なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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13.作戦地域突入

 作戦決行。

 

 

「ふむ、来ましたか……」

 

 

 見下ろす光景、突入する学生による小規模軍勢。 

 相対するのはカイザーというキヴォトス屈指の大企業が抱える民間軍事会社であった。数多の戦車、ヘリ、そして武器に軍勢。しかし、それでもなお……

 

 

「結末は知れています」

 

 

 黒服はこの結末に、それほど興味はない。既にPMCの敗北を予期して必要な情報は抜き取り、隠蔽してあるし、カイザー・コーポレーションとて無能ではない。ここで拠点を完全に破壊されたところで、要となる部分を易々と渡す訳もあるまい。

 彼等には明確なゴールがあり、カイザーは敗北したとしても滅ぶ訳ではない。故に生じるのは僅かな変化。そこには一切の興味を惹かれる要素がない。

 

 

「結局、私が干渉出来る隙間も余裕もありませんでしたね。アビドス高校が奪われた後、人質交渉のタイミング、カイザーとの衝突で利子を跳ね上げた直後……ホシノさんとの交渉を進めるため色々と画策してはいたのですが、まさかここまで早く事が進むとは」

 

 

 それもこれも全て、あの少女が現れたことが原因だ。

 彼女が語ったキヴォトスにおける大人に対しての対処法。それはあまりにも適切であり、それを知られた時点でどうしようもない。あの場に同席していた小鳥遊ホシノはもう簡単には交渉に乗って来ないであろうし、元より彼女がそれを許さないだろう。

 今後の方針をどうするにせよ、一旦は小鳥遊ホシノは諦めるしかない。次の機会を待たなければならない。

 

 

「……ですが。あなたは別です、特異点」

 

 

 人質は取られても良い。

 カイザーが壊滅しても良い。

 発掘が停止しても構わない。

 小鳥遊ホシノが手に入れられなくなったのも、まあ今は我慢しよう。

 

 ……だが、彼女だけは見過ごせない。

 

 何の干渉もせずこの場を離れるようなことは、決してあり得ない。これほどの機会をみすみす手放すようなことは探究者として許されないし、今もなお好奇心が疼いて仕方がない。

 

 

「正直に申し上げれば、現状使える手札には限りがあるのですが……やはりここは、彼の存在を試金石にするとしましょうか」

 

 

 特異点。

 それは破滅と革変を齎す矛盾の存在。

 理論上存在し得ない異質でありながら、理論外の存在として有り得る異常。そしてそれが人工物であるとするのなら、観測者として、探究者として、研究者として、観測し、理解し、体現化させなければならない。

 

 

「さあ、見せてください。人工の特異点たる存在が、いったいこの世界に何を齎すのか。そして神秘を、崇高を、どのように変質させるのか」

 

 

 何を目指し、何を成し、何を壊すのか。

 

 

 

 

 

 

「せぇあっ!!」

 

 

「「ぐはぁっ!?!?」」

 

 

「ふんっ!!」

 

 

「「ごほぁっ!?!?」」

 

 

 

「……なんていうか、ほんとに銃使わないわよね。貴女」

 

「はい?そうでしょうか」

 

「ん、使ってるところ見たことない」

 

「け、結構大きな銃ですよね。制圧力も凄そうです……」

 

「ええ、狭い通路などでは非常に効果的です」

 

「いや!なら尚更今使いなさいよ!絶好の使い所じゃない!」

 

「はぁっ!!!」

 

「扉を蹴り飛ばさないで!!」

 

「ん、突入」

 

「せ、制圧します!!」

 

「ああもう!!」

 

 

 吹き飛んでいく扉と、扉の近くに居たであろう兵士。あまりの勢いにギャグのように吹き飛んでいったその姿は一周回って面白く見えてしまうくらいで、銃も爆弾も何も怖くないのか問答無用で突入していくミアに続いて、シロコとアルとヒフミも部屋の中へと入り込む。

 

 2ペアに別れての突入&探索。

 

 十分な戦力を整え準備した現在、カイザーPMCは外からも内からも徹底的に蹂躙されていた。

 

 

『ミアさん、報告です。ゲヘナの風紀委員は予定通り、外部からの増援部隊を殲滅しているようです。風紀委員長は居ないようですが、戦力としては十分ですね。また、ティーパーティから派遣されたL118牽引式榴弾砲部隊も次々と敵戦車を破壊中。それと……』

 

「それと?」

 

『正体不明のドローン軍団が、凄まじい勢いで敵ドローンと軍用ヘリを落としているのですが……』

 

「ああ、AMASですね。問題ありません、私が依頼した追加戦力です。適当に任せておいてください」

 

『一目でミレニアム製と分かるほど高性能なドローンを、あれほどの数で……一体誰が』

 

 

 空も地上も室内も、カイザーにとって優位な場所は全くと言って良いほどに存在しない。なんなら三大学園の戦力がここには集っているのだから、カイザーPMCからすれば藪蛇どころの騒ぎではない。

 つい先日まであれほどに余裕を持っていて、もうほとんど確実にアビドスそのものが手に入るという段階まで行っていたというのに。人質の取引を持ち掛ける前のほんの数日で、一体どうしてこうなったのか。カイザーPMC理事はただただ困惑していた。

 

 

 

「手をあげなさい!無駄な抵抗はやめることです!」

 

「「「ひ、ひぃっ!?」」」

 

 

「っ、シロコ先輩!?」

 

「セリカ……!」

 

 

「き、貴様等ァァ!!よくもここまで私の施設で好き勝手してくれたなァッ!!あと貴様だけは絶対に許さんぞ!!陸八魔アルぅぅ!!!」

 

「どうして私だけ名指しなのよぉ!?た、確かに依頼主は鞍替えしたけど!!」

 

 

 追い詰められた状況。現状戦力では敵わないと悟った時。ならば何処が一番安全かと問われれば、それこそ人質の側と言える。つまりそれは交渉、交渉の場に敵を無理矢理つかせるための手段。

 人質に銃口を向け、壁に背を向け、敗北は受け入れても、完全敗北だけは受け入れない。最後の抵抗。

 

 

「問答無用!!」

 

「ぷぎゃっ!?」

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 なお、その程度の常識的な甘い考えは、この女には通じない。そもそもキヴォトスの、それも練度の高いアビドスの生徒に対して普通の銃を突き付けたところで、別に大した脅威ではない。

 ……というより、そもそもこの距離ならぶっ放した方が早いのだから。この施設に入って初めての銃撃。それはカイザーPMC理事の腹部にクリーンヒットした。

 

 

「こ、この女……!!」

 

 

「遅いわ!!」

 

「うん、隙だらけ」

 

 

「「ぐぁあっ!?」」

 

 

「だ、大丈夫ですか!?今解きますね!」

 

「あ、ありがとう。誰だかわからないけど……」

 

 

「殲滅!!」

 

「「ごほぁあっ!?!?」」

 

 

「……あのゴリラがこっちの味方で良かったとは心から思うわ」

 

「「ゴリラ……」」

 

 

 PMC理事だけでは飽き足らず、自分達を追って部屋に入り込んできた更に2人の兵士を、寸分躊躇わず鉄拳でぶっ飛ばす、ゴリラと言われても仕方のない女の姿。

 何が酷いと言えば、この女の鉄拳は大抵の敵を一撃で気絶させることだ。つまりまあ、それくらいの威力を持っているということ。体格も大きく、凄まじい威圧感と共に正面から殴り掛かって来る。萎縮して一瞬作ってしまう恐怖が、致命的な隙を生んでしまう。

 

 

「と、ところでシロコ先輩。これ、何が起こってるの?この人達が付けてるのって、トリニティの校章よね?こっちはゲヘナっぽいし……」

 

「えっと、色々あって……」

 

 

「ハナコさん、こちらの位置情報をカヨコ様に送って下さい。合流して施設から脱出します。退路の確保も必要ですので、例のドローンにも同じ情報を送って貰えますか?」

 

『はい。……ですが、良いのですか?もう少し探し回ればこの基地、他にも色々と出て来そうな気もしますが』

 

「カイザーPMC及びカイザーコーポレーションを責め立てる証拠は十分に揃っていますし、ナギサ様経由で既に連邦生徒会にも圧力を掛けています。……むしろ余計な藪を突く方が今のアビドスにとっては困るくらいでしょう」

 

『なるほど、その辺りの塩梅は少し難しいですね。ですが確かに、現状の最善はカイザーコーポレーションに損切りをさせることですか。トカゲの尻尾切りをさせてしまうことにはなりますが、今のアビドス高校としては一先ずの平和の方が重要ですね』

 

 

「ね、ねえ!こいつどうしたらいいかしら?放っておいてもいいの……?」

 

「回収しておいて下さい。未成年者誘拐罪の現行犯としてアビドス高校で逮捕、その後に連邦生徒会へ引渡しという形で使います。他にも余罪の証拠は集めてありますので、まあその辺りの駆け引きはホシノ様に任せますが」

 

「なんか、そういう最後の選択みたいなのは他人に任せるのね、貴女って……」

 

「ここに骨を埋める気は無いですし、所詮は他人事ですから。無責任なことを好きなだけ言って、重要な責任は放り出しているだけです」

 

「そういう言い方はやめなさい。別に悪いことしてる訳じゃないんだから。責めてもないし」

 

 

 そんな風に一応は先輩のアルに軽く叱られながら、ミアはハナコからの指示を待つ。

 あとはこのまま帰るだけ。敵の戦力もかなり削ったし、これ以上のものも出て来ることはないだろう。そもそもカイザーPMC自体、武装と人数はあっても、アビドス対策委員会や便利屋68などの質を持った人材というのが存在しない。数という問題さえ解決してしまえば、便利屋を味方に付けた以上、こちらが負けることなどない。最初からそう想定していた。

 

 ……のだが。

 

 

 

『貴女が特異点で在り続ける限りは』

 

 

 

「……」

 

 

 

 アビドス高校に現れた、あの不気味な男。以前から何度もホシノに声をかけていたというアレは、現状間違いなくその興味の対象を自分に移している。

 あのような手合いがこれほどの規模の出来事を前に、完全な無視を決め込むとは考え辛い。このまま何事も無く帰ることが出来るのなら良いが、そこまで甘使ミアは楽観的ではなかった。

 

 それはまあ確かに、あの男の興味の対象が自分に向いたことは好都合だと思っているし、それでホシノを含めたアビドスの面々に関わる害が減るのなら引き受けることに抵抗もないが。しかしやるのならこの件が終わってからにして欲しいと……

 

 

『……?ミアさん、ゲヘナ風紀委員の天雨さんから連絡が来ていますが』

 

「繋いで下さい」

 

『分かりました』

 

 

 まあ、やはり世の中甘くない。

 

 

『甘使ミア!!今直ぐその施設から離脱して下さい!!』

 

「っ、施設外で何かありました?」

 

 

『"ビナー"です!!アビドス砂漠を拠点としている"自律型超巨大兵器ビナー"が、真っ直ぐカイザーPMC拠点に向けて進行しています!!こちらの派遣した戦力では足止めさえ出来ません!直ぐに退避を!!』

 

 

「……そう来ましたか」

 

『ミアさん……?」

 

 

 今回の件、ゲヘナ風紀委員会としてもそこまで戦力を割いてはいない。

 何故なら戦力分析的にも、事前調査した範囲ではカイザーPMCには特に隠し球のようなものがなく、甘使ミアと浦和ハナコ、そして便利屋68とアビドス対策委員会という戦力だけでも十分に勝機があると判断していたからだ。故に一般委員達の実地訓練のような形で戦力を派遣しているし、頼みの綱の銀鏡イオリはビナーの進行方向とは全くの逆位置に陣取っている。被害を出さないためにも見逃したアコの判断は正しく、そこに文句はない。

 

 

「……避難は任せます!ホシノ様達と合流したら直ぐに!!」

 

 

『ミアさん!?』

 

「ちょ、待ちなさい!あなた何処に行く気!?」

 

 

 振り返らず、突っ走る。セリカを介抱しているシロコ、オロオロと困惑するヒフミ、そしてそんな3人を置いて追いかけることなど出来ないアル。故にハナコは即座に小型の通信機をアルに射出して、部屋を出て行ったミアを追い掛ける。

 事態の重大さは分かる、しかしその判断が正しいかどうかは分からない。だが少なくとも彼女が今、あまり良くないことをしようとしているのはハナコにも分かる。

 

 

『どうする気ですかミアさん!?流石にビナーを単独で追い返すのは不可能です!』

 

「その気はありません。ただこの場所で戦闘を行うのは不味いというだけです」

 

『この場所で……?』

 

「カイザーの兵士達が押し潰されます」

 

『……!』

 

「ビナーがこの場所に真っ直ぐ向かっている理由は分かりませんが、それを仕組んだ相手は分かります。可能性の話に過ぎませんが、ビナーを私に誘導しているかもしれません。であれば今なら間に合います。私がビナーのルートを変えます」

 

『し、しかしどうやって……!?いくらミアさんの足でもビナーほどの巨体を誘導するのは』

 

 

 

「AMASを借して下さい!リオ様!!」

 

 

 

『っ、調月リオ……?』

 

 

「……』

 

 

 階段を登り切り、窓ガラスに向けて何の躊躇もなく突っ込む。硝子の枠も金具も破壊して、10m近い高さからの自由落下。いくらキヴォトスの生徒と言えど大怪我を負うのは必然というほどのダイブであるにも関わらず、彼女は変わらず遠方に微かに見える巨大な土煙にしか目を向けていなかった。

 ……それは単に信じていたからなのか、それともそうすれば確実に彼女がそうするしかなくなると分かっていたからなのか。ただどちらにせよ、次の瞬間に落下しかけていた彼女の身体は浮いた。3機のドローンが射出した鎖を引っ掴んで、強引に。

 

 

『……無茶をするわね。この高さから落下していたら、いくら貴女でも脚を折る程度で済むのかしら』

 

「ビナーのデータは貴女と言えど欲しいはずです。AMAS3機と引き換えであればむしろ安いくらいでしょう」

 

『不要よ、概ねのデータは既に取っているわ』

 

「あのビナーが何者かに誘導されているとしても?先程の私とハナコさんの会話を貴女も聞いていた筈です」

 

『……』

 

「手伝ってください。いくらカイザーの私兵と言えど、死人を出す訳にはいきません。そうなればアビドス高校とカイザーの関係は本当に取り返しのつかないことになってしまいます」

 

『……ビナーの外装、5cm四方以上の物が最低条件。耐久試験に使いたいわ。貴女にそれが出来る?』

 

「分かりました。契約は成立です」

 

 

 それだけ言葉を交わすと、ブツっと回線が切れてしまうところが、もしかすればこの2人の間柄を指し示しているのかもしれない。

 

 

『……』

 

 

 ただどちらにせよ、そんな会話を聞いていた浦和ハナコの内心は滅茶苦茶である。このドローンがミレニアム製のものであるとは分かっていたが、まさかビッグシスター直々に用意し飛ばしているものだとは夢にも思っていなかったからだ。

 

 こんなことがナギサに知られれば大きな疑念を生むだろうし、それはゲヘナ風紀委員会とて同じだろう。それほどにはミレニアムのビッグシスターこと調月リオは他の自治区から警戒されているし、疑われている。合理性が行き過ぎる彼女の決断は確かに今のミレニアムを形作ってはいるのだろうが、故にミアを留学中にスパイに仕立て上げていたという話が噂レベルでも出て来るものなら、誰もが疑うことなくそれを信じるだろう。

 他の生徒であれば幾らでも言い訳の余地はあるのだろうが、よりによって生徒会長とは……

 

 

『……ミアさん。ミレニアムのビッグシスターと親密な関係にあることが知られればトリニティ内でどうなるか、理解はしているんですよね?』

 

「面倒なことになるでしょう、そういう気質のある学園であることは重々承知しているつもりです」

 

『ならなぜ……』

 

「それが私の目的を諦める理由にはならないからです。そして今ある交友を断ち切る理由にも」

 

『……』

 

「何故トリニティの校風のために自分を曲げる必要があるのですか?その譲歩によって得られるものは、少なくとも私には不要です。私は私の意思で彼女と交友を持っていますし、その関係を他人に非難されようものなら、徹底的に対立します」

 

『……』

 

「価値観の合わない人間が居るのは当然のことで、全ての場所に受け入れられるほど柔軟な人間でもない。であるからこそ、私のような人間を受け入れてくれた人間を、私は大切にしたい。……それはハナコさん、貴女も同じです」

 

『私、も……?』

 

「短い付き合いとは言え、貴女も既に私にとって大切な友人ということです」

 

『……!』

 

「たとえトリニティを排斥されることになったとしても、貴女との交友を断ち切るつもりはありません。それが仮に私からの一方的な片思いであったとしても、迷うことなく」

 

 

 映像越し。自分はあくまで遠く離れたトリニティに居て、彼女の声も顔も機械越しにしか伝わっていない。なんなら立体映像を殆ど使っていないので自分の顔を彼女に見せたことは1度や2度程度しかなく、付き合いも彼女の言った通りまだ数日だ。

 それこそ数日前には踏み込み過ぎた彼女の言葉に対してハナコは何も答えられず、互いに気まずい思いをしたこともあった。……そんな関係だったのに、今や彼女は自分に対してそこまでのことを言ってくれた。

 

 思わず顔に血が上り、言葉に、思考に詰まる。こんな経験は初めてのことで、目の前の画面に映る彼女の少しだけ口角を上げた横顔から、自然と目が逸れる。

 

 

『……やっぱりトリニティの生徒らしくないです、貴女は』

 

「校風と個人は異なりますから」

 

『そうですね……勝算はあるんですか?』

 

「やれることをやる、それだけです」

 

『……分かりました、10分頂けますか?その間にどうにか戦力をまとめて、施設への影響の無いような対処を考えます。私を信じて貰えますか?』

 

「無論です。ハナコさんの用意が出来るまで、いつまででも稼いでみせましょう。……戯言のようにも聞こえるかもしれませんが、信じて貰えますか?」

 

『勿論です。確かに信じ難い話ですが、信じますよ』

 

 

 

 

『……だって、それは決して、片思いなんかじゃないんですから』

 

 

 

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