アーガマはルナツーを迂回して月へと向かっていた。
30バンチ事件の結末が変わっている為に、エマ中尉とカミーユをミイラだらけの30バンチに連れていくということもない。
ただ私には、30バンチ事件で失われた命に詫びる事しか出来ない。
私がニュータイプならば敵の意図を早く察知出来たものを、そうではないのだから、やはり私はニュータイプではない。
ただそれも、私が用意させている機体が完成すれば変わるだろう。
MS1機の活躍で戦争が終わったり、誰かを死なせずに済んだ等というのは自惚れだと言われるが、しかし戦場ではそうしたMSの活躍で戦況がひっくり返ったり、誰かの命を救うこともまた事実だ。
だから力を持つことを私は悪だとは思わない。
思いだけでも、力だけでも駄目なのだ。
思いと力を合わせ、正しく使うことで事を成せる。
力はただ力でしかない。
その力をどう使うかは、その力を使う者に委ねられる。
それを良き事か悪しき事に使うかも、人間次第だ。
「後方の艦隊、離れませんね」
「向こうはこっちの秘密基地を知りたがっているからな」
宙域図を見ながら私が言うと、ヘンケン艦長が言い返してきた。
「艦隊を分けて片方はグラナダをパスして。アーガマはこのままアンマンへ向かうというのは?」
「悪くない作戦だが、その為には敵の注意を一旦こちらから外さなけりゃならん。もう一隻居れば、艦隊戦に出られるんだが」
「敵の目を逸らすのは私がやります。上手く行けば、敵に気取られずにアンマンに入れると思います」
「それは、ニュータイプの勘か?」
「赤い彗星としての自負と思って頂ければ」
「よっしゃ! 頼んだぞ、クワトロ大尉」
「出撃に10分程頂きます。それでは」
私はヘンケン艦長と作戦を詰めて、MSデッキへと向かう。
「君は、ジオンの赤い彗星を知っているかね?」
「自分は、ア・バオア・クー会戦では後方のサラミスに居ました。ジオングというMAは見ていません。ですが、赤い彗星の力は感じました。今も感じています」
「ほう。誰にかな?」
「クワトロ・バジーナ大尉にです。戦後、連邦軍の赤い彗星を名乗り、ジオンの赤い彗星が連邦軍に入ったとの噂は持ち切りでした。しかし、実際に関われば、クワトロ大尉があのシャア・アズナブルだと思うのは無理のない話です」
「彼は赤い彗星を名乗る事で、スペースノイドの想いをアースノイドに伝えようとしているのだよ」
◇◇◇◇◇
作戦が伝えられて、MSデッキが慌ただしくなる。
私はフルバーニアンの中でその時を待っていた。
他のMSでは厳しいが、このフルバーニアンならば艦隊に一当てして帰ってくる程度の事は朝飯前だ。
『ガンダム・フルバーニアン、発進どうぞ!』
「クワトロ・バジーナ、ガンダム1号機フルバーニアン、出るぞ!」
私はフルバーニアンを発進させ、ロングライフルを構える。
最大望遠で小さく見える3つの点。
アレキサンドリアとサラミスだ。
スコープを覗いたところで遠すぎるために気休めにもなりはしない。
アーガマから観測している敵艦隊の予測進路、その軸を合わせて、あとはエネルギーを充分にチャージしてやれば──。
「当たれよ…!」
トリガーを引き、発射されたビームは彼方へと見えなくなり、黒い点に光が生まれる。
私は続けてロングライフルを撃ち込む。
「何事だ!!」
「て、敵の長距離ビームです! 一番主砲を直撃!」
「第二射外れました。っ、第三射、右舷カタパルト直撃!」
「アーガマからの砲撃か!?」
「ビームの光源はアーガマから離れています! こんな距離をMSで当ててくるのか!?」
「MS部隊の発艦急がせ! ビーム撹乱膜があったな? 展開してビーム攻撃を封じろ!」
ビーム攻撃を受けたアレキサンドリアは蜂の巣を突いた様に慌ただしくなった。
ジャマイカンが命令を飛ばして搭載されていたビーム撹乱膜弾頭ミサイルが発射された。
「ビームが届かない? ビーム撹乱膜を使われたか」
ならば好都合だとも言える。
あちらもビームを使えないのならば、アーガマへの攻撃は出来ない。
しかし、アーガマから目を逸らすにはもう一当て必要だ。
「やってみるさ」
私はスロットルを全開にしてフットペダルを踏み込み、フルバーニアンを急加速させて、アレキサンドリアへと向かう。
「敵MS動きました! 正面から突っ込んできます!」
「ミサイルで迎撃しろ! MS部隊の発進はどうなっている!」
「スクランブルで発進します!」
「迎撃急がせろ! ハイザックならばビーム撹乱膜は関係ない、撃ち落とせ!」
アレキサンドリアからMSが発進する。
ハイザックならばマシンガン装備であるからビーム撹乱膜の中でも攻撃は影響がない。
「上がってきたか」
艦隊からMSが出て来るのを確認するが、それでも奇襲を仕掛けているから数は少ない。
戦力を一度に投入されると厳しいが、逐一での会敵ならばやりようはある。
ビーム撹乱膜を展開した為にミサイルでの迎撃をされるが、ミサイル程度に追い付かれるほど、このフルバーニアンは遅くは無い。
ミサイルの合間を縫ってやり過ごし、迎撃に上がってきた3機のハイザックを迎え撃つが、こちらの動きを捉えられてはいないようだ。
「くそっ、なんなんだよあの動きは!」
「あんな動きでパイロットは平気なのかよ!?」
「止まるな! ライラ隊もアレにやられたって、ぐあ──」
「ひとつ!」
私はミサイルの迎撃と、ハイザックのマシンガンの弾幕を縫って掻い潜り、ビームライフルで2番手のハイザックを撃墜する。
そうして狼狽えた所に一気に飛び込み、後ろに周って、バレルロールで振り向きながらロングライフルとビームライフルで2機のハイザックの背中を撃ち抜く。
「あの新型っ」
「ガルバルディも来たか!」
ガルバルディβも上がってくるが、数は少ない。
やはりマシーンの差で引っ掻き回せるが、あのガンダムMk-Ⅱ試作0号機の姿が無いのならば、この程度か。
「このっ、ガンダムったって!」
「エゥーゴもガンダムを開発していたってのか!」
ジェリドとカクリコンはハイザックのザクマシンガン改でフルバーニアンを撃つが、撃った瞬間には既にフルバーニアンの姿は通り過ぎていて掠りもしない。
「その程度では当たらんよ」
アポジモーターを駆使して直角に近い角度で曲がったり、フルバーニアンの推力に物を言わせて戦場を引っ掻き回す。
そして敵の防衛線を抜けて本体へと肉薄する。
「落とせ! 弾幕を張って近寄らせるな!」
ジャマイカンの檄がブリッジを飛び交う。
弾幕の中を掻い潜って、私はフルバーニアンをアレキサンドリアの後方に周らせる。
そしてエンジンへ向けてロングライフルを叩き込む。
「エンジンをやられました! 推力が落ちます!」
「MS部隊は何をやっているか! 相手は1機だぞ!」
撃ち抜いたアレキサンドリアのエンジンを見て、私はブリッジも撃つべきかと考えたが、今はこれで引き上げるとする。
アレキサンドリアはティターンズの旗艦だ。
それを撃沈してティターンズに本腰を入れられると今のアーガマでは辛い。
私は踵を返して戦域から離脱する為にフルバーニアンを全速で飛ばす。
「好き勝手やらせて、このまま逃がすものかよ!」
「無理だジェリド、速さが違い過ぎる!」
「ビビるなよカクリコン、ガンダムったって、囲んで叩いちまえばこっちのもんよ!」
離脱する私のフルバーニアンを追ってくるハイザックが居る。
「追ってくるのか?」
そのハイザックに触発される様に、他のハイザックもこちらを追ってくる。
反転して追い払わなければ、付いて来られるとアンマンに入れない為に面倒だ。
引き返そうとした所に、前方から光が見える。
牽制のメガ粒子砲がフルバーニアンの傍を過ぎ去っていく。
「間に合ってくれたか」
さらに接近するMSを確認する。
見えたのはジム・カスタム高機動型とジム・キャノンⅡ、そしてガンダム試作0号機ブロッサムの小隊である。
『クワトロ大尉!』
「私は大丈夫だ。支援に感謝する、ウラキ中尉」
通信モニターに映った人物を認めて、私はその名を口にする。
見れば遥か彼方にアーガマとは別の白亜の戦艦が見える。
「ウラキ中尉、追っ手を追い払う。良いのかな?」
『構いません。自分はバスク・オムのやり方に反対ですし、ティターンズのやり方も見ていられません!』
「ではアテにさせてもらう。行くぞ、ウラキ中尉!」
『了解です!』
ガンダム試作0号機ブロッサムを駆るコウ・ウラキ。
この手のMSを上手く扱える貴重なパイロットだ。
デラーズ紛争終結後、ガンダム開発計画とアルビオン隊の失態の責任を追及されて失脚してしまったコーウェン中将。
アルビオンを率いてガンダム3号機を半ば強奪に近い形で運用したシナプス艦長。
そしてその3号機を駆ったコウ・ウラキ。
シナプス艦長は処刑、コウ・ウラキも少尉に降格の上に1年間の刑に処すところが史実の結末となる。
しかし私がゴップ大将に働きかけ、庇う人間の居なくなってしまったアルビオン隊を引き込んで貰った。
悲しいかな、私は連邦宇宙軍の大尉でしかない。
そうした政治的に動ける人に頼むしかない。
よってアルビオン隊はゴップ大将派閥に降り、そこから私とエゥーゴへの支援部隊として動いて貰っていた。
あのフルバーニアンとデンドロビウムを駆っていたウラキ中尉だ。
ブロッサムの様にひとりで動かすには負担の掛かる機体でも上手くやって見せてくれる。
『ウラキ! 適当に追っ払うだけで良い。コックピットには当てるな!』
『了解です、バニング大尉! キース! 敵の頭を抑えてくれ!』
『了解!』
『ベイト、モンシア、アデル、アルビオンの護りは任せるからな!』
『了解でさ、大尉』
『へん、トチるなよウラキ!』
『お喋りはそれまでですよ。敵が来ました』
不死身の第四小隊が揃い踏みとなると心強くもある。
私がアルビオン隊と合流したのは、アルビオンが宇宙に上がって暗礁宙域を捜索するために合流した援軍の1人としてだった。
まぁ、宇宙でジム・カスタム高機動型のテストパイロットをやっていたのだから、合流するとなれば最速ではそのタイミングとなる。
地球に降下してゼフィランサスとサイサリスをテストするアルビオンに同行する手もあったが、私はゴップ大将の派閥の人間であったがために、コーウェン中将派閥のアルビオン隊へ応援に駆けつけられるのは、観艦式で人手が無くて猫の手も借りたいくらいのそんなタイミングが最速であったのは勘弁して貰いたい。
しかしそのお陰でバニング大尉は戦死せず、バニング大尉が回収した密書から観艦式強襲の情報をリーク出来た。
だが、ワイアット大将はこれに取り合わずに結果、観艦式は2号機の核攻撃を受ける事となってしまった。
流石の私でも、ジム・カスタム高機動型でソロモンの悪夢の駆るサイサリスを止め切る事が出来なかった。
機体の性能差に泣いた結果とはなるが、それは言い訳に過ぎない。
「ガンダムが増えた!?」
「エゥーゴの新型、幾つガンダムがあるんだ!」
「これくらいっ!」
ジェリドとカクリコンのハイザックの攻撃を、コウはバレルロールで回避しながら、ゼフィランサスが装備するのと同型のビームライフルでハイザックを牽制する。
「上出来だ、ウラキ中尉」
ブロッサムが牽制する合間を縫って、私はフルバーニアンで2機のハイザックの間を通過する。
そうすれば、後ろに周った私のフルバーニアンかウラキ中尉のブロッサムのどちらを相手にするか一瞬判断の隙が生じる。
『コイツでダウンだ!』
ウラキ中尉のブロッサムが大型ビームライフルを構えると、その撃ち放った一撃がハイザックの両脚部を融解させた。
「ぐおっ、ガンダムめっ」
「ジェリド、離脱するぞ。うわっ!?」
私も僚機のハイザックの右脚とザクマシンガン改を撃ち抜いて戦闘能力を奪う。
後方のアレキサンドリアから撤退信号が上がるのを見て、この場の戦闘は片付いたのを見る。
『ご苦労だったな、クワトロ大尉』
「こちらこそ。援軍に感謝します、バニング大尉」
『はっはっはっ。ロートルにはちとキツイが。なぁに、まだまだヒヨっ子どもに遅れは取らんさ』
「大尉の様なベテランが居ることでエゥーゴの新兵も引き締まります。アルビオンと合流し、このままアンマンへ入ります」
『了解した。ウラキ! 敵の動きは追えているな?』
『はい。どうやら離脱する様です。このまま監視を続けます』
『アルビオンの後退には間に合わせろよ。中に入れなくて外でベソを搔くことになるからな』
『了解です、大尉』
古い戦友というのも悪くない。
さて、アーガマは無事にたどり着いたな。
アルビオンへの着艦コースへ乗りながら、私はアーガマの行った先を見据える。
アーガマも悪くはない練度に仕上げる様に努力しているが、ベテラン揃いで一パイロットを出来るアルビオンの空気も悪くはない。
やはり私は、MSに乗っているからこそ充実していられる。
とはいえ、この後の情勢はそれを許してはくれまい。
ウォンさんをはじめ、エゥーゴの出資者の方々を説得する事が出来るか否かで、ジャブローへの降下作戦等という無駄をしなくて済むのだが、果たしてどう転ぶものか。