シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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旅立ち

 

『侵入口を作ります』

 

「うむ」

 

 アポリーの言葉に返しながら、近づいたからだろうか、私は確かに息遣いを感じていた。

 

「アムロ・レイ…、ララァ・スン……。いや……、これがカミーユ・ビダンか…」

 

 ニュータイプの力は一年戦争でララァ・スンやアムロを感じたことのある私は、同じようで違う初めての感覚に、これがカミーユの気配であると確信していた。

 

 オールドタイプである私にこうも気配を感じさせるほどの強いニュータイプ能力を持つ人間は、今のところ此処ではカミーユ以外には居ない筈だ。

 

 私は腰にベルトで巻き付けているT字型の金属に触れる。

 

 サイコミュと同じ働きをするコンピューターチップを鋳込んだサイコフレーム。

 

 人の脳波を読み込むというのはなにもサイコミュの特権ではない。

 

 その様なコンピューターは旧世紀からも存在している。

 

 ニュータイプの脳波を受け取って増幅し、ミノフスキー粒子を媒介に脳波を伝えるのがサイコミュだ。

 

 これはそれの試作品といった所だ。

 

 本来想定しているサイコミュ相当の性能まではまだ1/5程度の能力しか発揮できてはいない。

 

 だが、原理さえわかっていれば、あとはその働きをするものを目指して作れば良い。

 

 手探りよりも早く済むものだが、このサイコフレームがカミーユの脳波を拾ってくれていると見て良いだろう。

 

 オールドタイプであろうとも、サイコフレームが有用なのはアンジェロのローゼン・ズールやチェーン・アギが示している通りだ。

 

 空気流出の勢いが弱まった所でコロニー内部に侵入する。

 

「アポリー、ロベルト、ガンダムMk-Ⅱを捕捉する。遅れるなよ!」

 

『はっ』

 

『はっ』

 

 2人の返答を聞きながら私はリック・ディアスを駆る。

 

 こちらの発見を避けるためになるべくなら高度は落としたくはないのだが、それでガンダムMk-Ⅱを見つけられなければ意味が無い。

 

 しかもグリーン・ノア1の守備隊が本格的に動き出す前、グリプスの守備隊がこちらへやって来る前に事を成さなくてはならない。

 

 いくら私でも囲んで撃たれれば普通に死ぬからな。

 

 私はニュータイプではない、ただ一年戦争を生き延びただけのパイロットなだけだ。

 

 時間制限のあるシビアな作戦だが、やり通せなければ赤い彗星の名が泣くだろう?

 

 いや、私はクワトロ・バジーナなのだが、シャアにクワトロ・バジーナを譲る時に名に傷や泥が付いていては申し訳ないだろう。

 

 故に私は、赤い彗星としての看板も背負っている事となる。

 

 本当に荷が勝ちすぎるのだが、やってみせなければならない。

 

 私とて、ガノタの男だ。

 

 やってみる価値はあるだろう。

 

『クワトロ大尉!』

 

「むっ、意外と早いな。流石はティターンズの拠点とでも言っておこうか」

 

 アポリーの通信を聞きながら言葉を漏らす。

 

 迎撃機が上がってきた。

 

 敵はジムⅡが3機だが、リック・ディアスの相手ではないな。

 

 とは言え、これから増えていくのだから悠長にしてはいられん。

 

「手間取っては大事に障る。アポリー、ロベルト、手早く済ませるぞ」

 

『よろしいのですか? クワトロ大尉』

 

「多少コロニーを傷つけることは已むを得まい。ただし、MSの融合炉への直撃は避けることに留意。良いな!」

 

『了解!』

 

 アポリーとロベルトに命令を出し、私もビームピストルを抜き、MSの装甲を貫通できる程度の威力に調整して発砲する。

 

 第一射はジムⅡの頭部を撃ち貫いて破壊した。

 

 いくらサブカメラがあるとは言え、たかがメインカメラをやられただけでは済まないのが一般パイロットだ。

 

 私もやろうと思えば出来るというか、ア・バオア・クーでは奇しくもメインカメラや左腕を失ったが、どうにか生き延びることは出来た。

 

 まったく、ジョニー・ライデンやマルコシアス隊を追い払ったかと思えば、タコザクことサイコミュ高機動試験用ザクとも砲火を交え、私のG-3ガンダムが大破したのはジオングと僅かばかりの時間ではあるが戦火を交えたからだ。

 

 それで敗けてしまったのだから、やはりニュータイプとオールドタイプでは土台が違うということなのだろう。

 

 漂流する機体の中で、私はあの時、声を聞いたのだ。

 

 そのおかげで命拾いすることが出来た。

 

 エルメスが閃光に散る時も、私は蒼く光る宇宙を視た。

 

 ……今は、それを語る時ではないか。

 

 反撃のビームが飛んでくるが、それはコロニー戦闘向けに出力を絞らず、通常の威力で放たれていた。

 

「ええい、連邦軍はいつになったら、コロニーが地球と地続きでないと解るんだ!」

 

 悪態を吐きながらビームサーベルを抜き、発射されるビームを弾くと、返す刃でジムⅡの握るビームライフルを切り裂く。

 

 そのジムⅡに蹴りを入れて叩き落す。

 

 その蹴りの反動を利用して離脱しつつ、さらにもう1機のジムⅡの頭部をビームピストルで撃ち抜く。

 

 こういう芸当が出来なければ、あの地獄のア・バオア・クーでとっくの昔に死んでいたさ。

 

 あるいは本物のクワトロ・バジーナもア・バオア・クーで死んでいたのだろうか。

 

 それは私には関係のないことだな。

 

 しかし、私もよくよく運のない男だ。

 

 MSに乗りたい欲求を我慢できずに軍人となり、ガンダムを任されたことに浮足立ち、結局はMSを忘れられずに軍を離れることをしなかった。

 

 それに、なまじっかエースとなってしまうと、味方には自分の実力以上を求められ、敵には目の敵にされる。

 

 さらには、今はこうしてシャアの代わりにクワトロ・バジーナをやっている。

 

 まったく、もう少し時間があれば本腰を入れてシャアを探せようというのに、エゥーゴに合流してからというもの何かと手が空かずに今日という日を迎えてしまった。

 

 それもこれも、エゥーゴに姿を見せないシャアの所為だ。

 

 もしこの先、私の前にシャアが現れたのならば、一発殴らんと気が済まない。

 

 止めてくれるなよ、ララァ。

 

 私は当然の権利を主張しているに過ぎない。 

 

『流石ですね、クワトロ大尉』

 

「この程度はな」

 

 アポリーに答えながらも後続の2機のジムⅡのビームライフルを回避する。

 

 リック・ディアスはサイサリスのデータも反映されている良い機体だが、G-3ガンダムやジム・カスタム高機動型、フルバーニアンに乗った身としてはやはり動きが重く感じる。

 

 私も当たらなければどうということはないという考えである為、重MSよりも高機動型のMSを好む傾向にある。

 

 早く百式が配備されないものかと考えながらも、私はリック・ディアスを駆る。

 

 敵と擦れ違い様にロベルトのリック・ディアスがビームピストルでジムⅡを撃墜する。

 

 私がバズーカを使わずにビームピストルやビームサーベルで戦っている意図を汲んでくれた様だ。

 

 バズーカで万が一に融合炉を誘爆させたら事だからな。

 

 第二期小型MS用の新型核融合炉と違い、第一期MSのミノフスキー核融合炉は滅多に核爆発しないとは言え、それも絶対では無い。

 

 此処には未だ多くの民間人が居るのだ。

 

 そこを戦場にしている時点で批難は免れないが、せめて被害は最小限にしたい。

 

 コロニーの中で核爆発など目も当てられん。

 

「しかし回避は一丁前だが、やはりオートだな。この程度ならば」

 

 ジム系列の機体には一年戦争のアムロの戦闘データがインプットされている。

 

 パイロットの技量によってその制限リミッターはあるのだが、回避運動についてはロックオンした瞬間に回避する様にプログラムが組まれている。

 

 故に回避だけはアムロを再現しているのだが、それでも機体にパイロットが振り回されては本末転倒だ。

 

 ベテランともなればそうしたオートは切っているのだが、見たところオート回避の挙動をしている。

 

 でなければ避けながらこちらに狙いを定めようというものだが、回避してからこちらを狙おうとする機体が多い。

 

 それはオート回避のあとにこちらを狙っているという証拠だ。

 

 アポリーとロベルトはまだリック・ディアスに慣れていない部分もある。

 

 そうした中のジムⅡのマニュアル回避をしている機体を優先して撃墜する。

 

 ああいうのは一年戦争を生き延びたパイロットか、優秀なパイロットである可能性がある。

 

 後々手子摺るくらいならば今の内に黙らせた方が楽だ。

 

「むっ、来たな」

 

 レーダーに新手の反応が現れ、モニターを拡大すれば、こちらに接近してくるガンダムMk-Ⅱの姿があった。

 

「アポリー、見えているな?」

 

『獲物ですね、大尉』

 

「ロベルトは援護!」

 

『了解!』

 

「わかっているな。出来れば無傷で手に入れたいのだ」

 

『わかっています。ヘマはしませんよ』

 

『クワトロ大尉もお気をつけて』

 

「お前たちよりはガンダムタイプを知っているつもりさ」

 

 リック・ディアスはγガンダムでもある。

 

 ガンダムタイプと言うには違和感はあるが、それでもサイサリスのデータも使われているとなれば、ガンダムと言えなくもない。

 

 ガンダムタイプに乗った経験なら私の方に一日の長がある。

 

 ガンダムMk-Ⅱを追い込みながらアポリーとロベルトのリック・ディアスは動く。

 

 その間、私は他のジムⅡを撃破していく。

 

 とはいえ、今のMk-Ⅱ2号機のパイロットはカクリコンだったか。

 

 アースノイドとはいえ、ティターンズの適性をパスして宇宙に上がって来ただけあってそれなりの動きはする。

 

 追い込んでいるようで、誘い込まれているな。

 

 それに乗るのもまた良し。

 

 おそらくはMk-Ⅱ3号機のある本部ビルの方に向かっているのだろう。

 

「やはり手練れが何機か混じっているか。そこだ!」

 

 ビームピストルでまたジムⅡを撃破する。

 

 頭を撃てば大抵は無力化出来る。

 

 それでも粘る機体には脚を撃ち抜けば機動力を低下させられる上に運動性も下がる。

 

 バランサーもオートで調節されるとは言え動きは確実に鈍る。

 

 コックピットを撃ち抜けば話が早いのだが、そうすれば撃墜した機体がコントロールを失って民家に墜落する危険性は大だ。

 

 故に少々手間だが、メインカメラや脚、ビームライフルを撃って戦闘能力を奪っていく。

 

「上手く追い込めたか」

 

 ジムⅡを相手にしていると、Mk-Ⅱ2号機が着地する。

 

 そこにアポリーとロベルトのリック・ディアスもビームピストルを向けながらMk-Ⅱ2号機を囲う。

 

 さて、カミーユはどう出る?

 

「まだ来るか」

 

 ビームサーベルを抜いて果敢に挑んでくる半壊のジムⅡの斬撃を半身になって避け、こちらもビームサーベルを抜き、ビームサーベルを持っている左腕を斬り落とし、返す刃で右腕も落とす。

 

「それで言い訳も立つだろう」

 

 ジムⅡをあらかた片付け終わり、先ず第一波を退けたと息を吐きながら私もリック・ディアスを着地させる。

 

 それと同じくらいに倉庫の天井を破ってMk-Ⅱ3号機が立ち上がった。

 

『ジェリド! コイツらは俺を生け捕りにするつもりだ。コイツラは』

 

 Mk-Ⅱ2号機はMk-Ⅱ3号機に意識を向けているが、Mk-Ⅱ3号機に動きはない。

 

 と思えば、倉庫からジャンプして着地する。

 

『そこのMP! 一方的に殴られる、痛さと恐さを教えてやろうか!!』

 

 Mk-Ⅱ3号機から聞こえる声がカミーユの物だと判って安心したい所だが、私にあのナイーブだが弾けやすい彼を正しく導けるだろうか。

 

 ララァ、教えてくれ、どうしたら良いのだ。

 

 教えてくれ、カミーユを導く方法を。

 

 アポリーのリック・ディアスがMk-Ⅱ3号機にビームピストルを向けるのをリック・ディアスのマニピュレータを向けて制する。

 

「よせアポリー、敵じゃない」

 

『はっ、しかし…』

 

『そうだ。僕は敵じゃない、味方だ!』

 

 カミーユの駆るMk-Ⅱ3号機がMk-Ⅱ2号機に取り付いてビルへと押し込む。

 

『コックピットから降りるんだ! でないと、ビルごとお前を潰しちゃうぞ!』

 

『降りるんだ中尉! 私はブライト中佐だ。ここは3号機に従え!』

 

 流石はブライト・ノア、判断が早い。

 

 もっとも、良識のある指揮官ならばブライトと同じ指示を出しただろう。

 

 Mk-Ⅱ2号機がめり込まされて居るのは本部ビルであるし、ここはコロニーの中だ。

 

 必要以上に傷付けて良い場所ではない。

 

 しかしこれがジャマイカンやバスクではそうは行かなかっただろう。

 

 良識ある行為が自身を痛めつけるとは、ブライトも不憫なものだ。 

 

「3号機のパイロット、信用出来るな。アポリー、ロベルト、Mk-Ⅱ2号機を確保、離脱する」

 

『了解!』

 

『はっ』

 

 Mk-Ⅱ3号機のパイロットが声でカミーユだと私には判るが、アポリーとロベルトはそうではない。

 

 独り言に聞こえても言っておかねばならないこともある。

 

 パイロットの降りたMk-Ⅱ2号機をアポリーとロベルトに任せ、私はMk-Ⅱ3号機に接触する。

 

「3号機のパイロット。我々に付いてくる、というので良いのだな?」

 

『はっ、はい。連邦軍は嫌いですし、なによりティターンズはもっと嫌いなんです。それに、MSを盗んだんです。今さら帰っても銃殺刑でしょ?』

 

「そうだな。我々についてくれば、君の身の安全は保証する」

 

『わかりました。行きます』

 

 まるで誘導しているようで心地良くないが、カミーユの身の安全を保証するのは本当の事だ。

 

 もっとも、今現時点でカミーユの両親の身の安全を保証することは出来ないが、それは勘弁して貰いたいものだ。

 

「よし。私のあとに続いてくれ」

 

『わかりました』

 

 カミーユの返事を聞きながら、私はリック・ディアスを飛び立たせる。

 

 原作ではこの時もロベルトが迎撃のジムⅡと戦っていたが、アポリーとロベルトにMk-Ⅱの追い込みを任せている間に私があらかた落としてしまったため、第二波が来るまでは静かなものだろう。

 

 それも一時的な物に過ぎないが、鹵獲したMk-Ⅱ2号機の運搬と、素人のカミーユを伴っての脱出となると静かな方が助かるというものだ。

 

 やはり後々楽するために頑張った甲斐があったというものだ。

 

「3号機、周波数を582に合わせろ。そうすれば私との直通回線になる」

 

『は、はい。……合わせました』

 

「上出来だな。Mk-Ⅱを知っていると見た」

 

『は、はい。親父のパソコンからデータを盗んでいたんで、だいたいの機能はわかっているつもりです』

 

「ほう、お父さまはMk-Ⅱの?」

 

『はい。ティターンズのMS開発部に』

 

「なるほど、詳しくは後で聞かせてもらおう。3号機、宇宙に出る。コロニーのミラーにぶつかるなよ?」

 

『りょ、了解です』

 

 それでも心配ではある為、万が一にも助けられるようにカミーユのガンダムMk-Ⅱを気にしておく。

 

「よし、アポリーは2号機を、ロベルトは周囲警戒を厳に。3号機は私がエスコートする」

 

『了解です、大尉』

 

『周囲に敵影なし。大尉、どうぞ』

 

「おう。3号機、私のコースをトレースしろ。出来るな?」

 

『了解です』

 

 カミーユをどう導けば良いかわからないが、私なりにやってみるつもりだ。

 

 シャアよりも言葉が多いだろうが、子供というものはこれくらい気に掛けてやって充分なのさ。

 

 コロニーから宇宙空間に出て、カミーユをエスコートしながら、私は頭からすっぽ抜けていた事を思い出した。

 

 まったく、歳は取りたくないものだが、Zガンダムのストーリーは大きく分けて2つある。

 

 それがTV版Zか新訳Zという事だ。

 

 漫画もあるが、あちらまで気にしだすとキリが無いため、取り敢えず大まかなストーリーラインはその2つを意識すれば良いだろう。

 

「3号機、空気漏れなどの異常は無いかな?」

 

『はっ、はい。でも、どうして』

 

「君はノーマルスーツを着ていないのだろう? 宇宙という暗黒の世界で酸素が無くなる恐怖というものは想像よりもずっと恐ろしい物だ。宇宙世紀黎明期では事故で最後の酸素ボンベをめぐって殺し合いになった事もある程だ」

 

『そんなに…』

 

「悲しいが、人間というものは我が身が一番可愛いのさ」

 

『そうですね、解る気がします。それで、どれくらいで落ち着けますか?』

 

「小一時間と言った所かな」

 

『一時間……』

 

「どうかしたのか?」

 

『いえ、宇宙は慣れないものですから』

 

「そうだな。スペースノイドとはいえ、宇宙に出ることもそうあるものでもない。だがこの宇宙を見て、君はどう思う?」

 

『どうって。…そうですね。とても懐かしいような感じがします』

 

「そうか。なら、宇宙は怖くはない筈だ。敵の無線傍受を避けるために以後は無線を封鎖する。用があれば接触回線を使え」

 

『は、はい』

 

 さて、カミーユの緊張感を解せたと思いたいが、やはり年頃の少年相手となると会話も手探りだ。

 

 まったく、この役目は本来ならば貴様の役目だろうに、いったい何処で何をしているというのだ、シャア。

 

 

 

 

 

 

 

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