なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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30.想定外は止まらない

 ミレニアムからの別れは、妙に盛大で、そして妙に寂しさの混じったものになってしまった。

 

 というのも、これに関してはゲーム開発部の彼女達が妙に盛大に計画してしまった故なところが大きい。それほど懐いて貰えたとも言うべきかもしれないが、もしかしたらまた直ぐに帰ってくる可能性がある以上は、ミアとしても少々困惑してしまったというか。

 

 

「うわぁあん!いいじゃん!もう少しくらいここに居てもいいじゃん!せっかくゲームの楽しさ分かってきたのにぃ!」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「モモイ……」

 

「こら!我儘言わないの!ミアはあんたと違って忙しいのよ?昨日の報道は見たでしょう?あまり困らせないの」

 

「でも、でもぉ……」

 

「ミア、次はいつ来ますか……?」

 

 

 

「2ヶ月後くらいですかね」

 

 

 

「直ぐじゃない!!なんなのよ今の茶番は!?2ヶ月くらい待ちなさいよ!!」

 

「やだぁあ!!」

 

 

 少し前の反応を考えるに、まあ本当に懐かれたものだと思ってしまうような有様であるが。それもまあ仕方あるまい。紆余曲折あったからこそ、思いも強くなるというものだ。彼等からしてみれば、ミアだってもう部員の1人なのだから。

 

 

「だって……フラスコ、だっけ。ミアがその部に入るってことは、もうここには来てくれないかもしれないし……来る暇もなくなっちゃうかもしれないし」

 

「そうは言ってもね……」

 

 

 そう、それは本当に丁度昨日のこと。ミアを中心に据えた連邦調停部フラスコの設立について連邦生徒会から記者発表があった。

 連邦生徒会としては小さな部署を増やす程度の物言いではあったものの、分かる者には分かってしまう。何故ならアビドスはともかく、トリニティとミレニアムの生徒会長の推薦による人選というのだから。そして連邦捜査部シャーレの先生が直前に亡くなっているという状況から考えても、言うまでもなく後継機関であると簡単に予測出来る。

 

 ミレニアムのビッグシスターと、トリニティのティーパーティの両者についての知名度については今更語ることでもないが。甘使ミアの名前もまた大きく取り上げられ、今やどの番組においてもその素性について探るような報道がされている。

 そんなものを見てしまえば、モモイにだって分かるのだ。今後はもう簡単には会えなくなってしまうことくらい。

 

 

「モモイ様、安心して下さい。ミレニアムに来た際には、可能な限り時間を作ります」

 

「……本当?」

 

「もちろんです。なぜなら今後、私はここくらいでしかゲームをすることなど出来ないでしょうから」

 

「……!」

 

「私にとっても、この場所は大切な場所なのです。ですからまた一緒にゲームをしましょう」

 

「っ、約束だからね!!」

 

「はい」

 

 

 ゲームの面白さを、ミアはまだ分かっていない。けれど面白いと思うことの出来るゲームを見つけることはできた。それはミアに面白いと思ってもらえるためにつくったゲームなのだから当然なのかもしれないが、その存在が、その理由が、ミアの心を動かした。どこかに在った理解出来ないという思い込みを動かして、隙間を作った。

 

 

「それにしても、妙に話が大きくなってきたわね。本当に大丈夫なの?ミア」

 

「元よりこうする以外にありませんでしたので。今ここで連邦生徒会が破綻してしまえば、キヴォトス全体への影響は計り知れませんから」

 

「……連邦生徒会長に、シャーレの先生。今度はミアか」

 

「このキヴォトスに平穏を齎すためにも、誰かがやらなくてはならないことです。それが何の因果か、予備の予備まで役が回ってきてしまいましたが。回ってきたからには仕方ありません」

 

「……本当に大丈夫なのよね?言っては悪いけれど、その役割、かなり縁起が悪いわよ」

 

「死力を尽くすのみです」

 

「ミアが言うと洒落にならないんだけど……」

 

 

 はあ、とまた溜息を吐いて。ユウカはミアの額を背伸びをしながら1回小突く。

 図体はこれだけ大きいが、結局のところミアもまたモモイ達と同じ1年生であり、可愛らしい後輩に違いないのだから。そんな子に死力を尽くすなどと言わせて1人努力をさせるのも、きっと違う。

 

 

「ミア、手伝いが必要なら遠慮せずに頼りなさい。事務処理程度のことならいくらでも手伝ってあげられるし、他のことだって可能な限り手伝いはするから」

 

「……いいのですか?ユウカさんも忙しいのでは」

 

「自分の忙しさを理由にして大切な後輩を見捨てられる訳ないでしょ。私は徹夜をしたところで次の日にあるのは書類仕事で済むけど、ミアは違うんだから。不必要なことは他人に頼りなさい」

 

「……頼る、ですか」

 

「別に所属人数に制限は無いんでしょう?なら次は連邦生徒会が押し付けてくる書類仕事を任せられる人でも見つけてみなさい。なんでも自分で抱え込む必要なんてないんだから」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 

 ユウカの言葉を、咀嚼する。

 確かにシャーレの先生や連邦生徒会長ほどの能力も経験もない自分が同じだけの働きをするのであれば、他者の力を借りるしかない。故にフラスコとしての仕事についても、自分だけで抱え込まず、分けて処理していく覚悟が必要である。

 

 それを忘れないようにしていかなければならない。極論、自分1人で何もかもしようとすれば確実に間違えるのだから。それがこれまでの経験でよく分かった。

 

 

「それでは、ユウカさん、ゲーム開発部の皆さん。少しの間ですが行って参ります。また何かあればご相談くださいね」

 

 

 そうしてゲーム開発部の部室を出て来たミアは、今日この日に共にミレニアムを旅立つことになった同志の元へと歩いていく。

 アビドスでの一件の後にここに訪れた際、ミアはこのミレニアムに対して懐かしいと感じたが、正直に言えばそれくらいの感想しか持っていなかった。何故ならミアにとってミレニアムでの記憶というのは彼女が横たわっていたあの保健室での光景が殆どで、そこにしか思い出など存在しなかったから。

 

 けれど、今は違う。

 

 エイミやヒマリ、ゲーム開発部、ユウカ、そして……

 

 

「お待たせしました、スミレさん」

 

「いえ、それほどではありません。ミアさんも、お別れはもういいのですか?」

 

「はい、もう十分過ぎるほどの言葉を頂けました」

 

「それは良かった」

 

 

 校門近くで待っていた乙花スミレは、自身の荷物を持ち上げて相変わらず爽やかに微笑む。荷物は大きな鞄1つ程度とは言え、その中には当然彼女が必要と感じたトレーニング器具も入っていて、モモイ辺りなら持ち上げることも難しいようなものである。

 ……それはともかく、彼女ともきっと長い長い付き合いになる。トレーニングから始まった関係であるが、彼女ほど優しく誠実な人間もそうそう居ないのだから。

 

 

 

「……ところで、フラスコのもう1人のメンバーである浦和ハナコさんという方は、どういった方なのですか?」

 

「ハナコさんですか?」

 

 

 ガタガタと揺れる列車の中。遠ざかっていくミレニアムを横目に、暫く連絡を取れていないもう1人のフラスコのメンバーであるハナコについて話題が出る。

 正直スミレに関してはミレニアムに残って貰い、ミレニアムでの異変に備えて貰うという方法もあったのだが。やはり入部したばかりなのだからと、こうしてトリニティまで付いてきて貰うことになった。そうなると気になるのは当然だろう。スミレはきっとハナコについて本当に何も知らないだろうから。

 

 

「ハナコさんは……とても優しく、非常に頼りになる方です。私が他の方とコミュニケーションで困っている時、常識的な彼女は自然とフォローをしてくれます」

 

「それは頼もしいですね。私も常識という面では少々外れているところがあるという自覚がありますので、助かります」

 

「そして驚くべきことに、彼女はなんと頭も良いのです」

 

「常識まであるのに、頭も良いのですか!?」

 

「はい。そんな彼女が私のことを信頼してくれている。私は戦闘指揮を彼女に任せることが多いのですが、彼女にならこの命を任せても良いと常々思っています」

 

「なんと素晴らしい方なのでしょう……そのような方とご一緒させて頂けるとは。私も一際頑張らないといけませんね!」

 

 

 当人の知らないところでどんどん評価が上がっていくハナコであるが、ミアとしては既にそれくらいには信用している人物であるということを忘れてはならない。

 なにせそうでもなければ、今現在のトリニティの状況を聞いて、その全てを任せるなどということが出来る筈がないのだから。

 

 

「……実のところ、今のトリニティは少々物騒なことになっていまして」

 

「と言いますと?」

 

「ティーパーティの1人である百合園セイア様が、現在行方不明になっております」

 

「!」

 

「襲撃を受け私室が爆破されたところまでは確認されましたが、その後の行方が掴めておりません。救護騎士団の団長が同時に姿を消しておりますので、避難しているのではないかと私は考えていますが」

 

「……それは、なかなか大変なことになっているのでは」

 

「はい。そしてハナコさんには今、ティーパーティの桐藤ナギサ様と共にこの問題に取り組んで貰っています。真相の解明、犯人の捜索、ナギサ様の身の安全。……本来は私がすべき事柄なのですが。ミレニアムにおける問題も無視出来ませんでしたので」

 

「……?」

 

 

 ミレニアムに居る間にハナコやナギサから特に連絡は来なかったが、ハナコのことだ。自分に知らせる必要がないからなのか、知らせるべきでないのか、そのどちらかなのだろう。

 

 

「あの、1つ良いでしょうか?」

 

「はい」

 

「……正直なところ、今回のミレニアムでの一件は、トリニティでの時間よりも優先すべき事柄のようには思えなかったのですか。ミアさんはなぜそちらをハナコさんに任せて、こちらに来たのですか?」

 

「ああ……そうですね、そこを話さなければなりませんでしたね」

 

 

 そういえば、そこについては全く話していなかったと思い返す。スミレは自分に協力してくれると言ってくれたのだから、ある程度については伝えておくべきだろう。そうでなければ意味の分からない自分の行動に、彼女を困らせてしまうだろうから。

 

 

「全ての前提となる話です。私は数年前にミレニアムに留学していたのですが、その際に1人の少女と出会いました。天音マキリという少女です」

 

「……お会いしたことはないですね」

 

「彼女はもう亡くなっていますので」

 

「!!」

 

「そして彼女は、ミレニアム内でも特筆すべきほど優れた頭脳を持っていました。それこそリオ様やヒマリ様に匹敵するほどのものを。個人的な研究で未来予知を実現させたとも彼女は言っていました」

 

「未来、予知……」

 

 

 それはリオでさえも名も無き神々の遺産を利用して漸く至ることの出来た境地である。それでさえも一瞬の予知程度のものでしかないというのに。

 ミレニアムの生徒であれば(一部を除いて)誰だって分かるはずだ。技術で未来予知を実現するという事が、一体どれほど馬鹿げた行いであるのかは。

 

 

「つまり、ミアさんの不可解な行動というのは……」

 

「ご察しの通り、マキリの予知に基づく行動です」

 

「そういうことでしたか……」

 

「マキリはキヴォトスにとって最善の未来、つまり最善の"ルート"を発見しました。そして私は、そのルートについての全てを彼女に叩き込まれています。……今回トリニティではなくミレニアムを優先したのも、その一環です」

 

 

 そこまで話してから、ミアは神妙な顔をする。

 

 結果的に大きな影響はないように……見える。

 

 ルートから大きくかけ離れていないように……見える。

 

 だがそれは見えるだけだ。

 

 本来であればあった筈のネルとゲーム開発部のやり取りはなくなり、ゲーム開発部が得ていた筈のミレニアムプライスという栄光は取りこぼしてしまった。

 

 

 

【決して、無かったことにしてはならない】

 

 

 

 彼女の言葉が頭を過ぎる。

 

 

 

【すべての事象に意味はあり、その過程を無かったことにしてはならない。仮にそれが困難であったとしても、それは間違いなく、彼等を作り上げる一因なのだから】

 

 

 

 この差異は。

 この乖離は。

 

 果たしてこのルートの行き着く先に一体何を齎すことになるのかと。言い訳が出来ないほど完全にルートを逸れてしまったことを自覚してしまって、確信してしまって。心の内にはどうしようもないほどの不安がこびり付いている。

 

 

 

【ミア、これだけは伝えておきます。もし今のまま貴女が"ルート"を最優先に進めていくのであれば、いつか必ず後悔する時が来る筈です】

 

 

 いつかヒマリに言われたその言葉を思い出す。その後悔というのは、このことなのだろうか。

 しかしこの件に関して、ミアはどちらかと言えば後悔はしていない。いや、自分の準備不足の後悔はあるが、この結末を、ゲーム開発部の彼等が自分にしてくれた想いを、無かったことにしたいとは思わない。だが……

 

 

「……ミアさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ……いえ、なんでもありません。申し訳ありません、私も何が正しい選択なのか分からず」

 

「私に出来ることがあれば、何でも言って下さい。お手伝いしますよ」

 

「はい、とても頼もしいです。トリニティに着いたらまた色々と対応や根回しが必要になるとは思いますが、どうかお付き合いください。ミレニアムほど柔軟な対応は期待出来ませんので」

 

「ふふ、噂に違わぬということでしょうか。ですが構いません。暇な時間には、トレーニングがありますからね」

 

 

 グッと腕を曲げて笑ってくれる彼女に救われる。確かにまだ実際に何かが起きた訳ではないし、取り返しのつかない事も起きてはいない。だからまだ大丈夫なのだ。何もかもを先送りにしているような気もするが、まだ起きていないことに怯えているだけでは、何も出来なくなってしまうから……

 

 

 

 〜〜♪〜〜♪♪

 

 

 

「あれ?ミアさん、端末が鳴っていますよ」

 

「ん、ありがとうございます」

 

 

 気を取り直して、鳴り響く端末を取り出す。そろそろハナコから連絡か報告でも来たのだろうか、それともナギサからの要請か。どちらにしてもこちらから連絡する予定だったので、丁度いいところなのだが……

 

 

 

「………ミネ様?」

 

 

 

 想定外は止まらない。

 

 




書き溜めていたのはここまでになります、続きは今暫くお待ち下さい。

甘使ミア 【神秘、軽装備】
○EX:約束と決意(コスト3)
防御力20%と攻撃力20%を増加(40秒間)/扇状範囲内の敵に挑発状態を付与(6秒間)、回避値を6%減少(40秒間)
○ノーマル:強制鎮圧
40秒毎に敵1人に攻撃力の300%分のダメージを与え、50%の確率で気絶状態を付与(3.0秒)
○パッシブ:特異点
HPを14%増加
○サブ:不屈の意思
HPが50%以下の時、防御力を20%増加、治癒力の40%分の持続回復を付与
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