シャアにクリソツなクワトロ大尉()   作:星乃 望夢

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皆様から多々寄せられている感想に関しましてとてもありがたく、私の励みになっております。

しかし執筆を優先するあまり返信が滞ります事をご理解いただけますと幸いです。


子供の言い分

 

 アーガマへと戻る最中、ティターンズ側からの撤退信号が上がるのを見つつ、フルバーニアンをアーガマのMSデッキへと直接乗り込んで着艦する。

 

 ライラ大尉やあのガンダムMk-Ⅱ試作0号機を取り逃したことでフルバーニアンの存在は露呈してしまったが、ガンダム開発計画の機体に関するデータはすべて抹消されて封印されている。

 

 あまり晒し物にする機体ではない。

 

 とはいえ、ガンダムMk-Ⅱ試作0号機はギレンの野望にてガンダム開発計画が凍結されなかったらというIFにより、ジム・クゥエルのパーツも流用しつつガンダム試作1号機のデータを取り入れられて造られた機体だ。

 

 その建造コストはペガサス級数隻、バーミンガムを2隻造れてしまう程高額だ。

 

 しかしマゼラン級のメガ粒子砲の威力を持つビームライフルを携行する一方で命中精度は悪く、しかもピーキーな機体である為に乗り回せるのはニュータイプか強化人間だと言われている。

 

 ガンダムMk-Ⅱ試作0号機があるのは知っていた。

 

 なにしろ私もテストパイロットとして乗ったことがある。

 

 ティターンズ結成に合わせてジム・クゥエルが開発されたが、それと並行して地球連邦軍のエリート部隊としての旗印として、ティターンズもガンダムを欲していた。

 

 そうした経緯でガンダムMk-Ⅱ0号機は開発されたが、テストパイロットを出来る人間が当時のティターンズには居なかった。

 

 なにしろニュータイプや強化人間でなければ扱えない機体だ。

 

 実践評価試験となればそのレベルの腕前を持つパイロットが必要となる。

 

 今はどうだか判らないが、その時はゼロ・ムラサメの噂も聞いてはいない。

 

 その頃は連邦軍からアナハイムへ出向という形でテストパイロットをしていた私にお鉢が回って来たと言うことだ。

 

 私はオールドタイプだが、その戦歴からニュータイプだと言われることもある。

 

 しかし私は、ただMSの操縦に長けているだけのオールドタイプに過ぎない。

 

 まぁ、テストパイロットというのは様々なMSに触れられるので良い立場でもある。

 

 戦後、連邦軍がジオンから接収した機体の評価試験や、ニュータイプ用MSの開発の為のテストパイロット等、様々なMSに触れた。

 

 一年戦争後、連邦軍の赤い彗星をやる為に用意されたキャスバル専用ガンダムカラーのG-3ガンダム。

 

 G-3ガンダムは私も慣れている為に問題はなかった。

 

 ただその傍らでアクト・ザクやサイコミュ試験用ザク、サイコミュ高機動試験用ザク、高機動型ジオング、ジム・ジャグラー、ネティクス。

 

 ただのパイロットでは乗り回せない機体を充てがわれて実践評価試験をやっていた。

 

 ニュータイプでなければ性能を発揮出来ない機体が多々あったが、攻撃端末が2つ程度ならば扱いはメビウス・ゼロの様に使って行ける。

 

 そうしてオールドタイプでもオールレンジ攻撃が可能なのはブラウ・ブロがそうだ。

 

 そうした使い方を出来るパイロットが居なかったから、そう言った機体が次々と私の所に回された訳ではあるが。

 

 ともあれあちらもガンダム開発計画のデータを使っているのだから、表立ってこちらを批難する事は出来まい。

 

 コックピットを開いてクロエを伴って外に出る私をアストナージが出迎える。

 

『ご苦労さまです、大尉』

 

「リック・ディアスを失った。始末書ではすまんな」

 

『良いんじゃないですかい? クローチェ中尉を取り戻せたんですし』

 

「それでは納得しないのが企業というスポンサーさ。ブリッジに上がる。悪いがあとを任せる」

 

『了解!』

 

 私はフルバーニアンをアストナージに任せ、ブリッジに向かう。

 

 私のあとを黙って付いてくるクロエ。

 

 エレベーターに入って2人きりになった時、私は口を開いた。

 

「何故レコア少尉と代わった」

 

「私の方が、MSを上手く扱えますから」

 

「自分の方がフランクリンも油断すると考えたか」

 

「はい。それに、私はクワトロ大尉のお陰で、今日まで生きているようなものです。だから」

 

「リック・ディアスをティターンズの手に渡らせまいとするのは解る。だが、それで悲しみを背負う私の心中も察して欲しいものだ」

 

「……ごめんなさい。クワトロ大尉」

 

「解ってくれれば良い」

 

 ア・バオア・クーでHADESの呪縛から解き放ち、それ以後は私の手許に置いてきた彼女は、まるでララァの様な事を言う。

 

 私はクロエにララァを求めているわけではない。

 

 彼女がいつか自立出来るまでの親代わりのつもりだ。

 

 前世も含めて子供が居たことのない私に、クロエを正しく導けているかは分からない。

 

 ただ、クロエの献身の危うさを私はどうすれば良いのかと考え続けて未だに答えの出せない身だ。

 

 これではシャアを情けないやつと笑えんな。

 

「クワトロ・バジーナ、ただいま戻りました」

 

「ご苦労だったな、クワトロ大尉」

 

「リック・ディアスを失いました。申し訳ありません、ブレックス准将」

 

「だが最低限の目標は達している。人命を軽視しては、理念で拠って立つエゥーゴは存在できんよ」

 

「ありがとうございます。今後の進路はどの様に?」

 

「ルナツーを迂回しつつ月のアンマンに向かう。アナハイムにMk-Ⅱを引き渡さなければならんからな。テストパイロットを引き受けて貰いたい」

 

「了解しました。それと、エマ・シーン中尉の事ですが」

 

「君が責任を持つのだろう? 彼女に関しては君に一任する」

 

「承知致しました。それと、カミーユ・ビダンとヒルダ・ビダン中尉の事ですが」

 

「そちらも君のよろしい様にしてくれ。出来れば説得してこちらに引き入れて貰いたい」

 

「難しいですが、やれるだけの事はやってはみます」

 

「期待しているよ、クワトロ大尉」

 

「はっ。では、失礼致します」

 

 エマ中尉に関しては分かるとして、カミーユとその母であるヒルダ・ビダンも引き込もうと言うのも理解出来る。

 

 カミーユはニュータイプであり、ヒルダ女史もティターンズの材料工学部に居た人間だ。

 

 ザクマシンガンを受けても、ルナチタニウムの様にダメージを受けないチタン合金セラミック複合材でガンダムMk-Ⅱを仕上げたのだから、その手腕は放逐するのは惜しいというのも理解出来るが、さて、私に説き伏せる事が出来るだろうか。

 

 カミーユに関しては幸いにして私に心を開いてくれているとは思うが、実際に父の仇となった私を、彼がどの様に思うかは未知数だ。

 

 それにヒルダ女史に関しても、フランクリンの事で咎められるとは思ってはいないが、カミーユと引き合わせるのも考えものだ。

 

 とはいえ、このまま引き合わせずに引き離すのもカミーユには良くない。

 

 どう転ぶかは私にも見当がつかないが、やれるだけの事はやるしかない。

 

 あれやこれを頼まれてしまったが、それがリック・ディアスを失った事への清算と思えば軽い物だ。

 

 エマ中尉は何処に居るのか確認すると、レクリエーションルームに居ると言うことで、私はそちらへと向かう。

 

「待たせてすまないな、エマ中尉」

 

「いいえ。お忙しい身なのは感じられます」

 

「ご配慮に感謝する」

 

 レクリエーションルームにはエマ中尉、カミーユ、そしてヒルダ女史が居たが、カミーユはヒルダ女史に背を向けていて、剣呑な雰囲気を漂わせている。

 

 そんなビダン親子に挟まれて居た堪れないエマ中尉は、ようやく現れた援軍の私に声色を明るくした。

 

「クワトロ大尉、クロエさん。ご無事だったんですね」

 

 私の声を聞いて、カミーユは私とその横に居るクロエを見て安堵する。

 

「父は、どうなりましたか」

 

「残念だが、クロエを救う為に撃たせて貰った。私は君の父の仇となった。赦せんのならば恨んでくれて構わない」

 

「……いいえ。父はそうなって当然の事をしました。僕はクワトロ大尉を恨みませんよ」

 

「そうか。…君は大人だな、カミーユ君」

 

 父の死を受け入れ、そしてその仇である私を赦す。

 

 家庭を見ずに若い女を外に作っていた父でも親だと慟哭したカミーユを知っているから、私はカミーユの肩を叩いた。

 

「元々は貴方がこんな事をしなければ、この様な事にはならなかったんですよ!」

 

「っ、なんだって!」

 

 しかしそれで冷め切っていたとは言え、夫を殺され、自身も捨て駒の人質にされたヒルダ女史がヒステリックに叫んだ。

 

 それにカミーユが憤りを露わにして言い返した。

 

「ホモアビスやジュニアMSをやれるからって、軍のMSを盗み出して、私に迷惑が掛かると考えなかったの!?」

 

「僕の事を見もしないで、それで今更母親面するのかよ! だったら軍の仕事だ、ティターンズのだって張り切ってみせて、親父の不倫を無視して仕事に満足しないで、キチンと母親をやってくれよ!」

 

「カミーユ!」

 

 捲し立てるカミーユに、ヒルダ女史の手が飛んだ。

 

「そうやって暴力に訴えれば、子供が言う事を聞くと思ってるのかよ。だからティターンズに利用されるんだ! そんなんだったら、ティターンズに戻ってそれで殺されてしまえよ!」

 

「カミーユ君、お母さまにそんな事を言ってはいけないわ!」

 

「僕の事情も知らないエマ中尉は黙っていてください!」

 

 やれやれ、わだかまりを吐き出させようとしたものの、予想以上にカミーユの家庭事情の溝は深いと見える。

 

「そこまでだ、カミーユ」

 

「っ、クワトロ大尉…」

 

「君の父を撃った私の言葉を聞くことは難しいだろうが、親の死を望んでいては後悔することになる。君もヒルダ女史も、今日は疲れ切っている。一度休んでから、また話せば良い」

 

「もう、話すことなんてありませんよ」

 

 私はカミーユを宥めながらクロエにアイコンタクトを送ると、それを察したクロエが部屋の外の当番兵を呼んで、ヒルダ女史を連れ出す。

 

 残ったのは私とカミーユとエマ中尉だけだ。

 

「エマ中尉に関しては当面は保護観察となるが、よろしいかな?」

 

「はい。ですがクワトロ大尉は、自分をスパイだとは思われないのですか?」

 

「地球にご両親がお住まいなら、ティターンズの人質みたいなものだが、連邦軍の軍人であるエマ・シーンを信用した。それでは不服かな? 中尉」

 

「いえ。ありがとうございます、クワトロ大尉」

 

 エマ中尉に関しては難しいことはないが、それでもご両親が地球に居るとなるとティターンズがまた卑劣な事を仕出かさないとも限らない。

 

 そちらは私がどうにかするか。

 

 あまりゴップ大将に借りは作りたくはないのだがな。

 

「少しは落ち着けたか? カミーユ」

 

「僕は冷静ですよ、クワトロ大尉」

 

「そう思えるな。憤りを口にすることで冷静になれる。君のお母さまへの気持ちも伝わった事だろう」

 

「仕事に満足する親が、子供を気にしますか?」

 

「でなければ手を上げたりはせずに無視するだろう」

 

「どうだか。体面を気にして、余計なことを言われた腹癒せですよ」

 

「そうとも取れるな。しかし、親子とはいえ他人なのだ。言い分を吐き出す事を、私は悪いとは思わんよ」

 

「そうですか。クワトロ大尉は良いですね。お子さんは幸せになりますよ」

 

「私の様な父を持てば苦労させるものだ。それに、私はパイロットを忘れられんから、貰い手など居はしないよ」

 

 シロッコやシャア、場合によってはハマーン、そしてフル・フロンタル。

 

 考えるだけでも山積みの敵を討とうと考えているのだから、結婚などしている暇もなければ相手も居ない。

 

 私も本質的にはシャアの同類だ。

 

 そんな情けない男の貰い手など居るわけがないだろう。

 

「エマ中尉とカミーユ君の部屋は用意させる。個室であるから安心してくれて良い」

 

「了解しました」

 

 エマ中尉は女性であり士官でもあるから士官用に余っている部屋を充てがうのは無理はない。

 

 カミーユをヒルダ女史と同じ部屋にする程、私は鬼ではないし、部屋も有り余っているのだから、態々親子だからと近くに置くこともない。

 

 今は頭を冷やすことも必要だ。

 

 パイロットだけをやれていた頃は自由であって良かったものだが、こうして組織人として動くのも悪くはないと思っている。

 

 とはいえ、私は担がれるよりも担ぐ方が性に合っている。

 

 ブレックス准将という責任者の下である程度の裁量とある程度の責任感。

 

 程々の立場で好きに出来る環境が理想的だとも言える。

 

 やはり、私もシャアと同類か。

 

 笑うなよ、ララァ。

 

「クワトロ大尉…」

 

「どうした、クロエ。眠れないのか?」

 

 時間的には就寝すべきだが、私はリック・ディアスの始末書を書いていた為にまだ起きていた。

 

 そこへクロエが声を掛けてきた。

 

 一年戦争から今日。

 

 未だに度々魘される彼女を心配して、部屋は同じにしている。

 

 それが要らぬ噂を立てさせる煙となっているが、彼女の面倒を見る私が背負う物でもある。

 

「ティターンズはペイルライダーも用意していると言われました」

 

「ティターンズが?」

 

 ティターンズが用意しているペイルライダー。

 

 それはペイルライダーDⅡの事だろう。

 

 あれも亜流とはいえガンダムタイプと呼べる機体だ。

 

 HADESは無くとも性能の良い機体と言える。

 

 半世紀も経てばその当時には無かった様々なMSが存在していたということになっている。

 

 私もガノタの端くれだが、すべてを追いきれてはいない。

 

 宇宙世紀に限っても、古いが故に膨大な物語が存在し、そしてそれに合わせてMSも増える。

 

 ジョニ帰を優先していたからムーンガンダムを追えていなかったという程度にだ。

 

 とはいえ、30年近くガンダムに付き合って来た身としては、宇宙世紀に関してはそれなりに深い知識を持っているとは自負している。

 

 あのシャアがティターンズに身を置いていた世界もある。

 

 それを知るのは古いガノタなら通じても、最近のガノタには通じない事もある。

 

 陸戦型サザビーがプロトタイプνガンダムを倒したという物語もある。

 

 宇宙世紀、それもユニコーンまでの宇宙世紀100年を目処に、一年戦争の0079年からの時代で散々数多の物語が生まれてきた。

 

 しかし、それらを多く知っている事で得することは何もない。

 

 いや、昔は気持ち悪がられて避けられもしたか。

 

 とはいえ、趣味なのだから他人からとやかく言われる筋合いも無い。

 

 そして、ガノタであるからこそ、私はこうしてクワトロ・バジーナをやれている。

 

 それが結果として自身の首を絞めている事もあるが、シャアと代わればそれも終わる。

 

 だからシャアには早くこの立場を代わって貰いたいものだ。

 

 MS部隊の隊長までは出来ても、エゥーゴを背負ったり、スペースノイドのすべてを背負う事は、私には出来ないのだから。

 

「クワトロ大尉…?」

 

「いや、なんでもない。そう心配するな、クロエ。君はもう、HADESの呪縛から解き放たれている。たとえ今再び、その呪縛が君を縛ろうというのならば、それを私がさせはしないさ」

 

「クワトロ大尉…」

 

 私はクロエの華奢な身体を抱き寄せ、その背と頭を抱いて撫でてやる。

 

 子供をあやすのはクロエのお陰で学べたが、クロエももう子供と言える歳は過ぎている。

 

 私という親鳥から巣立つ事も覚えて貰わなければならないが、やはり私は、シャアを笑えんな。

 

 私がクワトロ・バジーナを辞めた時、クロエは私を分かってくれるだろうか。

 

 そうした思いを抱く時点で、私もまた、情けないやつだと笑われるのには充分だな。

 

 

 

 

 

 

 

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