なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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21.分かっていながら

 ミアがこのミレニアム・サイエンス・スクールに留学していた頃、当然ながら何事もなく平穏な日々を送れていたという訳ではなかった。

 ……もちろん何か事件が起きたということでもないし、教室が爆発したりなんてことは1日1回くらいしかない。キヴォトスにおいてこれは極めて平和な方である。

 

 それでもミアが僅か1年の留学で歳上のリオやユウカと面識があったのは、とある少女との出会いがあったからに他ならない。そしてその出会いこそが今のミアを形作り、今もミアを動かしている原動力である。となると当然ながら、そんなミアのことを彼等もよく知っているし、ユウカと同じように心配さえしていた。

 

 

「……あ、ミア。久しぶり」

 

「エイミさん、お久しぶりです」

 

「同い年なんだし、敬語はいらないよ?」

 

「……まだ慣れておらず」

 

「そっか、なら仕方ないね」

 

「お元気そうでなによりです」

 

「それはこっちのセリフ。セミナー経由で何度も転校の打診したのに、全く連絡来ないから。トリニティに監禁されてるかと思った」

 

「まさか、そのようなことは。むしろ相当に自由にさせて頂いているほどです」

 

「そう?それならいいけど」

 

 

 同い年で、同じように優秀な能力をもつ、どことなく合理的な部分も似ている、ミレニアムの友人。それが今こうして目の前で相変わらずとんでもない服装で立っている和泉元エイミである。

 共に1年生には見合わぬ能力の高さ故に将来を期待されている者同士、しかし特に切磋琢磨することもなく、のんびりとした友人関係を築いている。

 

 

「今は特異現象捜査部っていう、リオ会長が新しく創設した部活に居るんだけど。ミアは?」

 

「トリニティで小さな治療院を経営しています。ただ今度シャーレの後継機関が出来るとのことで、そこの部長になることがほぼ内定しています」

 

「おお、出世したね」

 

「エイミさんもいずれはセミナーに入ることになるのでは?ユウカさんも優秀な人材がなければリオ様が抜けた後の穴埋めが出来ないと嘆いていましたので」

 

「そう?私は別にどこでも良いけど」

 

「後継機関にエイミさんを誘おうかと考えていましたが、一先ずはやめておきましょう。特異現象捜査部についても、これから忙しくなりそうですので」

 

「?」

 

 

 ミアとハナコが所属している部にエイミまで入ってくれるのなら、それはもう人材として十分過ぎるほどのものになるが、エイミは流石にこのミレニアムにおいても重要過ぎる。リオもユウカも2年後の生徒会長の候補として考えているであろうし、彼女が補佐に入るのならユウカも安心して業務を遂行出来る筈だ。

 1年生時点でここまで優れた能力を持つ生徒というのもキヴォトス全体で見ても珍しいが、だからこそ、そういった生徒の扱いには気を付けなくてはならない。そもそも後継機関の詳細がまだ決まっていないのだから、勧誘出来るのは本当に暇を持て余しているような都合の良い生徒でなくてはならない。

 

 

「おや、おやおやおや。リオに聞いた時にはまさかそんなことがあるものかと8割強疑っていたのですが……まさかあのユーモア皆無の下水女の戯言が本当だったとは、明日は雨ですね」

 

「……?あ、新部長だ」

 

「ヒマリ様、お久しぶりです。先日のアビドスでの一件ではありがとうございました」

 

「いえいえ、いいのですよ。可愛い後輩の頼みとあれば、端末の位置情報システムにハッキングを加える程度のこと。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーには些細なことです」

 

「ヒマリ様が特異現象捜査部の部長になることは既に?」

 

「うん、会長から。この件についてはミアと特異現象捜査部で受け持って欲しいって」

 

「あの女が自分の関わっている案件を丸ごと投げてくる事など滅多にないことですから、何か裏があるとは思いましたが……そうですね、ミアが居るのならそうなりますか」

 

「新部長はミアのこと聞いてなかったの?」

 

「今ここに来て初めて知りましたし、腹が立ったので現在進行形でリオの個人ページにハッキングを仕掛けています。……あ、物理的に回線を切りましたね!?それがビッグシスターのやることですか!!」

 

「……相変わらずのようですね」

 

「そうだね」

 

 

 そして今回。ミアと共にこの難題に取り組むもう1人の頼もしい味方が、この車椅子の少女。

 ミレニアムにおいて史上3人しか獲得歴のない学位『全知』を持ち、非公認ハッカー集団ヴェリタスの部長を務める美少女。生徒会長のリオと双璧を成す彼女こそ、先日のアビドスの一件でセリカの位置を突き止めた頼りになる先輩である。

 

 

「ミア、こちらに」

 

「はい?」

 

「ふむ……ふむふむ……」

 

「?」

 

「部長、いきなりセクハラ?職権濫用?」

 

「ひ、人聞きの悪いことを言わないでください、エイミ。私はただミアが大怪我をしたと聞いて心配していただけです」

 

「怪我したの?」

 

「ええ、既に完治していますが」

 

「まったく、相変わらず無茶をします。トリニティに戻ったとしても、貴女は私の大切な後輩の1人なんですよ。リオにも頼ったと聞きましたが、何か法外な取引をさせられてはいませんか?必要なら私が今からでも乗り込んで……」

 

「ありがとうございます、ですがその問題は既に解決しました。取引としても無いも同然のような形になってしまいましたので、むしろ私の方が申し訳ないほどです」

 

「……それならいいのですが」

 

 

 こういう面倒見の良いお節介気質なところもヒマリの良いところであり、僅か1年この学園に滞在していた自分のことをここまで気遣って貰えているのは、ミアとしても感謝しかない。

 それにしてもリオとの仲の悪さはどうにかならないものかと思うのだが、こういうのも特別な関係の一つであると彼女は言っていたし、そこに口を出さないというのがミアのスタンスである。

 

 

 ……さて、世間話はここまでとして。

 

 ここからは今回の件について、この3人で何をどうするのかについての話になる。それこそヒマリとエイミはリオから具体的な話を聞けていないし、方針も何もかも立てているのはミアの方だ。これほど能力のある者たちを集めたということは何かしら簡単な話ではないということは2人とも薄々勘付いてはいるのだが、逆に何故リオがそれを自分達に投げて来たのかという不思議もあった。

 

 

「我々の今回の目的は、ミレニアム郊外にある廃墟から『名も無き神々の王女』を奪取し、ゲーム開発部に押し付けることです」

 

 

「…………はっ!?」

 

 

「……???」

 

 

 相変わらずの単刀直入。

 しかし少しずつ噛み砕いていけば、ヒマリ達の持っていた違和感も薄れていくような、そんな案件である。

 

 

「はい、質問。その『名も無き神々の女王』って?」

 

「王女です。古の民が遺したアンドロイドであり、ミレニアム各地に徐々に目撃され始めている奇妙なロボット達の指揮官。この世界を滅ぼすために生み出された人型兵器と言っても構いません」

 

「……それも、彼女から?」

 

「はい」

 

「はい、また質問。そんな危険な存在をどうしてゲーム開発部に置くの?破壊するんじゃないの?」

 

「危険な存在ではあるのですが、味方につければ同じオーパーツ達に対する強力なカウンターとなるからです。言ってしまえば、味方に出来る可能性がある兵器」

 

「なるほど」

 

「……では、私からも1つ。ゲーム開発部である理由は?彼女達は最近も色々と問題を起こしていますし、もう少し善良な者達に任せるのが適任では?」

 

「彼女達の作ったゲームがありますよね」

 

「ああ、あのクソゲーね」

 

「テイルズ・サガ・クロニクルでしたか」

 

「あのゲームには古のアンドロイドの演算機能に致命的なダメージを与える特殊な効果があります」

 

「……」

 

「……」

 

「そして何より、無知な彼女達には古のアンドロイドが相手であったとしても少しの違和感もなく友人になれる素養があります。これは彼女達にしか出来ないことです」

 

「すごい酷いこと言ってるけど、なるほど。半分くらい意味分からないけど、そういうものなんだね」

 

「そうですね、そういうものだそうです」

 

「これは確かに、リオでは納得出来ませんね……」

 

 

 2人でなければ、話したのがミアでなければ、何言ってんだコイツ案件。しかしもうこれはそういうものだと理解するしかないものだ。情報源がそういうものであるとヒマリ達は知っているから、それで理解するしかない。

 故に考えるのはそこではなくて、それを実際にどうやって実現するかだ。何をどう気を付けて、どういう方針で進めていくのか。

 

 

「一先ずは廃墟の探索に向かいましょう。私は結果は知っていても過程は知りませんので。目的のものが具体的に何処にあるのかについては、これから探す必要があります」

 

「え、あの広い廃墟を手探りで……?」

 

「G.Bibleというものを探せば良いと聞いています。ヒマリ様、申し訳ありませんがドローンでのサポートをお願いします」

 

「……いえ、せっかくですので今回は私も一緒に向かいましょう」

 

「大丈夫なの?」

 

「問題ありません。何せここには頼りになる後輩が2人も居るのですから、何を恐れることがありましょうか。しっかりと守ってくださいな」

 

「……分かりました、それでは現場での指揮はヒマリ様にお任せします。またこれは個人的なお願いなのですが、ヒマリ様の指揮を記録しておいていただいてもよろしいでしょうか」

 

「それは構いませんが、そんなものをどうするのですか?」

 

「ハナコさんにお渡ししたいので」

 

「ハナコ……浦和ハナコさんでしたか。分かりました、記録したものを後程お渡ししますね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 今はここには居ないハナコ。自分の居ない間、トリニティで起きた問題について対処をお願いしている。しかしどちらにせよ、今後は彼女に戦闘指揮をお願いしていくことになる。ならばこうして別の人間の戦闘指揮を受ける際には、それを情報として保管しておくべきだろう。彼女もきっとそれを望む筈だ。

 

 

「さて、それでは目指せ"名も無き神々の王女"ということで」

 

「ええ、行きましょう」

 

「おー」

 

 

 廃墟の探索、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ミアちゃん本当に帰って来たんですか?それなら挨拶の一つくらいさせて欲しかったのですが……」

 

「仕方ないわよ、なんだか忙しそうだったから。昼食は一緒に出来たのだけど、また直ぐに飛んで行っちゃったし。まあ会長の案件だと思うわ」

 

「そうですか……まあ、会長の案件というよりは、【マキリちゃん】の案件なのでしょうけど」

 

「……そうね」

 

 

 ミレニアムの生徒会:セミナーの室内で、ユウカはノアと共に提出された各部からの予算要望を処理しながら一息を吐く。

 思い出すのは1年ほど前の保健室での光景。ユウカにはノアのような記憶能力はないが、それでも当時のことは今でも鮮明に思い出せる。思い出したくなくとも、彼女の顔を見れば思い出してしまう。

 

 

「ユウカちゃんはマキリちゃんのことを結構調べていましたよね?あれ以来なにか進展はありましたか?」

 

「いいえ、あったら共有してるわ。でも仕方ないでしょう?ミアもマキリも似た者同士、互いに出会うまでは他者とのコミュニケーションを一切取っていなかったんだもの。残ってる情報なんて満点のテスト記録くらいよ」

 

「だからこそ、会長も2人の異変に気付けなかったというのもありますからね。2人の様子が記録されていた監視カメラの映像や音声も、マキリちゃん自身に全て改竄されていましたし」

 

「……私達が知ってるのは、マキリが何らかの手段で未来を予測して、それをミアに伝えたということ。そしてミアはそれを現実にしようとしているってことだけ」

 

「どちらかと言えば、未来の一本線を見たのではないかと会長は言っていましたね。つまり、数多に分岐する未来線の1つを把握したと」

 

「はあ……未来予知なんて非現実的な話、と言いたいところだけど」

 

「ミレニアム屈指の天才2人が確信していますし、トリニティにも未来を予知出来る生徒が居るそうですから」

 

「確かに物理学にも"ラプラスの悪魔"なんて概念はあるけど、それを実現するのは今のミレニアムでも不可能よ。……マキリはそれを一部分だけでも実現させたってこと?まあ、あの子も相当な天才だったけど、流石にそれは」

 

 

 正直に言ってしまえば、その話を聞いた瞬間からユウカは今日この日が来ることを想定していた。ミアがこうして表立って動き、このキヴォトスの未来のために自身を犠牲にしながら走り回る、そんな姿を。

 だからミアがアビドスでカイザーPMCと衝突し、その後にミレニアムに来るという知らせを受けて、ユウカは完全にシャーレの先生への未練を捨て去った。最早それを引き摺っている余裕さえないと。亡くなった人間より、生きている人間を助けなければならないと。その選択を迫られた。

 

 

「私達に、何か出来ることがあるでしょうか」

 

「……変わらずセミナーとしてミレニアムを守る、それくらいかしらね」

 

「歯痒いですね」

 

「そうね。でも私達が普段通りに仕事をしていないと、ミアの方にも影響してしまうから。それ+αで何かをしようとするのなら、直接聞いた方が早いかも」

 

「聞いたんですか?」

 

「圏外……」

 

「早速何かやってるんですね」

 

「ああ、最初に会った時にもう少し踏み込んで聞いておけば良かった……私の馬鹿」

 

「仕方ありません。今は私たちにできる仕事をしておきましょう」

 

「……はあ。ノア、私これからゲーム開発部のところに行ってくるから。そろそろあの子達の活動も目に余るから、釘を刺してくるわ」

 

「はい、お留守番してますね。いってらっしゃい」

 

 

 最近はギャンブル大会を開いたり他部活を襲撃したりなど、本当に目に余る行動をし始めたゲーム開発部。これまでは温情で目溢しをしてはいたが、そろそろそれも限界である。ただでさえ忙しいのに余計な問題は持ち込まないで欲しいとユウカは呆れながらに席を立つが、まあ彼女のことなので、最後の最後の温情でも与えてくるのだろうと。ノアは予想する。

 

 

「……それにしても、ミアちゃんとマキリちゃんですか」

 

 

 ユウカが部屋を出ていくのを見送ると、ノアは瞼を閉じて記憶を手繰り寄せる。確かに監視カメラの映像はその悉くが消去されていたし、マキリに関するデータは今や殆ど残ってはいない。リオがお手上げな以上は技術的にはどうにもならないのだろうし、既にヒマリもリオもそこについては諦めている。

 ……だが、何も記録するのは機械だけの特権ではない。機械にも劣らない優れた記憶能力を持つノアは、その脳に確かに彼女の情報を刻んでいる。

 

 

「『特異点生成による時空分岐への影響評価』……私が覚えているのは、マキリちゃんの端末に映っていたそんな一文だけ。マキリちゃんはミアちゃんを使って、一体何をするつもりなんでしょうか。それがただ未来を良くすることだけならいいのですが」

 

 

 天才の思考は分からない。それはヒマリもリオもそうだ。彼女達の思考を真の意味で理解するのは、並大抵のことではない。

 故にノアは思案する。明らかに彼女達と同じ天才の部類であったあの少女は、心の底では何を考えていたのだろうと。答えなど見つからないと、分かっていながら。

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