なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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24.必要な自分

「……それで、これは本当に必要な工程なんですか?ミア。確かに私やリオもアリスの性能を知りたいとは思っていましたが」

 

「大凡の戦闘データは廃墟での戦闘中に取れているし、そこまで不要なのは確かね。必要なデータを取るなら別の方法を推奨したいのだけど」

 

「そういう問題ではありませんので」

 

「……」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 

 ヒマリとエイミが事前に廃墟へのルートを作成し、施設内のシステムを最低限ではあるものの掌握していたことで、本来必要であった多くの権限を無視して、今ここまでの道筋を作り上げることに成功した。もしかしたらその中には他の要因も絡んでいたのかもしれないが、それはさておき。

 最終的には地下への入口を床を破壊することで強引に切り開き、AL-1Sの奪取に成功した訳ではあるが。その過程で得た多くの情報を、ヒマリは今は頭の中から消すように言われていたりもした。それは今は余計な情報であり、持っていては不都合なものだからと。

 

 

「本件の目的は敵味方を合わせた関係の構築です。我々は確かにアリス様の戦闘能力と構築された人格を知っていますが、他のミレニアム生は別です」

 

「言ってしまえば、交流戦ということですか」

 

「その通りです」

 

「……必要性が分からないわ」

 

「アリス様の交友関係を広げるということです」

 

「……それに何の意味が?」

 

「アリス様に執着する人間が増えます」

 

「それはむしろ困るんじゃないかしら?簡単に処理出来なくなるわ」

 

「リオ!貴女は本当に……!」

 

「そもそもアリス様を処理した場合、全てが破綻します」

 

「「!?」」

 

「説明は長くなるので省きますが、そこは敗北条件だと考えて下さい。勝利条件はアリス様を味方に付けたまま、Divi:Sionの問題を解決すること」

 

「「………」」

 

「一見不可能に見えるそれを解決するために、今はとにかくアリス様の交友関係を増やす必要があります。そしてゲーム開発部との絆を深めることも、その後は普通の生徒として授業などに参加することも」

 

「……それもルート通りに、ということですか」

 

「はい」

 

 

 話していることはまともなのに、それに対するヒマリとリオの表情は一致している。なんとも言えない微妙な表情。普段は犬猿の仲の2人でも、甘使ミアからこの話を、"彼女"の話を聞く時だけは、こんな表情を浮かべるのだ。そしてきっとそれは、ヒマリやリオだけではない。

 

 

「ミア、何度も言うけれど"天音マキリ"の建てた理論と予測はまだ解析出来ていないわ。彼女が未来予測を実現させた痕跡は無かったし、その"ルート"についても正直なところ怪しいものだと私は思っているわ」

 

「いいえ、彼女の予知は確実です。私はそれを知っていますし、彼女の予知はリオ様の予測とは全く異なる性質のものです」

 

「ミア、そういうことではありません。リオはこういう言い方しか出来ませんが、私達は貴女を心配しているんです。……言い方は悪いですが、今の貴女は"天音マキリ"のマリオネットです。"ルート"に固執するあまり、自分の意思を蔑ろにしているように見えます」

 

「それが私の役割です。元より私は彼女の描いたルートを実現することに尽力すると決めています。そこに自分自身の意思など必要ありません」

 

「……他者との交友を重んじて、自分の人間性に思い悩む貴女が、それを言うの?」

 

「……私にとって、彼女との約束はそれより重要なものだというだけです。矛盾はしていません」

 

「「……」」

 

 

 リオとヒマリは、ミアのことを知っている。

 入学したばかりの頃の人間性などカケラも無い機械のような彼女も、少しずつ心が生まれ始めた彼女も、生まれて初めて涙を流して感情を自覚した彼女も、全てだ。

 彼女はミレニアムで生まれたと言っても良いし、天音マキリの事もあり他者に任せられなくなってしまった彼女を、少しの間とは言えユウカやエイミ等と共に面倒を見ていた経験も2人にはある。

 

 だからこそ、受け入れ難いのだ。

 

 そうして生まれた人間性を知っているし、彼女の優しさも知っている。他者のために懸命になれる事も、物事に冷静に対処できることも、けれど決して熱量が無い訳ではないことも。知っているからこそ。

 

 そんな彼女を再び以前の機械的な思考に戻してしまう"天音マキリ"の存在が、今はこうして受け入れられない。

 

 

「ミア、これだけは伝えておきます。もし今のまま貴女が"ルート"を最優先に進めていくのであれば、いつか必ず後悔する時が来る筈です」

 

「……」

 

「私も、ヒマリに同意するわ。他者の不幸を知りながら、見て見ぬフリをし続ける。貴女はもう、それを何の情動も無しに出来る人間ではない。ルートが破綻したその時に、必ず責を負うことになる。それは私の役割でいいの」

 

「リオ……」

 

「いえ。仮にその果てにこの身の破滅があったとしても、私は彼女の願いを叶えます。そう誓いましたから、そしてそれが私の責任です」

 

「「………」」

 

 

 ヒマリはそれとなく知っている。その合理性と才能、そして感情の薄さ故に、唯一自分の話を理解して議論してくれるミアに対して、リオもまた特別な情を抱いていることを。

 まあこんな下水女とまともに向き合ってくれる人間など珍しいにも程があるので、そうなってしまうのは当然の話ではあるものの、そんなミアであっても天音マキリが関わって来ると合理性を投げ捨てるという一面があった。

 

 彼女の全てはそこにあり、そこから始まり、そして恐らく、そこに終わる。少なくとも今のままでは、確実にそうなってしまう。

 それでもそれを止める方法も手段もここには無く、どうしたら甘使ミアの根底とも言えるそれを取り除くことが出来るのか想像さえ出来ない。それは彼女がミレニアムから出ていった時から変わっていないし、もしかしたら変えることなど出来ないのではないかとさえ思えて来た。

 

 

「私は彼女を背負うと約束しました。そこに嘘偽りはあり得ませんし、それこそが私の人生ですから。この道を逸れることなど、決してない」

 

「……何を言っても無駄なようですね」

 

「……最初から分かっていたことよ。ここまで根深い問題であるということを、再確認出来ただけで十分だわ」

 

「はあ……そう言う意味では、確かに貴女達は似ているのでしょうね。頑固で、妄進で、目的に自分の方が引っ張られている。このままでは何れ破綻するのは貴女も同じですよ、リオ」

 

「私はそうはならないわ」

 

「ぶん殴ってもいいです?」

 

「誰も破綻しないように、マキリは私に託したのですから。リオ様を破綻させるようなことにはさせません」

 

「……ヒマリ、殴る対象は本当に私でいいのかしら?」

 

「……どうしてこう、私の周りには」

 

 

 分からずやばかりが集まるのか。

 こうなってしまったら、ヒマリが取る行動はいつも1つである。リオに対しても、ミアに対しても同じ。遠くから見張り、致命的な失敗を起こそうとしたら強引に止めに入る。

 

 

 (ただ、ミアとリオで違うのは……)

 

 

 リオは持ち得る権力と能力が故に、より規模が大きく周囲を巻き込んで破綻しかねないが。ミアは自身を犠牲にして1人で破綻しそうなところだろう。

 それを良いと取るか悪いと取るかは人によるが、少なくともヒマリにとってミアは変わらず愛すべき後輩。後輩が間違った道に行かないように、導かなければならない。破綻するようなことは、絶対にさせられない。

 

 

「……一先ず、この件については分かりました。ミアの言う通り、ヴェリタスとセミナーを誘導することを約束しましょう。ミアの方も、ゲーム開発部は任せましたよ」

 

「はい。それでは、私はこれで」

 

「ええ、また後ほど」

 

 

 今は飲んで良い。まだその"ルート"に乗っていても良い。それほど大きな事も起きていないし、ミアの反応から見るに、それほど大きく乖離しても居ない。まだ余裕はある。

 それこそ、こちらで対策を立てる程度には。

 

 

「何を考えているの、ヒマリ」

 

「リオ、マキリのしていた研究についてはどの程度の調査が進んでいますか?」

 

「……正直なところ、殆ど掴めて居ないわ。大半のデータが完全に削除されている上に、あの子は私達に比肩し得る才覚の持ち主だった。本気で隠されてしまったら、採掘するのはほぼ不可能ね」

 

「確か彼女の研究分野は……」

 

「人間の精神に対する科学的なアプローチ。ただミアと接触してからは並行世界や時間に関する論文を読み漁っていた形跡があるわ。"ルート"を導き出すためでしょうね」

 

「……つまり、ミアと出会ったことで仲を深めただけでなく、その時点で既に何か計画を進めていたということですか。それもミアを中心に据えた」

 

「正直マキリに関しては未だに分からない事が多すぎるわ。貴女が検死も許してくれなかったし」

 

「そ、それは仕方ないでしょう!最期まで病に苦しみ続けた彼女に、死後もメスを入れるなど……そのようなことは断じて許可出来ません」

 

「その拘りのせいで今を生きるミアを止められないのだから。未だに私は間違った選択だったと思っているわ」

 

「……それは」

 

 

 その点ばかりは、ヒマリもリオに反論は出来なかった。

 自分以上に身体の弱さに人生を振り回されていた後輩に過剰に入れ込んでいたのは事実であり、彼女のあの最期を見ていたからこそ、当時は検死を絶対に認められなかった。だがそのせいで今ミアに生じていることも、彼女がミアを使って計画していたことも分からない。その手掛かりさえ無くなってしまった。

 ……リオの合理的な思考を否定することは多いが、今となってはそれが正しかったのかもしれないと思っている。思ってしまっている。認めたくないが。

 

 

 

 

 

 

「そ、そういうことだから!あなたも"鏡"を取り戻すのを手伝って!あれがないとG.bibleが見ることができないの!」

 

「構いませんよ」

 

「も、もし手伝ってくれたらまた一緒にゲームを………え?」

 

「?」

 

 

 少し離れていた間に、話は既に進んでいた。

 ロックのかかったG.bibleを見るためには、ヒマリが作り出した"鏡"と呼ばれるプログラムが必要であると。しかしそれは今はセミナーに押収されてしまっており、取り戻すためにはセミナーの保管庫を襲撃しなければならない。……セミナーと、保管庫を守るC&Cと敵対しなければならない。そういう話。

 

 

「い、いいんですか?すごく危険なんですよ?」

 

「ミレニアムの武力集団C&C、メイド部と対立することが確定しているような状況。しかし私の力が必要なのでしょう?最初から協力すると約束していた筈です、断る理由もありません」

 

「う……」

 

「この前もお姉ちゃんが失礼なことを言ってたのに……ありがとうございます」

 

「失礼なこと、ですか?」

 

「だ、だからその、嫌い、とか……」

 

「それは失礼なことだとは思いません。私はモモイ様に嫌われるような人間であり、それは私の不足が原因でもあります。そこでモモイ様を責めるのはお門違いでしょう」

 

「……」

 

「……お姉ちゃん、そろそろ本当にみっともないよ。というか妹として普通に恥ずかしい」

 

「うう、分かってるよぅ!」

 

 

 そんな風に冷ややかな目で妹に見つめられるモモイを背後に、ミアは普段と変わらず頭を撫でられに来たアリスの相手をしながら、ユズから事情を聞き取る。

 

 どうやら当初のルートと変わらず、ヴェリタスとゲーム開発部、そしてエンジニア部の連合で挑むことが既に決まっているらしい。それでも足りないからと、ミアにお願いをしに来たと。

 まあミアを最後に回したのは十中八九モモイの意思だろうし、それでもやっぱり足りないからと、ミドリあたりに説得もされたのだろう。

 

 ミアとしては何の文句もない。

 

 聞いていた通り、ミレニアムの問題は概ねの筋さえ捉えていればそれほど干渉しなくてもルート通りに進んでいくし、そこに自分を混ぜるように言ってくれたミドリには頭が上がらない。ここまで順調に進んでくれるのなら、むしろ何か見逃していないか少し怖くなるくらいで。

 

 

「ミアは大事な仲間ですから、冒険する時はいつも一緒です」

 

「……ありがとうございます。ゲーム開発部が冒険をする時には、いつでも声を掛けて頂ければ。未だゲームを開発をすることは出来ず恐縮ですが」

 

「も、問題ないですよ!ミアさんはその……派遣部員?臨時部員?か、仮部員?」

 

「り、臨時顧問とか」

 

「そ、そう!それ!それですから!」

 

「……戦闘なら任せてください。流石にダブルオー相手となると歯が立ちませんが、少しはお役に立てると思います」

 

「うう、頼もしいなぁ……」

 

 

 聞くに、既に概ねの作戦も立てているということ。そこはもちろんミアの役割も設定してあり、その作戦の内容も概ねルート通りのもの。

 その辺りは流石にミレニアムの生徒であり、ウタハやハレなどの頼りになる生徒達が参加しているというところだろうか。ミドリやユズも意見を出していたというし、本当にミレニアムの将来は安泰である。……今後何事も起きなければ、将来的に三大校のトップに立つ可能性も高い。そのポテンシャルと勢いは、やはりある。

 

 

「……つまり、私はミドリ様とモモイ様の護衛をすればいいのですね」

 

「そ、そうです。もしかしたら一番C&Cとの戦闘が多くなるかもしれないって言われているんですけど……」

 

「ゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部となると実働部隊が少なくなるので仕方ありません。セミナーの対処はお任せ出来るという前提があるのなら、可能性はあります」

 

「……ちなみに、その、アスナ先輩とかに本当に勝てるの?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「ち、違うよ!今のは本当にただ気になっただけ!」

 

「勝てるかどうかはさておき、時間稼ぎくらいなら出来ます。今回必要なのは勝敗よりはそちらだと認識していますが」

 

「そうですね、確かにそこが一番大事です。"鏡"さえ取り返せればいいので。それに今回はネル先輩は居ないみたいですし、十分に勝機はあると思います」

 

「……あの方のことですから、突然帰って来るという可能性については考慮しておいた方が良いとは思いますが」

 

「そ、そうですかね……」

 

 

 というかまあ、今回の件については確実に彼女は間に合う。そうなるようにリオにも話していたし、それは必要な工程でもあったから。

 

 

「……」

 

 

 けれど、どうやらこれは言わない方が良かったのかもしれない。どうも数少ない真面目要員の才羽ミドリは、少なからず作戦立案にも参加していて、不安を感じていたらしい。そこにダブルオーが帰って来る可能性をいま一度忠告されたことで、途端に気落ちしてしまった。

 

 

 (……もう少し思い遣りを持たなければ)

 

 

 そういう部分が足りていないと言われることが多いと自覚していたが、この役割を担う以上、それは今直ぐにでも直さなければならないものだ。自分の不足を、時間をかけて直せば良いと言っていられる余裕はない。

 

 

「……?ミアさん?」

 

「いえ、すみません。安心してください、ミドリ様。仮に彼女が帰って来たとしても、私が必ず何とかしますので」

 

「……!」

 

「元よりミドリ様には作戦立案も全てを任せている立場なのですから、後のフォローはこちらの仕事。ここから先の失敗は私の責任です」

 

「そ、それは流石に言い過ぎなんじゃ……」

 

「ですから、あまり心配なさらないでください」

 

「ミアさん……」

 

「私に任せて」

 

 

 ミドリの頭を撫でながら、なるべく優しく微笑むように努める。彼女とは同い年ではあるけれど、自分は立場が違うのだから。全てを仕立て上げる以上、その全ての責任を引き受ける義務がある。

 そのために必要である自分を用意して、必要な人間に向けて届けていく必要がある。

 

 

「どうぞ遠慮なく、頼って下さい」

 

 

 擦り切れるまで。

 擦り潰れるまで。

 いくらでも、どこまでも。

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