非常におめでたいので、書き貯めて個人的に楽しんでいた二次創作を垂れ流しておきます。完結はしてないですが、30話くらいあるので楽しんで頂けると幸いです。毎日1話ずつ投下していく予定です。
よろしくお願いします。
友人が居た。
たった1人、親友が。
『だから、うん、ごめんねミア。なんか結果的に色々と押し付ける様な形になっちゃったんだけど……』
真っ白な肌、細く弱々しい指先、微笑みは薄く儚げ。日に日に消えていきそうになる彼女は、けれど何より先に、彼女の頭部に浮かぶ光の輪にこそ変異を見せ始めた。
『私もこれから先のこととか見たかったし、心残りもあるし、不安もいっぱいなんだけど……ミアならきっと、なんとかしてくれるって信じてるから。だからそれだけは安心、かな?一応私もやれることはやったけど、それでもね』
パタパタと聞こえてくる、幾つかの足音。それと同時に彼女は苦笑いをして、こちらもまた下唇を噛む。秘密の話はこれまで、2人だけの秘密を語り合う日はもう2度と来ない。
この学園都市において滅多に立ち会うことのない"死"という概念は、であるからして生徒達の精神と記憶に大きな影響を齎し、それによっては人格どころか人生そのものを揺るがすことも多いと聞く。
……つまり。
『こんな大変な責任を押し付けちゃった私が言えることじゃないかもしれないけど……絶対、幸せになりなさい。今の私にとって1番の"推し"は、間違いなくミアなんだから。不幸な終わり方なんて、絶対に許さない』
この身に、この存在に。
仮に転換期と呼べるものがあったとするなら。
それは間違いなく、今この瞬間。この瞬間。
『……ええ、誓いましょう。貴女の親友たるこの私が、親友である貴女の望みの全てを叶えてみせると』
『相変わらず硬いな……でも、うん。ミアがそう言ってくれたのなら安心かな。安心して私の、全部を託せる』
そう、誓ったのだから。
強欲で、夢想家で、臆病な彼女の全ての望みを叶えるのだと。そう言葉にしてしまったのだから。それを曲げることなど、決してはあってはならない。
……たとえそれが、この人生そのものを縛り付ける様な歪な鎖となってしまったとしても。
『私は……貴女の希望なのですから』
胸を張って、いつまでも。
そう言えるために。
このキヴォトスにおいて、学生という身分は意外と自由のあるものと言える。
それこそ授業などというものは、その大半がBDによってされているものであり、その中でも出来の悪い生徒達が追加で補習を受けるという形。つまり自分の才能と努力の中で完結出来るのであれば、勉強によって取られる時間というものは少なくて済む。
その時間で何をすべきか、何をしたいのか、どうするのかは、各個人に任されるということだ。学校を守るもよし、趣味に打ち込むもよし、誰かと交流を深めるもよし。十人十色、時間と選択によって生徒一人一人に色が付けられる。
「ええ、ですから私は既存の組織に所属するつもりはありません。勧誘して頂けたことには強く感謝いたしますが、その理念に強く共感するところもまたありますが、しかし仮に組織に所属するのであれば、それは私が新たに生み出したものと既に決めております。同様にして、"ヨハネ分派"を始めとした各政治派閥に所属するつもりも現状ございません。部活動等も当然に属する思いはありませんのでご理解頂きたく思います」
「なるほど。貴女には貴女の信念があり、それは私の信じる物とは僅かながらに異なると。とても残念です。貴女を一目見た瞬間から、生涯に渡って手を取り合える良き友人となれることを確信していたのですが。どうやらそれは私の思い込みだったようですね」
「いえ、友となることは可能でしょう。"ヨハネ分派"首長であり救護騎士団団長でもあられる"蒼森ミネ様"の『友人』となることについては、むしろこちらから頭を下げてでも願い出たいところでもあります。他者を救うという信念その一点に限って言えば、我々は間違いなく迎合出来ることでしょう」
「いいえ"ミア様"、学年や立場は違えど、そのように頭を下げる必要はありません。そしてそれを聞いて安心もしました。やはり我々は同志足り得るのだと。そこに共通の認識があることを互いに理解し合えたという事実の価値は、言葉以上のものですから。しかし、であれば益々お聞かせ願えますでしょうか。貴女のその"束縛なき看護"が、果たして人々にどのような救いを齎すものなのかと」
「構いません、立ち話にはなってしまいますが」
「構いません、友人らしく立ち話を致しましょう」
「………なにあれ怖い」
人目のある学園内で、多くの生徒が歩を進める大きな廊下の少し端で、けれど最早その廊下に存在する全ての生徒が一斉に口を閉じるどころか靴の音さえ遠慮してしまうほどの恐ろしい圧力が、そこには存在していた。
1人はトリニティ総合学園に所属している者達であれば誰もが知る有名人:蒼森ミネ。救護騎士団の団長であり、学園内の政治分派の一つである「ヨハネ分派」の首長を務める、生徒会にあたるティーパーティーへの参加資格さえ有している程の人物だ。
その極めて強い正義感と使命感、苛烈とも言えるほどの気質と強靭な信念によって、当代の救護騎士団は「ミネが壊して騎士団が治す」と称されていたりする。
……そして一方、そんな蒼森ミネに現在真正面から対峙している1年生の生徒が居る。
彼女もまた同学年の中では極めて有名な人物であり、そして密かに『2代目:蒼森ミネ』という名誉か不名誉かよく分からない渾名を付けられ始めている問題児であったりもする。
1年生にして体格は本家に及ばずとも女性にしては大きい165cm。頭脳優秀、スポーツ万能。それこそ今こうしてミネにされているように、各部活動や派閥から入学以来勧誘され続けている。
しかしどれほど甘い餌を目の前に吊り下げられようが、彼女はその全てを跳ね除けている。本家同様の他者に恐怖を抱かせるような信念と苛烈さによって、何にも挫かれる事なく今日まで自分の道を歩んでいた。
「救護騎士団に所属することなく救護活動を続けることに関する意味について問われていると解釈しますが、であれば最も分かりやすい例として"トリニティ自警団"を挙げるべきでしょう。その存在については私よりもミネ様の方がご存知かと思いますので、詳細は省かせていただきますが」
「……それは、必要であれば我々と対立することもあり得るということでしょうか。まるで"正義実現委員会"と"自警団"のように」
「それは必要なことであると考えます。そしてそれこそが所謂"自警団"に求められている役割の1つでもあるでしょう。同時に私が最も価値を感じている部分でもあります」
「なるほど。公的な組織では対応困難な部分にまで手を伸ばすことに貴女は価値を感じていると。それについては理解出来ますが、では我々と対立することによって生まれる価値とはなんでしょうか」
「あなた方"救護騎士団"が医療活動についてミスを犯した際に、それを咎める存在が現状このトリニティには存在しないという点です」
「………」
「勘違いしないで頂きたいのは、私は決して貴女方の医療活動について疑いを持っているという訳ではないのです。一種の独占状態であると、その危険性と共に事実を提示しているだけなのです。そして多くの経済活動が証明している通り、競合相手の存在はあらゆる分野において最低限必要なものでもあります。行き過ぎれば歪みや憎悪を生むものであるとは言え、しかしそれは組織と組織の話。つまり組織と個人の対立であれば操作は容易く、また同時に挟まれる私情は少なく済む」
「つまり貴女は"救護騎士団"の競合相手となり、我々の活動に関して今後より強い尽力を求めるということでしょうか。ですがそれは事実上、我々が活動に手を抜いていると言われているように感じます。……当然ながら、そのような事実はありません。私は来年以降の後釜として貴女を育成するつもりであり、貴女にはそれを成すに十分を超えるほどの能力と気質があると確信しています。競合相手を作るよりは、貴女が次年度の救護騎士団長として2年間の活動を果たすことにこそより大きな価値があると考えますが」
「それはあまりにも勿体無い事でしょう。来年以降に関してはともかく、しかし今年一年に限ればこのトリニティにおいては貴女が居る。この状況を利用しない手はありません。仮に貴女が私に対して何かしら教育をする必要があると感じているのであれば、それは別に時間を作れば良いだけの事です。より多くの元凶を取り除くためには、我々は互いに異なる価値観を持ち、立場を分かち、相容れないという事実さえ利用すべきではないでしょうか」
「……なるほど、どうやら私は自分で意識していた以上に ミア様から信頼されていたようですね。それについての考えは至っておりませんでした。組織を同じくした際の効率化という点においては未だ納得することが出来ていませんが、一理については認めましょう」
「私もミネ様と同様ということです。一目見た瞬間から、生涯に渡って手を取り合いたい人物であると確信しておりました。また同様に、こうして相応の衝突を繰り返すことになるであろうということも。それは貴女とてそうでしょう」
「ええ、そこは否定いたしません。そして私も相応に理解しました。こうして議論を続けたとしても、恐らく我々の意見が完全に交わる事は決してないということを。交わるのは救護という一点のみ、そうですね」
「同意いたします、つまりはそれこそが我々の本質」
「残念です」
「ええ、非常に残念です」
「いや、ちょ、怖い怖い怖い怖い怖い!!」
「だ、誰か正義実現委員会を呼んできて!甘使(あまつか)さんは本当にヤる人だから!必要ならミネ団長相手でも平気で殴り掛かるような人だから!」
「ハスミ先輩ー!!どこー!?ミネ団長を止めてー!!」
「ここに居るだけで心臓が痛いよ!!」
「1年生が出して良い威圧感じゃない!!」
「壊れた救急車同士で正面衝突するな!!」
……確かに1年生と3年生という違いはあれど、それでも互いに一歩も引くこともなく真正面から目と目をぶつけ合う。まるでその部分だけ重力が何倍にもなっているかのような威圧感が二重になって、そこから地割れでも起きそうな有様。話を聞いているだけでは論争をしている程度にしか聞こえないが、周囲への被害はそれなりのものだ。
話の内容だけを聞けば言っているほど相容れないこともかく、互いに互いを理解しているようにも聞こえる。それに威圧感を抜きにすれば、やっていること自体は普通に穏やかな口論に過ぎない。気が短いようで、別に短気ではない。むしろ無駄に頭の良い人物達であるからこそ、そっちの方が余計に手に負えない。
「あ、あの〜……何をされているのでしょうか、お二人とも」
「「はい?」」
「ひえっ」
「ナ、ナギサ様!?ナギサ様が来られたわ!」
「素晴らしいタイミングです!」
「これでどうにか……!ど、どうにか?」
「どうにか、なるかなぁ……」
桐藤ナギサ。
トリニティ総合学園の3年生であり、生徒会たるティーパーティに所属している生徒会長の1人である。そんな彼女がどうしてこんな場所に現れたかと問われれば、それはもう普通に偶然。何の気なしに歩いていたら呼び出されて、辿り着いた先で見せられたのがこの光景である。しかも矢面にまで立たされて。
元よりナギサは蒼森ミネのことがそれほど得意ではなかったというのに。今この場にはそのミネが2人いるような凄まじい空間になっているのだ。いくらナギサとて関わりたくない。少なくともこんな、話の通じなさそうな2人を相手に間に立って説得などと。
「ええと、ミネ団長?これは一体」
「ナギサ様?……これ、というのは?我々はただ凡庸な話をしていただけですが」
「ええ、友人同士の気軽な立ち話をしていただけですとも。ナギサ様、ごきげんよう」
「え、ええ。一年生の"甘使ミア"さんですね、お噂は予々。……ですが、一先ずその気軽な立ち話というものは別の場所でして頂けないでしょうか。お二人の凡庸な話合いというのは、その、少々私達には刺激が強いと言いますか」
「「?」」
「まあ、ええ、はい、そうなりますよね。分かっていました。分かっていましたとも。噂は聞いていましたから」
新入生に"浦和ハナコ"に次ぐ、ティーパーティ後継者候補に挙げられるほどに優秀な人物が居ると。けれどその気質が何処か"蒼森ミネ"を思い起こさせるもので、入学数ヶ月で既に3件の暴力沙汰を引き起こしているとも。聞いていた。
その凄まじいまでの信念の強さには教員からの言葉も罰則も通用せず、優等生と問題児を両立している歪な状態になっていると。そんなことは、上に立つものであれば当然に知っていなければおかしいくらいの問題児で、まごうことなき事実でもある。
(……むしろ欲しいタイプの人材ですし、どころか正直、こちらから調べさせていたくらいだったりするのですが)
ちゃっかりしている、とは言うものの。それはナギサだけでなく、それこそミネやシスター・フッド辺りも同様に考えている事だったりもした。何処だって後継者問題を抱えている、優秀な人間はどうやっても欲しい。奪い合いだ。
しかしこの"甘使ミア"という彼女の性格を考えるに、元より宣言している通り、既存の組織に入るということはまず有り得ない。
故に普通に考えれば諦めるしかなく、事実そうして諦めてしまった派閥の代表者達は多く居た。それでもナギサは彼女に対して未だ非常に強い興味を持っている。つまり完全に諦めてはいなかった。
「ええと、端的に申し上げますと、真剣に話されているお二人の姿に周囲の生徒達が怯えていたのです。話の内容、表情、声の大きさ。そうでなくとも論争をするのであれば、公の場では控えて頂かなければ」
「……なるほど、そういうことでしたか。そうですね、申し訳ありません。配慮が足りておりませんでした」
「いいえ、本来であれば年長者たる私が気付くべき事柄でした。皆様、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。一生徒としてここに謝罪させて頂きます」
「……素直なのはいいことなのですが」
当然これについても、元より認知はしていた。その上で、興味を持つと同時に、出来ればこの2人を引き合わせたくないという思いもあった。それがたとえ不可能なことだと知っていたとしても。その影響を強く受けてしまう前に、より強い結び付きを作ってしまう前に。しかしそう考えている時ほど、厄介な案件は次々と舞い込んで来る。
「……そうですね、甘使さん。よろしければ私とも少しお話して頂けませんか?」
「ナギサ様と?ええ、もちろん構いませんが」
「……今度は何を企んでいるのですか?ナギサ様。ティーパーティ、いえ、フィリウス分派の戦力増強を?」
「いいえ、ただ1人の友人になりたいというだけです。目的も企みも、全て貴女と同じですとも。ミネ団長」
「……」
「嘘偽りはありません」
「……そうですか」
「友人となることについては構いませんが、先ほどミネ様にも申しましたように、私は既存の組織に入属するつもりはありません。このトリニティが毒蛇の巣窟であることは知っております。そしてそれ故の柵の多さも。仮に所属するとしても、それは自警団になるでしょう。それでも構いませんか?」
「ええ、構いませんよ。おっしゃることも理解は出来ます、共感もまた」
実際、自警団の成り立ちはそれに似たものだ。そして治安を取り締まる正義実現委員会からも、自警団の存在は必要だと認識されている。多くの柵に阻まれて動けない時、そんな柵に阻まれることなく動ける者が居るというのは確かに大きい。救護騎士団にとっても、それは喜ばしいことになるだろう。納得出来る。……普通なら。
「……やはり聞き捨てなりません。救護騎士団がそのような柵に囚われることはありません。救護が必要な場所に救護を、その一心で我々は活動しております。救護と政治は全くの別物、時には信念や思想を折ってでも救護を優先します。その様な愚劣な柵になど囚われることは決してありませんし、あってはならないのです」
「ミ、ミネ団長……ですからあの……」
「ええ、そうでしょうね。ですが、思想の統一など愚の骨頂。我々が統一すべきは医療に対する熱意と誠実さ、そして探究心。得た医術の使い道、使う思想など悪性でない限りは自由であるべきです。あらゆる多くを救いたいのであれば、多くの立場の医師を作ることこそが最善」
「しかしそれでは効率という面で十分な成果を上げることが出来ません。このキヴォトスにおいて医療を志す生徒が一体どれ程居るか。組織が増えるほど手間が増える、この現状において効率を排斥することは全く現実的ではありません。思想信念の違いは大いに結構、騎士団は救護を志す限り決してそれを否定することはありません。ですが、それで十分ではありませんか。貴女の考えでは効率の悪化と精度の悪化は切っても切り離せません」
「ミネ様が居る間はそれでいいでしょう。仮に私の2年間をそこに積み上げて頂いても構いません。ですが、その後は?常に能力のある人物が現れるとは限りません。そうなった時、大きくなり過ぎた組織は救いどころか腫瘍となります。せめて派閥をもう1つ作る必要があるのです。それこそ救護が永久に途切れることのないように」
「あ、あの、ですから論争は……」
両方の言い分はもっともで、どちらも正しいのに、互いに一切譲る気がない。信念が強いというか、頑固というか、融通が効かないというか。似た者同士だからこそ、衝突する。正にそんな感じ。2人をこのままにしておくと、きっとキリがない。永久に衝突し続けそうな勢いだ。
「と、とにかく。甘使さんを少しの間お借りしますが、よろしいですよね。ミネ団長」
「……わかりました。この"世間話"の続きも一先ず今後の楽しみとさせていただきます。ただし、ナギサ様?下級生である彼女に権威を振り翳すようなことがあれば、私は決して許しませんので。ミア様も、何かあれば直ぐに私にご相談を」
「そんなことしませんから……」
派閥の違い、組織の違い、諸々の過去。そういったものが重なり妙な疑いを持たれているナギサは、当然のことながらミネのことが苦手である。そしてそんな彼女とよく似ているこの新入生も、対処を間違えてしまえば同様の疑いを向けてくることだろう。
……そうはさせない。そうはあってはならない。蒼森ミネからのプレッシャーが二重になるなどと、そんなことは決してあってはならない。桐藤ナギサにとってこの新入生との邂逅は、そういう意味でも、彼女の胃にとって本当に生死を分ける問題なのであった。
『甘使ミア』という少女がその頭角を表し始めたのは、それこそ中等部の終わり頃の事である。
元より十分な優等生で周囲からの期待を抱かれていた彼女は、しかし周囲に対する興味というものが一切に存在せず、ただ只管に勉学に励み、政治や派閥というものに関わるどころか、友人さえ作ろうとしないほどに自身を他者から隔絶した奇妙な人間であった。
優秀なのは優秀、しかしその優秀さを何かに活かそうともしない。何の成果も出さない、何の影響も齎さない。強いて言えばテストの平均点や順位を多少上方に動かすくらい。
故に次第に彼女に関わろうとする人間は減り、勧誘する人間も減り、期待する人間も居なくなっていった。ナギサが把握していたのもそこまでだった。
……けれど、1年ぶりに認識した彼女は、これほどまでに変わり果てていた。ミレニアム・サイエンス・スクールへの1年間の交換留学、それが彼女という人間をここまでに大きく変えていた。それこそ人が変わってしまったかのように。あの"セミナー"からも直々に転属の願いが届いたほどに。
「ふぅ、やれやれ……ああ、お好みの茶葉などはありますか?お菓子も含めて、色々なものを取り揃えているんです」
「茶葉ですか、ではダージリンを。好みという程ではありませんが、三大紅茶の1つということもあり飲む機会も多いですので。それなりに飲み慣れたものを」
「なるほど、では今日はその好みを1つ増やして頂くつもりでご馳走いたしましょうか。ダージリンであれば、こちらのケーキなども合うかと。マナーなどは気にしなくとも構いません、あまり気を遣うことなくリラックスしていただければ」
「……最上級生でありティーパーティーの一員でもあられるナギサ様の目の前でリラックスなど出来よう筈もありませんが、一応お言葉には甘えさせて頂きます。今日はあくまで『友人になる』という名目でご招待頂いたのですから」
「まあ、それは……そうですね、確かに難しい話でしたか。しかし勘違いしないで頂きたいのは、貴女と友人になりたいという思いに嘘偽りは本当にないということです。より正確に言うのであれば、貴女には私のことをより知って頂きたい」
「……?」
ナギサの自室、人を入れることなど滅多にない。そしてここに招待したということは、つまりティーパーティとしてではなく、ナギサ個人としての招待であるということ。
けれどそれが下級生にとってむしろプレッシャーになってしまうことは、まあ事実である。だがそれでも、この行為ほどに誠意を伝える方法がナギサには思い付かなかったのだ。となると後はもう、相手の受け取り方次第。
「ナギサ様の仰りたい事についてはよく分かりませんが……私は他者の気持ちを探るという行為についてあまり自信がありません」
「?」
「故に、ナギサ様のような方にはいつも同じことを伝えております。『貴女は私に何をして欲しいのですか?』と」
「!」
「私は人を見る目にさえそれほどの自信はありません。しかし、貴女が私という人間を敢えて友人という形で側に置きたい理由を持っていることくらいは愚考することは出来ます」
「……」
「さて、友人と言うのであれば隠し事など少ない方が良いのでしょう。それが決して他者に伝えることの出来ないものであるというのなら、私もこれ以上に追求することはしませんが。ですがそうでないのなら、余計な探り合いなど投げ捨てて頂きたいものです。余計な品位と共に、私もそれほど時間に余裕がある訳ではありませんので」
「……ふふ、なるほど」
もし周りに他の生徒がいれば、『なんと無礼な!』と怒り出すような不躾な物言いであるが。色々とこねくり回してはいるものの、言っていることはつまり『友人になりたいなら腹の探り合いなど早く捨てろ、無駄な時間を使わせるな』ということである。それは骨の髄までトリニティ精神が染み付いてしまっているナギサにとっては、なかなかに抵抗感があり難しいこと。そして慣れないものだ。
「……ですが、それでこそです」
「?」
そう、それでこそである。抵抗感があり難しいことではあるけれど、慣れないタイプではあるけれど。それこそを、そう言ってくれるであろう彼女のことを、ナギサは求めていたのだ。
「ええ、分かりました。では全てをお話ししましょう」
「おや、意外とアッサリなのですね」
「むしろこの展開をこそ望んでいました。貴女であれば必ずそう言ってくださると。そして……素直に助けを求めれば、貴女は必ず私の力になってくださるとも」
「……たかが1人の下級生に、いったい何を求めるおつもりで?」
「そう難しい話ではありません」
「?」
「貴女には、私を滅びの未来から守って頂きたいのです」
「……滅びの、未来?」
「先ずは貴女と仲を深めること。少なくともそれが私にとって唯一の生存方法であると、そんな助言がありました。そして私はそれを信じた、これはそういうお話です」
むしろ、ナギサは昨夜にそれを聞いてより意思を強く固めたのだ。これから始まるであろう、何か。不明確なそれに対して、果たして偶然に見つけたその一滴がどれほど盤面に影響を与える事になるのか。それは未だ分からない。