シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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カプセルの中

 

 白旗を掲げたガンダムMk-Ⅱ1号機がアーガマのカタパルトに着艦する。

 

 地球育ちとはいえ、綺麗な着艦をするものだ。

 

 良く訓練しているのを感じ取れる。

 

 その後ろに無様に着艦するハイザックを確認する。

 

 とすれば、あれにフランクリン・ビダンが乗っていると見た。

 

『特使は自分一人です』

 

「おい」

 

『下痢をしてるだと!?』

 

 アストナージに指示を出すと、整備士たちがハイザックの方へと群がって行く。

 

『バスク・オム大佐の親書を持って参りました。ガンダムMk-Ⅱに近づく者が居れば、上のハイザックが狙撃をします』

 

「了解した、ガンダムMk-Ⅱには触れさせん。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉だ」

 

『クワトロ・バジーナ…? ルナツーの赤い彗星……』

 

「確かにそう呼ばれることもあるが、私はジオンの赤い彗星ではない。連邦軍のジオンに対する当てつけの様なものだよ」

 

『そうですか。自分はエマ・シーン中尉であります』

 

「ではエマ・シーン中尉、エゥーゴの代表、ブレックス・フォーラ准将のもとへご案内しよう」

 

『よろしくお願いします』

 

 私はエマ中尉を連れてアーガマへと入る。

 

 格納庫を出ると私はヘルメットを脱いだ。

 

「その額の傷は…」

 

「ア・バオア・クーでジオンのシャアと撃ち合った時の傷だ。その所為で戦後、私は赤い彗星の看板を背負うこととなってしまったよ」

 

「噂には耳にしております。ジオンのシャアと戦って生き残った数少ないパイロットであると」

 

「シャアもニュータイプだったからな。彼と撃ち合って生き延びているのは、私とあのアムロ・レイくらいのものだろう」

 

「アムロ・レイ、一年戦争のガンダムのパイロットですよね?」

 

「ああ。ガンダムを開発したテム・レイ大尉の息子であるが、民間人の身でガンダムに乗り合わせ、初戦で2機のザクを倒したパイロットだ」

 

「知っています。以前地球で彼と会ったことがあります」

 

「ほう。どう感じた、実際のアムロ・レイは」

 

「そうですね…。ガンダムで戦っていたパイロットとは思えない程に物腰の柔らかい人物でした。地球で親の資産で暮らしている良い所の人だと最初は思った程です」

 

「ニュータイプは危険分子として連邦政府の管理下で軟禁状態だからな。望むものを与えて姫をあやす様に扱って、反感を育てないようにしているのさ」

 

「クワトロ大尉もニュータイプではないのですか?」

 

「私がか? 中尉はそう感じるのか?」

 

「上手くは言えません。でも、あのアムロ・レイと同じ様な物を、大尉から感じます」

 

「フッ、伝説の英雄と同じと言われて悪い気はしないな。だが私はオールドタイプさ、エマ・シーン中尉」

 

 敵城のど真ん中だというのに肝の据わった人だ。

 

 こうして世間話にも乗ってくれるのは好感が持てる。

 

 地球育ちでティターンズに入ったが、地球至上主義者ではなく、真っ当な連邦軍軍人であると分かる。

 

 故に、やはりティターンズには似合わない人だ。

 

「ブレックス准将。バスク・オムの特使、エマ・シーン中尉をお連れしました」

 

「うむ。入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 ブレックス准将の返答を聞いて部屋の中へ入る。

 

「エマ・シーン中尉です。バスク・オム大佐の親書をお持ちしました」

 

「ご苦労。受け取らせてもらう」

 

「こちらになります。親書へのお返事は、即答でお願いするとの事です」

 

「厳しいな」

 

 エマ中尉からバスクの親書を受け取ったブレックス准将が内容に目を通すが、親書を持って読んでいたその腕が震え始めた。

 

 やはり内容はそのままと言うことか。

 

「なんと破廉恥な!」

 

 そしてその憤りを吐き出す様に声を荒げた。

 

「中尉はこの手紙の内容を知っているのかね!?」

 

「い、いいえ…」

 

「だからそんな涼しい顔をしていられる!」

 

 ブレックス准将からヘンケン艦長に手渡されたバスクの親書が、ヘンケン艦長から私に手渡される。

 

 読むのが早すぎるとは思うが、なにがブレックス准将を憤らせるのか走り読みをして見たからもう不要というところだろう。

 

 私も内容自体は初めて見るが、書いてある内容は細かいものの、要約すればまぁ、知っての通りだ。

 

 目を通した私がブレックス准将へと顔を向けると、准将が頷くので私はバスクの親書をエマ中尉へと手渡す。

 

「……はっ、ええっ、カミーユ・ビダンと共に2機のガンダムMk-Ⅱを返さない場合には…」

 

「カミーユの両親を殺すと言っている」

 

「これがティターンズの、いや、バスクのやり方だ」

 

「そんなっ」

 

「30バンチの時もそうだ。まるでヤクザだ。一軍の指揮官が思いつく様な事ではない」

 

「まさか、バスク大佐がその様なことを…」

 

 ブレックス准将の言葉にエマ中尉は信じられないと言った様子だが、まぁ、それが一般的な軍人の反応だ。

 

 まさか自軍の大佐ともあろう人間が、その様な卑劣な脅しを掛ける等とは夢にも思わないだろう。

 

「それは中尉も見た通り、バスクの直筆だ」

 

「そうですがっ、これは軍隊のやることではありませんっ、こんな…」

 

 ヘンケン艦長もエマ中尉へとその手紙がバスクの物であると指摘する。

 

 気高い軍人であるから、自身がそんな軍隊に所属している現状にショックを受けてしまうのは致し方ない。

 

「ティターンズは私兵だよ。(わたくし)の軍隊なのだ!」

 

「……っ、私は、いえ、自分は地球連邦軍であって、バスクの私兵になったつもりはありません!」

 

「バスクのではないよ。もっと大きなもの、地球の引力に魂を引かれた人々の私兵なのだよ!」

 

「それでは些か穿ちすぎます、准将。とはいえ、エマ中尉。ティターンズはジオン残党狩りの為の特殊部隊と言いながら、自分達に不都合な存在はすべて敵として、地球から宇宙を支配する人々の私兵であることに変わりはない」

 

「ジオンの連中だって思いつかんような手口だ」

 

「単なる脅し、と言えないのが実情ですね。中尉は30バンチ事件のことをご存知かな?」

 

「ティターンズが反政府運動を鎮圧したという程度の事しか」

 

 やはりまだティターンズに加わったばかりのエマ中尉は知らんと言った所か。

 

「クワトロ大尉」

 

 ブレックス准将が私を呼ぶので視線を向けると頷かれた。

 

 と言うことは、エマ中尉へ話しても良いと言うことだ。

 

「ティターンズは30バンチの反政府運動鎮圧の為にG3ガスを用意した」

 

「G3って、最高の猛毒ですよ!?」

 

「そうだ。我々が部隊を展開していた為、コロニー内へのガス注入は阻止出来たが、ガスでの始末が付けられないと分かるとMSを使って住人を攻撃した」

 

「そんなまさか!」

 

「まさかも何も、ここに居るクワトロ大尉とヘンケン艦長が現場で対応した。エゥーゴの必要性が叫ばれたのもその為だ」

 

 私の言葉に驚愕するエマ中尉へ、ブレックス准将が補足する。

 

 30バンチ事件。

 

 サイド1の30バンチで起きた反政府運動をティターンズが鎮圧した事件。

 

 史実ではG3ガスを投入し、コロニー内のすべての住人を口封じした。

 

 犠牲者の数は1500万人。

 

 知っていて座視出来る事件ではない。

 

 既にブレックス准将と接触をしていた私は、部隊を率いて30バンチに伏せていた。

 

 使っているMSがMSであったが為にティターンズ側のMSも艦艇もすべて落とした。

 

 結果としてG3は使われなかったが、あろうことかティターンズは形勢が不利と悟るとコロニー内にMSを入れて住民を攻撃した。

 

 建物への被害はそうでもなかったが、反政府デモの為に集まっていた人々は格好の目印だった。

 

 犠牲者は数百人にも及んだ。

 

 ビームで蒸発してしまえば、正確な人数など判りはしない。

 

 知っていながら完全に防げなかった。

 

 これが歴史を変えようと思い上がった私の傲慢さが招いた結果と言えよう。

 

 犠牲者が天地の差であるから良いのではない。

 

 知っていたのだから未然に防がなければならなかった犠牲だ。

 

 部隊が壊滅したティターンズだが、そんなことを馬鹿正直に報道出来る筈もなく、30バンチ事件はティターンズが治安制圧して終息した事となっている。

 

 まぁ、デモに参加した住人や野次馬含めて尽くメガ粒子で蒸発してしまったのだから、それに恐怖して30バンチの住人は口を噤むしかなかった。

 

 しかしそれで、おそらく史実よりもエゥーゴの必要性が叫ばれ、連邦政府に反発する各コロニーの支援は手厚いと実感するが、素直に喜べる物ではない。

 

「アーガマ周辺のハイザックを撃破して、回答に代えろ」

 

「それは軽率です!」

 

「バスクのやり方を認めろってのか?」

 

「民間人の少年の心中を慮っていただきたい!」

 

 ヘンケン艦長へ私はそう言うが、かと言って今の状況は八方塞がりだ。

 

『正体不明のカプセルをキャッチ!』

 

 ブリッジのトーレスから報告が上がる。

 

「カプセル?」

 

「なんだ? 映像を回せ!」

 

『はっ』

 

 ブレックス准将とヘンケン艦長が疑問を抱きながら、ブリッジから映像を送らせる、

 

 端末の小さな画面に光が見える。

 

 衝突防止用の発光灯だが、小さくて判らないと埒が明かないとしてブリッジに上がる。

 

「監視カメラ、射出!」

 

 ヘンケン艦長が指示すると、カプセルを映すために監視カメラが射出される。

 

「はっ、カプセルの中に!」

 

「人間が居るのか!?」

 

「だがあの中には一人だ。もう一人の人質は…」

 

「嘘です! あれはホロスコープです!」

 

「バスクはそんな周りくどいやり方はせん男だ。奴のことは私が良く知っている」

 

「カミーユ・ビダンを呼べ! 人物の確認をさせる!」

 

「ヘンケン艦長、それは! っ、ええい! クロエ、カミーユを捕まえておけ!」

 

「何処へ行く大尉!」

 

「カミーユ・ビダンを迎えに行く!」

 

 私を引き留めようとするヘンケン艦長にそう答えながら、私はカミーユと一緒に居させていたクロエにカミーユを抑える様に言っておく。

 

 何もしなかったら飛び出していくカミーユだったろうが、クロエが居てくれて助かった。

 

 なら最初から自分の傍に置けと言われるだろうが、仕方がないだろう。

 

 彼はまだ民間人の身で、私はパイロットだけをしているわけにはいかないのだから。

 

「クロエ何処だ! クロエ!!」

 

『MSデッキです!』

 

 ヘルメットの通信でクロエの声を聞く。

 

 やはりカミーユは出ようとしていたか。

 

『放してくれ! お袋があそこに居るんだ!』

 

『ダメだって言ってんでしょ! 今クワトロ大尉が来るから』

 

『お袋に死ねって言うのかよ! あんたらは!』

 

『落ち着いてカミーユ。クワトロ大尉!』

 

「すまん、待たせた」

 

 クロエに羽交い締めにされながら暴れるカミーユをアストナージが前から押さえていた。

 

『クワトロ大尉!』

 

 クロエに視線で答えながら私はアストナージと代わる。

 

「落ち着け、カミーユ君。ここで出ても敵に口実を与えるだけだ。そうすればお母さまも危険に晒す」

 

『だからって、このまま見ていろって言うんですか!!』

 

「今手立てを考えている。一度深呼吸して、気分を落ち着けるんだ」

 

『こんな時に落ち着けるわけありませんよ!』

 

「だからだ。気が昂っていては動こうにも動けない時もある」

 

 やはり一度熱くなると手がつけられんな。

 

 教えてくれララァ、私はどうすれば良い。

 

 ふむ、やってみるか。

 

『ちょ、っ、ちょっと!』

 

「落ち着けカミーユ。落ち着け、大丈夫だ」

 

 カミーユの身体を抱き寄せて背中を叩いてやる。

 

 抱擁というものは人を落ち着けさせるものだ。

 

 まあ、男からの抱擁など男としては御免被りたいだろうが、親しい挨拶のハグというものもある。

 

 私もクロエを保護した当初は魘される彼女にこうしてやったものだ。

 

『はっ、放してくださいよ、いきなりなんです!』

 

「代わりに落ち着けただろう?」

 

『子供扱いしないでくださいっ』

 

「なら自分を律することを覚える事だ。それが出来れば一人前の大人だ」

 

 カミーユを離してやって、その両肩に手を置く。

 

『わかりましたよ。落ち着きます…』

 

「それで良い」

 

 さて、これでカミーユの暴走は止められたと思いたいが。

 

 エマ中尉の交渉時間は確か15分が限度だったか。

 

 とすると、あまり時間はないな。

 

「当番兵、トイレを貸しているハイザックのパイロットを拘束して取り調べろ。いくらなんでも長過ぎる。ブリッジ、ブレックス准将へ!」

 

『私だ、どうした』

 

「こちらも休戦信号を上げてください」

 

『バスクがティターンズをでっち上げて、ここまで出て来ているんだぞ。バスクの言いなりになれというのか?』

 

「状況は我々に不利です。ここはMk-Ⅱを引き渡しましょう」

 

『カミーユ君と共にか?』

 

「そこは考えます」

 

『…………わかった。ガンダムMk-Ⅱを引き渡す』

 

「ありがとうございます」

 

 ブレックス准将との通信を終え、私はカミーユとヘルメットのバイザーをくっつける。

 

『大尉?』

 

「無線は切ってある。敵がMk-Ⅱと君を返さないと、君のご両親を殺すと言ってきた」

 

『そんなっ、だって父も母もティターンズの技術者で、Mk-Ⅱの開発者ですよ!?』

 

「代わりは幾らでも居るというのが組織だ。それがティターンズのやり方なのさ」

 

『っ、くっ、ティターンズめっ!』

 

「君の憤りは解る。だから一芝居打つことにする。成功すれば君のお母さまは助けられるだろう」

 

『本当ですか?』

 

「ああ。だがその為に説得しなければならない相手が居るがな」

 

『説得?』

 

 私がそう言うとちょうど良くエマ中尉が格納庫へとやって来た。

 

 私はエマ中尉を手招きして呼び寄せると、バイザーを当てる。

 

「どうかな、エマ中尉。あの様に人質を取るバスクを赦せるか?」

 

『自分は連邦軍の軍人です。ティターンズに入ったのだって、ジオン残党を制して少しでも平和になればと思ったからです』

 

「気高い志だ。そこで提案がある。君のガンダムMk-Ⅱを私に貸して欲しい」

 

『どうするのです?』

 

「君に扮してカプセルに接触する。敵が奪う素振りを見せたらカプセルを撃つ様にバスクから別命を受けている可能性もある」

 

『それで騙し通せましょうか?』

 

「やってみる価値はあるさ。あとはエマ中尉の判断だ」

 

『…………わかりました。自分は、クワトロ大尉に協力します』

 

「ありがとう、エマ中尉。カミーユ君を頼んだ」

 

『了解』

 

 そう言って私は床を蹴って格納庫からパイロットロッカーへと向かう。

 

 そこでスプレーで適当に色を塗った別のノーマルスーツへと着替える。

 

 間近で見れば一発でバレるが、遠目ならば騙し通せよう。

 

『クワトロ大尉!』

 

 身を乗り出してくるカミーユを手で制して、私はエマ中尉の乗ってきたガンダムMk-Ⅱ1号機に取り付く。

 

 撃たれなかったということは、第一関門は突破出来たということだな。

 

 さて、これからはすべて私に懸かっているが、やってみせるさ。

 

 

 

 

 

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