイバーの背からガンダムMk-Ⅱ試作0号機が跳び立ち、私もセイバーをMS形態へと変形させ、シールドを射出し、ビームサーベルを抜いて降下中のハイザックを切り裂く。
跳び立ったガンダムMk-Ⅱ試作0号機もビームサーベルを抜いてハイザックを切り裂くと、その手のビームライフルを奪い取って別のハイザックを撃ち抜いた。
背後の異常に気付いたティターンズ部隊が振り向いてビームライフルやザクマシンガンを撃ってくるが、それをバレルロールで回避し、擦れ違いながらビームサーベルで切り裂いて行く。
通り過ぎた他のハイザックへ向けて機体を宙返りさせ、肩の方に展開させた砲塔からアムフォルタスを放って胴体を撃ち抜いて行く。
降下速度を落とす為にパラシュートを開き、バリュートの減速用スラスターを噴かすハイザックを踏み台にして八艘跳びの様にそれを次々とやって落下速度を落とし、地上に降りたガンダムMk-Ⅱ試作0号機の横にセイバーを降り立たせる。
対空砲火はそれ程でもなかったと言うことは、やはりジャブローは空き家という事か。
これからどうした物かと考えるが、一先ずガルダを確保し、またカイ・シデンの救出はしなくてはならない。
ブライト艦長からの頼まれ事もある事だしな。
現れたハイザックをビームライフルで撃ち抜きながら機体を屈めれば、セイバーの頭上をガンダムMk-Ⅱ試作0号機の放ったビームが過ぎ去り、背後に居たハイザックを撃破した。
『その赤いガンダムはジャングルだと目立ち過ぎる』
「私色に染め上げた機体だからな」
MA形態に変形させたセイバーの上にガンダムMk-Ⅱ試作0号機が乗ったのを確認すると、ジャングルの上を抜けて一気にガルダ級の滑走路へ向けて飛んだ。
人命が懸かっている。
気が乗らないとは言えんな。