「初めまして、浦和ハナコさん。乙花スミレです、改めましてよろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
夜も寝った頃。唐突に現れた同士とも言える彼女が、こうして改めてハナコの前に現れた。
ニコニコと満面の笑みをしているスミレとは対照的に、なんとも言えない微妙な表情しか出来ないハナコは、実際どういう反応をすれば良いのか困ってもいた。なにせ彼女は、なんというかこう……人間として強そうだったから。
「あの、1つお聞きしてもいいですか?」
「勿論です」
「なぜスミレさんはここへ?というか、ミアさんは今どうしているんですか……?」
「はい。まず1つ目からお答えしますと、ミアさんからハナコさんの手助けをするようにと指示があったからです。そのことをティーパーティの桐藤ナギサさんにお伝えしたところ、このような形でお会いすることになりました」
「はぁ……」
つまり、扱いに困ってナギサも投げて来たということだ。もしミアが直接トリニティに来ていたのなら、その扱いも全く違っていたと思うが、仮にもミレニアムの生徒である彼女を手元に置いておく訳にも行くまい。
ナギサも相当なストレスを抱えていると考えられることから、早めにミアには帰って来て欲しいのだが……どうやらそうはならなかったらしい。
「ミアさんに関しては?」
「彼女は蒼森ミネさん、という方からの呼び出しを受けて、今はそちらへ向かっています」
「っ、ここで彼女が出て来ますか……他に何か聞いたことなどは」
「特段ありませんね」
「ほ、他に何か、それこそどんな些細なことでも良いのですが……」
「そう、ですね……」
百合園セイアが襲撃を受けた後、彼女の身体は蒼森ミネと共に姿を消した。セイアは死亡したと言われているが、それは間違いなく嘘であるとハナコは確信している。その考えもそれとなくナギサに伝えてあるからこそ、彼女もまだ踏み止まっている。
そして、今ここに来てその蒼森ミネが甘使ミアに接触したという事実。ここには間違いなく姿を消した彼等の何らかの思惑があるのだろう。そしてそれはきっと、予知絡みの話だ。
「ミアさんは本当に他に何も言っていなかったのですか?何でも良いんです、教えてください」
「………………………ハナコさんのことを信用していると。ハナコさんになら自分の命だって任せられると、そう評していましたね」
「……はいっ!?い、いきなり何の話ですか!?」
「常識があるだけでなく、驚くべきことに頭まで良いというキヴォトスでは非常に珍しい方だと聞いています」
「キヴォトスをなんだと思っているんですか!?」
褒めて貰えるのは嬉しいけれど、このキヴォトスにおいて常識と頭の良さが共存しているような生徒は少ないと分かっているけれども、別に聞きたいのはそういうことではなく。……いや、別に聞きたくない訳ではないのだが。
「ハナコさん。貴方は今困っている、そうですね」
「………まあ、そうですね」
「これまで聞き齧った情報を纏めるに、この補習授業部は単なる成績の振るわない生徒の集まりという訳ではないのですね。百合園セイアさんが襲撃を受けたということと、ハナコさんやナギサさんがここまで執着していることから、もしかしたら容疑者となる生徒を意図的に集めているのではないでしょうか」
「っ、その通りです」
「そしてハナコさんは、既にその犯人を見つけている。その上でどのような処置をすれば良いのか分からない、と」
「……流石にミレニアム生ですね、既にそこまで」
「ですが、その答えを私は持っていません」
「……そうですか」
「ですので!その答えを求めるお手伝いをします!」
「!?」
乙花スミレは、決して運動狂いの阿呆ではない。いや、運動狂いではあるのだが、それだけの生徒ではない。
運動によって勉強を疎かにしてきた訳ではないし、思想が運動に寄り過ぎているだけで、それなりに頭も柔軟なタイプである。意識が運動に寄り過ぎているだけで。運動が絡むとダメになるだけで。
「さて、ではまずは前提として彼女達との交友を深めましょう!……あ、答え合わせは後で良いですからね!偏見なく接したいので!」
「なぁっ!?ちょ、どうしてそう勝手に行動を……!」
「それではまた後で!」
「〜〜〜っ、もう!」
手懐けられない、というか。
言うことを聞いてくれない、というか。
勝手に納得して勝手に行動してしまう、というか。
「……そういう意味では、ミアさんに似ている気もしますけど」
ミアが彼女を選んだということは、気が合ったということだろう。性格が似ているとか、そういう可能性はもしかしたら考えても良いかもしれない。
そう考えてみれば、捉え方も少しは変わってくるのか?例えば以前のミアへと同じ様に、あくまで自分はサポートに周り、決断や選択を含めたメインを彼女に任せてみたりとか……
「……そこまで任せられる信頼もなければ、あの時の様に投げやりになって良い状況でもないのですが」
あれは全てがどうでも良かった頃のハナコだから出来たことで、途中からはミアへの信頼があったからこそ出来たことで。ミアから任されている以上、自分は責任を持っている訳で……
「……とにかく、様子を見ましょうか」
そんな訳で、ハナコは一先ず成り行きを見ることにした。果たしてこのスミレという少女のどの部分をミアは買ったのかと、そこを見極めるためにも。
「そうです!素晴らしい跳躍でした!着地もとても綺麗でしたね!」
「……これが跳び箱。ヒフミ、コハル、これはなかなか面白い」
「あ、あはは……上手でしたよ、アズサちゃん」
「ま、待って!?どうして私たち跳び箱なんかしてるの!?勉強は!?テストは!?」
「何を言いますか!運動と勉強は直結しているのです!むしろ避けては通れないと言ってもいいでしょう!いえ、そう言いたい!」
「そ、そうなの……?」
「ええ!一見正反対とも見えるようなこの2つですが、ミレニアムの最新の研究成果によりますと。運動によって分泌されるドーパミンによる興奮状態は、直後に行う勉強にも反映されるそうです!つまり運動の後の勉強は効率が良くなる!記憶力も集中力も向上する訳です!」
「なるほど、まさかそんな関係が……」
「ふ、普通に勉強になりますね」
「そ、その前に体力が尽きそうなんだけど……」
「ええ!体力もつきます!」
「そっちの意味じゃない!」
「ということで!これから勉強の前に少しの運動を取り入れましょう!本来であれば有酸素運動が好ましいですが、ここは敢えて皆さんの好きなスポーツにしてみたいと思います!なにか要望はありますでしょうか!」
「……」
「素晴らしいですねコハルさん!前回より2点も点数が上がっています!」
「や、あの……100点満点中だから、誤差みたいなものだって私でも分かるんだけど」
「何を言いますか!2点も上がったんです!あと20回繰り返せば100点ですよ!?素晴らしい変化です!」
「ば、馬鹿の思考だ!馬鹿の考え方だ!」
「それではコハルさん!腹筋用意!!」
「なんでぇ!?」
「今回間違えた問題と共に腹筋を行います!それでは数学から!五角形の内角の和は!?」
「ご、560度!?」
「違います!!それではもう一回!」
「待って!?これ正解するまで続けるの!?」
「100点が取れるまでです!」
「死んじゃうわよ!!」
「……」
「ヒフミさんはテストの内容に関してはそれほど指摘する部分がありませんが、やはりケアレスミスがポツポツとありますね」
「あ、あはは……その、どうしても何問かしてしまって」
「私が良くやる対処法を伝授しましょう。ただこれは時間的に余裕のある時にしか出来ませんが」
「ぜ、ぜひ!」
「実際のところ簡単な話でして。解答欄を隠して、余った空白の部分に解き直してみるんです。そして見比べる」
「もう一回解くんですか?」
「ええ、そしてそれが後から出来るような空白の使い方を始めからするということです」
「あ、なるほど……」
「実はこれは記憶力が高い人間にはむしろ出来ないことでして。最初の問題に戻って来た時に内容を殆ど忘れているくらいの方が効果があります」
「自分の弱さが、むしろ利点になるってことですね……」
「少しやってみますか?私も解いてみますので」
「は、はい!お願いします!」
「……」
「スミレ、この問題が分からない」
「おや?ですが答えは合っていますね」
「解法は分かる、だが理屈が分からない。公式を当て嵌めているだけなんだ」
「なるほど!それは素晴らしい心意気です!何事も基礎を理解することから!トレーニングも同じです!」
「トレーニングの理屈か……確かに考えたこともなかったな。私はこれまで他者から教わったトレーニングを続けていただけで、意味については深くまで考えていなかった」
「そこを考えることこそ学問であり、理解であり、効率に繋がるのです!同じトレーニングをしていても、姿勢を意識するかどうかで結果は大きく異なりますからね!何事も同じです!」
「なるほど…………それは、人生にも繋がるのだろうか」
「もちろんですね。誰かに言われたままに生きるより、自分で咀嚼して納得した選択をした方が楽しいですから」
「……それが例え意味のない、虚しいものだったとしても?」
「ん?………それは、"人生は結論として虚しいもの"だとか、そういう哲学的な話ですか?確か少し前に読んだスポーツ選手の著書にも書いてありましたね」
「ああ、そんなところだ」
「ふむ……私はその意見には反対ですね!」
「え?反対?」
「ええ、私はこの世界の全ての問題は運動で解決出来ると信じていますから!」
「………」
「虚しいと感じるのは楽しく身体を動かせていないからです!そしてその環境がないからです!特に友人と共に流す汗の気持ちよさを知ってしまえば、それだけで人生は充分だと思ってしまうことでしょう!」
「……すごいな。少しの冗談もなく、貴女は本気でそう思っている」
「もちろんです!そして私が感じたその楽しさを、なるべく多くの人に知って欲しいとも思います!だからこそ色々なスポーツを取り入れているんですから!」
「……」
なんだか、普通に先生をやっている。
乙花スミレ、彼女はこれで割と普通に優秀だった。
ミレニアムの理論によって裏付けされた彼女の勉強法は実際のところかなりの効果があり、これはハナコでは教えられなかったものである。というより、ハナコ自身それほど他者に何かを教えるという行為が得意と言い張れるものではなかった。
しかし乙花スミレは少なくとも勉強に関しては教えるのが上手く、時々顔を見せる運動狂いの面を除けば非常に優秀な教師である。定期的にコハルが体力が尽きて倒れることもあるが、なにより勉強を嫌々やるという日々が減って来たことの方が彼女にとっては大きかったのだろう。点数自体は上がっていた。
「それにしても、流石にトリニティの生徒さんですね。皆さんとても真面目です、素晴らしい成長速度に見えます」
「……それはヒフミさん達の人柄だとは思いますが。スミレさんも流石ですね、自由な校風のミレニアムの方なだけはあります」
「ありがとうございます。世の中の問題は全て運動で解決出来ますからね。そのための科学を学べたという点で、私はミレニアムに入れたことを運命だと思っています」
「……そうですか」
自然と口から出てしまう遠回りな嫌味も、むしろこうして無意識のカウンターによって返されてしまう。この癖だけは直さないといけないとミアと出会ってから思い始めているハナコであるが、やはり染み付いてしまった性根は簡単には治せない。
その度に抱く自己嫌悪とミアへの申し訳なさは、溜息となって外へと出ていく。ミアの友人として相応しい人間でありたいのに、気付けば遠回りに相手を皮肉るような言葉が出てしまうのだから。自身への失望はなかなかに酷い。
「……ところで、セイアちゃんを襲撃した犯人は分かりましたか?」
「分かりませんでしたが、白州アズサさんではないかと」
「っ……なぜ、そう思われるんですか?」
「彼女は非常に優秀な身体能力と鍛えられた筋肉を持っていますが、それはほぼ完全に戦闘用であるためです」
「……」
「戦闘に特化どころではなく、完全な戦闘用の身体作りと体捌き。普段の所作からもそれが見て取れます。同時に、スポーツのルール等を含めた常識的な知識が無い。彼女はトリニティの生徒では無いか、若しくはトリニティの深部の組織の出身なのではないかというのが私の予想です。少なくとも普通の生徒ではまずないでしょう」
「そこまで、分かるんですね」
「運動は全てを解決しますから」
「……はぁ」
しかしその予想は間違っていない。
というより普通に接すれば何となく怪しいと思えるところではあるが、彼女は身体作りや体捌きという点から答えを確定させたというところだろう。独特の視点である。
「それでは、どうすれば良いと思いますか?」
「……白州アズサさんの処遇、そもそもこの件に関する対応と処置。何をどうすべきなのか、ハナコさんはそれに迷ってらっしゃったんですよね」
「ええ、そうです。ミアさんが何を求めているのか、私は何をしたらミアさんの邪魔をせず役に立てるのか。彼女の方針が分からないからこそ、対応に困っています。そして相変わらず、未だにミアさんからの連絡はなし」
「ふむ、それも気になるところですが……その回答については、もしかしたらお力になれるかもしれません」
「っ……本当ですか?」
「ええ、ハナコさんはミアさんの役に立ちたいのですよね。彼女が喜ぶ結果を作りたいと、そう考えている。それに間違いはありませんか?」
「まあ、ええ、それでいいですけど……」
改めてそう言葉にされるとなんだか気恥ずかしいが、まあ実際のところそうである。褒めて貰いたい、流石だと言って欲しい、そんな子供っぽい思いがあるのもまた事実だ。
信頼のできる友人として、初めて出来た同僚として、そして仮にも彼女の優秀な部下として、恥ずかしくない働きをしたい。彼女の思いを自分は理解出来ていると、そう言える成果を出したい。そんな思いが確かに自分の中にはある。
「私もミアさんとはミレニアムで出会ってからの縁ですから、付き合いは非常に短いところではあります。ただ彼女がとても優しくて、人情に溢れているということは分かります」
「……それで?」
「ミレニアムにはゲーム開発部という部活動があるのです。先日のミレニアムでの一件の際、彼女達はミレニアムプライスにて発表するための新作ゲームを作っていました。しかし彼女達は惜しくも入賞することが出来ず、ミアさんの期待に応えることが出来なかったそうです」
「はぁ……」
「しかし結果的には、彼女達の作品は何よりミアさんを喜ばせたと聞きます。それはきっと単に入賞した物よりもずっと価値のある作品だったと。未来は揺らいでしまったけれど、この結果を間違ったものだとは思えないと。彼女は嬉しそうにそう語っていました」
「っ……それは、なぜですか……?」
「その作品は、ミアさんにゲームの楽しさを知って貰うために。彼女達がミアさんのことを思って、ミアさんのためだけに作った作品だったからです。廃部という危険性と隣り合わせの状況だったのにも関わらず」
「……!!」
「きっと、そういうことではないでしょうか」
それはスミレが"鏡"の奪い合いに自分の意思で参戦した時もまた同じだった。あの時のミアは確かに喜んでいたけれど、それは間違いなく未来が変わらなかった事に対する喜びだけではなかった。
なぜなら直後に話していた際に、彼女の目は少し困ってしまうくらいにスミレの目を貫いていたから。それが自分に対する感謝と喜びに溢れていたことを、付き合いが短くても分かってしまったから。だからスミレは決心したのだ。
自分のために努力をしてくれた人に対して、ここまで嬉しさを爆発させるような可愛らしい一面があることを知ったから。それはゲーム開発部に対する愛情も芽生えるだろう。本当に心から嬉しかったのは、彼女自身は無表情で外に出していないつもりかもしれないが、その雰囲気から直ぐに分かるのだから。
「ハナコさんがミアさんのことを思って必死に出した答えであれば。誠意と愛のこもった答えであれば。例えそれが間違いだったとしても彼女は喜んでくれる筈です」
「……綺麗事ですね」
「ええ、ですが彼女はそんな綺麗事が大好きな人の筈です。分からない未来より、そんなミアさんの好みそうな結果を模索してはどうでしょうか」
「……」
――正直に言えば、ハナコは少しだけ悔しかった。
スミレの方が自分より彼女のことを理解しているような気がして、むしろ自分はそれを言う立場になりたかったと言うのに。後から入って来た彼女にそれを言われてしまって。
けれど、実際その通りなのだ。
彼女の望む未来の結果を作ろうとしたところで、そもそもそれが彼女の嫌う未来であったのなら、そこに価値はない。少なくともハナコにとっては。ミアが喜んでくれないのなら意味がない。
ミアが喜ぶような選択、結果、そして過程。自分の目的のために邁進するにも関わらず、その道中で泣いている子猫さえ見捨てられない彼女を満足させられるような報告をするためには……
「……乙花スミレさん」
「はい、なんでしょう」
「その……すみませんでした」
「え?」
まずすべきことは、ここから。
「私は貴女に嫉妬……というか、ライバル視というか。とにかく、あまり良い思いを抱いてはいませんでした。見下していたと言っても良いかもしれません。これまで失礼な態度を取ってしまって、本当にすみませんでした」
ハナコは自分が彼女達のような清廉潔白な質ではないと知っているし、だからこそミアと似た部分のある目の前の人物に、一目見た時から嫉妬していたのかもしれない。
自分の思い通りにならないし、常識から外れているし、その上で優秀で。なんとなく、自分よりも彼女の側に相応しいように見えてしまったから。悔しく思った。
「流石はミアさんです、人を見る目も確かなんですね」
「……そうですね。ハナコさんも私が想像していた以上に素晴らしい人物でした、流石は彼女があれほど信頼を寄せる人物です」
「……それは、皮肉では、ないんですよね?」
「ええ、もちろんです。可愛らしく、けれど潔癖で、そしてとても真面目な人物だと思いました。それこそミアさんを補佐するには、貴女のような方こそが相応しいのだと私も少し感心してしまうくらいには」
「……!」
「その謝罪は受け入れます。その上で、これからも得難い大切な同僚として仲良くさせて下さい。私だけで出来ることなど知れていますので、ミアさんの役に立つためには貴女の力が必要なんです」
スミレは自分のことをよく分かっている。
自分は確かにミアと似た気質があるかもしれないが、駒としては役に立てるかもしれないが、彼女のように何かを救ったり変えたりすることは出来ない。大きなことを成せるような人間ではない。もしそれに携わるとするなら、それは誰かに助力する形でのものだと。
けれどハナコは違う。
彼女はその知力という強大な武器によって大きな変化を盤面に齎すことが出来る、きっとミアもそれを知っているからこそ任せているのだ。その上で生真面目で潔癖な彼女の性格を知っているからこそ、任せたのだ。スミレはそのことだって数日の関係で理解することが出来た。
だからこそ、今ここにミアが居ない以上、自分達2人が協力しなければならない。
互いに互いの不足を補い合いながら、手と手を取り合って。まだまだ築き上げた信頼など吹けば飛ぶようなものではあるかもしれないけど、それでもそこには互いの信じた人間が選んだ人材という共通点があるのだから。それを頼りにして、可能な限りのことを。
「……ではスミレさん、早速なのですがお願いしたいことがあります。頼ってしまっても良いですか?」
「もちろんです、任せてください」
「ありがとうございます。……正直に言えばこれ以上、この補習授業部内で得られる情報はありません。それこそアズサちゃんから直接聞く以外に、セイアちゃん襲撃やその裏に渦巻く陰謀の詳細を知ることは出来ない。なればこそ、より直接的に動く必要があると思うんです」
「つまり、他組織などの情報収集を……?」
「いえ、トリニティに出回る情報は基本的にナギサさんが収集していますから。私達がすべきは、ナギサさんに届かない情報の収集。……若しくは、敢えてナギサさんに届かないようにしている情報の把握」
「!」
「そもそもティーパーティ周りの警備がどれほど厳重かを知っていれば、夜間の襲撃など起こり得る筈がないと誰にでも分かる筈なんです。それこそ内部からの手引きでもない限り。セイアちゃんの部屋の場所だって、一般生徒が簡単に知ることの出来る情報じゃないんですから」
ハナコは3本のペンを机に並べる。
もしハナコが最初からこの事件に積極的に関わるつもりがなかったら、それこそミアの力になりたいという理由で真剣に取り組んで居なかったら、ナギサとこうして最低限の関係を結んでいなかったら、これを不審に思うにはもう少しの時間が必要だったろう。
そしてそれを不審に思えたとしても、そこに割くための手札が足りなかった。そういう意味ではやはり、この乙花スミレという人材はあまりにもハナコにとって扱い易い存在である。
身体能力に優れ、ある程度自分で判断でき、同時に他者の意見も聞くことが出来る。運動狂いという面さえ除けば、全体的に非常に優秀な生徒なのだから。これもきっと任せられる。
「スミレさん、ティーパーティ周辺施設の夜間の動きを監視して下さい。ただ監視するだけで構いません。監視用の部屋は用意しますので、不審な人物の出入りがないか確認をお願いします」
「なるほど、分かりました。ちなみにこの施設はいったい?」
「……」
「トリニティ三大派閥の1つ、パテル分派の所有する古い倉庫の1つです。幼馴染であるナギサさんがあれほど取り乱しているにも関わらず、いっそ異様なほどに動きのないティーパーティの『聖園ミカ』さんを、私は疑っています」
その一方でアズサとの関係についても、ハナコは努力しなければならないだろう。
アズサは確かに怪しいけれど、同時に善人であることも知っているから。今日を機会に腹を括るのだ。なんでもミアに投げるのではなく、自分なりの解決を模索する覚悟を。きっとこの頼もしい同僚と2人であれば、持つことが出来るから。