シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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先日のやつは感想欄でやり過ぎだというご指摘を結構頂いたので、やりたいことと物語としての面白さを改めて考え直し、確かにちょっと飛躍し過ぎて面白くなくなるなと再考し、改めて皆さんが何を求めているのかという再確認も出来ました。

時たま調子に乗る私の悪い癖が出てしまい申し訳ありませんでした。

それでもまた付いてきてくれる皆様に多大なる感謝を。


月の一幕

 

 プトレマイオス──。

 

 フォン・ブラウンに程近い月のクレーターのひとつは、2年前からマイクロウェーブ送電施設の建設が行われ、基地化が進められていた。

 

 フォン・ブラウンに近いともあって多くの技術者が出入りをしていた。

 

 マイクロウェーブ送電施設は宇宙世紀においてもそれ程珍しいものではなく、月都市であれば幾つか存在し、スペースコロニーが何らかの理由で太陽光発電が出来ないといった非常時や、地球にある大都市への電力供給インフラの一つないし、太陽光発電施設として月都市のインフラを支えている。

 

 しかし、今回建設されているマイクロウェーブ送電施設は過去に無いほどの規模の物で、月都市に付随しているそれではなく、送電施設がメインに据えられて建築されているというのは現場に入る技術者の誰もが肌で分かるものだった。

 

 プチモビに混ざってザクやドム、ゲルググが建築作業をやっている光景は、この施設建設場に初めて入る人間にはジオンが関わっているのかと勘繰りをされるが、無理もない。

 

 一年戦争後、中立であったサイド6を除いてまったく無傷だったサイド3は、国有企業であったジオニック等のMS開発メーカーを売りに出し、それをもって戦後賠償を支払って、地球圏の工業用コロニーとして存在していたその生産能力を遺憾無く発揮し、その面目躍如による高い技術に裏打ちされた高品質の生産品により、アナハイムに続く地球圏の工業経済を席巻する存在となっていた。

 

 そして性能的には旧式となっている一年戦争のMSであろうとも、作業建機として使う分には高性能過ぎるものであり、ザクⅡF型どころか旧ザクことザクⅠですら活躍の場があるのだ。

 

 故にそうしたジオンのMSが居るというのはジオン共和国も参入しているプロジェクトであるのは明らかでありながらも、退役した元ジオン兵のMS乗りは戦後そうした復興事業や新規建設事業で重機オペレーターとして活躍の場を広げていた。

 

 プトレマイオスの上空にはジオン公国軍が建造した超大型空母のドロワが座し、またその周囲にはザンジバル級やムサイ級後期型、パプアやパゾクといったジオン艦艇が並んでいれば、ジオンが秘密基地を作っていると思っても無理のない光景である。

 

 しかしそれは一部分を切り取った光景であって、他にもちゃんとサラミス級やコロンブス級も駐留している上、作業するMSの中にはジム改やジム・コマンド、ボールも居るという連邦とジオン、双方のMSや艦艇が混在するカオスな光景が広がっていた。

 

 このドロワはア・バオア・クー決戦後、機関部が大破し母艦としての機能を失いはしたものの、それを修復され、連邦軍へと売却された。

 

 尚ドロワの売却を知ったクワトロがゴップに手を回し、それを確保した事で、このドロワの指揮系統はゴップ──クワトロが握っている。

 

 そんなマイクロウェーブ送電施設の地下。

 

「お疲れさま、クロエ」

 

「うん。メイもお疲れさま」

 

 百式のコックピットを降りて、ノーマルスーツのヘルメットを脱いだクロエに声を掛けてくる相手へと答えながら、友人であるメイ・カーウィンからボトルを受け取る。

 

「だいぶ形になって来てるね」

 

「うん。でも、クワトロ大尉みたいに上手く出来ないわ」

 

「あの人はニュータイプでしょ?」

 

「私だって、少しは」

 

「まぁ、そうだけどさ。なんて言うか、ニュータイプでもまた別のニュータイプって感じ? 何をどうしたらあんな次から次へと技術アイディアが出てくるのか、1回頭の中覗いてみたいなぁ」

 

「クワトロ大尉と話してる時のメイは楽しそうだもんね」

 

「まぁねぇ。ミノフスキー粒子に頼らないビーム兵器を作ろうなんて、今じゃ誰も考えないし。量子コンピュータを使った量子通信だって普及すればミノフスキー粒子環境下でも双方向通信は妨害されないし、それを使ってニュータイプしか使えないビット兵器を使おうなんて発想は何処から出てくるんだか。まぁ、救世主とか自由とか、審判だとか、態々武器に長ったらしい名前を振ってるセンスはちょっとわかんないけどさ」

 

「でもドラグーンシステムとか、カッコいいと思うけど」

 

「簡単なのは良いけどさ。アルミューレ・リュミエールとかヴォワチュール・リュミエールはまだギリ分かるけど、シュナイドシュッツとかアウフプラール・ドライツェーンとか、そんな名前の意味あるのって時があるかと思えば、ホスピタルウィザードとかスラッシュウィザードなんてそのまんまな時もあるから、ネーミングセンスの切り替わりが良くわかんないのよ」

 

「メイは良いよね。クワトロ大尉の話について行けるんだもん。私にはさっぱり」

 

「そりゃ、私はザクを作った人間のひとりだしね。システムエンジニアだって、機械の構造を把握してないと自分の組んだシステムがどう動作するとかイメージ湧かないから一通りの勉強はしてるし。まぁ、私はMSに乗れないからお互い様じゃない?」

 

「そうかなぁ」

 

 クロエはメイが少し羨ましくもあった。

 

 MSに乗れるとはいえ、MSの全てを知っているわけではない。

 

 クワトロやカミーユが戦闘後に機体の整備を手伝っているのはメカニック知識を持っているから出来ることで、パイロットは野戦時の最低限の整備知識やマニュアルと睨めっこをしてやれば出来るものの、機体の整備は部隊の整備士の仕事である。

 

 それを奪ってしまうことは整備士からすれば信用されてないのかという不和も生むが、ガンダムMk-Ⅱを知っているカミーユの方が他のエゥーゴの整備士よりも詳しかったのもあるし、クワトロの機体はクワトロ自身が設計や開発に携わっていて、試作機というのも手伝って現場での整備にどの程度の負担が掛かるのかというのを把握する立場にもあるのだから、それは特殊なケースである。

 

「っと、クリスさんが戻って来るね」

 

「メイもニュータイプだもんね」

 

「ちょっと勘が良くなったくらいよ。サイコフレームの所為なんだろうけど」

 

「私もコックピットに居るときは何となく分かるけど、降りたらなんともないから、なんなんだろう」

 

「だから肌身放さず持ってみてるんだけどね」

 

 扉が開いてMSが入って来る。

 

 それは一見してザクだと判るMSだったが、ハイザックよりも全体のラインは引き締まっていて洗練されている様に見える。

 

 また、ザク系のMSは右肩にシールド、左肩にスパイクアーマーを付けているのだが、そのザクは左右逆にシールドとスパイクアーマーが付けられていた。

 

 ハンガーに固定されたザクのコックピットからパイロットが降りて来る。

 

「お疲れさま、2人とも」

 

「お疲れさまです、クリスさん」

 

「お疲れさまです、マッケンジー中尉」

 

「ええ。クロエもお疲れさま。どう? ドラグーンシステムの方は」

 

「足を止めてテストする分には使えますけど、クワトロ大尉みたいに戦闘しながら使うのは無理ですね」

 

 振り向きながらクロエは背後の百式を見やる。

 

 その背中には幾つもの砲塔が付いた黄金に輝くユニットが見えている。

 

「まぁ、そう落ち込むこともないわ。私達の仕事は、データを取ってちゃんと動く様に仕上げることよ」

 

「はい。それは分かりますけど」

 

「クリスさん、ザクウォーリアはどうですか?」

 

「悪く無いわね。ザクの汎用性もちゃんと受け継いでいて動かしやすいし、汎用機をユニット換装させるだけで高機動型に砲撃戦、接近戦に対応させるのはそれ用の別機種を造らなくて良いから財政にも優しい機体ね。こういう機体、なんで今まで無かったのかっていうくらいよ」

 

「ゲルググで同じ様に装備変更で高機動型と砲撃戦型に換装する機能はあるんですけどね。ホントにゲルググの量産があと数カ月早かったら、そうした概念も広まったと思うんですけどね。連邦軍には無いんですか?」

 

「あるわよ。ジーラインっていうガンダム並みの性能で量産しながら、装甲や武装を作戦や用途に応じて換装させて使おうっていう機体だったけど、軍縮の煽りを受けて計画は頓挫したって聞いてるわ」

 

「お金が無い時だからこそ、そうしたマルチロール的な機体が必要だと思うんだけどなぁ」

 

「接収したジオンの機体も使い倒す勢いで使ってたんだもの。ア・バオア・クーの陥落で戦争が終わっていなければ、連邦軍も苦しかったでしょうね。だからこのザクウォーリアみたいな機体を、クワトロ大尉は開発しているのよ」

 

「それもそうですよね」

 

 エゥーゴはアナハイムというスポンサーが居るが、自分たちはクワトロの呼びかけで集った有志の集団だ。

 

 資金面はサイド1やサイド3の献金が物凄い額であるとはいえ、数を用意出来ないのならば質を高めて状況やパイロットの適性に合わせて装備を変更して対応するというザクウォーリアのコンセプトは理に適っているとはいえ、苦肉の策とも呼べる機体でもあった。

 

 何しろ核融合炉を搭載せず、大容量バッテリーとパワーエクステンダーを内蔵することで、稼働時間の制限という足枷は付いてしまったものの、大幅なコスト削減に成功し、セイバーで得られたデータから機動性はハイザックと比べて約3倍近く、バッテリーでありながらも出力はハイザックよりも1.5倍もある高性能機として開発が進められている。

 

 リック・ディアスよりも安価で多機能の上で性能が一回り上というのがメイがザクウォーリアに抱く感想であり、再びザクを手掛けられるのは複雑でもありながら胸の昂りは誤魔化しようがなく、だからこそ全力をもって臨んでいる。

 

「でも、何と戦おうとしてるんだろ」

 

 そんな言葉をメイが呟くと同時に再度扉が開いて、また別のMSが入って来る。

 

 それはガンダムタイプのMSだった。

 

 しかしそのガンダムは赤いフレームが剥き出しの部分が多く、白い装甲も重要区画の多い部分に付けられている限りで、装甲をケチっている様に見えてしまう。

 

 そのコックピットからパイロットが出て来るが、機体はそのままハンガーへと移動して行った。

 

「やあ、お嬢さん方。お疲れ様」

 

「お疲れ様です、レイ大尉。アストレイの調子はどうですか?」

 

「すこぶる良好だよ。勝手に動いてくれるものだから、コックピットで直接データが取れるのは中々新鮮な体験だよ」

 

「疑似人格コンピューターでのオートマチック操縦。形となればエゥーゴの人手不足も解消出来るのですが」

 

「そうだな。モビルドールは確かに人手不足の組織にはありがたい存在だが、機械に戦争をやらせるのは私は反対だよ。確かに優れたMSを作り出して戦争を早期終結させる事は大事だ。だが機械任せの戦争をしてしまえばいつしかボタンを押す感覚で銃爪を引くようになるだろう」

 

 その場に居る者たちはアストレイと呼ばれたMSを見上げる。

 

「でも、アストレイなんて縁起の悪そうな名前を付けるのはどうしてなんですか?」

 

 道に迷う、道を間違える、方向を見失う。

 

 人として進むべき道を外れる。

 

 正道を踏み外す、堕落する、邪道に陥る。

 

 なんとも縁起の悪い様に思える名前にメイは首を傾げる。

 

「確かにな。だが王道ではないからこそという意味を私は感じているよ」

 

「クワトロ大尉はエゥーゴも敵に回すつもりなんでしょうか?」

 

 クロエが百式の隣にあるMSを見ながら呟く。

 

 L字状のパーツを背中に背負うトリコロールのガンダムが静かに時を持つように佇んていた。

 

「連邦政府がそれ程愚かであれば、必要になると思っているのだろう。それに、ジオン残党もまだまだ勢いを残している。デラーズ紛争で小規模な艦隊でありながらも再びコロニー落としをやった連中の事を考えれば、それを防ぐ手立てを用意するのも分からない話ではないよ」

 

 テム・レイはそう言って、L字状のパーツを背中に背負うガンダムの横に並ぶ、同じ様にL字状のパーツを背中に背負いながらも、そのガンダムを簡略化し、頭部もガンダムではなく大きなセンサーが大半を絞めるMSを見る。

 

 それは一撃でコロニーを破壊してしまう威力を持つ。

 

 アナハイムとは独立している組織の自分達の中でも特に厳重に秘匿されているそのMS。

 

 ブルーフレームでテストしている携行型の陽電子砲や戦術強襲機も、MSに大火力を持たせるコンセプトは何れもそうして対コロニー落としを意識しているものと思われる。

 

 しかし過ぎたる力は身を滅ぼすという古今東西の物語で使い古された表現があるように、人類の手に余るこれらの力をどの様にして使い、そしてどの様にして守っていくのかという課題は依然として残るものではある。

 

 それを人の善性に委ねるのは夢の見過ぎだと思う。

 

 ニュータイプという新たな力を得たからとはいえ、人の倫理観がその力に追いつけてなどいないのだから強化人間等という存在が生まれるのだ。

 

 しかし、人類を信じているからこそ、今の世界を壊させない為に老人は奮起し、次代を担う若者の為に今の世界を残さなければならない。

 

 それを弟子が知っているからこそ、テムは弟子の呼び掛けに応じた。

 

 それはサイド7で宇宙に放り投げられた自分が助けられた恩返しもあるが、なによりここは技術者としても上の機嫌や意見等気にすることもなく気ままに研究開発に没頭できる天国の様な環境だ。

 

 一年戦争終結後に、息子と連絡を取ろうとしても突っぱねられてしまった連邦軍に疑念を抱き、弟子の推めで地下に隠れたのは、その後のホワイトベースの主だったメンバーが閑職に充てがわれたり、ニュータイプとなった息子を軟禁したりといった扱いを見れば、弟子の先見性は疑うところが無い。

 

 こうして未だにMSの技術開発をしている自分も、連邦軍に扱き使われる立場になっていただろう。

 

 無茶振りをしてくる弟子の注文に頭を悩まされる事は多いが、職場の雰囲気は気に入っている。

 

 ジオンの技術に精通している若者や、連邦とジオンの技術を纏め上げ、そしてどの様にして思い付くのかという新しいアイディアを出して来てああでもないこうでもないと技術開発を弟子とするのはとても有意義である。

 

 だからこそ、連邦軍に残っていればティターンズにも使われる様になっていたと考えるのなら、自分の造った物が非人道的な事をやる組織に使われるという嫌な思いをしなくて済む今の環境は居心地が良いと思うのも普通の事である。

 

「ハチ、データの纏めは終わっているかな?」

 

『もう終わってるぞ。次は何をするんだ? ブルーのテストか?』

 

「いや、次はパワーシリンダーのテストだ」

 

『りょうか〜い』

 

 疑似人格コンピューターは便利ではあるが、ハチとの会話をしながらも、テムは地球に居る息子へと想いを馳せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

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