ティターンズの艦隊を退け、アーガマへの注意を逸らすことに成功した私はアルビオンへと着艦し、そのブリッジに上がった。
「ご苦労だったな、クワトロ大尉」
「ご無沙汰しております、シナプス艦長」
私はシナプス艦長と挨拶を交わし、これからの進路を提案する。
「アルビオンにはこのまま、アンマンへ入っていただきたい」
「良いのか? アーガマがアンマンに入っているのを知らせる事になると思うが」
「このアルビオンを警戒して、アンマンにアーガマが入ったという事をカモフラージュ出来ます」
「代わりに連中にはグラナダに入ってもらうわけか」
「はい。そうなればこちらの動きも隠し通せましょう」
「了解した。パサロフ大尉、進路をアンマンへ向けろ。但し、コースはグラナダを通る様に見せかけてな」
「了解!」
「では艦長、私はMSデッキに下がらせてもらいます」
「ああ。相変わらず多忙だな、クワトロ大尉」
「これが私の仕事ですので。では」
私はシナプス艦長へ敬礼を送り、とんぼ返りする様にブリッジからMSデッキへと戻った。
「ウラキ中尉」
「ご無沙汰しております、クワトロ大尉」
ウラキ中尉に声を掛けると、私に向かって敬礼してくる彼を手で制す。
「どうかな? ブロッサムの方は」
「はい。自分は3号機を扱った経験がありますから、どうにか。ですが、ここまでの機体をひとりで動かすのは色々と無理があると思います」
「だろうな。だからこそ、テストパイロットを中尉に頼んだのさ」
「恐縮です」
「そう謙遜する事もない。本当はフルバーニアンを使わせたい所だが、アレでないと私も満足出来ない身体になってしまってな」
「わかります。それに、ニュータイプであるクワトロ大尉の方が自分よりもフルバーニアンの性能を引き出せていますよ」
「私はニュータイプではないさ、ウラキ中尉。ニュータイプというのは互いに誤解なく理解し合い、争うことのない人の事を言う。その時点で、私はニュータイプとは成り得ないのさ」
「そうなのですか?」
「そうだ。ニュータイプのアムロ・レイが類稀なる戦果を上げたところで、ニュータイプは戦争の道具でもなければ撃墜王のことでも無いのだ。それを戦況の打開の為にニュータイプを兵器として使ったジオンを皮切りに、ニュータイプは戦場を一変させる存在として連邦軍でも扱われ、投薬や記憶の改竄、外科手術をして人工的にニュータイプを作る強化人間の研究は続けられ、ティターンズでもそれは行われている。一年戦争当時の戦災孤児を使ってな」
「ティターンズどころか、連邦軍まで…」
「軍というものは清廉潔白ではないのさ。巨大な組織体であればあるほど腐敗は横行し、後ろ暗い事もまた多い。エゥーゴもブレックス准将が率いておられるから今のところそうではないが、そうでもなければティターンズと対抗できる組織にはならなかったさ」
しかし、それもブレックス准将が暗殺され、そしてシャアがエゥーゴを離れたZZとなると、エゥーゴの上層部の動きは鈍く、また連邦軍へと吸収され、結局は連邦軍内部での地位が約束されれば地球から宇宙を支配する者の仲間入りだ。
そうはさせない為にも、ブレックス准将の暗殺を防ぎ、エゥーゴという組織を存続させ続ける必要がある。
エゥーゴの理念にスペースノイドの自治権獲得や独立を掲げるのではなく、スペースノイドの人権を守る運動としているのはその為だ。
元々はデラーズ紛争後にティターンズが結成され、さらに厳しくなったスペースノイドへの取り締まりと扱いに相互援助という形で各コロニーや月が連携して自然発生的に生まれた運動であったエゥーゴを、ブレックス准将を代表者として組織化したものが今のエゥーゴの体制だ。
アナハイムとの利害の一致もあれども、戦力を整える上ではかなりの無茶をしている。
現行の連邦軍の主力はジムⅡや機体更新は遅いもののハイザックや一年戦争のジオンのMSであるガルバルディαを改修したガルバルディβである。
それに対して人員も少ないエゥーゴでは、連邦軍から参加した者や部隊が持ち込んだMSを使っている。
故にこちらもジムⅡや一部ハイザック、機種転換が間に合っていない部隊はジム改やジム・コマンドを使っている上、ジオン残党や旧ジオン兵も合流しているとあってザクやドム、ゲルググも使わざるを得ない様な台所事情だ。
アニメでは無いのだから画面の中で登場するMSが統一されているということはないのだ。
MSの性能差は如何ともしがたいが、MSがあるというだけでも戦力となる。
ボールやセイバーフィッシュ等を使うよりも遥かにマシなのだから。
とはいえ、同じ様な性能の機体を使えばあとはパイロットの腕とはいえ、それでこちらの兵力を削られては正規軍の特殊部隊であるティターンズには勝てない。
であるからベテランやエースパイロットにはジム・カスタムやジム・カスタム高機動型を支給している。
ジムⅡよりも性能の高いジム・カスタムやジム・カスタム高機動型で少しでも差を広げようという考えだ。
今はマラサイとネモをアナハイムが用意しているが、マラサイはティターンズに渡ってしまうので、ネモがエゥーゴの主力MSとなるだろう。
アナハイムは停滞していた地球圏経済を動かす為にエゥーゴとティターンズの両者に支援をするが、どちらか一方が相手を叩きのめしてまた平時が訪れてしまう事を避ける。
故に性能の良いマラサイをティターンズへと渡し、コストは優れるが性能が落ち着いているネモをエゥーゴへと残した。
コストが安い分数の用意出来るネモがティターンズへと渡ると物量で押されてしまう為、マラサイをティターンズへと渡したのは分からない話でもない。
とはいえ、ネモもガンダリウムを使うために割高ではあるから、私の方で既にジムⅢの開発を提案して進めている。
あとはガンダムMk-Ⅱから得られたデータを合わせれば完成するだろう。
アクシズ──ハマーンのネオ・ジオンの高火力MSに対抗するために開発されたジムⅢであるが、その時になって用意するのは後手に回ってしまうので意味が無い。
こちらのジムⅡがジムⅢに改装されるだけでもティターンズへの対抗手段と成り得るだろう。
とはいえ、それだけでティターンズに勝てるわけでもない。
問題はまだまだ山積みではあるが、ひとつひとつ解決して行くしかない。
混迷渦巻くこのグリプス戦役を超えれば、あとは単純にネオ・ジオンや袖付きを相手取るだけで良いとなると、やはりグリプス戦役の立ち回り次第で今後の未来は変えることが出来るだろう。
アンマンへと入港したアルビオンからフルバーニアンをアーガマへと移し、私はアンマンにある自室へと向かう。
私はシャアではないので、セイラさん──アルテイシアと写っているキャスバルの写真も飾ってなどはいない。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して喉を潤すと、部屋に来客を報せるブザーが鳴った。
少々私の方が遅れてしまったが、タイムスケジュール通りならば相手は判っている。
「入りたまえ」
「おかえりなさいませ、大佐」
「キグナン。私はクワトロ・バジーナ大尉だ」
「そうであっても、私にとってはシャア・アズナブル大佐であります」
まったく、シャアが居ないことでこうした事も私に回ってきてしまう。
私でなければこんな事をどう対処したというのだ。
「何かあったのか?」
「こちらをご覧いただければ」
「うむ」
私はキグナンから画像ファイルを受け取る。
そこには漆黒の宇宙に星が点在する天体画像と、形も判らない光が赤い印で記され強調されている。
「アステロイドベルトの写真です」
「アクシズか…」
「はい。スペクトル分析でも核パルスと判りました」
「地球圏へと動いているのか?」
「はい。だいぶ前からになります。これに呼応して、スウィートウォーターのホルスト外務官も、大佐へのご帰還を願い出ております」
「私はエゥーゴでやるべき事がある。スウィートウォーターをはじめ、各サイドの支援は有り難いが、今の私はジオンのシャアとして立つのは時期尚早と考えている。少なくともティターンズを打倒し、アースノイドの代弁者を排除してからでなければ結局は一年戦争の再演だ。その旨をホルストへ言い聞かせてくれ」
「了解致しました、大佐」
何故私がシャアのネオ・ジオンの外務官であるホルストと繋がっているのかと言われれば、サイド1のスウィートウォーターがエゥーゴの集合場所やアーガマの建造、リック・ディアスのテスト等を行っていたからだ。
小説版Zではサイド7にあるコロニーとして名が登場するし、その役目も私が今言った通りの物だが、そんなティターンズのお膝元で灯台下暗しをするリスクを取る必要は無い。
それにあちらは円筒型の一般的な宇宙世紀のコロニーとは違い、ユニコーンで描写された首相官邸ラプラスの様なトーラス型のコロニーである。
それだけで歴史的価値のあるコロニーなのだが、そこで宇宙艦艇を秘密裏に建造するのは無理がある。
それにサイド1は30バンチの件があって連邦軍の捜査が入っても一般人がガードしてくれる。
奇しくもシャアのネオ・ジオンがその決起宣言まで隠れ通した手段を私も使わせて貰ったまでだ。
そしてスウィートウォーターは先の一年戦争で生じた戦争難民の為に急造されたコロニーのひとつであり、そこには焼け出された各コロニーの難民や、サイド3のソーラ・レイ建造の為に強制疎開させられたマハルの難民を多数受け入れている関係でジオンとのパイプがあり、さらに政争に敗北し、一年戦争では隅に追いやられていたダイクン派も多数居住している。
一般人のガードもそうだが、第二次ネオ・ジオン戦争にてシャアがスウィートウォーターで軍の準備をして拠点を置いたことの説明はこれで付けられるだろう。
そのお陰でシャアの名を存分に使い倒して色々とやらせてもらっている。
代わりにジオンのシャアやダイクンのキャスバルを求められるが、それらしい理由を付けてどうにか乗り切っている。
「それと、ホルストには宝探しも程々にしておけと言っておいてくれ。まだ我々は、表立って行動できる組織力は無いのだからな」
「承りました、大佐」
「頼む、キグナン」
さて、どう転ぶかも分からない先さえも見据えなければならない忙しさ。
世の中を動かすのは一握りの天才だとシロッコは言うが、天才だとて世の中を動かせるわけではない。
それに賛同してくれる者や、利用するか縋るか、様々な思いがあるからとは言え、ジオンのシャアに結局は人々は集って来てしまう。
シャアも考え様によっては天才だろう。
しかしそれに応えきれるかどうかは別問題だ。
私がガノタであるからどうにか話について行けるが、そうでなければシャアではない人間にこの立ち位置は不可能だ。
金色の百式があるとは言え、私は不可能を可能にする男ではないのだがな。
むしろ心地の良い言葉で誘導し、敵を掌の上で転がして自分の思い通りの世論になる様に利用し、閉塞する人類を遺伝子で統括しようと画策し、その末に主人公に撃たれる役柄だろう。
もしそうして私がカミーユやアムロに撃たれたときは笑ってくれよ、ララァ。
キグナンにホルストへの伝言を頼んだ後、ウォンさんから明日ハンバーガーショップに来るようにという伝言を受け取った私は、このアンマンにあるアナハイムの工場へと向かった。
じっとしてぐうたらしたいものの、そうもしていられないのが私の立場だ。
考え様によってはアーガマのMS隊隊長、そしてエゥーゴの中心メンバーで済むシャアとは違って、私は多方面へ色々と手を出している関係でシャアよりも多忙なのではなかろうか?
しかしその多忙さを惜しめば史実通りに歴史は動いてしまうと思えば、やってみる価値はあるさ。
アンマンのアナハイム工廠ではアーガマへ搬入予定のリック・ディアスやシュツルム・ディアス、ネモの姿があり、ラーディッシュを代表するエゥーゴのアイリッシュ級も建造されている。
それを横目にエレカを走らせる私は、関係者でも上位の者しか入れない奥のブロックへと入って行く。
セキュリティレベルが高いということは、応じて機密性の高い物が造られているという事になる。
「お疲れ様です、クワトロ大尉」
「Mk-Ⅱの搬入、ご苦労だったな。マッケンジー中尉」
クリスチーナ・マッケンジー。
一年戦争末期、ガンダムNT-1アレックスのテストパイロットをしていた女性だ。
一年戦争後、連邦軍からアナハイムへと出向し、テストパイロットをしていた。
同じ様に連邦軍の赤い彗星をやりながらアナハイムでテストパイロットもしていた縁での知り合いだ。
「Mk-Ⅱはどう思う?」
「乗ってみた感じでは扱い易い機体であると思います。大尉のガンダムを調整していたので、余計にそう感じます」
「だろうな。あれはティターンズの訓練用の機体であるとも言う。それを考えれば過激な機体には出来ないだろうさ」
「そうですね。ニュータイプの大尉にとっては物足りない機体であると思います」
「私はオールドタイプさ、マッケンジー中尉」
「そうでしょうか? 大尉のガンダムに乗れば、ニュータイプでなければ性能を発揮し切れないと感じますよ」
「アレックスに乗ったマッケンジー中尉に言われると弱いな」
私はマッケンジー中尉を伴って端末にカードキーを通して扉を開け、通路を進むと立ち止まってライトアップされた機体を見上げる。
「可変機構に関しては問題ありません。武装テストも終了しているので、直ぐにでも実戦で使える様になっています」
「急がせて済まなかったな、マッケンジー中尉」
「赤い彗星のクワトロ大尉の機体を手掛けられるって、みんな張り切っていたんですよ? あとでリップサービスはしておいてくださいね」
「やれやれ、私に何を期待しているのか。薄給だからそれ程良い物は送れないぞ?」
「ちょっとしたデートならみんな喜びます」
「背中から刺されかねんよ」
私の見上げる機体。
頭頂部の縦長のセンサー、そして額のV字アンテナ、背中に見える航空機特有の翼に、胸には金色のV字もあり、連邦軍のガンダムの特徴を醸し出しているが、その機体色は赤と黒に白。
「でも、救世主なんてコードネーム、ちょっと大げさ過ぎじゃありませんか?」
「民衆は英雄を求めるものさ。それが組織の求心力にもなる。その名を冠する機体に乗る覚悟もあるつもりさ」
「30バンチの救世主ですものね、クワトロ大尉は」
「そういう事だ。百式とオオワシの方はどうなっている?」
「既にそちらも調整が終わっているので、明日、大尉のガンダムと一緒にアーガマへ搬入予定です」
「了解した。これで少しはマトモな旗頭部隊になれるだろう」
赤いガンダムを見上げながら私は、明日のウォンさん達をどうやって説き伏せた物かと思案する。
「どうですか、クワトロ大尉。この後1杯でも」
「ありがたい誘いだが、それ程高い場所には連れていけないぞ」
「わかっていますよ。私だってそんなに余裕ないんですから。連邦軍も、もう少し給料をちゃんと振り込んでくれると助かるんですけどね」
「ティターンズに対して優先的に予算を回しているからな。だからエゥーゴに味方をする連邦宇宙軍は多いのさ。イデオロギーや主義主張を叫んだところで、明日の食事も考えなければ生きて行けないのが人間というものだ」
そうした給与遅延もあって、ティターンズの支配が強いサイド7やルナツー等の連邦宇宙軍はティターンズ寄りだが、ソロモンやゼダンの門となる前の現時点のア・バオア・クー、各サイドの駐留部隊はエゥーゴ寄りである部隊も数多い。
なにしろティターンズが居なくなれば食いっぱぐれることも無い上、ティターンズが地球至上主義の集まりであるからスペースノイドが多く在籍する連邦宇宙軍とは反りが合わない。
それにティターンズは連邦軍のエリート特殊部隊でもあるので、連邦軍の一般将校に対して態度が大きかったり見下したり、上から目線で命令したりと、アースノイドとスペースノイドの確執をそのまま宇宙に持ち込むから反感ばかりを育てている。
それで殺されるのだから自業自得か。
私は仕事上がりのマッケンジー中尉と共にとあるバーへと腰を落ち着けた。
酒や女に逃げる趣味は持たないが、ガンダムMk-Ⅱの鹵獲や、マッケンジー中尉も仕事終わりである為、軽く引っ掛ける程度の息抜きは構わないだろうさ。
クラシカルな音楽の流れる落ち着いた雰囲気のあるバーで、仕事終わりともなれば酒の手は進む。
ともあれ私は明日も色々と言葉を捏ね繰り回さなければならないともあれば、酒が残らない様な飲み方をしている。
中々溺れる程に酒を楽しめないのは、いつ出撃が掛かるかわからないパイロットの職業病の様なものだ。
「マッケンジー中尉は、サイド6の出だったな」
「はい。でも、一年戦争が終わってから帰ってないんです。なんだか帰り辛くって。大尉はどちらに?」
「私はサイド2の出だ」
「っ、申し訳ありません…」
「構わんさ。私の家は軍人家系で、父も母も、上に居た3人の兄も一週間戦争やルウム戦役で散って逝った。私は運が良かっただけだ。MSに乗って、戦場を駆ける事が出来た組だからな」
「……あれだけの戦争があったのに、どうしてまた…」
「ジオンに勝利した連邦軍の増長と腐敗の禊と垢落としだな。だが、それで次の世代を担う若者が戦うのは違うな」
「私や大尉も、まだ若者の側だと思いますけど?」
「だが既に後進を導く立場だ。あの戦争を経験した者は、今となっては連邦宇宙軍でも貴重だ。結果、ティターンズの勢力を抑え込む手が足りない。ソロモンの悪夢を抑えきれなかった私の責任だ」
「……そうやって、大尉はなにもかも自分で背負う気なんですか?」
「私は自分に出来ることをしているだけに過ぎないさ」
カランっと、グラスの中の氷が音を立てる。
静かな時が流れ、私はグラスの中身を一口飲み込んだ。
それと同時に、バーのドアが乱暴に開かれた。
「俺は、赤い彗星のシャアだ!! 赤い彗星だ! ジオン再興の為、俺は立ち上がるっ! ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!! ジオン・ダイクン、万ァ歳!!!!」
そう叫んだ男はサイレンの音を聞くと慌てて走り去って行った。
「戦争後遺症、なんですかね。時々、ああした哀れなやつが居るんですよ。昔を、忘れられないんですね」
マスターが気を利かせてそう言った。
「赤い彗星、か……。アタシだって、これでも昔は名の知れた歌い手だったんだ。一年戦争の頃は連邦とジオンの両方に引っ張りだこでさ。今でも、昔の名前ならステージに上げてやるって、そういう連中は多いんだ。まだまだアタシも、捨てたもんじゃないのさ。でも、わかってるんだ。誰もが、昔のままじゃ生きられないなんて事くらい…」
私とマッケンジー中尉の座るカウンター席と二席離れて酒が回ってテーブルに突っ伏している女性がそう言った。
「昔のまま、か。言うほど容易くはないことだ。しかし、時代に則して生きなければならないというのが世俗というものだ。時代の波に抗い破滅する事もある。だが、己の信念を曲げてまで時代という流れに身を任す事は生きていると言えるだろうか」
私は酔い潰れた女性の肩から落ちた上着を拾い上げて、その肩に掛け直してやる。
「クワトロ大尉…」
「パイロットだけをしていられれば苦労は無かった。だが、成すべきと思った事をするにはそれではダメだと、この7年で実感させられている」
そうだ。
だから私は連邦軍の赤い彗星を名乗り、ゴップ大将とも結託し、エゥーゴの中心メンバーとして政治向きの仕事もする傍らでアナハイムやダイクン派とも繋がりを持ち、MSの開発もやっている。
しかしそれでも、今のままではシロッコを倒すのには足りていないだろう。
とはいえ、当面はティターンズとどの様に戦うのかという視点を疎かにする事は出来ない。
最善はアムロを宇宙へと連れてくることであるが、それが私に出来るだろうか。
「それが私というクワトロ・バジーナの限界だ。マッケンジー中尉の事もアテにさせてもらいたい」
「人誑しですね、大尉は。ほろ酔いの女性を捕まえて、そんな口説き方をするんですか?」
「酒の力を借りなければ、気の強い女性を口説けない情けない男なのさ、私は」
残りのグラスの中の酒を一気に飲み干し、私は2人分の支払いをテーブルに置く。
「明日はテスト漬けだ。悪いが猫の手も借りたいくらいなのだ」
「わかっています。それに、楽しみでもあるんですよ」
「そうだな」
私はマッケンジー中尉と店を出て彼女を送り届けると、アンマンの自室に戻る。
「ひとりとは、ここまで広いか」
ベッドに身を投げ出して、私はなんとなしにベルトに括り付けているサイコフレームに触れる。
私に背負えと言うのか、ララァ。
シャアに背負い切れなかった物を、私が背負えるとでも言うのだろうか。
無茶を言うな。
私はただのガノタでしかない男だ。
私はシャア・アズナブルになるつもりも、ましてやフル・フロンタルになるつもりもない。
そうさな、今の私はクワトロ・バジーナなのだ。
ならばクワトロ・バジーナらしく、やってみせるだけだろう。