なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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23.ゲーム開発部

 結論、無理でした。

 仲良くなれませんでした。

 

 

「私にはゲームという物の楽しさが分かりません。言ってしまえば、ゲーム開発部の方々と会話が成立しないのです……ふっ」

 

「なるほど、それは確かに困りますね。ですが気持ちは分かります。トレーニングも同じです。身体を鍛える事に興味のない方にどれだけ熱意を持って薦めたとしても、理解して頂くことは難しいですから……ふうっ!」

 

「正直G.bibleなどという怪しい代物に頼らず、最初からゲーム作成に熱意を入れた方が早いと思っている自分も居ます………んっ」

 

「ゲームを作っていないのですか?ゲーム開発部なのに?……よっ」

 

「午後からG.bibleを探しにまた廃墟に行くということで、今はその準備をしている……と言いながら、恐らくまた横道に逸れてゲームをしていることでしょう。彼女達はとにかく目的から逸れやすいので……むぅ」

 

「仕方ありません、そういう人もいます。誰もが物事にストイックになれる訳ではありませんから……ねっ」

 

 

 すっかり入り浸るようになったトレーニング部の部室で、殆ど日課のようになったハードなトレーニングを2人でこなす。

 当初見た時には驚いたほどに揃っている設備と、それを利用して成すスミレのあまりに密度のあるトレーニングメニューの数々。しかしミレニアムらしく理論に則ったそのトレーニングに、ミアは魅了され、今やこの有様である。

 

 

 ……というのも、これにはストレス発散や悩み相談といった目的もあったりした。自分には分からない価値観を持つゲーム開発部との関わり方。ミアはこれに非常に困っていた。

 

 

『ユ、ユウカの卑怯者ー!』

 

『……ユウカさんは当然のことを言っているだけでは?』

 

『う、裏切り!?急に後ろから刺すじゃん!?やっぱりユウカのスパイなの!?』

 

『は……?』

 

 

 

『なんですか、このストーリーは……理解不能です……』

 

『これがいいんだよ!びっくりしたでしょ!?顧客はこういうのを求めてると思うんだよね!新鮮さは大事!』

 

『新鮮な不快感をゲーマーは求めているのですか……?』

 

『ふ、不快感!?そ、そんなものないってば!これだからゲーム素人は困るんだよ!』

 

『………』

 

 

 

『じ、G.bibleを探さないと……!』

 

『すごいゲームが作れない……!』

 

『で、でもミレニアムプライスで受賞だなんて……』

 

『……一応聞きたいのですが。あるかどうかも分からない聖書に縋るのではなく、今からでも作成に取り掛かった方が堅実なのでは』

 

『どう頑張ったって私達にそんなゲームは作れないよ!だからその希望を求めてG.bibleを探すんじゃん!』

 

『せ、せっかくアリスちゃんもこの部に入ってくれたんだし!絶対に守らないと!』

 

『わ、わたしも……一緒に、守りたい……!』

 

『……まあ、筋書き通りなので別に良いのですが。仮に入賞出来なくとも、ユウカさんが見たかったのは皆さんが真っ当に努力している姿なのでは』

 

 

 とまあ、そんな感じで。

 まあなんとなく大きくルートは外れていないのだろうが、彼女達の考え方に自分が付いていけていない。特に才羽モモイの方。このままでは何処かで致命的なミスを起こす気しかしないくらいに。

 

 

「どうやら私にはまだ人間性が不足しているようです」

 

「考え過ぎではないでしょうか?」

 

「……そうなのでしょうか」

 

「はい、むしろそれはとても人間らしい悩みだと私は思います。人が人との関わり方に悩むことは、当たり前のことですから」

 

 

 ガッシャガッシャと200kgのバーベルスクワットをしながら、片手間にそんな会話をする2人。人間らしさをテーマにしている癖に、やっていることが人間離れしている。いくらキヴォトス人と言えど、このトレーニングはハードが過ぎる。

 効率の良いトレーニング?普通であれば過剰すぎてむしろ危険なくらいだろう。なおここにストッパーは居ない。理論とハードが螺旋状になって登っていくだけである。合理性と推進力が妙に噛み合って、突き進んでいくだけ。

 

 

「ふふ、まだ出会って数日ですが、段々とミアさんのことが分かってきた気がします。やはりトレーニングは素晴らしいですね、コミュニケーションとしても優秀です」

 

「分かるのですか……?」

 

「分かりますよ。ミアさんは御自身の他者より薄い感情を、コンプレックスとして感じているんですね」

 

「……そうですね、私は生まれつき自己というものが薄かったので。多少の改善がされた今、その遅れに劣等感を持っている事は否めないでしょう」

 

「ですが、少なくとも私から見た貴女は、それほど異質には見えていませんよ?」

 

「そうでしょうか」

 

「はい。人間性について言うのであれば、誰にだって十分でない部分があります。私だってトレーニングに傾倒するあまり、新入会員の気持ちが分からず、結果的に部員は未だに1人という有様ですし……」

 

「……確かに、このメニューを十分にこなせる方は少ないでしょうね」

 

 

 少ないというか、今日の今日まで1人たりとも存在しなかったし、これよりずっと優しいメニューでさえ誰も残らなかったくらいなのだから。他者への理解という部分でスミレは欠落していると言えるのかもしれない。運動が絡んだ場合の話ではあるが。

 

 

「ただ、それでも、それが人間なのではないかと思ったりもするんです。少なくとも完璧な人間性を持つような人を私は見たことがありませんし、完璧でなければ人間ではないということもありません」

 

「……人間としてのラインを、私は高く見積り過ぎているということでしょうか」

 

「ええ。私からしてみれば貴女は全然人間の範囲ですし、むしろこうしているように非常に好意的に見てさえいます。まだ出会ったばかりではありますが」

 

「それこそ、まだ日が浅いからなのでは?」

 

「そうかもしれません。ただ、本当に人間性の無い人は、こんな風に他者との関わりに悩むことさえしません。少なくともそういったラインは抜けているということくらい、自覚してもいいと思いますよ」

 

「……自覚、ですか」

 

 

 考えもしたことのなかった知見。

 自分より下の人間を見て安堵するような行いではあるが、しかしその行為は同時に自分の位置を正しく自覚するために必要な工程であるということ。上ばかりを見上げていては、自分の立ち位置を見失う。そう言われてみれば確かに、ミアにはそういう傾向があったかもしれない。

 

 

「難しいことは考えず、先ずはゆっくりとその方を理解することから始めてみてはどうでしょう。例えば、その方の語る常識は本当に常識なのか、その方は周囲の方からどう思われているのか」

 

「……相手の感覚の方が世間からズレている可能性ですか。なるほど、確かにそれはあまり意識したことがありませんでした」

 

「あまりこういう話をしたくはありませんが、ゲーム開発部の唯一の作品と呼べるテイルズ・サガ・クロニクルはクソゲーランキング1位に選ばれてしまったと聞いたことがあります。その製作者の語る面白さが世間一般と適合しているかと聞かれると……」

 

「……なるほど」

 

「ま、まあ、ゲームにあまり関心のない私の想像に過ぎませんが。少なくとも私としてはそう思ってしまうかな、と」

 

 

 腰の部分に大きな重りを乗せながら、プランクを行う2人。こんな姿からして異様な光景を見てしまえばトレーニング部に入ろうと思う人間は益々減ってしまうような気もするが、まあ2人は満足そうにやっているので、それはそれで良いのだろう。

 

 

「さて……それでは、ウォーミングアップも出来ましたので。今日はこれで失礼します。これから廃墟へ行かなくてはなりませんので」

 

「ええ、また明日。頑張ってくださいね、応援していますよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 互いに手を振り、また自分の目の前の課題に取り掛かる。そんな淡白な関係……と言いつつも、初めて自分のトレーニングに付いてきてくれた人と、自分の知らないトレーニングの知識だけでなく、こんな悩み相談にも嬉々として乗ってくれる人。互いにこの出会いは得難いものだと理解しているし、心地の良い関係だとも思っている。

 

 ……なにより、やはり互いに同じ動きをして、同じ負担を感じ合うというのは、否が応でも関係性は出来上がるものである。これもまたトレーニング、やはりトレーニングである。トレーニングは全てを解決する。スミレの思想が正しかった事が少しずつ証明されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、本当に信用していいのかな?あの人のこと」

 

 

 これからG.bibleを探すために廃墟に向かうということで、ゲーム開発部はミアを待ちながら装備の準備をしていた。武器を持ち、おやつを持ち、少しゲームにうつつを抜かしたりしながら、それを咎められて。

 ……そんな折に、才羽モモイはそれとなく部員達にそう話しかけたのだった。もう何度も聞いた、微妙な疑問を。

 

 

「もう、またミアさんのこと『ユウカの手先だ〜』とか言うつもり?本当に困惑してたからやめた方がいいよ、お姉ちゃん」

 

「だ、だってだって!あんなゲームに興味ない人が私達の手伝いなんて出来る訳ないじゃん!あんな人に面白いゲームなんて作れないよ!ユズとアリスはそう思わない!?」

 

「え、えぇ!?わ、私は別に……確かに困ってたけど、ゲーム自体は遊んでくれたし……」

 

「……?アリスはよく分かりませんが、ミアは魔王の手先ではないと思います。対戦ゲームも協力ゲームもモモイより上手です」

 

「で、でもさ!全然楽しそうじゃないんだもん!楽しさが分かってないっていうか!テイルズ・サガ・クロニクルもやってる間ずっと真顔だったし!クリアしても達成感の一つもなく溜息だよ!?許せないよ!」

 

「対戦ゲームで一度も勝てない上に、明らかに手加減されたのにそれでも負けたのが気に食わないだけでしょ。お姉ちゃんはいつもそうなんだから」

 

「い、今はそれは言わないで!!」

 

 

 甘使ミアという同学年の割に何もかもが大きなそのトリニティの生徒は、本当に突然にやって来た。

 ユウカによって最終通告が言い渡された直後、身体のあちこちに包帯を巻いて、ミレニアムの誰かの制服を羽織って。しかもゲーム開発部の改心に自分が協力すると、なんだか勝手なことを言い始めて。モモイはまさにその時から、彼女に疑いの目を向けていた。

 

 

『では、早速G.bibleを探しに行きましょうか』

 

『うえ!?なんでそのこと知ってるの!?』

 

『知っているからです。そして既に在処についても大凡の目処は付いています。早速今から向かいましょう』

 

『い、今からって……ちょ、待ってよ!廃墟に行くんでしょ!?危ないんだよ!?分かってるの!?』

 

『既に安全なルートも確保していますので、ご安心ください。参りましょう』

 

『ちょ、ちょっと!!』

 

 

 モモイもわりかし気ままで自分勝手な面を自覚してはいるが、だからこそ、ここまで強引に物事を進められることは珍しくて、同時にここまで用意周到な彼女に不信感はつのる。

 その上で、目的地で妙な女の子を見つけたかと思ったら、部室に帰って『後は任せる』と投げ出されて。結局G.bibleは見つからず、毎日数時間は部室に来るものの、ゲームをしていても一切の笑顔を見せず、全然仲良くなれる気がしなくて、何がしたいのかも分からなくて……

 

 

『もう!なんで分からないの!こんなに面白いゲームなのに!サブクエストばっかりやってるから、メインが全然進んでないじゃん!このゲームはストーリーが凄く良いんだよ!こんなことやってたらメインのシナリオ忘れちゃうじゃん!』

 

『……ですが、困っていますし』

 

『猫探しなんかしなくても誰も困らないよ!報酬もショボいし!こんなのに時間を掛けるなんて勿体無い!大体サブクエスト達成率72%ってなに!?フルコンプでも狙ってるの!?』

 

『メインストーリーよりサブクエストの方が私は好きです』

 

『この分からずや!!』

 

 

 と、こんな感じに。

 まあ面白いほどに価値観が合わない。

 

 確かに面白いサブクエストがあるのは事実であるが、彼女はサブクエストを見つけるとメインを放り出して切り替えるし、サブと同じくらいの感覚でメインをあっさり進めていく。

 メインの面白さと、その反応を楽しみたいモモイの期待は裏切られるし、なんならサブのやり過ぎでレベルが高過ぎて、自分が苦労したボスもあっさり砕け散るので、同じゲームなのに全く共感出来ないし、共感してくれないのだ。しかもどのゲームをやらせても、一度も面白いとは言ってくれないし。

 

 

「もう嫌い!本当に嫌い!」

 

「お、お姉ちゃん、冗談でもあんまりそういうことは言わない方が……」

 

「冗談なんかじゃないよ!あんな冷酷女!棚の角に小指ぶつけちゃえばいいんだ!」

 

「モモイは何に怒っているのですか?」

 

「ゲームに興味なんかない癖に!私達のことを助けるとか改心させるとか偉そうなこと言うところ!最初はG.bibleを探すとか言ってたのに、今更それが本当に必要かなんて良い子ぶっちゃってさ!」

 

「で、でも、助けてくれてるのは事実だし……」

 

「余計なお世話だよ!嫌々なら助けて貰わなくても結構!あんなに楽しくなさそうにゲームされても、こっちは全然嬉しくなんかないんだから!!」

 

 

 

 

 

「そうでしたか。すみませんでした」

 

 

 

 

「……え」

 

 

「「あ……」」

 

 

「ミアが来ました」

 

 

 そんな風に過去の不満を思い出して勢いのまま妙にヒートアップしていたモモイの元に、彼女はいつも通りの無表情で現れる。

 変わらない表情、変わらない様子、まるで全く気にしていないとでも言うかのように、トコトコと近付いてきたアリスを優しく撫でながら。

 

 ……もちろん、対して気まずさを感じているのはモモイと他2人である。自分でも言い過ぎていた自覚はあったし、これを聞かれていたと言うことに酷く焦りを感じている。それこそ、謝罪の言葉が直ぐには出てこないくらいに。動転する。

 

 

「モモイ様がそう仰られるのは当然です。ゲームの楽しさも分からない人間に、ゲーム開発部の助けなど出来る筈がないと。意見することさえ烏滸がましいと。その意見は至極真っ当なものだと私は考えます」

 

「あ、いや……その……」

 

「私がゲームを軽く見ていたのは事実です。ここ数日それなりに遊んではみましたが、やはり楽しさは分かりませんでした。その心構えの甘さを最初から見抜かれていたのであれば、それほどの怒りを打つけられるのは道理でしょう」

 

「ち、違くて……」

 

「ご安心ください、私も皆様の邪魔をするつもりはありません。G.bibleが無事に手に入ったら、ここに来る頻度も下げようかと思っています。所詮、開発など出来ない身ですから。居ても意味がありませんので、むしろ邪魔になるだけなのでしょう」

 

「あ、うぁ……」

 

「お、お姉ちゃん!ちゃんと謝った方が良いって!」

 

「で、でも、なんて謝ったら……」

 

「ミアはここに来なくなるのですか?」

 

「元より、ここに滞在出来るのもあと2週間程度ですので。用件が終わり次第、直ぐにトリニティに戻るつもりです」

 

「えぇ!?そ、そうなの!?」

 

「はい。正直に言えば残り2週間で可能な限り皆様と交友を深めたくはあったのですが、流石に今回は私の不足です。もう少し人間として成熟してから出直したいと思います。ですからあと少しの間、我慢して頂ければと」

 

「………」

 

 

 

 それではG.bibleを探しに行きましょう、と。そのままアリスと手を繋ぎながら表情を変えず部室を出て行った彼女を、ミドリとユズは慌てて追いかけていく。

 1人取り残されたモモイは……それでもやっぱり、彼女のことが理解出来なかった。一体どういうつもりで、こんなことを言っていたのか。彼女の言葉のどこまでが本当のことで、どこまでが当てつけなのか。

 

 そして分からないのは、自分の気持ちだってそう。

 

 

「……ああもう!意味分かんない!私達にどうして欲しいのさ!!」

 

 

 何がしたいのか、何をして欲しいのか、何の目的で協力してくれているのか。それさえ分からないし、そもそも聞こうともしていない。ゲームばかりして、それに文句をつけて、怒っていたのは自分の方だ。

 色々な怒りとムシャクシャが溜まりに溜まって、爆発してしまう。怒っても何も解決しないと知っていながら。むしろ相手側が怒ってくれた方が、ずっとやりやすいのに。

 

 

「悪口なんて、言うもんじゃないなぁ……」

 

 

 そんな当たり前のことを、今更ながらにモモイは思った。

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