廃墟の探索というのは基本的に非常に大変なものである。というのもまあ今更言うことでは無いのかもしれないが、それにしてもこの廃墟。常日頃から奇妙なロボット達が彷徨いており、見つかれば攻撃を受けると言う嫌らしさがある。
少しでも大きな音を立てれば彼等は集まってくるし、なんならヒマリにとっては瓦礫がそこらに散らばっているこの環境は車椅子を扱うには非常に不便な場所だった。
「ということだから、部長やっぱり待機で。邪魔」
『……背負ってくれるくらいしても良くないですか?』
「ミアが背負ったら文句言ったじゃん」
『人を背負いながら近接戦闘をするからです!エイミが背負ってくれればいいじゃないですか!!』
「暑いから嫌」
『その服装で暑いのはどう考えてもおかしいでしょう!』
「お二人とも、一先ずはその辺りで。私とエイミさんで探索し、目的地が見つかり次第ヒマリ様を迎えに行きます」
「うん、それがいい」
『……分かりました。仕方ありませんね、足手纏いにはなりたくありませんから、大人しくサポートに徹しますとも』
紆余曲折あり、こういう形が理想ということに落ち着きはしたが。しかしそれにしても廃墟地帯はなかなかに広いし、G-bibleの反応が無ければ見つけることは叶わなかっただろう。普通に探していては見つけることは不可能だ。
『大まかな位置については分かるのですが、電波状態も悪く詳細な特定は難しいです。また彷徨いているロボット達の動きも規則性はあるのですが数が多く複雑です。少しずつ道中の敵を無力化していくのが良いでしょう』
「銃を使うとバレるかな?」
『危険を犯すくらいなら銃を使ってしまって構いません。ただ敵を惹きつけてしまうのは事実ですので、倒したら即離脱を徹底してください』
「では私が先陣を切りますので、エイミさんは支援をお願いします」
「いつも通りってことね」
『なるべく隠密でお願いしますよ。目的は踏破ではなく入口を見つけることですからね』
「承知しました、粉砕っ!!!」
どーん!!!
「……」
『……』
「……」
『……ミア?私の話を聞いていましたか?」
「はい、隠密に無力化しました」
「隠密……?」
『貴女の声と敵が叩き付けられた音で気付かれましたが」
「……しかしロボット相手に絞め落としが聞くとは思えません」
「首をへし折ったら?」
『まず声を出すのをやめて貰えます?』
「分かりました、努めます」
これでもミアなりに隠密に倒したつもりなのだが、やはり機械で出来た身体を素手で確実に破壊するためには気合がいる。首をへし折ったところで倒せるかどうかは別の話、ならば確実に胸部を破壊して再起不能にすべきだろう。……まあそもそも、そのショットガンを使えやという話だが。どうせ見つかるのなら、撃ちながら走った方が良いに決まっている。
「ミア、後ろの敵撃つからそのまま」
「了解」
『追加で3体来ますよ!ミア!背後の壁を壊して退避を!穴は最小限ですよ!』
「了解」
ドゴンッ、ドゴンッと壁をタックルで突き破り、その後ろをエイミとドローンが付いていく。ミアだって流石に壁を素手で破壊出来るような怪物ではないが、全身を使えば破壊出来る怪物ではある。
そして戦闘において非常にオールマイティな活躍をするエイミは、そんな派手な活躍をするミアを上手く支援して立ち回っている。彼女も彼女で1年生にも関わらず3年生の有力な生徒達に引けを取らない優秀な能力を持ち、頭もよく回る。そして何より、ミアの扱いが上手い。
「ミア、肩貸して」
「お好きに」
「よっと」
エイミはミアを踏み越えて大きく跳躍し、上空からショットガンを撃ち降らす。そこに『ショットガンを使え』とヒマリから強く念押しされたミアが、ようやくそれを抜き放ち、敵の軍勢は次第に数を減らしていく。
ホシノだったりミネだったり、どうにもショットガン持ちと縁のあるミアであるが、近中距離戦ではやはりこれが一番良い。なおこのパーティでは遠距離戦は最悪である。当然だ。
「エイミさん!」
「っ!?狙撃……!?」
『ミア!エイミ!今の一撃で狙撃手の概ねの位置を特定しました!対処できますか!?』
「「無理(です)」」
『……分かりました。仕方ありません、また壁を壊して建物内を進みましょう』
「了解」
「ミア、大丈夫?身体痛くない?」
「痛みはありますが、問題ありません」
『いや問題だらけじゃないですか!!何故もっと早く言わないのですか!』
「粉砕っ!!」
『あなたの身体の方が先に粉砕されますよ!?』
壁を壊すなどと簡単に言うが。それを簡単に言うようなイかれた者達がキヴォトスには時々居るが、ミアはこれでもまだその領域に足を踏み入れてはいないのだ。
キヴォトスの非常に頑強な建造物を打破るのは容易いことではないし、それを一撃で破壊するとなると、並大抵のことではない。もう既に数十枚の壁を突き破ったミアの身体は、そこそこの反動を受けている。本人はそんな気など一切見せることはないが。
「部長、まだ?そろそろ見つけて欲しい、ミアが多分限界」
「まだ10枚はいけます」
『待ってください、もう少しです。あとミア、もう壁を破る必要はありません。必要ありませんからね?本当に破らないでくださいね?』
「ミア、前衛交代。あと暫く銃は撃たないで。部長が見つけるまで隠れるから」
「了解」
『…………………………………いえ、必要ありません。ようやく見つけました。北東方向に240m。ダミーの反応がいくつかありましたが、これは間違いありません』
「ダミー?」
『というより、反応が不安定なのです。複数に分裂したり、途端に移動したり……ダミーと決定付けていたのですが、やはり単に電波状態が不安定なだけにも見える』
「そんなことある?そこまで酷いなら部長の通信も切れるんじゃない?」
『ですからダミーだと考えていたのです。しかしこうなると、意図的な何かを感じますね。この反応のみを撹乱している?しかし、それに何の意味が?元よりG.bibleと目的物の関連性を知っているのはミアだけの筈……今考えても仕方のないことではありますが』
まあその辺りについては、直接乗り込めば分かる。分からないかもしれないが、原因の一端は掴めるかもしれない。行ってみなければ分からない、行ってみなければどうにもならない。
「取り敢えず突入するから、内部の調査と退路を確保してから部長を迎えに行くね」
「……遠目にですが、入口は開いているようですね。ということは間違いなく、内部にも敵は居そうです」
『いえ、今までの道のりを見るに私を連れてそこに辿り着くのは難しいでしょう。追加のハッキング用ドローンをそちらに送ります。その間に内部の清掃をお願いします』
「分かった。ミア、後ろから援護射撃お願い」
「ありがとうございます、お願いします」
これはまだ最初の一歩、それを踏み出すための準備。しかしそれでさえも、先生が居なければここまで困難なものであるということが、痛みと共に身に染みる。
話に聞いた中では淡々としていた先生の活躍を、同じ戦力で実現出来るとは正直到底思えない。それはアビドスにいた時からそれとなく思っていたことだ。
過信していたつもりはない、自分に出来ることなどそれほど大したものではない。しかしだからと言って、ここまでとは思っていなかった。想像さえしていなかった。
「…………あれ?むしろ居ない?ロボット達も追ってこなくなったね」
「ふむ、となると……」
『接近を確認』
「!」
「……」
『対象の身元を確認します』
「ミア、これって……」
「一先ずは聞いてみましょう」
「部長」
『大丈夫です、私にも聞こえていますよ』
部屋全体に響き渡る機械音に耳を澄ませ、銃を下ろして沙汰を待つ。その結果の想像は出来ているけれど。万が一の可能性を期待して。半ば諦めながら。
『和泉元エイミ、資格がありません』
「資格?」
『明星ヒマリ、資格がありません』
『っ!?ドローン越しにこちらを認識している!?これは一体!?』
『甘使ミア……』
「……」
『資格がありません』
「……まあ、そうでしょうね」
最初から分かっていたことだ。
ならばもう、やることをやるしかない。
自分に資格はない。
そんなことは誰より自分がよく分かっている。
「場所の確認は出来ました。予定通り、これよりプランAを進めます。エイミさん、ヒマリ様、あとはお願い出来ますか?」
『勿論です、任せて下さい」
「うん、そのためにキャンプ道具一式を持って来たから。重かったよね、この荷物」
「私もそれほど時間を掛けるつもりはありませんので、どうかよろしくお願いします」
『ミア、退却ルートの構築が完了しました。帰りは無傷でお願いしますよ』
「はい、ありがとうございます」
テントを建て始めたエイミに手を振り、早速ミレニアムへの帰り支度をする。今はここに辿り着けただけで十分だ。この先に進むべきは自分達ではないのだから。
「さて、次はゲーム開発部ですね」
自分は何処まで彼等を導けるのだろうか。
エイミと2人でもここまで辿り着くまでに苦労したというのに、戦闘がそれほど得意ではないであろう才羽姉妹を連れてまたここに来なければならないという、非常に不安のあるミッションがまだ残っている。そこまでやったとしても、その先は本当にどうなるか分からない。
まあどちらにしても、懸命に尽くすしかないのだが。目の前のことに全力で取り組み続けるしか、今のミアに出来ることはない。それは状況的にも、能力的にも。
「痛っ……」
「ああ!すみません!大丈夫でしたか!?」
ミレニアムに戻って来て、ゲーム開発部へと急ぐ道の途中。
ミアは突然に走って来た1人の生徒とぶつかる。
非常に珍しいことではあるが、相手が走って来たとは言え、ミアは尻餅を付いた。それほどの勢いで学園内を走っていたとなると非常に恐ろしい事に思えるのだが、むしろこれは単に疲労しているからなのだろう。怪我も多い。
差し出された手を借りながら、ゆっくりと立ち上がる。手を差し伸べてくれた彼女も、その引き上げる力からして、相当な肉体強者なのだろう。この学園にしては非常に珍しい。
「も、申し訳ありません……ようやくテスト期間が終わり、流行る気持ちを抑え切れず……って、なんですかその怪我は!?ま、まさか今の私のせいで!?」
「ああ、いえ、お気になさらないで下さい。これは別件です。放っておけば治りますので、大したことではありません」
「何を言っているのですか!今直ぐ治療をするべきです!怪我は放っておくべきではありません!治療は素早く!迅速に!」
「……確かにそうですね、少し焦り過ぎていたようです。仮にも医療従事者として、情けない限りです」
急ぐあまり放置していた、廃墟で負った怪我。帰りはヒマリの作ったルートのおかげで戦闘は殆どせずに済んだが、しかしほんの数時間程度で治るようなものでもない。
……そもそも、初対面の彼女がここまで驚くような状態に自分がなっていたということも問題だ。こんな様でゲーム開発部へ向かっていたら、それどころではなくなってしまっていたかもしれない。それでは本末転倒だ。
「医療具……用意が良いですね。というより、さっきの言葉からして本職の方ですよね?」
「小さな治療院を経営している程度です」
「見た限り、トリニティの方かと思いますが。観光でしょうか」
「いえ、1年ほどミレニアムに留学していたことがありまして、久々に顔を出しに来た……といったところです」
「そうでしたか……ああ、手伝いますよ。私も怪我をすることが多いので、包帯を巻くくらいの事は任せて下さい」
「ありがとうございます」
「いえ、私こそ突き飛ばしてしまいましたから……」
近くのベンチに座って、怪我の治療を行なっていく。それを手伝う彼女の手付きは確かに慣れていて、その鍛え上げられた身体を見ても、なるほど確かに活発なタイプなのだろう。
トリニティに1年滞在していたからと言って、全ての生徒を知っている訳ではない。むしろ自分は知らない生徒の方が多いくらいだろう。たまたま知っているのが今のミレニアムの上層を担っている生徒達ばかりというだけで。
「私は甘使ミアと言います」
「乙花スミレです。鍛え上げられた良い身体をしていますね、スポーツか何かを?」
「近接戦闘を少々」
「……トリニティとはそれほど武闘派なのですか?」
「いえ、銃撃戦より肉弾戦の方が得意というだけです」
「なるほど、通りで私とは筋肉の築き方が違う訳です。これは戦闘に特化した肉体という訳ですか、とても興味深いですね」
「スミレ様はスポーツのためのトレーニングを?」
「スミレで良いですよ、様付けは流石に擽ったいので。……私の場合は、単純に身体を鍛え、体力・身体能力を向上させることを目的にトレーニングをしています。トレーニング部という部活動で活動しているんです」
「そのような部活があるのですね」
「……とは言え、所属はまだ私1人なのですが。せっかくの入部希望者も、何故か数日で来なくなってしまうので」
「そうでしたか」
そんな雑談を交わしている間に、治療は終わる。
外傷を塞いだだけで骨や筋肉のダメージはどうにもならないが、まあ何もしないよりマシだろう。これで少しは外見も……良くなったかは微妙なところだが。どちらにせよ怪我だらけなのには変わりなく、包帯だらけで心配されそうではあるのか。
「もし良ければ、私の上着を貸しますよ」
「……良いのですか?」
「勿論、そのような乱れた姿でお帰しするのも心苦しいので。それに私は普段ミレニアムの制服はあまり着ませんので、お気になさらないで下さい」
「……ありがとうございます。必ず洗濯してお返ししますので、連絡先をお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろんです。せっかくのご縁、ここで断つにはあまりに勿体無いものですからね。是非トレーニング部にもいらして下さい、一緒に汗を流しましょう」
「ええ、喜んで」
そんな爽やかな笑みと共に、スミレと名乗った彼女は小走りに去っていく。
トレーニング、確かにそれは良いものだ。ミアにしては珍しく非常に興味の惹かれたその部活動に、状況が落ち着いたら行ってみようと心に決めて、またゲーム開発部に向けて歩き出す。
ミアだって、トレーニングは欠かしていないのだから。
【………音……リ、資格を確認しました】