『ああ、クワトロ大尉。こんな時に何用かな?』
ゴップ大将。
ジャブローのモグラと言えば代名詞として思い当たる人間も多いだろう。
長年無能だと言われてきたゴップ大将であるが、先ず以て連邦軍で大将となっているのだから無能という筈がなく、1stガンダムでもアムロ等民間人がV作戦に触れた事を罪には問わないと公言した人物である。
それによってアムロ等は軍事機密に触れた上に民間人の身でありながら軍用兵器を運用し戦闘行為を行ったという、良くて拘束監禁、悪ければ銃殺も有り得る立場を脱した。
その代わりに軍人とならされたが、そうすることで現地徴用兵として戦闘行為を行ったという書類上の辻褄合わせもやったのである。
まぁ、食えない狸爺という老獪さという面もあるものの、レビル将軍が表立って軍を率いた裏で、連邦軍の兵站を支えた傑物であり、表立って動く人間にスポットライトが当たるのは当たり前であるが、そうした影で支える人間がいるからこそ戦える事を理解しなければならない。
「ジャブローに核爆弾が仕掛けられているという報告を受けました。その解除コードを教えていただきたいのです」
『ふむ。このジャブローを自爆させ、エゥーゴの戦力を奪おうというのか。君等もかなりの大部隊を用意した様だからな。それが無くなってしまうと、エゥーゴも困るわけだ』
「はい。それに、アマゾン川流域で核を爆発させれば、それによる汚染は計り知れません」
『確かにそうだな』
私がゴップ大将と関わる事となったのは、一年戦争後の連邦軍の赤い彗星を引き受けた時だった。
それまでの私は士官学校を出た後はルナツーで引きこもっていた。
つまり上司はワッケイン司令である。
ソロモン攻略戦では、私はティアンム艦隊へ配置換えとなり、G-3ガンダムでドズルの遣わせたグワラン艦隊を撃破したのだが、ビグ・ザムを相手にハイパー・バズーカを撃ち込んでもビクともせず、ハイパー・ハンマーをぶつけても止まらず、結局ティアンム艦隊は壊滅してしまった。
ソロモン攻略戦終了後はワッケイン司令のマゼランに乗艦した事でテキサスコロニーにおいてシャアのザンジバルとの撃ち合いの時、リック・ドムに乗ったシャアと戦っていたが為に充分な援護をする事が出来ず、艦は深傷を負ったもののワッケイン司令は無事であった。
ソーラ・レイによってレビル将軍を失った連邦軍を建て直したのもワッケイン司令であり、戦後連邦宇宙軍の司令官として引き続きルナツーの基地司令をしていらっしゃる。
とはいえ階級が少将である為に、ワイアット大将が実質的な連邦宇宙軍の総司令官であったのだが、ワイアット大将はサイサリスの核弾頭で散ってしまった上、改革派のコーウェン中将も失脚した為、連邦宇宙軍はジーン・コリニー大将の管轄下に置かれている。
ティターンズが連邦宇宙軍を顎で使えているのも、ジャミトフがコリニー派閥に身を置いているからである。
私が連邦軍の赤い彗星を引き受けた後、私は地上で激しい抵抗を続けるジオン残党の鎮圧の為にジャブローに降り、そこでゴップ大将と面談をする事となった。
そこから連邦軍の赤い彗星をしつつ、最終手段としてゴップ大将の口添えをして貰うこともあった。
「それと、セイラ・マス──アルテイシア・ダイクンの所在についてもお教え願えればと」
『核爆弾の解除コードは教える。だが、後者を知って何をするつもりかな?』
「ティターンズの人質となっているのであれば然るべき措置を取ります」
少なくともセイラ・マスを助けなければアムロも大手を振って戦えず、シャアも出て来る事が出来ないと私は考えている。
『君はシャア・アズナブルに拘り過ぎているな』
「赤い彗星をやるのです。私は凝り性なのですよ」
『そうだな。しかし、ジオンの遺児が居なくなった所で君が困る事もなかろう』
「私は一軍人に過ぎません。スペースノイドの期待を背負う事など出来ませんよ」
『君のお陰で色々と骨を折っているのだから、その分の働きはして貰いたいのだがね』
「傀儡としてならば演じる事も出来ましょう。しかし閣下はそうすることを望まれていないのでは?」
『察しが良いな、クワトロ大尉。昨日付けで少佐に上げ、今日付けで中佐、この電話で大佐をやってもらう』
「随分と強引では?」
『でなければ核爆弾の解除コードを扱えんよ』
「……了解致しました。クワトロ・バジーナ大佐として任務に邁進致します」
『よろしい。では速やかに核爆弾の起爆装置を解除したまえ。ただ、解除コードを入力させない為に中央管制センターの回線を切っているだろうが、元帥府のある統合参謀本部のコントロールルームからの有線回線は生きているだろう。幾らジャミトフでもそこまで踏み入る事は出来ない。解除コードを入力したら私の所に顔を出してくれ』
「はっ!」
私はゴップ大将から核爆弾の解除コードを聞き、ズゴックに乗り込むと、待っていたアポリーのリック・ディアスに付いて行く。
エリア1のビルで尋問は行われており、ズゴックの中から腕を踏み台にして直接窓から尋問室の中へと入る。
「クワトロ大尉、核があると確認されました」
私はロベルトからその報告を聞いて頷く。
「全部隊への退避勧告は出しているな?」
「外縁部のMS部隊は自力での退避を開始させています。ただ内部へ侵入した部隊の引き上げが間に合うかどうか」
「ジムⅡは放棄、最悪はネモも一部放棄は已むを得まい。ジャブローにあるガルダでどれくらい乗せられる?」
「降下に成功したネモ部隊を収容しきれるペイロードはあります。人員に関しては」
「1000人や2000人は乗せられる!! だから早くここから出してくれ!」
ロベルトからの話に割って入ったのは尋問されていた連邦軍の制服を着る人物だった。
「出しはする。だがその前に核爆弾の解除を試みる」
「無理だ! 地下150mに埋まっている上に回線も切られてる!」
「本当か? ロベルト」
「はい。コントロールセンターからは回線が物理的に切られていて、解除は無理だと」
「だから早くガルダでの脱出をだな」
「統合参謀本部の方はどうなっている?」
「参謀本部ですか? そちらに人員を配置してはおりませんが」
「そっちにもコントロールセンターがある。そこからの回線は切られていないだろう」
「ではそちらに工作部隊を」
「いや。今からでは万が一もある。時間の猶予は?」
「あと30分程です」
「なら私が行く。皆はガルダに乗り込み、時間になったら離陸しろ」
「本気ですか大尉。時間はあまり無いのですよ?」
「そうです大尉、脱出が最優先ですよ」
「ジャブローを無傷で手に入れられれば今後の地上での活動拠点として使える。保険は掛けてあるが、それで蒸発してしまえば建て直しが利かなくなる」
「大尉の代わりは居ないんですよ? 行くのなら自分が行きます」
「駄目だ。アポリーは各部隊のガルダへの収容の指揮を執れ。ロベルトはガルダの発進準備だ。捕虜も可能な限り収容しろ」
「はっ」
「了解しました。お気をつけて」
「わかっているさ」
「すまない。この事は連邦政府に連絡して君たちの行為を」
「人質には利用価値がある。だから助ける」
私はズゴックへと乗り込み、コルベットブースターを噴かして統合参謀本部のあるジャブローの最奥へと飛んだ。
◇◇◇◇◇
「この俺に、ガンダムをあっさり任せるとは」
クワトロ・バジーナ。
一年戦争終戦後、連邦軍の赤い彗星としてその名を馳せたニュータイプと噂される人物。
ジオンの赤い彗星のシャアが連邦軍に鞍替えしたと専らの噂であり、ティターンズでもそう教えられた。
ニュータイプであっても連邦政府に軟禁されていないのは、連邦軍の赤い彗星という存在を喧伝する為に使われているからだと言うことらしい。
そんな連邦軍の赤い彗星がエゥーゴに参加したからと、俺はセイラさんやフラウを人質に取られてティターンズに入らされた。
ガンダムMk-Ⅱを充てがわれ、そしてクワトロ大尉と撃ち合った。
その動きも何もかも、俺の知るあの赤い彗星のシャアの物だった。
7年も軟禁され、骨抜きにされた俺では、あの赤いドムタイプのMSに注意を引かせなければ危うい程だった。
一年戦争からその後もジオン残党鎮圧の為に戦い続けたシャアであればそれも納得出来る。
ザビ家への復讐を終えた奴が次にする事となれば、それはニュータイプの時代を作ることだろう。
ティターンズのあの空気を肌身で感じれば、エゥーゴに入ってティターンズを敵とするのも理解出来る。
そうすることでスペースノイドを纏め上げてニュータイプの時代を作るというのも頷ける。
だからこそ、血を分けた妹すら守れないシャアに腹が立った。
ララァを戦いに巻き込んだばかりか、妹すらも守れない情けない奴に負けっぱなしなのは性分でもない。
だから本気で墜とすつもりだったというのに、こちらの動きを全て把握しているかの様に一手一手を完璧に対処された。
あれでシャアではないと言われて納得出来るものでもなかった。
でも、ララァが言った。
そして大気圏突入の時に見た光景。
シャアとララァ、そして仮面を被った男。
一瞬でしかなかったその光景。
でも俺は、それを知っている。
あの時、ララァが見せてくれた物。
ララァは時が見えると言っていた。
それがなんなのか、未だに俺にはわからない。
7年も地球に縛られた俺には、あの時程の力は無くなっていた。
ララァが言ったから、クワトロ大尉はシャアではないのだろう。
しかし、俺はシャアの素顔こそ見てはいないが、その声や気配、佇まいを知っている。
赤い彗星を名乗っているクワトロ大尉からはそのシャアの声、そして気配と佇まいが自然と感じられ、なのに別人だと言うのは理解出来なかった。
しかしセイラさんやフラウを助けられると言うのならば手を貸す以外に、俺に出来ることはない。
ティターンズの言いなりのまま機を窺うよりも、その方が身動きはし易いと思ったからだ。
カイさんとは合流出来た。
ガンダムMk-Ⅱに乗るカミーユ・ビダンという少年のお陰だ。
だが、あんな年頃の少年を戦場に立たせるとは。
クワトロ大尉はシャアと同じ過ちをするのか。
それともエゥーゴはそれ程人手不足なのか、或いはやはりクワトロ大尉はシャアであり、カミーユの才能にララァの影を見ているのか。
「それじゃあ、セイラさんが何処に居るのかは分からなかったんですか」
「ああ。フラウの奴はガキんちょ共と一緒に、ミライさんが連れ出したってのは確認が取れてる。行き先は分からんがね」
「そうですか…」
俺はフラウが一先ず無事であることに安堵した。
彼女に何かあれば、ハヤトに向ける顔が無いからな。
「しっかし、ガンダムにあんな子供を乗せるたぁね。噂のクワトロ大尉もどうかしてるぜ」
一年戦争で戦いに巻き込まれて、生きる為に戦ってきた。
でも今は違う。
エゥーゴとティターンズ。
それは連邦軍の内輪揉めでしかない。
そんなことの為に子供の手を汚さなければならないのは間違っている。
『赤いズゴック…、クワトロ大尉!』
短距離通信でもまともに会話が出来ない程の電波ジャミングのため、機体の外部スピーカーを使うか、接触回線かレーザー通信でしか意思疎通が出来ない。
外部スピーカーに乗って聞こえたカミーユの声に機体を止めると、赤いズゴックが降り立った。
『クワトロ大尉、ここに核が仕掛けられたって、本当なんですか?』
『ああ。私は今からその爆弾の解除に向かう。カミーユはこのまま脱出しろ』
『爆弾が解除出来るなら脱出する必要はないんじゃ』
『何事にも万が一はある。アムロ・レイ、あとを頼む』
『クワトロ大尉も死ねない身なんですから帰って来てくださいよ! 宇宙でクロエさんが待っているでしょ!』
『わかっているさ。急げ、カミーユ!』
そう言い残して、クワトロ大尉のズゴックは飛び去って行った。
「今のがクワトロ・バジーナ大尉か。アムロはどう思ってるんだ?」
「まだ確証はありません。でも、シャアだと思えてしまう感じがあるんです」
「そうかい。んま、オレはニュータイプじゃないから分からんがね。ただ、本当にあのシャアだとしたら、4年前のコロニー落としや30バンチ事件を止めたってのも分かる話なんだがね」
「何かあるんですか?」
「世間一般的にティターンズが鎮圧したってことになってるだろ? でも本当は、ティターンズがコロニーの中で殺しをやったから、それを止めたってのがあのクワトロ大尉らしい。お陰でサイド1はクワトロ大尉の味方さ。噂じゃ、ジオンとも繋がりがあるらしいからな。ジオンのシャアじゃなけりゃ、そんな所まで出来っこないだろ?」
「そうですね」
クワトロ大尉は自分の軍歴とシャアの軍歴が矛盾すると言った。
でも、状況証拠はクワトロ大尉がシャアであると言っている。
ララァ、本当にクワトロ大尉はシャアじゃないのか?