シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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ジャミトフの心境(厄介な奴だよ、君は!

 

 グリプス──。

 

 サイド7 グリーン・ノアをティターンズが基地化を進め、グリーン・ノア2はそう呼ばれる様になった。

 

 また、そのグリプスは半分に分けられ、グリプス1、グリプス2と呼称されている。

 

 エゥーゴのジャブロー降下作戦を知ったジャミトフは、グリプスの視察に訪れていた。

 

 それはエゥーゴが地球に目を向けている隙に、宇宙での拠点を盤石とする為であった。

 

「なに!? ジャブローが制圧されただと!?」

 

「はっ! アレキサンドリアからの報告では、アーガマがジャブローに降下したのを確認しております」

 

「ジャマイカンめ、いったい何をしていた! あれ程の大部隊を掻き集めておきながらエゥーゴの降下作戦を阻止できなかった等とは言わせんぞ!!」

 

 報告を聞いたバスクは声を荒立てた。

 

 無理も無い。

 

 グリプスからも第一線は退いているとはいえ、ジム・クゥエルを在庫処分一掃セールもかくやと言わんばかりに全て出し、ルナツーからもジムⅡを大量に揃えさせ、それで集められた数は80機は超えているのだ。

 

 なお、バスクはエゥーゴの降下部隊のMSが200を超えているのを知らない。

 

 それは無理もない話だ。

 

 ガンダムMk-Ⅱを奪取したアーガマを追撃したアレキサンドリアは、クワトロによって大破寸前のダメージを負い、本来ならばドック入りをさせて修理しなければならない程であり、手持ちのMSはアナハイムから提供されたマラサイやライラ大尉のガルバルディβが残るのみで、ハイザックに関しては載せて来た物は全て損失してしまったのだから。

 

 エゥーゴが降下作戦の為に艦隊を編成して集結させるのに合わせてティターンズも艦隊を集結させたが、潜在的にエゥーゴ寄りの部隊が連邦宇宙軍には多く、出撃して集結した部隊は艦隊を組んでもエゥーゴの半数程度。

 

 20隻を超える対要塞攻略戦も可能な程の大艦隊となっていたエゥーゴに艦隊戦を仕掛ける程、アレキサンドリアを預かるジャマイカンはバカではなかった。

 

 また艦隊の中で一番センサー感度も良い筈のアレキサンドリアがそれ程にズタボロなのだ。

 

 さらにはジャブロー近傍の監視衛星ですらエゥーゴに抑えられていた上、ダミー隕石とミノフスキー粒子を大量に展開して艦隊規模を掴ませなかったエゥーゴ側の勝ちである。

 

 しかしMSの数がエゥーゴの1/3にも満たないティターンズ側も地球をスペースノイドの好きにさせるかと奮戦したものの、そもそも一年戦争から生き残っている熟練パイロットもエゥーゴに多く、真面目な部隊は指揮系統を混乱させる上に特殊部隊だからと偉ぶるティターンズを嫌っている者も少なくはない。

 

 ルナツーから発進して合流した部隊も、主義的な部隊を見繕って出撃させたワッケイン司令の采配である。

 

 そして、ジャブローを囮にしてエゥーゴの戦力を奪う気でいたバスクの計算が狂ってしまったのは、その作戦を識っていたクワトロによるNジャマーの存在と、自己保身の為にさっさと逃げると思っていたゴップがクワトロの仕掛けで核が爆発しないのを知っていたが為にジャブローに残り、核爆弾の解除コードをクワトロへと教えた事だった。

 

「エゥーゴにしてやられたな」

 

「申し訳ございません。連邦軍の腑抜けさがここまでとは思っておりませんでした」

 

「まあ良い。ゴップに貸しを作ったか…」

 

「は? 今なんと」

 

「独り言だ。キリマンジャロは使えるのだな?」

 

「はっ。ジャブローとは違いティターンズの地上部隊で編成しております。地上を知らぬエゥーゴなど物の数ではありません」

 

「そうであることを願いたいな。ゴップによってコリニー提督が使えなくさせられた。これからは慎重に事を運べ」

 

「はっ。つきましてはジャブロー奪還の為にムラサメ研究所とオークランド、オーガスタからも部隊を出させます」

 

「ニュータイプ研究所の強化人間か。使えるのか?」

 

「資料では実戦レベルに到達しております」

 

「だと良いがな。ア・バオア・クーの移送は出来ているのだな?」

 

「はっ。ア・バオア・クーとグリプスを結び、ゼダンの門として月への牽制とします。また、コンペイトウへの核パルスエンジンの取り付けも順調であります」

 

「コンペイトウを使ってエゥーゴに脅しを掛けるのは構わん。だが、よくよく考えて使うのだな」

 

「心得ております」

 

 部屋からバスクが出て行くと、ジャミトフは腰掛ける椅子の背凭れに深く背を預けた。

 

 目元には年齢とはまた別の皺が刻まれていた。

 

「またクワトロ・バジーナか。厄介だな」

 

 クワトロ・バジーナ。

 

 一年戦争でニュータイプと目されながらも戦後の連邦軍のプロパガンダとして連邦軍の赤い彗星をやっているのはジャミトフも知っていた。

 

 サイド2の出身ともあり、連邦軍のデータベースにも記録はある。

 

 しかし赤い彗星という異名と、その活躍によって、何よりサイド2出身といういくらでも改竄が容易な立場から、クワトロ・バジーナはシャア・アズナブルではないかという噂がいつしか軍内部に蔓延して行った。

 

 それを一躍させたのは、デラーズ紛争でのコロニー落としを阻止したという経歴が加わってからだ。

 

 ソーラ・システムⅡによるコロニー破壊を達成し、ティターンズ結成の足掛かりとしようとしていたジャミトフにとっては正に寝耳に水と言わんばかりの出来事だった。

 

 ガンダム試作3号機を持ち出したアルビオン隊の問題行動は追及出来るが、ガンダム試作1号機を使ったクワトロの非を責める材料が何処にもないと言うのが厄介に過ぎた。

 

 またクワトロはゴップ閥の人間であり、コーウェンの影響下に無く、ジャミトフもまた声を出せる材料が無ければ何も言えないのである。

 

 改めてニュータイプなのではないかと軟禁を計ろうと、一年戦争後にニュータイプ用MSの試験運用をさせても、サイコミュと呼ばれるニュータイプの脳波に反応する機械を使わずに乗りこなすという、技術者も頭を抱える結果が出ただけで、ニュータイプだと難癖を付けるのにも理由が弱すぎる。

 

 やること成すこと、全て未来予知でもしているのかと言わんばかりに30バンチ事件でも部隊を伏せて待ち構え、用意したG3ガスは全て破壊された上に、デモ参加者の口封じの為にコロニー内へMSを入れ、コロニー内戦闘をしても結局部隊は壊滅させられたという報告を受けた時、ジャミトフは頭を抱えるのを通り越して天を仰ぎ、火消しと情報統制に走り回った。

 

 30バンチ事件を皮切りに軍事組織化したエゥーゴを実質的に纏め上げ、サイド1やサイド3を味方に付けているというのも頭を悩ませる。

 

 連邦軍がジオンに対する嫌がらせで用意した客寄せパンダが、ここまで自分たちの首を絞める存在になるとはジャミトフも思わなかった。

 

 利用するつもりが、それを逆手に自分の影響力を拡げていく等と、一介の軍人が思い付いて実行した所で、余程優秀でなければ破綻するものだが、それが出来てしまえているのだから、クワトロ・バジーナがシャア・アズナブル、ジオン・ダイクンの忘れ形見であるキャスバル・ダイクンであるという事を信じずにはいられない。

 

「貴公は彼をどう見る」

 

「外側を見るのならば、誰もがシャア・アズナブルを幻視するのは無理も無いでしょう。スペースノイドの人権を守るというのは、地球に見捨てられた人々の人心を纏め上げるのにはうってつけの言葉です。それを馬鹿正直に実践もしていれば、スペースノイドの英雄と言われても解る話です」

 

「だろうな。ダイクン派を通して各地のジオン残党も吸収しているとも聞いている」

 

「しかしそれは転じて、その英雄を失えばエゥーゴは瓦解するのと同義です」

 

「それもそうだ。しかしあのアムロ・レイでも止められなかったものを、貴公はどう止める」

 

「正攻法で止めるのは骨が折れる事でしょう。かと言って人質を取ろうにも、彼の身内はコロニーと共に地球の塵となってしまった」

 

「ならばその骨の折れる方法で排除する他ないという事か」

 

「一先ずはバスク大佐の作戦を見れば、どれ程の程度まで骨を折れば良いのかという指標が出来ます」

 

「強化人間に、ニュータイプが倒せるものなのか?」

 

「ニュータイプとて不死身ではありません。直感力に優れてはいても、強化人間の様に身体が頑丈というわけではありません。また、人間であるから限界もあります」

 

「それは経験からくる言葉か?」

 

「はい」

 

「わかった。バスクの作戦を見て判断する。期待しているぞ」

 

「はっ。我々の悲願の為に」

 

「あけすけに言う。それが本心ではあるまい」

 

「赤裸々に申してみたつもりですが、お気に召しませんでしたか」

 

「そうであれば、貴公はここには居るまい。それとも、クワトロ・バジーナに拘るが故かな?」

 

「お戯れを。私はただ、地球に居続ける人々を宇宙へ上げる為にここに居るのですよ。ジャミトフ閣下」

 

「今はな」

 

 ジャミトフは話を切り上げ、部屋から見える青い星に想いを馳せた。

 

 戦局も政局も、圧倒的に有利の立場にあって、しかし油断をすれば足許を掬われかねない。

 

 ブレックスを隠れ蓑に好き放題に多方面へと影響力を伸ばすクワトロ・バジーナ。

 

 それは一見、組織のナンバー2として私腹を肥やす為に節操なしに動いている様に見える。

 

 だが事前の価値観を捨て去り俯瞰すれば、クワトロ・バジーナのやりたい事は見えて来る。

 

「アクシズのジオン残党との交渉は念入りにな」

 

「はい。既に急進派との話はつけております」

 

「結構。ザビ家の亡霊に今の戦局を邪魔されては敵わんからな」

 

 エゥーゴを打倒する為に横槍を入られては、それを利用してクワトロ・バジーナは必ず何かをやる。

 

 その確信がジャミトフにはあったのだった。

 

 

 

 

 

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