なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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34.vs蒼森ミネ

「必ずや貴女を乗り越えてみせます!この信念をもって!!」

 

 

「来なさい!!甘使ミア!!その全霊をもって!!」

 

 

「粉砕!!」「救済!!」

 

 

 

 

 トリニティ総合学園救護騎士団団長

      【鋼の白衣】

       蒼森ミネ

 

 

 

 

「くっ!?」「ぅぐっ!」

 

 

 

 互いの拳が、互いの顔面に突き刺さる。

 

 女であろうと、なんだろうと関係ない。

 

 よろめいた2人、しかし直ぐに歯を食いしばって再び目線を合わせる。ショットガンなど使わない、大楯さえも使わない。拳と拳、それでなければ意味がない。

 

 

 

「ぜあっ!!!」

 

「甘いっ!!」

 

「っ!?」

 

「ハァッ!!」

 

「がはっ!?」

 

 

 2度3度の拳撃の後、凄まじい速度で抜き放たれたミアの渾身の一撃を、ミネは片手で掴み握り締める。

 ミアほどの怪力の持ち主の攻撃をこれほど綺麗に掴み取り相殺出来るのは、恐らくキヴォトスの中でも本当に一握りの者だけだろう。

 その上で殴り返し、彼女は追撃を狙う。攻撃の手は緩めない。防御に割く意識はこの場には一切ない。

 

 

「っ……まだ、です!!」

 

「ぅあっ!?」

 

「まだ、私は!!」

 

 

 しかしそれはミアもまたそうであった。

 闘争心に燃え上がるミアの返す攻撃は、拳ではなく頭突き。これには流石の百戦錬磨のミネでさえも想定外であり、そのままミアの拳を受けそうになる……が。

 

 

「なっ!?」

 

「そう容易く突破出来るとは思わないことです!」

 

 

 姿勢を崩されたミネに拳が振り下ろされた瞬間、まるで意趣返しのようにミネもその拳を自分の額で受け止める。想定外には想定外。

 目を見開き一瞬硬直してしまったミアに対し、今度はミネの足刀が腹部に叩き込まれる。ミアの巨体が吹き飛び、激突した壁と同時にこの建物を大きく揺らした。普通の生徒であれば内臓が弾けていてもおかしくない渾身の一撃。それでもミアは落ちる瓦礫を砕き割り、立ち上がる。

 

 ……この非常に狭い空間の中。周辺に地響きの如く鈍い音は鳴り響き、キヴォトスにおいても滅多に見られないような極めてレベルの高い肉弾戦は続く。

 

 

 拳、頭突き、蹴り、投げ。

 

 

 多種多様な技の洗練さは経験に優れたミネの方が圧倒的に上回っている。

 しかしその場の対応力や想定外の動き、柔軟な発想という面においてはミアの方が上回っていた。

 

 

「「ハァッ!!」」

 

 

 ドゴンッ!!と全く同じ姿勢から繰り出された飛び膝蹴りが衝突し、小さな衝撃波が発生する。そのまま再びドゴンッ!!と回し蹴り。最後に渾身のタックルで3度目の衝撃波。

 

 上の階では今でもセイアが眠っている筈であり、普通の人間からしてみれば、なんだかそっちの方が心配に思えてくるような怪物じみた光景。

 

 単純な力量と技術で、今のミアではミネに対して勝つことは出来ない。ミアが5度もの攻撃で必死に壊した鉄檻も、ミネであれば一撃でそれを成せる。

 更に3年もの期間。それもあらゆる場面における救護活動で研ぎ澄まされた技の数々には無駄がなく、特定の武術ではなくとも、これはこれで完成されていると言っても良いものだ。

 

 

 (つまり……これは……)

 

 

 全く同じ攻撃、全く同じ衝突、しかしミネはそんなことを意識した覚えはない。

 

 そう、意識したのはミアの方だ。

 

 技量と力量で勝てない。

 

 だが負けられない。

 

 ならば勝つためには今この瞬間に強くなるしかない。

 

 

 (私の技術を、恐ろしい速度で学習している……!?)

 

 

 そう、甘使ミアは優秀な生徒である。

 

 ミレニアムに行く前から成績という面において、つまり勉学やスポーツという面において、非常に優秀であると常に高い評価を受けていた。

 

 苦労したこともなかった。

 

 才能があると評されていた。

 

 

 ……しかし、事実は違う。

 

 

 甘使ミアはなんでも吸収出来たというだけだ。

 

 自分に意思がなく、嫌だと思う感情もなく、目の前の全てを淡々と機械的に吸収していく。つまりは抵抗感がない、苦労など感じることもない、癖や思い込みも皆無に近い。そんな状態こそがかつての彼女であった。

 

 抵抗なく取り込むだけ。

 

 抵抗なく馴染むだけ。

 

 スポンジよりも自己のない、赤ん坊よりも引っ掛かりのない、そんな異物故の特殊性。

 

 故にミレニアムから帰って来た後、実のところ成績自体は下がっていたりもしていた。それは自己というものが生まれたからであり、意思という抵抗が出来たからであり、感情が生まれ人間になったからである。

 

 ……それでも、この極限状態の中であるからこそ、彼女は無意識にその吸収力を取り戻していた。若しくは、別の形で、別の要因で再現していた。

 勝つために、打ち破るために、まるで食らい尽くすように。ミネの技を貪っている。

 

 

(ミネ様と私の体格は近い、戦闘手法も類似している、この方の戦闘技術を学ぶことには間違いなく意味がある。故に目に焼き付け、実践し、修正し、会得する。その上で見切る、これを全て実行する。無理でもなんでも、しなければ勝てない!)

 

 

(2度目の技は通じない、というよりは対策されるだけですね……であれば!)

 

 

「っ!?」

 

 

 瞬時にミアの思惑に気付いたミネは一度後方に大きく跳躍して距離を取ると、その強脚に床面がヒビ割れるほどの力を込める。

 普段から足元を破壊するような大跳躍で敵陣のど真ん中に攻め込むことの多い彼女であるが、それを今この瞬間、この狭い空間の中で発揮しようとする。……誇りと信念を込めて、その一撃と共に。

 

 

「――参ります」

 

 

「なっ……」

 

 

 その瞬間、ミアは珍しく自身の勘に頼った。

 ヒヤリとした感覚、一瞬跳ねた自身の心臓。ほぼ無意識に近い形でその場で身体を捩り、半ば倒れるような形で攻撃に備えた。

 それはネルとの戦いの最中でも僅かに感じた感覚、あの想定外の戦闘があったからこそ身につき始めた生物としての本能のようなもの。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――ッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、避けられてしまいましたか」

 

 

 

 

 

「………なんですか、それは」

 

 

 

 今度こそ完全に崩壊していく建物と壁。

 

 拳どころか腕まで突き刺さった一面だけでなく、隣接する全ての側面に大きな亀裂が広がるほどの超破壊。

 

 しかもその延長線上にあった筈の鉄檻は完全に原形を無くしていて、へし折れた鉄棒と共に大きな音を立てて崩れ落ちていく。

 

 稲妻を纏っているかのような威圧感。

 

 爆発を引き起こすほどの馬鹿げた踏込み。

 

 直撃の瞬間、全てを吹き飛ばすかの如く放たれた謎の紫色の衝撃波。

 

 数多の要因が重なり合って生まれたのが、この惨状であった。仮に勘任せとは言え避けきれていなかったら、あの攻撃を自分自身の身で受けることになっていたら。いくらミアであっても間違いなく一撃で戦闘不能に陥っていた。そう確信出来るほどの馬鹿げた攻撃がそれだった。

 

 

 (しかも……ほぼ見えませんでしたね……)

 

 

 普段は表情に感情を見せないミアであっても、これを前にしてしまえば額は歪むし冷汗も流れる。

 

 これが最高学年との戦力差、蒼森ミネという傑物の全力。物理法則などというものは容易く超越していて、どころか意味の分からない現象さえも引き起こす。

 なるほど確かに、これがキヴォトスの中でも最上位に位置する者達の力であるのなら、今のミアではどうやっても勝つことなど出来ないのだろう。

 

 ミアがこれと同じことが出来るようになるまで、あと何年の修練が必要だろうか。いくらなんでもこればかりは再現出来る気がしなくて……

 

 

「さあ、今一度問いましょう。諦めるつもりはありますか?」

 

 

「……今のやり取りの中に、何か諦める理由がありましたか?」

 

 

「……なるほど、これでは諦める理由には足らないと。いいでしょう、では2度目を足掻いてみなさい!次は容赦なく当てます!!」

 

 

「っ」

 

 

 再びミネの威圧感が増していく。

 

 ……それに対して、しかしやはりミアに出来ることは1つしかない。全力でそれに対抗すること。ミアには奥の手などないし、隠している能力さえもないのだから。やれる以上のことを、今この瞬間に生み出す以外に他にない。

 

 流石にあの全身に纏う稲妻も拳から放たれる紫色の衝撃波も再現することは出来ないが、それでも一筋の奇跡に縋るように。美甘ネルへの最後の一撃を超えるような今の自分の全力を、ただ只管に彼女にぶつけることくらいしか……

 

 

 

 

 

 

『〜〜♪♪』

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

「……?端末の通知音とバイブ音?ですが何故この状況で?」

 

 

 

「これは……まさか、シッテムの箱?」

 

 

 

「シッ、テム……?」

 

 

 崩れた檻の中、ミアの鞄に入っていた筈のシッテムの箱。それまではうんともすんとも言わなかった筈のそれが、突如として電源が入り、バイブ機能で自身の存在を主張し始める。

 意図的に電波が入らないようにしている筈のこの場所で1つの端末が動いていることにミネは不審に思うし、ミアの方だってその状況に訳が分からないにも程があった。結局これをヒマリやリオ達には見せていないため、そちらからのアプローチという可能性だってゼロだというのに。

 

 

 今更になって"彼女"が起動したのか?

 

 ようやく心を許してくれたのか?

 

 だとしてもどうしてこのタイミングで?

 

 そんな様々な憶測が頭を過ぎる。

 

 ……けれど、そう思ったのも束の間。

 

 

 

 次の瞬間にその端末から聞こえて来た一言に、ミアのスイッチは完全に切り替わることとなった。

 

 

 

 

 

【…………助けてください、ミアさん】

 

 

 

 

 

「っ!!!!!」

 

 

 

「……今のは、ナギサさんの声でしょうか。しかし何故この場所で外部と通話が、電波は届かない筈ですが」

 

 

 

 その理由は分からない。

 

 なぜシッテムの箱が桐藤ナギサの声を届けたのか。

 端末を繋いだのか。

 どうやってやったのか。

 誰がそんなことをしたのか。

 

 けれど大切なことはそれではなくて、重要なことはそれではなくて、そしてそれは単なる言葉ではなくて……

 

 

 

 大切な友人が。

 

 助けると約束した相手が。

 

 名指しで助けを求めている。

 

 

 そんな心に今一度大きな火を灯すには十分過ぎるような出来事だったということ。

 

 

 

「あの、今のは一体…………っ!?」

 

 

 

「……ミネ様、今この時に貴女の全力を見ることが出来たのは、私にとっても僥倖でした」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

「そこに至るにはまだ多くの修練が必要だと私は思い込んでいましたが、故に他の方法で貴女を乗り越えなければと躍起になっていましたが……その思い込みと常識の壁こそを、私は覆してみせましょう!最短距離で!真正面から!」

 

 

「っ、まさか……!」

 

 

 

 理解の出来ないものを、常識から外れたものを、自分のものにするというのは不可能なことで。そんなことが出来るはずがないと、理屈を知らなければ再現できないというのは、だから学ぶ必要があるという思考まで含めて。

 

 それはミアの考え方ではない。

 

 それはミレニアムの考え方だ。

 

 そしてマキリの考え方だ。

 

 確かにそれは本家のものと比較すれば小規模で、きっと比較出来るほどの脅威にはなれないし、ぶつかってしまえば間違いなく打ち消されてしまうような弱々しいものではあるかもしれないが……

 

 

 

【シッテムの箱、制限版-戦闘支援を開始】

 

【対象を甘使ミアに限定】

 

【神秘解放による強化を実行……ステータスの向上を確認】

 

【愛用品:"シッテムの箱"の登録を実行……ステータスの向上を確認】

 

【青輝石を利用した対象生徒の体力の回復を実行……成功】

 

【戦闘を開始します】

 

 

 

 ミアの身体には確かに、ミネと同じような稲妻が宿っていた。見様見真似で、それはただ単純に全身の力をこれでもかと高めて漲らせただけではあるかもしれないけれど。規模だって劣っているし、まだまだ未熟ではあるが、確かに、手を掛けてはいた。

 蒼森ミネという高みの下に。

 

 

 

「――いいでしょう!これが最後の問答です!答えなさい、甘使ミア!貴女はこれから何をしにトリニティに向かうのです!」

 

 

「……」

 

 

「予言のために!?かつての友人のために!?それともキヴォトスのため!?それを貴女の信念ではなく、貴女の思考ではなく、今の貴女の心で語りなさい!ありのままのその叫びを!表層で波打つ感情の濁流を!障壁たるこの私にぶつけなさい!」

 

 

「っ!!」

 

 

 怯まない、退がらない。

 一歩一歩と地面を破りながら近づいて来るミネに対し、ミアも負けじと歩みを進める。思考よりも感情が爆発する。思考が短絡的になる。目の前のことしか見えなくなる。それだってきっと、ミネの思う通りなのだろう。そうなるように、彼女は仕向けているのだろう。

 ならばミアもそれに応える。彼女の求めている、心の声を。今の自分の火の方向を。伝えなければならない。自分の意思と、その本質を。

 

 

「私は……私は、今は何より……こんな私を"友"と呼んでくれた人を助けたい!」

 

 

「!」

 

 

「それは!もしかしたら打算の上だったかもしれません、もしかしたら最初は利用するための方便だったかもしれません。……それでも!無茶を聞き入れ、叱ってくれて、心配をしてくれて。こんな面白味のない女と、笑顔でお茶を楽しんでくれた彼女を!私は友人だと思っています!そんな友人が私に助けを求めた!であれば、他の何を優先しても私は彼女を助けに行きたい!」

 

 

「………!!」

 

 

「私はナギサさんを助けに行きます!」

 

 

「……他のことはどうでもいいと?」

 

 

「なんとかします!!」

 

 

「そのためならナギサさんは放っておいた方が都合が良い可能性もあるのでは?」

 

 

「なんとかします!!」

 

 

「貴女の求める道を外れることになったとしても?」

 

 

「絶対になんとかします!」

 

 

「……とても理知的な判断とは言えませんね」

 

 

「それでも!私が絶対に!!なんとかしてみせます!!」

 

 

 

 ……その滅茶苦茶な物言いは。

 もしミレニアムにいる2人の年上達が聞けば間違いなくまた頭を抱えて溜息を吐くようなものであるし。ナギサが聞けば少しの悲しみを覚えてしまうような発言であるし。客観的に見ても自己犠牲甚だしい上に行き当たりばったりの浅い考えでしかない。

 

 それでも。

 

 

 

(……昔の私も、このように見えていたのでしょうか)

 

 

 

 蒼森ミネだけは、懐かしさを覚えていた。

 

 

 それが危険な思想で、決して成功に繋がる考え方ではなく、先人として正しておくべきものだと分かってはいる。それでもこれが、この真っ直ぐで誠実で、愛らしいほど感情的な訴えが、このトリニティにおいてどれほど尊いものか。ミネはよく分かっている。

 

 

 どれだけ賢く振る舞おうとも、どれほど冷静に振る舞おうとも、ナギサの弱々しい声が聞こえた瞬間にこれであるのだから。彼女を助けるという項目が一気に最上位まで昇って来て、それしか目に入らなくなって、限界も1つ打ち破って。

 

 それは未熟であるが、同時に可能性でもある。まだまだ精神的に幼い彼女は、何よりかつての親友との約束が重要だと語るが。結局のところ目の前で嘆く別の友人をその目で見てしまえば、それを放っておくことなど出来ないのだから。

 

 

(……セイア様と私の杞憂ですね。彼女は約束の奴隷になれるほど薄情にはなれない。彼女には確かに"救護"の精神が宿っています。そしてそれは少しずつ育ち始めている。であれば、今この時、やはり私のすべきことは……)

 

 

 迷いはなくなった。

 どちらを取るべきかは決めた。

 

 まだ1年生の彼女に求めるには、これ以上は少し過ぎるだろう。むしろここまでの想いを見せてくれたのなら、自分達こそが応えなければ。この芽を出したばかりの種を大輪の花へ育てるために、ミネがすべきことは屋根の下に隠すことではなく……

 

 

 

「いいでしょう!であれば私の全てを受け止めてみせなさい!"ミア"!!それが出来たのであれば、貴女が旅立つことを許しましょう!!そして以降、どの様な状況であろうとも貴女の信念を肯定することを約束しましょう!!」

 

 

「言われなくとも……!!」

 

 

 

 

 そうして再び響き渡り始めた轟音は、それまで以上に過激で鈍重なもので。既に建物の面影など殆どなく、セーフティハウスは吹き飛び、大きなヒビ割れは周辺の地形さえも崩し始める。

 既に布団と共に瓦礫の下に埋められてしまったセイアのことはさておき、その後のミネの表情はそれはもう柔らかく苛烈なものであった。

 

 つまり、この瞬間に彼女は確信したのだ。

 

 彼女こそが自身の後継に相応しいと。

 

 自身の全てを受け渡すに相応しいと。

 

 セイアの悩みも、セイアの願いも、セイアの安否も全部頭から吹っ飛ばして、徹底的に自分の3年間で培ったものを叩き込むことしか頭になくなってしまった。

 

 ……だって、それくらい嬉しかったのだから。

 

 

「さあ持っていきなさい!これが私の渾身です!理屈はよく分かりませんが貴女なら出来るでしょう!!私の信じた貴女であれば!」

 

「っ、本当に理屈がよく分からないのですが!!そもそもこの紫色の衝撃波と雷はなんなのですか!!」

 

「救護の精神を込めるのです!!」

 

「精神論にも程がある!!」

 

 

 物理法則は精神論で覆せる。

 ミレニアムに染まっていたそんな常識を壊すことが出来たことも、もしかしたらミアにとっては大きかったのかもしれない。

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